二〇〇七年度ベスト5

梅本洋一田中竜助松井 宏宮一紀結城秀勇渡辺進也

梅本洋一

映画

1 『ゾディアック』デヴィッド・フィンチャー
2 『サッド ヴァケイション』青山真治
3 『石の微笑』クロード・シャブロル
4 『長江哀歌』ジャ・ジャンクー
5 『不完全なふたり』諏訪敦彦

今年は封切りによくつき合った。だから別の多くのフィルムも選びたい。でも以下に挙げるのは封切られないだろう作品。
『すべては許される』ミア・ハンセン=ラヴ
『ラヴソング』クリストフ・オノレ

その他

その他(これは個人的なもので挙げている、2007年と関係ないものもある)

小説 『真鶴』川上弘美
昼食 ビストロ・ショー・ラパンのハンバーグ
建築本 『建築について話してみよう』西澤立衛
スポーツ ラグビーW杯 フランス対オールブラックス
批評 ラグビーマガジン連載の藤島大「Dai Heart」

田中竜助

映画

1 『デジャヴ』トニー・スコット
2 『カイマーノ』ナンニ・モレッティ
3 『サッド ヴァケイション』青山真治
4 『ブラック・スネーク・モーン』グレイグ・ブリュワー
5 『妄想少女オタク系』堀 禎一

『季節のはざまで』ダニエル・シュミット
2007年に劇場公開/特別上映された作品から見た順番に。 過去作品は基本的に入れないつもりでいたのだけど、追悼上映で初めて見ることのできたシュミットの『季節のはざまで』はどうしても書き残しておきたくなったため選外に。いなくなってしまった人たちを忘れないための、そして「忘れない」ことを忘れないためのフィルム。

その他

ビュル・オジエ
講演 「労働の拒否」廣瀬純
ライヴ SUNN O)))+Boris
音楽 『Trees Outside The Academy』サーストン・ムーア
漫画 『預言者ピッピ』地下沢中也

とりあえずビュル・オジエは間近で見ることができた(日仏学院でのドミニク・パイーニとのトークショー)だけで感激でした。今年後半は廣瀬さんのドゥルース『シネマ』についての講演に大変刺激を受けました(『ドゥルーズ/ガタリの現在』(平凡社)に「シネ・キャピタル、シネ・コミューン」と題されたこの講演の草稿が収められています)。SUNN O)))+Borisのライヴは計4時間を越える長尺でしたが、最高でした。全身鼓膜状態で目にした不健康きわまりない会場の光景(疲労で座り込む人々、床に散乱するビール缶、大量に炊かれたスモークと煙草の白煙)も素晴らしかった。Merzbowとの共演を見逃したことは重ね重ね後悔。今年のベストアルバムはサーストン・ムーアの叙情感に溢れたソロ2作目。最後に『預言者ピッピ』が今一番続きの気になる漫画。しかし第1巻が当初の予定から4年遅れで刊行ってことは、次巻は早くて2011年になるんでしょうか・・・。

松井宏

映画

旧作含め、涙が覚えている3本。

『ラブソングができるまで』(マーク・ローレンス)
『主人公は僕だった』(マーク・フォースター)
『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』(06、ジェームズ・L・ブルックス)

これでは寂しいので、70年代の再発見と銘打ち。私にとって大事な2本となりました。

『マイキー&ニッキー/裏切りのメロディ』(76、エレイン・メイ)
『恋のモンマルトル』(75、ラズロ・サボ)

その他

友人が恵比寿にアクセサリ(アンティーク)の店をオープンしました。とても可愛い。Petite robe noireといいます。
実家が建て替えられていました。居心地良いが私の部屋はない。
グローバルというメーカーの包丁を父がプレゼントしてくれました。とても切れる。そしてかっこいい。
自分にそっくりなひとを見てしまい、道中で膝から崩れ落ちました。ネルヴァルいわく「分身を見た者は死期が近い」のだそうだ。
昨夏ラグラスという仏の田舎町で過ごす幸運に恵まれました。お世話になった家の黒猫が行方不明になり、死体で見つかりました。大騒動でした。

宮一紀

映画

1 『石の微笑』(クロード・シャブロル)
2 『サッド ヴァケイション』(青山真治)
3 『カイマーノ』(ナンニ・モレッティ)
4 『街のあかり』(アキ・カウリスマキ)
5 『ボルベール〈帰郷〉』(ペドロ・アルモドバル)

あえて順位をつけてみた。〈凄み〉を感じさせる作品がずらりと並んでいるが、シャブロルだけぜんぜん次元の違うところでやっているような印象がある。ところで『カイマーノ』が未公開のままに終わってしまうようなこの国の腐った配給制度というものは、要するにモレッティがまさに怒りの矛先を向けているその対象なのだということにふと気がついた。

