その中年女性には図書館職員にありがちな嫌味がない。(夏休みをぶり返すような)陽射しが正午前から半袖姿を増やしていた。自分も夏休み中だということに気付いたのは恵比寿駅から写真美術館までの間に青いシャツを腰へ巻き付けた時だ。「アメリカ橋」を横目にしての往復は今週で3度目。「日常と非日常との往復」、これが今のガーデンプレイスのキャッチコピーらしい。「素敵な往復」でもなく「リアルな往復」でもなく「ラディカルな往復」でもなく単なる「往復」。次号の特集で森山大道氏とのインタヴューを企画しているが返事待ちの状態。森山さんいま、N.Y.に滞在中なので。できることを信じ、美術館併設の図書館にて写真集漁りだ、本人の写真集から彼が嘗て捲ったものまで(形容詞が変わろうとも「犬の眼」は変らない、つまり風景が変ろうとも「犬の眼」は変らないと、これは信仰である)。写真集を数時間捲り続ける、日常で人はそんなこと滅多にしない。4時の陽射しはまだ強い。(まるで)疲労を焼き付けるようだ、そう思った。
松井宏