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December 14, 2024

『私の想う国』パトリシオ・グスマン監督インタビュー

積み重なる「歴史=ストーリー」の核

2019年、チリで「社会の爆発」と呼ばれるチリ史上最大規模の社会運動が起こった。新自由主義の実験場とされたチリで降り積もってきた人々の怒りがついに暴発した。『チリの闘い』を代表作として50年以上チリ社会を記録し続けてきたパトリシオ・グスマンはこの出来事に突き動かされ、最新作『私の想う国』を制作する。 今作の日本公開にあわせて、パリ在住のグスマン監督にオンラインでインタビューを行った。監督の体調を考...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:43 PM

December 8, 2024

『うってつけの日』岩崎敢志
結城秀勇

 かつて一緒に暮らしていた昭一(岩崎敢志)が一年ぶりに帰国することで、琴(村上由規乃)が当たり前のように築いてきた生活に綻びが見え始める、というのがだいたいのあらすじと言ってもいいのだと思うのだが、昭一の絶妙にイヤなやつっぷりがものすごい。運転手に「トランク」とだけ言ってタクシーのトランクを開けてもらうとか、ほんとこんなやつとは友達になれん、と思うのだが、そんな人物を監督自身が演じ、その元恋人であ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:18 PM

November 30, 2024

『ヒットマン』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

 早稲田松竹で『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』と『フォールガイ』と併せての三本立て。もちろんこれら3本が登場人物たちが虚構と現実の狭間で奔走するコメディ三本立てなのはあらすじから誰もがわかることなのだけれど、その表面的な物語以上に、2024年のアメリカ合衆国大統領選挙(及び日本在住の人間にとっては兵庫県知事選)の後に見るなら、楽しく見終わった後にひとつの思いが浮かび上がってくるのを止められない。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:31 AM

November 12, 2024

『HAPPYEND』空音央
金在源

 今年の9月、イタリアで開催されたヴェネツィア国際映画祭において本作『HAPPYEND』のワールドプレミア上映が行われた。上映後には監督である空音央がパレスチナの伝統的なスカーフ「ケフィエ」と連帯を示すワッペンをつけて登壇したことが話題になっており、私も気に留めていた作品の一つであった。  衆議院議員選挙の投開票日、選挙権を持っていない私はSNSで開票速報についての話題が飛び交うのを横目に、本作を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:37 PM

November 10, 2024

『灼熱の体の記憶』アントネラ・スダサッシ・フルニス
浅井美咲

 『灼熱の体の記憶』は、コスタリカに住む60~70代の女性たちが、自らの人生を振り返り、また今の自分を見つめながら、自らの性とどう向き合ってきたか、何に苛まれ、何を欲してきたのかを語る作品だ。しかし、彼女たちは匿名を希望したために、映像自体は少女期、若年期、老年期(現在)など時期に分けて俳優が演じており、複数人の女性たちによるヴォイスオーヴァーが背後に流れる構成になっている。すなわち、ストーリーは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:48 AM

November 1, 2024

『SUPER HAPPY FOREVER』五十嵐耕平
三浦光彦

 クラブ帰り、小腹を満たすためにコンビニで買って食べたカップラーメンがおいしいと思えるだけで、「永遠にずっとめちゃくちゃ幸せ」なはずなのに、そんな「当たり前のこと」を「SUPER HAPPY FOREVER」とか英語に翻訳(=交換)して、余剰価値を発生させているのがムカつく。だから、その余剰で生まれた金色の指輪を佐野は映画のフレームとフレームのあいだに捨ててしまったのだろう。  佐野は古着屋のまえ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:31 PM

『ボーガンクロック』ベン・リヴァース
結城秀勇

 夜道でトレーラーハウスを引いてきた自動車が止まり、運転していた男は、なにかものを探してでもいるかのように鼻歌を歌いながら後ろのトレーラーハウスへ入っていく。しばし懐中電灯の光が動いているのが見えるが、彼がなにをしていたのかは誰にもわからない。そのまま眠りについたのだろうか。その男=ジェイク・ウィリアムズこそがこの映画の主たる登場人物である。そして観客は、彼が鳥肉をさばき調理し、山を散策し、ひと休...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:21 AM

October 30, 2024

『監督のクセから読み解く名作映画解剖図鑑』廣瀬純
結城秀勇

 10年ほど前、廣瀬さんと「シネ俳句」で世界進出を企てたことがあった。「シネ俳句」とは、ある一本の映画のある場面(ここが重要、あらすじや感想を書くわけじゃない)を5・7・5で記すものである。だが、自分で提唱しておきながら一句も「シネ俳句」を詠まない宗匠・廣瀬に向かって、不肖の曾良たる私・結城は、ある日次のように問うたのだった。「俳句だと季語とか必要ですし、川柳とか短歌のほうが気が楽じゃないですか」...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:22 AM

October 20, 2024

『グレース』イリヤ・ポヴォロツキー
池田百花

 この映画で最初に十代半ばの少女と父親がひとつのフレームに収まるとき、娘が初めて父に放ったのは「汚いよ」という言葉ではなかったか。それは、その直前に経血で汚れた下着を川で洗っていた自分自身を指して発せられた言葉にも聞こえるし、放浪を続けているふたりの生活の場であるキャンピングカーのなかで娼婦のような女性と関係を持った後、外で待つ自分を迎えにやって来た父に対して吐かれた言葉にも聞こえる。名前すら与...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:31 PM

October 13, 2024

『ピアニストを待ちながら』七里圭
結城秀勇

 昨年、45分版を見たときの文章を、「登場人物たちの会話にいきなり挟まれるジャンプカットや、カット間の「性急な」とも思えるつなぎ、そうした「待つ」こととは正反対にも思える方法でこの作品が構築されていること」について機会を改めて書きたい、と結んだのだが、どうもその約束を果たせそうにない。というのも、60分版を見た印象が45分版とはぜんぜん違っていたからであり、かといって「性急な」という印象を与えた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:06 PM

October 11, 2024

『プロミス』ジャスティーン・シャビロ、B.Z.ゴールドバーグ
金在源

 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への侵攻が始まって1年が経過した。ガザ地区での死者は4万人を超え、侵略と虐殺が止まる気配はない。イスラエルとパレスチナの問題はこの1年間で始まったものではない。2001年に制作されたドキュメンタリー映画『プロミス』はイスラエル、パレスチナの双方に住む人々の暮らしや生活環境、そして彼らの思想を形成している歴史を学ぶうえでも重要な作品である。そして、制作から2...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:35 PM

September 20, 2024

『満月、世界』塚田万理奈
鈴木史

『満月、世界』(9月21日(土)よりユーロスペース他全国順次公開)  自身の影のように見えた年長の女性がどこかにいるのではないかと思える街の雑踏に背を向けて去ってゆく聡子(堀春菜)と、これから働きに出る人も多くいるであろう、やや暗くなり始めた夕暮れの新宿の空を映して幕を下ろす『空(カラ)の味』(2016)から8年。監督の塚田万理奈は、成長する子どもたちを10年がかりで16mmフィルムにおさめる長...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:01 PM

『満月、世界』塚田万理奈監督インタヴュー「本物の人間たちに、書かれた物語が少しずつ負けていって、現実に近づいていったらいい」

 年齢の離れたふたりの女性の関係性の変化を描いて幕を閉じた前作『空(カラ)の味』(2016)から8年。監督の塚田万理奈は、成長する子供たちを10年がかりで16mmフィルムにおさめる長編第2作『刻』を今も撮影中だ。そのプロジェクトの折り返し地点として公開されるのが、「満月」(みつき)と「世界」という2本の短編をおさめた本作『満月、世界』(2023)だ。 『空(カラ)の味』では、子供の視点から年長の女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:00 PM

September 13, 2024

【後編】『石がある』太田達成監督、出演・加納土インタビュー「夜と昼の間で」

 大きな水門にぶつかることで、ふたりはそれ以上先に進めなくなる。そのときはじめて、「どこに向かっているのか」がふたりの間で問題になる。行きはよいよい帰りはこわい。日が傾き近づいてくる夜と、ふたりのそれから。(前編はこちら) ーー枝一本からなにかが生まれたという話と、直後の場面で小川さんが約束の場所に行かずに川を去ろうとする場面はどこか対照的なような気がします。あのとき彼女はiPhoneを取り出しま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:05 PM

September 6, 2024

【前編】『石がある』太田達成監督、出演・加納土インタビュー「川と岸の間で」

 「なにもない」旅先で、見知らぬ誰かに出会う。ただの石、ただの枝と呼ぶほかないものが、それでもそれだけが持つ特徴によって、無数の石や枝の中でも特別なものになる。でもだからといって、この出会いが恋や愛と呼ばれなければいけないわけじゃない。無名なものと有名なもの、川と岸、ありふれたものとスペシャルなもの、それらの境目を『石がある』は漂い続ける。  順撮りでふたりの川辺の行程をたどるように撮影されたとい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:08 PM

September 3, 2024

『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』マルコ・ベロッキオ
中村修七

 マルコ・ベロッキオの『夜よ、こんにちは』(2003、以下『夜よ』)と『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』(2022、以下『夜の外側』)は、どのような関係にあるか。また、『夜の外側』の冒頭のシーンをどのように捉えるか。こうしたことについて少し書いてみたい。  『夜よ』と『夜の外側』は、1978年3月に起きた赤い旅団によるアルド・モーロ元首相誘拐事件を共に題材としている。両作の差異としては、も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:14 PM

August 28, 2024

『雪』ジュリエット・ベルト、ジャン=アンリ・ロジェ
結城秀勇

 ステージ上でチューニングのためにボロンボロンと音を出していたベースとギターがいつのまにかジャムりはじめていて、ステージを離れてこのクラブハウスの店内を映し出していたカメラのフレームの中に階下から階段を上ってくるサックスが入り込むときには、すでにそこにまぎれもないひとつの曲があってそれがすごくかっこいい(そして移動を続けるカメラのフレームからサックスの姿が消えるとともに急激に曲がテンポアップするの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 PM

August 16, 2024

『フォールガイ』デヴィッド・リーチ
千浦僚

 いまの時期、夏休みにふさわしい楽しい映画だと思う!  スタントマンが巻き込まれた事件に持ち前のアクション能力で立ち向かう。わかりやすい娯楽活劇で、良い意味での軽みがあるのだ。  その軽みの由来はキャスティングからくるメタフィクションぽさかもしれない。  本作でスタント野郎を演じるライアン・ゴズリングはなんといっても『ドライヴ』(2011年 監督ニコラス・ウィンディング・レフン、脚本ホセイン・アミ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 PM

August 6, 2024

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』グレッグ・バーランティ
結城秀勇

 この映画を見た直後でも、月面着陸機イーグルは着陸のときに燃料使い切ったのにどうやって司令船に戻ったの?やっぱ実はフェイクじゃねえのアポロ11号?みたいな思いもどこかに残らなくはないのだが(ChatGPTによると、イーグルは上部下部の二段構造になっていて、燃料を使い果たしたのは降下ステージで、それを切り離して上昇ステージだけで司令船に合流したとのこと)、なんかこの映画はそこがいいというか、別に真実...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:02 AM

July 16, 2024

『朝の火』広田智大
結城秀勇

 新しい元号についてのくだくだしい説明がラジオから流れる。天皇という存在の生き死にに関係なく進められる事務的な改号の空疎さがその声から伝わってくるし、本来より前倒しにされた仮想的な死によるはずのその手続きは、来るべき事態を先取りした機敏な対応というよりも、むしろ愚鈍なほどなにかが決定的に手遅れだという感じがする。その感じは、それを伝えるラジオのかたちが、終わりを告げる平成にも、やってくる令和にもま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:23 PM

July 15, 2024

『ブルー きみは大丈夫』ジョン・クラシンスキー
鈴木史

 祖母の住むマンションの一室に足を踏み入れる12歳のビー(ケイリー・フレミング)を真正面からとらえていたカメラは、カットが変わると律儀にも彼女の左側に回り込み、その怒り肩でわずかに猫背な、子どもと大人の境目にいる身体を映し出している。彼女の怒り肩に、ある不思議さを伴った親近感を持ってスクリーンを眺めていると、今度はビーの背後にまたぞろ律儀にカメラは回り込んでいる。本作がすでに4本目の長編監督作とな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 PM

July 12, 2024

『フェラーリ』マイケル・マン                        
堅田諒

『フェラーリ』鑑賞後におぼえた違和感を率直に記せば、「画面上の人物たちがいったい人間であったのかどうか確信が持てない」、「この映画の世界の人物たちが実在性を持って存在していたのかどうか自信が持てない」というものであった。私が感じたこの違和感は一体どこからきているのだろうか。以下では、この違和感をむしろポジティヴなものとして捉え、本作に対して肯定的な評価を与えたいのだが、その一つの手がかりは、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 AM

July 7, 2024

『南』シャンタル・アケルマン
結城秀勇

 本作終盤に置かれたインタビューの、白人至上主義カルトのメンバーは「旧約聖書に書かれた"ユダヤ人"の文字を"白人"に置き換えていると考えるとわかりやすい」というフレーズは、おそらくこの作品の制作当時よりも2024年のいま見る我々にこそ、身の毛もよだつような恐怖を与えるし、なんなら「わかりづらい」。イスラエル政府の所業に反対する"ユダヤ人"が"反ユダヤ的"という烙印を押されるこの現在においては。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:58 PM

July 6, 2024

『蛇の道』黒沢清
吉澤華乃

 冒頭、白色の建築物に囲まれた石畳に立ち、カメラに背を向け遠くを見つめている新島小夜子(柴咲コウ)。彼女を見下ろすように構えられていたカメラがクレーンによって徐々に人間のアイ・レベルまで下がってきたとき、フレーム内にピタッと小夜子を捉える。このように『蛇の道』は、滑らかなカメラワークとフレーム内に捉えられた人物の所在を以て始まる。ただしこの物語は、カメラと人物(あるいは事物)とのある一定の距離を保...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 AM

July 5, 2024

『クイーン・オブ・ダイヤモンド』ニナ・メンケス
芳賀祥平

 血のように真っ赤なネイル、カード台の前で腕組みをして佇む女性、その女性が半裸の状態で寝たきりの老人を介護する。固定のカメラは冒頭からラスベガスで生活するフィルダウス(ティンカ・メンケス)を映し出し、それに続いて、外壁が赤と緑の平家、地面から多方向に伸びる植物、磔にされたキリストを逆さにして運ぶカーニバルの人々といった、彼女の生活を囲う風景が美しい画面構成で捉えられる。映画全体を通して主観を排した...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:43 PM

July 1, 2024

『アイアンクロー』ショーン・ダーキン
結城秀勇

 ただの「肉の指」に過ぎないものを「鉄の爪」だと言い張り、あたかも本当に「鉄の爪」であるかのように振る舞う。それこそが言わば、プロレスの矜持そのものなのかもしれず、だからこそ元祖「アイアンクロー」フリッツ・フォン・エリック(ホルト・マッキャラニー)は、何度も何度も息子たち「フォン・エリック・ファミリー」に「proud」という言葉を投げかけるのだろう。  しかし、兄弟の中で最年長であるケビン(ザック...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:27 AM

June 29, 2024

『オルメイヤーの阿房宮』シャンタル・アケルマン
千浦僚

 2015年に世を去った監督シャンタル・アケルマンの最後の長編劇映画『オルメイヤーの阿房宮』(2011年)は、シャンタル・アケルマンが現代映画を代表する優れた監督であることをあらためて感じさせる見事な映画だ。  原作はジョセフ・コンラッド(1857〜1924)。ロシア、オーストリア、プロシアに分割支配されていた国家なきポーランドにルーツを持ち、独立運動に関わった父とともに幼少期は流刑地に送られ、1...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:50 PM

June 14, 2024

倫理的な映像とはなにか
梅本健司

 他人には見せるつもりがない登場人物たちの表情が随所で捉えられている。山添くんが部屋でひとりでいるときの顔、藤沢さんの耐えている顔、栗田社長や辻本の泣きそうな顔。そうした顔たちはカメラで不意に抜かれてしまうことはなく、常に流れのなかで見えてくるように演出されている。  辻本の泣き顔は元部下である山添くんが移動式プラネタリウムについて語る流れのなかで見せられる。役というよりも演じる松村北斗自身の癖...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:58 PM

June 8, 2024

『マッドマックス:フュリオサ』ジョージ・ミラー
金在源

「暴かれた男性性を私たちは受け止められるだろうか」 熱狂できない私  ジョージ・ミラーによる『マッドマックス 怒りのデス・ロード(以下:『怒りのデス・ロード』)』の前日譚にあたる『マッドマックス:フュリオサ』が公開された。『怒りのデス・ロード』では軍隊の大隊長フュリオサが独裁者であるイモータン・ジョーのもとから、彼の子を産むことを強要された女性たちを連れ、フュリオサの生まれ故郷である緑の地を目指し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:03 AM

June 7, 2024

『違国日記』瀬田なつき
結城秀勇

 「あなたを愛せるかどうかはわからない」。心底憎んだ姉の娘であり、交通事故で両親を失い孤児となった朝(早瀬憩)を自分の家に引き取ろうと決意する葬儀場の場面で、槙生(新垣結衣)はそう言う。原作漫画のシャープな描線を彷彿とさせるメイクの槙生と、ショートボブで全体的に小さくくりっとした朝の顔(そう、瀬田なつき作品の主人公と言われて微塵の違和感もないような)とが、真正面の切り返しで並ぶ。年齢が20歳離れた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 AM

June 2, 2024

『夜明けのすべて』三宅唱
結城秀勇

 母親の住む家のある小さな駅に降り立った藤沢さん(上白石萌音)が改札を出てくるときに、彼女の方向に向かってずっと手を振っている老夫婦がいるので、なんだ藤沢さんめっちゃ歓迎されてるな、と思ったが、藤沢さんはそのまま彼らの横を荷物を引きずりながら通り過ぎるので、老夫婦が到着を待ち望んでいたのは藤沢さんではなくて、彼女の後ろにいた幼い子供を連れた親子なのだということがわかる。だからなんだ、というただそれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 AM

May 27, 2024

第77回カンヌ国際映画祭報告(4)ファブリス・アラーニョ インタビュー《後編》
槻舘南菜子

インタビュー《前編》はこちら ーージャン=リュック・ゴダールは、常に新しいテクノロジーに関心を持ってきました。たとえば、彼に強い影響を受けたフィリップ・ガレル監督は、フィルムでしか映画を撮りません。ゴダールは、自分の映画を変化させ続けること、そして、結果として映画の定義そのものを変化させました。彼のテクノロジーへの関心についてどう思いますか。 私はあなたからの影響もあるのではないかと思っています。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:02 PM

第77回カンヌ国際映画祭報告(3)ダフネ・ヘレタキス インタビュー
槻舘南菜子

カンヌ国際映画祭には、四つの短編部門が存在する。公式部門には、コンペティションと学生映画(Le Cinef)部門 、そして、併行部門である監督週間短編部門(ノンコンペティティブ)と批評家週間短編部門(コンペティション+特別上映)である。とりわけ公式部門と批評家週間部門のコンペティションにノミネートすることは、ヨーロッパを出自にするか否かに関わらず、初長編を製作するに当たっての大きな飛躍となる。なか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 PM

May 26, 2024

本読みと鹿――濱口竜介『悪は存在しない』をめぐって
角井誠

 冒頭、木立を真下から仰角でとらえた見事なトラベリングショットと、青いニット帽とダウンの少女のショットに続いて、一心不乱にチェーンソーで木を切る男がとらえられる。『悪は存在しない』の主人公と言ってよいであろう、この安村巧(大美賀均)なる男は一体何者なのか。この映画の不気味さと魅力の一端は、やはりこの主人公――と、その娘の花(西川玲)――の得体の知れなさにあるように思う。  ごく単純に、この二人が何...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:52 PM

May 25, 2024

『ゴースト・トロピック』バス・ドゥヴォス
二井梓緒

©︎ Quetzalcoatl, 10.80 films, Minds Meet production フィルムで撮影されたブリュッセル郊外の夜景は心地よく、静かな環境音とそれを決して邪魔しない音楽は観客を落ち着かせ、作品に没入させる。映画館で見ることにぴったりな作品だと思う。  清掃の仕事を終え、いつも通りに列車に乗るが、気づいたら終電まで寝過ごしてしまう中年の女性ハディージャ。彼女は娘に電...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:44 PM

May 24, 2024

『美しき仕事』クレール・ドゥニ
池田百花

 かつてアフリカのジブチで外国人部隊の上級曹長を務めていたガルー(ドニ・ラヴァン)は、フランスの自宅で回想録を書いている。彼自身の声によってそれが静かに読み上げられると、画面には、当時彼が指導していた部隊の兵士たちが日々の訓練をする様子が映し出されていくのだが、そこで彼らがまとっている白いユニフォームは、緑がかった青い空や海の背景とコントラストをなすと同時に、こうしたアフリカの大地の色の反射で輝い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 PM

May 20, 2024

第77回カンヌ国際映画祭報告(2)ファブリス・アラーニョ インタビュー《前編》
槻舘南菜子

ファブリス・アラーニョは、長年ジャン=リュック・ゴダールの右腕としてサポートを続け、終着点となる作品『Scnéarios』は、生前のゴダールによる詳細な指示のもと、彼の手によって完成した。自身も映画作家であり、ゴダール作品をインスタレーションという形で、別の「生」を与えることを使命としている彼の言葉を聞いた。 ーーあなたは20年来、ジャン=リュック・ゴダールと共犯関係にあり、アシスタントを務めてき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:22 PM

May 18, 2024

第77回カンヌ国際映画祭報告(1)ミトラ・ファラハニ インタビュー

「芸術」という言葉に身を委ねて

槻舘南菜子

ジャン=リュック・ゴダールが残した最後の作品となる『Scnénarios』が、公式部門カンヌクラシックにて上映された。 『イメージの本』の危機を救い、『A Vendredi Robinson』で我々の知らないゴダールの姿を捉え、そして、彼の終着点まで寄り添った、ミトラ・ファラハニに話を聞いた。 ――監督やプロデューサーになる前に、あなたはまず第一に画家でしたね。映画制作であり、製作(特に監督)を始...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:00 AM

May 14, 2024

『マグダレーナ・ヴィラガ』ニナ・メンケス
浅井美咲

©1986 Nina Menkes ©2024 Arbelos  『マグダレーナ・ヴィラガ』では、娼婦であるアイダ(ティンカ・メンケス)が仕事をするシーン、すなわち行きずりの男とセックスをするシーンが幾度となく挿入されるが、アイダは男を誘惑するような素振りを一切見せない。男をホテルの一室に招き入れた後、彼らの顔を見ることもなければ自ら服を脱ぐこともなく、いかなる甘い言葉をかけることもない。部屋に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 PM

May 11, 2024

『走れない人の走り方』蘇鈺淳
白浜哲

この映画の中で、主人公の桐子(山本奈衣瑠)は幾度となく空を仰ぐ。上の空でいるというよりは、どこからか流れてくる風や光を浴びているのか。それとも向こうからやってくる何かを見つめているのか。彼女が空を仰ぐたしかな理由ははっきりとわからないが、そのさまをどれだけ見つめていても見飽きることはない。ただ、そんな桐子はひとつの映画をつくり上げるために、まるで映画を撮影するカメラのようにして目の前に広がる世界へ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:41 PM

April 30, 2024

『ガザ=ストロフ -パレスチナの吟(うた)-』サミール・アブダラ、ケリディン・マブルーク
中村修七

 2008年12月28日からイスラエル軍によるガザへの軍事攻撃が始まり、この攻撃は翌2009年1月18日まで続いた。イスラエル軍による空爆の続く2009年1月1日に、ガザに暮らすある人物は世界に向けて次のように発信していた。「死がガザを覆い尽くしている。嘆きと哀しみが2009年という新年の挨拶なのだ。/血と大量の死体の匂いがする! 毎分のように悪い知らせが新たに届く。(中略)どこに行けばいいのか、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:59 PM

April 27, 2024

『ラジオ下神⽩ーあのとき あのまちの⾳楽から いまここへ』小森はるか
結城秀勇

© KOMORI Haruka + Radio Shimo-Kajiro  山形国際ドキュメンタリー映画祭2023でこの作品を見たときの記憶では、カラオケシーンが多いこの映画で、カラオケだけではなく歌手本人の歌うバージョンもラジオとしてチラッと流れる気がしていた。美空ひばりの「愛燦燦」や加山雄三の「君といつまでも」が部分的に流れていた気がしたのだが、見直したらそんなことはなかった。さらに山口百恵...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

『ラジオ下神⽩ーあのとき あのまちの⾳楽から いまここへ』小森はるか監督インタビュー「贈る歌⇄受け取る歌」

 2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故によって、浪江・双葉・大熊・富岡町から避難してきた方々が暮らす下神白団地。そこに住む人々に、かつて暮らしたまちの思い出を語ってもらい、当時聞いた曲とともにラジオ番組風のCDにして配布するのが「ラジオ下神白」というプロジェクトだ。  その活動風景を記録したのが映画『ラジオ下神⽩ーあのとき あのまちの⾳楽から いまここへ』である。ではあるのだが、この映画に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:59 AM

April 21, 2024

『ヒノサト』飯岡幸子
結城秀勇

 これからこの映画を見ようとする人に、この作品は、監督の祖父である飯岡修の絵画が所蔵された場所を巡り、そこに彼の日記の一節が引用されるというつくりになっている、ということを前もって伝えるべきなのかどうかがよくわからない。なにも知らずに見てもタッチのよく似た何枚かの少女の肖像を見ていれば自然とひとりの画家を追っていることはわかると思うし、逆にあらかじめそれを知っていたとしても、日付もコンテクストも欠...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:13 PM

April 14, 2024

ダニエル・シュミット『デ ジャ ヴュ』デジタルリマスター版
山田剛志

 映画は、主人公であるジャーナリスト・クリストフが男と並んで、過去のニュースフィルムを見るシーンから幕を開ける。トップシーンを構成するのは次の3つの映像である。17世紀スイスの革命家・イェナチュの肖像画と亡骸、彼の墓を発掘した人類学者トブラーの姿を捉えたスタンダードサイズのモノクロ映像。横並びになった二人の男が画面外に視線を注ぐヨーロピアンヴィスタサイズのカラー映像。持続する音声(トブラーの語り)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:16 AM

April 13, 2024

『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン
三浦光彦

 クリストファー・ノーランの作劇は常に「誰が物語作者になりうるのか」を巡るゲームとして展開され、このプロットの組み立て方は初期から『オッペンハイマー』まで基本的には一貫している。複数の軸を用意した上でそれぞれの軸に作者を用意し、各々による物語の奪い合いによって映画を駆動させる。並行モンタージュや時間軸の錯綜といったノーランの代名詞的な編集はそのようなプロット構築から必然的に要請される手法であった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:20 PM

April 2, 2024

『ファースト・カウ』ケリー・ライカート
結城秀勇

 ただのネタバレでしかないです。見てから読んでください。  ここで書きたいことをひとことで言えば、この映画のラストカットが冒頭の骨発見につながる理由がまったくわからなくて、そこにとにかく感動した、ということだけだ。  クッキーがあのまま眠るように死んだというのは百歩譲ってわかるにしても、キング・ルーは外部の干渉なしでそのまま安らかに死んだりはしないだろと思うのだ。いやもちろん、あのこれ見よがしに登...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:47 PM

March 7, 2024

『落下の解剖学』ジュスティーヌ・トリエ
梅本健司

  男の転落死は自殺なのか、事故なのか、妻による殺人なのか。『落下の解剖学』は事件のはじめから、妻に対して行われる裁判の終わりまでを見せつつ、真実を明かすことはない。法の下では完全に到達することができない真実よりも、夫婦や親子の関係に潜む不均衡や無理解こそをこの映画は描いていくのだ。しかし、だからといって事件の真相が重要でないわけではない。それぞれの関係はまさに事件の解釈をめぐって浮かび上がってく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:35 PM

February 29, 2024

『瞳をとじて』ビクトル・エリセ
中村修七

 何しろビクトル・エリセの31年ぶりの新作長編なのだからと心して劇場に足を運び、上映が始まって10分も経たないあたりだと思うが、スクリーンを見ていて何やら奇妙だぞと感じていた。それは、映画内映画『別れのまなざし』において、撮影途中で失踪した俳優フリオの演じる男が老齢の男と会話するシーンでのことだ。背の低いテーブルを挟んで2人の人物が向かい合うショットが繋げられているのだが、老齢の男が正面よりやや右...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:59 PM

February 28, 2024

『作家主義以後 映画批評を再定義する』須藤健太郎
鈴木史

   本書ほど、書き手の揺らぎを隠そうとしない映画批評の書籍も珍しい。 『作家主義以後――映画批評を再定義する』には、2017年から2023年の半ばにかけて著者・須藤健太郎により多様な媒体へ寄稿された映画評のほか、講演録や対談が収録されている。本書での須藤は映画を語るにあたって自身の戸惑いや不安を隠すことがない。しかしそれらの戸惑いや不安は須藤の判断によってそこに残され、読者の前に示されてもいる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:13 PM

February 26, 2024

『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー』ジャック・リヴェット
結城秀勇

 この作品の舞台であり、原題の一部ともなっているピク・サン・ルーという山には伝説があるのだという。三兄弟がひとりの女を愛し、しかし彼女が愛しているのが三人のうち誰なのかを聞くことがないまま、兄弟たちは十字軍に従軍することになる。やがて戦場から戻った彼らを待っていたのは、最愛の女性の死の知らせだった。三兄弟は隠者となり、それぞれモン・サン・ギラル、モン・サン・クレール、ピク・サン・ルーと後に呼ばれる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:45 PM

February 23, 2024

『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』セルジュ・ゲンズブール
千浦僚

 相当な映画である。エグくて下卑ていて、それと同時にかっこよく、天上の真善美と純粋なエモーションがある。  よくもまあこのキツい一発を文化ファッションアイテムふうに流通させていたものだ。1976年の映画だが日本初公開は83年、リバイバルされたのが1995年だった。筆者がリアルタイムに記憶し・鑑賞したのは95年のほう。その頃そしてそれ以降もふとカジュアルに、『ジュ・テーム〜』いいよね〜、みたいなおし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:33 PM

February 22, 2024

『熱のあとに』山本英
松田春樹

 階段を駆け下りる女の足元から映画は始まる。その足元は半ズボンにサンダルで、部屋着で飛び出してきたままの勢いであることが分かる。次のショットでは、下着姿の金髪の男がエントランスの床に血塗れで横たわっている。奥の扉が開くと、そこから階段を駆け下りてきた女が現れる。フルサイズであらわになる女の白いTシャツは血に赤く染まっており、この二人の男女の間に一体何が起きたのか、明確なことはすぐには分からない。女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:00 PM

February 5, 2024

『熱のあとに』山本英監督インタビュー

「生きること、愛することが地続きにあるように」

『小さな声で囁いて』の山本英による新作『熱のあとに』が公開されている。本作は実際の事件を元にしたオリジナル作品であり、橋本愛演じる主人公の沙苗を中心とした「愛」を巡るフィルムだ。彼女の抱く愛とは、けっして一概に理解できるものではないかもしれない。しかし、私たちが生きる現在を振り返った今、自然に芽生え、また素直に訴えかけられてくるものとして見る者を鋭く惹きつけることになるだろう。脚本のプロセスを始め...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:14 AM

February 3, 2024

『女性として生きること』『都会の名もなき者たち』他 チェチリア・マンジーニ
結城秀勇

 『都会の名もなき者たち』『ステンダリ 鐘はまだ鳴っている』『マラーネの歌』という3本のピエル・パオロ・パゾリーニがテキストを担当した短編を見ていて、あれ、テキストが語ってることと映像が語ってること、なんかすげえ違うぞ、と思った。  たとえば、『都会の名もなき者たち』。テキストは、社会構造から必然的に生み出された「恐るべき子供」たる不良少年たちだが、しかしながら彼らの中には優しさと残酷さ、無謀さと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:35 PM

January 30, 2024

『マハゴニー(フィルム#18)』ハリー・スミス
結城秀勇

 ニューヨークの街角、人物の肖像、あやとり、草木や水、ウイスキーの瓶や骸骨や六芒星やダンサーやインドの神々のアニメーション、色とりどりの砂や粉や積み木や液体が織りなす図形。そうしたものたちが2×2の四つの画面に配置されていく。左右並んで鏡像のように反転した景色が同時に提示されたかと思えば、上下に並んだ映像がものすごく生理的に心地よいリズムのずれをともなって反復したりもする(たとえば、上の画面でバン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:06 PM

January 25, 2024

『ある方法で』サラ・ゴメス
新谷和輝

 キューバの映画作家サラ・ゴメスが亡くなって今年で50年が経つ。31歳で夭折した彼女の生涯とそのフィルモグラフィは、キューバ革命がもっとも若く溌剌としていた時期と重なる。激変する社会の中で彼女は革命の陰日向を行き来し、忘却されそうな周縁部に生きる人々とその世界を追い続けた。  サラ・ゴメスとはどんな人物だったのか。アニエス・ヴァルダの『キューバのみなさん、こんにちは』(1963)を見た人なら、映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:05 PM

December 28, 2023

『ショーイング・アップ』ケリー・ライカート
結城秀勇

 夜、愛猫リッキーが窓の隙間から入り込んできた鳩をおもちゃにして、羽根を散らばらせて床に横たわるその鳩を、リジー(ミシェル・ウィリアムズ)は箒とちりとりで窓の外に捨ててつぶやく。「どこか他の場所で死んで」。そして窓を閉めすぐさまこう続ける。「私って最低ね」。  翌日、隣人のジョー(ホン・チャウ)がその鳩を救出し、居合わせたリジーも否応なしに巻き込まれて、ふたりは鳩の骨折の手当をする。自分が留守の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:24 AM

December 26, 2023

『枯れ葉』アキ・カウリスマキ
山田剛志

 車窓から光が差し込み、女の顔を照らす。女を乗せた路面電車はバス停を横切り、男の顔に影を走らせる。ニュアンスを欠いたふたつの顔の上で光と影が織りなすダンス。女と男は偶然と意志の相互作用によって出会いと別れを繰り返しながら、時には同一フレームに収まり、時には交互に映し出されることでスクリーンに豊かな陰影を刻み続ける。瞳で味わうメロドラマ。そんな言葉が脳裏をかすめる。  白色蛍光灯の厚かましい光が隅々...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:02 AM

December 13, 2023

『きのう生まれたわけじゃない』福間健二
結城秀勇

 七海を演じるくるみの顔。この映画について書きたい理由のほとんどがそれだ。『きのう生まれたわけじゃない』を初めて見たとき、20年以上前に大島渚の『少年』を初めて見たときのように、「この顔を引き受けて生きたい」と思った。それだけで言いたいことのだいたい八割は言った。  でも本当に大事なのは残りの二割なのかもしれない。『少年』の阿部哲夫演じる少年が「少年」であるほどには、七海は「女の子」ではない。家の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:17 PM

December 9, 2023

『王国(あるいはその家について)』草野なつか監督インタビュー 「あの日のことであり、これからのことでもある」

12/9よりポレポレ東中野にて劇場公開される『王国(あるいはその家について)』。奇しくも最新作短編「夢の涯てまで」(映画『広島を上演する』中の一編)が同日より公開となる草野なつかだが、彼女の決して多くはないフィルモグラフィの中でも最も重要とも言える本作は、完成から5年越しの公開となる。  俳優の身体の変化を主題とした本作では、「役を獲得する過程」を「声を獲得する過程」であると捉え、同場面の別テイク...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:10 AM

November 30, 2023

《第24回東京フィルメックス》『雪雲』ウー・ラン
浅井美咲

 10年の刑務所生活を終えたジャンユーは島の小さな美容室を訪れる。店の中に入るとすでに中年男性が女性店員から施術を受けていて、ジャンユーは待合の椅子に座る。先の男性の会計が終わり、ジャンユーがセット椅子に案内される。彼が施術を受けている間、10歳くらいの少女が店に帰ってくる。ジャンユーは彼女を一瞥する。それから彼も会計を済ませ、店を後にする。キャメラは会計をキャッシャーに戻す女性店員を捉えるのだが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:50 PM

November 20, 2023

《第36回東京国際映画祭》 『20000種のハチ』(公開題『ミツバチと私』)エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
鈴木史

  人はこの世界に生まれ落ち、物心がついた時、自身が何らかの名前で名指されているという事実に気づく。多くの人はそれを当たり前のこととして何の気もなく受け入れていくだろう。あるいは幾らかの人は、そのことに戸惑いながらも、名指されてしまった名前を自ら名乗ることで自己をかたち作ろうとする。しかし、そのなかにごくわずか、名指された名前を引き受け切れぬほど傷ついた魂の持ち主がいる。  8歳のルシアはある一家...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:06 AM

November 18, 2023

『ザ・キラー』デヴィッド・フィンチャー
鈴木史

 ザ・キラー(マイケル・ファスベンダー)がパリのうらぶれた廃ビルの一室で獲物を待っている。彼の前にはちょうどスタンダードサイズのスクリーンのような四角形の窓があり、そこからは道向かいにある豪奢なホテルが見える。彼のモノローグは、平静を保ちながら暗殺という職務を遂行するための条件を語ってゆく。パリと他の国の都市が異なる気候や環境音を持っていること、そのなかで暗殺をするのに最適な手段を選ぶこと、スナイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:33 AM

November 15, 2023

『僕らの千年と君が死ぬまでの30日間』菊地健雄
結城秀勇

 人魚の血によって永遠の生を得たふたりの男が、百年に一度人間として生まれ変わるその人魚と30日間だけ巡り会う。その30日間が過ぎると人魚は死んでしまうので、その前にどうにか彼女に魂を返してこの呪いの連鎖を解きたい主人公と、そうなったら永遠の生を孤独に生きなきゃならなくなるので邪魔をする相方、ということを千年繰り返してきた三人の現代篇がこの映画版ということらしい。  漫画、映画、舞台版が並行して制作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:23 PM

November 12, 2023

『あずきと雨』隈元博樹
浅井美咲

 『あずきと雨』においてとりわけ印象的なのは、登場人物たちを照らす陽の光であった。主人公ユキ(加藤紗希)の家、ユキの職場である不動産屋、ユキと家出少女のリコ(秋枝一愛)が内見に訪れる二つの家、ロケ地はいずれも日当たりが良い場所ばかりで、窓からたっぷりと日光が降り注ぎ、たびたび外を眺める彼らの顔を照らす。  本作は、ユキが別れた後も同棲を続けている元恋人ノブ(嶺豪一)に家を出ていってほしいと告げてか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:29 PM

October 31, 2023

《第36回東京国際映画祭》『タタミ』ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ
作花素至

 ジョージアで開催された柔道女子世界選手権。新進気鋭のイラン代表、レイラ(アリエンヌ・マンディ)が突然同国の政府から棄権を命じられる。彼女と代表監督のマルヤム(ザル・アミール)が抵抗すると、当局の容赦ない攻撃が始まる――。『タタミ』は、試合と政治的圧力との二重の戦いの果てに、抑圧的な体制からの解放を希求する女性たちのもう一つの戦いを浮き彫りにする。そのアクチュアルなテーマもさることながら、サスペン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:58 PM

《第36回東京国際映画祭》『女性たちの中で』シルビア・ムント
浅井美咲

 本作は1970年代〜80年代にかけてバスク州エレンテリアで、千人以上もの女性の中絶を手助けした女性支援団体から着想を得て製作されており、作品の中でも中絶の権利を訴える団体が描かれ、主人公ベアもこれに参加するようになる。ベアと団体の仲間は、街中にバスを走らせて中絶の権利を訴えるデモを行ったり、望まぬ妊娠をした少女ミレンと一緒に国境を越え、フランスで中絶手術を受けさせることに成功したりする。全編を通...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:00 PM

October 29, 2023

《第36回東京国際映画祭》『ミュージック』アンゲラ・シャーネレク
結城秀勇

 あらすじを普通に書こうとすることが、こんなに深掘りというか謎解きみたいに見える映画もそうそうないだろうと思うし、そこはこの映画の良さを語るにあたって別にどうでもいいことだとは思うだが、しかし他に書きようもないので仕方なく少し書くことにする。  なんらかの事故あるいは事件によって、生後まもなく育ての親の元に送られそこで成長したヨン(アリオシャ・シュナイダー)は、(実は実の父である)ルシアン(セオ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:11 PM

October 27, 2023

《第36回東京国際映画祭》『野獣のゴスペル』シェロン・ダヨック
板井仁

 フックで吊るされた豚の腹は切りひらかれて、赤黒い内臓が露わになっている。男たちはレーンに吊るされた豚の死体を、淡々とした流れ作業で次々に処理していく。床にひろがる豚の血を水で洗い流していると、主人公のマテオ(ジャンセン・マグプサオ)は、壁の向こうから聞き馴染みのある声を聞く。それは、父の親友であったベルトおじさん(ロニー・ラザロ)の声である。マテオは、ベルトに一ヶ月前から失踪している父の居場所を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:28 AM

October 26, 2023

《第36回東京国際映画祭》『パッセージ』アイラ・サックス
池田百花

 映画監督のトマ(フランツ・ロゴフスキ)は、思い通りに動いてくれない俳優に対していら立ちを隠せない。まるで子供のように気まぐれで自己中心的な人物として画面に姿を現わすこの主人公は、作品のタイトルになっているPassagesが持つさまざまな意味を一身に引き受けながら、文字通り物語を駆け巡っていく。  第一に、この言葉には、通過や通行、短い滞在、さらには移行や変化などの意味がある。まさに物語のはじめか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:52 AM

October 25, 2023

『シャティーラのジュネ』リヒャルト・ディンド
鈴木史

 「誰も、何も、いかなる物語のテクニックも、フェダイーンがヨルダンのジュラシュとアジュルーン山中で過ごした六ヶ月が、わけても最初の数週間がどのようなものだったかを語ることはないだろう。数々の出来事を報告書にまとめること、そういうことならした人々がある。季節の空気、空の、土の、樹々の色、それも語れぬわけではないだろう。だが、あの軽やかな酩酊、埃の上をゆく足取り、眼の輝き、フェダイーンどうしの間ばかり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:11 AM

October 15, 2023

『マリの話』高野徹
細馬宏通

 新橋駅そばにあるTCC試写室への道のりはどこか風変わりだ。ビルの入口は手動の片引き戸で、勝手口のようにさりげない。それでいて、下に降りる階段は広く、ちゃんと車椅子用の昇降機がついている。地下に降りると、白くそっけない廊下が思いがけない長さで続いている。まるで狭くて長い地下街を歩いているような気になる。東京の真ん中に、どうしてこんな空間がぽかんと開いているのか。本当にこんなところで映画をかける場所...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:33 PM

September 27, 2023

『バーナデット ママは行方不明』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

 シアトルが雨の多い街であることは有名だが、それにしてもここまでボタボタと重たい雨が降り続くとは。そのせいでバーナデット(ケイト・ブランシェット)の家はいたるところで雨漏りしている......、のかと思いきや、よく見れば別にシアトルの雨でなくとも容易く雨漏りしそうなボロボロのこの家は、壁紙が無惨に剥がれ落ちておどろおどろしいシミをつくっていたり、絨毯の下をブラックベリーの蔦が張っていたりもする。後...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:18 AM

September 20, 2023

『アル中女の肖像』ウルリケ・オッティンガー
浅井美咲

 『アル中女の肖像』をはじめとしたウルリケ・オッティンガーによるベルリン三部作は、監督が戦禍の暗い傷跡を未だ残す70年代のベルリンの街並みに魅了され、ベルリンを散策することを作品にするというアイデアから生まれたそうだ。彼女(タベア・ブルーメンシャイン)がただ酒を飲み続ける様子が映される本作において、彼女が次第に酩酊し、意識が混濁し、足取りもおぼつかなくなっていくその姿が、荒廃した街の雰囲気と調和し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:18 AM

『イノセント』ルイ・ガレル
安東来

 ファーストシーンは、男の緊迫した表情とトーンを抑えた声から始まる。画面奥、窓外のぼやけた灯りによる逆光の中、男は拳銃を片手にブツの取引をめぐって脅し文句を並べる。その直後、照明が明転し切り返しで映された受刑者たち=生徒と教師であるシルヴィ(アヌーク・グランベール)が、男=ミシェル(ロシュディ・ゼム)の演技に対する賛辞のコメントを発する瞬間、それが刑務所内の演劇教室で実演されたダイアローグの練習だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:11 AM

『春に散る』瀬々敬久
山田剛志

 渾身の力を込めて放ったパンチが空を切る。と同時に、雷に撃たれたような衝撃が意識を揺さぶり、目を覚ますと天井が見える。対戦相手を捉えたはずの拳が、意識の外から到来する一撃として自身の身体を貫く。カウンターパンチを受けたボクサーが膝から崩れ落ちる寸前に思い描くのは、そんな出鱈目なイメージかもしれない。  難病を患う初老の元ボクサー・佐藤浩市と理不尽な判定負けで日本タイトルを逃し、闘う気力を失った若き...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

September 19, 2023

『エスター・カーン』アルノー・デプレシャン
結城秀勇

 波止場の近くの「どこにもつながっていないような」小路、そこにある一軒の家からこの映画は始まるのだが、エスターの父(ラズロ・サボ)が営む仕立て屋の作業場が本当に素晴らしい。幼いエスターを作業台の上に乗せ、型紙を写し取った布を裁断させる。裁断した布を仮縫いしてエスターに着せる。心臓がある側が左なのだと教えられたエスターは、自分の左手首に小さなハートマークを描く。しかし、薄暗くも心地よい空間に思えたそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 PM

August 31, 2023

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
結城秀勇

 前作『イントゥ〜』を見た人にはすでにお馴染みの、見てない人も『アクロス〜』を見ている間にすぐお馴染みになる、スパイダーマン(たち)の紋切り型自己紹介でこの映画は幕を開ける。しかし語り手であるグウェンは「すごく違ったふうに」に始めようと言うのであって、彼女が語るのは彼女自身のバックグラウンドではなく、本シリーズの主人公であるマイルズ・モラレスの物語だ。放射能グモに噛まれたり、いろいろ大変なことがあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:26 PM

August 24, 2023

『CLOSE/クロース』ルーカス・ドン
浅井美咲

  ルーカス・ドンは『CLOSE/クロース』でレオとレミ、二人の少年の身体的な触れ合いとその名付けようもない親密さについて描いた。彼らは恋愛や友情などに必ずしも規定されない関係であったにも拘らず、パブリックな場所においては彼らの身体的な触れ合いが「恋愛」の枠に押し込められ、セクシャリティをジャッジされ、レオとレミの間には次第に溝が生まれてしまう。レミが自ら命を絶つことで、レオとレミの関係は終わり、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 PM

August 20, 2023

『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』ウルリケ・オッティンガー
結城秀勇

 2枚の写真がある。1枚は愛を交わすカップル、もう1枚は仲違いするカップル。そのふたつの映像の間にある物語をでっちあげるのが、この映画ではタブロイド紙に代表されるマスコミの役目である。ふたつの映像をつなぐ方法を考えるということは映画の編集に似ていると言えるのかもしれないし、いやいやふたつの映像を映像外の言葉でつなぐなどもってのほかでふたつの映像それ自体が語る言葉に耳を傾けるのが映画なのだなどとも言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:53 PM

August 8, 2023

『幸運を!』サッシャ・ギトリ
結城秀勇

 なにげなくかけた「幸運を!」という呼びかけが、本当に幸運をもたらす。ギトリ演じるクロードは、「自分には運はないが、人に幸運を与えることはよくある」と自らの特殊な能力(?)を説明するのだが、この物語を真に動かすのは彼の幸運を人に与える力それ自体よりも、ジャクリーヌ・ドゥリュバック演じるマリィの、自らに与えられた幸運を与えてくれた当人へと再分配しようとする行為の方にある気がしてならない。  あなたに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:08 PM

June 23, 2023

「真夜中のキッス」唐田えりか×佐向大監督インタビュー「変わらない夜のその先へ」

佐向大監督作品に、唐田えりかが出演するーー。想像もつかないプロジェクトのようでもあるし、すごくアリな気もする。6月23日(金)より公開の映画小品集|三篇『無情の世界』の一編「真夜中のキッス」を観るや、いささかの不安は杞憂に、期待は確たる信頼に変わった。間抜けな人間たちをむき身のまま飾り気なく映しとる佐向監督と、スクリーンの中で浮遊するように存在する唐田えりか。「真夜中のキッス」という佳品によって生...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:57 AM

June 14, 2023

『EO イーオー』イエジー・スコリモフスキ
中村修七

 『EOイーオー』において、ロバたちは、拘束を脱し、自由を求める本能に導かれるかのように、逃走する。拘束を象徴するのが円環だ。ここでは、サーカス小屋、ウマを延々と走らせる円形の小屋、風力発電の風車が円環として現れる。さらに、物語においても、再生から死へ、死から再生へといった円環構造を見出すことができる。なお、ここで「ロバたち」と書いているのは、主人公のイーオーとして登場するのが6頭のロバたちだから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 PM

June 3, 2023

『ヒトラーは死なない』ドン・シーゲル
千浦僚

 『ヒトラーは死なない』Hitler Lives は1945年12月29日から米国で公開された17分の短編ドキュメンタリー映画。  その主題・主張は第二次世界大戦終戦後もドイツにナチズムやファシズム、19世紀から続く覇権主義が潜行してはいないか、それらを警戒すべし、というもの。既存の記録映像を編集することだけでつくられている。監督はドン・シーゲル。46年のアカデミー優秀ドキュメンタリー短編賞を受賞...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:41 PM

June 1, 2023

『ベツレヘムの星』ドン・シーゲル
千浦僚

 『ベツレヘムの星』Star in The Night は1945年10月13日から公開された、長さ22分の短編映画、ドン・シーゲルの単独初監督作品である。本作は46年のアカデミー賞優秀短編賞を受賞している。  クリスマスイヴ。三人のカウボーイが燦然と輝く星に向かって馬を進める。すごい輝きだなあ。妙に低いな、あの星。彼らは長期の荒野での仕事を終えて人里恋しく、久方ぶりの文明世界が楽しかったせいか(...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:13 PM

May 31, 2023

カンヌ国際映画祭報告(5)すべては「単純さ」へ
槻舘南菜子

 第76回カンヌ国際映画祭が5月28日に閉幕した。審査員長を務めたのは、昨年『逆転のトライアングル』(2022)で2回目のパルムドールを受賞したスウェーデンのルーベン・オストルンドであった。ジョナサン・グレイザーはグランプリ受賞作品の『The Zone of Interest』によって、アウシュビッツをコンセプチュアルで奇怪に再解釈し、ビジュアルと音楽が与える分かりやすい衝撃を通して審査委員長の心...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:00 PM

