天気が良い日の喫茶店「W」は大きな窓を開け放ちオープンテラスとなる。向いのパチンコ屋の音楽は自動ドアが開く度に音量を増し、遠くからはヨドバシの歌。新宿駅西口と高層ビル街との間(かつては「間」でなかった場所が開発に伴い今こうして「間」と呼ばれてしまう)に「W」はある。今日初めて受けた風は穏やかで、隣の伝票を床に落とした。
そもそも『舞踏会へ向かう3人の農夫』は平川武治さん(モード批評家、nobody第4号にインタヴュ−掲載)に紹介された。ここではザンダーの同名の写真から「物語」が捏造される。写真に写された3人の農夫が名前を与えられ第一次大戦へと巻き込まれる、現代のある男がその写真の調査のプロセスで様々な伝記(ヘンリ−・フォード、サラ・ベルナール等々)に巻き込まれ、自らの過去にも巻き込まれる・・・、つまり「記憶」なる何事かに巻き込まれる。そしてパワーズは書く、「・・・だとすれば記憶とは、消え去った出来事をうしろ向きに取り戻すことだけではなく、前に向けて送りだすことでもあるはずだ。(省略)我々は前向きに思い出す」。(と引用すればいかにもな言葉に聞こえてしまうけど)ここでは記憶が機能でしかないことが延々と語られている。絶えず更新される記憶、だって使われるものなんだから。「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」(森山大道)。続けなさい、自分で自分を騙しながら、ってことだ。
昨日10月1日は戦後最大級の台風でした。
松井宏