nobodyによる2011年ベスト企画、本年は多くのゲストの皆様にご参加頂きまして、賑やかにお送りいたします。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい!
『アンストッパブル』トニー・スコット Unstoppable, directed by Tony Scott, US |
『カルロス』オリヴィエ・アサイヤス Carlos, directed by Olivier Assayas, France, France/Germany |
『ゴーストライター』ロマン・ポランスキー The Ghost Writer, directed by Roman Polanski, France/Germany/UK |
『ザ・ウォード/監禁病棟』ジョン・カーペンター The Ward, directed by John Carpenter, US |
『さすらいの女神たち』マチュー・アマルリック On Tour, directed by Mathieu Amalric, France |
『三人の結婚』ジャック・ドワイヨン The Three-Way Wedding, directed by Jacques Doillon, France |
『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『ファンタスティックMr. FOX』ウェス・アンダーソン Fantastic Mr. Fox, directed by Wes Anderson, US |
『ラブ&ドラッグ』エドワード・ズウィック Love and Other Drugs, directed by Edward Zwick, US |
『私たちの好きな八月』ミゲル・ゴメス Our Beloved Month of August, directed by Miguel Gomes, Portugal/France |
『トゥー・ラバーズ』、『愛の勝利を ムッソリー二を愛した女』は昨年観ていたので除外。
『Rocks Off』は未完成版ということで、来年の完成版劇場公開を期待して除外しました。
また短編では『5 windows』(瀬田なつき)、『黒髪』(諏訪敦彦)にいたく心動かされました。
著者による自伝的エッセイとりあえずの完結編。ジャズピアニストによるエッセイというとまっさきに山下洋輔氏が思い浮かびますが、本書はまさにそれらと月と太陽の関係にある様にも感じました。とりあえず、アイスランドにはぜひ一度訪ねてみたくなります。
圧倒的に若く、過激に。厳密でありながら、自由であること
山頂から見えた景色が忘れられません。この国は山と海しかない、と今さらながら思い知りました。
5月に。震災以降はじめて食した寿司でした。
『カルロス』オリヴィエ・アサイヤス Carlos, directed by Olivier Assayas, France, France/Germany |
『ヒアアフター』クリント・イーストウッド Hereafter, directed by Clint Eastwood, US |
『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』マルコ・ベロッキオ Vincere, directed by Marco Bellocchio, Italy/France |
『NINIFUNI』真利子哲也 NINIFUNI, directed by Tetsuya Mariko, Japan |
『引き裂かれた女』クロード・シャブロル A Girl Cut in Two, directed by Claude Chabrol, France/Germany |
『ゴーストライター』ロマン・ポランスキー The Ghost Writer, directed by Roman Polanski, France/Germany/UK |
『5 Windows』瀬田なつき 5 Windows, directed by Natsuki Seta, Japan |
『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan |
『トゥー・ラバーズ』ジェームズ・グレイ Two Lovers, directed by James Gray, US |
以上、2011年に見た順番。アサイヤスの長編で2011年が始まり、イーストウッドの映画が現実になり、東京の諸々の公園を彷徨いながら、文字通り「何もない」東京周辺部に音のない世界を見出し、シャッターが錆び付いた地方の通りに「怒りのラップ」を聴き、巨匠たちの見事なフィルムに何度も頷き、冬のブライトンビーチの悲恋に泣いた。富田克也や真利子哲也、そして瀬田なつきの新作に驚いたほかにも加藤直輝『アブラクサスの祭』、瀬々敬久『アントキノイノチ』などが素晴らしかった。
北山恒のディレクションにより北山自身の作品、西澤立衛の森山邸、そしてアトリエワンの巨大な模型が並べられていた。東京の特殊性と建築家たちの清々しい姿勢が印象に残った。森美術館の『メタボリズム』展のアナクロニズムと見事な対称を成していた。
一昨年の坂倉準三についての展覧会に続いて、ペリアンの展覧会が開催された。ペリアンの聡明さと勇気についてはいつも敬意を持っている。だが、坂倉に導かれたスメラ塾との関係は謎ばかりだ。極右「とんでも塾」のスメラ塾には原節子も関係していたらしい。そんなことを考えていたら、年末に柳宗理が亡くなった。享年96歳。
何年かぶりで行った舞台。よかった。やっぱり舞台っていいなあと思った。これがきっかけで青山真治が演出した2本の舞台にも行った。若者たちの小劇場ではなく、大人のレパートリー・シアターが見たい。
今年、三宿にできたフレンチ。正真正銘のビストロ料理。最近の三宿池尻は、レストラン激戦区になった。交通不便な地に、立ち並ぶ名店。自宅井から近いのが嬉しい。デュバリーで本当に久しぶりに正統プティ・サレ・ランティーユを食べることができた。
これをきっかけに考えたことは都市や東北の再生や原発のことばかりではない。映像のこと、食べること、住むこと、生きていくことについての基本的な事柄を再考することになった。
1. | 『大地の時代』グラウベル・ローシャ The Age of the Earth, directed by Glauber Rocha, Brazil |
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2. | 『パレルモ・シューティング』ヴィム・ヴェンダース Palermo Shooting, directed by Wim Wenders, Germany/France/Italy |
3. | 『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
4. | 『イップ・マン 序章/葉問』葉偉信 Yip Man, directed by Wilson Yip, Hong Kong/China |
5. | 『アレクサンドリア』アレハンドロ・アメナーバル Agora, directed by Alejandro Amenàbar, Spain |
沸き上がる感銘を上記5本だけで表すのは忍びないところですが、映画史に普遍性をあたえる傑作、わが心の内膜でころころと転がしている偏愛作を取り混ぜ、5本に絞り込みました。そして、ローシャの騒然と猥雑を、ヴェンダースの逡巡と臨死を、青山の喪失と親愛を、ドニー・イェンの毅然と不屈を、ヒュパティアの受難と正道を、グルグルと自分勝手な成分配合で取り混ぜつつ肥大化したイメージの連続体を作りあげては、再び断片化していくのです。
その他のジャンルについて、ベストを1つずつ挙げさせていただくなら、本=沢村貞子著『私の浅草』(暮しの手帖社・再刊)、写真=川内倫子《Illuminance》(Foil Gallery)、スポーツ=セスク・ファブレガス(FCバルセロナ)、音楽=ザ・ビーチ・ボーイズ『スマイル』、演劇3本=『チェーホフ?! 哀しいテーマに関する滑稽な論考』『おやすみ、かあさん』『苦悩』、飲食=跡継ぎ不足で永遠に失われたどじょう屋「伊せ㐂」(深川)、ビバレッジ=ダーク・モカ・チップ・ノンホイップ・フラペチーノ+エスプレッソ追加(スターバックス)、旅行=ビルバオ、ゲルニカを中心とするバスク地方(ロケ出張)。
『トスカーナの贋作』アッバス・キアロスタミ Certified Copy, directed by Abbas Kiarostami, France/Italy/Belgium |
『僕たちの生活』ダニエーレ・ルケッティ Our Life, directed by Daniele Luchetti, Italy/France |
『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』マルコ・ベロッキオ Vincere, directed by Marco Bellocchio, Italy/France |
『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『トゥー・ラバーズ』ジェームズ・グレイ Two Lovers, directed by James Gray, US |
俳優の「まなざし」に触れ、涙を覚えたフィルムを今年見た順に選んだ。とくに『ぼくたちの生活』でのエリオ・ジェルマーノの嗚咽を漏らしながら歌い叫ぶシーンに、人目もはばからず号泣したことをここに告白しておく。それはまさしく「La nostra vita」(=ぼくたちの生活)だった。他には『悲しみのミルク』(クラウディア・リョサ)、『復讐捜査線』(マーティン・キャンベル)、『アントキノイノチ』(瀬々敬久)を挙げたい。