第76回カンヌ国際映画祭報告(4)カトリーヌ・ブレイヤ『L'Été dernière』ーー欲望の純粋さ
槻舘南菜子

道徳的な芸術は、人間を醜くし、萎縮させます。しかしながら、芸術が道徳的であるとすれば、人間を飾り立て、華やがせ、そして、変容させるようなやり方で見つめるからなのです。 カトリーヌ・ブレイヤ  カトリーヌ・ブレイヤ『L'Été dernière』は、長年、映画制作から離れていた彼女のカムバックとなる作品だ。イザベル・ユペールを主演に迎えた『Abus de faiblesse』(2013) では、脳出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:52 PM

May 23, 2023

第76回カンヌ国際映画祭報告(3)ワン・ビン監督とともにーー『鉄西区』に魅せられて

カメラマン、前田佳孝インタビュー《後編》

槻舘南菜子

ーーその後、北京電影学院の監督科に入学されます。ワン・ビン監督との出会い、彼と共犯関係を結ぶようになった経緯を教えてください。助監督として参加した『収容病棟』(2012)がワン・ビンの現場に関わった最初の作品ですね。 前田佳孝(以下、前田) 映画美学校に行ったことで映画への道は前進しましたが、大学へ進学するための勉強はまったくしなかったので、当然のように受かるはずもありませんでした。親からは「どう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:29 PM

May 21, 2023

第76回カンヌ国際映画祭報告(2)ワン・ビン監督とともにーー『鉄西区』に魅せられて

カメラマン、前田佳孝インタビュー《前半》

槻舘南菜子

今年のカンヌ国際映画祭の公式コンペティション部門に、長尺のドキュメンタリーであるワン・ビン監督『Jeunesse』が異例のノミネートを果たした。これまでの彼の作品とは違ったある種の軽さを持ち、官能性を感じる作品だが、このフィルムに日本人のカメラマンである前田佳孝が関わっていることはあまり知られていない。ワン・ビン監督の第二の「眼」として本作で共犯関係を結んだ前田氏に話を聞いた。 ーーワン・ビン監督...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:23 PM

May 18, 2023

第76回カンヌ国際映画祭報告(1)第76回カンヌ国際映画祭開幕
槻舘南菜子

 第76回カンヌ国際映画祭(5月16日ー27日)が開幕した。今年の公式コンペティションの顔ぶれも、ほとんど変化がない旧世界の様相を見せている。すでに、パルムドールを受賞し、ほぼ自動的にカンヌ入りする常連監督たち(是枝裕和『怪物』、ナンニ・モレッティ『IL SOL DELL'AVVENIRE』、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン『KURU OTLAR USTUME』、ケン・ローチ『THE OLD OAK』)や...全文を読む ≫

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May 14, 2023

『それでも私は生きていく』 ミア・ハンセン=ラブ
松田春樹

 ある場所からある場所への移動が省略せずに描かれる。ミア・ハンセン=ラブの映画といえばまずそれである。日差しが反射したパリの街路。画面奥から歩いてくるサンドラ(レア・セドゥ)は路地を曲がり、ある外門の扉を開く。鮮やかな緑が生い茂る中庭を通って、アパートメントの階段を登る。その先にある緑色の扉。そこから展開される、扉の向こうにいる父ゲオルグ(パスカル・グレゴリー)とのダイアローグによって、サンドラに...全文を読む ≫

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May 10, 2023

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』金子由里奈
二井梓緒

 言葉にすること、そしてそれを声に出して他者に向けることがいかに疲れることなのか、また「誰か」に対する危険がいかに伴うことなのか。いつもは忘れがちな、自分の思いを言葉にして他者に発するのはあまりにも難しいということを、この映画は脚本=文字に起こし、俳優に発話させて、思い出させてくれる。それだけでもなんと尊いことなのだろうか。  主人公の七森(細田佳央太)は恋愛感情がない。  「いい感じ」になった同...全文を読む ≫

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May 9, 2023

『レッド・ロケット』ショーン・ベイカー
山田剛志

 西海岸に面したエンターテイメントの都・ロサンゼルスからメキシコ湾に浮かぶ石油化学工業で賑わうテキサス州の港町へ。主人公・マイキー(サイモン・レックス)を乗せたバスは、故郷・ガルベストンの地に彼を運ぶ。着の身着のままのマイキーはバスを降りると、脇目もふらず、10年近く疎遠にしていた妻のレクシー(ブリー・エルロッド)とその母・ソフィーが暮らす平屋を訪れることになるのだが、バスを降りてから家に着くまで...全文を読む ≫

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April 29, 2023

『私、オルガ・ヘプナロヴァー』トマーシュ・バインレプ &ペトル・カズダ
浅井美咲

 映画中盤、オルガが犯行前夜に声明文を書くシーンが挿入され、ヴォイスオーバーによってその内容が読み上げられる。路面電車を待つ群衆にトラックで突っ込み、結果的に8名を死亡させることになる凄惨な事件を起こした動機は、社会への復讐、さらには自らを痛めつけてきた人々への死刑の宣告であると。具体的には父をはじめとした人々から幾度となく暴行を受けたことやどんな職場でも侮辱を受け、嘲笑されたこと、また私的な問題...全文を読む ≫

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『AIR/エア』ベン・アフレック
結城秀勇

 この映画の最終盤で、ソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)はマイケル・ジョーダンが表紙を飾るスポーツ・イラストレイテッド誌をレジに出して、顔馴染みの店員にこう聞く。「彼はどうだい?」。対して店員は、いいに決まってる、おれなら彼をドラフトしてたね、「みんな知ってたさ=everybody knew」、と答える。  このひと言が、この映画のほとんどすべてを説明している。直接的には、物語の中盤で「だって...全文を読む ≫

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April 27, 2023

『聖地には蜘蛛が巣を張る』アリ・アッバシ
荒井南

 編み上げた巣に獲物をからめ捕るようにして被害女性を部屋に引きずり込み16人を殺したサイード・ハナイは、その手口から"Spider Killer"と呼ばれたらしい。アリ・アッバシ監督『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、2000年から2001年にかけて起きたこの連続殺人事件を主軸にしている。しかしこの正視に耐えない惨事自体のおぞましさには、さほど驚かない。今から130年以上前にイギリスで起きていた娼婦殺害...全文を読む ≫

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April 24, 2023

『上飯田の話』たかはしそうた
隈元博樹

 冒頭から聴こえてくる電子音につられるまま、上飯田の話たちに耳を傾ける。語弊を承知で申せば、そのサウンドの安っぽさに妙な高揚感さえ覚えてしまうのだが、劇中の人々にとってみれば、そんな軽快なリズムとは裏腹に、単純明快なできごとが繰り広げられるわけでもない。生命保険のセールスマンと乾物屋の店主による一向に噛み合わないやりとり(「いなめない話」)、弟夫婦の結婚式に出席しようとしない兄への説得(「あきらめ...全文を読む ≫

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March 28, 2023

『フェイブルマンズ』スティーヴン・スピルバーグ
山田剛志

 長さの異なるフィルムの切れ端が編集台の上に並べられる。切れ端にはシーンナンバーの書かれた付箋が貼られ、主人公・サミー(ガブリエル・ラベル)はそれを真剣な眼差しで点検し、慣れた手つきで繋ぎ合わせる。サミーの母・ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)が繰り返す、「すべての出来事には意味がある(everything happens for a reason)」という言葉は、現実に起こった出来事をフィルム...全文を読む ≫

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March 27, 2023

《第18回大阪アジアン映画祭》『天国か、ここ?』いまおかしんじ
斗内秀和

 見終わった後にしみじみとしてしまった。川瀬陽太演じる伊藤猛と武田暁演じる川島麻由子の再会の場面があまりに感動的だったからだ。伊藤猛は死に別れた妻である麻由子に言う。「ずっと一緒にいられなかった、先に死んじゃってごめんな」と。この「一緒」という言葉が鍵のように思えた。  『天国か、ここ?』は、天国で登場する人物たちの生きていた時の記憶が多く語られる。林由美香(平岡美保)はお爺ちゃんに習ったという将...全文を読む ≫

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March 26, 2023

『フェイブルマンズ』スティーヴン・スピルバーグ
作花素至

 少年にとって、映画は両親との思い出と分かちがたく結びついているはずだった。彼を映画館へと誘い、同じスクリーンを見つめていた両親との幸福な一体感とともに、初めて目にした映画の衝撃は描かれるし、少年が自らの手でカメラを回すようになるのも、家族や友人たちとの親密なコミュニティの中においてであった。しかし、フェイブルマンという名を持つ一家はやがて解体へと向かい、彼のもとには映画だけが残される。そのとき彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:02 PM

March 25, 2023

『うつろいの時をまとう』三宅流
池田百花

 曙光。夜明けに太陽の光が差し込むその一瞬、夜の終わりと朝の始まりが重なる。かつて平安時代の人々は、この光景に見られるような異なる色の布を重ね合わせてその配色を楽しんでいたという。そして現代の日本のファッションブランドmatohu(まとふ)を追ったドキュメンタリーである今作の冒頭では、この「かさね色目」と呼ばれる色づかいから着想を得て生み出されたコレクションのひとつ「かさね」が紹介される。そこで異...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:25 AM

March 23, 2023

《第18回大阪アジアン映画祭》『朝がくるとむなしくなる』石橋夕帆
養父緒里咲

 飯塚希(唐田えりか)に朝が来る。少し白味がかっていて冬の冷えた空気を湛えつつも、優しい手触りの画面が広がる。これが本当にむなしくなる朝なのだろうか、と思うくらいだ。しかし、彼女はすぐさま家のカーテンを開けることができない。つっかえたカーテンを引っ張ると、レールの金具が壊れ、カーテンは半開きのまま放置される。自ら朝を迎えるための最も典型的な身振りすらままならないのだ。バイト先のコンビニでは、のっけ...全文を読む ≫

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March 10, 2023

《第73回ベルリン国際映画祭報告》アンチ・ドラマティックの勝利
槻舘南菜子

 第73回ベルリン国際映画祭が、2月16日から26日まで開催された。公式コンペティション部門のセレクションは華やかさに欠けてはいたものの、受賞結果は、映画産業において危機にある「作家映画」を擁護するものとなった。昨今の映画祭の受賞作品の多くが、女性やマイノリティといった出自や背景に影響を受ける傾向があるのに対し、今年のベルリン映画祭の審査員は作品そのものを判断材料にしていることが明白に見て取れる。...全文を読む ≫

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February 28, 2023

『別れる決心』パク・チャヌク
三浦光彦

 本作の主人公ヘジュン(パク・ヘイル)はエリート刑事であり、基本的に物事を単独で解決する能力に優れている。所々にヒッチコック作品へのオマージュが見てとれるが、身体的・精神的な欠損を抱えた『めまい』や『裏窓』の主人公たちとは違い、彼は自身の限界を何らかの道具を用いることで突破していく。寝不足による目の疲れは目薬で無理やり回復し、スマートフォンを用いて事細かなことをいちいち記憶することによって、事件を...全文を読む ≫

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February 21, 2023

《ロッテルダム国際映画祭報告》『とおぼえ』川添彩監督インタビュー

パンデミックを経て、三年ぶりにロッテルダム国際映画祭が1月25日から2月5日まで現地開催された。今年、大規模な組織改革によって多くのプログラマーが映画祭を去ったが、ディレクターの交代によってスタッフが一新するのはどの映画祭でも当たり前のことだろう。映画の現在を追い続けるために、数年ごとにアーティスティックディレクターが変わり、映画祭は生き物のように変化していく。しかしながら、創立以来、強い実験性と...全文を読む ≫

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February 8, 2023

《第13回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル》『揺れるとき』サミュエル・タイス
池田百花

 肩の下まで伸びた長い金髪に、目を引く美しい顔立ち。冒頭、10歳の少年ジョニーの横顔が、窓から光の差し込む静かな部屋の中で捉えられ、彼が、テーブルをはさんで隣に座る若い男性と会話を交わして固く抱き合うと一転、その男性が声を荒げながら窓の外に家具を放り投げ始める。どうやらジョニーの家族は、しばらく一緒に住んでいた母親の恋人の家から追い出されることになってしまったらしい。こうして映画は、束の間の静けさ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:59 PM

January 22, 2023

『ピアニストを待ちながら』七里圭
結城秀勇

 正確な語句を忘れてしまったうえに、それが劇中劇のセリフだったのかセリフの解釈を討論する言葉だったのかすら忘れてしまったのだが、とにかく5人の登場人物が出揃ってすぐに、「それって外の中にいるってこと?」という言葉が発せられる(さらに呆れたことには、それを言うのが木竜麻生だったのか大友一生だったのかすら覚えていないのだが)。  夜の図書館に閉じ込められて、外に出たと思ってもそこは中、「ゴドーを待ちな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:40 PM

January 12, 2023

『にわのすなば』黒川幸則
隈元博樹

 方々に点在する更地や駐車場、町工場の外観が画面上に姿を現すと、鋳物産業の街として有数な埼玉の川口であることがわかってくる。タイトルにある「すなば」は鋳物づくりに欠かせない鋳物砂から来ており、たとえ映画の中で「十函」(とばこ)という架空の名があてがわれようとも、目の前には鋳物づくりを支えてきた土地の記憶の断片がそこかしこに息衝いているのだ。そんななか、キタガワ(新谷和輝)の紹介で初めてこの地を訪れ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:31 PM

December 31, 2022

『あのこと』オドレイ・ディワン
浅井美咲

 『あのこと』は1960年代、中絶が違法であったフランスにおいて意図せぬ妊娠をしてしまった大学生アンヌの物語である。労働者階級の生まれながら、その優秀さで教師からも一目置かれるアンヌ。学位取得を目指す彼女にとって学業を諦めての出産など考えられなかった。  なぜタイトルが『あのこと』なのか。それは、当時、中絶が固く禁じられ、「中絶」という言葉自体も、口に出すのも恐ろしいほど忌避されるものであったから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 AM

December 30, 2022

『ケイコ 目を澄ませて』三宅唱
藤原徹平(建築家)

私たちの街の映画、という存在がある。私たちの、というからにはこれは共同性を問題にしている。 ケイコにとって、ようやく辿り着いた家(戦火を経た街に誕生したボクシングジム)が、なくなる。 劇中、おそらく荒川と思われる大きな川と、荒川と交差する鉄道や高速道路が執拗に画面に切り取られ、眼前に現れる。 これは東京の物語なのだろうか? そうではないだろう。東京タワーやスカイツリーなど東京らしさを表象するアイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 PM

December 29, 2022

『浦安魚市場のこと』歌川達人
結城秀勇

 マグロ「血ぃ気にしないで、おいしいから」、タコ「みんな頭嫌がるけど、柔らかくておいしい」、シャケ「魚屋は切り身で決まる」、マグロの皮「千切りにしてポン酢にタバスコいれてアサツキをかけるとうまい」、トリ貝「これは小さいから開かなくていい、だからうまみが逃げない」、サメ「加熱すると本当にうまいから、ソテーとかフライとか」。なんてことを言われれば誰でも「今晩はお魚にしようかしら」となるのだが、そんない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

December 27, 2022

『柳川』チャン・リュル監督インタビュー

2014年に製作された『慶州 ヒョンとユニ』(日本公開は2019年)を除き、チャン・リュルのフィルムは国内の映画祭や一部の上映機会を通じた紹介に留まっていた。だが、短編から長編、あるいはドキュメンタリーに至るまで、2000年代初頭からコンスタントに新作を発表している映画作家であり、中国朝鮮族3世というバイカルチュラルな出自のもと、中国や韓国、また最近では日本を舞台に、各々のロケーションをタイトルに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:49 PM

December 24, 2022

『メルヴィンとハワード』ジョナサン・デミ
結城秀勇

 メルヴィン「と」ハワード。そんなふうに結びつけられるふたつの名は、片方は世界に名を轟かす大富豪を、もう片方はそんな大物の名とつがいにされることがなければ誰の気も引くことのないような凡庸な人間を指している。でもこの映画のこのタイトルは、そんな極端な対照性によって成り立つというよりも、ふたりの名を結びつける「と」の力が極めて弱いことによって成り立っているのだと思う。実際、このタイトル通りのふたつの名...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:01 PM

December 16, 2022

『RRR』S・S・ラージャマウリ
作花素至

  美しい森に暮らす純朴な民。異人種の暴君に母親を虐殺されたうえ攫われる幼い娘。嘆く村人たち──。観客がこれまでにも数え切れないほど目にしたであろう物語の光景の、いっそう誇張されたようなバリエーションによってこの映画は始まる。事実、インド独立運動の闘士となるべき男たちの大英帝国との戦いを見せる本作はスーパーヒーローものと呼ばれるジャンルのクリシェに満ちていて、その思わず笑ってしまうような極端さはヒ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:57 AM

December 13, 2022

『やまぶき』山﨑樹一郎
結城秀勇

 群像劇というほどには、明確な主人公がいないわけではない。でも群像劇と呼びたくなるほどに、フレームの中に映り込んだ人たちがしっかりとそこに根を張っていると思える瞬間がある。一例を挙げるなら、和田光沙演じる美南が松浦祐也演じる元夫と話す場面。松浦が東北のイントネーションで語り始めた瞬間、映画の序盤で「私はもう帰れない」と呟いた美南の、「帰るべき方角」はそっちなのだとわかる。ただそれだけのことで、彼女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:17 PM

December 11, 2022

【再掲】吉田喜重ロングインタビュー

12月8日吉田喜重監督が逝去されました。哀悼の意をこめて、2006年、多くの観客が吉田喜重を再発見した年に行われたロングインタビューの一部を公開します。 2004年秋、そして2006年冬。2度にわたって吉田喜重のレトロスペクティヴが大々的に催された。会場のポレポレ東中野は連日活況に沸き、興奮した観客の身体から多くの熱量が放たれていた。往年のファンから、学校帰りとおぼしき学生服の高校生までもが駆けつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 PM

December 10, 2022

『セールスマン』アルバート&デヴィッド・メイズルス、シャーロット・ズワーリン
板井仁

 「みなさんは人生で今がもっとも尊いはずです。なぜなら今のみなさんは、お客様に幸福を届けているのだから」  大勢の販売員たちが集う研修会の壇上で、メルボルン・フェルトマン博士と紹介される男は語る。博士の熱意とは対照的に、無表情、あるいは煙草を吹かしながらこの講演を眺めている販売員たちは、家族のもとを離れ、列車や車でアメリカ各地を巡回しながら高価な聖書の訪問セールスをおこなっているものたちなのだが、...全文を読む ≫

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December 9, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 後編

想像力と蜂起する欲望  ここで意味深いと思われるある問題を検討していきたいと思います。それは、出演した映画の中でどのようにデルフィーヌ・セリッグがしばしば暴力的な仕方で死ぬかということです。この問題に注目すると、あらゆる女優たちがフィクションにおける死の前では平等ではないということがわかります。たとえばカトリーヌ・ドヌーヴのような女優は映画でほとんど死を演じていません。彼女が死ぬシーンは120本近...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:47 AM

December 7, 2022

『はだかのゆめ』甫木元空
中村修七

 これはジャンルを問わず映画一般に言えることだと思うが、映画に出てくる人物たちは、生々しい存在感を露わにして見る者を圧倒するかと思えば、ふと気がついた時には希薄な存在感を漂わせていて見る者を心もとない気持ちにさせる。だから、映画の登場人物たちには、どこか亡霊的なところがある。「生きているものが死んでいて、死んでいるものが生きているような」と述べる者がいるように、『はだかのゆめ』に登場する人物たちも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:52 PM

December 2, 2022

『In-Mates』飯山由貴
鈴木史

 暗い画面が俄かに明るんでゆく。しかしその明るさは、あくまで仄暗いトンネルを照らすために点在する電灯によってもたらされたもので、延々と続くかに思える長い長いトンネルのなかを照らし出すには心許ない。遥か遠くで、警告のようなアナウンスがこだましているが、声が言葉としての像を結ぶ以前に、そのアナウンスはトンネルのなかの反響として消えてゆき、なにを語ろうとしているのか聞き取ることはできない。同じように、声...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:07 PM

November 30, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 中編

構築される女性性、あるいは女性としての闘争   フランソワ・トリュフォーの『夜霧の恋人たち』の抜粋に移ります。その中ではジャン=ピエール・レオーが靴屋の若い店員を演じていて、彼はその店主の妻に狂おしいまでに恋をすることになります。そしてある日、彼女は魔法のように出現して、彼の部屋を訪れるのです。 抜粋4 : 『夜霧の恋人たち』  このシーンで、フランソワ・トリュフォーはデルフィーヌ・セリッグに登場...全文を読む ≫

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November 23, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》「異邦人であること」ジャン=マルク・ラランヌによるデルフィーヌ・セリッグについての講演 前編

今回で4度目を迎えた「映画批評月間」の開催に際して、10月、フランスのカルチャー雑誌『レ・ザンロキュプティーブル』の編集長ジャン=マルク・ラランヌ氏が来日し、デルフィーヌ・セリッグについてのレクチャーが行われた。今年はすでにシャンタル・アケルマンの特集上映でスクリーン越しにセリッグの姿を見る機会に恵まれたが、今回の特集にも多くの人が集まったのを目の当たりにし、改めて、この女優が生きた時代から時を...全文を読む ≫

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November 22, 2022

『語る建築家』チョン・ジェウン
結城秀勇

 建築家チョン・ギヨンが語る映画なのだから、このタイトルにはなんの不思議もないのかもしれない。ただ、彼と同年代で仲の良い建築家が、彼の言葉はおもしろいけど彼の建築には首を傾げることがあると言うとき(「彼は絵が下手だから、"お前は話だけしてればいいんだ"と言ってやったんだ」)、このタイトルは、建築家という建物をつくったりする人がその資格の下でなにかを語るというよりも、「建築家 」という言葉が持つ意味...全文を読む ≫

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November 11, 2022

『アムステルダム』デヴィッド・O・ラッセル
山田剛志

全編を通じて、ローアングルから登場人物を仰角で捉えたショットが印象的である。ものの本によると、ローアングルには被写体を力強く、尊大に見せる効果があるというが、定説めいたものは一旦脇に置き、虚心坦懐に画面に視線を注いでみる。すると、重要なアクションが、ことごとく登場人物の目線より下、厳密に言うと"腰の高さ"で行われていることに気が付く。  主人公のバート(クリスチャン・ベール)が、第一次大戦の戦友に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:47 AM

November 10, 2022

ジャン=リュック・ゴダール追悼 ケント・ジョーンズ

9月13日に逝去したジャン=リュック・ゴダール監督に哀悼の意を捧げ、ある批評家の文章を掲載する。その名はケント・ジョーンズ。批評家としてキャリアをスタートさせ、ニューヨークのリンカーン・センターやフィルム・フォーラムで映画プログラマーとして活躍。90年代にはマーティン・スコセッシのアシスタントを務め、2012年にはアルノー・デプレシャン『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』の脚本家を務めるなど、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:20 PM

November 8, 2022

《ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形 in 東京2022》『沈黙の情景』ミコ・レベレザ&カロリーナ・フシリエル
板井仁

 海の中、あるいはその表面において、うねりを映しだす画面はひどく揺れている。われわれは高速で過ぎ去っていく波のなかへとかき混ぜられていく。岩礁へと上陸すると、カメラはその動きを静止させ、日差しを受けるその岩肌をとらえる。そこには、ゆるやかに触角のようなものをのばす、不思議な影が映りこんでいる。  アカプルコに由来する架空の地、メキシコの太平洋沖カパルコにある島に建てられながら、打ち棄てられたままと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:23 PM

November 7, 2022

《第23回東京フィルメックス》『すべては大丈夫』リティ・パン
鈴木史

 広がる砂丘。突如、砂を切り裂いて、地中からオベリスクのような四角柱がせり上がってくる。それが、微速度撮影でとらえられた植物の発芽の光景のようですらあるのは、実際の砂漠に比べて、ひとつひとつの砂の粒が大きく、ミニチュアを撮影したものだとわかるためだ。やがて、村々があらわれ、素朴な表情を持った人間やイノシシ、猿といった動物たちの人形が姿をあらわす。そしてそこに、まるで人類の野蛮と汚辱にまみれた歴史を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:45 PM

November 5, 2022

《第23回東京フィルメックス》『ソウルに帰る』ダヴィ・シュー
梅本健司

 韓国歌謡が冒頭のクレジットとともに小さく響き渡り、やがてヘッドフォンを付けた面長でボブカットの女性が映し出される。彼女は目の前にいる誰かに気付き、慌ててヘッドフォンを外す。その女性テナはソウルのゲストハウスで働いていて、今は客に応対しなくてはならない。英語で話すアジア系の女性客が、テナが聴いていたのはどんな音楽なのかと問うと、テナはヘッドフォンをその女性に渡す。女性がヘッドフォンを付けた途端、先...全文を読む ≫

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November 3, 2022

《第35回東京国際映画祭》『タバコは咳の原因になる』カンタン・デュピュー
秦宗平

 『タバコは咳の原因になる』は、ニコチン、メタノールなどとタバコの成分で呼ばれる5人のメンバーで構成された「タバコ戦隊」が、有害物質をビーム光線でお見舞いし、ごつごつねちょねちょした怪人を倒すチープなアクションシーンで幕を開けるが、そこに現れるのは一人の少年である。草むらにいる少年は、双眼鏡を借りるため車に乗った父親を呼び寄せ、彼らのことを問われるとこう口走る。 「タバコ戦隊は世界一かっこいい」 ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:32 AM

《第35回東京国際映画祭》『イルマ・ヴェップ』(2022)オリヴィエ・アサイヤス
松田春樹

 1996年の『イルマ・ヴェップ』(以降、旧『イルマ・ヴェップ』と記載する)をHBOの連続ドラマシリーズとしてリメイクしたこの新しい『イルマ・ヴェップ』(以降、新『イルマ・ヴェップ』と記載する)は八つの章立てから構成されている。ドラマシリーズとしての全体尺も413分と膨大になり、オリジナルの99分と比較すればその違いは明らかだ。しかしそもそも、この作品のコアとなっているもう一つの映画、1915年か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:32 AM

October 31, 2022

《第35回東京国際映画祭》『フェアリーテイル』アレクサンドル・ソクーロフ
作花素至

ソクーロフの映画には「超時間性」とでも呼べる特質がしばしば備わっている。たとえば、『エルミタージュ幻想』(2002)は全編ワンカット撮影という現実の時間の極端な制約の中にありながら、数百年に及ぶ想像の時間がそこに重ね合わされていた。また、私の大好きな『精神(こころ)の声』(1995)でも、やはりドキュメンタリーの形で歴史の局限的な場面としての戦場を記録しているにもかかわらず、生命の気配のない岩山...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:27 PM

October 30, 2022

《第35回東京国際映画祭》『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ
板井仁

 レイヴパーティーは一夜にして人の波をかたちづくる。その黒いうねりのなかで踊る若者たちは、夜明けとともに瓦礫然とした大量のゴミを残して去ってゆく。まだその余韻を保ちつづける何人かの若者たちは、引き寄せられるように川へと向かい、もはやすっかり朝になった土手に腰を下ろし、この退屈な村から抜け出したいという漠然とした将来像を語りあう。しかしそうした未来の話は、そのうちの一人が川に浮かんだヤギの死体を見つ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:05 PM

『さすらいのボンボンキャンディ』サトウトシキ
千浦僚

 たやすく踏みつけられるやさしいものが逆襲するとか、へこたれないで生きのびるとか。彼女ら、彼らがそこに居続けてくれるだけで世の酷薄さに対してひとつ勝てたと思うし、そのたたかいを自分のなかにも引き取って引きずっていきたい。映画監督サトウトシキの作品世界というのはそういうものだと、『さすらいのボンボンキャンディ』を観てあらためてそう思った。  女優のほたるさんが企画・プロデュースして公開したオムニバス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:16 AM

October 29, 2022

《第35回東京国際映画祭》『This Is What I Remember』アクタン・アリム・クバト
作花素至

 記憶を失くして二十数年ぶりに故郷に帰ってきた老齢の男と、彼を迎える息子一家や旧友の老人たち、そして元妻の物語。だがドラマやそこから窺われるテーマなどよりも数々のショットが印象に残る。画面の構図の厳格さとか、フォトジェニックで情緒的な一枚絵としての美しさとかではなく、被写体とカメラとの距離感、そしてワンショットの中で流れる時間が好ましい。巻頭の、白く塗られた木々の根もとだけをとらえた無人かつ無音の...全文を読む ≫

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《第35回東京国際映画祭》『この通りはどこ? あるいは、今ここに過去はない』ジョアン・ペドロ・ロドリゲス、ジョアン・ルイ・ゲーラ・ダ・マタ
鈴木史

 人の姿をした孤独な魂が急に人であることをやめて、明後日の方向に飛び去っていくのを取り逃すまいとするように、厳かな固定ショットやゆるやかな移動撮影を見せていたカメラが、取り乱したようにパンやティルトをする。等間隔に街灯が並ぶ整備された小綺麗な歩道では、愛する幼な子に外の景色と風を感じさせるべく、ベビーカーを押した男女が行き交うばかりで、まるでミケランジェロ・アントニオーニ『太陽はひとりぼっち』(1...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 PM

October 28, 2022

《第35回東京国際映画祭》『輝かしき灰』ブイ・タック・チュエン
作花素至

 ベトナムの都市ではなくメコン・デルタの田舎が舞台ということもあり、画面に次々と現れる見慣れない景色や風物がまず目を引く(見ている私の勝手なエキゾチシズムや観光趣味と言われればそうかもしれない)。家々は川に面している、というよりいくらか水に浸かるくらいそれに接続していて、人々は舷側が水面ぎりぎりの高さしかない小舟を生活の足にしている。鬱蒼として視界を極度に制限する熱帯雨林は家並みの間に広がっている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:41 AM

October 27, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『ドン・ジュアン』セルジュ・ボゾン
結城秀勇

 結婚式の当日に結婚相手が現れなかったロラン(タハール・ラヒム)は、その後出会う女性の片っ端から、失踪した恋人ジュリー(ヴィルジニー・エフィラ)の面影を求めてしまう。......と書けば誰しもヒッチコックの『めまい』(1958)を想起してしまうような序盤部分だが、実際に映画を見ているときの感覚はだいぶ違う。『めまい』においてもオリジナルとコピーの転倒が起こるとはいえ、『ドン・ジュアン』のそれはさら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 PM

《第35回東京国際映画祭》『ザ・ウォーター』エレナ・ロペス・リエラ
秦宗平

 水が女に入ってくる、水が女に恋をする、水が女を連れ去っていく、奪い去っていく......スペイン南東部のある小さな村で女性たちが語り継ぐ神話は、村に大洪水がやってくるたびに、宿命をもって生まれてきたある女たちが消え去ってしまうというものだ。きっと水にさらわれるか、対決する運命にあろう、主人公のアナを見つめていると、外から女たちに影響する水だけではなく、女たちが自らの身体に抱えんでいる内なる水も存...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:34 AM

October 20, 2022

『アフター・ヤン』コゴナダ
浅井美咲

  近い未来、「テクノ」と呼ばれる人型AIロボットが一般家庭にまで浸透した世界を描いた『アフター・ヤン』では、ある日突然動かなくなったテクノ、ヤンに一日あたり数秒の動画を記録する特殊なメモリバンクが埋め込まれていたことが発覚したことから、本来感情を持たないはずのヤンに感情が存在したのではないかという謎が深まってゆく。  ジェイクは、ヤンのメモリバンクに保存されていた数多の動画を一つ一つ再生してゆく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:18 PM

October 8, 2022

《第4回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『恋するアナイス』シャルリーヌ・ブルジョワ=タケ
梅本健司

 花屋から勢いよく飛び出してきたかと思えば、早送りの映像を見ているのかと思うほど素早く鋪道を駆け抜けてゆき、アパートの入り口を突き破るように通り抜け、エレベーターには目も暮れず階段を駆け上がり、部屋の前で待つ妙齢の女性に声をかける。部屋に入ってからも忙しなく辺りを行ったり来たりし、部屋の管理人だと思われるその妙齢の女性は呆然と立ち尽くすしかない。手持ちカメラも完全にフォローすることはできず、仕方な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:41 PM

October 2, 2022

『大いなる運動』キロ・ルッソ
三浦光彦

 映画冒頭、ボリビアの首都ラパスの光景がロングショットで映し出されるのと共に、目覚まし時計のアラーム、クラクション、犬の鳴き声、街全体を行き交うケーブルカーの駆動音といった、活気あふれる都市の喧騒が左右のスピーカーから鳴り響く。しかし、カメラが都市へと近づいて行くのに並行して、鳴り響いていた街のリズムは徐々に間伸びしていき、最終的には、リズムを失ったドローンミュージックへと変貌していく。ラパスの中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:40 PM

October 1, 2022

『コルシーニ、ブロンベルグとマシエルを歌う』マリアノ・ジナス
三浦光彦

 ある古典的な楽曲を演奏する際、基本的な進行、メロディ、リズムさえ守られていれば、その他の細かい部分の解釈は演奏者に任されるのが常だろう。アルゼンチンの歌手、イグナシオ・コルシーニの1969年のアルバム『Corsini intepreta a Blomberg y Maciel(コルシーニ、ブロンベルグとマシエルを歌う)』内の楽曲「La Guitererra de San Nicolás(サン・ニ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:05 PM

September 30, 2022

『秘密の森の、その向こう』 セリーヌ・シアマ
池田百花

 8歳の少女ネリーは、おばあちゃんの最期にさよならを言えなかった。すでに祖母が亡くなった後の時間から物語は始まり、少し前まで彼女が暮らしていた老人ホームのような施設を母とともに訪れたネリーが、そこに住む年老いた女性たちに別れのあいさつをするため、部屋から部屋へとさよならを言って回っている。祖母のいた部屋にネリーが戻ると、片付けをしている母がいて、その後カメラに背を向けてベッドに腰かけ、閉じた窓か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 PM

September 27, 2022

ヴェネチア国際映画祭「ヴェニスデイズ部門」公式コンペティション作品

『石門(Stonewalling)』ホアン・ジー&大塚竜治監督インタビュー

主人公の若い女性リンは、英語を学びながら、客室乗務員を養成するための学校に通っている。しかし予期せぬ妊娠が発覚した後、パートナーに中絶したと告げると、反目していたはずの経営難の診療所を営む両親の元へと戻り、未来を模索し始めることになる。ホアン・ジー&大塚竜治監督は、実際に妊娠から出産に至るまでの彼女の10ヶ月を、静謐な演出で捉えていく。表情を変えず、けっして感情を露わにすることがないにも関わらず、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:00 PM

September 23, 2022

『伴奏者』クロード・ミレール
結城秀勇

9月23日(金)よりの「生誕80周年記念 クロード・ミレール映画祭」に合わせ、『伴奏者』の日本盤初DVD化(2014年、発売:IVC)の際に封入リーフレットに寄せた文章を再掲する。一読してわかる通り、先立ってアップされた梅本洋一氏の文章「見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて」に多くを依る文章なので、この機会に併せてお読みいただければ幸いだ。   1942年から43年にかけての冬...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:18 PM

September 21, 2022

見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて 後編
梅本洋一

距離の運動  〈目〉と呼ばれる初老のしがない私立探偵は、彼の所属する探偵事務所に出向く。またあの口うるさい社長に会わなければならない。仕事はまた尾行だろう。案の定、大金持の中年婦人に依頼された彼の仕事は、息子のフィアンセの尾行だった。誰も彼女のことを知らないのだ。緑が一斉に吹き出したような館の巨大な庭の草むらの影から、依頼主の息子と彼の恋人が楽しそうに語り合っ ているのを覗き込む〈目〉。2人は館に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:02 PM

September 19, 2022

見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて 中編
梅本洋一

距離の認識  クロード・ミレールの処女長篇 『一番うまい歩き方』が公開されたのは1967年のことである。友人のリュック・ベローとミレールが共同でこの映画のためのシナリオを書き終えたのが72年のことだから、実際の撮影にこぎつけるまで実に3年以上の歳月が費やされていることになる。ミレールが映画に接近をはじめたのが60年代初頭のことだから、78年までには15年近い年月が経過している。ミレールは映画を前に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 AM

September 17, 2022

見えない距離を踏破する クロード・ミレールについて 前編
梅本洋一

生誕80周年記念クロード・ミレール映画祭が9月23日から開催される。それに合わせて、季刊「リュミエール」2号に掲載された梅本洋一氏のミレール論を、編集長だった蓮實重彦氏のご許可をいただき、全3回に分けて再掲する。言及される作品は今回の特集で上映されるものだけはないが、ミレールの映画への情熱、あるいはそれゆえの諦念がどのように彼のフィルムに息づいているのか、それが鮮やかに描き出されており、ぜひご一読...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:33 AM

September 9, 2022

『ザ・ミソジニー』高橋洋
千浦僚

 映画作家高橋洋はマッチョイズム傾向を持つひとであるが全方向にフェアでクリアな姿勢を持ち、メインに活動するホラージャンルにおいて女性賛美、女性崇拝的なところの強い作り手でミソジニー(女性蔑視)の逆、反ミソジニストに見える。  映画『リング』(98年)は、原作の「貞子」と「呪いのビデオ」を具現化したことと、もともとは我が子の呪いを解こうと奔走する主人公が父親であったのを母親に変えた脚色ではっきりパワ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:31 PM

August 29, 2022

『寛解の連続』光永惇
金在源

 私が一人暮らしをはじめたばかりの頃、近所のレンタルCDショップでLIBROの『COMPLETED TUNNING』というアルバムを借りた。収録された曲の中でも、一際異彩を放っていたのが小林勝行というラッパーが参加した『ある種たとえば』という楽曲だった。太古の時代に生きた男が出会いと別れ、生と死、輪廻転生を繰り返し最終的に現代に生きる小林勝行という一人の人間へとつながっていく壮大な物語が五分の中に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

August 18, 2022

『戦争と女の顔』カンテミール・バラーゴフ
作花素至

 冒頭、超クロースアップの女性の顔がスクリーンいっぱいに広がる。その顔は不自然に硬直していて、か細い呻き声と耳鳴りのような音がはっきり聞こえるのに対し、周囲の物音や人々の声はくぐもっている。カメラが徐々に後ろへ下がっていくにつれ、「のっぽ」と呼びかけられたこの背の高い女性、イーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)が、職場である病院の一角で直立不動のまま「いつもの発作」を起こしていることがわかる。彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:01 AM

August 13, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第三回

 今回は第二回に掲載された『サッド ヴァケイション』のテクストをはじめ、小誌にて建築、映画について多くの批評を寄稿し、多大な貢献をしてくださっている建築家・藤原徹平氏の追悼文から始まる。ある作家や作品と出会うことで、「同時代」の感覚を知ったという経験が語られると、羨ましく思わずにはいられない。それが、最後まで「現在」への興味を絶やさなかった青山真治のような作家に向けられていればなおさらだ。POPE...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

August 10, 2022

『ワンダ』バーバラ・ローデン
池田百花

 『ワンダ』にはひとつの奇蹟(miracle)があると思うわ、とマルグリット・デュラスは言った。「普通、演じることとテクストとのあいだ、演じる主体と話の筋とのあいだには、距離がある。でも、あのなかではその距離が完全に消えて、バーバラ・ローデンとワンダは、直接的に、決定的に一致している」1)。こう語ったデュラスと同じようにこの映画で初めてバーバラ・ローデンという女性の存在を知ることになるほとんどの観...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

July 31, 2022

『アイ・アム・サムバディ/I AM SOMEBODY』マデリン・アンダーソン
板井仁

 冒頭、ロングショットで映し出されたチャールストンの街とともに、ナレーションは、この地が南北戦争の火蓋が切られた場所であり、現在は観光地として多くの観光客で賑わっていることを語る。カメラは、橋や船、馬車やそれを曳く馬、サムター要塞の記念碑や銅像、砲台跡などを映しだすのだが、そこに集う観光客の身体や顔、その表情は、暗くつぶれて判然としない。こうした一連のショット、観光地においてあらゆるものごとを消費...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:35 PM

July 30, 2022

『ついのすみか』井川耕一郎
千浦僚

 (......ひよめき【顋門】 幼児の頭蓋骨がまだ完全に縫合し終らない時、呼吸のたびに動いて見える前頭及び後頭の一部)  『ついのすみか』は早稲田大学シネマ研究会に所属していた井川耕一郎氏が1986年に制作し公開した8ミリフィルム映画。同年に(おそらくこれに先立って)『せなせなな』という作品もつくられている。  なかなか上映の機会がないが、2021年11月に亡くなった井川氏の追悼上映会が20...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

『夜を走る』佐向大
結城秀勇

 谷口家の洗面所の照明は、はじめに切れかかっていることを示唆されてから、少なくとも2ヶ月から3ヶ月くらいはそのまま放置されている。やがて劇中に初めて洗面所が登場するとき、点滅する蛍光灯の激しい光と闇との交換運動が暴力的なまでに観客の視界を襲う。「なんでこうなるまで気づかなかったの」、夫をなじる妻の声は、もはや冷め切った夫婦関係を隠喩として示唆するにとどまらず、もっと根源的な人の生死に関わること、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 PM

『せなせなな』井川耕一郎
千浦僚

 『せなせなな』は早稲田大学シネマ研究会に所属していた井川耕一郎が1986年に制作し公開した8ミリフィルム映画。同年に『ついのすみか』という作品もつくられている。  『せなせなな』は長さ65分ほど。明確なストーリー、わかりやすい起承転結はなく、密室か、屋外であっても他者や広がりを持たないいわば「密室化した荒野」という空間での男女の身体的からみと感情の交錯を描く。  この「からみ」とはいわゆるポルノ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:24 AM

July 23, 2022

『炎のデス・ポリス』ジョー・カーナハン
結城秀勇

 警官の中にもシングルアクションのリボルバーの愛好者とオートマチックの方がいいと言う者がいて、ルガー好きにもレッドホーク派とブラックホーク派がいる。同じように留置所は酔っ払いとそうじゃないやつ用に分けられていて、そこには結果的に詐欺師と殺し屋がいて、殺し屋にもプロフェッショナルとサイコパスがいる。言わずもがな、そのどちらがいいとかどちらが悪いとかなんて話には全然ならない。汚職警官も連邦レベルの陰謀...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:52 PM

July 16, 2022

『リコリス・ピザ』ポール・トーマス・アンダーソン
梅本健司

私が要約を拒むのには、また別の理由がある。要約というものは、付随的な筋や結果の出ない筋を犠牲にして、決定的な筋を出現させるものだからである。ところが私の主題は、取るに足らない筋の継起のなかに、重要な筋を組み入れるにはどうすればよいか、ということなのだ。つまり、映画的な作劇に特有の図式的な短縮をすることなく、出来事の普通の流れを描くことが、ここでの主題である。 *1(ジャン・ユスターシュ)  も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

July 14, 2022

『レア・セドゥのいつわり』アルノー・デプレシャン
松田春樹

 テムズ川に架かる二つの橋を写した二枚の静止画がスクリーンを分割し左右に分かれていくと、暗闇に佇むひとりの女がいる。その女が愛人との馴れ初め話をカメラに向かって語り始める時、彼女の周囲には明かりのついた鏡があるだけで、その場所がロンドンのどこであるかは明示されない。鏡に取り付けられた幾つもの電球とデスク上に散らかったメイク道具だけが辛うじてその場所を楽屋なのではないかと思わせてくれる。しかし女の話...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:18 PM

July 9, 2022

『夜の最前線 東京㊙︎地帯』井田探
千浦僚

恋人に振られたの よくある話じゃないか 世の中かわっているんだよ 人の心もかわるのさ......    日吉ミミ「男と女のお話」(1970年 作詞 久仁京介 作曲 水島正和)  郷鍈治の肉体美がスクリーンを圧する!セックス、セックス、金、セックス!だがそこに叙情。夜の最前線、すなわちこれが当時の日活映画の最前線!  ......ぶっちゃけ、ニューシネマ代表作『真夜中のカーボーイ』(69年 監督ジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:54 PM

『機動捜査班 東京午前零時』小杉勇
千浦僚

 ――何か、小粋でシャープな旧作邦画を観たいと思って、1962年の日活映画『機動捜査班 東京午前零時』というやつを観たんだが、こりゃあ当たりだったね!  ――レトロかつ勇ましいタイトルじゃないか。そいつはどういうんだい。  ――うん、この『機動捜査班』は、1961年から1963年までのあいだに13作がつくられたシリーズで、覆面パトカー、無線連絡、科学捜査などを紹介した知る人ぞ知る警察ものの連作映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:31 PM

July 8, 2022

『リコリス・ピザ』ポール・トーマス・アンダーソン
結城秀勇

「全部2回言うね」 「全部2回なんて言わない。全部2回言うってなによ」  ゲイリー(クーパー・ホフマン)とアラナ(アラナ・ハイム)が初めて出会うシーンで交わされるそんな会話を、ニーナ・シモンの歌声と波間に揺れるような横移動の心地よさで、なんとなく聞き流してしまう。だが映画を見ている間もこの会話はずっとどこかに引っかかっていて、なぜなら彼女はこの後、このシーンほどの頻度で「全部2回言う」ことはない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:00 PM

『0課の女 赤い手錠』野田幸男
千浦僚

 顔面と風景が激突しその迫力が拮抗するとき、映画にみなぎるものがある。  このことはペルー密林と山岳において、ヴェルナー・ヘルツォークとクラウス・キンスキーによって試行され『アギ-レ 神の怒り』(72年)といったフィルムに結実するだろうが、そこまで遠隔地に出かけなくても野田幸男と郷鍈治と東映東京で充分実現され、『0課の女 赤い手錠』となる。  本作主演は杉本美樹。それは見間違いなく動かしようのない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:20 AM

July 5, 2022

『あさぎり軍歌』石田民三
鈴木並木

 東京にある国立映画アーカイブで、特集上映「東宝の90年 モダンと革新の映画史(1)」が始まっている。1930年代のアニメーションから近年の大ヒット作『シン・ゴジラ』『君の名は。』(共に2016)に至るまで、日本映画史に残る数々の名作やヒット作が並ぶラインナップで、ということは、比較的上映機会に恵まれている作品が多い。うるさ型のファンが、「あの監督ならこの作品ではなくて......」だとか、「どう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:44 PM

July 2, 2022

『トップガン マーヴェリック』ジョセフ・コシンスキー
結城秀勇

 0.1ずつ上昇していくデジタル数字によって達成しなければいけない速度が示され、作戦成功の必要条件であるタイムリミットも同様にカウントダウンされ、越えてはいけない高度の線には目印のように地対空ミサイルが設置されている。目標は目に見えるし、見えさえすればマーヴェリックはなんとかする、だいたいそんな話だ。死んだ仲間の息子には同じ口髭が付いているからわかるようになっているし、トップガンOGOB全員につ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:11 PM

June 23, 2022

『花芯の誘い』小沼勝 『色暦女浮世絵師』曽根中生 <後編>
千浦僚

 『色暦女浮世絵師』は、絵師の雪英(福島むつお)の妻おせき(小川節子)が、富裕な商人伊勢屋の息子清太郎(前野霜一郎)に辱められ、おせき夫婦はそれを忘れて生きようとするもののその傷は折に触れ夫婦の間に浮上してふたりは苦しむ、浮世絵の版元にもっと露骨で淫猥な絵を、と求められながらそれを果たせず体調を崩してゆく雪英を助けて、おせきが男女交合の体位や構図のアイディアを出し、下絵を描き、色をつけるうちに彼女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:17 PM

『花芯の誘い』小沼勝 『色暦女浮世絵師』曽根中生 <中編>
千浦僚

 2012年に出た小沼勝自伝「わが人生 わが日活ロマンポルノ」の自作回顧のなかで今作を語った部分によれば、小沼監督は現場では新人女優の演出に集中することになるだろう、という意識で、プロデューサー伊地智啓とともに小沢啓一宅を訪問してシナリオ改変の了解をとりつけたという。その改変がどういうものか、どの時点で行われていったのかはわからぬままとりあえず「~わが日活ロマンポルノ」の記述を見ると、もともとの脚...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:13 PM

『花芯の誘い』小沼勝 『色暦女浮世絵師』曽根中生 <前編>
千浦僚

 池袋のピンク映画館、シネロマン池袋で小沼勝と曽根中生のデビュー作、『花芯の誘い』と『色暦女浮世絵師』を観たのでそのことを記す。  シネロマン池袋ではいまだに毎週替わり三本立てで番組が組まれている。その番組はだいたいエクセス(新日本映像)+ロマンポルノ、新東宝、オーピー(大蔵映画)という映画会社区分のローテーションが一週間ずつ巡っていく流れ。エクセス+ロマンポルノ週ではエクセス作品2本を一週間やり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:03 PM

June 21, 2022

『冬薔薇』阪本順治
山田剛志

  ©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS    船の中心にぽっかり空いた、四角い、巨大な空洞に黒々とした砂利が注ぎ込まれる。砂利は対岸まで運ばれ、クレーン式のバケツによって掻き出される。作業が終わると、船は元の港に舞い戻り、からっぽとなった空洞に再び、大量の砂利が注がれる。  『キネマ旬報』掲載の、短くも充実した監督インタビューによると(註1)、中心に巨大な空洞を持つこの船...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

June 16, 2022

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』サム・ライミ
千浦僚

 初めてサム・ライミの映画を見たのは1986年あたり、小学校5年生、11歳ぐらいの頃か。高知市立第四小学校の校門真ん前のおうちのA藤くんとこに数人集まって、A藤くんのお兄ちゃんが持っているもんのすご怖いビデオを観る会、として。特に安藤くんと仲が良かったわけではなかったのにあれは何だったのか。  ......という状況で観た『死霊のはらわた』(81年 日本公開85年)。いや、エグいし、怖いし.......全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:40 AM

June 15, 2022

『夜を走る』佐向大
渡辺進也

 鉄屑工場に勤める秋本と谷口の生きるその場所の、さらにその外側に、いろいろなことが起きている場所があるように思われる。スマートフォンで見る海の向こうで起きた銃撃事件のニュース、車のラジオから流れるどこかわからない国の天気情報。それらは彼らとは関係のない遠い世界のことのようだ。さらに空間の捉え方においても特徴がある。秋本の姿を矮小化するように現れる巨大な工場、工場の中にある山となった鉄屑、鉄屑を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:36 AM