その他

Typo-Graphic Design

1 『AA』メインタイトル(デザイナー不詳)
これは「潔い」で済まされるデザインではない。青山真治監督の映画にはいつも〈2〉という数字が隠れていると指摘したのは大寺眞輔氏であったと記憶しているのだが、ここではアルファベットの一番はじめの文字がふたつ鋭く屹立していて、匿名性と特権性の狭間にギリギリの均衡が生じているように見える。
2 『ボルベール』エンドロールクレジット(フアン・ガッティ)
「映画のタイトルデザイン」といえば誰もがついソウル・バスの名を口走ってしまうけれど、ガッティのデザインはむしろ河野鷹思の仕事に近いと思っている。ともに映画とエディトリアルのあいだを往復したデザイナーであるという共通点を差し引いても、である。嘘だと思うなら河野による『NIPPON』誌の表紙を見てみてほしい。
3
『服部一成個展』全作品(服部一成)
その河野鷹思が創設した南青山にある〈ギャラリー5610〉で開催されていたのが服部一成の個展である。外苑前で大々的に繰り広げられていた東京デザイナーズウィークの喧噪にはまるで無関心を決め込むかのように瀟洒な住宅街の一角でこじんまりと十数枚の原画が展示されていた。
4 『Mercè』公式ポスター(エンリク・ヤルディ)
毎年夏の終わりにバルセロナで開催される音楽フェスティバルの2007年度版ポスターは当地で活躍するデザイナー、Enric Jardiによるものである。フェスティバルに関わるすべての要素をひたすらタイポグラフィーに放り込んでみたらこうなりました、という感じ。それがここまで高い完成度を持ってしまうところがラテンの人々の怖さかもしれない。
5 『横浜市内歩行者向け案内標識』(書体デザイナー=オトル・アイヒャー)
ある日、横浜市内を歩いていて、あちこちに駅や公共施設の方角を示す青い歩行者用案内標識が続々と立てられていることに気がついた。横浜駅周辺だけかと思っていたら、日本大通や伊勢崎町のほうまで同じ標識で統一されている。この標識を近くでよく見てみると、小文字の「a」や「c」のバランスが妙なのだが、しかし少し離れた場所から見ると、それは見事にバランスの取れた識別性に大変にすぐれた書体だということがわかる。ある日、デザイン雑誌を読んでいると、偶然その書体が掲載されていた。それはユートピアを構想したある有名なデザイナーの手になる書体だった。行政をほんの少しだけ見直した。

結城秀勇

映画

1 『サッド・ヴァケイション』青山真治
2 『ゾディアック』デヴィッド・フィンチャー
3 『叫』黒沢清
4 『デス・プルーフ』クエンティン・タランティーノ
5 『レディ・チャタレー』パスカル・フェラン

公開作以外ではセルジュ・ボゾン『フランス』を挙げたい。

その他

ジム・トンプスン諸作
 ジェイムズ・エルロイ『アメリカン・デス・トリップ』が文庫化されたので読んでみたところ、現在多くのハリウッド映画がエルロイ的なものを指向しているような気がして少々胸焼けする。そこでエルロイも敬愛するジム・トンプスンの諸作を、特に2007年に発刊されたというわけではないのだがたくさん読んだ。まだ邦訳のある10本程度の作品しか読んでないが、現時点のベスト5は以下の通り(古本屋で買ったり図書館で借りたりもしたので、翻訳者出版社の表記は省略)。

1 『失われた男』
2 『おれの中の殺し屋』
3 『ポップ1280』
4 『残酷な夜』
5 『死ぬほどいい女』

主人公たちは往々にしてトンプスン自身が経験したことのある職業に就いていることが多く、ストーリーの本筋に関係がない場合にも、その仕事の描写が秀逸。

『宇宙の柳、魂の下着』直江政広(boid)
 本当ならここで「勘違いの音楽史」的ベスト5を展開したいところなのだが、まだこの本の中には聞いていない音楽が山積みなのでやめておく。本当に素晴らしい本だ。

渡辺進也

映画

1 『天使の入江』(62)フランス映画祭2007より
2 『ブラック・ブック』
3 『ラッキー・ユー』
4 『サッド ヴァケイション』
5 『デス・プルーフ』

その他

例年通り見た順番に。個人的な印象として、2007年はもう一度映画を信じる方向に進む作品が多かったように感じました。映画の枠組みを疑い新たな表現形態を模索するというよりは、エンターテインメントとしてまずあるような。これまでのフェティッシュさとしか思えなかったものが丁寧さと感じられるタランティーノの『デス・プルーフ』がその典型かと。

1 no best game(JEF United Ichihara Chiba)引越ししたりしたので観戦数が激減。それでも5、6試合は見れたんですが、ため息ばかりを(シーズンオフのごたごた含めて)。そもそも果たして2007年のジェフにベストゲームはあったのか。復調の兆しがあってもそれをものにできずの繰り返し。
2 『サッカー茶柱観測所』(えのきどいちろう)待望の新作。ファンとして楽しむということのお手本のような本。一時期、著者とどこかで遭遇するんじゃないかと持ち歩いてました。
3 『きょうがきのうに』(1989、田中小実昌)河出文庫から『かぶりつき人生』が復刻されたので他の小説も読んでみたら面白くて。単にその日のことをその日のうちに書ききれないから「きょう」と書きはじめていたのが文中で「きのう」に、そして「おととい」になってしまうというだけなんですけどね。
4 鳥富士(十条銀座はずれ)引越してからというもの十条銀座をよく利用するんですけど、一番のお気に入りです。
5 ニコニコ動画2007年は動画サイトが乱れ咲き。一時期黎明期ゆえの混沌か権利を無視した動画が多数。テレビいらずの状態に。you tubeにはレアなフリッツ・ラングの映画があったとか。