ヴァージニア州ローガン出身のバンジョー奏者によるベストアルバム。元炭鉱夫でアパラチア山脈に伝わるバラッド唱法と、黒人的なバンジョー奏法に乗せたクセのある歌声が耳から離れません。
「こぼれた酒のしみたカウンター」という言葉にシビれました。実際ここに書かれてある、銀座 金春小路の「樽平」や京都 川端二条の「赤垣屋」の暖簾をくぐりに訪れ、玉こんにゃくやお燗に舌鼓を打ちました。「若いうちから居酒屋に興味持つようではいけない」と著者に叱られているような気さえもします。
第4戦の「森福の11球」が「江夏の21球」を彷彿とさせたなら、「 HYPERLINK "http://baseball.yahoo.co.jp/npb/player?id=900096" 攝津の19球」も今年のホークスの強さの象徴です。第3戦に先発登板したあと、中継ぎとしてこの第5戦に登板、最後は胴上げ投手として頂上決戦をきっちりと締めました。ただ今オフに和田、杉内、ホールトンと今年の勝利数の半分を他球団や海外に放出したわが若鷹軍団。来季、秋山野球の真価が問われていることは間違いありません。
人生初のリゾート地です。ちょうどAPEC会期中で異様な緊張感を感じながらの滞在でしたが、これほどサンセットやフラダンスに見とれてしまうとは思いませんでした。地元民が集まる屋台村のガーリック・シュリンプとアヒポキの味が忘れられません。また地元民が集まるショッピングセンターのクラブでボッタクリを受けたことが忘れられません。
『ゴーストライター』ロマン・ポランスキー The Ghost Writer, directed by Roman Polanski, France/Germany/UK |
『トスカーナの贋作』アッバス・キアロスタミ Certified Copy, directed by Abbas Kiarostami, France/Italy/Belgium |
『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』マイケル・ベイ Transformers: Dark of the Moon, directed by Michael Bay, US |
『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を超える』トッド・フィリップス The Hangover Part II, directed by Todd Phillips, US |
『ワイルド・スピード MEGA MAX』ジャスティン・リン Fast Five, directed by Justin Lin, US |
1. | 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』マルコ・ベロッキオ Vincere, directed by Marco Bellocchio, Italy/France |
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『ヒアアフター』クリント・イーストウッド Hereafter, directed by Clint Eastwood, US |
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『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』ニコラス・レイ We Can't Go Home Again, directed by Nicholas Ray, US |
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『トスカーナの贋作』アッバス・キアロスタミ Certified Copy, directed by Abbas Kiarostami, France/Italy/Belgium |
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『刑事ベラミー』クロード・シャブロル Inspector Bellamy, directed by Claude Chabrol, France |
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5. | 『アンストッパブル』トニー・スコット Unstoppable, directed by Tony Scott, US |
『ソーシャル・ネットワーク』デヴィッド・フィンチャー The Social Network, directed by David Fincher, US |
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『ファンタスティックMr. FOX』ウェス・アンダーソン Fantastic Mr. Fox, directed by Wes Anderson, US |
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『ザ・ウォード/監禁病棟』ジョン・カーペンター The Ward, directed by John Carpenter, US |
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『ゴーストライター』ロマン・ポランスキー The Ghost Writer, directed by Roman Polanski, France/Germany/UK |
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10. | 『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ Essential Killing, directed by Jerzy Skolimowski, Poland/Norway/Ireland/Hungary |
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『ウォールストリート』オリバー・ストーン Wall street: Money Never Sleeps, directed by Oliver Stone, US |
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『トゥー・ラバーズ』ジェームズ・グレイ Two Lovers, directed by James Gray, US |
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『僕が結婚を決めたワケ』ロン・ハワード The Dilemma, directed by Ron Howard, US |
出来過ぎた話しであるが、震災前最後に見た映画が『ヒアアフター』であり、震災後最初に見た映画が『トスカーナの贋作』であった。そして今年最後に見た映画は『We Can't Go Home Again』であり、この映画のようなやり方で「アメリカ」を直接つかみ取りえたものは、他にチャールズ・ミンガスのジャズしか知らない。
今年は、これらの映画の記憶とともに立川談志の死がある。20代から~70代に渡って、「古典を現代に」(20代)、「落語とは人間の業の肯定である」(40代)、「イリュージョン」(60代)、といった言葉で自身の落語観、人間観を表現し、それと闘ってきた談志の業とは、「遅れてきた形式主義者」の落語との闘いでもあった。文楽、志ん生、円生、金馬、三木助ら先行する大名人たちの落語を浴びるように聞くことからスタートした談志にとって、誰よりも彼ら名人たちが継承してきた「落語」という家のなかにいたいという強い思いと、現代において、この家のなかにいては彼が心から愛した「落語」を継承することなどとてもできない、というアンビバレンスが談志生涯のモチベーションだったといえるかもしれない。20代の頃より、小さん、三木助をして誰よりも上手かったと言わしめた談志が、40代から晩年に向かって行くなかで、古典落語の内容をその限界にまで刷新し、内容が形式を凌駕した成功の一端がすでにして名高い晩年の「芝浜」であるのだろうが、個人的には「芝浜」の談志と言われるよりも、「金玉医者」や「鉄拐」「やかん」の談志を忘れないでいたい。
この中には今年のベストバウトとはとても言えない試合もあるが、これらの試合の主役たち、パッキャオ、メイウェザー、西岡、B-HOP、ドネア。彼らのスタイルについて考えてみよう。映画と同じように、ボクシングを構成する最小単位は「ショット」だ。カウンターの左フック、ステップインしての左ストレート、これらは各々スターボクサーたちの「マネーショット」と呼ばれる。ドネアはハンマーのようなカウンターパンチャーであり、パッキャオと西岡はコンビネーションパンチャー。フロイド・メイウェザーはカウンターの名手でもあるが、それ以上にコンビネーションパンチャー全盛の時代に、ダイレクトブローの魅力をボクシングの醍醐味として取り戻した。これは今年46歳で歴代最年長チャンピオンに戴冠したB-HOPもそうである。必殺のマネーショットを当てるために、様々なフェイントや視線、パンチを交差させるのがカウンターパンチャーやコンビネーションパンチャーの生命線だとすれば、とにかく当てる、それから組み立てる、というのがダイレクトブロアーのスタイルなきスタイルだ。いわく、B-HOPの右ストレート、メイウェザーの飛び込み様の左フックに、ステップバックし懐に呼び込んでの右ストレート。「ルービックキューブのようなボクシング」(ナジム・リチャードソン)と言われるパッキャオのスタイルに心奪われるのと同時に、メイウェザーのダイレクトブローの衝撃を忘れられない我々は、だからこそ来年5月5日に予定されたパッキャオ×メイウェザーが見たくてたまらないのである。映画のダイレクトブロワーは何処に!?
