いま、新宿紀伊国屋書店の5階でエレヴェーターを降りると、目の前には「こんな時代だからこそ日本を知ろう」コーナーがあって、その隣に「アメリカを知ろう」コーナーがある。アメリカの方に並んでいるのは、E・W・サイードやハンナ・アーレントの本やいまの国際社会におけるアメリカの立場を考える本などであって、日本の棚には『武士道』とか『葉隠』とか『古事記口語訳』とかが並んでいる。「こんな時代だからこそ」知るべき日本というのが、「武士道」とか「四季の自然」といった括弧付きの「日本」へと安易に遡行することだというのは、「こんな時代だからこそ」安易に「アメリカ」を持ちだしてくる合衆国の姿勢と確かに通じるものがあるのかもしれない。とか考えながら帰りに近所の自然食品屋さんに寄ったところ、「在来ナス」なる米ナスよりやや大振りで皮が紫色ではなくて薄黄緑のナスが売っていた。日本の在来種のナスなのだそうだ。簡単にナショナリズムを口にするよりは、どんな味がするか「在来ナス」を口にしてみる方が、建設的かもしれないと思った。
結城秀勇