June 13, 2022

『日本の痴漢』渡辺護
千浦僚

 石井隆監督の死を知りがっくりくる。  訃報を知る少し前にも原作、脚本作である『赤い縄 果てるまで』(監督すずきじゅんいち 脚本石井隆 87年)を見直して感銘を受けたばかりだった。  『赤い縄~』は何度か観てるしDVDも持っている(ピンク四天王直撃世代なので佐野和宏映画の主演女優としての岸加奈子さんへの崇敬やみがたく、その初期代表作をソフト所有する誘惑に抗えなかった)のだが、数日前にシネロマン池袋...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

June 7, 2022

『トップガン マーヴェリック』ジョセフ・コシンスキー
秦宗平

   映画が生還した。冒頭、カリフォルニアの砂漠に赴任しているマーヴェリック(トム・クルーズ)は、マッハ10を記録するため、超音高速機に乗ってテスト飛行を行う。"グース"と、前作『トップガン』で失った盟友の名前を口にする直前、画面の右下に薄くまたがる右翼とともに、広い、大きな空が写し出される。私たちが経験したことのない速さと高さのなかで、見たことのない色の重なりをそなえた空が、一瞬、画面いっぱい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:12 AM

May 30, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(6)カンヌ国際映画祭受賞結果を巡ってーー「映画」は抹殺された
槻舘南菜子

 第75回カンヌ国際映画祭が28日に閉幕した。審査員とプレスの評価が一致しないのは当然のことだが、今年の受賞結果はイエジー・スコリモフスキ『EO』を除くと醜悪極まりないものとなった。前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』に続き、リューベン・オストルンド『Triangle of Sadness』に二回目のパルムドールが授与されたのだ。一度となく二度までも、凡庸な過激さとわかりやすい悪趣味で冷笑主義的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:09 PM

第75回カンヌ国際映画祭報告(5)リトアニアの新しい才能、ヴィタウタス・カトゥクス監督インタビュー
槻舘南菜子

ヴィタウタス・カトゥクス(Vytautas Katkus)は撮影監督としてキャリアを重ねた後、2019年カンヌ国際映画祭批評家週間短編部門に初監督作品『Community Gardens』がノミネートされた。ソビエト時代に形成された農村共同体に生きる人々は、ノスタルジーの漂う現代とは異なった時間、空間を生きている。そこに帰京してきた主人公が覚える、彼と家族、共同体との強い違和感。とりわけ、父親や地...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:11 PM

May 28, 2022

『夜を走る』佐向大
鈴木並木

 我慢しきれずにオンライン試写で見てしまった映画を、公開を待って劇場で再見する。洗車機の門を通って映画の中へと入っていく冒頭、自宅のパソコンでは感じられなかったささくれだった音響に揺さぶられながら、そういえば『ランニング・オン・エンプティ』(2010)もこうした武骨な音の響きの映画だったんじゃなかったかなと、細部はまったく思い出せぬまま、感覚だけが生々しくよみがえってくる。  見ているあいだは2時...全文を読む ≫

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May 27, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(4)
槻舘南菜子

アルノー・デプレシャン『Frére et Soeur (Brother and Sister) 』  公式コンペティション部門にノミネートされた、フランス人監督による今年のフランス映画はかなり低調だ。『クリスマス・ストーリー』の系譜である「憎悪」の主題の延長線ともされたアルノー・デプレシャン『Frére et Soeur (Brother and Sister) 』は、分かり易い言葉と振る舞いに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

May 25, 2022

『夜を走る』佐向大×足立智充インタビュー「レボリューションする身体」

絶賛公開中の佐向大監督最新作『夜を走る』。職場の同僚ふたりがひとりの女性と出会うことで、平穏な日常生活から転落していく。そんな発端から、やがて映画は予測もつかない展開を見せていくのだが、その中で文字通りの変貌を繰り返す主人公の秋本。見たことがないほど異様なようでもあり、しかし我々自身にどこかよく似たところもあるような、秋本という人物はどのように造型されたのか。彼を演じた足立智充と佐向大監督に話...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:22 PM

May 22, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(3)それぞれの開幕上映作品を巡ってーー作家性は遠い彼方へ
槻舘南菜子

ミシェル・アザナヴィシウス『Coupez!』  開幕上映作品に華やかさが求められるのは周知の通りだが、今年はその裏に作家性を微塵も感じない作品ばかりが並んだ。公式部門の開幕作品『Coupez!』の監督であるミシェル・アザナヴィシウスは、『OSS 私を愛したカフェオーレ』、『アーティスト』や『グッバイ・ゴダール』と、オマージュとは言い難い歪な模倣を繰り返してきた。その彼が、公式部門の開幕上映作品『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:53 PM

May 20, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(2)スペインの新星、エレナ・ロペス・リエラ監督インタビュー
槻舘南菜子

2015年、カンヌ国際映画祭監督週間にノミネートされた短編『Pueblo』から七年を経て、エレナ・ロペス・リエラ監督、初長編『El Agua (The Water) 』が同部門でとうとうお披露目される。思春期の少女は、自然との強い関係性のもと謎と欲望を抱えながら、社会の重圧に立ち向かい、自由と独立を求め、若い「女性」へと変貌していく。これまでに監督した短編『Los que desean (The ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:15 PM

May 19, 2022

『too old to camp』只石博紀+杉本拓
鈴木並木

 冒頭、カメラは地面に対して90度になったまま。ごつごつした大小の岩が点在する川原で、何人かの男女がスズランテープをひっぱって地面に図形を描いたり、棒で岩を叩いたりするパフォーマンスをおこなっている。昆布状の太い紐だか布だかが束ねられた、神社で使う御幣のようなものも出てくる。カメラは無造作に運ばれ、演者たちがフレームに入っていようがいまいが、かまわずに回り続け、不意に地面に置かれてはピンボケの地表...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:30 PM

May 18, 2022

第75回カンヌ国際映画祭報告(1)第75回カンヌ国際映画祭開幕
槻舘南菜子

第75回カンヌ国際映画祭が5月17日に開幕した。パンデミックを経た2019年以来、3年ぶりの通常開催となる。レオス・カラックス『アネット』と比較すると、強烈なまでに商業色が強い『カメラを止めるな!』の仏版リメイク、ミシェル・アザナヴィシウス監督『Coupez!』で幕を開けた。映画祭前にウクライナ映画協会からのクレームで当初の『Z (comme Z)』から題名は変更されたものの(「Z」はロシアの支...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:48 PM

May 15, 2022

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』チャン・イーモウ
荒井南

チャン・イーモウ映画の主人公たちはいつも必死だ。『初恋の来た道』のチャン・ツィイーは酷寒の村道で恋焦がれる相手の帰りを待ち続けるし、『妻への家路』のチェン・ダオミンは認知症で記憶を喪いつつある妻に自身の存在を気づかれないまま寄り添い続ける。常軌を逸するくらい頑固で、観る者を戸惑わせるほど必死で、しかしそこがいい。だから『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』で、ニュース映画に1秒だけ映る娘の姿を見る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:29 AM

May 14, 2022

『距ててて』加藤紗希
隈元博樹

 些細なことがきっかけとなり、ひとり、またひとり、アコ(加藤紗希)とサン(豊島晴香)の住む家に人々が訪れる。例えばそれは鹿児島から上京した不動産屋の新卒社員である田所(釜口恵太)だったり、宛先を間違えて送った友人からの手紙を待ち続けるフー(本荘澪)だったり、他所の台所を使って華麗に手料理を振る舞う彼女の母(湯川紋子)だったり......。またサンの職場の先輩であるともえ(神田朱未)の家では、別れた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:29 PM

May 10, 2022

『明日は日本晴れ』清水宏
秦宗平

 1948年の公開以来、74年ぶりの上映とされる『明日は日本晴れ』は、『蜂の巣の子供たち』に続く、清水宏の戦後第二作である。国立映画アーカイブ研究員の大澤浄さんが、集まった人たちにおそるおそる聞く。 「皆さんのなかに、当時この映画を見たという方はいらっしゃいますか」  一瞬、会場が緊張する。手を挙げる人はいなかった。気持ちがほぐれて端々に笑顔がもれ、そして一気に、上映にむけて気持ちが引き締まる。 ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

May 6, 2022

『バンビ:ある女の誕生』セバスチャン・リフシッツ
鈴木史

 揺らぐ波形が画面いっぱいに広がる。波を切って進む客船が青い海に白い泡を立てているのだ。客船の甲板にはベージュのコートに身を包み、薄いブルーのスカーフを巻いた人物がいる。海の向こうを見るその人物は、サングラスをかけ、うっすらと微笑みをたたえているようにも見える。彼女の名はマリー=ピエール。フランスでは「バンビ」という愛称で知られている。このひとりの女性の孤高とも言える肖像を『リトル・ガール』(20...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:20 PM

May 5, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『徘徊年代』チャン・タンユエン(張騰元)
隈元博樹

 戦後の状況下を説明する冒頭のフッテージに引き続き、どこからともなく「彼らにとっての幸せな時代が いつか訪れると思っていた」という女性の声が聴こえてくる。この「幸せな時代」とは、レンガを無骨に積み上げていく男性の姿とシンクロすることからも、当初はそうした時代を希求する彼についての物語だと思っていた。だがその推測は、ほどなくして間違いであったことに気付く。なぜなら『徘徊年代』は、異国の地で自らのフィ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 AM

May 4, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『遠くへ,もっと遠くへ』いまおかしんじ
塚田真司

 いまおかの作品は、その気の抜けたような世界観や緩い文体とは裏腹に、毎回生命と愛の叡智を感じさせられ、思わず涙が溢れるのだが、今回も例に洩れずであった。  小夜子(新藤まなみ)は将来を描けない夫婦生活に倦怠を感じており、離婚を考えている。友人からのアドバイスで離婚後の住居を探している最中に、彼女は不動産屋に勤務する男、洋平(吉村界人)と知り合う。二人は距離を縮めていくが、やがて小夜子は洋平が突然失...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 PM

April 30, 2022

『オルメイヤーの阿房宮』シャンタル・アケルマン
結城秀勇

 黒い夜の川の水面に、どこか向こうから来る光が反射して、波紋だけが白く浮かび上がる。それは動く船の後方に過ぎ去っていく水面のようにも見えるし、光源である船が到着するのを桟橋で待っているようにも見える。  カメラはひとりの男の歩みを追いかけ、場末のクラブのような場所へと入っていき、ステージ上を見つめる男の顔をじっと映し出す。ステージでは、別の男が「Sway」を踊りながら歌っている。そこに先程の男が彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:57 PM

April 24, 2022

『カモン カモン』マイク・ミルズ
金在源

 私が思春期を過ごしているとき、家の中には閉ざされた部屋があった。鬱病の父がそこで寝ていて、気軽に部屋に入れるような雰囲気ではなかった。父の病は次第に悪化し、自宅から遠く離れた病院に入院することになった。閉ざされていた部屋は空になり、休日には母と一緒に電車に乗り面会に行った。病院の談話スペースに設けられた卓球台で父と卓球をしたことを覚えている。私が物心つくころから父は鬱病を患っており、そんな彼が私...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

April 20, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第二回

青山真治は以後にやってきたのだ。フォード以後に、アントニオーニ以後に、レネ以後に、モンテ・ヘルマン以後に、ヴェンダース以後に、そして北野武以後に青山真治はやってきたのだ。彼が生み出しているのは、ポスト・シネマというよりはむしろ、今日、われわれのなじみになってしまったマニエリズムやポスト・マニエリズムの枠の外部にあるすべてのパーツを含んだ「以後」の映画なのである。彼は、すでに倒れたもの、飲み込まれた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

April 11, 2022

『愛なのに』城定秀夫
山田剛志

 古書店のレジカウンターに腰掛け、くつろいだ表情でハードカバーに視線を落とす店主の多田浩司(瀬戸康史)を、斜めからウエストアップで捉えたファーストカットは、フレーム右方に不自然なスペースが空いている。程なくして、スペースを埋めるように女子高生・岬(河合優実)がフレームインし、画面が切り替わると、多田に熱い視線を向ける岬の表情が鮮明に浮かび上がる。背景にはショートカットの女性の肖像画がさりげなく配置...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

April 8, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『柳川』チャン・リュル
荒井南

 『柳川』は冒頭からスペクタクルに富んでいる。カメラは上から下へくぐるように動き、喫煙所で止まると、煙をくゆらせる老女を捉える。そこへ本作の主役の一人であるドン(チャン・ルーイー)が姿を見せ、自身の深刻な病状について、言葉少なに彼女に打ち明ける。しかし初対面の老女は気にも留めない様子だ。それよりも、彼が煙草を持っているにもかかわらず火を借りたことが訝しい。よく作風の相似で引き合いに出されるが、もし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 PM

April 3, 2022

監督・青山真治 追悼特集 第一回

3月21日に亡くなられた青山真治監督に哀悼の意をこめて、青山監督とNobodyの過去20年近くに渡る歴史を、寄せられた追悼文とともに全4回に渡って振り返ります。 教えてくれた人  知らせを受けたばかりで、こうして書いています。青山真治の訃報。彼は私たちの世代でもっとも生き生きした監督でした。 もう何年も前のある夜のこと、東京で『ユリイカ』と『エスター・カーン めざめの時』が併映され、それを見終えた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 AM

April 2, 2022

『ポゼッサー』ブランドン・クローネンバーグ
作花素至

 映画は、ある女性の地肌の見える後頭部のショットで始まり、続くショットではコードに繋がれた針が突き刺さるその頭皮が超クロースアップで痛々しくとらえられる。皮膚に対する強い執着が伝わってくる。「私」の外部と内部とを隔てる皮膚は、ふつう、固有の「私」と分かちがたく結びついているはずだ。ところがこの映画では、(たとえ比喩的なイメージだったとしても)「私」から剥離していく皮膚の居心地の悪さばかりが際立つ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:51 PM

April 1, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『あなたの顔の前で』ホン・サンス
荒井南

 もはや「韓国」というより「世界の」という枕詞で語るべきホン・サンスのプロリフィックな作品群の中で、近年目を引くのが死の匂いを感じさせるフィルムたちだ。老詩人がとあるホテルを死に場所として選び、人生を終えるまでのモノクロの記録『川沿いのホテル』(2018)は言うに及ばず、『あなた自身とあなたのこと』(2016)では主人公の画家が死の床にある自身の母親についてつぶやき(2015年に実母を亡くしている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:34 PM

March 28, 2022

フランス映画を作った女性監督たち ―放浪と抵抗の軌跡

 国立映画アーカイブでついに開催される「フランス映画を作った女性監督たち ―放浪と抵抗の軌跡」では、現代の映画から黎明期の映画にまで遡り、女性たちがいかに映画史に参加してきたかを検証する。われわれは120年近くの年月を辿り直すなかで、女性たちが唐突にそこに現れたわけではなく、さまざまな映画、社会的な状況に影響を受け、あるいは与え、大きな流れのなかで映画を撮っていたことを確認できる。だが、それはひと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:35 PM

March 25, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『エンクローズド』ヤン・イー(楊翼)
養父緒里咲

 オイディプスが描かれた絵画のパズルを解く少年フリオ(アシュトン・ミラモンテス)は、失くした最後のピースを家政婦のエイプリル(タリア・マーティン)と探すことで、彼女との限られた時間の中に身を投じる。ただしこの偶然のひとときは、言わば必然のように感じられるものでもあり、むしろ偶然を装った行為であったことがのちに暴かれていく。それは失くしたものを口実とした時間の引きのばしであるとともに、エイプリルに対...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:14 PM

March 20, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『遠くへ、もっと遠くへ』いまおかしんじ
斗内秀和

 映画の序盤で主人公の小夜子(新藤まなみ)とその夫(大迫一平)が食卓を囲む場面がある。「ごめんね、お惣菜ばかりで」と小夜子が言うと夫の五郎が「美味しいよ、よー、よー、よー」と言う。ラップ調の「よー、よー、よー」は何の脈絡もなく、どこか唐突な印象を受ける。その後で小夜子がこの台詞を受け流して、全く新しい話題を切り出すことからも、「よー、よー、よー」という台詞はこの場面で何を意味しているのかが分からず...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:42 PM

《第17回大阪アジアン映画祭》『はじめて好きになった人』 キャンディ・ン(吳詠珊)、ヨン・チウホイ(楊潮凱)
佐竹佑海

 本作は女学校に通うウィンラム(ヘドウィグ・タ)とサムユ(レンシ・ヨン)の学生時代から大人になるまでを追った物語だ。学校の班長で風紀委員のウィンラムは、ある日親友サムユが自分に恋心を抱いていると知る。彼女たちは親密な日々を送るが、数年の間離れ離れになった後、大学生になって再会した2人は「30歳になって共に独身だったら結婚しよう」と約束する。そして彼女たちが30歳になる直前、結婚式のブライズメイドを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:36 AM

March 19, 2022

《第17回大阪アジアン映画祭》『北新宿2055』宮崎大祐/『めちゃくちゃな日』チャオ・ダンヤン(趙丹陽)/『姉ちゃん』パン・カーイン(潘客印)
佐竹佑海

 異なる映画の中にそれぞれが繋がりを見出し、上映全体を1本のストーリーとして観ることは、短編プログラムを続けて観る上で大きな楽しみのひとつである。ともすれば、「短編6」のプログラムの中で上映された『北新宿2055』(インディ・フォーラム部門)、『めちゃくちゃな日』(特別注視部門)、『姉ちゃん』(特集企画《台湾:電影ルネッサンス2022》)の3作品からは、自ずと「よそ者」という繋がりをそこに見出すこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:03 PM

March 15, 2022

『都市とモードのビデオノート』ヴィム・ヴェンダース
鈴木史

「君はどこに住もうとも、どんな仕事をして、何を話そうとも、何を食べ、何を着ようとも、どんなイメージを見ようとも、どう生きようとも、どんな君も君だ。人、もの、場所の"アイデンティティ"。 "アイデンティティ"......。身震いがする、嫌な言葉だ」  監督であるヴィム・ヴェンダース本人の語りで幕を開ける本作は、彼によって撮られたエッセイのような映画だ。この企画はポンピドゥー・センターにより「ファッシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 PM

March 14, 2022

『ドン・カルロスのために』ミュジドラ&ジャック・ラセーヌ
井上千紗都

 この作品はスペインの王位継承権を巡って勃発したカウリスタ戦争を題材とした作品ではあるが、中心に描かれているのは歴史的出来事ではなく、ミュジドラ演じるアレグリアというキャラクターと周囲の人間模様である。アレグリアは副知事を務めており、幼いときから兵士たちに囲まれて育ってきたという環境もあってか、男性社会でも物怖じせずに堂々とした態度で振舞う人物である。しかしそんな勝気で勇ましい彼女にも、繊細で愛情...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

『パリ1900年』ニコル・ヴェドレス
川瀬恵介

C)DR  夜が明ける。陽がオベリスクを、次いでエッフェル塔を照らしパリの街に降り注いでいく。ニコル・ヴェドレスが1909年から1914年のあいだにパリを中心として、フランス各地や諸外国で撮影された700本以上のフィルムを再編集し、ナレーション(クロード・ドゥファン)と音楽(ギイ・ベルナール)を加えて作品化したのが『パリ1900年』(1946)である。冒頭、夜明けのパリにドゥファンの落ち着いた声...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:12 PM

『オリヴィア』 ジャクリーヌ・オードリー
板井仁

C)DR  森は、社会の外延をかたちづくる境界としての役割をはたしながら、それじたいが社会の外部としてあり、どこからが森であるのか、はっきりとした輪郭をもつものではない。映画の冒頭、オープニングクレジットが流れているあいだ、カメラは左から右へと流れていく森の木々を映し出すのだが、社会と隔絶された森の奥の寄宿学校を舞台とするジャクリーヌ・オードリー『オリヴィア』の主題は、こうした境界へと向けられて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

『冬の旅』アニエス・ヴァルダ
金在源

©Ciné-Tamaris  ヌーヴェルヴァーグ の祖母と呼ばれ2019年にこの世を去ったアニエス・ヴァルダは1985年に本作『Sans toit ni loi(屋根も法律もない)』を製作した。日本では『冬の旅』と題して公開され、VHS化に伴って『さすらう女』に題が変更された。  この映画は主人公モナが死体で発見される場面から始まる。彼女は畑に倒れ凍死している状態で見つかるが、警察は彼女の死...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:37 PM

『奥様は妊娠中』ソフィー・ルトゥルヌール
渡辺進也

C)DR  『奥様は妊娠中』には、2回の出産シーンがある。1度めは、世界的なピアニストである、妻・クレアが海外ツアーのために乗った飛行機の中で、夫で彼女のマネージャーであるフレデリックが、出産を迎えようとする妊婦の手助けをする。お客様の中にお医者さんはいませんかというアナウンスに応じて、その場になぜか居合わせた彼は、出産間近の女性に励ましの声をかけ、そして無事生まれた赤ちゃんを母親に見せるために...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 PM

March 8, 2022

『弟とアンドロイドと僕』阪本順治
山田剛志

 印象的ではあるが、記憶に定着しづらいタイトルである。もしこれが「僕と弟とアンドロイド」というタイトルだったら、一人称である「僕」を基点とする安定した構図が形成され、スムーズに記憶できるのではないだろうか。「弟」と「アンドロイド」の後ろに、「僕」が並列するタイトルの"座りの悪さ"。それは、本作が問題とする「孤独の性質」と深く関わっている。  「"究極の孤独"を描いた禁断の問題作」という触れ込みから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:14 PM

March 6, 2022

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオン
大内啓輔

 思い返して何より忘れがたいのは、アナクロニックなカウボーイのフィルを演じるベネディクト・カンバーバッチの手のことばかりである。妖艶という言葉がぴったりな美少年のピーター(コディ・スミット=マクフィー)が作った精巧な紙の造花を指でいじる、あからさまな「陵辱」のシーンをはじめとして、血のついた手で手紙をしたため、素手で牛を去勢し、皮をなめて縄を編むフィルの手仕事が、クロースアップによって頻繁に映し出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:56 PM

March 1, 2022

『暴力の街』ジョセフ・ロージー
千浦僚

 初期ジョセフ・ロージー映画とは、明晰な理念と的確な演出を行いうる手腕が、それをもってしても処理不可能になる複雑で困難な主題に相対し、苦闘したさまの記録ではないだろうか。ある種の類似を持つ『暴力の街』(1950)と『M』(1951)などを立て続けに観るとそう思う。  そういう重みのある『暴力の街』の脚本を書いたのは、ジェフリー・ホームズGeoffrey Homes=ダニエル・マンワリング(メインウ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:05 PM

February 28, 2022

『宝島』ギヨーム・ブラック監督インタビュー

やさしくて幸せな場所を描きたかったのです フランスはもとより、世界中で高く評価されているギヨーム・ブラック監督の『宝島』が、動画配信サービス「JAIHO」にて配信される。この作品はブラック監督3本目の長編作品であり、パリ郊外のレジャー施設が舞台となっている。ヴァカンスを楽しむ人々やそこで働く人々の何気ないやりとりや会話がのびのびと映し出され、老若男女問わずさまざまな人たちが集まるその空間で、思い思...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:56 PM

February 23, 2022

『仕事と日(塩谷の谷間で)』C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム
秦宗平

 『仕事と日(塩谷の谷間で)』はフィクションであると、監督自身があえて宣言し、観客もそれに続くことは、フィクションとドキュメンタリーに関するさみしい議論を繰り返させはしない。さらには、そのような区分の境界を露呈させながら、偶発的にやって来るものとあらかじめ準備されたもの、演じられる「現在」とたしかにそこにあった「記憶」―相反するかに見えるさまざまな事柄が一枚岩となって形づくる場所こそ映画である、映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

February 19, 2022

『ウエスト・サイド・ストーリー』スティーヴン・スピルバーグ
梅本健司

 ロバート・ワイズ版において、リチャード・ベイマーが演じたトニーは、不良集団で過ごした日々を過去のものにしながらも、怖いくらいに精力的で、露出した肌はテカテカに汗ばんでおり、これから起こる何かをナイーブなまでに期待していた。一方で、アンセル・エルゴード演じるトニーはどこか乾いていて、登場シーンでは総じてメランコリックな表情を浮かべている。「おまえはウエストサイドの伝説だったんだぜ」と兄弟分のリフは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:45 PM

February 15, 2022

『三度目の、正直』野原位
濱崎海帆

©2021 NEOPA Inc.  いったい、「わが子」というのはどこからやってくるのだろうか。母胎から? いや、コウノトリが運んでくる?『三度目の、正直』においては、電車によって母と子が引き合わされる。子どもを産むことができなかった春は、元夫から授かり婚の報を受けたあと、電車の窓から 「里親募集」の文字を見つける。次のシーンでは、相談所で里親について話を聞いている春の姿がある。パートナーで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:35 AM

February 8, 2022

『クライ・マッチョ』クリント・イーストウッド
山田剛志

 盛りを過ぎた老人がひょんなことから血の繋がらないヒスパニック系の少年の護送を託され、ボロボロの車で追っ手から逃げ切り、少年を肉親のもとに送り届けるーー。  新年早々、都内ではよく似たプロットを持つ2本のアメリカ映画が立て続けに封切られた。先陣を切ったのは、イーストウッド作品で長らく助監督、プロデューサーを務めた経験を持つ、ロバート・ロレンツの長編第2作目『マークスマン』(主演はリーアム・ニーソン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:04 PM

February 1, 2022

『三度目の、正直』野原位×川村りらインタビュー

映画がこの時代をえがくために必要なことを探して 野原位による長編デビュー作『三度目の、正直』は全編を通して驚きに満ちている。この登場人物はこういう人なのかと思ったら、次の瞬間にはその人がまったく別の人物に見えるほど印象が変わっていたり、最後まで謎に包まれた人物がいたり、毎シーン新しく映画と出会い直せるようだ。そうした魅力はどのようにして生まれたのか。制作過程、登場人物の造形や彼/彼女らにセリフを言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:15 AM

January 31, 2022

『二重のまち/交代地のうたを編む』小森はるか+瀬尾夏美
鈴木史

 冒頭、喪服のように黒い服を着た女が、人気の少ないバスに乗っている。車窓の外光はそこまできつくはない。それでも、なかばシルエットになりかけた彼女。窓の外を深い深い緑が流れていく。ふと目を凝らすと、彼女の服が黒ではなく、深い深い赤色なのだと気付く。わたしの目には、その赤い服が、薄暗がりのなかで、真っ黒の喪服に見えた。彼女は「旅人」だ。彼女は、多くの人が被災地と呼ぶ、その場所に向かおうとしている。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:58 PM

January 29, 2022

「タル・ベーラ伝説前夜」タル・ベーラインタビュー

タル・ベーラの主人公は、しばしば受動的な観察者であり、そのカメラは遠く距離を保ったまま、目の前で起こるあり様に対して悲嘆に暮れる傍観者であり続ける。大量の泥や雨とともに荒廃した町を長回しでゆっくり描くタル・ベーラの白黒世界は、彼の長編第五作『ダムネーション/天罰』(1988)を基点に形成されている。これこそ『サタンタンゴ』(1994)のスローシネマの美学のまさに原点である。 「タル・ベーラ伝説前夜...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 AM

January 28, 2022

『街は誰のもの?』阿部航太
金在源

 原風景と言うのだろうか。過去を振り返ったとき、あの日の街、匂いや緑、そしてそこにいた人々が浮かび上がる。わたしがあの瞬間切り取って胸にしまった風景はもう二度と同じ形でわたしの前に現れることはない。  『街は誰のもの?』は監督が2018年10月から2019年3月の半年間ブラジルに滞在した中で出会ったグラフィテイロ(ブラジルにおけるグラフィティライターの呼称)やスケーター、民衆によるデモやカーニバル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:37 PM

January 20, 2022

『GUNDA/グンダ』ヴィクトル・コサコフスキー
三浦光彦

 農場で飼われている動物たちの姿を追っただけのドキュメンタリーが、ある種のポスト・アポカリプティック的な雰囲気を漂わせているのは、我々がまさしくそういった時代、つまり、「人間以降」の時代を生きているからかもしれない。  親豚が自身の子を踏み潰し、子豚が甲高い鳴き声をあげるとき、我々はこう思う。「なんて野蛮なんだ」。そして、カメラは動物たちの肌へと顕微鏡学的な視線でもって接近していき、観客たちを穿つ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:02 AM

January 16, 2022

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ジョン・ワッツ
結城秀勇

 自社のスターを総出演させて観客を動員するオールスター映画なんて別に昨日今日始まったわけじゃないんだから、別にやりたきゃやればいい。でもキャラクターや設定の整合性をとるために必死になって囲いこんで、端から端まで精密に作られた箱庭を愛でるなんて、本来のオールスター映画の無駄なゴージャスさとは真逆の貧乏くささじゃないか。MCUについてそんなふうに思っていた時代が僕にもありました。サム・ライミ版や「アメ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:11 PM

『決戦は日曜日』坂下雄一郎
鈴木並木

 なにか調べ物をしていて、いまでは傑作とされている古典が発表当時はたいして評価されていなかった、と知ることがある。昔の人は見る目がなかったんだなあとか、当時はこんなものが高く評価されていたのか、などと驚きながら、そんなとき、自分もそのうち「昔の人」になることも、いま生きている現在が歴史上の任意の「当時」になりうることも、たいてい都合よく忘れている。たまには少し頭を働かせて、今日見た映画が未来の名画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:21 AM

January 13, 2022

『東洋の魔女』ジュリアン・ファロ
板井仁

 高下駄を履き大きな棍棒を持つ侍は、何ものかによる「助けて」という声を聞きつけて画面外へと駆けていくのだが、そのとき画面はおどろおどろしい太鼓の音とともに右へと半回転する。襖を蹴飛ばして部屋へ押し入ると、蜘蛛の巣の下、美しい女性がロープに縛られている。駆けつけた侍がそのロープをほどきはじめると、女性は恐ろしい姿へと変化し、腕をぐるぐると回す魔術によって侍の目を回し、眠らせてしまう。映画の冒頭を飾る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:29 PM

『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』トッド・ヘインズ
秦 宗平

 「これはあなたの物語」などと銘打つ映画が、間接的に、もう少しよく言って、本質的、根本的にこそ私たちにかかわるとしても、私たちの身体に働きかける、もっと言えば身体の中にまで侵入してくるほど直接的であったためしは、ほとんどない。『ダーク・ウォーターズ』は、「永遠の化学物質」ともいわれる汚染物質を取り上げ,世界中の全生物の体内にまで投げかけられる大きな問題を含んでいる(「人類の99.9%に関係する」と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:31 PM

December 31, 2021

『ドント・ルック・アップ』アダム・マッケイ
作花素至

 映画の冒頭、天文台で地球に迫る巨大彗星を発見した大学院生ケイト(ジェニファー・ローレンス)とメンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)がただちに首都へ呼び出される。ところが、窓のない倉庫のような輸送機の腹に揺られて行った先は、どこか様子がおかしい。ホワイトハウスは彼らをさんざん待たせた挙げ句に追い返す。付き添いの将軍は彼らから小金を騙し取る。今は非常事態ではないのか。ここは本当に彼らの知っているア...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:21 PM

December 28, 2021

『愛すべき夫妻の秘密』アーロン・ソーキン
松田春樹

 カメラがゆっくりとラジオに近づいていく。「ウォルター・ウィンチェル・ショー! 提供は時計のグリュエン 」ラジオ番組の開始を聴くソファに寝そべる女性(膝だけが見えている)。そこへ男が帰ってくる。「ルーシー!ただいま!(Lucy, Iʼm home!)」男女の顔は見えず、カメラは依然としてラジオを大きく映し出しているものの、マイクがラジオの音声に比して二人の会話を大きく拾い始める。「どこをほっつき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:53 PM

『セールスマン』アルバート&デヴィッド・メイズルス
品川悠

「聖書は世界で最も売れている書物なのです」。訪問販売員のポール・ブレナンはそう口にする。ロッキングチェアに座る女性は、そのセールストークに耳を傾けながら、なんとか断る方便を探しているようだ。ポールが売ろうとしている聖書は、ただの聖書ではない。特注仕様の装幀にサイズは広辞苑並のヴォリューム感、そしてなによりも高額なのである。さらにカトリック大事典とのセット購入を選択すれば、値はより張るだろう。そのた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:53 PM

December 23, 2021

『ラストナイト・イン・ソーホー』エドガー・ライト
山田剛志

 エドガー・ライト監督はこれまで手掛けてきた作品において、自身が過去に影響を受けたフィルムにオマージュを捧げてきた。個人的には、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)のセリフがそっくりそのまま主人公によって叫ばれる、『ホット・ファズー俺たちスーパーポリスメン』(2007)のクライマックスがとりわけ印象深い。  本作はホラー映画としてカテゴライズされてはいるものの、悪夢に囚われてしまった主...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:03 AM

December 19, 2021

【特集上映】70ー80年代アメリカに触れる!名作映画鑑賞会 in 京都みなみ会館レポート
斗内秀和

12月4日  「70ー80年代アメリカに触れる!名作映画鑑賞会 in 京都みなみ会館」の初日に行って来た。ひさしぶりの京都みなみ会館だ。大学が京都だったので、学生時代は結構な頻度で通っていたがそれも10年前になる。新装されてからはとてもおしゃれになっていて、外国の建物のようだと来る度に思う。映画館に着くとN'夙川BOYSの「プラネットマジック」がかかっていて、それも妙に雰囲気に合っていた。上映の3...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:29 PM

December 17, 2021

『まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響』ポール・ニューマン
養父緒里咲

 少なくともこの長い題名を見ただけでは、何のことやらさっぱりわからない。だけどこの知的で秘密を孕んでいそうな語感の良さに、観る前から不思議と惹かれるものがあった。そしてこの映画を観終えたとき、その感覚は間違っていなかったのだと確信することができた。  冒頭から母親のベアトリス(ジョアン・ウッドワード)は、何やらウィッグをいくつも試着し、冷たい無表情で自分の姿を見つめる。またある場面で、彼女は車のド...全文を読む ≫

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December 16, 2021

『おかしな求婚』エレイン・メイ
佐竹佑海

 暗い面持ちのスーツ姿の男性。視線の先には心電図の画面。白衣を着た別の男性も同じ画面を見つめる。波打ち規則的な音を鳴らしていた心電図だが、ふとその波形は崩れ、直線に近づき、不安げな顔が映る。白衣の男たちも心電図を深刻そうな顔で眺める。心電図の波は直線を映し出し、しかし一呼吸おいて「大丈夫です」と言う白衣の男。病院での手に汗握るワンシーンかと思いきや、直後画面に映し出されるのは赤いフェラーリである。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:22 PM

December 15, 2021

『レズビアンハーレム』細山智明
千浦僚

 画面に出るタイトルでは『レスビアンハーレム』。日本語で常用されている女性の同性愛を指すレズ、レズビアンはなぜか濁点つきだが、原語のlesbian からすればたしかにこの「レスビアン」のほうが正しい。  小沢昭一の文章や藤井克彦監督によるにっかつロマンポルノ『実録 桐かおる にっぽん一のレスビアン』(74年)、『レスビアンの女王 続・桐かおる』(75年)でその存在がいまも知られるストリッパー桐かお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 AM

December 3, 2021

『17 Blocks/家族の風景』デイビー・ロスバート
金在源

 私が以前、自分の家族についてとある雑誌にエッセイを書いたとき、読んでくれた人が家族について「壮絶な痛みと救いの混在する場所」と表現していたことが今でも強く記憶に残っている。  『17 Blocks/家族の風景』はワシントンD.Cのホワイトハウス近郊にある最も危険な区域と言われる街で暮らす黒人の家族、サンフォード一家の20年間を記録したドキュメンタリーである。監督からカメラの使い方を教わった末っ子...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:34 PM

November 27, 2021

『リトル・ガール』セバスチャン・リフシッツ
鈴木史

 フランス北部のセーヌ県。いかにもフランスの郊外といった風情の街並みには、古びた石造の塀と、家々を区切る無愛想な金網が目立つ。しかし、少し行けば、野原があり、草木が目に付く。そんな、ありふれたヨーロッパの田舎街に7歳になる少女が住んでいる。名前はサシャ。彼女はバレエ教室に通っている。教室の少女たちはみな一様に、青地に白い花柄などが施された華麗な衣装を着ているが、サシャだけはその身体を覆い隠すような...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:27 PM

November 23, 2021

『夢のアンデス』パトリシオ・グスマン
川瀬恵介

 雷鳴なのか、地鳴りなのか、遠くから響いてくる音と共に画面は白んでいき、やがて雲を抜け山脈が姿を現す。チリ出身で彼地の歴史と記憶にまつわる作品を手がけてきたパトリシオ・グスマン監督の新作『夢のアンデス』はこうして始まる。太平洋を前にして、チリはその背をアンデスの峰々に預けている。そびえ立つ山脈は、それぞれに地層を持ち、人々がまだいない頃の記憶すら留めている。グスマンは、自らの作品の随所に人間の歴史...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

November 12, 2021

『記憶の戦争』イギル・ボラ
二井梓緒

  ベトナム終戦から40年以上が経過しようとしている。ベトナム戦争時における韓国軍による民間人虐殺の真相究明を求める市民平和法廷が始まろうとするカットで、映画は幕を開ける。原告として法廷に立つ赤いスカーフをした女性の緊張と不安の表情が目に焼き付く。    ベトナム戦争時、韓国はアメリカの同盟国だったため、多くの韓国兵がベトナムに派兵された。そこでは当時9000人あまりの民間人の虐殺があったという説...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:05 PM

November 10, 2021

『TOVE/トーベ』ザイダ・バリルート
金在源

 地方に住んでいると都心で公開された映画がこちらの劇場でかかるまで長くて3カ月ほどのタイムラグがあったりするので、ツイッターなどで見る世間の盛り上がりに追い付けずもどかしい気持ちを抱えたまま鑑賞することがしばしばある。『TOVE/トーベ』は10月に東京で上映が始まっているが、私が住む石川県では1ヶ月遅れて11月の上映となった。  本作はムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンが画家として苦悩し、出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 PM

November 9, 2021

第34回東京国際映画祭日記③

2021/11/6 カルトリナ・クラスニチ『ヴェラは海の夢を見る』©Copyright 2020 PUNTORIA KREATIVE ISSTRA | ISSTRA CREATIVE FACTORY ◆土曜日夕方の銀座。もう日は暮れているが、街はおしゃれをして闊歩する人でいっぱいである。そんなキラキラした大通りを曲がり、シネスイッチ銀座のある銀座ガス灯通りに入る。少し通りの様子が落ち着いただけでも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

November 7, 2021

第34回東京国際映画祭日記②

2021/11/2 ソイ・チェン『リンボ』©2021 Sun Entertainment Culture Limited. All Rights Reserved ◆プロデューサーがウィルソン・イップ、音楽・川井憲次に主演ラム・カートンときっちり揃えてくれたソイ・チェン監督の『リンボ』を、香港映画ファンが拒めようか。ドニー・イェンの『Raging Fire』が観られない恨みも手伝って前のめりによみ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:00 PM

November 6, 2021

『三度目の、正直』野原位
池田百花

 かねてから子供を持つことを望んでいたがその機会に恵まれなかった春は、再婚した夫の連れ子が留学に旅立ったのをきかっけに里親になることを考え始めていた。そんな時彼女は、偶然道で倒れていた青年を見つけて保護し、心的なショックが要因で記憶を失ったと考えられる身元不明の彼を半ば強制的に引き留め、母と息子のような関係を築こうとする。春は、この青年の意識が戻って何よりもまず、彼に、生人(なると)という名前で呼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:59 PM

November 5, 2021

第25回アートフィルム・フェスティバル 小特集「出光真子の実験映画とビデオ・アート」
鈴木並木

TIFFとフィルメックスの同時開催を横目に見つつ名古屋に向かい、愛知芸術文化センターの第25回アートフィルム・フェスティバルへ。この上映会はすべて無料なので、何本か見ると往復のバス代(早めに予約したので片道2350円)の元は取れる計算。 今回は「特集 映画の声を聴く」と題して、これまで製作された同フェスティバルのオリジナル作品(草野なつか『王国(あるいはその家について)』や小森はるか『空に聞く』な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:29 AM

November 3, 2021

第34回東京国際映画祭日記①

2021/10/30 クリント・イーストウッド『クライ・マッチョ』© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved ◆夜勤バイト明けの朝、慣れないメトロの乗り継ぎと日比谷の駅ビルの贅沢な空間使いに狼狽混じりの興奮でクラクラしたので、少し歩いて有楽町駅近くの喫茶店に入った。わりかし高級な類の店で朝一番だったこともあり、優雅なクラシック音楽と赤地のソファを独り占...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:13 PM

November 2, 2021

『劇場版 きのう何食べた?』中江和仁
千浦僚

 一応説明すれば、「きのう何食べた?」は、2007年に講談社のモーニングに連載され同年に単行本の1巻が出てから現在まで18巻が出ているよしながふみ氏による人気漫画で、40歳代のゲイカップル、筧史朗(弁護士。親と親しい人物以外にカムアウトしていない)と矢吹賢二(理容師。カムアウトしている)の生活を、料理上手でまめな筧史朗がつくる日々の献立、食生活から描く物語で、2019年に全12回のドラマとして放映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:29 PM

October 15, 2021

『自画像:47KMのおとぎ話』ジャン・モンチー
渡辺進也

 「47KM」シリーズの9本目。この村を撮影するようになって10年になろうとするという。連作シリーズのいいところは、撮る対象(人、村)が年を経るごとに少しずつ変わっていっていくことと、作品の作り方もまた少しずつ変わっていくところにある。だから、そもそも何本目が良いと言うことはナンセンスであり、1本1本が比較対象となるものではない。 『自画像:47KMのおとぎばなし』の中で起きている、この村の大きな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:23 AM

『沈黙の情景』ミコ・レベレザ、カロリーナ・フシリエル
渡辺進也

 前回の映画祭で上映された、ミコ・レベレザ監督『ノー・データ・プラン』はなんとも孤独な空気を纏った映画として記憶に留まっている。アメリカ西海岸から大陸を横断する列車に乗っている場面がほとんどなのだが、その旅の道中カメラはいつも横に流れていく窓の外を映し出し、時々その情景に対するコメントがナレーションとして重なってゆく。他の乗客と交流するわけでもなく、何ひとつ出来事らしい出来事は起こらない。後に、監...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:13 AM

『光の消える前に』アリ・エッサフィ
隈元博樹

 冒頭から次々とコラージュされていく写真やフィルム、それからテレビ映像などによるフッテージ。しかしそれらがモロッコの過去を捉えた断片であることはわかるものの、どういった基準の下に抜粋された映像なのか、あるいはコラージュによってどんな効果がもたらされるのかに最初は戸惑ってしまう。しかも本編の語り主のひとりであるアブデラジズ・トリバクは、なぜ動画ではなく静止画や声だけでしか登場しないのか。ただしそのこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:59 AM

October 13, 2021

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 オンライン日記③」
荒井南

 『ミゲルの戦争』(エリアーン・ラヘブ)は豊かな映像表現と複雑なナラティブを持つ。1975年から1990年にかけて起きたレバノン内戦と内的な葛藤という"戦争"を4つのパートで分けた主人公ミゲルの半生は、監督によるシンプルなインタビューシーンの他、写真やイラストのコラージュ、再現演劇とそのためのオーディション風景などで彩られるが、次第に浮き彫りにされてゆくのは、これは実話ではなくミゲル自身が語りたい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:29 PM

October 12, 2021

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 オンライン日記②」
荒井南

 逃亡犯条例改正反対運動で香港理工大に立てこもる学生らと香港当局が熾烈な衝突を繰り返した2019年11月に迫る『理大囲城』(香港ドキュメンタリー映画工作者)のカメラは、肉薄する、という言葉が陳腐なほど、危険な瞬間や応酬を幾度もさらけ出す。その一方で、クレジットされているとおり、この映画の撮り手は匿名だ。映される若者たちは一様に防毒マスクで顔を隠し、モザイクで加工もされるなどの保護もなされている。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:10 AM

October 11, 2021

『ルオルオの怖れ』ルオルオ
渡辺進也

 今回の山形国際ドキュメンタリー映画祭はオンライン開催となった。結果、いつものように一日中、映画祭に参加するというのが難しい。今回、日記の方は荒井南さんにお任せして、私の方は作品評という形で参加したいと思う。 『ルオルオの怖れ』はタイトルの通り、本作品の監督であるルオルオのコロナウィルスへの怖れが描かれているのだと、とりあえず言うことができるだろうか。コロナウィルスが報道された2020年の1月から...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:09 AM

October 9, 2021

「山形国際ドキュメンタリー映画祭2021 オンライン日記①」
荒井南

 山形国際ドキュメンタリー映画祭は、今年はオンラインでの作品上映となった。映画祭につきものの「何本鑑賞できるのか?」に加え、暗がりで観ることに慣れ切った体がオンライン視聴に集中できるのかも気にかかる。とはいえ、開催されたことが喜ばしい。  テキストが書かれた透明なスライドがテーブルの上に置かれ、我々に示される。そのささやかに滑るような音が、かえって耳に残る。16mmで撮影された、なめらかな映像も感...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:18 PM

September 23, 2021

『ジュデックス』ルイ・フイヤード
千浦僚

 これは映画『ジュデックス』1916年、についての評とも言えない、メモ。ほぼ、単なる全12話のあらすじガイド。  judex とはラテン語で"審判者"という意味だそう。恐ろしい手立てや強硬さで悪を罰する本作の"ジュデックス"は、二十世紀以降のダークヒーローの始祖という感じ。  サイレント期のスタンダードなスタイルである目の高さの、引いた位置からの撮影の一種平板さは、純粋に「筋」「物語」を見ていく、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:28 PM

September 13, 2021

第78回ヴェネチア国際映画祭 山下つぼみ監督インタビュー《後編》

(前編はこちら)ーーイメージフォーラム研究所で制作されたアニメ作品を除くと、かなり台詞が多く、状況や心情がほとんど言葉で説明されているような作品が多いように見えます。それに対して、『かの山』では、言葉を削ぎ落とした、まったく逆のアプローチをしています。『かの山』に登場するカップルは、関係の溝を視線によって語っています。後半の入浴シーンまで二人の視線はまったく合いません。背中を向ける、あるいは、遮蔽...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:41 PM

第78回ヴェネチア国際映画祭 山下つぼみ監督インタビュー《前編》

第78回ヴェネチア国際映画祭、オリゾンティ部門の短編コンペティションに、山下つぼみ監督の新作『かの山』がノミネートされた。 複数の短編を制作しながらも、まだ私たちにとって未知の若手監督である彼女に、ここに至るまでの道のり、新作に込められた思いを伺った。 *インタヴューは前編、後編に分けてお送りします ーー『かの山』に至るまでの映像、あるいは映画との関係を教えていただけますか? 山下つぼみ 子供の頃...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:33 PM

September 11, 2021

『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介
中村修七

 濱口竜介の『ドライブ・マイ・カー』を見て、ここにはワーニャ伯父さんと2人のソーニャがいる、と思った。この映画は村上春樹の短編小説を原作とするが、濱口が「もう一つの原作」と述べるほど、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』が重要な位置づけを担っている。  途方もなく豊かな魅力をもつ傑作である『ドライブ・マイ・カー』をめぐっては既に多くの言葉が費やされており、これからも多くの言葉が費やされていくだろうが、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:05 PM

『ミッドナイト・トラベラー』ハッサン・ファジリ
千浦僚

 『ミッドナイト・トラベラー』は、アフガニスタンを脱出した映画監督一家がその逃避行、流浪を撮影したドキュメンタリー映画だ。  2015年、アフガニスタンの映像作家ハッサン・ファジリ氏が制作したドキュメンタリーが国営放送で放送されると、タリバンはその内容に憤慨。出演した男性を殺害し、監督したファジリ氏にも死刑を宣告。ファジリ氏は、妻で同じく映像作家のファティマ・フサイニさんとふたりの娘ナルギス、ザフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:19 PM

September 10, 2021

『先生、私の隣に座っていただけませんか?』堀江貴大
隈元博樹

 最終話の漫画が妻の佐和子(黒木華)によって描かれていくなか、夫でありアシスタントの俊夫(柄本佑)は黙々とカッターを使って「トーン貼り」を行っていく。出来上がった漫画は「先生」である彼女の最終チェックを受けたのち、完成を待つ担当編集者の千佳(奈緒)の元へと収められる。こうした冒頭の描線や切り貼りの工程からも、ふたりは夫婦であるばかりか、紛れもない仕事仲間であることが窺える。しかしながら、かつてメイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:34 AM

August 13, 2021

『優しき殺人者』ハリー・ホーナー
梅本健司

 アイダ・ルピノは、監督2作目『ネヴァー・フィアー』(1950年)が商業的に不振に終わり、夫コリアー・ヤングとともに創設したプロダクション、フィルムメイカーズの経営が傾いたことから、RKOのハワード・ヒューズに資金繰りを求める。こうして結ばれた提携はルピノたちにとって不利なものであり、それがひとつの要因となってフィルムメイカーズは1955年に制作を中止してしまう。RKOとの共同一作目である『アウ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:53 PM

August 8, 2021

『オキナワサントス』松林要樹
結城秀勇

 黒地に白抜きの文字、縦書きでふたつ隣り合って並んだ「オキナワ」と「サントス」。タイトルにあるふたつの地名の間にある関係性を、上映中ずっと考えていた。  1943年7月8日にサントスで起こった「日系移民強制退去事件」。ドイツ軍によるサントス港付近での商船への攻撃を受け、枢軸国系の住人が市外へと24時間以内に退去させられた。ドイツ人の数百家族、日系移民が6500人、そのうちの約6割ほどが沖縄県出身者...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:26 AM

August 1, 2021

第32回マルセイユ国際映画祭、FID 報告ーーカンヌからマルセイユへーー
槻舘南菜子

 7月19日から25日にかけて、マルセイユ国際映画祭FIDが開催された。昨年から今年にかけて、多くの映画祭が中止、あるいはオンライン開催を余儀なくされたにも関わらず、FIDは2020年度も開催された稀な映画祭の一つだ。通常は7月初旬を会期としているが、今年度は、パンデミックの影響で時期をずらしたカンヌに合わせ、その直後へ日程変更される形となった。ディレクター、ジャン=ピエール・レム氏が指揮を執るF...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:49 PM

July 19, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(5)
槻舘南菜子

パルムドール Titane directed by Julia DUCOURNAU グランプリ Un Héros (A Hero) directed by Asghar FARHADI Hytti N°6 (Compartment n°6 / Compartiment N°6 directed by Juho KUOSMANEN 監督賞 Leos CARAX for Annette 脚本賞 R...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 PM

