瀬田なつきインタヴュー「いまどこにいるのかわからなくなるような体験を」

街中に散らばった5つの劇場、そこで上映される5つの小編。「漂流する映画館」と名付けられたこの企画が、瀬田なつきに監督の依頼を行ったと聞いたとき、これはおもしろいものになるに違いないと思った。街に溢れる音、溢れる彩りを切り取り、重層的に組み上げる瀬田の映画が、さらに現実の都市の風景の中に埋め込まれるとき、きっとそれは魅惑的な体験になるだろうと。それはわかりやすくアミューズメント的な魅力だけではなく、日常的な些細なひっかかりが複雑化していく不思議な体験になるだろうと。
この非常に珍しい企画の、編集作業の最終段階にあった瀬田なつきに話を聞いた。

ーーこの企画に関わるそもそもの経緯を伺えますか。

瀬田なつき 藤原徹平さんから、街中の複数の場所で映画を上映する企画ということで話を伺ったんです。そのときは、観客はイヤホンをつけて歩きながら、映画の中の音を聞きながら街を歩くというようなアイディアもあって、おもしろそうだと思ったんです。 
規模の小さい映画ですから、そういうものならではということでいろんな人を巻き込んで作っていこうという話になって。そこで蓮沼執太さんの話が出たんです。私も蓮沼さんの音楽を聞いたこともあったので、是非一緒にやってもらおうと。

ーー実験的な企画ですよね。

瀬田そもそも映画館ではないところでの上映で、歩き回りながらいろんな場所で見てもらおうというものですからね。なかなかイメージがわきそうでわかないところがありました。街を人が歩いていて、ふとしたところに映像があって、それを目にする。そうした状況は思い浮かべられるんですけど、そこでいったいなにが映っているのが面白いんだろうと。それを最初から最後まで悩んでいました。

ーー5つの短い作品を違う場所でみるという。脚本はどのように考えられたんですか?

瀬田上映形態自体も紆余曲折があって、5つの上映箇所に順番を振って、その通りに見てもらおうとか、あるいはどこからどういう順序で見てもいいようなものにしようとか。自由に見て回れるというのはおもしろいですけど、果たしてそんなものを作れるのかとか。結局はじめの4つのパートはどういう順序で見てもよくて、最後の会場だけ決めて、というものになりました。最後は映画館で、みんなそこに戻ってくるというシチュエーションです。
その他の場所は、カフェとか、あるいは本当に街角だったり、映画を見る環境ではないですから、ストーリーをあまり語ろうとしても伝わってこないだろうなと思っていました。最後に到着する映画館で見るパートで、それまで歩きまわった中で目にした映像がひとつにくっついていくような感じになったらいいなと。実作業的にも、4つのシチュエーションで、4人の俳優さんを1日ひとり撮っていくといいんじゃないかなと思っていました。結局、そのようなスケジュールにはならなかったのですが。

ーー撮影場所もまさに上映場所である黄金町ですね。

瀬田黄金町付近での撮影というのは、黄金町という固有の街を撮るというより、上映される街の風景がスクリーンの中にあったら面白いだろうなというところから考えました。

ーー上映場所は、nitehiというカフェ、クロスストリート、駐車場、日の出ギャラリーの通路、という4カ所ですが、シナリオ段階でどのパートをどこで上映するかというイメージはあったんですか?

瀬田脚本を書いている段階では、なんとなくこのパートはここで、というイメージはありました。でも、途中で入れ替わったりというマイナーチェンジもあって、それでもいいようなゆるいものです。

ーー今回は撮影の佐々木さんが制作進行も兼ねられていて、非常に少人数の現場でしたが、いかがでしたか。

瀬田実際にはプロデューサーとかいなくて、そういう誰かに特にこうしろと言われないというのは、あまりない経験でした。ジャッジを下す人が私の他にいないというのは。脚本にしろ編集にしろ、私がokと言えばokなので、そこは自由と言えばそうですけど、私しか決定する人がいなくて、この選択でほんとにいいのかと、悩むときもありました。

ーー蓮沼さんの関わり方は通常の映画音楽とはひと味違うもののようですが。

瀬田はじめはいろいろとやろうと話していたんですけど、音楽のフィールドレコーディングの仕方と通常の映画の録音の仕方とは、かなり違っていたみたいです。私も詳しく差を知らなかったんですけど、普通CDなどにする音楽で使う音ってコンプレッッサーをかけていて、音域がすごい狭い。映画館という環境が、それを可能にしているのだと思いますが、映画はそのレンジがすごい広いらしいんです。
あらためて映像と音との関係について気づかされたというか、画と音の距離感が違っていたり、実際その場では鳴っていたけど画面には映っていない音が普通になっているとすごく違和感があるんです。

ーー蓮沼さんの仕事はいかがでした?