※この原稿を書いた後、フロイド・メイウェザーJr.は元恋人への暴行罪が実刑判決となり、2012年1月6日より90日間の禁固刑を受けることとなった。これにより、少なくとも5月5日に予定されていた試合は事実上、消滅した。
1. | 『O Estranho Caso de Angélica』マノエル・ド・オリヴェイラ The Strange Case of Angélica, directed by Manoel de Oliveira, Portugal/Spain/France/Brazil |
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1. | 『Habemus Papam』ナンニ・モレッティ We Have a Pope, directed by Nanni Moretti, Italy/France |
3. | 『Ha ha ha』ホン・サンス Hahaha, directed by Sang-soo Hong, South Korea |
4. | 『A Dangerous Method』デヴィッド・クローネンバーグ A Dangerous Method, directed by David Cronenberg, U.S. |
5. | 『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ Essential Killing, directed by Jerzy Skolimowski, Poland/Norway/Ireland/Hungary |
6. | 『メランコリア』ラース・フォン・トリアー Melancholia, directed by Lars von Trier, Denmark/Sweden/France/Germany |
7. | 『グリーン・ホーネット』ミシェル・ゴンドリ- The Green Hornet, directed by Michel Gondry, US |
8. | 『トムボーイ』セリーヌ・シアマ Tomboy, directed by Céline Sciamma, France |
8. | 『宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ Declaration of War, directed by Valérie Donzelli, France |
10. | 『Detective Dee and Mystery of the Phantom Flame』ツイ・ハーク Detective Dee and Mystery of the Phantom Flame, directed by Tsui Hark, China/Hong Kong |
* | 『O le Tulafale』トゥジ・タマシージ The Orator, directed by Tusi Tamasese, New Zealand/Samoa |
リストにはさまざまな読み方がある。ただひとつ確かなことは、ある基準に沿ってではなくその好みによって選択される、ということだろう。ここには、鮮明に記憶に残った作品、上映後の印象とのちの作品解釈との間の隔たりが大きくなっていく作品、まさに見た瞬間から内面に浸透していく作品……様々な角度から切り取られた10本のフィルムが並んでいる。
さぁ、挙げられたリストの自己分析をしてみよう。2本のフランス映画、ふたりの女性監督(セリーヌ・シアマとヴァレリー・ドンゼッリ)、その2本目のフィルム(『La naissance des pieuvres』、『La reine des pommes』に続く)、国際的にはまだ知名度が高いとは言えないふたつの固有名。『トムボーイ』と『宣戦布告』は、今年評価すべき唯一のフランス映画だったのだろうか?
いやもちろんたくさんの選択肢があった。だがこの2本の作品は際立って美しい光を放っていた。次に、ぼくのリストの中でもっとも存在感を示しているヨーロッパに渡ってみよう。ポルトガル(オリヴェイラ)、イタリア(モレッティ)、デンマーク(ラース・フォン・トリアー)、ポーランド(スコリモフスキー)とともに。アメリカには少し遠回りが必要だ。トロントのカナダ人クローネンバーグ、そしてハリウッドへの橋渡しとなるゴンドリー。アジアの映画はどうだろう?香港から見渡す中国、そして韓国にたどり着く。『グリーン・ホーネット』と『Detective Dee and Mystery of the Phantom Flame』、この2本のフィルムは娯楽映画であり、ジャンル映画に属しているという意味で、ハリウッド対中国という構図にあるといえるだろうか?ゴダールはかつてハリウッド-モスフィルム軸、ロサンゼルス-モスクワ軸について語っていた。いまのところ中国映画産業を彩る才能は香港映画界の気鋭たち(ジョン・ウーや、ツイ・ハーク)に由来するが、その立場を掌握しているのが北京である事実は、中国映画を巡る経済的現状が物語っている。『グリーン・ホーネット』は、スーパー・ヒーローに対するユーモア(完璧にスーパーとは言えない、調子の狂った英雄)によって、ハリウッドのブロックバスターという文脈では非常に出来のよい作品と言える。そしてもう一度製作体制の単位でリストを見渡せば、産業の余白で映画制作を可能にするミクロシステム(ホン・サンス)と、アメリカ同様に中国にも存在する産業によって渇望されるシステムとの、大きな隔たりを確認することもできるだろう。
2本のフィルム(『O Estranho Caso de Angélica』と『Habemus papam』)は、今年の作品の中でも際立っていた。前作『ブロンド少女は過激に美しく』と同様に恐るべきオリヴェイラの新作。同じオブセッション(ブロンドの若い少女の微笑み)と、現実の生と映画的な生の狭間にある、死とその拒絶の美しいアレゴリー。写真は生きている時間を閉じ込めるのではなく、逆の効果を生み出す。肉眼ではなく、キャメラのレンズを介して生起する死への拒絶、そして死の幻影。そうして写真のモデルの微笑みは、肉眼では逃げ去ってしまうまさにその捉えがたさによって、死体という現実をすり抜け、死の表象であり、死への誘いとなる。一方ナンニ・モレッティは、ピエール・ルジャンドル『権力の享受 Jouir du pouvoir 』に切り返しをする。そこにあるのはまったく望んでいなかったものを手に入れてしまい、それを拒絶し、恐怖に襲われ、重責の前で逃げ出してしまう男の肖像だ。モレッティは、幼稚な退行の側にとどまることなく、混乱する体制の構造を捉え最悪の結末を用意するだろう。また『メランコリア』は文字通り鮮やかに、終わりを告げる死の床にある金髪の若い娘の微笑みとは違ったやり方で、地球を襲う惑星の接近によって、ほとばしる感情を語った。
ほかにはどんな共通点を見出すことができるだろう?そうだ、男と女の関係、クローネンバーグとホン・サンスの作品に近づいてみよう。男同士の親密さの重要性、一方にはフロイトとユング(『A Dangerous Method』)がおり、自身のヴァカンスについて語るふたりの男(『Ha ha ha』)がいる。では女性は?愛すること、あるいは愛さないことを望む女たち。うわべには見えない感情。敵意、嫉妬。ひとりの女をめぐるふたりの男の葛藤。それは暴力的に(クローネンバーグ)、ときにはグロテスクに(ホン・サンス)に実行される。スコリモフスキは別の展開を見せるが、本質的には同じことだろう。彼は生存本能を介して、人間の動物的な側面をとらえている。
自身の選択について語ってきたことで、ぼくは重要なことに気づいた。とりたてて評価してこなかった映画作家をこのリストで再発見しているのだ。それはミシェル・ゴンドリーのことであり、ラース・フォン・トリアーに関してもまったく同様だ。つまり作家政策の厳格主義の伝統を打破することを引き受ける意思(それは、一部分だけの話であることは、残りのリストを見てもらえれば、わかるだろう)を、自身のリストに発見したのだ。作家政策は確かにかつて上手くいかず、ましてや容認しがたいものであっても、必要だった。だが現在はもはやそのような状況にはないのだ。
毎年訪れているロッテルダム、カンヌ、ヴェネチア以外にも、今年は一年間を通して数多くの旅の機会に恵まれた。その中から、5つの特別な旅を紹介しよう。
今年は3回韓国に訪れる機会を得た。まずは3月、批評家週間セレクションの作品を探しに行った。批評家週間の審査員委員長を引き受けてくれたリー・チャンドンと夕食を取っていたちょうどそのとき、ぼくたちは日本で起きた津波のことを知った。そして8月のソウル、CINDI(シネマ・デジタル・ソウル)映画祭のために再び韓国へ。
ディレクターであるイ・グァンモのもと開催されたフェスティバルは、会場も新しく、とても親密で素晴らしいものだった。最後に10月の釜山で、イザベル・ユベールとともに喜びに満ちた時間を過ごした。彼女は、自身の美しい写真展を紹介するために、そしてその夏に撮影されたホン・サンスの新作(『In another country』)の記者会見のために韓国に来ていた。
9月、ぼくは坂本安美からの招待で、東京日仏学院で開催される第15回「カイエ・デュ・シネマ週間」において、カンヌ映画祭批評家週間部門50周年を記念する作品を紹介するために日本を訪れた。最後に東京に来たのは2003年、小津のシンポジウムのためだった。ホウ・シャオシェンの『珈琲時光』(03)が上映され、そこにはキアロスタミやオリヴェイラもいた。今回、ぼくはまた再び東京でキアロスタミに出会った。彼は新作の準備にとりかかっていた。また吉田喜重、岡田茉莉子との素晴らしいディナーを楽しんだことも忘れられない。忠臣蔵の47人の刺客の墓地がある泉岳寺にも訪れた。というのも、ぼくはMK2から発売されている溝口健二の『元禄忠臣蔵』の解説をしていて、ヌーヴェル・ソルボンヌ(パリ第三大学)で、いま日本の時代劇の授業をしているからだ。パリではこれから日活100年を記念したレトロスペクティブがはじまる。ぼくはそこで溝口の時代をさらに遡る作品を発見することになるだろう。