July 15, 2021

《特集 カンヌ国際映画祭とフランスの女性監督》『すべてが許される』

7/17(土)より横浜シネマリンにて《特集 カンヌ国際映画祭とフランスの女性監督》が開催される。そのオープニングを飾るミア・ハンセン=ラブ監督の初長編作品『すべてが許される』について、フランスの映画批評家、人気カルチャー雑誌『レザンロキュプティーブル』代表のジャン=マルク・ラランヌによる優れた批評を訳出してお届けする。 梅本健司 父と娘のあいだの苦悩と和解を描く驚くべき第一作 ジャン=マルク・ララ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:31 PM

July 13, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(4)フランスの新しい才能ーー三本の初長編 マキシム・ロワ、エマニュエル・マール (&Julie Lecoustre)、ヴァンサン・ル・ポール
槻舘南菜子

マキシム・ロワ『LES HÉROÏQUES』©TS Productions - Marianne Productions - 2021  今年のカンヌ国際映画祭では、カメラドールの対象になる処女長編が、公式部門、併行部門、監督週間と批評家週間を合わせて31本ノミネートされた。フランスのみならずヨーロッパでは、短中編でデビューした後、それを足がかりに初長編に至るのが一般的なプロセスとなっている。マ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:30 PM

July 11, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(3) シャルロットによるジェーン、トッドによるヴェルヴェット・アンダーグラウンドーーシャルロット・ゲンズブール『JANE PAR CHARLOTTE』とトッド・ヘインズ『THE VELVET UNDERGROUND』
槻舘南菜子

シャルロット・ゲンズブール『JANE PAR CHARLOTTE』©Nolita Cinema / Deadly  カンヌ国際映画祭に新設された「カンヌプレミア」部門の一本である、シャルロット・ゲンズブールの初長編『JANE PAR CHARLOTTE』のタイトルは、アニエス・ヴァルダ監督『アニエスv.によるジェーンb』(1988)ーバーキンが、ヴァルダに送った手紙がきっかけとなり制作されたもの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:56 PM

July 9, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(2)それぞれの開幕上映作品たちーーレオス・カラックス『ANNETTE』、アルチュール・アラリ『ONODA』、エマニュエル・カレー『OUISTREHAM (BETWEEN TWO WORLDS) 』、コンスタンス・マイヤー『ROBUSTE (ROBUST) 』
槻舘南菜子

レオス・カラックス『ANNETTE』©CG Cinéma International  第74回カンヌ国際映画祭待望の開幕上映作品、レオス・カラックス『ANNETTE』。ドライバーとコティヤールの二大スターをキャスティングしたミュージカルコメディ?ほぼ全編に響く歌声は、感情の高揚や、劇的な展開を演出するためには機能しない。緑色のバスローブを纏うアダム・ドライバーはドニ・ラヴァンを彷彿とさせ、『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 AM

July 6, 2021

第74回カンヌ国際映画祭報告(1)第74回カンヌ国際映画祭開幕ーーフランスのための国際映画祭
槻舘南菜子

 7月6日、2020年のロックダウン下での中止を経て、第74回カンヌ国際映画祭(7月6日―17日)が開幕する。今年は国際コンペティション部門24本中、仏監督作品7本、仏共同製作作品は11本と、例年よりもさらに仏関連作品が多くを占める結果となった。例年、コンペティション部門に数本入る初長編は皆無、初めてカンヌ入りする監督や新人の発掘は、ある視点部門と特別上映部門に、その役割を移した。昨年から待望され...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:19 PM

May 3, 2021

『ビーチバム まじめに不真面目』ハーモニー・コリン
結城秀勇

 この映画ではムーンドッグ(マシュー・マコノヒー)と誰かが会話するほとんどのシーンで、同じ会話をちょっとだけシチュエーションを変えて繰り返す複数のテイクが撮影されていて、完成した『ビーチバム』という映画の中ではその違うテイクにまたがるふたりの人物がありえない会話を平気な顔で行う。たとえば、ムーンドッグとワック船長(マーティン・ローレンス)が波止場で釣りをするシーンでは、並んで釣糸を海に垂らすふたり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:04 PM

April 13, 2021

『水を抱く女』クリスティアン・ペッツォルト
梅本健司

 『水を抱く女』において、しつこいほど繰り返されるバッハのピアノソナタは、何度か急に切断されたように聞こえなくなる。それほど長い曲でもないのだからすべて使っても差し支えないだろうが、クリスティアン・ペッツォルトはそれをしないでブツッと音楽を中断させる。この劇伴の急な停止はどこか映画に亀裂のようなものが生まれた印象を与える。実際にその中断が起こるシーンを見てみよう。  ピアノソナタがはじめに流れるの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 PM

April 5, 2021

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『ジャック・リヴェット、夜警』クレール・ドゥニ
池田百花

 画面の中に物静かに佇むジャック・リヴェットと、その隣で彼に饒舌に語りかけるセルジュ・ダネー、そしてクレール・ドゥニが彼らに向けてカメラを構える。昼の部と夜の部からなるこのドキュメンタリーには、パリの街を回りながら、リヴェットとダネーが映画を巡って会話を重ねる様子が映し出されている。  ふたりの間で交わされる会話の応酬に終始魅了される2時間の中でも特に忘れがたいのは、夜の部の冒頭でリヴェットが、『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:02 PM

April 3, 2021

『ノマドランド』クロエ・ジャオ
結城秀勇

 鉱山とともに生まれ続いた小さな街が、閉山とともに消滅する。商売がなくなれば人がいなくなり、人がいなくなれば街がなくなる、というのはどこの国でも同じだろうが、最後の住民が街を去るか去らないかのうちに郵便番号が消滅してしまうというのは、ひどくアメリカ的な光景に思える。人々に見放された建物はまだそこにあり続けているのに、その場所を示す番号はない。  ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、新たな番号...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:40 PM

March 24, 2021

『内子こども狂言記』後閑広
渡辺進也

愛媛県の内子町に内子座という芝居小屋がある。僕は文楽への興味から知っていた。例えば、文楽を題材にとった三浦しをんの小説『仏果を得ず』の中で、内子座は次のように紹介されている。 「大正時代に建てられた内子座は、今も現役の劇場として活躍中だ。櫓があり、床も天井もすべて板張りの古い建物は、町の人々に大切にされている。(......)入口にはためく色とりどりの幟。靴を脱いで建物に上がる構造。みしみしと音...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 PM

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『涙の塩』フィリップ・ガレル
池田百花

 街がモノクロで映し出され、地方から進学のためにやってきた男性が、通りの向こうでバスを待つ若い女性に声をかける、ひとつの美しい「愛の誕生」から始まる物語。しかしこの青年リュックは、ここでジェミラという女性を残して田舎に戻ると、幼なじみの恋人ジュヌヴィエーヴと再会し、彼にまっすぐな愛情を向けるジェミラを反故にして、ジュヌヴィエーヴを選ぶことになる。しかしそれもつかのま、自分との間にできた子供を妊娠し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:18 PM

March 21, 2021

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『涙の塩』ウラヤ・アマムラ、スエリア・ヤクーブ、ルイーズ・シュヴィヨット インタヴュー

本インタビューを読むことで、フィリップ・ガレルがいかに3人の若い俳優たちと誠実に向き合い、彼女たちとともに映画を撮ってきたかが伝わってくるだろう。特に脚本段階では、俳優たちとのコミュニケーションから、細部を柔軟に変えていることが、スエリア・ヤクーブとルイーズ・シュヴィヨットの言葉から伺える。シュヴィヨットの述べた「遭遇するふたつの『若さ』についての映画」という言葉は重要である。  また、彼女たち3...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:43 PM

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『8月のエバ』ホナス・トルエバ
渡辺進也

バカンス中のマドリード。エバはこの時期に街にとどまることを決め、バカンスに出かける知人から部屋を借りる。一通り、部屋の説明を受けた後、部屋の貸主は、ライター業をしているのだろうか。おもむろに最近書いた記事の話をする。「この前、スタンリー・カヴェルの追悼記事を書いたよ。スタンリー・カヴェルを知っているかい。1930年代のハリウッドのコメディ映画についての本を書いた人だ。その本のタイトルは『幸福の追求...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

March 17, 2021

『あのこは貴族』岨手由貴子
隈元博樹

 第一部の華子(門脇麦)が乗ったタクシーから見える東京と、第二部の美紀(水原希子)が乗った弟の車から見える富山。ともに元旦の日、佐々木靖之のキャメラは横移動を通じて、2016年を迎えた無人の都会と2017年を迎えたシャッター街の田舎を対照的に映し出す。場所や時間さえも異なる場所。しかし、それぞれの光景に対するふたりの視線の矛先は、どこか同じような気がしてならない。  東京の松濤で生まれ育った良家の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:20 AM

『二重のまち/交代地の歌を編む』小森はるか+瀬尾夏美
中村修七

 『二重のまち/交代地のうたを編む』は、見る者に戸惑いと驚きをもたらす素晴らしい作品だと思う。この作品がもたらす戸惑いと驚きについて、3点ほど書いてみたい。  まず1点目として、『二重のまち/交代地のうたを編む』は、その複数的なあり方によって、作品に触れる者を戸惑わす。2020年の恵比寿映像祭では、映像作品として『二重のまち/交代地のうたを編む』が上映されるほか、インスタレーション作品として展示さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 AM

March 12, 2021

《第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって》『ルーベ、嘆きの光』アルノー・デプレシャン
池田百花

 ルーべの警察署を記録したドキュメンタリーをもとに作られたこの映画では、登場人物のほとんどが実際に街に住む人たちからなり、主要人物である新米刑事のルイ(アントワーヌ・レナルツ)と警察署長のダウード(ロシュディ・ゼム)、そして彼らの調査対象となるクロード(レア・セドゥ)とマリー(サラ・フォレスティエ)というカップルの4人だけを職業俳優が演じている。主人公であるダウードは、家族を持たず、昼夜仕事に徹し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:21 PM

March 2, 2021

『二重のまち/交代地のうたを編む』小森はるか+瀬尾夏美監督インタビュー

 つくり手たちは四人の登場人物ーー彼らはまちの外からやってきて、まちの人に話を聞き、まちについて書かれたテキストを朗読するーーを「旅人たち」と呼ぶ。バスに揺られる若い女性の姿に、彼女の声のナレーションがすうっと被さるとき、それを見る観客たちもまたこの「まち」に漂い着いたひとりの旅人になる。  このまちには、地面の下にもうひとつのまちがあるらしい。このまちの少し遠い未来を描いた物語があるらしい。旅人...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 AM

February 27, 2021

『二重のまち/交代地の歌を編む』小森はるか+瀬尾夏美
結城秀勇

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019でこの作品を初めて見たときにもっとも強く印象に残ったことは、一世代後を想定した物語をいとも軽々と追い越し覆い尽くす現実のーー資本主義経済の、と言うべきかーー恐るべき速度と、それに対するささやかだがしなやかな抗いだった(詳細はこちら)。映画祭の公式ガイドブックである「スプートニク」では、富田克也がこの作品と小森の『空に聞く』の二作品について文章を書いていて、そ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:01 PM

December 17, 2020

東京国際映画祭&フィルメックス日記2020
森本光一郎

10/31  今年は東京国際映画祭とフィルメックスが同時開催ということで、外出する機会も減って喜んでいたのだが、蓋を開けてみると本当に文字通りの同時開催だったということを最初に言っておくべきだろう。今年はコロナの関係であまり出歩きたくなかったので、三大映画祭のコンペに選出された作品を出来るだけ観ることに設定した。その結果、昨年の釜山映画祭のように常に移動しているようなスケジュールにはならなかったの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 AM

November 20, 2020

『空に聞く』小森はるか監督インタビュー

東日本大震災の後、約三年半にわたり陸前高田災害FMのパーソナリティをつとめた阿部裕美さん。『空に聞く』では、地域の人々の声を聞き、その声を届ける彼女の日々が映されている。かさ上げ工事が進み、新しいまちが作られていく中で、どのようにして暮らしていくのか。 小森はるか監督に、阿部裕美さんのことや「空」に込められた思い、また「あの時にしか撮れなかった」と監督自身が語るファーストシーンのことなどお話を伺っ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:00 AM

November 2, 2020

《フィルメックス・レポート》『逃げた女』ホン・サンス
梅本健司

 3日間、それが連続した日々なのか、あるいはたった1日の3つのパターンなのかは曖昧だ。約30のショットがその3日間にそれぞれほぼ均等に配分されている。『正しい日 間違えた日』の2つの1日が似ているようで違う時間だったとすれば、本作の3日間あるいは、3つの1日は、まったく違うようで似ている時間にも見える。  主人公であるキム・ミニは、そんな日々のなか、3人の女性と再会する。目の前のものに時にたじろぎ...全文を読む ≫

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November 1, 2020

『空に住む』青山真治
隈元博樹

 高層マンションのエントランスを捉えた監視カメラの映像に、小早川直実(多部未華子)が映り込む。彼女が背負う特殊な形をしたリュックの中には、ハルという飼い猫も潜んでいるようだ。両親と死別したことをきっかけに、直実は叔父夫婦の計らいでこのマンションに越してきたことがのちにわかるのだが、唐突とも言える冒頭のショットによって『空に住む』は始まる。「空に住む」かのごとく39階の広々とした新居はどこか単身+ペ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:59 PM

October 15, 2020

『スパイの妻<劇場版>』 黒沢清監督 インタヴュー

 いよいよ劇場公開を迎える黒沢清監督による初の8K作品『スパイの妻』(2020年度ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞受賞作)は、太平洋戦争前夜の神戸を舞台とした氏にとって初めての時代物の作品である。つねに我々の同時代に潜んでいる亀裂を、ごく当たり前の風景に見出し続けてきた黒沢清監督は、世界史を揺るがす激動が足音を潜めて迫り来る時代への孤独な闘争を織りなすひと組の夫婦に、いかなる視座をもって、いかなる光...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:35 PM

September 26, 2020

『イサドラの子どもたち』ダミアン・マニヴェル監督インタビュー

 神話的なダンサー、イサドラ・ダンカンはモダンダンスの祖である。1913年4月19日、4歳と6歳の彼女の子供ふたりを乗せた車がセーヌ川に転落。ふたりとも溺死した。彼女はその事実から立ち直ることができなかった。  ダンカンというダンサーについてなにも知識を持たないままにこの映画を見始めた観客にまず知らされるのは、上記の事実だけだ。いわゆるイサドラ・ダンカンについてのドキュメンタリーでも、イサドラ・ダ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 AM

September 11, 2020

『行き止まりの世界に生まれて』ビン・リュー
二井梓緒

 もし映画に、この監督にしか撮れないというものがあるならば、たとえその監督でさえも一生にたった一度しか撮れないものもある。『行き止まりの世界に生まれて』はまさにそんな作品だ。監督であるビンが12年間撮り溜めた映像の数々は眩く、彼とその仲間たちの人生を私たちはスクリーンを見ながら辿っていく。なんて贅沢なんだろう。  ファーストカットで、主人公とその仲間がボードで明け方の大通りを駆け抜ける。奇しくも日...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:50 PM

September 4, 2020

『眠る虫』金子由里奈
新谷和輝

 幽霊の声はどこから出ているのか、という突拍子もない好奇心に駆られた主人公の芹佳那子は、バスで遭遇した謎の老婆の歌に導かれ、彼女を追ってやがて地図上にない街をさまよう......。というふうにこの映画の導入をまとめると、なんだかとても不思議でファンタジックな作品のように思える。しかし、『眠る虫』で描かれる世界は、ぼやけた夢のようなものではなくて、基本的には、くっきりとした視覚と聴覚に支えられている...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:01 PM

August 15, 2020

『鏡の中の亀裂』リチャード・フライシャー
結城秀勇

 オーソン・ウェルズ、ジュリエット・グレコ、ブレッドフォード・ディルマンの主要三役者がそれぞれ一人二役を演じ、土木現場で働く労働者階級と彼らの事件を弁護することになる上流階級とでほとんど相似形の三角関係が進行する物語である、......ということを説明するところから語り始めるほかないこの作品なのだが、見終わって一晩経ってみると、この映画のキモはそこじゃないんじゃないか、という気もしてくる。なぜなら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:17 PM

August 12, 2020

『デリンジャーは死んだ』マルコ・フェレーリ
結城秀勇

 ガスマスクのデザイナーであるミシェル・ピコリに向かって同僚が読み上げる論文?広告文?の(5月革命直後という時代の影響が露骨に滲み出た)文章の中に「もしあらゆる人々がマスクをつけることを強制される社会が到来したら」というフレーズがあることにギョッとせずにおられる者など、この2020年に生きる人間の中には誰ひとりいないことは間違いないのだが、しかし同僚が自信満々に延々と読み上げ続ける文章とガス実験室...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:48 PM

July 17, 2020

『はちどり』キム・ボラ
鈴木美乃里

 この作品の主人公である14歳の少女ウニ。彼女の父親は、自分を誇示し、気に入らないことがあると家族に罵声を浴びせていた。兄は怒りにまかせて殴ってくるし、両親はそれを喧嘩と捉える。母は勉強のことや人の目しか気にかけず、立場の似ている姉は、親からのプレッシャーに耐えかね塾をサボっては遊び歩いていた。  ウニはそんな家族の顔を見つめてみた。父の泣いた顔。兄の不安で強張った表情。何も手につかず茫然と座る姉...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

July 11, 2020

『おばけ』中尾広道
結城秀勇

 木々の深い緑を背景に黄色い蚊柱が立つ、美しいファーストカット。続いて、映画は山の中の木や草を断片的に映していく。そこにひとりの男が現れ、なにかを見つけたように立ち止まり、やや上方を見上げる。そしておそらく彼の主観なのだろう次のカットで、緑の背景の前をきらきら光る円形のものがふわふわと移動していくのを観客は目にする。  それがこの作品のタイトルである「おばけ」、つまり写真等の撮影時に強い光がレンズ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

June 11, 2020

『アトランティックス』マティ・ディオップ
梅本健司

 『アトランティックス』をいかにして語ればよいのか。冒頭のダカールの工事現場で働く男たちのシーンから一人の女が鏡に映る自分自身を見つめるラストショットに至るまで、この映画にはいくつかの筋立てやジャンルが混在している。例えば、山藤彩香が書いているようにメロドラマ的な要素を中心に語ることもできるだろうし、あるいはファンタジーとして、あるいは 刑事モノとしての要素を見つけることもできる。そういった複数の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

『アトランティックス』マティ・ディオップ
山藤彩香

 「結ばれるべき青年と少女がいて、しかし少女には望まぬ婚約者がおり......」というあらすじから、「ああ、少女の心が青年と婚約者のあいだで揺れるのだろうな」と類推しにかかった自分の浅はかさを恥じた。少女エイダの心は青年と婚約者のあいだとで揺れてなどおらず、想いはずっと青年に注がれていた。では、なにがどのあいだで揺れていたのかといえば、青年と少女が初夜をめぐって此岸と彼岸を揺れていたのだ。  家の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:12 PM

June 10, 2020

『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』ボー・バーナム
ゆっきゅん

 主人公のケイラがYouTubeに公開している自己啓発的な動画で始まる『エイス・グレード』は開始1秒でSNS時代を生きる若者たちへ向けて作られた映画であることを宣言してくれる。中学卒業と高校進学を目前に控えた主人公のケイラは、コンスタントに動画投稿をしているが、それを見ている人はほとんどいない。学校で年間無口賞を獲ってしまうような、友達のいない中学生だった。唯一の家族である父親との関係もうまくいっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:07 PM

June 2, 2020

『映画よ、さようなら』フェデリコ・ベイロー
二井梓緒

 勤めはじめてからの25年間、ホルヘの居場所はずっと両親の代から続く映画館(シネマテーク)だった。年々映画館に足を運ぶ人は減り、賃料の支払いは半年以上遅れ、ついには財団から「シネマテークは営利事業とは言えない」と支援は打ち切られ、ついに映画館を閉めることになる(これはまさにいま、日本のミニシアターが置かれている状況ではないか)。閉館日、看板の灯りを消し、荷物をまとめてバスに乗ったとき、彼の頬には涙...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:20 PM

May 5, 2020

『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』ショーン・ベイカー
二井梓緒

 この映画のラスト、主人公のジェーンは、道路脇に停めた車で待つチワワと老女ーーセイディーーを二度振り向く。一度目のあと車窓越しに彼女を見つめていたセイディは視線をそっと正面へずらす。反射する太陽の光に包まれたジェーンは少し立ち止まった後、老女の待つ車へと歩いていく。このシーンはふたりの関係性が変わっていくことを示すが、その先は誰にも分からない。映画の最後に観客に与えられた解釈の自由は、『タンジェリ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:08 PM

May 2, 2020

『ギャスパール、結婚式へ行く』 アントニー・コルディエ
池田百花

 物語は、そのタイトルが示す通り、主人公の青年ギャスパールが父親の再婚の結婚式に出席するため、動物園を経営する実家に向かうところから始まる。旅の途中でローラという女性と出会った彼は、久々に再開する家族の手前、彼女に恋人のふりをしてほしいと半ば無理やり説得し、ふたりを乗せた電車は舞台となる動物園に向けて走り出す。ローラを演じるのは、『若い女』(2017、レオノール・セライユ)で強烈な魅力を放っていた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:35 PM

April 30, 2020

『アンカット・ダイヤモンド』ベニー・サフディ、ジョシュ・サフディ
佐藤彩華

 ジョシュとベニーのサフディ兄弟は、今や米インディペンデント映画界で最も注目を集める重要な若手映画作家のひとり(ふたり)だ。ユダヤ教徒の家庭に生まれニューヨークで育ったふたりが、同じくユダヤ系のアダム・サンドラーを主演に迎えた新作『アンカット・ダイヤモンド』は、強烈なインパクトと狂気を孕んだ一作で、1/31にNetflixでリリースされてから日本でも評判が評判を呼んでいる。それもそのはず、2010...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:58 PM

April 28, 2020

『コジョーの埋葬』ブリッツ・バザウレ
池田百花

父のコジョーは7年間同じ夢を見た 夢では海が地を飲み込み炎が燃え盛っていた 父は誰にもこの夢のことを話さなかった それがただの夢ではなかったことも それはむしろ記憶のようなもので 忘れられない記憶のようなものだった  若い女性のモノローグによって誘われるのは、彼女が生まれる前、ある辛い出来事を経験し心に傷を負った父が引っ越して来た、水だけに囲まれた遠い村だ。彼は、水だけが過去を浄化できると信じ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:10 AM

April 26, 2020

『The Green Fog』ガイ・マディン、エヴァン・ジョンソン、ガレン・ジョンソン
結城秀勇

 「映画のはじめのほうで、ジェームズ ・スチュアートがマデリンのあとをつけて墓地にやってきたとき、彼女をとらえたショットはすべてフォッグ(霧)フィルターをかけて撮影し、ぼんやりと夢のような、謎めいたムードをだすようにした。あかるい太陽がかがやいているところに一面に霧がたちこめているような、淡いグリーンの色調だ」(『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』)。ヒッチコックのこのような発言を見るなら、『め...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:49 PM

April 24, 2020

『ルディ・レイ・ムーア』クレイグ・ブリュワー
結城秀勇

 かなりの評判をこの数ヶ月間聞いてきた『ルディ・レイ・ムーア』をやっと見た。ご多分にもれず号泣。  実在のコメディアン・映画プロデューサーの伝記映画なのはなんとなく知っていたから、もう60歳に手が届こうというエディ・マーフィの起用は、てっきり一瞬の栄華を極めた男のその後の衰退までを描くことを意味しているのかと思っていた。『ハッスル&フロウ』『ブラック・スネーク・モーン』に続くはずの三部作の完結編の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:49 PM

April 23, 2020

『37セカンズ』HIKARI
二井梓緒

 スーザン・ソンタグは、『隠喩としての病』の中で病気それ自体よりもそれに付随する隠喩や言葉のあやが一人歩きしているという。彼女がいう病気はとりわけ目に見えないものであるが、障がいもそれに当てはまるのではないだろうか。  まだこのような状況になる前、アップリンクに通い詰めていた時期によく流れていた『37セカンズ』の予告を見てそんなことを考えていた。それだけでなんだか満足していたし、気づけば映画館は閉...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:17 AM

April 11, 2020

『ザ ・ライダー』クロエ・ジャオ
梅本健司

 この映画の主人公ブレイディ・ブラックバーン(ブレイディ・ジャンドロー)が初めて馬に乗り、広野を走り抜ける姿をわれわれが目にする時、すでにこの映画では四十分近くが経過している。確かに白馬が、誰もいない広野を走り抜けるというシーンは美しいし、見ていて心地よい。だが、こうした心地よさにこの映画の本質があるわけではない。  そのシーンの後、ブレイディが馬を調教するシーンがおかれる。それは『ザ・ライダー』...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:17 PM

April 9, 2020

『東京のバスガール』(配信タイトル『若い肌の火照り』)堀禎一
二井梓緒

 暗い日々が続いていますね、私はネットでピンク映画ばかり見ています。  といっても、そもそもピンク映画に特に関心があったわけでもなく、もっと言うなら苦手だった。が、それでもいくつか観ていくと、ピンク映画という私の概念が揺らいでいくような素晴らしい作品がたくさんあることに気づいたのである。エロがあってもなくても映画は映画であってそれだけでもう最高なのだ!  堀禎一の作品もそんな映画だった。どの作品も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:31 PM

April 7, 2020

『あとのまつり』瀬田なつき
結城秀勇

 「忘れねえよ」と呟いたはずの僕らは、それでもいろいろなことを忘れていたのだった。たぶんそれは、災害のせいでも、病のせいでも、ない。  2009年当時のインタビューで瀬田は、当初この作品が「まつりのあと」と名付けられていたのだと語り、でもそれが桑田佳祐の歌と同じタイトルだったから、「まつり」と「あと」を逆転させて「あとのまつり」になったのだと言っている。  もう半年も経てば「まつりのあと」だったは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 AM

March 31, 2020

『金魚姫』青山真治
梅本健司

 ある女性が目に涙を浮かべ、もはやどうすることもできないことを言葉にするとき、隣でスマホを食い入るように見ている男がいることを気にかけることなく、カメラは彼女ひとりに寄っていく。一見このショットは、その空間にいるふたりの関係を切り裂いてしまうショットに見える。そして彼女の語りだけが聞こえてきて、ひとりの女性のモノローグが始まるのだと確信さえする。しかしこのショットはモノローグで終わることはない。カ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:25 AM

March 29, 2020

『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』平良いずみ
結城秀勇

 沖縄の言葉、ウチナーグチには「悲しい」という言葉がない。それに近いのが「ちむぐりさ」だが、それは自分が悲しいんじゃなくて、誰かが悲しんでいるのを見て「ちむ=肝」が苦しくなる気持ちなのだ。そう語る冒頭のナレーションの背後で、ザ・フォーク・クルセダーズ「悲しくてやりきれない」のウチナーグチバージョンが流れている。  「悲しくてやりきれない」が、発売中止になった「イムジン河」のメロディを逆にたどって作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

March 28, 2020

『春を告げる町』島田隆一
結城秀勇

「漬物あげてくっか」 「いーがらいーがら!......持ってきたら食うげんとぉ」 全員爆笑。  仮設住宅の茶の間で繰り広げられていたそんな寄り合いが、ものすごい速度で解体される。引越しの準備をし、ボランティアの人がやってきて荷物を運び出し、人が出て行き、まだ扉も閉めず話をしている最中なのに車が走り出す。その見事な編集の速さに目を奪われるとともに、この速さこそ彼らが被った状況の核心を示しているとも感...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 PM

February 27, 2020

「魚座どうし」山中瑶子
結城秀勇

 魚座の「う」の字も出てこないが、とりあえず魚たちは死んでゆく。してみれば、魚座とは死せる魚たちの星を背負って生まれた子供たちの謂なのか、しかしその魚たちを殺すのもまた子供たち自身なのだ。弱い者はさらに弱い者を殺す。彼らは無垢ではない。ただ、魚を水から掬い上げるように、口に爆竹を詰めるように殺す大人たちから殺されないために必死なだけだ。  まともな大人たちなんて誰ひとりいない。大人たちは、縄跳びを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:27 AM

February 20, 2020

『風の電話』諏訪敦彦
白浜哲

生き残った者たちは日常を生きていかなければならない。主人公ハル(モトーラ世理奈)が旅先で出会う人々はそれぞれの苦しみに向き合いながら、一人の少女に寄り添い、食事をともにし、いくつかの言葉を交わす。その言葉と言葉のあいだに深い沈黙が埋め込まれているかのような息づかいのリズムに諏訪敦彦の演出の特徴をみることもできるが、この『風の電話』という一本のフィルムが圧倒的な豊かさでわたしたちに提示するものは、絶...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

February 15, 2020

『ジョジョ・ラビット』タイカ・ワイティティ
隈元博樹

 ヒトラーユーゲントの小さな軍服を身に纏った少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友人であるチョビ髭面のアドルフ(タイカ・ワイティティ)から正しい「ヒトラー」のイントネーションを叩き込まれている。過剰なまでの連呼合戦によってアニマル浜口ばりの気合いを注入された彼は、「ハイルヒトラー!ハイルヒトラー!」と快活に喚き散らしつつ、ドイツ版「I Want To Hold Your Ha...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:28 PM

第49回ロッテルダム国際映画祭報告(2) 1970年代アンダーグラウンドの旗の下に
槻舘南菜子

 ロッテルダム国際映画祭は、1966年からオランダのアート系映画館Wolfeのプログラムを手がけ、同映画館で若い世代の作家を紹介していたユベール・バルをディレクターとして、1972年に創設された。1970年代半ば、フィリップ・ガレルは、ロッテルダム国際映画祭でその後「彼の世代」の作家となるシャンタル・アケルマン、ヴェルナー・シュローター(*)に出会った。当時のガレルは、フランスですらほとんどの作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:16 PM

February 9, 2020

『リチャード・ジュエル』クリント・イーストウッド
結城秀勇

 リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)がワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)に出会うあの冒頭のシーンの、妙な気持ち悪さはなんなんだろうか。備品補充係としての勤務の初日から、仕事に必要なペンもテープもしっかりそろっていて、さらにはゴミ箱の中身からワトソンの好物だと推測されたスニッカーズさえしれっとキャビネット内に補充済み、という普通の意味での気持ち悪さもあるのだが、それはまあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:18 AM

February 8, 2020

第49回ロッテルダム国際映画祭報告(1) 遠藤麻衣子監督インタヴュー
槻舘南菜子

昨今の国際映画祭では、韓国や中国などのアジア諸国と比較しても日本映画、とりわけ若手監督の存在感は著しく希薄だ。そんな中、ロッテルダム国際映画祭ブライトフューチャー部門に、小田香監督『セノーテ』とともに遠藤麻衣子監督『TOKYO TELEPATH 2020』がノミネートした(本作は第12回恵比寿映像祭にて上映予定)。すでに初長編『KUICHISAN』でイフラヴァ国際ドキュメンタリー映画祭にてグランプ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 PM

January 23, 2020

『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』ジョナサン・レヴィン
結城秀勇

 『アトミック・ブロンド』のシャーリーズ・セロンを見たときに思ったのは、冷戦時代の二重三重スパイの話で彼女は西側の人間か東側の人間かわからない、というのがストーリーのキモではあるものの、いや単純にいまシャーリーズ・セロンが地理的に西か東かどっち側にいるシーンなのかよくわかんなくね?ってことだった。そんで彼女はその境界線付近をゴロゴロゴロゴロ転がっていたのだった。  『ロング・ショット』のセロンにも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:46 PM

January 21, 2020

アルノー・デプレシャンによるジャン・ドゥーシェ追悼

 2019年11月22日、アルノーよりメールが届く「ジャンが今晩、亡くなった。彼は最後の瞬間まで、素晴らしく、快活で、輝いていたよ。ジャンはエピキュリアンなローマの王子様のようだった。彼は人生と映画を結びつけた。そして日本を、日本映画をとても愛していた。彼は僕の師匠だった......。僕は彼の生徒であったこと、彼の友人であったことをこの上なく誇りに持っている」。そしてそれから数日後、雨が降りしきる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:53 PM

January 19, 2020

『自画像:47KMのスフィンクス』『自画像:47KMの窓』ジャン・モンチー インタビュー

「物語を語るのは、人々だけではない」 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019で出会った、『自画像:47KMのスフィンクス』『自画像:47kmの窓』というふたつの作品に心を奪われた。「47KM」と呼ばれる山間の小さな村で、年老いた人々が人生の出来事を語り、その合間に村人たちの生活が差し挟まれていく。ある青年は倒れかけた木に登り、ある少女は村とそこに住む老人たちの絵を描き、子供たちは笑い遊ぶ。同じ村で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:42 PM

『花と雨』土屋貴史
隈元博樹

 SEEDAによるアルバム「花と雨」をタイトルに据えた本作は、自身をめぐる過去の境遇や事実を原案にした映画ではあるものの、ひとえにラッパーとしての苦悩や葛藤を赤裸々に綴っているだけのものではない。たしかにそれらは同名の曲「花と雨」の中で刻まれるリリックしかり、早逝した姉との記憶やそこに生じる悔恨の念として受け止めることができるだろう。ただし、そうしたいかなる状況が待ち受けたとして、彼がけっして手放...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:42 PM

January 10, 2020

『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ
結城秀勇

 先行上映を見に行ったら、上映前に監督からもキャスト一同からもビデオメッセージで「ネタバレしないで」と言われ、はたしてなにを書いたものかと。しかもこれ、なにか一個言っちゃいけないことがあるというより、中盤以降ほとんど全部そうじゃねーか。書きようがない。ということで、未見の方は読まないでください。  映画が始まってすぐに『ヘレディタリー/継承』を思い浮かべてしまったのは、冒頭の地面すれすれにある窓へ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:33 PM

January 9, 2020

『フォードvsフェラーリ』ジェームズ・マンゴールド 
千浦僚

 これもまた、挫折と表裏一体のヒロイズムを謳ってきた監督ジェームズ・マンゴールドらしい映画だ。マンゴールドは自身のフィルモグラフィーのノンジャンルさ多彩さを誇るかもしれず、それはそのとおりだが、評するうえでの怠慢や単純化ではなくやはりそこには作り手としての一貫したもの、翳りがある、反転を重ねた現代的な英雄像を描く意志を感じる。  明らかに各出演作ごとの変身を楽しんでいるクリスチャン・ベイルは本作で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:07 PM

January 1, 2020

『マリッジ・ストーリー』ノア・バームバック
隈元博樹

 おたがいの長所を語る一組の夫婦のモノローグと、そのモノローグに呼応するようにして過去を振り返るフラッシュバックが続いたあと、時制は別々のソファに座った夫婦を離婚調停員がなだめている場面へと転換する。妻は夫に視線を合わせることもなく、激昂したのちに席を立ってしまうが、その場面からチャーリー(アダム・ドライバー)とニコール(スカーレット・ヨハンソン)の薬指にはめられた指輪をずっと眺めていた。それはこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:50 PM

December 28, 2019

『死霊の盆踊り』A・C・スティーヴン
千浦僚

 「駄作と傑作を分かつものはなにか」に関して個人的な好悪を越えた、ある程度理論立てた説明や判断基準を持ってはいるが、それと同時にある映画について駄作的にならざるを得なかった背景などが伺い知れてその必然なり事情なりが感じ取れると、私的な感覚として傑作駄作の境界は曖昧になる。だがそれを素直に他人に敷衍して語ることはない。ただ迂遠に、映画そのものを、その"或る映画"と"映画というもの全体"を肯定したい気...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 AM

December 13, 2019

『カツベン!』 周防正行
千浦僚

 90年代初頭から最近までずっとちょこちょことフィルムによる映写をやっていた。大阪でミニシアターやシネクラブやポルノ館の映写をやり、02年に上京して試写室の映写技師をやり、ミニシアターのスタッフをやり、という経歴だったので、周防正行最新作『カツベン!』はそういうところからいろいろ感じることや思い出すことのある映画だった。  周防正行のこれまでの監督作のほとんどはそれぞれ異なる設定と筋書きながら、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:22 PM

December 12, 2019

『マリッジ・ストーリー』ノア・バームバック
結城秀勇

 しばしば気づいているはずなのに、いつもいつも忘れてしまうこと。スカーレット・ヨハンソンはけっこう背が低い。あのはち切れんばかりに膨らんだ胸とお尻のイメージで見積もるよりかなり小さい。しかもアダム・ドライバーと並ぶんだからだいぶ小さい。そして、知ってはいるけれど、アダム・ドライバーはいつもいつも思ってるよりでかい。ギュッと縦に押しつぶしたようなヨハンソンの身体と、びよーんと縦に引き伸ばしたようなド...全文を読む ≫

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December 10, 2019

『ゾンビランド・ダブルタップ』ルーベン・フライシャー
渡辺進也

 朽ちたホワイトハウスを前に、4人がゾンビたちと対峙するオープニングシーン。スローモーションの多用、ストップモーションの中でカメラだけが動いていく場面(『マトリックス』を思い出させる)などそのバカらしさがひたすら楽しい。だが、この「派手な」シーンはこの映画の中で、ほぼこのオープニングシーンにしかない。その後ホワイトハウス内での擬似家族としての生活、それからミニバンに乗りメンフィスを目指す、その後の...全文を読む ≫

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December 9, 2019

『野獣処刑人 ザ・ブロンソン』 レネ・ペレス
千浦僚

 すごいの見つけてきたな、おい!、と言いたい。  それは、スペインの西部劇テーマパークでこのチャールズ・ブロンソンのそっくりさんロバート・ブロンジーを発見して起用した監督レネ・ペレスに対してなのはもちろんだが、この映画を配給する江戸木純氏にも向けられる。わかるひとにはわかる話をすると、90年代に『ドラゴン危機一発 97』とか『新・ドラゴン危機一発』があったが、これが見事に羊の皮(パチモン、邦題のい...全文を読む ≫

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December 3, 2019

第20回「東京フィルメックス」日記②
三浦翔

フィルメックス日記①はこちらへ 2019/11/29  この日は映画鍋と共催のシンポジウム「映画の"働き方改革"〜インディペンデント映画のサステナブルな制作環境とは?〜」を聞きに行った。興味があったのは、実のところ経済産業省側の視点で、彼らは日本映画の現状をどう考えているか気になりその話が少しでも聞けたのは良かった。経済産業省にはコンテンツ産業課というものがあり、今年の夏に映画制作現場実態調査なる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:42 PM

December 1, 2019

『HHH:侯孝賢』オリヴィエ・アサイヤス
結城秀勇

 子供の頃よくたむろって遊んだという死者を祀る廟の前で、久しぶりに会った年長の知り合いに挨拶をしたら向こうは気づかず、「アハだよ」と言ったら向こうが「あー!!」ってなって肩をバシバシ叩いてくるときのあのホウ・シャオシェンの笑顔は、3、40年前のわんぱく小僧だったときも彼はこんな風に笑っていたのだなと思わせるなにかがあって、それだけで泣けてくる。  その直前のシーンで、彼は小さい頃によくマンゴーを盗...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:02 PM

November 29, 2019

『台湾、街かどの人形劇』ヤン・リージョウ
千浦僚

 伝統文化と父子関係についての興味深い、優れたドキュメンタリー。  八十年代末から九十年代前半の映画鑑賞体験を持つ者ならば侯孝賢監督作品の鮮やかさを記憶しているだろうし、その作品世界で独特の存在感を放っていた李天禄(りてんろく、リー・ティエンルー)のことは忘れもすまい。その李天禄の息子で、台湾伝統の"布袋戯"(ほていぎ、ポーテーヒ)という人形劇の演じ手である陳錫煌(チェン・シーホァン)を十年間取材...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 PM

November 28, 2019

第20回「東京フィルメックス」日記①
三浦翔

2019/11/26  今年のフィルメックスは出遅れて3日目からスタート。4日間しか参加出来ないけれど、可能な限り見ていきたい。  今年20周年を迎えるフィルメックスでは歴代受賞作人気投票が行われて、そのうち3本が上映される。上位5本のうち2本は「権利元や素材の確認が出来ず」とのこと。映画祭で観たきりになってしまう作品はたしかに多いが、そもそも上映したくても上映できない自体は悲しい。そういうことは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:28 PM

November 24, 2019

『楽園』瀬々敬久
三浦翔

 不条理に満ちた現代に、暴力を描くとはどういうことか。映画が暴力を描くときにしばしば動機を必要とするのは、理由のない無差別な暴力が単なる狂気でしかないからだ。そうやって暴力の理由を探すとき、映画は法廷に似るだろう。たとえば李相日の『悪人』は、出会い系サイトで会った女に裏切られた男がその女を殺す、という事件の犯人もその動機も冒頭から明らかで、彼が逮捕されるまでに生じた心の変化を通して「悪人」への理解...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 AM

November 12, 2019

東京国際映画祭日記2019
森本光一郎

10/29  この日は午前中に授業があったので午後からの参加。今年初めてプレスパスを申請したため、ビクビクしながら列に並ぶ。企業の名前を首から下げてる方なんかを見ると、映画祭に来たんだと強く意識させられる。そんなこんなで今年の開幕に選んだのはドゥニ・コテ『ゴーストタウン・アンソロジー』。監督の名前は知っているが、他の作品を全然知らない理由に考えを巡らせていたが、この作品がベルリンに来ていたことを思...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:55 PM

November 8, 2019

『ペインテッド・バード』ヴァーツラフ・マルホウル
森本光一郎

 ある鳥飼いが捕らえた鳥に色を塗って群れに返す。すると、群れに戻った鳥は同種のものでありながら異端者として迫害され、墜落して死亡する。作中にあるこんな挿話が題名の由来である。主人公の少年はユダヤ人の孤児であり、これまでずっと見知っていたであろう村人たちから"ユダヤ人だから"という理由でつま弾きにされ、ナチスにつき出される。そこに、あらゆる形態の児童虐待を詰め込んだ地獄の映画で、どちらかと言えば『炎...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

November 6, 2019

『ジョージ・ワシントン』デヴィッド・ゴードン・グリーン
結城秀勇

 デヴィッド・ゴードン・グリーンの処女長編である本作は2000年の映画だから、1997年の『ガンモ』とほぼ同年代の作品と言っていいだろう。廃墟はハリケーンによって生み出されていて、あたりにはゴミや動物の死骸や糞が散乱し、そこら辺をクソまみれの犬がうろついていて、それが当たり前であるような光景が広がっている。ひとつの街を舞台にしていながら、ひとつのショットか隣接を示すふたつのショットくらいで描かれて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:35 PM

October 27, 2019

『宮本から君へ』真利子哲也
結城秀勇

 宮本(池松壮亮)という男がわからなくなる。と言っても、別に彼の気持ちだとか感情だとか性格だとかがわからないと言いたいわけじゃない。わからないのは顔だ。時間軸が激しく前後して進むこの作品で、前歯のない宮本、目にアザをつくった宮本、左手にギプスをはめた宮本、なんだか知らないがいきなり声が嗄れてる宮本、とさまざまなレイヤーで損傷したり修復したりする宮本を見ていると、ふと無傷でなんの変哲も無いスーツを着...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:33 PM

October 22, 2019

『囚われの女』シャンタル・アケルマン
池田百花

 主人公がフィルムに映った若い女性たちの一団を眺め、その中のひとりに何度も愛を呟く場面から始まるこの映画は、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』の中の同名の一章が映画化された作品だ。この冒頭のシーンからすでに、スタニスラス・メラール演じる主人公シモンが恋焦がれる女性に向けるまなざしにはどことなく執拗で狂気を秘めた雰囲気が感じられ、一方で彼がまなざす先にいるヒロイン、アリアーヌを演じるシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

October 19, 2019

釜山国際映画祭日記2019
森本光一郎

2019年10月6日 人生初の釜山は少し肌寒い。空港に降り立ったのは13時だが、次の飛行機に乗ってきた友人と待ち合わせしていたのは17時だったので、先に海雲台のホテルに向かう。海雲台は今回のメイン会場であるセンタムシティとジャンサンのちょうど間にあり、夜遅くまで開いている店も多い。23時くらいまで映画を観ている身としては好都合だ。 海雲台の駅を出ると、大きな通りが海まで続いている。そして、大小様々...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

October 17, 2019

『これは君の闘争だ』エリザ・カパイ
田中竜輔

 ブラジル・サンパウロでの2013年の公共交通機関の値上げ、2015年の公立校の実質的な廃校に伴う教育予算の削減提言。それらに対する蜂起として、ブラジル全土を巻き込んだ特大規模の学生運動が組織される。『これは君の闘争だ』の主人公たるルーカス("コカ")、マルセル、ナヤラの3名は、もちろんその運動に積極的に参与した高校生たちである。本作でフォーカスされるのは、先述した教育予算の削減が立案された201...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:59 PM

October 16, 2019

『十字架』テレサ・アレドンド、カルロス・バスケス・メンデス
新谷和輝

 チリの映画で「1973年9月11日以降」を扱ったものと聞けば、おおよそのイメージがすぐに思い浮かぶ。アジェンデ政権を破壊したクーデターの衝撃的な爆撃映像、その後の独裁政権下で次々と行方不明となった市民たち、彼らを探して今なお苦しむ遺族......。これらのイメージが定着しているのには、パトリシオ・グスマンが自身のライフワークとして発表してきた作品群で、チリの「被害の歴史」を繰りかえし描いてきた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:36 PM

October 14, 2019

『空に聞く』小森はるか
結城秀勇

 タイトルにある「空」にはふたつの意味が込められている、と映画祭カタログに所収の監督のことばにはある。多少言葉を自分なりに言い換えてみると、ひとつは死者の魂の居所としての空(sky)、もうひとつはこの作品の主人公である阿部裕美さんの声が響く仮想の空間としての空(air)、というようなことではないだろうか。前者には過去が、後者には未来が対応している、などと言えなくもなさそうだが、その辺は見る者それぞ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:55 PM

October 13, 2019

『死霊魂』ワン・ビン
坂本安美

 王兵(ワン・ビン)の『鳳鳴中国の記憶』(2007)を見た体験は、忘れられない、特異な記憶として残っている。ひとりの老女が雪道を歩き、彼女の住む小さなアパートへと入って行き、テーブルの前に腰を下ろす。そして和鳳鳴という名の女性は語り始める。ほぼフィクスの映像の中の彼女の着ている赤い服、その小さな部屋、照明、そしてしだいに暗くなっていく外の光の推移と共に感じられる時間。一度、電話がかかってきて話を中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:23 PM

October 10, 2019

『典座ーTENZOー』富田克也
結城秀勇

 『サウダーヂ』以降、富田克也が監督する長編劇映画は、先行する「リサーチ」の成果物と対になっている。『サウダーヂ』に対する『Furusato 2009』、『バンコクナイツ』に対する「潜行一千里」(『映画 潜行一千里』も書籍の『バンコクナイツ 潜行一千里』もある)。「リサーチ」は出来上がった劇映画のいわばパラレルワールドのようにも見えて、同じ話題が繰り返されたり(『サウダーヂ』のモール建設予定地で目...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:03 PM

September 24, 2019

『旅館アポリア』ホー・ツーニェン@あいちトリエンナーレ2019
隈元博樹

 展示会場である愛知県豊田市の「喜楽亭」は、明治時代後期からつづいた料亭旅館であり、大正末期を代表する町屋建築として知られている。戦前は養蚕や製紙業、戦後は自動車産業と深く結び付く要人のための社交場だったらしいが、戦中は神風特攻部隊である「草薙隊」の若者たちが同市の伊保原飛行場から沖縄戦へと出撃する最後の夜に宿泊した場所でもあったという。現存する建物は1983年に復元移築されたものだが、シンガポー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:05 PM

September 16, 2019

カンヌ国際映画祭2019からパリへ(1) シネマテーク・フランセーズにおけるアルノー・デプレシャン全作特集
坂本安美

5月のカンヌ。ワールド・プレミア上映された作品を発見し、批評家を含めた映画人たちとそれら作品について即座に語り、批評し合う、国際映画祭特有のライブ感溢れる刺激的な体験がそこにある。そして8月の終わり、9月の初め(映画の題名のように!)のパリ。学校や仕事も切り替えの時期、カンヌでお披露目された作品を含めた新作が劇場公開され、新聞やラジオやテレビ、そしてカフェやディナーの席、映画館や道端でもさらに掘り...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:35 PM

September 13, 2019

『暁闇』阿部はりか
隈元博樹

「LOWPOPLTD.」名義の音楽をクラウド上で共有していたサキ(越後はる香)とユウカ(中尾有伽)は、その消失と引き換えに、物々しくそびえ立つビルの屋上とそこに佇むコウ(青木柚)の姿を発見する。その屋上とは、これまで彼らが身を潜めていた日常の狭々しい空間とは異なる、どこか開放的で無機質さを帯びた空間だ。学校の図書館から借りた三浦綾子の『続・泥流地帯』を読んだり、見知らぬ男性に買ってもらった花火に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:07 PM

September 12, 2019

『アラビアン・ナイト』ミゲル・ゴメス
田中竜輔

*2015年の広島国際映画祭及び関連上映企画にて上映されたミゲル・ゴメス監督『アラビアン・ナイト』が、「イメージフォーラム・フェスティバル2019」にて再上映されます。それに際しまして「NOBODY ISSUE45」所収の『アラビアン・ナイト』評を掲載します(再掲にあたって一部改稿を施しています)。同45号には本作についてのミゲル・ゴメス監督インタヴューも掲載、ぜひ上映に合わせてお読みください! ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 PM

September 11, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭③
隈元博樹

2019年9月8日(日) 連日の疲れから来たものなのか、朝からひどい腹痛に悩まされる。しばらくホステルで安静にしたのち、午前中は市営バスに乗って出町柳の「出町枡形商店街」へ。アーケードをブラブラ歩いていくうちに、大きな「出町座」の看板が目に留まる。おもむろに中へ入ると、中央には書籍の棚に囲まれるようにカウンターキッチンが配備され、劇場は地上階を挟んだ2階と地下1階にあるようだ。今回は出町座での映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:07 PM

September 10, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭②
隈元博樹

2019年9月7日(土) 遅く起きた朝。身支度を急いで済ませ、近所の「カフェー天Q まつ井食堂」で昼食を摂る。この食堂も千本通りに点在する町屋をリノベーションした店舗で、正面の引き戸を開けるやいなや、目の前にはDJブースやPA機器、アンプ一式が並んだスペースに二人掛けのテーブルやソファが並んでいる。おそらく日中は定食屋、夜はライブハウスに様変わりするのだろう。見る見るうちにお客さんも多くなり、厨房...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:00 AM

September 8, 2019

京都滞在日誌2019@ルーキー映画祭①
隈元博樹

2019年9月6日(金) もう何年ぶりかの京都。新横浜駅から新幹線「こだま」で約3時間の移動を経て、京都駅に着いたのが午後3時ごろだった。先週訪れた帰省先の福岡もひどい暑さだったけれど、ここ京都も引けを取らないほどの残暑に見舞われている。秋と言うにはまだまだ程遠いようだ。今回の滞在はグッチーズ・フリースクールと8/23にリニューアルしたばかりの京都みなみ会館による「ルーキー映画祭」なので、「初心、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 PM

