特集:モンテ・ヘルマン『果てなき路』

(C) 2011 ROAD TO NOWHERE LLC

モンテ・ヘルマンの最新長編作が公開だ!

その名も『果てなき路』。ROAD TO NOWHERE。まさにこれ以外のタイトルがあり得ただろうか?

という確信。そしてその確信を裏切らない、そのすばらしさ。21年ぶりの新作長編だという事実、全編がキャノンEOS 5D MARKIIで撮影されたという事実、本作がローリー・バードに捧げられているという事実……。そんな、さまざまな驚きと発見に彩られた『果てなき路』。もはや「伝説の」「呪われた」という冠など彼には必要あるまい。『果てなき路』はひとりの強靭な映画作家による傑作であり、そしてまた『断絶』(71)をはじめとした彼の過去の作品に新たな視線を与えてくれる一筋の光であり、闇なのだ。

また本作の公開に合わせ、世界初のモンテ・ヘルマンオリジナルインタヴュー本である『モンテ・ヘルマン語る――悪魔を憐れむ詩』も刊行された。インタヴュアーは元「カイエ・デュ・シネマ」のエマニュエル・ビュルドー。出生から現在まで、処女作『魔の谷』から最新作『果てなき路』、次回作のことまで、そして映画、俳優、演劇、マルガリータ(?)……。ヘルマン自身の口からすべてが語り尽くされた貴重な書物。

そう、とにもかくにも2012年はモンテ・ヘルマンとともにはじまるのだ!

ヴェルマ、ヴェルマ、ヴェルマ 三宅唱

 エンドロールがはじまるや否や「もう1度みたい!」と強烈に思う。シャニン・ソサモン演じるローレル・グラハム=ヴェルマ・デュランがとにかく魅力的でたまらない。彼女を通して、わたしたちは「演技をみる」「俳優をみる」ことが即ち「映画をみる」ことになるような時間をたしかに経験する。ただただ純粋に、彼女をもう1度みたい。

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Drag me to Hellman's “ROAD TO NOWHERE”安田和高

「伝説の映画作家――モンテ・ヘルマン21年ぶりの監督作」ということだが、はじまって観客がまず見るのは、モンテ・ヘルマンではなくミッチェル・ヘイヴンなる若き映画作家の代表作(となったかもしれない)「ROAD TO NOWHERE」である。われわれはヘイヴンの「ヴェルマは物語の扉を開く“窓”だ」という語りと、謎の女ヴェルマに導かれて「果てなき路」へと足を踏み入れる。。

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闇に潜むは悪魔か、へルマン師匠か……
――『悪魔を憐れむ詩』から『果てなき路』へ 松井宏

 モンテ・ヘルマン21年ぶりの新作長編『果てなき路』とは、いったいどのような映画なのか。  

 事実に即して簡単に言えば――もちろん一側面でしかないとはいえ――それは映画づくりに関する映画である。ミッチェル・ヘイヴンというひとりの映画監督とローレル・グラハムというひとりの女優が主人公であり、全編に渡って映画づくり(準備から撮影)の光景が描かれてゆく……。しゃれた言い方をすれば「メタ映画」などと呼ばれもするだろうこの作品。  だが実のところ『果てなき路』は映画に関する映画というより、むしろ役者に関する映画とでも言った方がよい。どのようにひとりの女性が女優になるのか。どのようにひとりの女優が登場人物になるのか。あるいは、どのようにひとりの登場人物がひとりの女優になり、またひとりの女性になるのか……。この作品がおもに描くのは、まさにそれだ。

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『果てなき路』

2011年/121分/カラー/ビスタ/デジタル
監督:モンテ・ヘルマン
脚本:スティーヴン・ゲイドス
撮影:ジョセフ・M・シヴィット
音楽:トム・ラッセル
出演:シャニン・ソサモン、タイ・ルニャン、ウェイロン・ペイン、クリフ・デ・ヤング、ドミニク・スウェイン、ロブ・コラー、ファビオ・テスティ

2012年1月14日(土)渋谷シアター・イメージフォーラムにてロードショー!!
公式HP:http://www.mhellman.com/

あらすじ

将来を期待された若きアメリカ人映画監督ミッチェル・ヘイヴン。彼は、かつてノースカロライナで起こった事件を基にした映画「ROAD TO NOWHERE」の製作にとりかかる。映画の核にもなるヴェルマ役の女優探しから始まった。大物女優、やがてオーディション映像の中からヴェルマ役にぴったりの女優を見つける。早速、ミッチェルは彼女に会いにローマへと向かう。ローマで会ったローレル・グラハムはヴェルマそのものだと確信し、監督ミッチェル・ヘイヴンとローレルは一日にして恋に落ちてしまう。やがて撮影に入ると、撮影を続けていく中で、監督と主演女優の恋は本物の愛へと変わっていく。しかし彼を魅了したローレルの経歴もまた、謎の女ヴェルマと同様に、暗く不可解なものだった。一方で事件の真相を追う保険調査員のブルーノが何かに気づき始める。ある晩、撮影スタッフが滞在するホテルで銃声が響く。実際に起きた事件を追う者、恋に落ちた監督と女優、スタッフたちが、撮影現場でむかえたエンディングとは?

『モンテ・ヘルマン語る――悪魔を憐れむ詩』

モンテ・ヘルマン、エマニュエル・ビュルドー 著
樋口泰人 監修
松井宏 訳
272頁
定価2,940円(本体2,800円)
河出書房新社
2012年1月13日発行