02.10/01

 

歌舞伎町コマ劇場近く、風俗店に囲まれたビルの2階に「ナルシス」というジャズ喫茶がある。この店は、1964年頃、歌舞伎町内の別の場所にあった。当時20歳、両親の手伝いで店に出ていたママさんによれば、宮島義勇が店の常連で、いつしか彼とともに黒木和雄や小川紳介、鈴木達夫らがやって来るようになり、毎日のように何やら話し合っていたという(“青の会”だ)。20年ほど前に現在の場所に移転してジャズをかけ始め、今では新宿のジャズ喫茶といえばここ、ぐらいに有名な店となって、ジャズ好きの男性を多く集めているらしい。もともとオープンしたのは新宿3丁目、今の新宿文化シネマのビルの裏手で1938年だったそうで、64年という長い歴史を持っている「ナルシス」だが、ママさんは、そんなこともあったっけ、とあっさりしている。「お客さんいないときに、好きなジャズ流しながら歌舞伎町をきくっていうのもなかなかいいものよ」とママさんは言い、大雨なのにちょっと開いている窓から外をのぞいて、女の人が滑ってキャッてこけちゃったわと笑っていた。

内山理与

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