September 1, 2019

『寝ても覚めても』濱口竜介@YCAM
渡辺進也

 上映前のレクチャーで、YCAM(山口情報芸術センター)で通常映画の上映をしている(ミニシアターのような)Cスタジオと、映画の上映のための施設ではなく、むしろ舞台などがメインで使う広い空間である(爆音映画祭の会場でもある)Aスタジオの2ヶ所で『寝ても覚めても』のいくつかの場面を聴き比べる。  Cスタジオがスクリーン正面、右、左。サイドの壁、重低音用など6~7個くらいのスピーカーを使っているのに対し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:01 AM

August 31, 2019

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」』クエンティン・タランティーノ
千浦僚

 いま自分が観ているこの映画は何であろうか、と思いつつ、散りばめられたというよりもその無数の細部に全体の重量を担わせるようなネタの連打、乱れ撃ちと、いくつかのシーンにおいてスクリーンにみなぎる映画らしい空間、時間、ムードによって楽しく観た。あっという間の百六十分。幾分ダラッとした穏やかな満足で、観終えるやいなやもう一回観てもいい気分。  しかし、もしそうしたとしてもおそらくこの『ワンス・アポン・...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 AM

August 28, 2019

『帰れない二人』ジャ・ジャンクー
坂本安美

 昨年、2018年カンヌ国際映画祭では、20世紀に立ち戻り、そこから現在へと遡及する作品が何本か見られた。『COLD WAR あの歌、2つの心』、『幸福なラザロ』、もちろん『イメージの本』もその一本として数えられるだろう。すべてが平面の上に浮かんでは消えていくような現在において、20世紀というすでにはるか遠くに思える時代に立ち戻り、21世紀との間にどうにか時間的遠近法を見出そうとする試みであるかの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:13 PM

August 17, 2019

『間奏曲』ダグラス ・サーク
結城秀勇

 8/16、アテネ・フランセ文化センターでの「中原昌也への白紙委任状」のトーク用に調べたことを簡単にメモしておく。 ・基礎情報 1. 1957年製作のこの作品は、以後サークのフィルモグラフィとして『翼に賭ける命』『愛する時と死する時』『悲しみは空の彼方に』という傑作群を残すばかりという監督として脂の乗り切った時代の作品にもかかわらず、研究書等でもきちんと触れられることが少なかった。アメリカ本国にお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

August 14, 2019

『ワイルドライフ』ポール・ダノ
梅本健司

 初雪が降り出す中、停車していたバスが出発する。ジョーにとって、初雪は山火事の消火に行っていた父(ジェイク・ギレンホール)の帰還を知らせる合図である。初雪を見た彼は、いてもたってもいられなかったのだろう、勢いよく、バスとは逆の方向に走り去る。カメラは、急ぐ彼とは打って変わってゆっくりとしたパンでそれを追う。そのゆっくりさがいい。速くカメラを動かさずとも、またカットを割らずとも、カメラを構えれば、あ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:12 AM

August 5, 2019

『彼女のいた日々』アレックス・ロス・ペリー
渡辺進也

 これだけ配信サイトがあると、いつ、どこのサイトでどの作品が配信が行われているのかが全くわからないでいる。以前みたいにDVDスルーだったらTSUTAYAの新作コーナーに行けばそこで追うことができていたけれど、それが配信になってしまうと、新しくリリースされていてもまあ気がつかない。僕の場合、ずっとみたいと思っていてみれない監督のひとりにアレックス・ロス・ペリーというアメリカの監督がいて、海外版のソフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:47 AM

July 21, 2019

第30回(2019年)マルセイユ国際映画祭(FID)報告
槻舘南菜子

 2019年7月9日から15日まで開催されたマルセイユ国際映画祭は、今年30周年を迎えた。35カ国以上から125本の作品が選ばれ、フランスにおける中規模映画祭として、圧倒的な国際性を有するジャンルの垣根を越えた豊穣なプログラムは今年も健在だ。記念の年を祝って、映画祭に所縁のある32人の監督の手がける40秒から4分の短編によって編まれたオムニバス映画が製作され、ラブ・ディアズ、クレモン・コギトール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:35 AM

July 18, 2019

『さらば愛しきアウトロー』デヴィッド・ロウリー
梅本健司 坂本安美

Just living  ひとりの男の背中が映る。奥では女が札束を鞄に詰め込んでいる。慌ただしいタイマーの音や警察の通信機から聞こえる会話とは異なり、彼はいたって落ち着いてる。女が札束を詰め終わると、男はベルを鳴らし、銀行を後にする。彼の顔は見えない。彼の動作だけに注目すれば、それが強盗なのだということさえ判らないだろう。そのように彼はいつも扉を開け、その人の前に立ち、その人を見つめ、お金を、車を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:47 PM

July 17, 2019

『旅のおわり世界のはじまり』黒沢清
結城秀勇

 それこそ某バラエティ番組のタイトルのように「世界の果て」と呼びたくなるような、ウズベキスタンの景色。あまりに巨大すぎる人造湖や、どこまでも広がる平原、人でごった返すバザール。だがぼんやりと見ているうちに思うのは、それが「世界の果て」まで来たからこそ目にすることができるありがたい映像として撮られているかと言えば、まあそうではないということだ。  劇中で撮影されている16:9サイズの番組用映像と比較...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:16 PM

July 14, 2019

中山英之展 , and then@TOTOギャラリー・間
隈元博樹

 会場の「ギャラリー・間」には、展示と上映を行うための3つの空間が存在する。3Fの展示空間には中山英之がこれまでに手がけた「2004」「O邸」「道と家」「弧と弦」「mitosaya薬草園蒸留所」「かみのいし」にまつわる参考文献やスケッチ、図面、写真、模型が縦横に広がり、台座の側面や壁面には自身の着想と考察を交えた直筆のキャプションが施されている。また外のテラスには、ベニヤ板に石の表面がプリントされ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:57 PM

July 5, 2019

『嵐電』鈴木卓爾
渡辺進也

 嵐電の駅に併設されたカフェで、8ミリの上映会が行われている。その中では一般の方が撮られた嵐電の姿が上映されていて、それが途中から『嵐電』の登場人物たちの姿が映る劇中のものへと変わってゆくのだが、それらが自然と並んでいることにすごく驚かされる。それは、単に各々の映像の質が似ているからということだけではなくて、作品と関係ないところで撮られた映像と作中の映像とが同じように並んで上映されていても不思議で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:50 AM

June 28, 2019

ギィ・ジル、感情の真実を追い求めて
ジュリアン・ジェステール

今回の日本でのギィ・ジル特集開催を何年も前から望み、提案し続けてくれ、そしてついに今年3月、第1回「映画/批評月間」開催のために来日した仏日刊紙「リベラシオン」文化欄チーフ、映画批評家のジュリアン・ジェステール。長らく評価されずに忘却、あるいは無知の中に葬られていたジルの作品が、2014年にようやくシネマテーク・フランセーズにて全作特集上映された際の同氏の記事、「ギィ・ジル、感情の真実を追い求めて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:26 PM

June 27, 2019

『幻土』ヨー・シュウホァ監督インタヴュー「Outside to Outside」

大規模な埋め立て事業によって、国土の拡張を図り続けるシンガポール。ヨー・シュウホァ監督の長編2作目となる『幻土』(げんど)は、そんな母国を舞台に、現場で働く移民労働者の失踪事件と、その真相に迫る刑事との混沌とした夢現な状況を描いている。刻一刻と変容する都市の景観、海岸沿いを覆うネオンの照射、そして異国の地で繰り返される日常の搾取に対し、いまだ見ぬ夢の場所を想像することとは、いったいどういうことなの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:43 PM

June 20, 2019

『スケート・キッチン』クリスタル・モーゼル
結城秀勇

 実在するNYの女性スケーターグループが自らを演じる映画、miu miuのショートムービープロジェクトから長編化された作品、ラリー・クラークの『KIDS/キッズ』が引き合いに出されるような「若者のいま」を切り取った作品......。まあなんかとにかくオシャレそう、くらいに考えていた前情報は、カミール(レイチェル・ヴィンベルク)がVANSのスニーカーと微妙な丈のショートパンツにインしたTシャツ、そし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:33 AM

June 8, 2019

『宝島』『七月の物語』ギヨーム・ブラック
結城秀勇

 ギヨーム・ブラックのこの二本の作品を(とはいえ『七月の物語』はさらに二本の短編からなるのだが)並べて語りたいと思ったのは、『七月の物語』の前半をなす「日曜日の友だち」と『宝島』が同じセルジー=ポントワーズのレジャーセンターというロケーションを共有しているから、ということももちろんあるのだが、それ以上の理由もある。アンスティチュ・フランセ東京での『宝島』上映後のトークでブラックは、『宝島』に登場す...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:54 PM

June 7, 2019

『ガーデンアパート』石原海(UMMMI.)
隈元博樹

 「庭付きのアパート」といったタイトルの由来は、本編を見終えたあともハッキリとわからないところではある。ただ、ひとまずこの映画に言えることは、居住空間を含めた登場人物たちの周囲には、彼らが横になるための場所がそこかしこに点在しているということだろう。それは妊娠中のひかり(篠宮由香利)と恋人の太郎(鈴村悠)が住む自宅のベッドをはじめ、彼の叔母の京子(竹下かおり)が暮らすアパートの寝室、酒瓶の並んだバ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:23 PM

June 4, 2019

『ナンバー・ゼロ』ジャン・ユスターシュ
結城秀勇

 モノクロ・スタンダードのざらついた画面で、ふたつのカメラ位置が時折切り替わる以外にはほとんど画面上の映像に変化らしい変化が起こらないとさえ言えるこのフィルムを見ていると、にもかかわらず、部分部分でカラーのイメージが思い浮かんだり、動きのある映像が思い浮かんだりする。たとえば、話がペサックの「薔薇の乙女」という祭りに及ぶとき、「ペサックの薔薇の乙女79」に収められたカラー映像の存在はそうした作用に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:20 PM

June 1, 2019

『ECTO』渡邊琢磨
隈元博樹

 客席とスクリーンのあいだに現れた13名の弦楽奏者と、彼らを指揮する渡邊琢磨の姿が捉えられたとき、トーキーシステムの確立前に行われていた劇場型の上映形態をふと夢想する。世界初のトーキー映画が1927年公開の『ジャズ・シンガー』とするならば、それ以前に上映されていた映画はサイレントであり、当時の人々はこのような映画体験を求めて劇場へと足を運んでいたのだろうかと。ただし、客席とのあいだから奏でられるト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:31 PM

May 27, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(6) 閉幕に寄せて
槻舘南菜子

 第72回カンヌ国際映画祭が5月25日に閉幕した。若手監督が多くノミネートした昨年に比べるとやや保守的、映画史を揺るがすような力強い作品に欠けたセレクションではあったものの、受賞結果について述べるのなら、そこにはこの映画祭にとって革新的とも言える面持ちが並んだ。審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イリニャイトゥは審査について、政治的なメッセージは一切関係なく、純粋に映画としていかに評価できるかが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:25 PM

May 26, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(5) 四人の女性監督たち
槻舘南菜子

  昨年(2018年)のカンヌ映画祭では、は映画産業での男女機会均等を求め、審査委員長ケイト・ブランシェットを含む82人の女性(この数字は、カンヌ映画祭誕生から昨年までにノミネートした女性監督の数に由来する、対して男性監督の数は1688人)がレッドカーペットを歩くという象徴的なイベントが開催された。今年もまたフランス女性監督の草分け的な存在であり、ジェーン・カンピオンとともに女性監督として唯一パル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:09 PM

May 22, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(4) あるものはあるーー『Fire will come』オリヴィエ・ラックス(「ある視点」部門)
槻舘南菜子

 映画祭という場では、映画の有する社会的な役割があたかも「同時代の特徴を映す」ことだけ、あるいは「社会の陰部を告発する」ことだけであるかのような作品が溢れてかえっており、そのことはこのカンヌも例外を免れてはいない。しかしそのような傾向において、先立って紹介した『Liberté』(アルベルト・セラ)と並び、『Fire will come』(オリヴィエ・ラックス)はそれに真っ向から抵抗した作品のひとつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:39 PM

May 21, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(3) 『Liberté』アルベール・セラ
槻舘南菜子

『Liberté』アルベール・セラ  今年の「ある視点」部門でのセレクションを見わたしてみると、昨年から引き続き、新人監督の処女作、もしくは第2作目が全体のほぼ半数を占めており、併行部門となる「批評家週間」と同様に若手発掘が主たる目的となるような趣である。しかしながら一方で同部門では、観客を挑発し映画の枠組みを揺るがすような先鋭的、実験的な作品は忌避される傾向にもある。そんななか、本年のセレクシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 PM

May 17, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(2) 『Les Misérables』ラジュ・リ
槻舘南菜子

 今年のコンペティションには、アフリカにルーツをもつ監督による2作品、ラジュ・リ『Les Misérables』とマティ・デイオップ『Atlantique』がノミネートした。両作品とも長編以前に同タイトルの短編を制作しているという共通点はあるが、両者の映画に対するアプローチはまったく異なっている。  ラジュ・リィは、アフリカのマリに生まれ、両親とともに幼い頃にフランスに移住し、初長編から彼の作品の...全文を読む ≫

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May 16, 2019

第72回カンヌ国際映画祭レポート(1) 開幕
槻舘南菜子

   第72回カンヌ国際映画祭が5月14日に開幕した。若手監督を中心に大きく刷新された昨年のセレクションと比較すると、今年のそれはいささか反動的といえる。開幕上映作品であるジム・ジャームッシュ監督『The Dead don't Die』を筆頭に、ほとんど機械的にコンペティション入りを果たしたかのようなダルデンヌ兄弟(『Young Ahmed』)、ケン・ローチ(『Sorry We Missed ...全文を読む ≫

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May 14, 2019

『救いの接吻』フィリップ・ガレル
池田百花

 愛について語り合い苦悩する男女。愛とは、人生とは、物語とは......。フィリップ・ガレルの映画では、そんな会話をとめどなく続ける人々の姿がこれまで何度も描かれてきた。『救いの接吻』でも、映画監督の夫が、女優である妻をモデルにした役を他の女優に演じさせようとしたことから、ふたりの愛は終わりの危機を迎え、彼らは苦悩し、愛や人生、物語についての対話が繰り返される。ここで映画監督の夫を演じているのはフ...全文を読む ≫

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May 5, 2019

『嵐電』鈴木卓爾
隈元博樹

 嵐山本線(四条大宮駅−嵐山駅)と、北野線(北野白梅駅−帷子ノ辻駅)からなる「嵐電」(らんでん)こと京福電気鉄道は、京都市内を運行する路面電車のことである。「モボ」と呼ばれる車形に京紫やブラウン、また時として江ノ電カラーに彩られた小ぶりな車輌は、当然ながら地元の人々をはじめ観光客の交通網として京都の市内をひた走るのだが、いっぽうで本作に登場する嵐電は、人々の日常の一部を蠢くひとつの物体のようにも見...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:17 PM

『ドント・ウォーリー』ガス・ヴァン・サント
結城秀勇

 アメリカ映画で「禁酒会」の描写としてよく見かけるAA(アルコホーリクス・アノニマス)という団体には、「12のステップ」という方法論があるということが本作でも触れられている。己の無力さを認める、という段階からはじまる12のそれは、ステップという言葉通り、順を追ってひとつづつ到達しなければならない状態である。ひとつひとつの段階の難易度の上昇度は一定ではない(というか、それとそれ、ほとんど一緒じゃん、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:18 PM

May 1, 2019

フランス・キュルチュール「ラ・グランド・ターブル」2019年 4/15(月)放送
ジャン=リュック・ゴダール インタヴュー 第一部

 日本では(幸運にも!)4/20(土)に劇場公開されたジャン=リュック・ゴダールの最新作『イメージの本』、フランスでは、昨年のカンヌ国際映画祭で上映されたほかは、今のところテレビ局アルテで放映されるのみである。その放映日の4日前、2019年4/15(月)、公共ラジオ放送局フランス・キュルチュール(https://www.franceculture.fr/)の文化番組「ラ・グランド・ターブル」にてジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

April 20, 2019

『僕らプロヴァンシアル』ジャン=ポール・シヴェラック
マルコス・ウザル

潜在的なる上昇 決然とした叙情性によって、ジャン=ポール・シヴェラックはパリに上京してきた学生の周囲に集まる情熱的な映画の学生たちの集団を描く。若者たちの理想についての非常に繊細な肖像画。 『僕らプロヴァンシアル』は、何世紀も前から、フランスの若者たちが、毎日、ほぼ同じような興奮と同じような幻想を抱いて行ってきた、きわめて小説的、ロマネスク的である次のような場面で始まる。故郷(この場合はリヨン)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:31 AM

April 19, 2019

『ユニコーン・ストア』ブリー・ラーソン
梅本健司

 『キャプテン・マーベル』や初監督短編の『Weighting』といった作品のブリー・ラーソンを見ていると、過去を背負いながらも、素早く大胆に動き回る様が印象的だと思った。ただ、それ故に彼女は周囲の人間を置いてけぼりにし、孤独に向かっている気もする。彼女の長篇処女作である『ユニコーン・ストア』においてもまた、やはり素早く大胆に動き回る彼女が主演をつとめている。
   冒頭、幼い少女の映像がいくつか流...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:58 PM

『殺し屋』マリカ・ベイク、アレクサンドル・ゴルドン、アンドレイ・タルコフスキー 
千浦僚

 すべてをあきらめ坐して死を待つことへの暗い欲望と、それに対する反発としてようやくあらわれる生への希求。  ソヴィエト国立映画大学での課題として、1956年に当時24歳のアンドレイ・タルコフスキーがマリカ・ベイク、アレクサンドル・ゴルドンという学生と共同で監督した、約二十分の短編映画『殺し屋』には既に後年タルコフスキーが反復し深化させる主題が含まれているようにも見える。  日本ではこの短編は02年...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:24 AM

April 17, 2019

『愛がなんだ』今泉力哉監督インタヴュー

関係の現状維持を目的にしてしまう人の物語に魅かれる 「体裁とか、不謹慎とか。友情とか、家族とか。生活とか、夢とか。社会とか、身分とか。そういう類いのものは"好き"という気持ちの前では無力だ」──今泉力哉の長編第三作『こっぴどい猫』の主人公が書いた小説『その無垢な猫』にあるこの一節は、角田光代の原作を映画化した彼の最新作『愛がなんだ』の主人公テルコのためにあるのかもしれない。職務を怠慢でクビになろ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:57 PM

April 14, 2019

『反復された不在』ギィ・ジル
池田百花

 «Le temps, le temps, le temps...»この物語の主人公であるフランソワの口から漏れ出す「時」という言葉。彼は過ぎ去っていく「時」に囚われ翻弄されていて、すべてが自分の手からすり抜けていってしまい、自分がどこに向かっているのかわからないと言う。人々の顔のクロースアップが多用されているように、街で見かける顔や体をすべて自分のものにしたくなると彼が言うのは、自分の中で失われ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:18 AM

April 12, 2019

『バンブルビー』トラヴィス・ナイト
隈元博樹

 はるか彼方の惑星を巡るロボットたちの宇宙戦争が、結局は地球上での肉弾戦に落ち着くのであれば、これまで「トランス・フォーマー」シリーズを牽引してきたマイケル・ベイの息吹を少なからず感じるだろうし、未知なる生命体とティーンエイジャーたちとの密かな交流が描かれるならば、ベイとともにクレジットを連ねてきたスピルバーグの影をそこに見出すこともできるだろう。しかし、『バンブルビー』が過去のシリーズと一線を画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:48 AM

『ワイルドツアー』三宅唱
渡辺進也

 山口情報芸術センター[YCAM]のバイオラボを舞台に、山口市の周辺の草木を集めるワークショップが行われる。スタッフの「もしかしたら新種が見つかるかもしれないよ」という言葉に、突然ワークショップの行われている一室の世界が広がりはじめる。採取した草木がDNA鑑定にかけられて解析が進められると、そこで一気に身の回りにあるものが最先端の技術とつながる。身の周りにあるものがもっと大きな世界に、そして最先端...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:47 AM

April 6, 2019

『沈没家族 劇場版』加納土
千浦僚

 粗さも目につくし、私的ドキュメンタリーの過去有名作に比べればマイルドだと思ったが、多くのひとに観られてほしいドキュメンタリーだ。  簡単に説明すれば、シングルマザーが子育てするのに保育人を募り、その呼びかけで集ったひとたちが共同生活をし、ちゃんと子どもも育った。その育った子本人が母親と当時のその生活を捉えてみた、というドキュメンタリーだ。   出来事の起こりは、本作の監督加納土氏が生まれたこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:43 AM

April 5, 2019

『運び屋』クリント・イーストウッド
結城秀勇

 あまりにも一瞬で12年という時が過ぎて、孫の少女が大人の女性に変わったほかは、俳優たちの身体すら時の流れに追いつけなかったかのようだ。いくら子供の成長より遅いとはいえ、さすがに78歳と90歳はもうちょい違うんじゃねえか、とも思うが、時は勝手に過ぎ去っていくけど人間はそうそう変わらないということだけを念押しするかのように、あの意味不明な「ジェームズ・ステュアートに似てる」発言は繰り返される。  時...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:13 PM

April 3, 2019

『ジェシカ』キャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル
結城秀勇

 「オーファン」と呼ばれるはぐれ者たちは、その呼び名の通り孤児であるがゆえに自らの内にある暴力性に抗うことができずに、犯罪を繰り返すのだという。どこからともなく現れたジェシカと呼ばれる女性が彼らをまとめあげ、「オーファン」たちを処刑するためにつくられた「特殊部隊」に抵抗する組織をつくりあげたのだという。こうした設定のようなものはボイスオーバーによってさらりと語られるのだが、いったい「オーファン」た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:09 PM

April 2, 2019

『グッドバイ』今野裕一郎
三浦翔

 分断された川の向こう側に男がいる。その男がこちら側に戻ってきたときには記憶を失っている。あるいは電話の向こうにいる相手には見えないはずの風景を伝えようとする女たち。分断された川に限らない、「ここ」と「よそ」を思考することが『グッドバイ』のテーマではあるだろう。  それは今野裕一郎がバストリオというパフォーマンスユニットで試みてきたものでもあった。『わたしたちのことを知っているものはいない』(20...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:34 PM

April 1, 2019

『ジェシカ』キャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル
池田百花

 閑静な住宅街に建つ一軒の家と、血を流した青年、そして彼の救護に駆けつける戦闘服姿の一団。そんな異様な光景とともに物語は幕を開け、穏やかな女性の声によってその背景が語られていく。そこでは、親の愛情を知らずに育ち心に「怪物」を抱えた孤児たちが大人たちから命を狙われていて、彼らのなかには映画の冒頭で登場する青年のように絶望して自ら命を断とうとする者もいる。社会に対して危険分子となりかねない孤児たちの命...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:27 PM

March 26, 2019

『スパイダーマン スパイダーバース』ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
結城秀勇

 オープニングのSONYのロゴがインクのドット状に分解して散っていくところで、すでになんだかアガる。「スパイダーマン」シリーズに限らずマーベルのロゴが出るときの、あのアメコミ独特のインクのドット感が気持ちがいいのってなんだろうと思っていた。紙の手触り、インクの匂いへのただのノスタルジーなのだろうか(ついでにマーベルユニバースへの統合に向かう流れの前に消えていってしまったフィルムの粒子へのノスタルジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:16 AM

March 23, 2019

『35杯のラムショット』クレール・ドゥニ
隈元博樹

 パリの公共鉄道「RER」の運転席から映し出される郊外の風景と、幾重にも蛇列する複数の線路が並ぶオープニングの様相は、この『35杯のラムショット』に漂う複雑さと、ある種の脆さをそこはかとなく暗示している。だからこの映画が父と娘の物語であることは事前に知り得ていたものの、父のリオネル(アレックス・デスカス)と娘のジョゼフィーヌ(マティ・ディオブ)が暮らすアパルトマンでの冒頭のやりとりから戸惑ってしま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:36 AM

March 17, 2019

『小さな声で囁いて』山本英監督インタヴュー

光を観る 映画は幾度も旅を描いてきたし、いつも風景が問題になる。山本英もまた熱海という観光地に向き合うのだが、山本の描く旅にはそもそも目的がはっきりとせず、沙良(大場みなみ)と遼(飯田芳)の過去に何があったのかもほとんど分からない。ふたりは未来を見失った放浪者だろう。しかし、熱海の風景は観光地としての夢を見させる力を失っている。代わりにあるのはいくつもの過去で、自分たちの過去すらもが朧げなふたり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:41 PM

March 14, 2019

『月夜釜合戦』佐藤零郎
結城秀勇

 一見釜のように見えるそれは、実は盃なのである。なので米を炊くのにも使わないし、なにかを茹でることもない。ところが本当は盃だから米を炊かないのかというとそれだけでもない。この映画にはちょっと見たことのない量の釜が山のように登場するが、それら本物の釜たちも基本的には米を炊くためには使われない。釜のような盃、が紛失したことによって、同じ見た目の釜たちの交換価値は本来の使用価値に対して異常に高騰し、その...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

March 12, 2019

『ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像』をめぐって(「映画/批評月間〜フランス映画の現在〜」特集より)
坂本安美

「映画/批評月間〜フランス映画の現在〜」は、とにかく今見るべき面白い映画、他の劇場ではなかなか見られないフランス映画を紹介するとともに、「映画」と「批評」の弁証法的関係、そしてその秘められた多くの可能性を考察すべく企画された。その趣旨を確認し、主催者としても気を引き締めて特集をスタートするために、長年に渡り「批評」の醍醐味を身をもって示し、数多くの映画人たちを育て、発掘してきたジャン・ドゥーシェ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

March 11, 2019

『20年後の私も美しい』ソフィー・フィリエール
結城秀勇

 ふたりの女優がひとりの女性の異なる年齢を演じる映画だと聞いていたから、ひとりが現在にあたる時代を演じ、もうひとりが同じ人物の過去、あるいは未来を演じているのかと思っていた。しかし、『20年後の私も美しい』という映画におけるふたりのマルゴーは、まったく同一の時代を同時に生きている。さらには、ふたりを同一人物だと断言できる決定的な証拠はなにひとつ劇中で提示されない。  それでも、サンドリーヌ・キベル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:03 PM

March 7, 2019

挑戦の場としてのフランス映画――「映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」によせて
ジュリアン・ジェステール

これまで20年近く続けてきた「カイエ・デュ・シネマ週間」をあらため、今年より「映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」と題し、同雑誌を含みより多くのフランスのメディア、批評家、専門家、プログラマーらと協力し、最新のフランス映画を紹介する。そして特集名が示すよう「映画」と「批評」の関係にスポットライトを充てられるイベントにしていきたいと思う。それこそフランス映画の醍醐味であり、ひいては映画全...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:50 PM

February 17, 2019

『王国(あるいはその家について)』草野なつか
結城秀勇

 タイトルにある「王国」とは、直接的には、幼い頃のアキ(澁谷麻美)とノドカ(笠島智)がある台風の日にシーツと椅子で作り上げたお城と、その周りに広がるはずの想像上の空間を指す。それから20年あまりを経た彼女たちの関係性にも未だ、あの日の「王国」は影響を与え続けている。少なくともアキはそう考えている。しかも、それがただアキのひとりだけの思い込みだと断じることができないのは、「王国」のせいであろうとなか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

February 13, 2019

ガブリエラ・ピッシュレル監督インタビュー
常川拓也

some kind of hope in the pessimistic world ボスニア出身の母とオーストリア出身の父を持つガブリエラ・ピッシュレルは、かつてクッキーを箱詰めする工場で働いていた。だからこそ、その経験や価値観を指針とし、映画に正当な労働者の視点を持ち込んでいる。また同時に、彼女は「ロッキー・バルボア」のような度胸のあるへこたれない女性主人公を創出したいと語っていた。それらは、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:15 PM

February 9, 2019

『ワイルドツアー』三宅唱
結城秀勇

 飛び立つスズメとその鳴き声、水たまりに張った氷、フェンスと道路の間に挟まってカサカサと震える枯葉、川に至る階段、高架下で聞こえてくる「トントントントントン、さあきたよ、みぎみぎひだり......」という少年の声。冒頭、立て続けに配置される断片的な映像は、いったい誰の視点なのだろう。当たり前に考えれば、木々の葉が揺れる映像から、そこに向けてスマートフォンのカメラを構えるうめ(伊藤帆乃花)のカットへ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 PM

February 8, 2019

『ミューズ』安川有果(『21世紀の女の子』より)
隈元博樹

 『きみの鳥はうたえる』を観て以来、石橋静河の二の腕がとても気になっている。僕(柄本佑)や静雄(染谷将太)の肩にだらりと着地する、あの緩やかな感じ。また、衣服の袖先から描かれる、しなやかな上腕のライン。しかし、その興味の矛先は、彼女本来が持つ肉質な部分から来るものではなく、透き通るような肌の色艶に裏打ちされたものでもない。最もこの身体の一部に惹かれてしまうのは、目に見える実態としての有り様よりも、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 PM

February 3, 2019

『ヒューマン・フロー 大地漂流』アイ・ウェイウェイ
中村修七

 美術家のアイ・ウェイウェイが監督を務めた『ヒューマン・フロー 大地漂流』のような映画を見ると、居心地の悪い気持ちになる。なぜなら、一種の「社会正義」を表した映画に対して、少なからぬ苛立ちを覚えるとともに、批判的な態度をとらざるをえないからだ。実のところ、アイ・ウェイウェイに対する筆者の見方は少し複雑だ。彼に対しては、時々の情勢に応じて器用に立ち回る「政治屋」のようなところがあるのではないかとの疑...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:45 AM

February 2, 2019

『ミスター・ガラス』M・ナイト・シャマラン
結城秀勇

 これを見るために『アンブレイカブル』を見直したのだが、そこで得た教訓は、何事も程度の問題だよなということだ。イライジャ=ミスター・ガラス(サミュエル・L・ジャクソン)は言う、「コミックのヒーローたちの能力は誇張されてはいるが、それは本来人間が本能として持つものだ」と。つまり、彼の極度に傷つきやすい身体も、デイヴィッド=オーヴァーシーアー(ブルース・ウィリス)の極端にケガも病気もしない身体も、程度...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:12 AM

January 20, 2019

『あなたはわたしじゃない』七里圭
結城秀勇

 こうしてこの作品についてなにかを書こうとするときにすでに頭を悩ませているのは、作品のタイトルは『あなたはわたしじゃない サロメの娘 | ディコンストラクション』と副題込みで書くべきなのかどうかということだ。あった方がコンテクストはよくわかるが、しかし監督のオフィシャルサイトでは副題なしで表記されていて、だから正式な表記として、「サロメの娘 | ディコンストラクション」部分を前々作の「(in pr...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:54 PM

January 17, 2019

『スローモーション、ストップモーション』栗原みえ
隈元博樹

 この映画を一言で言い表すならば、東南アジアを訪れた作家自身の個人的な放浪旅の一途にすぎないのかもしれないし、そこで暮らす数年来の友人たちを記録したホームビデオだと説明できるのかもしれない。しかし、こうした一見閉塞的な要素を孕みそうな題材や内容であるにもかかわらず、『スローモーション、ストップモーション』に風通しの良さを覚えるのは、変わりゆくものや変わることに対する栗原みえの素直な反応によって、無...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:21 PM

『マディ・トラック』バーナード・シェイキー
結城秀勇

"Muddy Track is not a documentary, I don't know what the fuck it is." (ニール・ヤング)  ニール・ヤングの言う通り、『マディ・トラック』がいったいなんなのかはさっぱりわからない。だが上記の発言にもかかわらず、というか上記の発言ゆえにと言うべきか、ニール・ヤングは1995年のインタビューで「もっともお気に入り」...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:40 PM

January 13, 2019

『Rocks Off』安井豊作
結城秀勇

 灰野敬二が鳴らすアップライトピアノは、前板が取り外されてその中身をむき出しにしている。暗がりの中でわずかに長い髪が確認できるだけでその顔さえ見ることもできない演奏者とはうらはらに、ピアノはその内部を映画の観客の眼前にさらけ出し、音が作り出される過程を可視化する。しかしそれによって逆説的に、アップライトピアノは、演奏者が叩いた鍵盤がハンマーを動かし、ハンマーが弦を叩くことによって音が鳴る、という装...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:18 PM

January 8, 2019

『マチルド、翼を広げ』ノエミ・ルヴォウスキー
池田百花

 奇妙な言動を繰り返す母としっかり者の小学生の娘マチルド。母は家を空けることが多く、学校でも周囲になじめないマチルドはいつも一人で過ごしていたが、ある日彼女のもとに言葉を話すフクロウがやってくる。大人であることや母親でいることから逃れようとするかのように常に逃げ去りさまよう存在である母と、そんな母の娘として囚われの身となっているマチルド、そしてそこに訪れるフクロウもまた籠の中に囚われている。フクロ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:54 AM

January 2, 2019

『天使の顔』オットー・プレミンジャー
千浦僚

 フィルムノワールや犯罪メロドラマにおける、最強の悪女、ファムファタルは誰だろうか。  『マルタの鷹』のメアリー・アスター......『深夜の告白』、『呪いの血』のバーバラ・スタンウィック......『哀愁の湖』のジーン・ティアニー......『郵便配達は二度ベルを鳴らす』のラナ・ターナー......『過去を逃れて』のジェーン・グリア......『上海から来た女』のリタ・ヘイワース......『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 PM

December 22, 2018

『犯罪王ディリンジャー』マックス・ノセック
千浦僚

......そもそもわれわれは信仰の対象とするほど多くの「B級映画」を見てはいないのだ。いったい誰が、マックス・ノセックを懐古しうるだろう。 蓮實重彥『ハリウッド映画史講義』  マックス・ノセック監督『犯罪王ディリンジャー』(45年)についていくつかのことごとを記す。  本作は1933年、34年にアメリカ中西部で銀行強盗や脱獄を繰り返したギャング、ジョン・ハーバート・ディリンジャ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 PM

December 15, 2018

『モスクワへの密使』マイケル・カーティス
千浦僚

 最近観ることのできた映画、マイケル・カーティス監督の『モスクワへの密使』(1943年)についていくつかのことごとを記したい。  が、そのまえに聴くたびにムカッとくるDA PUMPの曲"USA"についてちょっと書く。もうこの曲の、最初に意味を成した歌詞になる"オールドムービー観たシネマ(シネマシネマ)"というところでアホかっ!とキレているのである。どんだけお前らがアメリカ映画を観たっちゅうねん。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:34 AM

『突撃!O・Cとスティッグス/お笑い黙示録』ロバート・アルトマン
結城秀勇

 悪いことは言いません。わりと有名なMGMのライオンを見るだけでも損はなし。映画開始5秒で一気に腰砕け。なにやってんだ、ライオン......。  一度砕けた腰はなかなか戻らない。誰がどう聞いても「ピ◯クパンサー」だよなっていうBGMに合わせてシュワブ家の庭に侵入してくるO.C.とスティッグス。焼いてるロブスターを骨にすり替えたり、シュワブ家の電話でガボンに長距離電話をかけたり、とさまざまな「破壊工...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:32 AM

December 14, 2018

『パンチドランク・ラブ』ポール・トーマス・アンダーソン
稲垣晴夏

 郊外に住むなんてことない男の物語がこれほど幸福なのは、他でもなく作家によるこの街とそこで営まれる日常への愛があるからだ。ロサンジェルスの郊外にあたるサンフェルナンド・ヴァレーはハリウッドの北側、サンタモニカ山脈を越えた向こう側の街。ここは西海岸でありながら周囲を山々に囲まれているために、海すらも見えない。平坦なグリッド状の街区に敷かれただだっ広い道沿いには低層の倉庫や商業施設、建売住宅が殺風景に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:14 PM

『僕の高校、海に沈む』ダッシュ・ショウ
結城秀勇

 ある集団の権力関係について一番敏感なのは、集団に入って来たてのルーキーでも、その中である程度の地位を築いたベテランでもなくて、いつだって2年生=ソフォモアなのかもしれない。この作品の主人公ダッシュ(ジェイソン・シュワルツマン)は2年生として通学初日のバスの中で、親友アサーフ(レジー・ワッツ)に向かって、今日からおれたちは2年生なのだからもっと後ろの方に座ろう、と呼びかける。通学バスの座席は、車内...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:36 PM

December 13, 2018

『BOY』タイカ・ワイティティ
隈元博樹

 マーベル・コミックから映画化された「マイティ・ソー」シリーズの中でも、タイカ・ワイティティが監督した3作目の『マイティ・ソー バトルロイヤル』は、過去の2作(『マイティ・ソー』『マイティ・ソー ダーク・ワールド』)とはやや異なる様相を呈している。それは荻野洋一さんが「Real Sound映画部」(「"ユニバース"過剰時代における、『マイティ・ソー バトルロイヤル』の役割」) で指摘しているように...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:38 PM

December 10, 2018

『花札渡世』成澤昌茂
結城秀勇

 たとえば、東南西北で構築される麻雀のように、空間的に世界を模したゲーム及びそれを使ったギャンブルは数あれど、花札のように時間的に世界を構築したゲームは古今東西においても珍しいものなのではないかと思う(正確には花札自体はゲームではなく、『花札渡世』においても花札を用いた各種のゲームが登場するわけだが)。各札に割り振られた植物が12の月を示す花札は、『花札渡世』において時間経過を視覚的に示す効果的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 AM

December 9, 2018

『花札渡世』成澤昌茂
千浦僚

 あるとき環状七号を富田克也氏の運転する車で運ばれていくなか、駄弁りで聞いた話。当時こちらは映画館のスタッフで、富田氏相澤虎之助氏ら空族の作品を上映していて日常つきあいがあった頃。私がフィルムの映写をずっとやっている身であることを富田氏が、そういうあまり他の人間がやってない技術で世を渡っていけるのはいいね、と買いかぶったところから、そういえば、と続けて、隠れカジノのルーレットディーラーの話をしてく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

『ア・ゴースト・ストーリー』デヴィッド・ロウリー
奥平詩野

 本作が愛の可能性について肯定し、それ故に感動を呼び起こすのだと捉える事は、死が愛する人との無慈悲な別れを意味し、それによる喪失の絶対性から逃れたいと希望する私達にとって、得たいと望む感想だと思う。しかし、死者が纏ったシーツと、引き延ばされたり縮められたりする時間感覚や離人的世界体験は、逆に、死後の執着と喪失に晒される続ける鬱々とした絶望を私達に見せ、愛が失われない事の感動よりもむしろその事の空...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:44 AM

December 8, 2018

『バルバラ セーヌの黒いバラ』マチュー・アマルリック
結城秀勇

 彼女は鼻歌交じりで爪弾いていたピアノをやめて、オープンリールテープの録音を開始する。ピアノは再び奏で始められ、彼女の歌がそこに重なる。電話機を取り上げながら誰かに電話をかけた彼女は、窓辺に近づきながら月蝕について話をし......、そして彼女がテレビの前に移動したあたりではたと気づく。これって劇中劇の撮影シーンだったよな、と。  彼女が気軽な調子の歌をやめるのは「カメラが回ります」という合図のせ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:06 PM

December 6, 2018

『ヘレディタリー/継承』アリ・アスター
結城秀勇

 アニー(トニ・コレット)のつくったものだと後にわかるドールハウスの一室にズームアップしていき、それが息子ピーター(アレックス・ウォルフ)の実際の部屋へと切り替わる。壁紙やタンスや椅子がなぜか不自然なはめ込み合成なのが微妙に気持ち悪いのだが、その気持ち悪さの中には、ズームで寄る前には家全体の配置がドールハウスの断面で示されていたはずなのに、ズームアップからつながれた息子の部屋が、さっきまでのドール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

December 4, 2018

『アウトゼア』伊藤丈紘
隈元博樹

 ここに「いくつかの声、ひとつの夢、島/映画『Out there』のためのシナリオ」と題された映像がある。ふたつのプロジェクタによって映し出されたどこかの風景は、壁の上で少しズレた状態で重なり合い、それぞれに一定の時間が経てば新たな場面へと切り替わっていく。やがてふたつの映像はひとつだけ投写され、いっぽうはシナリオらしきト書きとセリフの文章を読み上げる誰かの姿へと変わり、そこで発せられる声に重なる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:51 PM

December 1, 2018

『現像液』フィリップ・ガレル
結城秀勇

 高い位置に据えられたベッドの上にうずくまる子供の影が、懐中電灯の光でグロテスクなほど巨大に、壁に投げかけられる。右側下方にパンをしていけば、呆然としている女がいる。男が部屋に入ってきて、彼女に酒のようななにかを飲まそうとするがうまくいかない。長いタバコをくわえさせるが、彼女が吸わないのでマッチを近づけても火はつかない。そこでより長いタバコを彼女にくわえさせ、反対側を男がくわえて、ちょうど真ん中に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:55 PM

November 29, 2018

『30年後の同窓会』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

 見逃していたのを、ギンレイホールにて。  ラリー(スティーヴ・カレル)が、30年ぶりにベトナム時代の戦友ふたりに会いにいくのは、海兵隊であった彼の息子がバグダッドで殺されたからであり、死体の引き取りの付き添いを長年会っていなかった戦友に依頼するのは、彼らがかつてベトナムで死んだもうひとりの戦友という過去の罪を共有するからである。しかし、この映画が、どこまでも先送りにされていく旅の目的と、どこまで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

November 28, 2018

『象は静かに座っている』フー・ボー@第19回東京フィルメックス
三浦翔

 若者の閉じた孤独な世界を被写界深度の浅い映像として表現することには、どれだけの可能性があるのか。『象は静かに眠っている』は、そのような問題提起的な作品だったろう。物語は、自分をバカにした番長的なクラスメイトを突き落としたことで逃亡するブーや、学校の先生と恋愛関係になったことがSNSで拡散されたリンなど、ひとつの街で生きる4・5の主となる人物の人生が少しずつ重なりながら展開して行く。ある種の群像劇...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:06 AM

November 22, 2018

『幻土』ヨー・シュウホァ
隈元博樹

 半世紀前から今も続く土地の造成によって、その国土を拡げてきたシンガポール。目の前の埋め立て現場を眺めながら、「きっと30年後もこの光景は変わらないだろう」と刑事のロク(ピーター・ユウ)が相棒の刑事へささやくように、この東南アジアの島国は再開発を背景とした都市の変容が宿命とされ、彼らの営みは、絶えず定まることのない地盤とともにある。加えて造成に必要な土砂たちは、マレーシアをはじめ、カンボジアやベト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:37 PM

November 21, 2018

『体操しようよ』菊地健雄
結城秀勇

 レトロだけれどカラフルな調度に囲まれた、ガラス張りの温室が表に張りだすどこかモダンな一軒家。そこから海の見える坂道を下り、毎朝片桐はいりが掃除をしている神社がある三叉路を通り過ぎて行けば、駅に出る。おそらく駅の反対側に海があり、それを見渡す岬の突端に公園があり、海と山との途中のどこかに商店街があり、三叉路をいつもと違う方向に曲がれば、のぞみ(和久井映見)の営む喫茶店がある。映画を見ているとなんと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:25 AM

November 11, 2018

『アマンダ(原題)』ミカエル・アース
隈元博樹

 冒頭の小学校を捉えたシーケンスから、このフィルムの質感を最後まで見続けていたくなる。それは建造物自体への特別な興味や美しさを見出したわけではなく、展開されるカット割りや編集のリズムに心地良さを感じたわけでもない。もちろんそれは、『アマンダ』がスーパー16のフィルムで撮られたことの恩恵でもあるのだが、最もその衝動に駆られたのは、撮影時のロケーションに注がれた柔らかい自然光が、淡く漂う粒子のざらつき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:46 AM

November 5, 2018

『ひかりの歌』杉田協士
三浦翔

 ランニングとは、全力ではないが息が上がるくらいのスピードで長い間走り続ける運動のことである。杉田協士の『ひかりの歌』をまなざす経験は、ランニングのように決して速くはない運動の持続に153分という時間をかけて徐々に魅了されていくことではないか。  4首の短歌を原作にした4つの短編には、それぞれに特別な決定的ショットというものがあるというよりも、むしろどのショットに映る時間もそれぞれが特別な時間であ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:59 PM

November 4, 2018

『月の砂漠』青山真治
梅本健司

Could I ever find in you again The things that made me love you so much then Could we ever bring 'em back once they have gone Oh, Caroline no  「Caroline No」の調べとともに、東京の夜の街、20世紀末に起こった様々な出来事、そしてホームビデオの...全文を読む ≫

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October 30, 2018

『教誨師』佐向大
田中竜輔

 6人の死刑囚との対話を請け負った大杉漣演じる教誨師・保は、ことあるごとに「えっ、私ですか?」と、目の前に座る死刑囚に聞き返す。マネキンのように押し黙った刑務官たちが壁際に同席してはいるものの、どう考えてもこの人良さげな牧師にかけられた言葉だと判断するほかはない囚人たちの些細な問いに対して、彼はいちいち「えっ」と驚いて、律儀に「私ですか?」と尋ねる。もちろんこのやり取りは、彼がまだほんの半年前にこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:55 AM

October 29, 2018

『FUGAKU 1 / 犬小屋のゾンビ』 青山真治
結城秀勇

 「いたるところで水の音がする」。という言葉で幕を開けた『EM エンバーミング』上映後のトークの中で樋口泰人は、この作品の6年後の『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』の冒頭から作品を覆う陰鬱さに比べて、『EM〜』はどこかまだ楽観的な気がする、と述べていた。フィルムからデジタルへ、という撮影素材の変遷と重ね合わせて語られるその話を聞きながら、『EM』の死体と死体そっくりな男と彼らと血が繋がった少女は、『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:47 AM

October 23, 2018

『アンダー・ザ・シルバーレイク』デヴィッド・ロバート・ミッチェル
結城秀勇

 「犬殺しに気をつけろ」という落書きを消そうとする店員のガラス越しに揺れる胸、列に並ぶ女性客たちの腰のあたりをナメて、カウンターの後ろで談笑するふたりの女性店員のアップへ切り替わるスローモーション、そしてそれを見つめるアンドリュー・ガーフィールドの眠そうな目。そんな『アンダー・ザ・シルバーレイク』の冒頭を見ながら、なんとなくガス・ヴァン・サント『パラノイドパーク』のことを思い出していた。あの映画で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 PM

September 24, 2018

『あみこ』山中瑶子インタヴュー
三浦翔

底知れない広がりや誰にも居着かないしなやかさ 約一年前の第39回ぴあフィルムフェスティバルで、山中瑶子監督は初監督作となる『あみこ』で「PFFアワード2017」観客賞を受賞した。その後ベルリン、香港、韓国、カナダなど世界中の映画祭を周り評価され、遂に9月1日(土)にポレポレ東中野で劇場公開された。通常のレイトショーが即座に満席となったことで、異例のスーパーレイトショーという聞き慣れぬ追加上映までを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:08 PM

September 22, 2018

『若い女』レオノール・セライユ
池田百花

 映画のタイトルの『若い女』。これは、フランス語の原題も"jeune femme"となっているから直訳なのだが、この言葉が何を表しているのか、映画が始まってからずっと考えていた。主人公の女性ポーラは31歳。物語は、10年間付き合っていた年上の彼から突然別れを切り出されるところから始まる。20歳ほど年の離れた写真家の彼のもと、彼女は長年そのモデルも務めていたのだが、どうやら彼には新しいミューズができ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 PM

September 8, 2018

『ビッグ・リーガー』ロバート・アルドリッチ
千浦僚

 アメリカ人とはなによりもまずベースボールプレーヤーなのか、と思わされたのはロバート・アルドリッチ監督作『ワイルド・アパッチ』(1972)を観たとき。  この映画では開巻にまず、十九世紀末頃の合衆国のインディアン居留区から不穏な気配のアパッチ族数人が夜陰に乗じて脱走する様が描かれ、続いてそれが明けた日中、アリゾナの騎兵隊砦の騎兵隊員たちが野球に興じている様が描かれた。ベテランらしい風格を漂わせつつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 AM

September 7, 2018

PFF総合ディレクター 荒木啓子インタヴュー
三浦翔

映画監督のイメージを持つこと  ぴあフィルムフェスティバル(以下:PFF)は、"映画の新しい才能の発見と育成"をテーマにした映画祭である。今年40回目を迎えるPFFは、いわゆる自主映画と呼ばれる、商業映画の枠組みではなく自分たちの手で映画を作る監督たちの映画を上映する「PFFアワード」をメインプログラムとしており、合わせて様々な招待作品の上映とトークを企画し、映画祭全体が新たな映画作りを志す人の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:04 PM

August 30, 2018

『あみこ』山中瑶子
結城秀勇

 昨年のPFFの一次審査でこの作品を初めて見たときの感想をものすごくありていに言うなら、こんだけおもしろい映画なら、どうせもうどっかの映画祭で賞とってるとか、どっかのコミュニティ界隈ですげえ評判になってたりすんだろうな、だった。でも「あみこ 山中瑶子」でググってみて、わずかに出演者のツイッターとかが引っかかるくらいで、監督自身のSNSすら見つからなかったときにはマジか、と思った。こんなすげえおもし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:29 PM

August 16, 2018

『ヒッチコック博士の恐ろしい秘密』リカルド・フレーダ
千浦僚

 一般的にはあまり品がないとされながらも、そのオペラ的とも言える過剰さで娯楽映画の歴史を豊かにしたのは、お尋ね者のようにふたつ名を持つイタリア人監督たちではなかったか。ボブ・ロバートソンであったセルジオ・レオーネ、偏在するアンソニー・M・ドーソンとしてのアントニオ・マルゲリティ、そしてロバート・ハンプトンことリカルド・フレーダ......。彼らはアメリカ人監督のふりをすることで自作を"立派な"?ア...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:33 AM

August 12, 2018

『ゾンからのメッセージ』鈴木卓爾(監督) 古澤健(脚本/プロデューサー)インタヴュー

境界線で映画を撮ること いまからおよそ20年前、謎の現象である「ゾン」によってあたり一面を囲まれてしまった夢問町。「ゾン」とは何か。単なる壁というわけではなさそうだ。「ゾン」の向こう側に行ってしまった人は帰って来ない。「ゾン」には近づくことさえ危険である。と、声高に語る者こそ限られているが、およそそこに住むあらゆる人にそのような考えは共有されていて、ここからの脱出(あるいは外への侵入)を試みよう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:54 PM

