『ヒッチコック/トリュフォー』ケント・ジョーンズ監督 interview
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映画を語る声を撮ること
映画にかかわる書物は数あれど、フランソワ・トリュフォーによって行われたアルフレッド・ヒッチコックへのロング・インタヴューによってつくられた、『映画術』がその最高峰の一冊であることは疑い得ない。そんな本書を、現代アメリカにおける最も優れた映画批評家であるケント・ジョーンズが、まさしく「リメイク」するように手がけた『ヒッチコック/トリュフォー』は、その最良の意味において教育的なフィルムだといえる。映画を見ることとはいかなる行為なのか、映画を見ることと映画を撮ることはどのようにつながりうるのか、そして映画を語る言葉と声にはいかなる可能性が潜在しているのか。本作を手がけたケント・ジョーンズに話を聞く機会を得た。
——『ヒッチコック/トリュフォー』はいったいどのように始まったプロジェクトだったのでしょう。
ケント・ジョーンズ(以下KJ):「ヒッチコックとトリュフォーによる『映画術』の録音テープがあるから、これを使ってドキュメンタリーをつくらないか?」というオファーを受けたのです。これはとても挑戦的で魅力的な仕事だと感じました。私にとって『映画術』は、マニー・ファーバーの『ネガティブ・スペースNegative Space』とともに、読み直すたびにもっとも深い感銘を受ける書物のひとつです。『映画術』を読み直すうちに、『ヒッチコック/トリュフォー』の構成が定まってきました。『映画術』はふたりの映画監督が映画について語り合う本ですから、『ヒッチコック/トリュフォー』ではそこに現在活躍する映画監督たちにも登場してもらい、映画についての議論をもっと大きいものとする必要があると考えたのです。そうした映画監督たちによって発せられた声が、様々なイメージと重なり合うなかでエモーショナルな広がりを漂わせなければならないと考えました。
そのために編集にはとても気を配りました。私はこの映画の編集技師に「『ソーシャル・ネットワーク』(2010)の冒頭で、マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)がwebサイトをつくっているシーンのときのような感覚を与えたい」と伝えたんです。『ソーシャル・ネットワーク』のこのシーンでは、きわめて多くの出来事が同時並行的に起きていますよね。サイト上に名前をインプットする者、それに対してリアクションを起こす人々、彼らとは関係ないような人々がパーティーでガヤガヤと会話している様子……。そうしたさまざまな人々が1秒にも満たないようなショットの連続で紡がれ、その小さな空間が実際の広さ以上の広がりを獲得している。この感覚はもちろん編集の力によってもたらされたものでしょう。この場面のショット数は膨大でそのすべてを記憶することは困難なことですが、しかしあのシーンを見た人なら、少なくともその内のどれかひとつのショットは覚えているはずです。それはまさに編集のリズムによって可能になっていたことです。自分の映画がそうなっているかは私にはわかりませんが、この作品を見た方々がそういう感覚を持ってくれたら嬉しく思いますね。