今年の2月に開催された第5回恵比寿映像祭(http://www.yebizo.com/)での、ベン・リヴァース『湖畔の2年間』との出会いは本当に幸福なものだった。森と雪と湖に囲まれた中で暮らすひとりの初老の男性を見つめる90分間。16mmの粒子とコントラストが織りなす映像、そこに被さる音。それらはかつて経験したことのないほど芳醇なものであると同時に、まるで映画という技術が発明されてから現在に至るまでずっとそこに存在し続け、発見されるのを待ち続けていた映像と音であるかのようでもあった。
その興奮も覚めやらぬまま、同映画祭にインスタレーション『Slow Action』(10)の展示とともに来日したベン・リヴァースに話を聞いた。全文は6月中旬発売のnobody isuue 39に掲載予定だが、爆音映画祭2013KAVC CINEMA及び吉祥寺での第6回 爆音映画祭での本作品の上映に合わせて、一部抜粋を先行掲載する。この作品の貴重な上映に、より多くの観客が駆けつけることを願う。
――はじめに、『This Is My Land』(06)で撮影したジェイク・ウィリアムズさんを、再度被写体に選んだ理由、それも初の長編作の被写体として選んだ理由を簡単に説明いただけますか。
Ben Rivers(以下BR)『This Is My Land』 は、僕の作品の中で、なにかしらドキュメンタリー的な要素のある作品、人里離れた環境の中に生きる人々をテーマにした一連の作品の最初のものだった。そうした意味で、ジェイクという人間は僕にとってとても重要な人物、重要なキャラクターだったんだ。彼の存在は『This Is My Land』にとって決定的な要素であり、そのことによって僕の仕事の方法は、その後少し変化することになったからね。映画を通じて僕らは友達になり、それからもずっと連絡を取り合っていた。彼は僕の他のフィルム『I Know Where I'm Going』にも登場している。
そして、誰かが自分の長編映画のためにお金を出してくれるという機会に恵まれたときに、僕が戻っていったのは彼のところだった。僕が撮るべき人々とは誰なのだろうかという問いが、僕を彼のところへまた連れ戻したんだ。もちろん個人的に彼の存在が重要だったということもある。それと同時に、『This Is My Land』はどこか観察的なところ、ちょっと引いて眺めているような、非常に断片的な映画だった。そして僕と彼との間にも距離があった。だからいまならそれとは違った映画が撮れるだろうと思ったんだ。長編にするにあたって、僕と彼との関係をより制御できるようになっただろう、シーンやセットをより演出することができるようになっただろうと。はじめのときに、僕たちは人としてお互いに気持ちよく一緒にいることができたから、今度は僕がもっとうまく演出することもできるだろうと。実際に彼は自分の家でリラックスしていられたし、こちらの指示にもオープンな状態でいてくれた。彼は実際にその場所で生活する本物の人物であり、同時に役柄を演じてもいる。
1972年サマセット生まれ、ロンドン在住。99年より映像制作を始める。2008年には『Ah! Liberty』が、ロッテルダム国際映画祭で短編部門タイガーアワードを受賞。処女長編である『湖畔の2年間』は、2011年の第68回ヴェネツィア国際映画祭で国際批評家連盟賞ほか、多数受賞。『Slow Action』では長崎の軍艦島での撮影も行っている。
『湖畔の2年間』
2011年/16mm/B&W/86分/シネマスコープ/イギリス