August 3, 2018

『ものかたりのまえとあと』展 青柳菜摘/清原惟/三野新/村社祐太朗
三浦翔

 「ものかたりのまえとあと」というそのままコンセプトを言い表すタイトルからどうしても考えてしまうのは物語(story)ないし歴史(history)以後、つまり「歴史の終焉」という冷戦以後の世界について話題になった議論のことである。何故そんなことを思うのかというと、そこで議論された政治的な問題だけに焦点があるのではなく、むしろ冷戦体制以後にインターネットの民間利用が進み、並行してデジタルテクノロジー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:34 AM

July 29, 2018

『グレイ・ガーデンズ』アルバート&デヴィッド・メイズルス、エレン・ホド、マフィー・メイヤー
『グレイ・ガーデンズ ふたりのイディ』アルバート&デヴィッド・メイズルス、イアン・マーキウィッツ
隈元博樹

 青々と緑の生い茂る一軒家の居間をカメラが捉えると、ほどなくして2階の椅子にもたれた老母の姿がフレームに収まる。今にも爛れそうなセルライトを両腕に蓄えた肌身の彼女は、「ウィスカーズは穴の中だよ」と粗雑に空けられた壁穴を見やり、姿の見えない娘に猫のウィスカーズは穴の中に逃げ込んだのだと語りかける。母曰く、この穴は野生のアライグマによる仕業であるらしく、また娘曰く、不当な理由でこの古びた屋敷から追い出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:00 AM

July 13, 2018

『ジュラシック・ワールド/炎の王国』フアン・アントニオ・バヨナ
千浦僚

 スピルバーグの影から脱したほうが豊かになる映画文化圏も存在する。『ジュラシック・ワールド』(2015)を観たときに、もうこれはかなり「ジュラシック・パーク」シリーズ(93年の1作目、97年の二作目『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』、01年の『ジュラシック・パークⅢ』)から離れた小気味よさだと感じた。まあ、そもそもジョー・ジョンストンが監督した『ジュラシック・パークⅢ』が、バックパック型...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:08 AM

July 3, 2018

『レット・ザ・サンシャイン・イン』クレール・ドゥニ
結城秀勇

 イザベル(ジュリエット・ビノシュ)は画家である。彼女の作品は恋人のひとりによって「世界最高の美を作り出している」とまでに評されるのだが、そうまで言われる彼女の仕事を、観客は十分に目にする機会に恵まれない。たった一度、彼女が巨大なキャンバスの上でなにかをおもむろに描き出すのを目にするだけ、またその前後でアトリエの片隅に置かれたおそらく彼女の作品なのであろう絵が画面の端に映り込むだけである。またイザ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:06 PM

May 29, 2018

『モリーズ・ゲーム』アーロン・ソーキン
結城秀勇

 FBIに踏み込まれる直前の、モリー・ブルーム(ジェシカ・チャステイン)のホテルの部屋。カメラは入り口からモリーが横たわるベッドへと進むが、その途中に置かれた彼女の著書「モリーズ・ゲーム」の在庫のダンボールの山と、著者サイン会のパネルがやけに気にかかる。単に彼女の本があまり売れてない、というかむしろ売上はかなり残念な感じだ、ということを示すだけのトラベリングなのだろうが、これでいいのかと思ってしま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

May 28, 2018

『ルイ14世の死』アルベール・セラ
三浦翔

 上映中に「お前はもう死んでいる」というフレーズが頭によぎってからは、フィルムに映った権力者どもにそう言ってやりたいフラストレーションが募る。  極めて唯物論的な方法で王の死のスペクタクル化を拒否するこの映画で問題にすべきは、監督がインタビューで述べるような「死の陳腐さ」にあるのではなく、むしろ王という特別な存在のイメージの「死ななさ」ではないだろうか。「死の陳腐さ」も、彼に死が近づいていることも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:21 AM

May 23, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(7) 忘れられた人々
ーー第71回カンヌ国際映画祭受賞結果をめぐって
槻舘南菜子

ジャン=リュック・ゴダール監督『Le Livre d'Image』  今年のカンヌ国際映画祭のコンペ部門はここ数年で最も刺激的なセレクションであったにも関わらず、受賞結果は従来の傾向に則った惨憺たるものであった。見事にコンペ入りを果たした若き才能たちーー濱口竜介監督『寝ても覚めても』、ヤン・ゴンザレス監督『Un Couteau dans le coeur』、デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:31 PM

May 21, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(6)
ヤン・ゴンザレス監督『Un Couteau dans le coeur / Knife + Heart』
槻舘南菜子

 2013年のカンヌがアブデラティフ・ケシシュ監督『アデル、ブルーは熱い色』が最高賞パルムドールを受賞し、昨年にはロバン・カンピヨ監督『BPM ビート・パー・ミニット』がグランプリを獲得したように、いわゆる「LGBT」が主題として扱われる作品はもはや珍しくない。今年の公式部門だけでも、コンペ部門にはクリストフ・オノレ監督『Plaire, aimer et courir vite 』とヤン・ゴンザレ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:45 PM

『アヴァ』レア・ミシウス
池田百花

 夏の太陽の下、ヴァカンスに訪れる人々でにぎわうフランスの海辺に、ひとりの少女が寝そべっている。少女のそばを大きな黒い犬が通り過ぎ、彼女が犬を追うと、揉め事を起こしている黒い服の青年の周りに人だかりができていて、そこに黒い馬に乗った警察が駆けつける......。映画の冒頭の場面、まぶしい光に照らされ色で溢れた風景に突如投入されるこの黒という色は、明らかに画面に異質性を放ち不穏な空気を生み出している...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:14 PM

May 19, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(5)
マチュー・マシュレによる濱口竜介『寝ても覚めても』評
槻舘南菜子

 現在のフランスで最も信頼のおける批評家のひとりマチュー・マシュレ氏による濱口竜介監督『寝ても覚めても』の批評が、どの仏メディアよりも早く、日刊紙「ル・モンド」の5月15日号に掲載された。フランスでは5月の初旬に公開されたばかりの『ハッピーアワー』についても彼はとても素晴らしい批評を書いたばかりだが、ここではマシュレ氏の厚意により氏の『寝ても覚めても』についての批評を翻訳掲載する。 恋愛の反復--...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:45 AM

May 17, 2018

『心と体と』イルディコー・エニェディ
三浦翔

 若い女であるマーリアと老年の上司エンドレとの恋愛関係を描くことにはリアリティがないとか、それはセクハラを誘発する表現である、などという批判の声が聞こえてくるかもしれない(似たような意見をTwitterで見てしまった)。そのような#MeToo時代の空気から来る違和感の声には、そもそも同じ夢を見てしまうという奇異な設定から、この作品はリアリズムではないのだと言って批判をやり過ごすことも出来るであろう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:48 PM

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』マット・ティルナー
中村修七

 ジェイン・ジェイコブズ(1916‐2016)の生誕100周年に合わせて製作されたドキュメンタリー映画だが、"Citizen Jane: Battle for the City"という原題にある"Citizen Jane"とは、言うまでもなく、オーソン・ウェルズの『市民ケーンCitizen Kane』になぞらえたものだろう。『市民ケーン』は、ウェルズの監督デビュー作にして映画史に残る傑作だ。アンド...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:46 AM

May 16, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記 (4) 「監督週間」部門50周年によせて
槻舘南菜子

 現在ではカンヌ国際映画祭の併行部門とされる「監督週間」部門は、そもそも68年5月を機に映画祭が中止に追い込まれたのちの反動として、非公式部門として創設されたものだった。当時のフランスにおける若手監督の多くは、カンヌのセレクションに対する反感を隠さなかった。芸術的な視点以上に、外交的な政治目的に縛られ、惰性に流された当時のセレクションを変革するためには、映画祭の再編成が必要であると考えたのだ。し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:49 PM

May 14, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(3) 白と黒の恋人たち
ーー『Summer (Leto)』(キリル・セレブレニコフ)と『Cold War(Zimna Wojna)』(パヴェウ・パヴリコフスキ)
槻舘南菜子

 今年のコンペティション部門には、ある時代に翻弄されたカップルという共通点はありながら、その趣は異なる二本のモノクロ映画がノミネートした。ロシアのキリル・セレブレニコフ監督『Summer (Leto)』とポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキ監督『Cold War(Zimna Wojna)』だ。 キリル・セレブレニコフ監督『Summer (Leto)』  キリル・セレブレニコフにとって7本目の長編と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:30 PM

May 12, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(2) 各部門の開幕上映作品をめぐって
ーーコンペティション/ある視点/監督週間/批評家週間
槻舘南菜子

 カンヌ映画祭のコンペにおける開幕上映作品は、フランス映画であるか否かを問わず、フランス国内での劇場公開が上映日とほぼ同日に為される作品が選ばれる。そこにはもちろん製作会社やワールドセールス、映画祭の政治的な思惑も関わるため、作品のクオリティは必ずしも重要視されていない。今年の開幕上映作品であるアスガー・ファルハディ監督作品『Everybody Knows』は、おそらく彼のキャリアにおいて最悪の出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:46 AM

May 11, 2018

2018 カンヌ国際映画祭日記(1)
槻舘南菜子

 第71回カンヌ国際映画祭が5月8日に開幕した。今年の大きな事件として、例年はプレミア上映に先立って行われていた、プレス向けの事前上映を撤廃するという発表があった。この件について、フランスでは批評家労働組合を中心にジャーナリズムの権利を主張する声明文が大々的に発表されたものの、その決定は覆されることはなく、その影響で上映の仕組みも大幅に変更され、プレス向けの上映はプレミア上映と同時か、あるいは翌...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:27 AM

April 30, 2018

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』スティーヴン・スピルバーグ
結城秀勇

 謎の繁忙期だった四月も終わりつつあり、ようやっと『ペンタゴン・ペーパーズ』を見れた。ご多聞にもれず、泣けた。なるほど、いまの日本の国民はみんなこれを見るべきだと言うのもわかる。  だがだからこそ、この映画を評価する言葉がそれだけでいいのか、という気もするのだ。あえて言えば、JFKの友達だった編集主幹のいる新聞がニクソンを糾弾する、みたいな構図だけで、本当に報道の自由について語れるのか? それはあ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:46 AM

April 18, 2018

『きみの鳥はうたえる』三宅唱
結城秀勇

 これが三宅唱の初めての原作つきの監督作であること、あるいはこういった言い方が正しいのかわからないが初の「商業」長編映画であること、そんな先入観は映像を見ている間に頭の中からいつのまにか抜け落ちていく。同様にこの映画が描いている、僕(柄本佑)、静雄(染谷将太)、佐知子(石橋静香)の間の三角関係だとか、静雄が母親に対して抱いている愛憎入り混じる思いだとか、小さな本屋の人間関係だとか、そんな物語すら映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 PM

April 13, 2018

第15回ブリィブ国際中編映画祭レポート
槻舘南菜子

ブリィブ、日本映画を忘れるーーフランス映画のための「国際」映画祭、装飾としての国際性  4月3日から4月8日、第15回ブリィブ国際中編映画祭が開催された(映画祭の創立経緯は過去の記事を参照:http://www.nobodymag.com/journal/archives/2016/0424_0034.php)。映画祭の15周年を記念して製作された思春期をテーマとした予告編は、2013年『アルテミ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

『泳ぎすぎた夜』五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督 インタヴュー
松井宏

すべての日々は新しくて、発見に満ちている 五十嵐耕平&ダミアン・マニヴェル監督 インタヴュー フランスと日本の同世代の監督が、お互いの作品に恋に落ちて、友人になって、一緒に映画をつくることを決めた......。まるで映画の1エピソードみたいなお話だけれど、ダミアン・マニヴェルと五十嵐耕平にとっては、ごくごく自然で、そして必然的なことだったようだ。ふたりの話を聞いているとそう思うし、それは彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:30 PM

April 12, 2018

『寝ても覚めても』濱口竜介
結城秀勇

 お気に入りの小説が映画化されてそれを見るという体験は、好きな誰かに似た別の誰かに出会うことにどこか似ている。......などと言い出すのは少々強引過ぎる気もするし、普段はそんなことは思わない。だが、かつて愛した男と瓜ふたつの別の男に出会う女の話である柴崎友香『寝ても覚めても』を、原作に並々ならぬ思い入れを持つ濱口竜介が映画化したとなれば、そのくらいのことを言ってもいい気がする。  似ていたとして...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 PM

『私の緩やかな人生』アンゲラ・シャーネレク
三浦翔

 アンゲラ・シャーネレク映画の基本的な時間の感覚を作っている一つには切り返しショットのなさがあるが、とりわけ『私の緩やかな人生』という作品を強く気に入ってしまったのは、切り返しのなさに伴って美しく持続する長いダイアローグの成果が、もっとも顕著なかたちで現れているからである。テクストの演出に関してアップリンクで行われたトークショーの中で質問させてもらったところ、監督の言っていたことを要約するならば、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 AM

April 7, 2018

『大和(カリフォルニア)』宮崎大祐
田中竜輔

 一度としてこの映画には姿を現さない「アビー」のことが、やけに気にかかった。主人公サクラ(韓英恵)の母親である樹子(片岡礼子)の恋人、そしてすでに故人となった日本人女性との間にレイ(遠藤新菜)という娘を持つ、かつて厚木基地にいたとされるアメリカ兵の名である。「アビー」について、その人は自分にヒップホップを教えてくれた最初の人であり、美少女フィギュアづくりに勤しむ兄の健三(内村遥)をアーティストだと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:22 AM

March 20, 2018

『はかな(儚)き道』アンゲラ・シャーネレク
結城秀勇

 女がいて、男がいる。男の足が斜面の土を踏みしめ登り、女の足がそれに続き、よろめき、差し出した手が男の手によって引き上げられる。丘の上で女はギターを手につま弾き始める。通行人のチップ用にハンチング帽を逆さに地面に置いた男が、彼女の隣にフレームインしてくる。女と男は初めてひとつのフレームに収まる。そして歌が始まる。 『はかな(儚)き道』の最初のシークエンスである。彼らの歌が続く中、カットが変わり彼...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:19 PM

March 16, 2018

『タイニー・ファニチャー』レナ・ダナム
結城秀勇

タイトルである「小さな家具」とは、主人公オーラ(レナ・ダナム)の母親シリ (ローリー・シモンズ )が制作する写真の撮影用に作られたミニチュア家具のことである。大学を卒業したオーラが久しぶりに実家に帰ってくると、母親は地下のスタジオで件の作品制作をしている。ちっちゃな椅子や机がきれいに配置された空間の真ん中にボンと突き立つ実物大の人間の足。その足のモデルをしている妹ネイディーン (グレース・ダナム)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 PM

March 14, 2018

『15時17分、パリ行き』クリント・イーストウッド
結城秀勇

『ハドソン川の奇跡』のサリー(トム・ハンクス)が劇中ずっと苦悩しているのは、彼のとった不時着水という行為の選択は他の映像(失敗していたかもしれない着水、及び他の空港に着陸することが可能だったかもしれないこと)に置き換え可能なのかどうかという問題のためであった。一方で、苦悩というほどの悩みとは無縁そうな『15時17分、パリ行き』の3人組が体現しているのは、彼ら自身がその他の映像と置き換え可能なのかど...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 PM

March 7, 2018

『ハドソン川の奇跡』クリント・イーストウッド
結城秀勇

※以下は、「横浜国立大学大学院都市イノベーション学府・研究院イヤーブック2016/2017 特集 批評の現在」に寄せた文章である。近日アップ予定の『15時17分、パリ行き』評の前提として、より多くの人に読んでもらう機会があればと思い、同学府・研究院のご厚意のもとここに再掲させていただく。 事実の後で オックスフォード大学出版局が「word of the year」に「post-truth」と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 PM

March 3, 2018

『あなたの旅立ち、綴ります』マーク・ペリントン
結城秀勇

庭師に代わって木を刈り込み、美容師に代わってヘアスタイルを仕上げ、メイドに代わって料理をする。シャーリー・マクレーン演じるハリエット・ローラーは、雑務を自分で行う必要がないほどの財力を持ちながら、それらを完璧に自らこなす能力と意志を持つ。ただしそれと引き換えに、手入れした庭を訪れる友人もなければ、新しい髪型を褒めてくれる同僚もなく、手の込んだ料理を共に味わう家族もない。ここまでなら、よくある気難し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:07 PM

February 21, 2018

『デトロイト』キャスリン・ビグロー
結城秀勇

5月公開の映画『私はあなたのニグロではない』 (ラウル・ペック)の中で、次のようなジェイムズ・ボールドウィンの文章が読み上げられる。「黒人の憎しみの根源は怒りだ。自分や子供たちの邪魔をされない限り、白人を憎んだりしない。白人の憎しみの根源は恐怖だ。なんの実体もない。自分の心が生み出した何かに怯えているのだ」。 この言葉の後半部分は『デトロイト』における人々の置かれた状況をかなり的確に言い表している...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:38 PM

February 15, 2018

『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』 ジェームズ・グレイ
結城秀勇

1906年、英国軍人パーシー・フォーセット(チャーリー・ハナム)は、アマゾン流域ブラジル・ボリビア間国境の測量の仕事を引き受ける。それは高騰するゴムの利権が絡む政治的な駆け引きのためでもあるが、一方で、自らの家系にかけられた汚名をそそぐために彼個人が社会的な名声="勲章"を必要としているという理由からでもある。当然のごとく待ち受ける幾つもの危険の先で、彼は無事川の源流へと辿り着き、測量を終える。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:04 PM

February 12, 2018

『L for Leisure』レヴ・カルマン、ウィットニー・ホーン
結城秀勇

16mmフィルムで撮影された画面の質感や人物の配置、登場人物たちの大学院生という身分、彼らの話す会話のたわいもなさは、たしかに一瞬、バカンス映画だとか休暇映画といった枠組みの中にこの作品を入れてしまいたくもさせるのだが、たぶん違う。それは全体を貫くストーリーらしいストーリーがないからでも、全体を構成するひとつひとつの休暇が短いからでもない。休暇の映画とは、限られた時間が尽きれば否応なく戻らなくては...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:59 AM

January 26, 2018

『タイニー・ファニチャー』レナ・ダナム
隈元博樹

 主人公のオーラ(レナ・ダナム)は、絶えず痛みに取り憑かれている。しかし単に痛みと言っても、誰かによる暴力や中傷の矛先になるわけでもなく、またふいに誰かを傷つけてしまうものでもない。自宅に引きこもるわけでもなければ、口数の少ないタイプでもない。むしろ彼女は自発的に物事を選び、他者へと歩み寄ることに積極的な存在だ。それなのにオーラの選択は痛みとともにあり、冒頭から私たちはその光景を見守り続けることし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:11 PM

December 16, 2017

『希望のかなた』アキ・カウリスマキ
結城秀勇

35mmフィルムでの上映(※12月17日まで!)という英断を下したユーロスペースには、どれだけ感謝してもし足りない。DCPではこの作品のよさが伝わらないとか言うつもりはさらさらない。もはや圧倒的大多数であるデジタルとの比較の上に成り立つそんなスノビズムはどうでもいいし、ましてやかつて映画はこうであったという郷愁に囚われているわけでもない。『希望のかなた』が35mmで上映されるべきなのは、いまそこに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:47 AM

December 2, 2017

『最低。』瀬々敬久
結城秀勇

なんの前情報も一切なしで見始めたので、断片的なカットの連なりで主役である3人の女性たちが描写されていく冒頭部分を見ていてちょっと混乱する。どうやら回想シーンも含まれているらしいこのパートの中で、とりあえず3人の女性は別々の場所にいるようだ。もしかしてこの3人はひとりの人物の違う時代を演じてるのか?いや名前も違うしそもそもこんなタイプの異なる3人を選ぶ意味もわからない、じゃあ実は3人のうちの誰かが誰...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:45 AM

October 29, 2017

『イスマエルの亡霊たち』アルノー・デプレシャン
結城秀勇

イヴァン・デダリュス。この映画で一番初めに発せられる言葉であるこの名前によって喚起されるものは、すでにこの映画でこの後に語られる物事よりも大きなことを原理的に孕んでいる。『クリスマス・ストーリー』でメルヴィル・プポーが演じていたイヴァン・ヴュイヤールの姿を、『そして僕は恋をする』のマチュー・アマルリックから『クリスマス・ストーリー』のエミール・ベルリング、そして『あの頃エッフェル塔の下で』のカンタ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:10 PM

September 24, 2017

『望郷』菊地健雄
結城秀勇

この作品を最初に見たとき、なにかもっと大きなものの一部が描かれている、という印象を受けた。それは全体で6つの連作短編からなる原作のうちの、2短編の映画化という事情によるものかと思い、湊かなえの原作を読んでみた。だが、本来それぞれがまったく別々に独立した物語として書かれている原作を読んでみても、その大きな全体像が見えたわけでもなかったし、そもそもひとつひとつの短編がなにかもっと大きなものの一部をなし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:57 PM

September 3, 2017

『甘き人生』マルコ・ベロッキオ
中村修七

 ベッドに眠る少年の耳元で「たのしい夢を」と囁いた母親は、羽織っていたローブを脱いで部屋を後にする。未明になって、眠りについていた少年は、父親の叫び声と大きな炸裂音によって目を覚ます。家に入り込んできた親戚たちによって少年は囲まれるが、大人たちは適当な嘘をついて母親が彼の前から姿を消したことを誤魔化す。 この間に、母親の死という出来事が発生している。のちに母親の死が落下と関係するものであると明らか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:08 PM

August 25, 2017

『パターソン』ジム・ジャームッシュ
隈元博樹

 冒頭から真っ先に思ったのは、STANLEYのランチボックスになりたいということだった。それは工具箱にも似た重厚なフォルムに魅力を感じたわけでなく、たんなる変身願望の欲に駆られたわけでもない。この映画に登場する薄緑色のランチボックスになりさえすれば、この映画の主人公に訪れる些細な時間やできごとに、他のどの人物よりも身近な存在として立ち会えるのではないかと思ったからだった。  朝は決まった時間に目を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:49 AM

August 3, 2017

『夏の娘たち〜ひめごと〜』堀禎一
結城秀勇

二度見たら、一度目よりも(あくまで量的な)理解が増えるだろうかと思ったが、いやあ、清々しいまでに一切そんなことがなかった。冒頭の病室からすでに無際限に増殖していく血縁地縁のネットワークについては、一度目に見た時点で理解し得ることはほぼ理解していたことがわかっただけだったし、初見で心をつかまれたあのカットとカットのつなぎやアクションとアクションの間あるいはアクションそれ自体に存在する「速さ」について...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:39 PM

August 2, 2017

『20センチュリー・ウーマン』マイク・ミルズ
結城秀勇

ようやくこの映画を見て、ようやくタイトルの示す「20世紀の女性」が複数形であったことを知る。 スーパーマーケットの駐車場で派手に炎上するフォード・ギャラクシーに被さるようにしてはじまるドロシア(アネット・ベニング)のモノローグが、1924年に生まれた彼女は40歳で息子を出産したことを告げる。世紀の3/4を生きたこの女性(後に彼女は1999年に亡くなるということがわかる)が、ああ日本語タイトルでいう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:21 PM

June 25, 2017

『牯嶺街少年殺人事件』エドワード・ヤン
中村修七

『牯嶺街少年殺人事件』は、ひとつの時代状況を丸ごと掴もうとするスケールとともに、緻密な構図のショットと的確な演出によって作られた傑作だ。そして、言うまでもなく、我々の時代が共有しうる最も偉大な映画のひとつだ。この映画には、世界がある。ひとつの時代があり、多くの人々が暮らす都市があり、異なる集団の間における争いがあり、ある家族の生活があり、友人たちの交わりがあり、恋人同士の関係がある。約4時間にわた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:07 PM

June 12, 2017

ここには何もない −−第70回カンヌ国際映画祭報告
槻館南菜子

受賞結果 パルムドール: ルーベン・オストルンド『The Square』 監督賞: ロバン・カンピヨ『120 Beats per minutes』 主演女優賞: ダイアン・クルーガー(ファティ・アキン『In the Fade』) 主演男優賞: ホアキン・フェニックス(リン・ラムジー『You were never really here』) 脚本賞: ヨルゴス・ランティモス『The Killin...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:24 PM

May 21, 2017

『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス
田中竜輔

このフィルムのクリステン・ステュワートはとにかく片付けをしない。というよりも、自分のために用意したものを使う素振りさえない。コーヒーを入れてもビールを開けてもほとんど口をつけぬまま、片付けもせずテーブルに放置していってしまう。彼女は何かしらを自らのものにするという様子は微塵も見せない。すでにこの世を去った兄について聞かれ「私たちは霊媒(メディウム)なの」と語る彼女は、自らの実体をもって何かを成し遂...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:13 AM

May 4, 2017

『幸せな時はもうすぐやって来る』アレッサンドロ・コモディン
渡辺進也

イタリア映画祭2017で上映されている、アレッサンドロ・コモディンの長編2本目となる『幸せな時はもうすぐやって来る』は、森を舞台にいくつかの物語が展開される。何かから逃れるように森の奥深くに分け入るふたりの男が、川で遊んだり、飢えをしのぐために罠を仕掛けたりして食べ物を探し求める物語。白い雌鹿に求愛する狼が人間の女性と恋に落ちたという伝説が人々の口から語られ、狼による家畜の被害が起きている最中に、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:15 PM

April 19, 2017

『未来よ こんにちは』ミア・ハンセン=ラブ
中村修七

『未来よ こんにちは』におけるイザベル・ユペールは、せかせかと歩き、パタパタと走る。小柄で華奢な体つきのユペールが細い腕と脚を動かして忙しなく動き回る姿が素晴らしい。彼女は、動き続けることで時間の流れに対処しているかのようだ。 ユペールは、思いがけない出来事に何度も不意撃ちされる。早朝に老いた母親からの電話で起こされ、勤め先の高校で生徒たちによるストライキに遭遇し、疲れて帰宅した後にソファで休んで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:42 PM

March 15, 2017

『ラ・ラ・ランド』デイミアン・チャゼル
田中竜輔

デイミアン・チャゼルはとりあえず「遅れる」ことに囚われた映画作家なのだろう。『セッション』の序盤で、鬼教官フレッチャー(J・K・シモンズ)とのプライヴェート・レッスンに、ドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)が遅刻してしまうエピソードを見て、しかしこの遅刻がその後の展開にまったく何も作用しないことを不思議に思っていた。が、要するにあの場面は「こいつは何の理由もなく遅刻する男だ」と印象づけるだけのシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:30 AM

March 9, 2017

『わたしたちの家』清原惟
三浦 翔

ここでありながらも何処か違う世界から届くプレゼントを受け取ること。同じ場所に前後関係もない、ふたつの時間が流れている、という設定だけを聞くとSF/ファンタジー的な想像力に支えられたアナザーワールドもののように思えてくるが、清原惟監督はそうした設定をなにも物語的に回収することはしない。そこで試みられているのは、ひたすらショットの連鎖だけでふたつの世界の関係を問うことであり、その視線は徹底的に映画的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:17 PM

March 2, 2017

『マリアンヌ』ロバート・ゼメキス
結城秀勇

モロッコっぽさを出そうなんて気は毛頭ないように思える、あの書き割りめいた砂漠にパラシュートで降り立ったマックス(ブラッド・ピット)は、砂漠の道を歩く途中で、自動車が砂埃をあげて近づいてくるのを目にする。それは物語上、マックスをカサブランカに連れていくために遣わされた味方の車なわけだが、自他ともに認める腕利きスパイであるマックスは警戒を怠らず、腰のホルスターのボタンを外し、銃に手をかけたまま近づいて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:01 PM

February 19, 2017

『息の跡』小森はるか
結城秀勇

なんだか色味が独特だな、と思った。監督本人にインタヴューでそれを聞いてみた(2月末発売予定のNOBODY issue46に掲載)ところ「ちょっと古いHDVで撮ったからですかね......」と戸惑い気味に答えていて、特に意識したことではないと言う。鮮やかではあるがどこかにじんだようでもある画の質感から、2000年代初頭の、デジタル撮影→35mmブローアップされたいくつかの作品のこと(そしてそういう作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

February 13, 2017

『本当の檸檬の木』グスタボ・フォンタン
結城秀勇

冒頭、夫婦が何気なくかわす「おはよう」という挨拶の声の凶暴さに耳を疑う。はじめは会話の音が環境音よりかなり大きくミックスされているということなのかと思ったがどうもそうではない。続く、親戚の少年とともに主人公である夫が川を下る場面でなんとなくわかるこの凶暴さの正体は、登場人物の画面内の位置関係とはまったく無関係に、彼らの言葉と見なされる音が発せられる画面中央の空間がある、ということである。男と少年は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:22 PM

January 6, 2017

『ミューズ・アカデミー』ホセ・ルイス・ゲリン
三浦翔

『ミューズ・アカデミー』という題名から、どんなミューズ論が聞けるのかと真面目に期待をしていれば面喰ってしまう。これはムチャクチャな男の映画である。簡単に説明すれば、大学で文学の授業を開いているピント教授は、現代におけるミューズの探究と言いながら、高尚な理論を並べ立てて女生徒を誘惑(?)していく。舞台は大学でもあるし、とにかく出てくる人がみんな自分の理論を大きな声で相手に向かって喋る。言っていること...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:35 PM

December 31, 2016

『ピートと秘密の友達』デヴィッド・ロウリー
結城秀勇

『セインツ-約束の果て-』のデヴィッド・ロウリーの新作が公開されている、しかもとんでもなく傑作である、と荻野洋一さんから聞き、見に行った。するとその言葉に違わぬ作品で、もうただただ泣けた。 どこかドゥニ・ラヴァンを思い出させる面構えの少年が、裸足で川の水を跳ね上げながら走り出すだけで泣けた。彼が住み慣れた森の中から文明社会へと連れ出され、そこからどうにか森に帰ろうと、駆け出し、跳躍するのを見るだけ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

December 16, 2016

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

やっと見た。たぶん誰かがいろんなところですでに書いてることだろうとは思うけれど、この作品のアメリカ青春映画史における価値をもっともらしく一言でいうならば、スクールカーストのようなものがほとんど存在しない学園映画だ、ということだろう。ジョン・ヒューズ以来の学園青春もの映画では、学園内の序列やヒエラルキー、大人や社会から押し付けられるレッテルや分類といった類型化に苦しめられる若者たちが、なんとかその垣...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:33 PM

December 2, 2016

東京フィルメックス2016 『ザーヤンデルードの夜』モフセン・マフマルバフ
三浦 翔

『ザーヤンデルードの夜』で印象に残っているのは、主人公が同じ窓から見てしまうことで対比されるふたつの光景だ。イラン革命で街が煙に包まれるなか、倒れた仲間を助けようと引きずって運ぶ若者たちが銃で撃たれていく光景を、窓から主人公である大学教授が眺めるシーン。それと同じ窓から、今度はイラン革命以後の世界で、交通事故で人が倒れているにもかかわらずそこにいた人が逃げて助けなかったところを教授が目撃するシーン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:06 AM

東京フィルメックス2016 『マンダレーへの道』ミディ・ジー
三浦 翔

ミディ・ジー監督『マンダレーへの道』は繊細に移民労働者の問題を描いている。主人公のリャンチンはミャンマーからタイに来たものの、労働許可証がないゆえに街で労働をすることが出来ない。不法入国のときトラックで知り合ったグオの紹介のもと、管理された工場で奴隷のように働くことを余儀なくされる。リャンチンとグオは恋に落るわけだが、二人の目指す方向は別々で、すれ違い、それゆえに悲劇的な結末を招いてしまう。グオは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:54 AM

November 27, 2016

2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭(Fifib)報告 Part2
槻舘南菜子

前回に引き続き、ボルドー国際インディペンデント映画祭プログラム・ディレクター、レオ・ソエサント(Léo Soesanto、以下LS)氏へのインタヴューを掲載する。映画批評家の仕事の延長線上に自らのプログラマーとしての仕事があると語るソエサント。注目すべき若手作家を幾人も発見した彼が、いま必要だと考えていることとはどのようなものか。 ----フランスには、中堅の国際映画祭が多く存在します。たとえば、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:03 PM

『山〈モンテ〉』アミール・ナデリ
則定彩香

 アミール・ナデリ監督の最新作は全編イタリアで撮影された。前作『CUT』では主演の西島秀俊が物理的に殴られまくっていたが、今度の『山〈モンテ〉』ではアンドレア・サルトレッティが本作の主役である"山"を殴りまくっている。  物語は山の麓の村に住むアゴスティーノ一家がひとりの娘を亡くしたところから始まる。水は湧かず、土地はやせ、作物の育たないその山は"呪われた山"と呼ばれていた。その呪いから逃れるため...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:04 PM

November 24, 2016

2016年 ボルドー国際インディペンデント映画祭(Fifib)報告 Part 1
槻舘南菜子

フランスには数多くの中規模映画祭が存在する。とりわけ10月と11月は、リヨンのリュミエール映画祭、ラロシュヨン国際映画祭、べルフォール国際映画祭、ナント三大陸映画祭と、映画祭ラッシュの時期に当たる。映画祭激戦期間といえるこの時期を狙って、ボルドー国際インディペンデント映画祭は5年前に誕生した。長編・短編コンペティション部門とともに、先行上映プログラムや特別上映プログラムがあるほか、野外上映とコンサ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:37 AM

November 8, 2016

『ダゲレオタイプの女』黒沢清
結城秀勇

露光時間の長いダゲレオタイプという撮影技法では、映像が定着するまで被写体は長時間同じ姿勢をとり続けなければならない。そのこと自体は頭ではよく理解できるのだが、これだけ静止画だろうが動画だろうが思いつきのままインスタントに得られる時代に生きていると、ちょっとした錯覚というか思い違いに陥る。つまり、もし撮影の途中で被写体が動いてしまったとしたら、例えば暗い場所で花火やペンライトを振ったりするのを写真に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:25 PM

November 3, 2016

『二十代の夏』高野徹
増田景子

『二十代の夏』から溢れ出す、この圧倒的な若さに対して、一体どのように反応したらよいのだろう。 「青臭い」といって切り捨てることも出来れば、「青春」といって羨むこともできる。ただ取り違えてはいけないのは、この「若さ」が若手監督のたどたどしさや初々しさを指しているのではないということだ。確かに成熟したとは形容しがたい試行錯誤の跡のみえる粗削りだが、歩み始めた者の揚げ足をここで取る意味はないし、いくつか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:11 AM

October 22, 2016

『ハドソン川の奇跡』クリント・イーストウッド
樺島瞭

2009年1月15日、150人の乗客と5人の乗員をのせたエアウェイ1549便は、ニューヨークのラガーディア空港を飛び立った2分後に、バードストライクに見舞われる。エンジンが停止したエアバスを、機長のチェズリー・"サリー"・サレンバージャーは、咄嗟の判断と巧みな操縦によって、ハドソン川――その左岸はマンハッタンの高層ビル群である――に、ひとりの犠牲者も出すことなく不時着水させる。邦題にもなっているこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 AM

October 11, 2016

『チリの闘い』パトリシオ・グスマン
稲垣晴夏

1970年、チリでは世界で初めて民主的な選挙によって社会主義政権が誕生し、サルバドール・アジェンデが大統領に就任した。本作は政権を支持し共に社会主義を目指した労働者たちと、軍部やアメリカと画策してこれを妨害しようとする富裕層との階級間の対立を、全三部の巧みな構成をもって描く。 本作において、路は富裕層と労働者の間の緩衝帯として町に横たわっており、そのためおのずと闘いの舞台として幾度も映し出される。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:48 PM

October 5, 2016

『タナーホール』フランチェスカ・グレゴリーニ、タチアナ・フォン・ファステンバーグ
常川拓也

映画『タナーホール(Tanner Hall)』は、ローマ出身のフランチェスカ・グレゴリーニとNY出身のタチアナ・フォン・ファステンバーグが、アメリカ・ニューイングランドの全寮制学校の女子寮(寄宿学校)を舞台に4人の十代の女の子を描いた2009年の作品である。なんといってもまず見所は、2015年アカデミー賞において『キャロル』(2015)で助演女優賞にノミネートされたルーニー・マーラと、『ルーム R...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:47 PM

September 27, 2016

『バンコクナイツ』富田克也
渡辺進也

日本人の客とタイの女性の間で交わされる日本語での会話に、まるでこれがバンコクではなく東京かどこかで行われているかのような錯覚に襲われる。高層マンションとキラキラネオン輝くバンコクの夜は、街中に流れる川を隅田川に見立てた東京の河岸地域のようだ。日本人を相手にした店が並ぶタニヤ通りは、日本人が客引きをし、店の中では現地の女性が日本語で話す。ただ女性たちだけがタイの女性であり、そこにやってくる客も、はた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:21 PM

September 14, 2016

『スラッカー』リチャード・リンクレイター
結城秀勇

リンクレイターの長編2作目にあたる1991年の作品。「インディーズ映画の雄リチャード・リンクレイター(『6才のボクが、大人になるまで。』)が描くジェネレーションX青春映画です。後世に絶大な影響を与え(とくにケヴィン・スミス)、のちに監督する事となる傑作『バッド・チューニング』の関連も随所に見て取れる90年代インディペンデント映画の歴史的な一本!」(Gucchi's Free School 作品解説...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:25 PM

『チリの闘い』パトリシオ・グスマン
三浦 翔

一九七〇年、チリに世界初の選挙による社会主義政権が誕生した。『チリの闘い』には、このアジェンデ政権が、一九七三年九・一一の軍事クーデターによって倒れるまでの過程が記録されている。第一部「ブルジョワジーの反乱」と第二部「クーデター」を通して見えてくるのは、固有名詞の強さである。この映画の主役は政治家では無い。街頭インタビュー、工場での議論、デモなど、無数の発言によって政治が描かれる。彼らは「アジェン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 AM

September 10, 2016

『人間のために』三浦翔
結城秀勇

「闘争の最小回路とは、力のクリスタルのことだ。力のクリスタルは、ふたつのレヴェルにおいて形成される。第一のレヴェルは、行為と知覚の結晶化プロセスだ。映画や演劇の俳優は、行為と知覚とのこのクリスタルを生きている。優れた俳優は、演技をすると同時に、演技する自分をつねに知覚してもいるからだ。俳優とは、自己をアクター/オーディエンスへと二重化し、自己においてそれらを結晶化させる術を知っている者のこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:45 PM

September 1, 2016

『ケンとカズ』小路紘史
若林良

本作は主人公であるケンとカズ、そして彼らの弟分のテルが、対立する組織の下っ端に喧嘩を吹っ掛ける場面から始まる。そこでの決着がついたあとに、ケンとカズを下から見上げるようなショットが印象的だ。前方にしゃがむカズと、後方からカズを見下ろすケン。本作において両者の「顔」が正面からはっきりと見える場面は、この対照的な姿勢のふたりを捉えたショットを除けばほとんど存在しない。物語は、妊娠した彼女や認知症の母の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:04 PM

August 29, 2016

『エミアビのはじまりとはじまり』渡辺謙作
隈元博樹

 幸福の先に訪れる死の予感は、絶えず映画の中で描かれてきたことだと思う。その例は枚挙に暇がないものの、たとえば北野武の『ソナチネ』は、沖縄の海辺で悠々自適な相撲遊びに興じていたヤクザたちを、またたく間に銃弾の飛び交う抗争の場面へと誘なっていく。またヤン・イクチュンの『息もできない』は、わだかまりを抱える男女が和解を遂げた矢先、女の弟による男への復讐によってその幕を閉じることとなる。こうして幸福が死...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:18 PM

August 15, 2016

マルセイユ国際映画祭(FID)報告
槻舘南菜子

ユーロ2016のため、今年のマルセイユ国際映画祭(FID)は通常の開催期間(6月下旬~7月上旬)ではなく、7月12~19日の開催となった。フランスには、ドキュメンタリーに特化した映画祭として2つの代表的な国際映画祭がある。ひとつは毎年3月にパリのポンピドゥーセンターで開催される「シネマ・デュ・レエル Cinéma du réel」。こちらがよりクラシックな趣きの作品が多く選出されることに対し、FI...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:43 PM

July 25, 2016

短編映画祭「Côte Court(コテ・クール)」 25周年!
槻舘南菜子

1992年に設立された短編映画祭Côté court(コテ・クール)は今年25周年を迎えた。この映画祭はパリ郊外の北に位置するパンタンの映画館「Ciné 104」で毎年6月に開催される。フランスの短編映画祭といえばカンヌ国際映画祭に次ぐ規模となるクレルモン=フェラン短編国際映画祭があるが、こちらは商業的でエンターテインメント色の強い作品が中心にセレクションされる傾向にある。それに対しコテ・クールは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:22 PM

July 16, 2016

『ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ』黒川幸則
田中竜輔

「村の中の村(Village in the village)」でなく「村の上の村(Village on the village)」。ひとりのバンドマンがごろりと迷い込んだこの村は、たとえばシャマランの『ヴィレッジ』のように隔離され幽閉された空間ではなく、スマホもネットもビールも充実しているし、なんなら普通に自動車も電車も走っているような場所だ。「on」という前置詞を率直に読み解こうとするのなら、古...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 PM

July 11, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(番外編)
槻舘南菜子

Hors Cannes 映画祭期間中に、トロント国際映画祭のプログラマーである友人のアダム・クックの紹介で、フィリップ・ガレルの弟、ティエリー・ガレルにインタヴューすることになった。ティエリー・ガレルは現在67歳、今回のカンヌには昨年から創設されたドキュメンタリー作品に与えられる「黄金の眼 L'Oeil d'or /The Golden Eye」賞 の審査員のひとりとして滞在していた。彼との出会...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:36 PM

July 2, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(3)
槻舘南菜子

「監督週間」部門 開幕・閉幕作品にマルコ・ベロッキオとポール・シュレイダーの新作が選ばれ、4本の処女長編がセレクションされた本年の監督週間。2012年にエドワード・ワイントロープがディレクターに就任して以来、その商業的なセレクションはたびたび批判されてきた。本年の「公式コンペティション」部門や「ある視点」部門から抜け落ちてしまったと思しきベルトラン・ボネロやアクセル・ロペールらの作品が救い上げられ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:48 AM

July 1, 2016

『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也
結城秀勇

真利子哲也の作品では必ず、位相の違うふたつの世界が重なり合っている。『イエローキッド』のボクサーの日々とアメコミ、『NINIFUNI』の強盗犯の逃亡とアイドルの撮影、『あすなろ参上!』のアイドルの人間としての葛藤とゆるキャラが共存する街。それらふたつは平面的な距離において遠ざけられているのではなく、互いに重なりあって二重写しになっている。だからふたつの道筋が並行モンタージュ風につながれるとしても、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:14 PM

June 28, 2016

『団地』阪本順治
田中竜輔

タイトルからして団地で繰り広げられる悲喜交々の人間模様が描かれるのかと想像していたら、まったく違った。舞台となる団地で中心的な被写体となるのは10名前後。いわゆる「ご近所付き合い」はその範囲にしかなく、そして実質的に生活が描かれるのは主人公である藤山直美と岸部一徳の夫婦だけだ。建築物としての外観こそ頻繁にフレームに収められるも、他の住民の部屋はごくわずかな場面を除けば存在さえ示唆されることはない。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:14 PM

June 26, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(2)
槻舘南菜子

「ある視点」部門 本年の「ある視点」部門にセレクションされた18本中、7本が処女作、4本は監督第2作と、例年になく新人監督がフィーチャーされたプログラムだったが、作品の出来はといえば散々たるもの。なぜセレクションされたのが理解に苦しむような作品が大半を占めたというのが正直なところだ。ただその一方で特別上映枠にアルベルト・セラ(『ルイ14世の死 La Mort de Louis XIV』)とポール・...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:08 PM

June 25, 2016

2016年 カンヌ国際映画祭報告(1)
槻舘南菜子

2016年カンヌ国際映画祭 コンペティション部門受賞結果 パルムドール:『I, Daniel Blake』(ケン・ローチ) グランプリ:『Juste la fin du monde』(グザヴィエ・ドラン) 審査員賞:『American Honey』(アンドレア・アーノルド) 監督賞:クリスチャン・ムンジウ(『The Graduation』)、オリヴィエ・アサイヤス(『Personal Shoppe...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:27 AM

June 22, 2016

『天竜区奥領家大沢 夏』ほか「天竜区」シリーズ 堀禎一
田中竜輔

静岡県浜松市、その最北部の山間地に位置する天竜区大沢集落は、村の開拓当初からその限られた土地を活用するために――歩くのも大変なほど急な勾配の斜面は多くの畑で占められている――最大で8軒までしか戸数は増やされなかった。今日では過疎化が進み3軒で4人が生活しているこの場所の、およそ1年にわたる人々の生活を映し出すのがこの全4本で4時間を超える「天竜区」シリーズである。だが、そうした背景や事前知識につい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:58 AM

June 19, 2016

『あなたの目になりたい』サッシャ・ギトリ
結城秀勇

ジュヌヴィエーヴ・ギトリ演じるモデルが、サッシャ・ギトリ扮する彫刻家への恋心を祖母に打ち明けるとき、祖母はこう忠告する。一目ぼれは、それがふたり同時に起こるのなら、信じられる。もしどちらか一方だけなら危険だ。そして仮にふたり同時に起こったとしても、それでも危険なものだ。なぜならふたりは見つめあうけれど、実はなにも見ていないからだ。その熱いまなざし以外にはなにも。 画面に映し出される映像や文字や数量...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:22 PM

May 28, 2016

『或る終焉』ミシェル・フランコ
常川拓也

閑静な住宅街の中、ティム・ロス演じるデヴィッドは、ひとりの十代の少女が家から出て車に乗り込むまでをじっと観察し、彼女が通りを車で走り出すと無言のまま追跡しはじめる。カメラはその様子を車内の助手席から長回しで捉える。次のカットでは、彼は夜な夜なフェイスブックでナディアという女の子の写真を何枚もチェックしている。第68回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『或る終焉』のこのアヴァンタイトルを見て、このふ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 AM

May 27, 2016

『わたしの自由について』西原孝至
三浦 翔

何故SEALDsをやっているのかという問いに対してSEALDsの牛田は、「授業でキング牧師の講演を見ていたら『私たちが目指してきたものは必ず達成される、しかしそれは私の生きている間では無い』と泣きながら語るシーンを見てしまったからだ」と語る。そこには、「どういった思想で」といった明確な答えがあるわけでは無い。過去から受け取ったバトン=コトバがあるだけだ。しかし、だからこそ彼らは強く、軽やかに運動を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:24 PM

May 26, 2016

第69回カンヌ国際映画祭 ジャン=ピエール・レオ パルムドール名誉賞 受賞シーン
坂本安美、茂木恵介

「ジャン=ピエール・レオ、あなたは私の人生を変えました」(アルノー・デプレシャン) その地に赴くことはできなかったにせよ、本年のカンヌ国際映画祭のハイライトのひとつは間違いなくクロージングにおけるジャン=ピエール・レオのパルムドール名誉賞受賞シーンだっただろう。コンペティション部門審査員のひとりであるアルノー・デプレシャンは、クロージング後の記者会見で「映画の学生に戻った気持ちで審査員として臨み、...全文を読む ≫

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May 17, 2016

『山河ノスタルジア』ジャ・ジャンクー
中村修七

『山河ノスタルジア』は、同時代を捉えてきたジャ・ジャンクーが初めて近未来を捉えた映画だ。とはいえ、近未来の人物も現代に生きている人物と異なるわけではない。近未来に生きる人物たちにとっても、母が子を思う愛情や子が母に対して抱く思慕の念は無縁なものではない。あるいは、このような近未来は現在を照らし返すものだと述べるべきかもしれない。近未来が舞台となっているジャン=リュック・ゴダールの『アルファヴィル』...全文を読む ≫

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May 3, 2016

『追憶の森』ガス・ヴァン・サント
渡辺進也

『ミルク』以降、他人の書いたシナリオで作品を作るようになったガス・ヴァン・サントは、それまでの作家性とは異なる方法で、むしろ職人的なと言ってもいい熟練した方法で映画を作っているようで興味深い。前作『プロミスドランド』では、舞台となったあの町にないものは撮るつもりはないとばかりに、あの町にあるものだけをただひたすら撮り続けていた。「あるものはある」「ないものはない」である。今作の『追憶の森』において...全文を読む ≫

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April 30, 2016

『台湾新電影時代』シエ・チンリン
隈元博樹

 巷のシネコンへ足を運ぶたびに、ふと気になってしまうことがある。それは予告編に続いて本編が始まろうとしてもなお、スクリーンのフレームサイズが一向に変わらなくなったということだ。たとえばこれがフィルム上映であれば、必ず上映前に映写技師の手によってスタンダード、ヴィスタ、スコープと、作品ごとのフレームサイズに応じたマスキングが行われていたと思う。それと同時にマスキングは画の左端に連なるサウンドトラック...全文を読む ≫

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April 29, 2016

『SHARING アナザーバージョン』篠崎誠
結城秀勇

「このバージョンは、上映時間の長いバージョンのたんなる短縮版ではなく、文字通り"別の"バージョンなんです」とは、上映前の監督挨拶において強調されていたことであるが、このバージョンが、長いのと短いの、表と裏、右と左といったような対を補完するものとしてあるのではなく、ただ別なものとしてある、というのはなんだか重要な気がする。 というのも『SHARING』という作品自体が(そしてとりわけ「アナザーバージ...全文を読む ≫

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April 24, 2016

ブリィヴ・ヨーロッパ中編映画祭報告(2016年4月5日~ 4月10日) 
槻舘南菜子

ブリィヴ・ヨーロッパ中編映画祭(Festival du cinéma de Brive http://www.festivalcinemabrive.fr/home.php )は、五月革命後にカンヌ国際映画祭の監督週間部門を創設したフランス映画監督協会(Le SRF) の主導で、2004年に始まった。5日間の短い会期に関わらず、毎年数百人の映画人――批評家、プログラマー、映画監督、プロデューサー等...全文を読む ≫

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April 10, 2016

『リリーのすべて』トム・フーパー
若林良

 本作『リリーのすべて』は、第二次世界大戦前のドイツで世界初の性別適合手術を受け、男性から女性になった実在の人物の物語である。その製作背景としては様々であろうが、おそらくは、主人公のアイナー・ヴェイナー=性別移行後はリリー・エルベが、歴史上はじめて性別転換にふみきったことの、歴史的な意義が再評価されたことが大きいだろう。いわば現在におけるトランスジェンダーの人々の希望を提示した、偉大な先達であると...全文を読む ≫