ぼくが初めてメキシコに訪れたのは、2010年だった。そして同じ年にもう一度訪れる機会があった。10月、モレリアでのフェスティバルに短編部門の審査員として招かれ、12月には2011年2月号の「カイエ・デュ・シネマ」、メキシコ映画特別号のために滞在した。その翌年の10月、再びモレリアに戻ってくることになる。本当に素晴らしい街だ。ダニエル・ミッシェルによってディレクションされた、批評家週間と提携している映画祭は非常に魅力的で、セレクションの質に驚かされた。
リオ・デ・ジャネイロのリオ大学のイヴァナ・バントの招待に答えて、サルヴァドゥール・デ・バイアの「シネマ・フュテュロ」に参加した。そこでは多彩なプログラム、そして多くの講演が催され、ぼくはベンガルの映画作家であるリトウィック・ガタク 『雲のかげ星宿る』(60)に関する講演と上映に際する協力をした。サルバドールはとても美しい街だった。初めてブラジルを訪れたのは、2001年のリオ映画祭、「カイエ・デュ・シネマ」50周年のためだった。
11月の初旬、ブリスベン映画祭で、批評家週間50周年にオマージュが捧げられた。ブリスベンと言えばサーフィンの天国、” ゴールドコースト“ だ。フェスティバルでは、オーストラリア映画における、サーフィンのめぐっての美しいプログラムが組まれていた。フランスでリュミエール兄弟がラ・シオタ駅に到着する電車を撮影していたとき、オーストラリアでは、海に渦巻く波を撮影していた。メランコリックではない、別の自然の運動を。そしていまでもなおその痕跡の残る英国のピューリタリズムの風土とともに、心をとらえる美しい街、シドニー。ぼくはこの美しい街に、スクリーン・オーストラリア(映画製作支援政府機関)から招待され、カンヌ映画祭批評家週間を目指して作品を準備しているプロデューサー、映画作家たちと出会った。
『Un été brulant』フィリップ・ガレル That Summer, directed by Philippe Garrel, France/Italy/Switzerland |
『Oki's movie』 ホン・サンス Oki's Movie, directed by Sang-soo Hong, South Korea |
『メランコリア』ラース・フォン・トリアー Melancholia, directed by Lars von Trier, Denmark/Sweden/France/Germany |
『ある娼館の記憶』ベルトラン・ボネロ House of Tolerance, directed by Bertrand Bonello, France |
『おお至高の光』ジャン=マリー・ストローブ O somma luce, directed by Jean-Marie Straub, France |
『ヒアアフター』クリント・イーストウッド Hereafter, directed by Clint Eastwood, US |
『トゥルー・グリット』ジョエル&イーサン・コーエン True Grit, directed by Ethan Coen, Joel Coen, US |
『Dharma Guns』F.J.オサン Dharma Guns, directed by F.J. Ossang, France/Portugal |
『O Estranho Caso de Angélica』マノエル・ド・オリヴェイラ The Strange Case of Angélica, directed by Manoel de Oliveira, Portugal/Spain/France/Brazil |
『Ha ha ha』ホン・サンス Hahaha, directed by Sang-soo Hong, South Korea |
『Médée Miracle』トニーノ・デ・ベルナルディ Media Miracle, directed by Tonino De Bernardi, France/Italy |
『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ Essential Killing, directed by Jerzy Skolimowski, Poland/Norway/Ireland/Hungary |
『スクリーム4』ウェス・クレイヴン Scream 4, directed by Wes Craven, US |
『L'Autobiographie de Nicolae Ceaucescu』アンドレイ・ウジカ The Autography of Nicolae Ceausescu, directed by Andrei Ujica, Romania/Germany |
『ホール・パス/帰ってきた夢の独身生活』ピーター&ボビー・ファレリー Hall Pass, directed by Bobby Farrelly, Peter Farrelly, US |
『The Beaver』ジョディ・フォスター The Beaver, directed by Jodie Foster, US |
『Meek's Cutoff』 ケリー・ライヒャルト Meek's Cutoff, directed by Kelly Reichardt, US |
『哀しき獣』ナ・ホンジン The Yellow Sea, directed by Hong-jin Na, South Korea |
『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』ルパート・ワイアット Rise of the Planet of the Apes, directed by Rupert Wyatt, US |
『La Piel que habito』ペドロ・アルモドバル The Skin I Live In, directed by Pedro Almodòvar, Spain |
『これは映画ではない』ジャファール・パナヒ This Is Not a Film, directed by Jafar Panahi, Iran |
『ドライヴ』ニコラス・ウィンディング・レフン Drive, directed by Nicolas Winding Refn, US |
『カーリング』ドゥニ・コテ Curling, directed by Denis Côté, Canada |
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア』ヌリ・ビルゲ・ジェイラン Once Upon A Time In Anatolia, directed by Nuri Bilge Ceylan, Turkey/Bosnia and Herzegovina |
『Noces éphémères』レザ・セルカニアン Ephemeral Marriage, directed by Reza Serkanian, Iran/France |
『ニーチェの馬』タル・ベーラ The Turin Horse, directed by Béla Tarr, Hungary/France/Germany/Switzerland/US |
『Territoire perdu』ピエール=イーヴ・ヴァンデウェア Lost Territory, directed by Pierre-Yves Vandeweerd, Belgium/France |
『Two Gates of Sleep』アリステア・バンクス・グリフィン Two Gates of Sleep, directed by Alistair Banks Friffin, US |
『Sweetgrass』ルシアン・カステン=テイラー Sweetgrass, directed by Lucien Castaing-Taylor, France/UK/US |
『A Dangerous Method』デヴィッド・クローネンバーグ A Dangerous Method, directed by David Cronenberg, U.S. |
『Snowtown』ジャスティン・カーゼル Snowtown, directed by Justin Kurzel, Australia |
『ゴモラ』マッテオ・ガローネ Gomorra, directed by Matteo Garrone, Italy 今年一番力強い洋画だった。劇場で思わず「えぇー!」と心のなかで言ってしまった。 |
『シルビアのいる街で』ホセ・ルイス・ゲリン In the City of Sylvia, directed by José Luis Guerín ストーカー映画を久々にみた。ストーカーはおもしろい。 |
『ピラニア3D』アレクサンドル・アジャ Piranha, directed by Alexandre Aja, US 最高! キャメロンが怒るのもわからなくはないがおもしろい。 |
『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan とても意義のある作品でもあり、エンターテインメントとしてもとても楽しませてくれた。 |
『家族X』吉田光希 Family X, directed by Koki Yoshida, Japan とてもシンプルで好きな作品。沈黙の力を表現できるのはとてもすごいことだと思う。 |
『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』ルパート・ワイアット Rise of the Planet of the Apes, directed by Rupert Wyatt, US もはや猿じゃない!普通におもしろかったです。 |
『ブラック・スワン』ダーレン・アロノフスキー Black Swan, directed by Darren Aronofsky, US ダーレン・アロノフスキー監督はやはり頭がいいということを再認識しました。 |
『ファンタスティックMr. FOX』ウェス・アンダーソン Fantastic Mr. Fox, directed by Wes Anderson, US |
『宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ Declaration of War, directed by Valérie Donzelli, France |
『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』マルコ・ベロッキオ Vincere, directed by Marco Bellocchio, Italy/France |
『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan |
『トゥー・ラバーズ』ジェームズ・グレイ Two Lovers, directed by James Gray, US |
『ザ・ウォード/監禁病棟』ジョン・カーペンター The Ward, directed by John Carpenter, US |
『刑事ベラミー』クロード・シャブロル Inspector Bellamy, directed by Claude Chabrol, France |
『天国の日々』テレンス・マリック Days of Heaven, directed by Terrence Malick, US |
『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』ニコラス・レイ We Can't Go Home Again, directed by Nicholas Ray, US |
『ソーシャル・ネットワーク』も『アンストッパブル』も、もちろん『ヒアアフター』もすごく面白かったけれど、やっぱり2011年は震災以後に見た『ファンタスティックMr.FOX』から始まった気がするのでこの10本。どの作品も何かと戦っていたサバイバル映画だったような錯覚がある。その意味では『猿の惑星: 創世記』も最高で、今年もっとも印象深かった台詞は「NO!!」(主人公のサルが暴力飼育係に叫ぶとこ)だった。
ひとり温泉の旅にて。谷崎潤一郎が滞在した場所だと『作家と温泉 お湯から生まれた27の文学』に書いてある。お湯に塩気が効いていてすごいんです。
とんかつ大将への道その1「美味いとんかつは塩で食べても美味い」
とんかつ大将への道その2「箸で切れるとんかつは美味い」
とんかつ大将への道その3「やっぱりとんかつはロースにかぎる」
『O Estranho Caso de Angélica』マノエル・ド・オリヴェイラ The Strange Case of Angélica, directed by Manoel de Oliveira, Portugal/Spain/France/Brazil |
『Habemus Papam』ナンニ・モレッティ We Have a Pope, directed by Nanni Moretti, Italy/France |
『Les Bien-Aimés』クリストフ・オノレ The Beloved, directed by Cristophe Honoré, France/UK/Czech Republic |
『5 Windows』瀬田なつき 5 Windows, directed by Natsuki Seta, Japan |
『Rocks Off』安井豊作 Rocks Off, directed by Hosaku Yasui, Japan |
まったくの私事ではありますが、昨年後半から幸運にもパリ滞在の機会を得たことで、私自身の映画に向き合う姿勢が大きく変わった1年となりました。 現時点での日本劇場未公開作、あるいはまだ多くの方が未見であるだろう作品から、大切な5本をここに。共通しているのは、すでに失われてしまった何かを映し出すことに対する、自由で、大胆で、そしてリスクを伴った探求がそこにあるということだと思います。
とりわけオリヴェイラの最新作にして大傑作『O Estranho Caso de Angélica』、一刻も早く日本でも公開されることを心から祈願いたします。シネマテーク・フランセーズにて、すでに102歳を過ぎた監督本人を招いての特別上映にて、あまりにも当然のように巻き起こったスタンディング・オベーションは、私のまだまだ短い映画体験の記憶の中で特権的なひとつとなりました。壇上へと登る際、杖を小脇に抱えて階段をヒョイヒョイと駆け上がってしまうその姿には、目眩さえ覚えそうになりました。
すべての作品がより多くの人々に見て頂けることを願ってやみません。が、そうした多様な作品を生み出すという権利、あるいはそれらに接するという権利こそ、今まさに失われかけているものなのだということもまた事実なのだと思います。
映画とはおそらく、一義的で強迫的な「正しさ」を押し付けようとする、窮屈なセカイやらシャカイやらに対する果敢な抵抗の術を実践するものです。そんなことを改めて考えさせてくれた、3本の美しいアメリカ映画との出会いを最後に記させて頂きたく思います。
『荒野の女たち』ジョン・フォード |
『The mortal storm』フランク・ボーゼージ |
『底抜け再就職も楽じゃない』ジェリー・ルイス |
感嘆すべき多くの人々の優れた仕事の数々から。
とりわけフィルメックスでの相米慎二特集の中で唯一再見叶った『東京上空いらっしゃいませ』には、作品自体にまず徹底的に打ちのめされ、そして笑福亭鶴瓶師匠の相米への愛情に溢れた素晴らしい一人喋りにただただ魅了され、その日は半日ほど何も手につかずだったことを忘れられません。映画のベストに上げた、瀬田なつき監督の『5 Windows』と『東京上空~』の2本立て上映(もちろん順番は『東京上空~』の後に間髪入れず『5 Windows』でしょう!)という想像を、その日からずっと抱き続けています。
『Attenberg』アティーナ・レイチェル・ツァンガリ Attenberg, directed by Athina Rachel Tsangari, Greece |
『Un amour de jeunesse』ミア・ハンセン=ラブ Goodbye First Love, directed by Mia Hansen Løve, France/Germany |
『Meek's Cutoff』ケリー・ライヒャルト Meek's Cutoff, directed by Kelly Reichardt, US |
『宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ Declaration of War, directed by Valérie Donzelli, France |
『Nana』ヴァレリー・マサディアン(ロカルノ映画祭上映作品) Nana, directed by Valérie Massadian, France |
『Skylab』ジュリー・デルピー Le Skylab, directed by Julie Delpy, France |
『ある娼館の記憶』ベルトラン・ボネロ House of Tolerance, directed by Bertrand Bonello, France |
『カーリング』ドゥニ・コテ Curling, directed by Denis Côté, Canada |
『Un été brulant』フィリップ・ガレル That Summer, directed by Philippe Garrel, France/Italy/Switzerland |
『O Estranho Caso de Angélica』マノエル・ド・オリヴェイラ The Strange Case of Angélica, directed by Manoel de Oliveira, Portugal/Spain/France/Brazil |
『Love and Bruises』ロウ・イエ Love and Bruises, directed by Ye Lo, China/France |
『Oki's movie』 ホン・サンス Oki's Movie, directed by Sang-soo Hong, South Korea |
『Los Nombres de Cristo』アルベルト・セーラ(ロカルノ映画祭上映作品) The names of Christ, directed by Albert Serra, Spain/France |
『More』伊藤丈紘 More, directed by Takehiro Ito, Japan |
今年は大作家たちの新作が目白押しの年(テレンス・マリック、ナンニ・モレッティ、モンテ・ヘルマン、マノエル・ド・オリヴェイラ、ラース・フォン・トリアー、ペドロ・アルモドバル、イエジー・スコリモフスキ、ウディ・アレン、フィリップ・ガレル、アキ・カウリスマキ、アラン・カヴァリエ、ロマン・ポランスキー、デヴィッド・クローネンバーグ……)だったので、選ぶのには本当に苦労した。日本で劇場公開された作品は編集委員の方々に託すこととし、フランスでの2011年公開作品を中心に、新鮮な驚きを与えてくれた14本を。
2010年12月から始まった特集上映ではあるけれど、敢えて選ばせていただいた。開幕作品 『Maria Marlibran』から、完全にノックアウト。遅ればせながら遺作 『Nuit et Chien』(2008)を見て、彼が本当に早く逝ってしまったことを実感した。また特集上映に併せて出版された、フィリップ・アズーリによる 『À Werner Schroeter, qui n'avait pas peur de la mort』 (Capricci)は、感動的なほどに美しい一冊。
パリ第8大学の位置するサン=ドゥニの劇場で開催されている特集上映。作家や俳優を中心にしたレトロスペクティヴが多いなかで、プログラムとは何か、そしてその豊かさを改めて感じさせてくれた。ジャック・ドワイヨン『L'an 01』で開幕し、チャップリン、ジガ・ヴェルトフ、グラウベル・ローシャ、マルセル・アヌーン、リュック・ムレ、ユスターシュという固有名とともに、まさに映画史を横断するプログラム。 なんと2012年は、「革命」特集とのこと。こちらも今から楽しみ!
