ディアゴナルの終焉と批評的再評価
ポール・ヴェッキアリとマリー=クロード・トレユー
ディアゴナルでデビューした監督たちはその後ヴェッキアリからは距離を取り、映画作家として独自の道を模索し始める。1983年には、グループのマニフェストとしてオムニバス映画『愛の群島』(L'Archipel des amours)が公開される。最初は映画雑誌を創刊しようとしたがうまくいかず、結局メンバーがそれぞれ愛をテーマとする短編を撮ることになったものだが、マニフェストをあえてつくろうとした時点でディアゴナルの活動は終わっていたとビエットは述べている。1994年のヴェッキアリ監督『ワンダー・ボーイ』(Wonder Boy (De sueur et de sang))が、公式には最後の製作となった。
ディアゴナルの映画は著名な映画祭で国際的な注目を浴びることも、フランス国内での公開時、同時代の他の作家の映画に比べ特別大きく取り上げられることもなかった。映画史的著作でもほとんど無視されてきたと言ってよい。例えば、1990年に出版されたフレディ・ビュアッシュの『70年代フランス映画』には、ディアゴナルの活動に関する言及は全くない。監督で触れられているのはヴェッキアリのみ、しかも、死刑制度の問題を扱った社会派の映画として『マシーン』が名前だけ挙げられているにすぎない(註3)。ミシェル・マリーの定評ある『ヌーヴェル・ヴァーグ、ある芸術的流派』(1997年初版)では、ヌーヴェル・ヴァーグ以後のフランスで例外的な「集団的運動」としてディアゴナルが紹介されているものの、「周縁的」な試みに終わったと結論づけられている(註4)。
ヴェッキアリは1980年代末からはテレビ映画が活動の中心となっていく。1994年の『ワンダー・ボーイ』も撮影時のトラブル──仏独合作映画として企画されたものの、途中でドイツ側の出資者が降りたため妥協を余儀なくされた──を乗り越え、何とか完成に漕ぎつけた作品だった。ディアゴナル出身の監督たちは1990年代以降、若くして次々に他界する。まず、ジェラール・フロ=クターズが1992年に死んだ。彼の脚本家で、『愛の群島』には監督の一人として加わったジャック・ダヴィラ(Jacques Davila)も、その前年に世を去っている。2000年代に入って二人のジャン=クロードが相次いで逝く。ビエットが2003年、ギゲは2005年に亡くなった。
ディアゴナルが映画祭の企画として注目を集め始めるのは、ちょうどこの頃からである。2005年の南仏ガルダンヌ映画祭でのヴェッキアリ特集、2006年のベルフォール映画祭でのディアゴナル特集がその嚆矢だったように思われる。ヴェッキアリも復活を果たす。現在も旺盛な、というより旺盛すぎる創作活動──2010年代に入ってから撮った長編だけでも、その数6本!──を続ける彼の最新作と合わせて、ここ最近は毎年のようにディアゴナル作品を紹介する特集が、パリのアート系映画館で、フランス地方の映画祭で、あるいはニューヨークやロンドンの美術館で、開催されている。
こうしたディアゴナル再評価の遠因となっているのは、1997年に創刊された映画雑誌「ラ・レットル・デュ・シネマ(La Lettre du cinéma)」の批評的言説である。ディアゴナル、特にジャン=クロード・ビエットの映画思想を継承するこの雑誌は、ビエット、ヴェッキアリ、ギゲへのロング・インタヴューを敢行し、彼らへの関心を促した。この雑誌の中心人物で、現在は監督・俳優・批評家として活躍するセルジュ・ボゾン(Serge Bozon)は、「ヌーヴェル・ヴァーグ以後、一つの流派だけがフランス映画史を決定的に特徴づけた。ディアゴナル派である」と書いている(註5)。
ボゾン以外で「ラ・レットル・デュ・シネマ」の批評家出身の監督としては、アクセル・ロペール(Axelle Ropert)、サンドリーヌ・リナルディ(Sandrine Rinaldi)、ジャン=シャルル・フィトゥッシ(Jean-Charles Fitoussi)、ジャン=ポール・シヴェラック(Jean-Paul Civeyrac)、パスカル・ボデ(Pascale Bodet)らがいる。フランス映画の「フランス的なるもの」にとりわけ意識的な彼/彼女らに限らず、国際映画祭に出品される「万博のパヴィリオン」(アクセル・ロペールの言葉)のようなフランス映画、あるいは標準化された「映画祭映画」とは異なる映画を志向する現代フランスの若い世代の監督たちにとって、ディアゴナルの作品と活動は貴重な前例となっている。
【註】
- 3 Freddy Buache, Le Cinéma français des années 70, Paris, Hatier, 1990, p.66.
- 4 Michel Marie, La Nouvelle Vague, une école artistique, Paris, Nathan, 1997, p.113-114.
- 5 Serge Bozon, «Diagonale», catalogue du festival international de Belfort 2006, p.86.