セ、パ両リーグの優勝が決まってしまった現在、プロ野球の最大の話題は、松井秀喜が三冠王を取れるか否かであるらしい。試合の翌朝の新聞では、特別に松井の打撃成績が囲って表記されている。去年のイチローほどではないにせよ、まあそれなりに多くの人の関心を集めてはいるようだ。そういえば、「NUNBER」の最新号松井秀喜特集は、三冠王を取って大リーグへ、という流れを見越したような作りだった。
ところで松井は、三冠王の他に挑戦中の記録がある。昨日の試合で1246試合となったその記録は、連続試合出場記録だ。1246試合は歴代2位タイにあたるらしい。これで9年間、試合に出つづけた計算になる。歴代1位は、もちろん衣笠祥雄の2215試合。松井が日本に残るとして、あと7年間休まずに試合に出つづけないと衣笠の記録には並ばない。大リーグへ行った場合、よほど運が良くない限り、来年もこの記録を継続することは不可能だろう。
スポーツライターの故山際淳司が、衣笠の連続試合出場記録を取材した作品がある(「バットマンに栄冠を」)。あの「江夏の21球」の初出は、「NUNBER」の創刊号だったという事実が象徴的だが、山際淳司の手法は今も「NUNBER」の多くの書き手に継承されている。一つの運動を多角的な視点で検証するその手法は、野球というスポーツを描写するのにもっとも適した手法かもしれない。しかし、現在の「NUNBER」を読むにつけ、その手法の形骸化を感じる。「NUNBER」のサッカー特集がちっとも面白くないのは何故なのか?山際淳司をもう一度読み直すことで、その問題点が浮かび上がるのではないか?「nobody」5号では、スポーツ批評を検証する小特集を組む予定である。
今読み返しても山際淳司の作品は面白い。まったくアクチュアルではないが、読めてしまうし、感動してしまう。現在の松井をテレビで見ると、僕はこんなテキストが頭に浮かぶのだ。
――「記録」にまつわる興奮がやっと静まり、消えていこうとしている。広島市民球場には、前夜の雰囲気を残すものは何一つない。わずかに、クリーナーに吸いこまれずにすんだ紙吹雪が、二つ三つ、グラウンドに落ちている。
6月24日の午後、ユニフォームに着がえた衣笠は、それを踏みしめて、またいつものように、グラウンドに出ていった。――「バットマンに栄光を」
志賀謙太