パリの中心から離れたボビニーの小さな劇場で開催されていた特集上映。アラン・タネール、ジョン・ベルジェ、スーザン・ソンタグの作品を中心にしたプログラム。劇場周辺に何もない&若干危険なので夜の回の上映は遠慮したいな…と思っていたけれど、結局毎日のように通ってしまった。
ジャニーヌ・バザンとアンドレ・S・ラバルトにより共同製作されたテレビドキュメンタリーシリーズの特集上映。個人的なお気に入りは、クリス・マルケルによるタルコフスキー。また、併映で、Nico Papatakis 『Les abysses』、Diourka Medveczkyの諸作品をついに見れたことも嬉しかった。アンドレ・S・ラバルト 『La Saga Cinéastes, De Notre Temps』(Capricci)はカタログという域を超えている素晴らしい一冊。
特集上映とともに「メトロポリス」展も始まり、ドイツ無声時代の作品から、現存するすべての作品が上映された。すでに日本で見た作品も思わず見直してしまった。
1. | 『ヒアアフター』クリント・イーストウッド Hereafter, directed by Clint Eastwood, US |
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2. | 『トスカーナの贋作』アッバス・キアロスタミ Certified Copy, directed by Abbas Kiarostami, France/Italy/Belgium |
3. | 『消えゆく恋の歌』章明(チャン・ミン) Folk Songs Singing, directed by Ming Zhang, China |
4. | 『アンストッパブル』トニー・スコット Unstoppable, directed by Tony Scott, US |
5. | 『ソーシャル・ネットワーク』デヴィッド・フィンチャー The Social Network, directed by David Fincher, US |
意図したわけではありませんが、5本のうち4本はすべて、2011年の1~3月までに公開されていたものです。単純に、今年はほとんど新作も見ていません。1月に4、5を見ているときはアメリカ映画は一体どこまで行ってしまうのか、と幸福な身震いをしていました。2月に2を見たときは、魔術的な構成に眩惑されつつも、どこか尻尾を捕まえたような気持ちにもなっていました。1を見たのは3月14日のことでした。はっきり覚えているのは、単にその日付が映画の中で現れたからです。
そんななかで、たまたまタイミングが合って10月の中国映画週間で見ることのできた3を、ようやく届いた旧友からの手紙を見るような気持ちで紐解きました。 自分もそんな手紙を出すように映画を撮りたいと、いつも思っています。
単純に、暮らしていたら行き会ったものたちです。
Aは友人の勧めで読んだもの。来年はできる限りイプセンを読みます。
B、C、Dとは出会い方は違いますが、その感触はそれぞれ似ています。それぞれ写真/民話/映画/建築というものが、その境界を越えて「ふくらむ」瞬間を目撃したような。それは驚きであり、快楽であり、よろこびでした。Dの上映イベントに際して建築家の中山英之さんとトークをさせて頂いたことも忘れがたい経験です。途中で終わった話の続きを、いつかしたいと願っています。
Eは、私も一年以上関わらせて頂いた仕事の集大成ですが、自分が参加していることはおいて、これだけの質量の映画本は近年そうないのではないかと思っています。「相米組」を通して、相米慎二の映画と出会い直す機会を与えていただいたことに何より感謝しています。
これらは、まったく偶然の出会いだったり、偶然が折り重なっての出会いだったりします。ただ、おそらくは自分次第で、いつかそれを偶然と呼ばなくてもよくなるのではないかと思っています。2012年も、もっと多くの偶然を!
『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』瀬田なつき A Liar and a Broken Girl, directed by Natsuki Seta, Japan |
『悲しみのミルク』クラウディア・リョサ The Milk of Sorrow, directed by Claudia Llosa, Spain/Peru |
『甘い罠』クロード・シャブロル Merci Pour le Chocolat, directed by Claude Chabrol, France |
『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『SUPER 8/スーパーエイト』J・J・エイブラムス SUPER 8, directed by J.J. Abrams, US |
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』バンクシー Exit Thorough the Gift Shop, directed by Banksy, US |
『エッセンシャル・キリング』イエジー・スコリモフスキ Essential Killing, directed by Jerzy Skolimowski, Poland/Norway/Ireland/Hungary |
『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan |
『ウィンターズ・ボーン』デブラ・グラニック Winter's Bone, directed by Debra Granik, US |
『奪命金』ジョニー・トー Life Without Principle, directed by Johnnie To, Hong Kong |
名湯めぐりに熱をあげた1年でした。次点は白水荘(熊本県・杖立温泉)。ホテルならば秋の湖畔にたたずむ裏磐梯高原ホテルをあげたいと思います。
『アイ・アム・ナンバー4』D・J・カルーソー I Am Number Four, directed by D.J. Caruso, US |
『幸せの始まりは』ジェームズ・L・ブルックス How Do You Know, directed by James L. Brooks, US |
『宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ Declaration of War, directed by Valérie Donzelli, France |
『果てなき路』モンテ・ヘルマン Road to Nowhere, directed by Monte Hellman, US |
『マネーボール』ベネット・ミラー Moneyball, directed by Benet Miller, US |
『ラブ・アゲイン』グレン・フィカラー&ジョン・レクア Crazy, Stupid, Love, directed by Glenn Ficarra & John Requa, US |
どれもタイトル(原題)がとってもいい。「I AM NUMBER FOUR」なんて、1番でも2番でも3番でもなくて5番でもないってのが、こう、いわゆる野心とは無縁ながら「わたしこそがスタンダードである」という、やわらかくて固い意志みたいなものを感じさせてくれる。そう、その「わたしこそがスタンダードである」という感じがこの6本には共通しているような気もする。『マネーボール』のなかでブラッド・ピットが「おれの目的は勝つことじゃなくてゲーム自体を変えることだ」と言っていたのだけれど「ゲームを変えること」と「世界を変えること」は違うのか同じなのかと悩んだ結果、やっぱり同じだけれど違うという結論にたっした。この世界を牛耳るアホどもが世界をゲームだととらえているかぎり、ぼくらが変えるべきはやっぱりゲームなんじゃないか、ということだ。
2011年は、とくに東日本大震災以降ほんとに腹の立つことばかりで、年末までムカつくことがいろいろあって、2012年もきっとそうだろうしこれからもそうなはずだけれど、立った腹を良いかたちに仕向けてくれたものも同じぐらいたくさんあった。そのなかから最近の、11~12月のこと。
やっぱり今年も事あるごとに庄司薫を開いていた気がする。
やっぱり今年も事あるごとに田中小実昌を開いていた気がする。
