——私は『スーパー!』(2010)や『インビジブル』(2000)、『狼の死刑宣告』(2007)など邪悪な役柄を演じるケヴィン・ベーコンが大好きです。彼はこの『コップ・カー』に製作総指揮も兼ねて出演していますが、本作でも大きく貢献し、物語に奥行きを与えていると思います。ケヴィンとの撮影はどのようなものでしたか。

JW:最高でしたね。とにかくケヴィン・ベーコンという役者は何でもできるんです。どんなクレイジーなことを要求しても、リアルで信憑性のある演技で返してくれる。すごく面白いアイディアもどんどん出てくるし、キャラクターを内から、そして外から完璧に作り上げてくれるから、今回一緒に仕事できたことは本当に夢のようでした。

——本作は子どもたちの家族や、保安官のケヴィン・ベーコンが所属する事務所が映らないことも特徴的です。非常に限られた登場人物でそれぞれの心理と、子どもと大人の状況認識のギャップを描きながら、モノローグやナレーションを用いずに、余分な説明を省いた語り口が見事でした。なぜ彼らの背景を描かないアプローチを取ったのでしょうか。

© Cop Car LLC 2015

JW:それぞれのキャラクターの背景がどうであるかなどに興味がなかったこともあります。映画がはじまるとキャラクターがただ出てきて、そこから起きるストーリーに観客はついていかなければいけない、というシンプルな形を望んでいました。とくにフィムルノワールやジム・トンプスンのようなハードボイルド小説的なアプローチで言うと、物語はすごくシンプルですよね。まばらで贅肉がないような作品の構造になっていて、今回も最初からキャラクターが登場して彼らの背景も描かれなければ、それぞれなぜそうなのかの動機も実は一切描かれていません。それが逆に作り手として楽しいチャレンジになるんじゃないかと思っていたし、結果的にはもともと自分が何度も見てきた夢からはじまった企画でもあるので、そういった資質を持った映画になったと思います。キャラクターそれぞれもくっきりとこういう人だという輪郭があるよりは、輪郭の部分がぼやけているような描き方ができたからこそ、ちょっとマジカルな雰囲気も保てたのではないかと思います。観客がそれぞれに思っていることを投影できる形になっているといいんですが(笑)。

——前作『クラウン』では子どもたちに笑顔を届けるはずのピエロが怪物へと次第に豹変し、『コップ・カー』では治安を守るはずの保安官が陰では殺人に関与しています。あなたの作品を観ていると、人々が善良だと信じ込んでいる存在が、やがて悪魔になっていく点が興味深いです。私たちの価値観の根底にあるものに揺さぶりをかけ、疑いを投げかけるようなキャラクターや設定に関心があるのでしょうか。

© Cop Car LLC 2015

JW:すごく面白い考えだと思います。言い換えれば、世界や周りの人が自分のことをどういう風に見ているのかというアイデンティティと、本来持っている自分のアイデンティティとの差、またそうした試練に出会うことで、さらなるアイデンティティが明かされていく。言ってしまえばどの物語もそうだと言うことができるけれども、とくにキャラクターが保安官という公的な職についている場合など、人々の目を誤魔化しながら自分のあまりよくないアジェンダをさらに押し進めようとしているようなキャラクターを掘り下げていくのは非常に面白味を持っています。ただ悪人というのは、面白いことにおそらく自分が悪人だとは思っていないのだと思います。ただ自分なりのアジェンダがあってそれを追いかけているが、そのアジェンダがよくないものだから悪人になってしまう。そのあたりのことは作り手としては面白いですね。

——2017年公開予定の新『スパイダーマン』の監督を務められますが、『お!バカンス家族』(2015)のジョン・フランシス・デイリーとジョナサン・ゴールドスタインがシナリオを手がけるようですね。コメディ路線のスパイディが見られるのでしょうか。お答えできる範囲で教えてください。

JW:『スパイダーマン』もワクワクするアクション・ドラマになると思います!ユーモアも絶対に込めたいとは思っているし、舞台が高校で少年が大人になっていく成長物語だからそれは当然でしょう。ぎこちなさや思春期ならではの意図しないユーモアを描いていきたい。今までたくさんスパイダーマンは作られてきているからこそ、スパイダーマン映画の規制価値みたいなものを壊していくような新しいものを模索しています。このふたりの脚本家はそういうものを全く恐れないタイプですからね。

取材・構成:常川拓也

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