瀬田仕事の速さと決断力は憧れますよね。私はなにかと、ああすれば良かったかもとかって悩んじゃうんですが、蓮沼さんは物事がすぱっと見えているというか。ぽんと肝心なところを捕まえる力のある人だと思いました。

ーー今回の脚本を拝見させてもらったのですが、はじめの4つのパートではほぼひとりの登場人物がいて、それが最後で絡んでいくというものですね。そこで登場人物をつなぐツールとして鼻歌が出てくる。

瀬田台詞もないし、一本一本は短いお話なので、音とかを付けないとなかなかつながりを付けるのが難しくて。
撮影に入る少し前に、蓮沼さんが鼻歌のデモを作ってくれて。

ーー脚本の鼻歌の箇所に「作詞作曲自分的な歌を歌う」と書いてあってすごいなと思ったんですが(笑)

瀬田中村ゆりかちゃんは、「これってどうすればいいんですか…」と困ってたんですけど(笑)、蓮沼さんのおかげで俳優の方にも安心してもらえました。

ーー時間とか空間を超えて音が物事をつなぐ、というのは『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(11)の冒頭で、染谷将太さんが「ルージュの伝言」を鼻歌で歌うシーンも思い出してしまいます。過去の瀬田さんの作品にも、いまではない時間、ここではない場所というのはいつも鍵になっていますね。

瀬田はじめの4つに関しては、普通に時間軸に沿ってつないでいます。そうして見て回った4つのパートが、最後に謎解きのようなかたちで……、てなったらいいんですけど、逆に謎が増えるかも(笑)。
人や物の関係性というのはこれまでも結構やってきたことで、特に今回の企画や上映形態を生かして、現実にはこうだったけど、もしかしてこんなこともあったかもみたいなことを、面白い形でやれたと思っています。

ーー『5windows』では、現在ではみんなひとりだけど、あり得たかもしれない世界でつながっているというふうにも見えます。

瀬田どうなんでしょう。私の無意識の寂しさの反映なのか……(笑)。
でも、物事は確かにある一点に向かって進んでいて、この時間を受け入れるしかないんだけど、そこに向かう途中にいろいろなシチュエーションがありえたかもしれないじゃないか、みたいなことをついついつけてしまうんですよね。「もしも」みたいなことを。

ーーひとつひとつの話が5分程度ということで、ストーリーにも時間的な制約がありますよね。

瀬田その限られた中でも、反復がずれていくというようなことを意識してやってみたいなと思っていました。同じようなものが続いているようで、ふと違うものが見えてきたり。上映環境も特殊なので、いまどこにいるかよくわかんなくなっちゃうみたいな体験が生まれればいいなと。

ーー作品がこうした特殊な環境で見られるというのは、監督にとってもなかなか予測のつかない部分があると思いますが。

瀬田でも、はじめの4つのパートはほとんど台詞もないので、どんな環境でもなじんで見れると思います。
黄金町を歩きながら見るので、映画の中のあの子がその辺にいるかも、みたいな感じで見えたらいいなと思います。でも撮影は日中で、上映は夜だから、同じ場所でもわからないかもなあ。

ーーまさに映画の内容通りに、現実とちょっと違う現実が隣り合っている体験ができるかもしれないですね。

瀬田そうなってほしいです。どういう体験になるかまだわからないですからね。

瀬田なつき

1979年大阪府生まれ。東京芸術大学大学院映像研究科映画専攻修了。主な監督作に『彼方からの手紙』(2008)、『あとのまつり』(2009)などがある。2011年、自身初のメジャー映画長編作品『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(出演:大政絢、染谷将太)が全国公開された。

取材・構成 結城秀勇