「こうありえたかもしれない」というのじゃなく「こうでしかなかったよね」というのを、現実というものの押しつけではなくて、フィクションを介在させた大きなやさしさみたいなもので納得させてくれたような、そんなことを感じた写真展。そして「そのやさしさを支える限りない強さみたいなもの」が、たしかにそこにはあった。「こうでしかなかったよね」という出発点からこそ、目に見えないなにかが見えるかもしれないんじゃないかな。
12月、ドクター・マーチンの8ホールブーツを中古で買ったのだけれど、すでにここ1年で2足のドクを買っていた友人から「他人の靴を履くってのはハイエナみたいなもんだよな、うん、そうか、はは」と笑われて、良い台詞だなと思った。
夏の終わりごろからずっとポケット付きTシャツがほしくて、12月、冬にもかかわらずやっと1枚買った。友人宅のTシャツくんでプリントしてもらった。どんなプリントかは内緒。次の夏までにはTシャツくんを買おうと思っている。
元「カイエ・デュ・シネマ」のエマニュエル・ビュルドーによる、世界初のモンテ・ヘルマンのオリジナルインタヴュー集。翻訳を担当させていただきました。冗談抜きでヘルマンの言葉からはほんとに多くのことを学んだ。
1. | 『ヒアアフター』クリント・イーストウッド Hereafter, directed by Clint Eastwood, US |
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2. | 『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』マルコ・ベロッキオ Vincere, directed by Marco Bellocchio, Italy/France |
3. | 『SUPER 8/スーパーエイト』J・J・エイブラムス SUPER 8, directed by J.J. Abrams, US |
4. | 『ファンタスティックMr. FOX』ウェス・アンダーソン Fantastic Mr. Fox, directed by Wes Anderson, US |
5. | 『ソーシャル・ネットワーク』デヴィッド・フィンチャー The Social Network, directed by David Fincher, US |
震災以後、この国ではありとあらゆる茶番が繰り広げられているが、そのはじまりは津波が映し出された映画作品の上映中止だった。だから、ファシズム台頭の傍らで歴史に翻弄された女が何を見て何を見なかったのか、いまを生きる私たちは肝に銘じておきたいと思う。一方で、8ミリフィルムを大切に繋ぎ合わせるように正しくも愚かな連続性の中に舞い戻った少年少女たちに私たちは希望を見たし、キツネの一家は残酷なこの世界でどのように生き残っていくべきかを示してくれた。あるユダヤ人の青年は「この先は大人に任せなさい」という言葉に決して耳を貸さなかったが、私たちもまた迫りくるシステムに立ち向かっていこう。
『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』ニコラス・レイ We Can't Go Home Again, directed by Nicholas Ray, US |
『孤独な場所で』ニコラス・レイ In a Lonely Place, directed by Nicholas Ray, US |
『苦い勝利』ニコラス・レイ Bitter Victory, directed by Nicholas Ray, US |
『バレン』ニコラス・レイ The Savage Innocents, directed by Nicholas Ray, US |
『夜の人々』ニコラス・レイ They Live by Night, directed by Nicholas Ray, US |
ニコラス・レイ心のベスト5(『孤独な場所で』はオールタイム・ベスト1)。
新作アメリカ映画では(巨匠監督作を除いて)、『ザ・タウン』(ベン・アフレック/主役以外のキャスティング)、『ミッション:8ミニッツ』(ダンカン・ジョーンズ/企画)、『ラブ・アゲイン』(グレン・フィカーラ&ジョン・レクア/終盤の段取り全部)などが、いろんな意味で「ちくしょー」感。 新作日本映画では『大鹿村騒動記』(阪本順治/原田芳雄と舞台)、『東京公園』(青山真治/離れる二者のロングショット切り返しと「なるほど……ありうる」)、『サウダーヂ』(富田克也/ギャグと音楽)、『ミッシング』(佐藤央/女性2人のキャスティングと正面背後2ショットの反復)、『NINIFUNI』(真利子哲也/警察署のカメポジとサウンド)など。
また、手前味噌だが自分の現場のメイキングである『In MITO』(松井宏)がうれしかった。
※勝手に対バン形式でお送りします。
表情で物語る 『親密さ(short version)』濱口竜介 Intimacy (short version), directed by Ryusuke Hamaguchi, Japan 巧みな脚本と魔術的な演出で見せる四角関係。 『なみのおと』濱口竜介・酒井耕 Nami No Oto, directed by Ryusuke Hamaguchi & Ko Sakai, Japan こんな震災関連ドキュメンタリーがあり得たのか?! めくるめく面白さ。 |
風景×車×人、静寂の雄弁 『NINIFUNI』真利子哲也 NINIFUNI, directed by Tetsuya Mariko, Japan 凄い!キャスト・撮影・録音など盤石の布陣によるスケール感。 『ギ・あいうえおス』柴田剛 Gi AiueoSu, directed by Go Shibata, Japan 美しい!宇宙人に見せたい映画(いい意味で) |
エアポケット、もしくはゴールデン・トライアングル 『ring my bell』鎮西尚一 Ring My Bell, directed by Naokazu Chinzei, Japan 春休みの浮遊感。core of bellsが主演。 『マジック&ロス』リム・カーワイ Magic and Loss, directed by Lim Kah Wai, Japan/South Korea/Malaysia/Hong Kong/China/France/US 夏休みの浮遊感。キム・コッピ、ヤン・イクチュンが出演。 |
東京の片隅でお逢いしましょう。 『ソレイユの子どもたち』奥谷洋一郎 Children of Soleil, directed by Yoichiro Okutani, Japan 大田区のロビンソン・クルーソーへの、ペドロ・コスタ的まなざし。 『惑星のかけら』吉田良子 Wakusei No Kakera, directed by Ryoko Yoshida, Japan 渋谷の夜のおとぎ話。渋川清彦の軽妙さと哀愁。 |
恐るべき子どもたち 『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』瀬田なつき A Liar and a Broken Girl, directed by Natsuki Seta, Japan 嘘だけど、という口癖は残酷かもしれない。 『先生を流産させる会』内藤瑛亮 Let's-Make-the-Teacher-Have-a-Miscarriage Club, directed by Eisuke Naito, Japan 女子中学生とは、最も残酷な生き物かもしれない。 |
傑作! レベル・ミュージックのように反芻される 『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan 2回見たが、できれば5年後くらいにまた見たい。 |
(以上、順不同)
かねてからのミニシアター再編や映画館のデジタルシネマ化など、映画の出口をめぐる状況はいまや過渡期というか、一種のアナーキーな事態となっている。 日本のインディペンデント映画の劇場公開の顕在化については、インディペンデント映画そのもの質的向上によるところもあるが、他方、相対的に従来あったヨーロッパやアジア映画また日本映画の中小規模の商業映画の公開が減少していることも影響している。映画がビジネス的に縮小していく一方で、地デジ化に伴うデジタルテレビの普及やブルーレイやDVD、またネットなどにより、出かけずに映画が観られることも常態化している。