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April 7, 2016

『ルーム ROOM』レニー・アブラハムソン
常川拓也

 ブリー・ラーソンの主演作としては前作にあたる『ショート・ターム』では、彼女の演じる役名はGraceだった。それに対し本作『ルーム』では、彼女はJoyという名を持って現れる。恩寵とよろこび──ときに皮肉な、そしてときに文字どおりの意味を物語の中にもたらす名前の響きが、短期保護施設を舞台に、ケアテイカーと心に深い傷を負ったティーンエイジャーとの間で築かれる疑似家族/親子を描いた『ショート・ターム』と...全文を読む ≫

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March 11, 2016

『母よ、』ナンニ・モレッティ
隈元博樹

 ナンニ・モレッティのフィルモグラフィを紐解けば、ミケーレ・アピチェッラやドン・ジュリオという人物を演じる彼の姿が浮かんでくる。当然ながら彼らを演じる以上、彼らはモレッティ自身であり、いっぽうでは分身のような存在でもある。モレッティとは異なるアイデンティティを持ったミケーレやジュリオは、左翼崩れの青年、数学者、映画監督、神父、さらには水球選手(ときどき共産党員)として、それぞれのフィルムの一翼を担...全文を読む ≫

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February 17, 2016

『大河の抱擁』チロ・ゲーラ
久保宏樹

近年、映画産業の発展の著しいコロンビアの若手映画映画監督チロ・ゲーラ(Ciro Guerra)による長編3作目、『大河の抱擁』(原題は「El Abrazo de la Serpiente / 蛇の抱擁」、ちなみに本作は日本でも第7回京都ヒストリカ国際映画祭にて上映されている)が、第68回カンヌ国際映画祭監督週間グランプリ受賞から7ヶ月の遅れを経て、パリでは昨年の12月23日よりMK2系列の映画館で...全文を読む ≫

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February 16, 2016

『ザ・ウォーク』ロバート・ゼメキス
田中竜輔

ジョゼフ・ゴードン=レヴィット演じるフィリップ・プティを語り部として、プティによって行われた地上400mを超えるツインタワー間の綱渡りという常軌を逸した実話を題材につくられた本作。遅ればせながらIMAX3Dでこの作品を見て、本当に様々な場面で魂のすくむ思いをさせられた。しかし一方で私がこのフィルムを見ながら終始不思議で仕方なかったのは、どうしてレヴィット=プティが「英語を話す」ということにここまで...全文を読む ≫

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February 7, 2016

『東から』シャンタル・アケルマン
結城秀勇

35mmフィルムで投射された映像がなんだかやけにぼんやりとして見える。粗い粒子のひとつひとつにはピントが合っているのに、それらが構成する映像全体のどこに焦点があるべきなのかがわからない。画面中央に置かれた樹木がその背景よりも鮮明であったりすることもなければ、画面の奥から近づいてくる農婦たちの誰かひとりが他の誰かよりも鮮明であることもなく、駅の待合室の、横移動するカメラの前に現れては消える人々もまた...全文を読む ≫

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February 4, 2016

『母よ、』ナンニ・モレッティ
増田景子

ナンニ・モレッティの新作『母よ、』を見て、アンナ・マニャーニのお尻を思い出した。『ベリッシマ』(1951、ルキノ・ヴィスコンティ)で子どものために階段を上り下り、あちこちを駆けずり回る姿のなかに光る、あのお尻である。ペドロ・アルモドバルが『ボルベール』の撮影の際に、つけ尻なるものをペネロペ・クルスにつけさせたのも、このお尻のせいだ。彼はこのアンナ・マニャーニのお尻に「母親」たるものを見出したからだ...全文を読む ≫

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January 31, 2016

『蜃気楼の舟』竹馬靖具
隈元博樹

 オープニングショットに捉えられた一艘の小舟が、ゆったりと画面の奥へ向かっていく。それは別に何かを運搬しているわけではなく、ただゆらゆらとスクリーンの前の私たちから離れていくだけだ。しかし佐々木靖之のカメラは、そんな無機質な舟の行方を丹念に追いつづける。どこへ向かうのかさえも問うことなく、誠実なまでにその舟の行き着く先を収めようとする。  このように『蜃気楼の舟』の被写体たちは、絶えずどこかへ向か...全文を読む ≫

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January 15, 2016

『ブリッジ・オブ・スパイ』スティーヴン・スピルバーグ
結城秀勇

この映画の最初のカットは、後にソ連のスパイとして逮捕されることになるルドルフ・アベルの顔を映し出す。カメラはそのままズームアウトして、その顔が鏡の前に座った男の鏡像であったことを明らかにし、そして彼が鏡を見ながら描きつつある自画像が画面右手に置かれていることをも示す。この、こちらに背を向けたひとりの男と、男についての二枚のイメージーー左側は鏡像、右側は自画像ーーを見ていてなんだか変な感じになる。そ...全文を読む ≫

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December 23, 2015

『独裁者と小さな孫』モフセン・マフマルバフ
常川拓也

「狂気が世界を支配し、人類の自由が失われていた頃の物語」──チャールズ・チャップリン『独裁者』は冒頭にこのように説明される。およそ75年前に警鐘が鳴らされた世界から現代はある意味では進歩していないのだろうか。そう思えてしまうほど、この文言は『独裁者と小さな孫』の冒頭に付けられていてもおかしくないかもしれない(その意味で、本作で独裁者と孫の最初の逃亡先が「床屋」なのは意識的だろう)。何の躊躇や葛藤も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:03 PM

November 18, 2015

『約束の土地』アンジェイ・ワイダ
隈元博樹

 引き攣った顔の連続が、スクリーン越しに押し寄せてくる。カメラのクロースアップがそれを助長するかのように、時代の潮流に揉まれた人々の表情が、およそ40年の時を経てもなお刻まれている。舞台となる19世紀末のウッチは、世界でも有数な繊維工業地帯として栄華をきわめ、さらにはドイツ、ユダヤ、ポーランドによる民族と文化の入り混じる只中にあった時代だ。だからこのフィルムが描くウッチには、民族の多様性があり、貧...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 PM

November 10, 2015

『岸辺の旅』黒沢清
梅本健司

僕らと映画とその間  瑞希が言うように、瑞希と優介には違いなんてないのではないか。死んだように生きていている瑞希が、突如思いつき白玉を作っていると、生きているかのように死んでいる優介が帰ってくる。「たぶん、身体はカニにでも食べられてるだろーねぇ」と言いながら白玉を食らう優介と、「そう」と平然と答える瑞希は、3年ぶりに再会した夫婦であるのだが、それが生死を超えた再会には見えない。もしかしたら二人とも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

November 6, 2015

『タンジェリン』ショーン・ベイカー
常川拓也

デュプラス兄弟が製作総指揮で携わる『タンジェリン』の舞台となるLAのクリスマス・イヴは、暖色の太陽が燦々と照っている。セックスワーカーをしているふたりのトランスウーマンと、アルメニア移民のタクシー運転手を中心に、掃き溜めのようなストリートが全編iPhone5Sでゲリラ的に撮影されているが、それによってショーン・ベイカーは街に溶け込むことに成功しているように思える。まるでラップをスピットするかのよう...全文を読む ≫

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November 2, 2015

『パリの灯は遠く』ジョゼフ・ロージー
高木佑介

よせばいいのにロベール・クライン(=アラン・ドロン)は自分と同じ名を持つもうひとりの「クライン氏」を追いはじめる。ナチス占領下のパリでユダヤ人から美術品を安く買い叩くクラインと、ユダヤ人と思しきもうひとりのクライン氏。単純に話の筋だけ追っていくと、出来の悪いミステリーを見ているかのような気がしてくる。自己の分身を追いかけることの不毛さ、あるいはその裏返しとしてのアイデンティティーの再獲得。もしくは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:09 AM

October 31, 2015

『私の血に流れる血』マルコ・ベロッキオ
高木佑介

TIFFにてベロッキオの新作を見る。とても奇妙な映画だ。魔女の嫌疑をかけられた修道女に課せられる数々の試練――そしてそれを乗り越えて神への無償の愛を体現する聖女の物語という話で終わるのかと思いきや、全然違った。中世のキリスト教魔女裁判を巡る話が前半部分を占め、後半では突如として現代を舞台にした話が展開される。魔女裁判のくだりでは、敬虔そうな神父たちが修道女に試練を課して、サタンと契約したことを示す...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:46 AM

October 30, 2015

『私の血に流れる血』マルコ・ベロッキオ
田中竜輔

デヴィッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』ではレディオヘッドの「Creep」のカヴァーが用いられていたベルギーの聖歌隊グループ、Scala and Kolacny Brothersによる本作の主題歌は、なんとメタリカの「Nothing else matters」。選曲がベロッキオ本人によるものなのかどうかはわからないが、ともあれ、「So close, no matter how far...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:55 PM

October 22, 2015

『マッドマックス2』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ジョージ・ミラー
結城秀勇

早稲田松竹で二本立て。やっと見た。 『マッドマックス』も『マッドマックス/サンダードーム』もテレビでは見てるはずだがまったく記憶にないので、あくまで『2』と『怒りのデス・ロード』を比較しての印象だが、メル・ギブソンとトム・ハーディのマックスの違いは、とりあえず仲間になりそうな感じの人たちへの応対の違いにあるんじゃないだろうか。ギブソンは無関心を装った苛立ちみたいに見えるのに対して、ハーディは無関心...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 AM

October 16, 2015

『パウリーナ』サンティアゴ・ミトレ
常川拓也

2015年カンヌ国際映画祭批評家週間でグランプリに輝いた『パウリーナ(原題:La Patota)』は、判事の父を持つ弁護士のパウリーナ(ドロレス・フォンシ)が、そのキャリアを捨て、社会奉仕を志してアルゼンチンの都会から生まれ故郷の田舎町へ帰るところからはじまる。誰かの人生のためになるべく、そこで暮らす貧しい若者たちへ現代の民主的な権利などを教える教師となった彼女だったが、しかし、同僚女性の家でワイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:14 PM

October 9, 2015

『黒衣の刺客』ホウ・シャオシェン
結城秀勇

フィルムによる撮影・上映ではなく、デジタルによる撮影・上映でのみ可能になる映像のあり方があるんじゃないのか、と数日前に書いたばかりだが、『黒衣の刺客』がまざまざと見せるのは、とりあえずフィルムで撮っておけば、あとはデジタルのポスプロで作れない画面なんてない、という圧倒的な事実だ。フィルムで撮影しさえすれば、この世に存在するあらゆる映像はつくりだせる、そんな断言にも似た力強さーーそう呼ぶにはあまりに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:14 PM

October 5, 2015

『アカルイミライ』黒沢清
結城秀勇

『岸辺の旅』を見ていてすごく気になったのは、浅野忠信と一緒にいないときの深津絵里の生活が、極端に彩度の低い画面で映し出されていることだった。とくに中盤の、旅を中断して東京に帰る場面。ほとんど灰色と言ってもいいような色調で、旅の間に枯れ果てた鉢植えの植物が画面に映る。そのとき、なんだかとてつもなく取り返しのつかないことが起こったような、取り返しもつかないような途方もない時間が経過したような、そんな気...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:55 PM

October 3, 2015

『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』ロン・マン
隈元博樹

 ある事物の性質やその特徴を言い表すとき、私たちは「らしさ」という接尾語を使うことがある。ここでの「らしさ」とは、礼節を重んじた人物に対する紳士らしさであり、しとやかで品格を備えた人物に対する淑女らしさのことを指している。ただしこれらは、実体に近しいことを表現しているにすぎず、それ自体のことではない。紳士らしさとは紳士に近い存在であり、完全なる紳士ではない。また淑女らしさとは、そのすべてをもって淑...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:36 PM

September 23, 2015

『みんな蒸してやる』大河原恵
渡辺進也

いまユーロスペースで「たまふぃるむナイト」が開催されている。 「たまふぃるむ」を説明しておくと、もともとが多摩美術大学の映像演劇学科の映画制作の授業の一環からはじまったものだったが、当学科がすでに募集を止めてしまったためにそこから派生して在学生やOBを含めた組織となった。彼らは、制作だけに留まらず上映も定期的に行っている。おそらくそのメンバーは10数人ほどで構成されていると思うのだが、誰かが作品を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:38 AM

『ひこうせんより』広田智大
渡辺進也

人里離れた廃墟のような場所で、男女7人が生活している。時代もまるで現代ではないような雰囲気で、無機質な衣装と無機質な物質の中で彼らは生活している。ある者は写真を撮り(フィルムが実際に装填されているのかわからない)、ある者は廃品だろうか機械を修理し、ある者は外部からの侵入者を警戒しているのだろうか金属バットを振り回し、ある者は紙に赤や青のペンキを塗り続け、ある者はひまわり型の風車をつくり、ある者は近...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:30 AM

July 23, 2015

特別講義「〜日仏映画作家「現代映画」を語る〜」@映画美学校(2015.6.28)
渡辺進也

今回、映画美学校で行われたマスタークラスでは、「〜日仏映画作家「現代映画」を語る〜」と題して、フランス映画祭2015に最新作『アクトレス〜彼女たちの舞台〜』と共に来日したオリヴィエ・アサイヤス監督が青山真治監督を相手に、映画制作の方法や映画への考え方、また『アクトレス』についてなど多岐に渡り話を聞く機会となった。 その講義の中でも特に印象に残ったアサイヤスの言葉は、映画制作の際に常に自分でもわから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:52 AM

July 17, 2015

『海街diary』是枝裕和
若林良

『そして父になる』に続いてカンヌ映画祭コンペティション部門に出品された、是枝裕和監督の新作である。日本の美を色濃く残すような"古都"鎌倉で、四姉妹が織りなす一年間の日々をじっくりと描いている。鎌倉を舞台にした映画と言えば、小津安二郎の『晩春』『麦秋』など「家族の静かな別れ」を描いた作品が有名であるが、本作で描かれるのはそうした作品群とは対照的な、「家族の再生/誕生」である。それは『誰も知らない』『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:04 AM

July 10, 2015

『サイの季節』バフマン・ゴバディ
グフロン・ヤジット

重い扉の開く音がする。不穏な影に、冷たい水。白く老いた髭。そして目に射し込むのは、暖かさを失った太陽の光――ある男の企みによって不当に逮捕されたクルド系イラン人の詩人サヘル・ファルザンが、30年間の獄中生活から釈放される場面で物語が幕を開ける。 時代はイスラム革命のさなか、サヘルは反革命的な詩を書いた罪を問われ投獄されてしまう。投獄中、政府の嘘によりサヘルは死んだことにされていた。釈放後に彼は愛す...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:55 PM

July 9, 2015

『チャイルド44 森に消えた子供たち』ダニエル・エスピノーサ
高木佑介

数年前に『デンジャラス・ラン』という映画が公開されていたダニエル・エスピノーサの新作。デンマークの国立映画学校にキャリアの出自を持つというこの南米系スウェーデン人監督のことは詳しくは知らないが、彼の前作『デンジャラス・ラン』は、CIAの「裏切り者」のベテランと新米の師弟関係を軸に、法と無法、行動と待機のあいだを絶えず行き来する人物や物語がそうした主題を最も得意としていたかつてのアメリカ映画への尊敬...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:41 PM

July 6, 2015

『冷たい水』オリヴィエ・アサイヤス
白浜哲

映画がエンディングを迎え川の流れる音が短くフェードアウトしていくと同時に、わたしの身体は再びいつもの重さを取り戻していた。『冷たい水』を見ることとは、まるで水のなかにいるようにふわふわと浮遊するような体験であり、また深く息つぎを繰り返すような重々しさを受け入れ、そこからの解放を伴なう体験であると言えるかもしれない。鬱屈を抱えた少女と、それに付き合おうとする少年の青春時代を描いたこの映画は、それがそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:35 PM

『約束の地』リサンドロ・アロンソ
渡辺進也

new century new cinema やfilm commentで紹介されているように、数少ないリサンドロ・アロンソのフィルモグラフィーで繰り返し描かれてきたのは、孤独な男が、孤独な場所で、孤独に時を過ごすその様である。『La libertad』における木こりの男の1日の時間。『Los muertos』における刑務所を出た男のその後の時間。『Fantasma』における自分の出た映画(その劇...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:56 PM

June 20, 2015

『アクトレス ~女たちの舞台~』オリヴィエ・アサイヤス
坂本安美

シルス・マリアの雲とともに 電車の中でいくつもの携帯やコンピューターを使い、何人もの人たちとやり取りしている女性ふたり。世界的に活躍する40代のフランス人女優マリア(ジュリエット・ビノッシュ--おそらくこれまででもっとも素晴らしいビノッシュをこのフィルムでは発見できるだろう)と、そのアシスタントである20代前半のアメリカ人ヴァレンティーヌ(クリステン・スチュワート--もはや演技を越えた何かに到達し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:27 AM

June 11, 2015

『だれも知らない建築のはなし』石山友美
長島明夫

建築家および建築関係者へのインタヴュー映像を主につなぎ合わせて作られた73分間のドキュメンタリー。ところどころで実際の建築の映像が短く挿入される。話者は安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、レム・コールハース、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクスら合計10名。インタヴュアーが中谷礼仁、太田佳代子、石山友美。もともとはヴェネチア・ビエンナーレの展覧会場で流しておくために作られた本作の制作の経緯は、石...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:14 PM

June 10, 2015

『パプーシャの黒い瞳』ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
長谷部友子

冒頭、けたたましいソプラノがジプシーについて歌い出し、一体何がはじまったのかと思った。どう考えたってこれはジプシーの音楽ではない。多分これはオペラなはずで、しかし何故こんなことになっているのだろう。この不自然さ、なにかおぞましいおどろおどろしい不穏なものがはじまっていく感覚こそがこの映画をもっとも端的にあらわしているように思う。 このオペラの歌詞を書いた人物は、「パプーシャ」(人形)という愛称で呼...全文を読む ≫

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『パロアルト・ストーリー』ジア・コッポラ
四倉諒太郎

ジア・コッポラは『パロアルト・ストーリー』の監督を、職人的にこなしている。この作品は、ジアのセンスを堪能する映画ではない。『ヴァージン・スーサイズ』(1999)や『ガンモ』(1997)のような、ソフィア・コッポラやハーモニー・コリンの処女作にあった被写体への愛情を期待すると、大きく評価を損ねてしまう。ここでジアに対する評価を「ソフィアやハーモニーよりセンスがない」としてしまったら、それこそ不...全文を読む ≫

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June 8, 2015

『ローリング』冨永昌敬 
渡辺進也

 小金をうまいことせしめた元高校教師とその元生徒たちは、東京の弁護士に何もないただ広い荒野に連れていかれ土地を買わされようとしている。この土地にソーラーパネルを置いて一儲けしないかと提案されているわけだ。そこで弁護士は次のような言葉で彼らの購買欲をかきたてる。 「想像してください。この土地にソーラーパネルが並ぶ様を」 「見てください。この眩しい太陽を。なぜ眩しいのか。それは電気だからです」  まる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:46 AM

June 7, 2015

『マナカマナ 雲上の巡礼』ステファニー・スプレイ&パチョ・ヴェレズ
渡辺進也

 映画のタイトルになっている『マナカマナ』は、女神像のある聖地のような場所で、かつては険しい山道を3日かけて登ることでようやくたどりつけるような場所にある誰でも簡単に行けるようなところではなかった。それが山の麓から頂上までをつなぐロープウェイができたことによりわずか10分ほどで行くことができるようになった。  と、書いてみたけれど、そういったことはこの映画の中で説明などされるわけでない。あくまでも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

June 4, 2015

『僕の青春の三つの思い出(僕らのアルカディア) Trois souvenir de ma jeunesse - Nos arcadies』アルノー・デプレシャン
坂本安美

若き芸術家の肖像 © Jean-Claude Lother / Why Not Productions 「僕は思い出す」 ポール・デダリュス。この奇妙なちょっと発音し難いラスト・ネーム(それはジェイムズ・ジョイスの小説の主人公スティーヴン・ディーダラスから取られていると言われる)を持つ、アルノー・デプレシャンの長編2作目『そして僕は恋をする』の中で生み出されたこのひとりの登場人物は、90年代以降多...全文を読む ≫

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June 3, 2015

カンヌ国際映画祭2015リポート Vol.05 
槻舘南菜子

5月16日 朝起きると連日の睡眠不足と栄養不足でなんだか体調が思わしくない。やばい。だが、見逃すわけにはいかないので8時半のプレス上映でナンニ・モレッティ『Mia Madre』からスタート。 Film Still © SACHER - FANDANGO 彼自身の私的なエピソードを元にした物語で、女性映画監督の制作現場と病床にある母親を見舞うエピソードが並行して語られる。最近のコメディータッチのモレ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:30 AM

June 2, 2015

カンヌ国際映画祭2015リポート Vol.04 
槻舘南菜子

5月15日 朝8時半からのプレス上映のために7時起床。前作『Alps』がかなり変わった作品で面白かったYorgos Lanthimos『The Lobster』からスタート。 近未来を舞台としたSFで、その世界では法律によって独身の男女は拘束され、あるホテルに送られる。そこで45日以内に相手を見つけられなければ、動物(ただし何になるかは選べる)に変えられ、森に放たれることになるという。そこから逃げ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:25 PM

カンヌ国際映画祭2015リポート Vol.03 
坂本安美

5月14日 夜20時近く、カンヌに到着。槻舘南菜子のお陰でフランスの若い批評家たちと6人でアパートを共有させてもらうことになっていたのだが、予想以上の狭さに一瞬たじろぐ。なんとか荷物を整理し、二段ベッドの下を寝床に確保させてもらい、長旅で疲弊した身体にむち打ち、南菜子ちゃんと共に「ある視点」部門のオープニング・パーティーに顔を出す。それで帰ればいいのに、しばらく会っていなかった友人に一目と出かけて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 PM

May 28, 2015

『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』シャウル・シュワルツ
常川 拓也

100万人が住むメキシコのシウダー・フアレスは、年間4000件近い殺人事件があり、警察は麻薬組織からの報復を恐れて黒い覆面を被って事件現場に向かう。この「世界で最も危険な街」フアレスからひとつの川を挟んだ国境の向こうには、年間殺人件数5件の「全米で最も安全な街」エルパソがある。イスラエル出身で米ニューヨーク在住のフォトジャーナリストであるシャウル・シュワルツ監督は自ら撮影も務め、シニックな視点...全文を読む ≫

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May 24, 2015

映画『ローリング』完成披露試写会@水戸芸術館ACM劇場(2015.4.11) 
鈴木洋平

 4月11日に水戸芸術館ACM劇場にて行われた完成披露試写会で、2002年の水戸短編映像祭グランプリを経たのち、映画監督という職を得ることができたことへの感謝を述べつつ、監督の冨永昌敬は「また水戸芸術館で上映できたことが嬉しい」と観客の前で素直に語った。主演の三浦貴大は1年のロケの大半を茨城で過ごしているほど北関東に親しいらしく、ヒロインを演じた柳英里紗は映像祭で監督と初めて出会い、かねてから冨永...全文を読む ≫

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カンヌ国際映画祭2015リポート Vol.02 
槻舘南菜子

5月14日 今朝は監督週間の開幕上映作品、フィリップ・ガレルの新作『L'ombre des femmes』+『Actua I』からスタート。 『Actua I』は当時のゴーモンやパテによるニュース映画批判として、68年5月ザンジバールのメンバーとともに撮影されたが、長年消失されたとされていた作品だ。昨年シネマテーク・フランセーズにより修復され、パリの短編映画祭 Côté court を皮切りに上映...全文を読む ≫

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May 23, 2015

カンヌ国際映画祭2015リポート Vol.01 
槻舘南菜子

5月13日 パリ・リヨン駅7時19分発のTGVで出発。つまり朝5時半起き。いつも通り電車の中で眠れるはずがないので、印刷した上映スケジュールを睨みつけながら予定を立てていく。コンペティションを中心に監督週間部門や批評家週間部門の気になる作品をピックアップし、移動時間と待ち時間を計算する(私のプレスパスは青色、どの上映にも易々と入れてしまう魔法のピンクパスよりランクは下で、プレス上映は最低1時間半...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:03 PM

April 30, 2015

『THE COCKPIT』三宅唱
田中竜輔

三宅唱は、小さな部屋で2日間にわたって行われたOMSBやBimら若きHIPHOPミュージシャンの作曲&レコーディングの様子を被写体とした最新作『THE COCKPIT』において、真正面に据えられたカメラの前で機材に向かいトラックをつくり続けるOMSBの姿を見つめつつ、まるで鏡に向かい合っているような気分でこの作品の編集をしたと語っていた。それはたんにふたりの人物が、カメラ/モニターというひとつの面...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:53 AM

April 21, 2015

ミケランジェロ・アントニオーニ展 ――アントニオーニ、ポップの起源
茂木恵介

夏時間が始まって早一週間。ようやく、コート無しで外を出歩けるようになった。街にはサングラスをかけた人たちが、カフェのテラスや公園で飲み物片手に楽しそうに話している。ようやく、パリにも春が訪れた。そんな誰もがウキウキしてしまう季節の中、映画の殿堂シネマテーク・フランセーズにてミケランジェロ・アントニオーニの展覧会がオープンした。 展覧会に合わせたレトロスペクティブのオープニングには新旧のシネマテーク...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 PM

April 15, 2015

『La Sapienza(サピエンツァ)』ウジェーヌ・グリーン
茂木恵介

「工場は現代のカテドラルだ」という台詞を聞いたとき、スクリーンに映し出されるのは取り壊され半ば廃墟のような工場跡の映像であった。工場が資本主義の象徴のひとつであることは言うまでもない。昔、どこかのお偉いさんに「工場はひとつの村だ」と言われた記憶があるが、大工場を持つ企業がある地域の産業を支えており、その周辺に住む多くの人たちはその企業に勤め、工場に通勤している。加えてその地域の行政がそのような企業...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:40 PM

March 14, 2015

『ドノマ』ジン・カレナール
楠大史

この作品を見て、いまだに戸惑いを隠し切れない自分がいる。観客に対してここまで挑発的な姿勢の映画も、近年では珍しいのではないか。ジン・カレナールの『ドノマ』は良くも悪くも、映画の新しい形式をこれでもかと突きつけてくる作品である一方で、その基盤にはフランス映画がこれまで培ってきた即興演出の流れをも強く感じさせる。不思議な作品であり、こう言ってよければ怪作だ。 とはいえ『ドノマ』の面白さは、その新しい形...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:32 AM

March 5, 2015

『5 windows eb』『5 windows is』瀬田なつき
結城秀勇

どれだけの人が共感するかはわからないし、これが的を射た観点だとも思わないのだけれど、私にとって「5 windows」とは、『ローラ殺人事件』(オットー・プレミンジャー、1944)や『デジャヴ』(トニー・スコット、2006)の系譜に連なる「すでに死んだ女に恋をする話」の最新版なのであり、こうしてもともとのプロジェクトから時間も空間も距離をおいた◯◯ヴァージョンが付け加えられるたびに次第にその思いは強...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:59 PM

March 3, 2015

『さらば、愛の言葉よ』2D版 ジャン=リュック・ゴダール @横浜シネマリン
結城秀勇

2014年度ベストでも書いたことだが、この映画についてどう語るべきなのかを悩んでいた。つまり自分がこの映画で見たものと同じものを、自分以外の人たちも当然のように見た、という前提に立ってよいのかわからなかったのだ。もちろん、人と話せば「タイトルの3Dって文字が飛び出してたよね」とか「右目だけパンする画面があったよね」とか、自分が見たと思うものがたしかにスクリーンに映っていたらしいことは確認できる。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:34 PM

February 7, 2015

『少女と川』オレリア・ジョルジュ
隈元博樹

 この映画の水面には、ふたつの働きがあると思う。ひとつは物質として存在し、つねに外からの光を照り返すようにして反射させること。もうひとつは地上にかけて存在する現実の世界から、その奥底へと繋がる別の世界を想起させることだ。だからここに映る幾多の川はその水面下の状況を映し出すことはないし、つまりはどの水面も透き通ってはいない。目上の太陽や街灯を反射させることはあるけれど、私たちは水中の状況を知ることさ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:30 PM

February 5, 2015

『メルキュリアル』ヴィルジル・ヴェルニエ
結城秀勇

「第18回カイエ・デュ・シネマ週間in東京」のチラシには、この作品の物語が、いま現在ここにある世界とは別の世界を描いたある種のファンタジーのようなものとしてあらすじが書かれているのだが、実際映画を見てみて、半分同意するとともに半分納得できないでいる。ヴィルジル・ヴェルニエという若い映画監督の過去作について書かれた海外のいくつかの文章にちらっと目を通してみると、決まってドキュメンタリーとフィクション...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:52 AM

January 27, 2015

『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』アルノー・デプレシャン
結城秀勇

第二次世界大戦の従軍中に頭部に障害を負ったアメリカインディアン、ジミー・ピカード(ベニチオ・デル・トロ)は頭痛とめまいの治療のために、陸軍病院に入院することになる。その際に行われる様々な検査のなかで、ロールシャッハテストのような、特定の図像を見て思うことを述べる検査が行われるのだが、示された絵を見てしばし黙りこんだジミーは、やがてこんなことを言う。「代わりに毎晩オレが見るイメージの話をしよう」。高...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 AM

December 6, 2014

『自由が丘で』ホン・サンス
隈元博樹

 映画のなかの時間とは、ほんとうに厄介なものだと思う。どんな映画を見るにしろ、私たちはある決まった上映時間のなかで数多のシーンを目撃しつつ、物語の顛末や登場人物たちの過程を知るために、そのほとんどを映画のなかの時間に負うているからだ。だからその時間とは、基本的に登場する人物の行為や物語に委ねられている。そして時間を操作することのできる作り手は、そうした時間の経過を説明するための所作さえも必要とされ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:17 AM

November 23, 2014

『ショート・ターム』デスティン・クレットン
常川拓也

エドガー・ライトが2013年のベストの一本に挙げ、ジャド・アパトーが絶賛した(アパトーは次回作『Trainwreck』に本作主演のブリー・ラーソンをキャスティングしている)まだ無名の新鋭監督の長編二作目『ショート・ターム』の舞台となる短期保護施設にいるのは、家庭のトラブルで深い傷を負った子どもたちだ。つらい秘密を持ったナイーヴな彼らを、時に愛が傷つけている──触れると灯りが点いたり消えたりするラン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:18 PM

November 20, 2014

『息を殺して』五十嵐耕平
高木佑介

 上映終了が間近に迫っているが、五十嵐耕平の『息を殺して』が川越スカラ座にて上映されている。舞台はゴミ処理工場の内部とその近辺にあるとおぼしき森のみ。新年の訪れが朗らかに祝われそうな気配はなく、人々は皆一様に声が小さく活力が感じられない。年末ということで仕事納めは済んでいるはずなのだが、彼らが一向に家に帰ろうとしないのは、その工場の外側が大して面白くない場所だからだろうか。倦怠感や閉塞感に似た雰囲...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:01 AM

November 11, 2014

『下女』キム・ギヨン
常川拓也

姉と弟が愉しげにあやとりしているオープニング・シーン。幸福な家族然としたその場面に重なるのは、正反対であるはずの大仰で不吉な音楽だ。姿形を変えては絡まるあやとりの糸は、蜘蛛の巣のようでもあり、絡みつく女の性を想起させる。そして、いつほどけるかも知れないあやとりの脆さは、突如訪れる不穏な死を連想させもする。その危うさが『下女』を象徴している。 一見円満な暮らしを送るブルジョワ的な一家を舞台にした『下...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:46 PM

November 10, 2014

『ジャージー・ボーイズ』クリント・イーストウッド
吉本隆浩

 「あ、この曲聞いたことがある!この人たちが唄っていたのか。」こう思った瞬間、人々は不思議と感動に包まれる。監督のクリント・イーストウッドも同じ体験をしたであろう。彼自身、「フォーシーズンズ」についてはあまり知らなかったが、「ジャージー・ボーイズ」の舞台を見てストーリー、キャラクター、そして素晴らしい楽曲を純粋に楽しみ、映画化に挑戦した。その日の撮影を終えたあと、知らず知らずに彼らの歌を口ずさんで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 AM

October 20, 2014

女優・中川安奈のこと
佐藤央

 2014年10月18日。二日酔いの朝に中川安奈さん逝去の知らせを聞く。今から6年前、それは2008年8月17日だったと思う、『シャーリーの好色人生』というとても小さな映画を撮影していた酷暑の水戸で、はじめて安奈さんにカメラを向けた時の驚きを今もはっきりと覚えています。いや、正確にははじめてカメラを向ける前、日本家屋の玄関口で出勤する夫(小田豊)を見送る場面での何でもないセリフのトーンについて、た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:34 AM

October 16, 2014

『やさしい人』ギヨーム・ブラック
田中竜輔

 ギヨーム・ブラックが『女っ気なし』に続けてヴァンサン・マケーニュとのタッグで手掛けた長編『やさしい人』にまずもって惹きつけられるのは、やはり前作と同じく試みられる16ミリでの撮影だ。水彩の絵の具が混ざり合ったような、さまざまな事物の「あいだ」の質感。どこからどこまでが人物でどこからどこまでが背景なのか、あるいはどこからどこまでが「私」でどこからどこまでが「あなた」なのか。何かと何かを区分するパキ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:40 PM

October 10, 2014

『ジェラシー』フィリップ・ガレル
奥平詩野

 恐らく嫉妬という感情について描いたのだろうと思って見始めていると、クローディア(アナ・ムグラリス)の嫉妬心に捕らえられて窮屈そうなぎこちない笑みがやたら印象に残るシーンが続く。彼女がルイ(ルイ・ガレル)と居ることで彼に依存的になってしまう不安と危機感、満たされ得ずに増幅していく具体的に言葉には出来ない欲求に雁字搦めになって神経が過敏になって行く様子はリアルであって痛ましい。しかしこの映画は一組の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:47 PM

October 9, 2014

『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』サイモン・ブルック
三浦 翔

この映画はある重要な問いを含んでいる。というのは、伝説と言われる演劇人ピーター・ブルックの舞台制作メソッドが明らかにされるからではない。ピーター・ブルックが問題にするリアリティとは、如何にして生きた舞台を作り上げるかという単純なことだ。この映画では特に、役者の振る舞いが問題になる。それを映像化するということは、如何にして映像に力を与えるかという単純かつ重要な問いになっていく。 映画はピーター・ブル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 AM

October 6, 2014

『ファーナス 訣別の朝』スコット・クーパー
高木佑介

『クレイジー・ハート』(2009)に続く、スコット・クーパー2本目の監督作。アメリカの片田舎の製鉄所で働く兄をクリスチャン・ベイルが、その廃れた町から逃れ出るようにイラク戦争に行く弟をケイシー・アフレックが演じている。安い賃金ながらもまっとうな仕事は祖父や父親たちの代から続くその製鉄所くらいなもので、あとは兵隊になるか博打で稼ぐか悪党になるしかないというようなスモールタウンの閉塞感がこのふたりの兄...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:21 PM

October 1, 2014

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ジェームズ・ガン
常川拓也

赤い革ジャンを着て、フェイス・マスクを装着しジェット・ブーツで悠々と空を舞う、そんな『ロケッティア』を想起させるフォルムを持ったピーター・クイル(クリス・プラット)は30過ぎではあるけれど、子どもである。そもそも誰もそう呼ばないのに自らを「スター・ロード(星の支配者)」と名乗るなんて、ただの中学生男子じゃないか? 彼が子どもであることを象徴するアイテムは、死んだ母からもらったカセットテープ「Awe...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:34 PM

September 30, 2014

マティアス・ピニェイロ映画祭2014
渡辺進也

 9月28日。渋谷アップリンクにてマティアス・ピニェイロ監督特集。『みんな嘘つき』、『ロサリンダ』、『ビオラ』の各作品と監督によるアルゼンチン映画のレクチャー。  どの映画も、男女が語らい、本を朗読し、歌い、演技をする。映画の中を言葉や台詞、物音が映画の中を豊かに飛び回っている。そうした音に耳を澄ませながら、これまで知ることのなかった若き監督の作品に魅了された。  一連の映画を見ていてまず気づくの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:42 AM

September 29, 2014

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ジェームズ・ガン
結城秀勇

最近毎日これを聞いている。 Guardians Of The Galaxy: Awesome Mix, Vol. 1 [OST] - Full album 2014 正直言ってこれがサントラとしてそんなに秀逸だとも思わないし(厳密にはサントラではなく登場人物のひとりが聞いているBGMなわけだが)、作品内での一曲一曲の使い方もそんなに飛び抜けてすごいということもないと思う(例えば最近聞いた「Ain...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:12 PM

September 21, 2014

『ヘウォンの恋愛日記』/『ソニはご機嫌ななめ』ホン・サンス
隈元博樹

 『ヘウォンの恋愛日記』では、女学生のヘウォン(チョン・ウンチェ)と映画監督の大学教授(イ・ソンギュン)、そしてアメリカの大学教授を名乗るジュンウォン(キム・ウィソン)との三角関係が描かれ、『ソニはご機嫌ななめ』では女学生のソニ(チョン・ユミ)と元カレのムンス(イ・ソンギュン)、先輩のジェハク(チョン・ジェヨン)、大学教授のドンヒョン(キム・サンジュン)による四角関係が描かれる。ひとりの女性によっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:49 PM

September 15, 2014

『渇き。』中島哲也
田中竜輔

 役所広司という俳優が、ある種の「普通ではないもの」をめぐって右往左往する姿を、私たちは幾度となく目にしてきた。たとえば正体不明の殺人鬼や、徘徊する幽霊たち、あるいは自分自身にそっくりな誰か。「普通ではないもの」とは「理解し得ないもの」とも言い換えられるだろう。そういったものどもを追いかける役所広司は、いつもきわめて具体的なものと接触し、論理的に振る舞っていた。痕跡を調査し、調査から推論し、推論に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:11 AM

August 21, 2014

『300<スリーハンドレッド>~帝国の進撃~』ノーム・ムーロ
常川拓也

前作『300<スリーハンドレッド>』(06、以下『300』)で最も特徴的だった点はその「男根」性である。スパルタ兵は皆白人であり、戦場に女は存在しない。レオニダス王(ジェラルド・バトラー)は軍隊のように命を賭けてスパルタ兵を統率する。『300』は反時代的なマチズモの映画であった(軍隊同士の盾を持ってのぶつかり合い、押し合いはアメリカのジョックスの象徴であるフットボールのようですらある)のに対し、監...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:06 AM

August 14, 2014

『ジョナスは2000年に25才になる』アラン・タネール
中村修七

 「ジョナスは2000年に25才になる」。そのように歌われて、妊娠を明らかにした女性は、これから生まれてくる男の子の名前の候補を幾つも挙げられた末に、テーブルを囲んでワインを飲み交わす知己の人々から祝福を受けることとなる。グラスに入っているワインの量が少なくなれば部屋の壁に寄りかかって佇む子供たちが大人たちに注いで回る、奇妙といえば奇妙に違いない状況で、酔っ払った大人たちが合唱するシーンが素晴らし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:03 AM

August 9, 2014

『消えた画 クメール・ルージュの真実』リティ・パニュ
中村修七

 リティ・パニュの映画は、不在をめぐる映画だ。彼の映画はいつも何らかの不在を抱え込んでいる。『さすらう者たちの地』(2000)では、被写体となる人々が敷設工事を行っている光ファイバーケーブルを利用することになる人々の姿が不在だった。あるいは、光ファイバーの敷設工事を行っている人々がそれらを利用して恩恵を蒙ることになる映像は、撮影されることがなく、失われたままだった。『S21 クメール・ルージュの虐...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:29 AM

July 28, 2014

『収容病棟』ワン・ビン
渡辺進也

 『収容病棟』に出てくる人々は昼だろうが夜だろうが通路をうろうろして、何の抑揚もない生活というか四六時中ほとんど変わらない生活をしているように思える。彼らがいるのは刑務所のように閉じ込められて外に出ることはできない場所で、しかも彼らは自分たちがその中にいる理由もよくわかっていない。彼らは病気だから収容されているということになっているが、収容されている理由も家族に迷惑をかけているとか、政治的な行動を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:09 PM

July 16, 2014

『エンリコ四世』マルコ・ベロッキオ
渡辺進也

 アストル・ピアソラの、うねってるというか弾けてるというか、スクリーン上で何ひとつ起こっていなくとも何か意味があるようにしか聞こえない、一言でいうとラテン風のドラクエみたいな音楽が流れている。その音楽をバックに車が林の中を進んでいく。  車に乗っているのは運転手の他に、精神科医風の男、後部座席には妙齢の女性とその彼女の愛人風な男。精神科医風の男は若い男が仮装した姿の写真を見ていて、その理由を質問し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:45 AM

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』ダグ・リーマン
渡辺進也

 2008年ぐらいに『ジャンパー』という映画があって、これは主人公が時空を飛び越える能力を持っていて、敵からその能力を使って逃げ切るというものだった。この映画で主に展開されるのは、(実際にはあったのかもしれないが)敵との戦闘シーンではなくて、ひたすら主人公が逃げるというものであって、その能力の発揮の仕方がハードルのように跳ぶと東京からエジプトというように瞬間移動するということもあり、ハードル競技を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:39 AM

July 3, 2014

『X‑MEN: フューチャー&パスト』ブライアン・シンガー
結城秀勇

「X‑MEN」シリーズが結局あまり好きになれないのは、プロフェッサーXが「導く」ところのミュータントと人間の共生が、つまるところミュータントだけの自律した世界(エグゼビア・スクール)をつくることに他ならないからだ。外部から隔絶した環境で、カッコつきの「マイノリティ」として認めてもらうこと。そこが本当にブライアン・シンガーの鼻持ちならないところで、かつて『スーパーマン・リターンズ』について書いたよう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:27 PM

May 21, 2014

『吉祥寺バウスシアター 映画から船出した映画館』@LAST BAUS
渡辺進也

 この本の後ろの方に「バウスシアター年間上映年表1984〜2014」という80頁の資料があって、バウシアターのオープンしてからのすべての上映作品が掲載されている。ぼんやりとこの資料を見ていると、僕が最初にバウスに行ったのは2001年5月の〈「降霊」劇場初公開記念・黒沢清監督特集〉が最初らしい。『地獄の警備員』とか『ワタナベ』とか見たなあと思う。  吉祥寺の近くに住んだことなどないから、僕がバウスシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 PM

May 17, 2014

『ソウル・パワー』ジェフリー・レヴィ=ヒント@LAST BAUS
中村修七

1974年にザイール(現・コンゴ民主共和国)の首都キンシャサで、モハメド・アリ対ジョージ・フォアマンの世界ヘビー級王者決定戦が行われるのに先駆け、“ブラック・ウッドストック”とも呼ばれる音楽祭が、3日間に渡って開催された。 音楽祭に出演したのは、ソウル・グループのザ・スピナーズ、“ソウルの帝王”ジェイムズ・ブラウン、“ブルーズの神様”B.B.キング、“サルサの女王”セリア・クルースとファニア・オー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:52 PM

May 10, 2014

『ニール・ヤング/ジャーニーズ』ジョナサン・デミ@LAST BAUS
田中竜輔

自らの故郷トロント州オメミーを2011年の世界ツアーのファイナルに選んだニール・ヤング。このフィルムで私たちはギターを持ったその人の姿より先に、コンサート会場マッセイ・ホールへと、自らハンドルを握って車を走らせようとするニール・ヤングの横顔を見る。ニール・ヤングに(あるいは彼の車をマッセイ・ホールまで別の車で先導する実の兄に)導れるトロントの短い旅。車を運転しながらこの片田舎での思い出を語り続ける...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:56 AM

May 8, 2014

『ザ・シャウト/さまよえる幻響』イェジー・スコリモフスキ@LAST BAUS
隈元博樹

 穴のあいた缶詰をひっかく、グラスの淵を指でこする、タバコに火をつける……。あらゆる音源をダイナミックマイクで録音し、その振動音を電気信号に変えてミキシングするアンソニー(ジョン・ハート)に対し、クロスリー(アラン・ベイツ)がポツリと挑発する。「君の音は空疎だな」。どこか自信さえうかがえるその一言に、笑みを浮かべるのも無理はない。彼にはこの世の生物を一瞬にして殺めるための「叫び」があるのだから。 ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:56 PM

『プラットホーム』ジャ・ジャンクー@LAST BAUS
結城秀勇

『プラットホーム』はシネスコの映画だと、長らく勝手に思い込んでいたのだが、実際にはヴィスタサイズだった。あの、石造りの狭い室内を光が零れる開口部方向にカメラを向けて撮る、初期ジャ・ジャンクースタイルを決定的に特徴づける美しいショット群と初めて出会ったのはこの作品だったが、その小さな家から一歩足を踏み出せば、巨大な山々や霞む地平線などの広大な中国の大地がどこまでも広がっている、そんな印象を持っていた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:36 AM

May 3, 2014

『アメイジングスパイダーマン2』マーク・ウェブ
結城秀勇

スパイダーマンが他のマーヴェルヒーローやDCヒーローよりもスペクタクル的な理由として、彼が重力や慣性といった物理法則に拘束されているから、そしてそれを利用して運動のダイナミズムを生み出すからだというのは言を待たないだろう。その運動の快感はおそらく、球技において走り回るプレイヤーを置き去りにしつつ一瞬でゲーム全体の状況を一変させるボールの動きを見つめることに似ているのではないか。スタンドの向こうに消...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:33 PM

April 28, 2014

『闇をはらう呪文』ベン・リヴァース、ベン・ラッセル
結城秀勇

未明の湖上で、カメラはゆっくりと360°パンする。 レンズが南東側に向かうにつれてほのかな陽の光とともに画面は白んでゆき、また次第に黒みを帯びていき、やがて再び北西方向を指したときにはスクリーンの大半が闇に沈む。その闇のもっとも深い部分、フィルムがほとんどなににも感光せずに残ったはずのその場所で、灰白色の蠕虫に似たデジタルノイズがにぎやかに蠢きだす。光量の少なさが一定の閾値を越えて、情報の無として...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:46 PM

『ゴダール・ソシアリスム』ジャン=リュック・ゴダール@LAST BAUS
田中竜輔

たとえばジェームズ・キャメロンは『タイタニック』で、豪華客船を直立させる様子を圧倒的なスペクタクルとして私たちの目の前に映し出した。一方でジャン=リュック・ゴダールは、船ではなく「海」そのものをひとつの壁としてスクリーンに屹立させることを選ぶ。もちろん『ゴダール・ソシアリスム』の海は、その上に浮かぶ豪華客船に乗り込んでいた人々(=イメージ)を落とし込みなどしない。ゴダールがこのフィルムにおいて真に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:53 AM

April 22, 2014

『クローズEXPLODE』豊田利晃
渡辺進也

 くすんだねずみ色の中に灰のような白い塊がふわふわと舞っている。小さい男の子が母親に手を連れられて孤児院へと連れて入るときに降っているこの雪は冷たいとか、重いとか、そんなことは考える由もなく、ただただ乾いていて、軽い綿のように見える。そして、例えばこの雪は、この映画で後ほど出てくる、ふたりの男が殴り合いをする産業廃棄場に舞う綿ぼこりか何かとまるで同じもののように見える。この2つの場面の雪がほとんど...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:04 PM

April 13, 2014

『ダブリンの時計職人』ダラ・バーン
三浦 翔

 夕焼けの海辺の中でフレッド(コルム・ミーニイ)が見上げるのは、落書きをされた彼の車がいきなりクレーンで廃棄にされるという光景だ。ダラ・バーンという監督はもともとドキュメンタリーの監督だと聞いていたものだから、いかにも嘘っぽく見えるこの始まりには、正直戸惑ってしまった。ただそんなことは私の勝手な思い込みに過ぎない。時には幻想的な光を帯びるアイルランドの自然や街のなかでユーモアを炸裂させながら、どの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:25 PM

『チトー・オン・アイス』マックス・アンダーソン&ヘレナ・アホネン
隈元博樹

 カメラによって切り取られた現実のドキュメントと、カメラによって切り取られた現実のストップモーション。現実のドキュメントとは旧ユーゴスラビア以降の国々の現在やその記憶を語る人々の証言であり、ストップモーションとはその現実をもとに100パーセントの再生紙によってデフォルメされたモノクロ映像のことを指している。  ふたつの世界をマックス、ラースとともに媒介していくのは、スウェーデンから旧ユーゴへと向か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:22 PM

April 10, 2014

『悪魔の起源 -ジン-』トビー・フーパー
結城秀勇

霧が怖いのは、たんによく見えないからではなくて、見通せない状況と見通せる状況の間にあるはずの境目、閾値がどこにあるのかわからないからなのではないか。くっきりと見えているものがだんだん遠ざかるにつれて、細部がぼやけ、シルエットだけがかろうじて判別できる状態になり、やがてなにも見えなくなる。澄んだ空気のもとであれば長大な距離を経て表れるそうしたプロセスが、極濃の霧の中では極限まで圧縮され、たった一歩の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:49 AM

April 1, 2014

『それでも夜は明ける』スティーヴ・マックィーン
渡辺進也

 最初に、まるでこれから起こることをダイジェストで示すように一連の様子が描かれる。サトウキビの収穫の仕方を教えられ、金属の皿に載せられた食事を素手で掴み、木の実からインクを作ろうとして失敗し、夜中横に寝る女奴隷に誘われる。そこにあるのは、陥ってしまったことに対してどうしようもないあきらめの表情なのか、それともうまくいかないことへのいらだちなのか。  『それでも夜は明ける』の原題は、’12YEARS...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:39 PM

March 14, 2014

『アメリカン・スリープオーバー』デヴィッド・ロバート・ミッチェル
高木佑介

 何か突飛なことをするには遅すぎる、でもこのまま終わってしまうのはつまらない。若さを無邪気に謳歌したいわけでも、少し背伸びして大人の気分を味わいたいわけでもない。夏の終わりの空気とともに揺らぐティーンエイジャーたちの、そんな感情。すぐに終わりが訪れることなど言われなくともわかっている、楽しくもありどこかもどかしくもあるその時間。実際にあるのかどうかもわからぬそのような一時期を迎えつつある人々のあり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:34 PM

March 8, 2014

『パリ、ただよう花』ロウ・イエ
三浦 翔

 この映画の後半に、印象的な場面がある。中国の知識人による、インタビューの場面だ。「中国では共同で見る幻想として映画があります。そうではなく、私たちが求める本当の映画とは悪夢のことなのです」この知識人とは、いわゆるロウ・イエの生き写しであるわけだが、中国政府に5年間の制作を禁じられた彼は、いまどのようにして、「映画」を撮り続けようとしているのか、そして彼の答えにある悪夢とはいったい何のことなのだろ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:54 AM

