聖夜。「私も、産んじゃおうかしら」とオカマの妹、佐藤B作が一言。「お前はタラコでも産んでろ」とミヤコ蝶々がこれを一蹴。「たんなる映像」とは、正しい子供を産むことのできなくなった映像の謂いでもある。「不名誉な非嫡出子」たちが、それでもなお、いかがわしいフィクションのなかから沸き上がるとき、我々は涙を留まらせる術など持ち得まい。含恥のメリー・クリスマス。 ――廣瀬純
1983年/87分/シネスコ/カラー
監督:前田陽一
脚本:中島丈博、前田陽一
撮影:長沼六男
出演:中村雅俊、中原理恵、有島一郎、ミヤコ蝶々、川谷拓三
横浜・寿町のドヤ街。300万円を拾った初老の浮浪者が、血の繋がらない赤の他人たちを集めて自分の「家族」を作ってしまう。廣瀬氏曰く「日本のジャン・ルノワール」こと前田陽一が、“素晴らしき放浪者”たちとともに生み出す「家族ごっこ」。有島一郎、ミヤコ蝶々、川谷拓三らの芸達者たちが、家族にまつわるすべての「クリシェ」を演じてゆく、そんな凡庸な悲喜劇から、いつの間にか大きな感動が溢れ出す。ここには映画と「クリシェ」の関係をめぐる重要な秘密が存在しているのだ。『トウキョウソナタ』(08、黒沢清)へと通じよう現代映画の家族の姿は、1983年すでに存在していた。
協力:松竹
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2001年/117分/ヴィスタ/カラー
監督:万田邦敏
脚本:万田珠実、万田邦敏
撮影:芦澤明子
出演:森口瑤子、仲村トオル、松岡俊介、諏訪太朗、三條美紀
現状に何ひとつ不満のないごく平凡な女性。そんな彼女を愛してしまう起業家の成功者。だが彼女が思いを寄せるのはフリーターのダメ男。こうして、まったく別世界の男ふたりとひとりの女性が、典型的な三角関係を作り出す。ここで万田邦敏監督は、カール・Th・ドライヤーや小津安二郎、あるいはロベール・ブレッソンや増村保造を深く呼吸しながら、恋愛映画のさまざまな「クリシェ」に未知なる力を与えてみせる。また今作は初の批評集『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』(港の人)を今年刊行した万田監督の劇場長編デビュー作であると同時に、名キャメラマン芦澤明子をはじめ、素晴らしいスタッフ・キャストに支えられた日本映画史上屈指の恋愛映画である。2001年カンヌ国際映画祭レール・ドール賞とエキュメニック新人賞のダブル受賞。
協力:WOWOW