02.10/23

 

 市ヶ谷の坂を登って、「本とコンピュータ」編集部へ。現在その総合編集長でいらっしゃる津野海太郎さんに雑誌の取材。津野さんは60年代初頭から30年近く晶文社の編集に携わっていらっしゃったのと同時に、劇団黒テントのブレーンのひとりであった方だ。つまり何かと時代の流れの先端に立っていた方というようにも見えるのだが、取材前にその経歴に目を通したり、その著作を読んだりするうちに、御本人にはそのような意識はなく、ただ「小さなメディア」の中に身を置き、その中で黙々と自分の興味や疑問に目を向け続けていただけで、結果的にその活動が大きな流れの源に「なってしまった」ように見えるのではないかというような印象を抱いていた。実際にお会いしてお話を伺っていると、その印象は決して的外れというわけでもなかったようで、御自分の活動を非常に冷静に見ていらっしゃる。例えば黒テントのことにしても、当時からずっと「アングラ」と称されるのに違和感を持っていらっしゃって、自分では少しもその活動がアンダーグラウンドなものであるという意識はなかったのだそうだ。その時代の中に実際に立っていなかった我々からすると、黒テントにしても昔の晶文社のたくさんの名作、植草甚一や片岡義男が関わった雑誌「ワンダーランド」など、いわば伝説的ともいえるものがうまれるところに立ち会った方というふうに見てしまうのだけれど、御本人にはそんな意識は微塵もないみたいで、お話を伺っていながら本当にフットワークの軽い方なのだなあと思った。へたしたら今でも私らなんかより、よっぽどフットワーク軽いのかも……。

黒岩幹子

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