また、今まさに進行中の問題として、ハリウッド主導によるデジタルシネマ(DCP)移行は、社会のデジタル化にあわせながらメジャーの映画産業の経営戦略として始められた経緯があるが、結果的に、シネコン以外にとっては、大きなハードルとなっている。つまり、デジタルシネマ(DCP)設備は購入するには1000万と高額なため、一種のリース契約のようなVPF(ヴァーチャル・プリント・フィー)スキームを利用すると、配給会社と映画館で設備費用を分担することになる。それにより、映画上映の流通コストが上がり、採算ライン(興行収入20万)に満たない作品は上映が成り立たなくなるが、現状、地方のミニシアターでは約半数の作品がそれに当たる。独立系の配給会社とミニシアターにとっては死活問題であり、最悪の場合、ゆくゆくはシネコンしか残らないことになったら本当にマズイ。インディペンデント映画の作り手とそれを見たい観客のための定位置がなくなるし、そういった場が新たなユニークな作り手たちや俳優たちを育成しているという意義もあるため、それらが失われれば日本映画全体の先細りにもつながる。
解決策としては、より低コストなデジタルシネマ設備(既存のDLPプロジェクター+DCPサーバーを買い足す)を導入する、独立系の配給会社がVPFサービス会社に対して共同交渉してミニシアター向けの低価格なVPFスキームを設定するようにする、公的助成の導入、など考えられるだろう。ただし、本質的な問題として、デジタルシネマ移行は何らかの方策でクリアするにしても、観客が確保できないことには、やはり配給会社や映画館は続いていかないだろう。また、別途に考えられなければいけないこととして、35㎜フィルムの保存やフィルム映写の継承という問題もある。
いろいろな次元のテーマが絡み合っており一概に言えないにしても、根本的に、配給や興行など映画の流通上の都合によって状況が様変わりしてしまった後で、やっとそれに気づいて何か言っても手遅れだ。とにかく、観客としての意見やニーズを主張しなくちゃ始まらないし、お気に入りの映画館に行き続けるしかない。例えば、オーガニックの食べ物やフェアトレードの物が、経済効率はよくなくても成立しているのは、その価値を知る人々が消費者として支えているからに他ならない。自分たちが評価するものは、自分たちで支持してそれを広めていけばよいのだ。
また、デジタル化によるプラス面、例えば、低コストを活かしての自主製作や自主配給など、もっと映画が自由になることだって可能だろう。 これからも、いろんな映画を映画館で見続けたい。何事も失われた後でその価値に気づいても遅いのだ、と今まで折々の閉館の時に思ってきたではないか。
『果てなき路』モンテ・ヘルマン Road to Nowhere, directed by Monte Hellman, US |
『さすらいの女神たち』マチュー・アマルリック On Tour, directed by Mathieu Amalric, France |
『パレルモ・シューティング』ヴィム・ヴェンダース Palermo Shooting, directed by Wim Wenders, Germany/France/Italy |
『5 Windows』瀬田なつき 5 Windows, directed by Natsuki Seta, Japan |
『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan |
(以上、順不同)
女神(ディーバ)たちに魅了された5本。『果てなき路』のセリフ――“Velma was always my window into the story”――を借りれば「5つの窓」ということになるだろう。別にそれらの窓がどんづまりを打開してくれるわけではない。というか、そもそもどんづまりの原因だったりするのだが、そこには、混乱、閉塞、猥雑などとともに、どこか突き抜けた感じがあった。窓(中村ゆりか/『5 windows』)は軽やかに時間を超えて開き、窓(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ/『パレルモ・シューティング』)の側から見返されたりする。あるいは様々な窓を想って穴を掘る。UFOや、オオクワガタの登場に時折その手を止めつつ、穴を世界に穿つ(『サウダーヂ』)。shootingとは、まさにそのような行為だと思う。
最後に今年の爆音上映ベスト3を付け加えておきたい。
『ALI アリ』マイケル・マン(爆音映画祭2011) |
『アンストッパブル』トニー・スコット(爆音映画祭2011) |
『憂鬱な楽園』ホウ・シャオシェン(京都爆音) |
いずれも作品に秘められた力を爆音が引き出していて、初見以上に昂奮した。
手に入れられるうちに買っておこうと思うのだけれど……
『ヒアアフター』クリント・イーストウッド Hereafter, directed by Clint Eastwood, US |
『ファンタスティックMr. FOX』ウェス・アンダーソン Fantastic Mr. Fox, directed by Wes Anderson, US |
『東京公園』青山真治 Tokyo Kouen, directed by Shinji Aoyama, Japan |
『サウダーヂ』富田克也 Saudade, directed by Katsuya Tomita, Japan |
『5 Windows』瀬田なつき 5 Windows, directed by Natsuki Seta, Japan |
見た順に。本当に今年は映画を見ていない。だから映画としての評価というより、別の次元で選んだ5本な気がする。理由は下記。 『アンストッパブル』(トニー・スコット)、『ザ・タウン』(ベン・アフレック)、『5デイズ』(レニー・ハーリン)もよかった。
こんな機会でもなければきっと言葉にせずに済ましてしまうだろうことを。地震の一週間後、ひとりの女の子と恋に落ちた。彼女は両親が活動家で、お母さんは元にっかつロマンポルノの女優で、家族の反対を押し切って今年の春に美容師になったばかりで、ジョン・レノンを崇拝してて、昔ケイト・ハドソンに握手してもらったことがあって、一回り近く年も違うのにそんな気もせず、なんだかかっこいい女の子だった。彼女とすごく仲がよかったのは、人生のたった10日間ばかりに過ぎないのだけれど、『ファンタスティックMr.FOX』を見に行って、それから彼女の休みが全然なくなって、『東京公園』の公開一週間前に久しぶりに飲みに行って、それからだいぶ連絡をとってなくて、『サウダーヂ』公開前の六本木Super Deluxeのサウダーヂナイトに誘おうと思っていたら、彼女が9月の末に死んだって聞いた。後で思うと『5 Windows』の上映前日だったみたいだ。
だから今年が不運で大変な一年だったとか言いたいわけではなく、ただ、彼女が生きている間、おれが彼女を好きだったということを知っている人が誰もいなかったので、そういうことがあったんだと、これを読んでくれる誰かの記憶にこびりつけばいいやと思って。
しかし、共編著を出版させていただくわ、千葉のセシウムホットスポット・柏に住む友人の元に第一子が生まれるわ、高校の時の彼女はお母さんになるわ(その子の父親かと一瞬疑われるわ)、ほとんど家もないような状態だわ、安井豊作さんの大著は刊行されるわ、波乱に満ちた一年でした。でも安井さんの出版パーティの様子を目にして、自分たちにもいつかこんな日がやってくるかもしれないと感動したり、お金を貸してくれたりメシを食わせてくれたり優しくしてくれる人もいて、なんとか生きてます。来年はちゃんと生活したいです。
『ソーシャル・ネットワーク』デヴィッド・フィンチャー The Social Network, directed by David Fincher, US |
『ザ・ファイター』デヴィッド・O・ラッセル The Fighter, directed by David O. Russell, US |
『NINIFUNI』真利子哲也 NINIFUNI, directed by Tetsuya Mariko, Japan |
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』バンクシー Exit Thorough the Gift Shop, directed by Banksy, US |
『ザ・ウォード/監禁病棟』ジョン・カーペンター The Ward, directed by John Carpenter, US |
モーション・ピクチャーであるとかCGであるとか、あるいはアニメーションであるとか。生身の俳優の出ていない作品を多く思い浮かべた。そんななか、猿に主演の座をすんなり渡してしまった、(永遠の助演俳優?)ジェームズ・フランコが印象に残った。