『息を殺して』五十嵐耕平
田中竜輔

2017年の12月30日から2018年1月1日にかけてのとある清掃工場での出来事。未来と呼ぶには近過ぎて、現在と呼ぶには遠過ぎる、そのような『息を殺して』の時代設定とはいったい何なのだろう。このフィルムの登場人物たちは、どうやら自衛隊が「国防軍」と名前を変え、若い人々が戦地で命を落とすことが決して珍しい出来事でなくなった時代を生きているようだ。しかし一方で、彼らは2014年と同じような機種のスマー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:42 AM

March 4, 2014

『お気づきだっただろうか?』core of bells
徳永綸

「『怪物さんと退屈くんの12ヵ月』は降霊術と極めてよく似ています。」 公演フライヤーの裏にはそう書いてあった。core of bells――バンドという形態でありながらも、映画制作、ワークショップ、お泊りキャンプ、ホルモン屋などなど活動の範囲を自由に設定する彼ら(HPプロフィール欄参照)は、今年いっぱい、毎月一回ずつ舞台に立つらしい。それがこの「怪物さんと退屈くんの12ヵ月」という企画であり、その...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:03 PM

February 23, 2014

『ワンダー・フル!!』水江未来
隈元博樹

作品は本来「work」と呼ばれ、なした仕事が積もり積もれば「works」となる。だから作品を作ることが仕事である以上、作家は労働者であり、作品を作り続けることが労働の集積となる。いっぽう仕事は「job」とも言い換えられるのかもしれない。だけど「仕事をしろ」「定職に就けよ」と日々のなかで口酸っぱく言われてやってしまうものが「job」ならば、能動性を孕んだ労働こそが「work=作品」であり、やっぱり作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 PM

『ハロー、スーパーノヴァ』 今野裕一郎
汐田海平

北千住を拠点とし、演劇・映画・写真等ジャンルを横断しながら、独創的な作品を生み出しているユニット・バストリオ主宰の今野裕一郎。彼が様々な手法を通して表現し続けるものは「日常」であると同時に、「寓話」でもある。   バストリオは今冬、東京を中心に、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアでもツアーを行うエレクトロ・アコースティックユニットminamoとのコラボレーションでも注目された『100万回』の公演...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:06 PM

February 22, 2014

『ラッシュ/プライドと友情』ロン・ハワード
結城秀勇

このストレートに痛快な作品をストレートに痛快だと言おうと思って書き始めたのだがどうもうまくいかない。男がふたりいる、マシンが二台ある、そのどちらかが世界一。それでおもしろくないわけないだろ、ごちゃごちゃ言うな、ってな具合にいけばよかったのだが。そもそも『ラッシュ/プライドと友情』の痛快さはそれほどストレートなものではないのかもしれない。 というのも私の思い違いでなければ『ラッシュ』は、ドイツGP当...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:09 PM

February 13, 2014

『祖谷物語-おくのひと-』蔦哲一朗
隈元博樹

35ミリのシネスコで捉えられた「祖谷(いや)」とは、40近くの山村集落からなる祖谷山地方の通称である。現在は徳島県三好市に合併された限界集落であり、かつて屋島の戦いに敗れた平氏の残党たちが、平家復古の望みをつなぎつつ、身を潜めて暮らした場所でもあるらしい。『祖谷物語-おくのひと-』とはそうした平家伝説の諸説しかり、いわゆる「秘境の地」と呼ばれる特別なロケーションのもとで撮影されたフィルムだ。 残念...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:33 AM

January 28, 2014

『Dressing Up』安川有果
松井宏

 そのプリンセスは自分の血に呪いがかけられていることに気づく。いまはもういない母がかつて患っていたなにかを、自分もまた受け継いでいるのだと。母は自分のなかにあるそれに耐えられず自殺したのだろうか? わからない。だがとにかくそのなにかが、呪いが、自分の身体のなかを流れていることは確かだ。いや、その少女は自らのそんな血に気づいた瞬間から、プリンセスとなるのだった。おぞましさと気高さが彼女のなかでひとつ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:27 PM

January 14, 2014

最高の映画作家、ジャン・グレミヨン
ステファン・ドゥロルム

第17回「カイエ・デュ・シネマ週間」ジャン・グレミヨン特集:2014年1月17日(金)~2月2日(日)フランス新世代監督特集:2014年2月14日(金)~2月16日(日)@アンスティチュ・フランセ東京 ジャン・グレミヨンの著作や言葉を出版することは、 彼が映画の伝道師であり、理論家であったことを明らかにするだろう  呪われるとはどういうことなのか? それは自分のことについて他のいかなる言い換えも不...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:09 AM

January 7, 2014

『A touch of sin』ジャ・ジャンクー
増田景子

ジャ・ジャンクーは「世界」を描こうとしている。それは世界名所を寄せ集めた「世界」を舞台にした『世界』だけに限らず、ノイズを編集し、記憶を再構成することで「ある物語」だけではなく、その物語が置かれている土台の「世界」までもカメラに収めてきた。2013年の新作『A touch of sin』では、新聞の三面記事から着想を得たという、中国各地で起きた貧困をめぐる大なり小なりの4つの犯罪を描く。 驚くべき...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:37 AM

December 10, 2013

『あすなろ参上!』真利子哲也
結城秀勇

愛媛県松山のご当地アイドル「ひめキュンフルーツ缶」と愛媛のゆるキャラたちを起用し全編松山ロケにて製作された『あすなろ参上!』という全6話のドラマを見た素朴な感想は、松山ってほんとにいいとこそうだな、ということである。 その「いいとこ」そうな感じはどこからきたものなのか。一話目のオープニングを彩る『坂の上の雲』的な雰囲気の映像からくる、歴史ある街な感じかといえば、そうでもあるがそれだけではない。梅...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:24 PM

November 27, 2013

『フラッシュバックメモリーズ 4D』松江哲明+GOMA&The Jungle Rhythm Section@立川シネマ・ツー
田中竜輔

『フラッシュバックメモリーズ 3D』は見逃してしまっていた。だから『フラッシュバックメモリーズ 4D』が、3Dヴァージョンからどう変化したものなのかということは(特に音響の側面において)言えない。けれども今のところ二夜限りのこの「作品」に圧倒され、そして感動した。なぜなのだろう。まだ全然まとまっていない考えを、ひとまず言葉にしてみようと思う。ここには、現在の映画をめぐっての、そして現代の上映をめぐ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:07 PM

November 25, 2013

『悪の法則』リドリー・スコット
高木佑介

 もちろん、『ノーカントリー』(07)をすでに見ている者としては、リドリー・スコットの手によるこのコーマック・マッカーシー脚本の映画に少し物足りなさを感じもするが、それでもとても面白く見た。麻薬ビジネスに足を踏み入れた野心溢れる弁護士=カウンセラー(マイケル・ファスベンダー)の転落と、彼が支払うその代償。この物語は、たしかに色気あるさまざまな登場人物たちが交錯するものの、ほぼそれだけしか語っていな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:26 AM

November 21, 2013

ALC CINEMA vol.4 『やくたたず』三宅唱
隈元博樹

青春映画に流れる時間には、絶えず終焉の影が潜んでいる。徴兵を間近に控えた若者たち、ひと夏のバカンスがもたらす出会いと別れ、結婚や葬儀による通過儀礼もそのひとつだろう。その必要不可欠な「終焉=リミット」とは、時代とともにさまざまな方法で語り継がれてきた。もちろんそれは、若者時分のものだけではない。老若は関係なしに、青春は己の記憶として生き続けていく。 作り手が青春映画というジャンルを選ぶならば、「終...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:57 PM

November 6, 2013

『眠れる美女』マルコ・ベロッキオ
隈元博樹

たがいに交わり合うことのない3つのマリアの物語は、テレビに映る植物状態のエルアーナ・エングラーロとつねに伴走している。昏睡状態の妻を安楽死させたウリアーノ(トニ・セルヴィッロ)とその娘マリア(アルバ・ロルヴァケル)、かつて舞台女優だったディビナ(イザベル・ユペール)、そして医師のパッリド(ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ)と名もなき精神疾患者ロッサ(マヤ・サンサ)。彼らはエルアーナの尊厳死を巡る2...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:41 PM

October 30, 2013

『華麗なるギャツビー』バズ・ラーマン
結城秀勇

「アメリカでは身元不明の死体を「ジョン・ドー」と呼ぶが、身元不明の生者を「ジェイ」と呼ぶのかもしれない」。そう樋口泰人は爆音収穫祭で上映の『マーヴェリックス』について書いたが、未見だったもうひとつの「ジェイ」の物語を見る。しかも音楽と製作にはJay-Zが名を連ねている! それにしても、ジェイ・ギャツビーほど、「身元不明の生者」と呼ぶにふさわしい者はあるまい。ドイツの皇帝のいとことも暗殺者だとも噂さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:29 PM

October 20, 2013

『ウルヴァリン:SAMURAI』ジェームズ・マンゴールド
高木佑介

 公開から時間が経ってしまい、遅きに失してしまったが、このジェームズ・マンゴールドの最新作について、と言うよりも、思い返してみれば何故か全作品に付き合ってしまっている「X-MEN」シリーズについて主に。  ブライアン・シンガーらが手掛けた本筋の「X-MEN」三部作はまったく面白くなかったのにも関わらず、そこからスピンオフした『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09、ギャビン・フッド)、その後に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:05 AM

September 24, 2013

『映像の歴史哲学』多木浩二 /今福龍太編
長島明夫

 多木浩二が2011年4月に82歳で亡くなった後、多木に関連する本がいくつか出版された。1991年刊行の磯崎新との対談集『世紀末の思想と建築』の復刊(岩波人文書セレクション、2011.11)もそのひとつに数えられるかもしれないが、新刊の著作としては、2007年の講演をまとめた『トリノ──夢とカタストロフィーの彼方へ』(多木陽介監修、BEARLIN、2012.9)と、主に1970年代の建築やデザイン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:32 PM

『祭の馬』松林要樹
結城秀勇

『花と兵隊』という映画を見た誰もが抱く感想なのではないかと思うのだが、私もまた多分に漏れず、この映画からビルマ・タイ国境にとどまった旧日本軍兵士の数奇な運命などといったことを考える以前に、まず真っ先に「みんな奥さんがとんでもなくカワイイな」と思ったのだった。それとほとんど同じレベルで、『祭の馬』の冒頭10分間ずっと思っていたのは、映る馬のどれもがみな美しい顔をしているということだ。彼らは震災によっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:39 PM

September 9, 2013

『La Jalousie(嫉妬)』フィリップ・ガレル
槻舘南菜子

ほぼ2年の歳月をかけていた企画――前作『灼熱の肌』(11)と同様、イタリア、チネチッタを舞台とし、モニカ・ベルッチ、ルイ・ガレル、ミシェル・ピコリ、ローラ・スメットを迎え、映画撮影と現実が交錯していくような作品となる予定だった――が頓挫した後、ほんの数ヶ月で書かれたシナリオと3週間の撮影。フィリップ・ガレル自らもっとも「無意識」に近い映画と称する『La Jalousie』のモノクロ、シネマスコー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:33 PM

August 30, 2013

『スター・トレック イントゥ・ダークネス』J.J.エイブラムス
結城秀勇

もはや船長というよりただの上陸部隊の隊長じゃないか、という感じのUSSエンタープライズ号の艦長ジム・カークは、登場シーンからすでにとある惑星の原住民に追われている。その作戦の実行の際に絶体絶命の危機に陥ったミスター・スポックの命を救うため、現地の住民の文化に干渉すべからず、という規則を破り、カークは住民たちにエンタープライズの姿を見せながらもスポックの命を救う。そして助けたスポックからは規則を破っ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:45 AM

August 28, 2013

『不気味なものの肌に触れる』濱口竜介
結城秀勇

キャストの名前が表示されていくのと平行して繰り広げられる、染谷将太と石田法嗣のふたりによるダンスで、この作品は幕を開ける。手のひらや腕が相手の体に触れるか触れないかの距離をとるのにあわせて、ふたりの体幹の位置関係が変わっていき、石田が染谷に振れてしまうことで、そのダンスは中断される。もちろん「触れるか触れないかの距離」と書いたのは修辞に過ぎなくて、距離があるというからには触れてはいない。言ってみれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:54 PM

August 14, 2013

『スプリング・ブレイカーズ』ハーモニー・コリン
結城秀勇

スプリングはおろかサマーも半ば終わったというのにやっと『スプリング・ブレイカーズ』を見た。最高だった。 だいたい、おれは大学生が嫌いだ。中学や高校には、学校になんか微塵も来たくもないけどサボって遊びに行く場所もそうそうねえから仕方なく来て、この平板な時間をいかにしてやり過ごすか考えてるヤツらがいて、そういうのとは仲良くなれる。でも大学になるとそういうヤツらは本当に学校にこなくなるから、学校にいるの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:54 PM

July 10, 2013

『3人のアンヌ』ホン・サンス
隈元博樹

 『3人のアンヌ』は映画学校に通うウォンジュ(チョン・ユミ)が、短編のシナリオを書くことからはじまる。だけど彼女が黄色い小さなメモ用紙に書くシナリオは、映画学校の課題でもなければ、プロデューサーを説得するものでもない。借金取りから逃れるために、彼女は民俗学者の母(パク・スク)と海辺の街モハンへ逃れてきたらしく、シナリオを書きはじめたのは、このことに対する腹いせだという。「それでこの映画ははじまって...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:23 AM

June 23, 2013

『遭難者』(仮)『女っ気なし』(仮) ギョーム・ブラック
代田愛実

パリの友人の評判通り、とても面白い作品だった。個性があり、次の作品も見たいという欲求に駆られる監督の発見に、胸を躍らせた。 撮影された土地への愛着、友人を起用したキャスティング、撮影時ちょうど孤独を感じる時期だったという監督、季節や時間帯で変化する光と、脚本に書かれていない役者の突発的なアクションを大切にする姿勢・・・それら全てがこの2作品で成功している。時間を長く取る/切り取るといった配分が絶妙...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:28 PM

June 14, 2013

『女っ気なし』ギヨーム・ブラック
増田景子

「この男、まじで女っ気ないな」と確信したのは、食べ方からだった。ふたについたアイスクリームまできちんと指でなめ、いちごに見えなくなるほどスプレークリームをかけたその上にざらめをかけて食べる。どうやら彼に気があるような若い女性も、そのいちごの食べ方を前に「いつもそんな風に食べているの?」と一瞬引いていた。こんながりがりと音を立てて(ざらめのせいだ)いちごを食べるような奴が女にもてるわけがない。「女っ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 AM

May 19, 2013

『グッバイ・ファーストラブ』ミア・ハンセン=ラブ
代田愛実

 前半に展開される若い2人の恋愛事情の描写は、監督が女性だからなのだろうか、女の私に取っては、いささか凡庸に映った。ロメールであれば、トリュフォーであれば、もう少し女性に対する"あこがれ"の視点が介入するであろう——女という生き物の、そばにいても手の届かないミステリアスな部分や、理解に苦しむ奔放な姿が描かれたであろう——、だからこそ、観ている者をときめかせたるのだが、このクリシェのような、凡庸さは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:25 PM

May 18, 2013

『コズモポリス』デイヴィッド・クローネンバーグ
代田愛実

 2台のリムジンがカンヌを湧かせていたのは、ちょうど1年前の今頃のことだろう。『ホーリー・モーターズ』と『コズモポリス』。レオス・カラックスとデビッド・クローネンバーグの、全く似ていないような2人の監督の奇妙な共通項にとても驚かされた。  同名小説をたった6日間で脚本化したというし、台詞はほぼ原作通りだというから、サマンサ・モートンが発する散文詩のような魅惑的な言葉についてもここでは言及する必要は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:30 PM

May 2, 2013

ベン・リヴァース インタビュー

location.href="/interview/benrivers/"; 今年の2月に開催された第5回恵比寿映像祭(http://www.yebizo.com/)での、ベン・リヴァース『湖畔の2年間』との出会いは本当に幸福なものだった。森と雪と湖に囲まれた中で暮らすひとりの初老の男性を見つめる90分間。16mmの粒子とコントラストが織りなす映像、そこに被さる音。それらはかつて経験したことのない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:46 AM

April 23, 2013

『グッバイ・ファーストラブ』ミア・ハンセン=ラブ
中村修吾

 ノースリーブのワンピースを着た女性が、麦わら帽子を被り、木の杖を手に持ち、木々の葉や草の美しい緑に囲まれた道を歩いている。傍らには誰もおらず、彼女はひとりで川へと向かっている。あたりの風景には、空から南仏の明るい陽光が降り注いでいる。  自転車での走行や街中での歩行や部屋の中での移動といった、フレームの中の空間を動く人物を捉えたショットが多いミア・ハンセン=ラブの『グッバイ・ファーストラブ』にお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:03 AM

April 15, 2013

『小さな仕立屋』ルイ・ガレル
結城秀勇

この映画の、コントラストの強い白黒で映し出されたパリとそこにいる男女の姿に、父フィリップの影響を見るのはたやすい。テイラーとしての師匠である、二世代は離れた老人と向き合う主人公アルチュールの顔に、『恋人たちの失われた革命』で故モーリス・ガレルとテーブルを挟んで対峙していたルイの面影が重なる。しかしこの作品全体からより強く感じるのは、高名な映画監督を父に持った青年が先天的に継承した演出の遺伝子とい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:41 PM

ALC CINEMA vol.2 『PASSION』濱口竜介
増田景子

ALC CINEMAが催されたのは、建築・アート関係の書物が天井近くまで並べられた横浜吉田町のArchiship Library&Caféで、木枠できちんとゾーニングされているため圧迫感はないが、40人座ればいっぱいになってしまう小さなスペースである。2階が建築事務所でもあるこの場所で「映画」「場所の記憶」「そして、これから」を再考しようというALC CINEMAが第2回目の作品として選んだのは濱...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:40 PM

April 11, 2013

『ホーリー・モーターズ』レオス・カラックス
増田景子

かつて見た映画がある時、自分の日常にすっと寄り添ってくることがある。 初めてリアルタイムで見られるレオス・カラックスの新作、そして監督の来日とお祭り騒ぎの熱狂のなか、午前中に日仏(現アンスティチュ・フランセ東京)で行われた廣瀬純さんの映画講義(スペシャルゲストにカラックス!)を受け、そこから渋谷に移動してユーロスペースでの日本初上映を立見席で見たのは、まだ息の白かった1月末だった。 その時は霊柩車...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:50 PM

March 30, 2013

『オデット』ジョアン・ペドロ・ロドリゲス
田中竜輔

 『オデット』は、ペドロというひとりの同性愛者の男の死を契機に、彼の恋人であるルイという男、そして同じアパートの住人であっただけのつながりしか持たない、恋人と別れたばかりのオデットという女を出会わせる。ひとりの男の死を決定的な喪失として生きる男と、一方でその死を自らの妊娠願望を叶えるための新たな出会いとして利用する女。二重の身体という映画の原初的な欲望を原動力とするこのフィルムは、当然のことながら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:31 AM

March 23, 2013

『あれから』篠崎誠
結城秀勇

かつて安井豊作が語ったという「黒沢清のカタカナタイトル問題」を、いろんな人経由で聞いた。本人からは聞いていないので正確にどういう問題提起だったのかはわからないのだが、それを聞かせてくれた人たちの意見を捨象すると、黒沢清の映画にはカタカナのタイトル、それもおそらく他の監督ならカタカナにしないような言葉のタイトルがあり、それらにはなんらかの共通性がある、ということだった。これに倣ってもし「○○の漢字...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:18 AM

March 17, 2013

東横線渋谷ターミナル駅
藤原徹平

3月16日から、副都心線と東横線が相互乗り入れし、東武東上線~副都心線~東横線~みなとみらい線が一つにつながった。これで気持ちよく泥酔すれば埼玉県・川越から東京を縦断して横浜・元町中華街まで寝過ごすことが可能になったわけだ。僕は1975年生だが記憶している限り、横浜駅はずっと昔から工事中で、つい先日駅ビルを見上げてみたら半分くらいなくなっていることに気が付いた。詳しい人に聞いてみれば全部解体して...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:08 AM

February 27, 2013

「週刊金曜日」2013年2/22号
結城秀勇

人間は悲しいものだ。希望の少ない人ほど善人だ。正確な引用ではないが、先日見たフレデリック・ワイズマンの『最後の手紙』にそんな言葉があった。ワシリー・グロスマンの『人生と運命』中の一章を戯曲化したものを、主演女優のカトリーヌ・サミーのためにワイズマン自身が脚色した一人舞台。サミー演じるアナ・セミノワはユダヤ人収容所の中で、希望を抱く人間ほど利己的になり、生存本能の奴隷となっていくさまを見る。医者で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:24 PM

February 14, 2013

『アウトロー』クリストファー・マッカリー
高木佑介

 この映画によってトム・クルーズは現代のシャーロック・ホームズになった。と、見終わったあとにさまざまな手続きを省略して秘かに呟きたくなるような作品、それがこの『アウトロー』である。  元軍のエリート捜査官で今はアメリカ各地を放浪とする謎の人物ジャック・リーチャー(トム・クルーズ)が、数奇な縁あって無差別殺人事件の容疑者からの要請で捜査に乗り出し、(いろいろ問題はあったけれど)見事この壮大な陰謀事件...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:24 PM

February 8, 2013

『湖畔の2年間』ベン・リヴァース
結城秀勇

人気のない森に降り積もった雪。その中を歩いて行く男の後ろ姿。それを形作る白黒の粒子、不規則に変化する影のグラデーション。16mmで撮影(そしておそらく監督自身の手で自家現像)されさらに35mmにブローアップされた映像は、粒子の大きさやノイズの乗り方にも関わらず、紛れもなく美しい。もちろんその美しさとは、解像度や輝度や鮮明さといった、いつしか映像の美しさを語るのにあたかも必要不可欠なもののように振...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:49 PM

February 6, 2013

『あなたはまだ何も見ていない』アラン・レネ
梅本洋一

 この作品の幾重にも折り重なった豊饒さを書き記すにはかなりの字数が必要だろう。かつての和田誠の書物のタイトルにもなった『お楽しみはこれからだ』という『ジャズ・シンガー』の台詞You ain’t seen nothing yetからタイトルを借りたこのフィルムの豊饒さを一端でも語ろうとすれば、オルフェウスとエウリディケの神話のように、ぼくらも冥界への長い旅に出なければならない。  ジャン・アヌイの『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 PM

January 30, 2013

『コックファイター』モンテ・ヘルマン
結城秀勇

『カリフォルニア・ドールズ』のピーター・フォーク、『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』のベン・ギャザラ、あるいはもっと時代をくだって『さすらいの女神たち』のマチュー・アマルリック。彼らが演じた役柄に対する愛着をどうしても抑えきれない。女子プロレスのマネージャー、ストリップバーのディレクター、バーレスク劇団のプロデューサー、といった彼らの役柄は、つまるところ女たちを喰い物にしているのだし、その免罪...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:01 PM

『ホーリー・モーターズ』レオス・カラックス
隈元博樹

目の前に映る登場人物たちに、僕たちはそれぞれの行動原理や動機を求めたがる。登場人物の頭に、必ず「なぜ、どのようにして」といった簡単な疑問詞を投げかけるのだ。行動原理や動機が説得される場面に出くわすと、僕たちはそのフィルムの浄化作用(=カタルシス)に触れ、ポンと膝を打ったように満足感を覚える。だけどカタルシスは時に迂回し、見え隠れするものだ。そう最初からたやすく目の前に現れてくるものでもない。一度全...全文を読む ≫

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November 3, 2012

『5windows』劇場用編集版と、円山町篇
代田愛実

『5windows』劇場用編集版 何度も繰り返される「ニジゴジュップン」という声(=音)と、ピっという電子音とともに表示される「14:50」。 ニジゴジュップンとはある時刻を指す。あるいは、60秒間の時間を指す。あるいは、14:50ごろ、という曖昧な時刻と曖昧な長さの時間を指す。 いったいどのニジゴジュップンが正解なのか?という問いが立つかもしれないが、答えは、「どれも正解」。 "14:50"ある...全文を読む ≫

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October 28, 2012

【TIFF2012】映画祭後半レポート
代田愛実

10月25日−26日、鑑賞作品〈コンペティション部門〉『イエロー』(ニック・カサヴェテス/アメリカ)〈日本映画・ある視点部門〉『少女と夏の終わり』(石山友美)〈ワールドシネマ〉『5月の後』(オリヴィエ・アサイヤス)『ヒア・アンド・ゼア』(アントニオ・メンデス・エスパルザ)『眠れる美女』(マルコ・ベロッキオ)前半に比べて明らかに鑑賞本数が減ってしまった。25日の最後に観た『5月の後』が、あまりにも大...全文を読む ≫

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October 26, 2012

『ミステリーズ 運命のリスボン』ラウル・ルイス
結城秀勇

パンフレットに掲載のインタヴューで、ラウル・ルイスは次のように語っている。「連続ドラマは、全てを消化することのできる優れた肝臓を持つ生物である」。この作品はラウル・ルイスという映画史でも有数の巨大な肝臓をもつ監督の持つ消化力が遺憾なく発揮された作品であり、同時に観客の肝臓を信頼した「ひらめき」に満ちた作品となっている。壮大で優雅であると同時にどこか胡散臭くもありそこがまた魅力であるという、ルイス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:14 PM

October 25, 2012

【TIFF2012】前半レポート
代田愛実

10月22日−24日、鑑賞作品 〈コンペティション部門〉『風水』(ワン・ジン/中国)『ティモール島アタンブア39℃』(リリ・リザ/インドネシア)『アクセッション ― 増殖』(マイケル・J・リックス/南アフリカ)『シージャック』(トビアス・リンホルム/デンマーク)『黒い四角』(奥原浩志/日本)『NO』(パブロ・ラライン/チリ=アメリカ)『未熟な犯罪者』(カン・イグァン/韓国)『もうひとりの息子』(ロ...全文を読む ≫

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【TIFF2012】レポートvol.02 10月22日(月)
増田景子

この日は当日券の列に並ぶところから始まった。お目当ては在仏カンボジア人の若い監督の撮った『ゴールデン・スランバーズ』(監督:ダヴィ・チュウ)。ポル・ポト政権前の幻のカンボジア映画全盛期といってもピンとこないが、見た人は誰もがおもしろいと口を揃えて言うこの映画のために朝から並んだのだ。座席指定やチケット発券で時間がかかっているのだろう、新しい映画史との出会いに胸をふくらましつつも、列の進みの遅さに業...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:05 AM

October 23, 2012

『ゴールデン・スランバーズ』ダヴィ・チュウ
結城秀勇

 1960年代から70年代前半にかけて、東南アジアを代表する映画の都であったプノンペン。だがポル・ポト政権によって、産業としての映画は完全に崩壊し、またフィルム自体の圧倒的多数が消失した。本作品はそれらの失われた映像を巡るドキュメンタリーである。黄金期の映画を直接的に記録するはずのフィルムは失われており、したがって作品中に引用される映画のシーンはごくごく限られたものである。その代わりに、その時代に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:42 PM

TIFF2012に寄せて
代田愛実

第25回東京国際映画祭が始まっている。 昨日は東京国際映画祭にてコンペ作品4本、ある視点部門1本を鑑賞した。 コンペは中国、インドネシア、南アフリカ、デンマークと国際色豊か。どの作品もある個人の日常を追う事で背景となる国や社会を映し出そうとする企画意図があるようだが、個人的キャラクターの掘り下げ不足によって、結局は個人的な物語にまとめてしまっている感があった。どの主人公にも辛い状況が次々と襲ってく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:00 AM

October 22, 2012

【TIFF2012】レポートvol.01 10月21日(日)
増田景子

今日はインドの右に始まり、左で終わった1日であった。 午前中はザ・ボリウッド映画の『火の道』(監督:カラン・マルホートラー)を見る。どうやら最近インドもシネコン化が進み、回転のいい2時間ものが増えているらしいのだが、この映画はそんな波に抗いながらの167分。もちろんアクションも歌もダンスも盛りだくさん。しかしボリウッドをあなどってはいけない。ハリウッド映画に比べ、ボリウッドの方が昔堅気な職人気質な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:29 AM

October 3, 2012

『バビロン2―THE OZAWA―』相澤虎之助
高木佑介

 東南アジアをバックパッカー旅行していたという監督の相澤虎之助は、自分や欧米人がビーチで能天気に遊んでいるこの旅には何か欠けている、それは恐らく「歴史」だと思い至り、『花物語バビロン』(97)から始まるこの「バビロンシリーズ」を構想したという。 「なぜなら歴史とは列強国の植民地支配の歴史であり、その基で経済と文化の交流が行われていることを意味するからです。過去を忘れ未来に向けて意識を覚醒しようとも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:28 AM

September 20, 2012

『蜃気楼』製作報告イベント『今、僕は』竹馬靖具
増田景子

竹馬靖具監督の最新作『蜃気楼』の製作報告イベントに行ってきた。しかし『蜃気楼』の撮影は現在7分の1しか終わっておらず、今回のイベントでは前作の『今、僕は』(09)と数分の『蜃気楼』の特報の上映、そしてゲストによるトークショーが行われた。なので『蜃気楼』についてふれる前に、『今、僕は』の話をさせてもらう。  『今、僕は』はとてつもなく閉鎖的な映画だ。主人公は20歳の引きこもり青年。部屋にはゲームや漫...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:54 AM

September 13, 2012

『適切な距離』大江崇允
隈元博樹

映画における現実と虚構とのはざまのなかで、虚構が現実へと歩み寄っていく時間を思い起こしてみることがある。たとえば古参の隠遁画家が、新参画家の恋人である女性とのやりとりを通じ、その豊満な裸体を精緻に描いていくあの時間(リヴェットの『美しき諍い女』)や、舞台と私生活とのはざまを往来する老名優の時間(オリヴェイラの『家路』)など、映画には何にも代えがたい奇妙なひとときが存在する。挙げればキリがないけれど...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:46 PM

August 10, 2012

『親密さ』濱口竜介
結城秀勇

 当然だが、電車が走る線路というものは平行して進むふたつの線からできている。この映画のタイトルである「親密さ」とはその線路みたいなものなのではなかろうか。ふたつの長い長い線を、どこまでも離れず同じ距離で寄り添って走るものだとみなすのか、それともどこまで行っても決して交わらないものだと見るのか。それだけが親密さを巡って問われる唯一の事柄なのであって、そのことに比べれば実際にふたつの線の間にある距離な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:18 PM

August 3, 2012

『アメイジング・スパイダーマン』マーク・ウェブ
結城秀勇

おそらく前シリーズと『アメイジング〜』との最大の違いは、ピーター・パーカーの父の存在だ。いや前シリーズだけでなく、幾度となく繰り返されてきたスパイダーマンのリメイクにおいて、これほどまでに父親の存在がクロースアップされたスパイダーマンはないだろう。たとえばサム・ライミ版では彼はあらかじめ孤児なのであって、そのことを改めて思い出させるかのように伯父は死ぬ。ピーターに力を与えるクモにしたって、ほとん...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:12 PM

July 18, 2012

『愛の残像』フィリップ・ガレル
高木佑介

 恋人との結婚を間近に控えているフランソワ(ルイ・ガレル)は、1年前に彼が捨てたことで死んでしまった元恋人・キャロル(ローラ・スメット)の幻影を見るようになる。「あなたが愛したのは私だけ。あなたは今の人生に飽きている。だから私のほうに来なさい……」。鏡の中のキャロルからの問いかけに対し、はじめは自分に言い聞かせるかのように今の恋人エヴ(クレマンティーヌ・ポワダツ)への愛を口にしていたフランソワも、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:52 AM

July 12, 2012

『5 windows 吉祥寺remix』
安田和高

 Cinema de Nomad「漂流する映画館」。それは街全体を映画館に変えてしまう試み。『5 windows』は、5つの空間と、5つの物語を、観客それぞれが街を漂流しながら体験するというもので、昨年の10月にシネマ・ジャック&ベティを起点としてロケ地である黄金町界隈で上映された。じっさいにスクリーンで見た風景のなかを歩き、同じように空を見あげ、同じように「緑色に濁った川」の匂いを嗅ぎ、同じよう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:50 AM

July 5, 2012

『バビロン2ーthe OZAWAー』相澤虎之助
結城秀勇

「旅行なんてなあ、結局誰かが占領したり侵略したところに行くだけなんだよ」、そんなようなことを伊藤仁演じる古神は言う。だからだろうか、この映画のあらゆる映像や音や言葉は、○○の後に映し出され、鳴り響いているように感じた。映画における映像や音は本質的に現実より先には起こらない、というような原理的な言説としてではなくて、もっと経験的な考察として、たとえば旅行者として踏みしめているこの地面は、侵略者や征...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:19 AM

June 26, 2012

ユーロ2012──(3)クォーターファイナル
梅本洋一

 結局まったく予想通りの4チームが残った。ポルトガル対チェコも、ドイツ対ギリシャもアップセットがなかった。スペインが順当に勝利し、イタリアがしぶとく残った。  4ゲームのうち最低だったのが、スペイン対フランス。ローラン・ブランのレブルーは、前半を0-0で終えるつもりだったのだろうが、シャビ・アロンソの一発でそのゲームプランが狂うと、ほとんど無抵抗。外していたナスリを入れたりしたが停滞したゲームに変...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

June 25, 2012

小出豊『綱渡り』ほか
結城秀勇

小出豊の作品には必ずDVが存在する。それは彼の監督作だけではなく、『県境』や佐藤央『MISSING』といった他監督への脚本提供作にも必ずある。 ここでまず付け加えなければならないのは、もちろんDVの定義などではなく、また一ぬ見してそれとわかる具体的なアクションとして記録されたヴァイオレンス=Vのありようですらなく、なにはさておき彼の作品におけるドメスティック=Dの重要性なのだ。鋭利なVよりも、内部...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:15 AM

June 22, 2012

ユーロ2012──(2) グループリーグ総括
梅本洋一

 もう明日の明け方から準々決勝だ。結局アップセットはなかった。チェコ対ポルトガル、ドイツ対ギリシャとだいたい見るまえから勝負がついている──もちろん、ゲームだから何が起こるか分からないのだが、こういうゲームは、チェコやギリシャには健闘して欲しいが、PK戦でも何でもいいからポルトガルとドイツが勝利を収めて欲しい──2ゲームの後に、フランス対スペイン、イングランド対イタリアという、これまた最初の2ゲー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 AM

June 14, 2012

ユーロ2012──(1) オランダは古くなった!
梅本洋一

 ユーロのグループ・リーグも2巡目に入った。すべてのチームが1ゲーム以上消化したことになる。ポーランド=ウクライナという馴染みのない場所での開催。毎ゲーム開催場所を地図で確かめている。ワルシャワやキエフといった大都市名は知っているし位置も分かるが、ハリコフとかリビウなんて初耳でいったいどこにあるのか確かめてみるとハリコフはハリキウだったりするし、ポーランドにしてもグダニスク、ボズナニという場所は知...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:06 PM

『ミッドナイト・イン・パリ』ウディ・アレン
結城秀勇

冒頭、まるで絵ハガキのような構図で切り取られたパリの街角が連なっていく。イメージ通りのパリ。だがだからといって、それらが魅力を欠いているわけではない。ひとつひとつの映像というよりも、雨が降りだし、止み、いつの間にか昼は夜になる、そうした時間の流れに、気づけば魅了されている。 同じ事が、オーウェン・ウィルソンが行う時間旅行にも言える。その行き先もまたイメージ通りの「黄金時代のパリ」なのだ。フィッ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:20 PM

June 8, 2012

『ミッシングID』 ジョン・シングルトン
結城秀勇

 ここまで顕著になったのはいつからだろうか、気付くとアメリカ映画の主人公たちは皆、アイデンティティを探している。ヒーローやヒロインたちも(『アヴェンジャーズ』の設定説明だけのために作られたかのような『キャプテン・アメリカ』、ついに幕を閉じるノーランの「バットマン」)、そうではない平凡すぎる人々も(『ヤング≒アダルト』『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』)。単に『ボーン・アイデンティティ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:51 AM

May 28, 2012

『ダーク・シャドウ』ティム・バートン
増田景子

 盟友であるジョニー・デップ、ミッシェル・ファイファー、エヴァ・グリーンにヘレナ・ボナム=カーター。さらに最近話題のクロエ・グレース・モレッツやガリー・マクグラス。ざっとクレジットを並べるだけで、この映画に出ている面々がどれだけ華やかかということが分かってもらえると思う。それも、すべては「監督ティム・バートン」という名のもとに集まっている。わたしは渋谷駅構内で、キャストがひとりずつ映ったポスターが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:56 PM

May 26, 2012

『先生を流産させる会』内藤瑛亮
田中竜輔

 現実の事件において用いられた「先生を流産させる会」という言葉、その得体の知れなさにこそ、このフィルムの着想は得られたのだと、内藤監督はすでにいくつかの場所で証言している。たとえば「先生を殺す会」のような直接的な悪意とは異なり、より曖昧で、より底知れぬ異様さをしたためたこの言葉にこそ、『先生を流産させる会』というフィルムは突き動かされているのだと。しかしながら『先生を流産させる会』は、そのような不...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:57 AM

May 14, 2012

『灰と血』ファニー・アルダン
田中竜輔

 パウロ・ブランコ製作によるファニー・アルダンの果敢な監督第1作、『灰と血』にはふたりの母がいる。ひとりは一族の歴史を支える白髪の女であり、もうひとりは夫の死を契機にその呪縛から一度は身を引いた女だ。三つの家族をめぐる複雑なシナリオの中で、彼女たちはつねに特異点としての役割を担っている。多くの場面で椅子に腰掛けながらも、そこに映る誰よりも強大な力を占有し、誰彼構わず檄を飛ばし、一族の法を強要する白...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:16 PM

May 6, 2012

『刑事ベラミー』クロード・シャブロル
梅本洋一

 クロード・シャブロルは、この遺作で映画をかつてないくらいに抽象的な場に導いた。もちろん、形態はいつもの刑事物である。丁寧なことに、このフィルムのタイトルには、このフィルムをシムノンとブラッサンスに捧げるという言葉まで見つかる。つまりベラミー警視とは、メグレ刑事なのであり、キャリアも晩年に達したジェラール・ドゥパルデューは、メグレ=ベラミーのメランコリーをを演じるにふさわしい存在なのだろう。妻の出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:58 PM

April 27, 2012

『灼熱の肌』フィリップ・ガレル
田中竜輔

 豊満な肉体をしなやかに弾ませ、見知らぬ男性と踊る女優のアンジェル(モニカ・ベルッチ)に、その夫である画家のフレデリック(ルイ・ガレル)は「まるで娼婦みたいに見えた」と吐き捨てる。ひと組のカップルにおける深刻な危機を明確に示すこの言葉を耳にして、しかしそれに当惑せざるを得ないのは、映画が始まった時点ですでに成立していた(と、同時に破局していた)このカップルの育んだであろう「愛」のありようを、私たち...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:45 AM

April 8, 2012

『少年と自転車』ダルデンヌ兄弟
梅本洋一

 父親に捨てられた息子は、それでも父親を信じようとする。だってまだあそこに父親は住んでいる。だって、まだあそこに父親が買ってくれた自転車があるじゃないか。施設の指導員たちは、隙を見て常に脱出を試みようとする少年に「落ち着け、落ち着くんだ」と繰り返す。それでも脱出を繰り返す少年。  偶然、逃げ込んだクリニックの待合室で噛みついた女性と知り合い、彼女は、盗まれた自転車を少年に買い戻す。なぜか? そんな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:10 PM

March 16, 2012

『おとなのけんか』ロマン・ポランスキー
増田景子

『おとなのけんか』は黄色いチューリップと電話の映画だったと記憶しようと思う。 2011年にヒットした『ゴーストライター』(2010)の監督として記憶に新しい、ロマン・ポランスキーの作品が公開されている。ヤスミナ・レザの戯曲『大人は、かく戦えり』を映画化した『おとなのけんか』は会話ばかりの80分作品。戯曲から生まれた映画だけあって限られた空間を巧みに利用した室内劇で、登場人物も4人と少ない。しかし、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:30 PM

March 15, 2012

『グッバイ・マイ・ファースト・ラヴ』ミア・ハンセン=ラヴ
結城秀勇

 ミア・ハンセン=ラヴは井口奈己らとのトークで、『人のセックスを笑うな』と自分の作品とのドラマタイズにおける共通点は「暴力的なシーンの欠如」にあるのではないか、と語っていた。続けて、「暴力的なシーンを回避することはなにか保守的なことだと思われがちだが、むしろ暴力的なシーンが存在してしまうことの方がよほど因習的なのだ」とも言っていた。  その言葉は、これまでよく見えていなかった彼女の作品のある側面を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:44 PM

March 14, 2012

「恐怖の哲学、哲学の恐怖——黒沢清レトロスペクティヴによせて」
ジャン=フランソワ・ロジェ

 黒沢清は、B級映画とジャンル映画でデビューした多作の映画作家だが、彼は、国際的な舞台で次々に評価される、異論を挟む余地のないほどに個人的な作品世界を築き上げてきた。彼は恐怖と不安の映画作家だと考えられてきたが、恐怖映画の諸々の規則が、彼にあってはしばしば、それを通して日本の文化的な歴史と社会的な現実を垣間見せるプリズムにもなっている。その演出術は、自らの映画から、これまで実現されたことのない極限...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:24 PM

March 12, 2012

『ロング・グッドバイ パパ・タラフマラとその時代』パパ・タラフマラ、小池博史
増田景子

 2012年パパ・タラフマラが解散する、ということは知っていた。観劇するともらう分厚い折り込みチラシの束にたしか最終公演のフライヤーを目にしたからだ。でも、「パパ・タラフマラが解散する」ということが何を意味するかは知らなかった。さらに、パパ・タラフマラがどんな劇団で、どんな歴史を築いてきたかってことも知らなかった。そう、何も知らなかったのだ。 「パパ・タラフマラは1982年に小池博史を中心に結成さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 AM

February 19, 2012

『なみのおと』酒井耕&濱口竜介
松井宏

 声による圧倒的な体験。  酒井耕、濱口竜介という初めてドキュメンタリーを撮るふたりの監督によるこの作品は、声による圧倒的な体験と言い換えられる。ふたりは2011年3月11日の東日本大震災以後に宮城県に入り、各地の何人もの(何組もの)人々との接触を何度も重ね、やがて彼ら自身の体験をそれぞれ語ってもらい、そのなかの11人をこの作品に登場させている。昭和初期に同地域に発生した大地震を経験したおばあさん...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:05 AM

February 17, 2012

淡島千景追悼
梅本洋一

 映画って本当に不思議だ。森繁に「たよりにしてまっせ」と言われていたり、原節子の長年の友人の料亭の娘だったりした、あのキャピキャピしていて、屈託のない、それでいて頼りがいのある女性が、87歳でこの世を去ってしまった。映画の中ではいつも美しくて、行動的で、「いいなあ、こんな人が友だちにいたらな」といつも思っていた人が、実は、現実の世界では80歳をとおに越えていた。当たり前のことだ。小津安二郎(『麦秋...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:54 AM

February 16, 2012

『ドラゴン・タトゥーの女』デヴィッド・フィンチャー
隈元博樹

リスベット(ルーニー・マーラ)の背中から美尻にかけて彫られた漆黒のドラゴン・タトゥー。その美しいドラゴンから一瞬たりとも目が離せないかのように、気がつけば誰もがこの158分の「犯人探し」の旅へと巻き込まれていくだろう。ただしデヴィッド・フィンチャーのフィルモグラフィーをたどってみると、『セブン』では捜査中に連続猟奇殺人事件の犯人が自ら出頭してしまうことで「犯人探し」は終わりを告げた。『ゲーム』や『...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 PM

February 15, 2012

『ヒミズ』園子温
増田景子

園子温監督ははやくも震災を映画にとりこんだ。それが『ヒミズ』だ。結果、この映画は今後の被災地のひとつの可能性を描きだしたといえる。 この映画は古谷実による同名の漫画(2001-2003年連載)を原作とした映画で、9月に行われたヴェネチア映画祭ではコンペティション部門で主演の染谷将太と二階堂ふみがマルチェロ・マストロヤニン賞(新人賞)を受賞、1月から全国でロードショーが始まった。「普通」を夢見る中学...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:53 PM

January 30, 2012

『J・エドガー』クリント・イーストウッド
梅本洋一

 イーストウッドは、あるインタヴューで、ものごころついたときからFBIの長官はずっとフーヴァーだった、と言っている。49年間も同じ地位になった人物なので、イーストウッドの感想も当然のことだろう。だが、ぼくはこの人をまったく知らなかった。この人の名前を知ったのも、イーストウッドが、ディカプリオ主演でこの人についての伝記映画を撮影中だというニュースを聞いたからだ。つまり、ぼくは、まったくの白紙でこのフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:04 PM

January 21, 2012

『永遠の僕たち』ガス・ヴァン・サント
梅本洋一

 このフィルムの原題はrestless。文字通りrestがない。「落ち着きがない」とか「動き続ける」とか、「そわそわしている」とか、だから「不安」や「不穏」だという意味になる。見知らぬ他人の葬儀に出席し続ける登校拒否生徒のイーノックは、ある葬儀で短髪で色白の少女アナベラに会う。  難病もの? 青春映画? どちらも当たっている。青春映画というのは、タイムリミットのある若さを疾走する映画であり、その極...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:49 PM

December 20, 2011

『ラブ・アゲイン』グレン・フィカーラ&ジョン・レクア
松井宏

「長年連れ添った妻に突然離婚を告げられた中年男スティーヴ・カレルがなんとか彼女を取り戻そうとがんばる」。そんなあらすじを読んだだけでわかるけど、これは典型的なリマリッジ・コメディである。つまり冒頭でさっそく駄目になったカップルが以降、どのように再生するかが問題となる。「再生するかどうか」じゃなくて「どのように」こそが、このジャンルの焦点だ。    その点『ラブ・アゲイン』は見事。妻エミリー(ジュリ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 PM

December 9, 2011

『カルロス』オリヴィエ・アサイヤス
田中竜輔

 このフィルムが5時間半という時間を通じて映し出すカルロス=イリイッチ・ラミレス・サンチェスとは、もちろんかつて世界を揺るがした極左テロリストのことだ。膨大な一次資料に目を通し、俳優の国籍や使用言語にも固執し、 いくつかのシーンでは現存する資料の中に再構築されたカルロス自身の言葉をそのままに使い、実在の関係者たちと面会するにまで至ったというオリヴィエ・アサイヤスの史実に接する態度は、きわめて誠実な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:37 PM

『ウィンターズ・ボーン』デブラ・グラニック
松井宏

 ファーストカット。ああ、16ミリ!と思い、それだけで画面に釘付けになってしまったのだが、エンドクレジットで「レッド・ワンで撮影」とあった。レッドというのはこんな画面まで可能なのか。しかしいったいどうやって、どんなプロセスであんな映像になるのか。正直よくわからないので、どなたかわかる方がいたら教えてほしいです。  バーバラ・ローデンの『Wanda』(70)も、ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』(99)も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:16 PM

December 8, 2011

関東大学ラグビー対抗戦 早稲田対明治 18-16
梅本洋一

 ちょっと遅きに失したが備忘録として今年の早明戦について。  早慶戦でツボにはまった早稲田のワイドに振る方法とキックパスだが、早明戦の明治では毎年のことだが、ここ一番のディフェンスをシャローで仕掛けてこられると、ふたつともうまく行かなかった。もちろん強風の影響がキックパスをためらわせたかもしれない。だが、SOが狙いを定めたキックをする余裕が明治のディフェンスで与えられていなかった。さらに明治のシャ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:38 AM

December 7, 2011

『トゥー・ラバーズ』ジェームズ・グレイ
高木佑介

 ジェームズ・グレイの新作(と言っても、製作は2008年)が、先日紹介したリチャード・リンクレイターの新作と同じくDVDスルーされている。シネコンではハリウッド大作映画だけが画一的に公開されている一方で、こういった「多様」な海外作品が劇場公開すらされない事実には頭を抱えるばかりだ。たとえば、シネコンと大手配給会社が結託した「デジタル上映システム」への完全移行がこのまま推し進められていくと、弊害が巡...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 PM

December 5, 2011

『CUT』アミール・ナデリ
隈元博樹

鎌倉にある黒澤明、池上にある溝口健二、そして北鎌倉にある小津安二郎の3つの墓場。秀二(西島秀俊)が、黒澤の墓石の前でただ静かに「先生」とつぶやく。溝口の墓石の前では記念碑に彫られた『雨月物語』の文字を自らの指でなで合わせる。そして小津の墓石の前では「無」と彫られた一点の文字を見据え、静かに両手を合わせる。 このフィルムには、たくさんの墓場が登場する。秀二の兄の慎吾が殺されたヤクザのシマの倉庫の便所...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:03 PM

November 28, 2011

『ニーチェの馬』タル・ベーラ
増田景子

 10分ほどだっただろうか。数分遅れて入り着席して数秒後には、荷車を引く馬が走る様だけをただただ見ていた。  きっと白か灰色で、お世辞にもきれいとは言えない毛並みの痩せ馬なので、そのものに目を奪われたというよりも、馬が全身の筋肉を使って行っている運動に目を奪われたということなのだろう。だからといって、馬が変わった動きをするわけではない。馬は鼻息荒く、課された任務、つまり荷車を引っ張るために淡々と走...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:59 PM

November 24, 2011

関東大学ラグビー対抗戦 早稲田対慶應 54-24
梅本洋一

 点差はもちろんトライ数でも早稲田9トライ、慶應3トライで早稲田の快勝。少人数でラックから速くボールを出し、一気に攻めるという早稲田の戦術が見事にはまった。ブレイク・ダウンでの慶應の劣勢と慶應のディフェンスに「魂のタックル」が見られなかったことが原因。早稲田のアタックは、ウィングの外側に山下や金が立っているという往年のレ・ブルーのマーニュ、ベッツェンの時代を彷彿とさせた。  スペースと間合いを作る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:57 AM

November 23, 2011

『独り者の山』ユー・グァンイー
高木佑介

 いや、数時間前に見た本作に対する興奮がまったく冷めやらぬままにこの文章を書き始めたものの、絶対にこの言葉だけは書くまいとさっきまで固く心に誓っていた常套句を、ここで早くもあっさりと吐きだしてさっさと楽になってしまいたいと思う。やはりこの監督は、ほかの誰よりも「映画」から祝福を受けている作家だ、と。なんだ、そんなことなら3年ほど前のフィルメックスで上映された『サバイバル・ソング』を見たときから知っ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:04 AM

November 22, 2011

『フライング・フィッシュ』サンジーワ・プシュパクマーラ
高木佑介

 東京フィルメックス・コンペ部門の一本。開映前に「小津安二郎に捧げます」という監督からの言葉がアナウンスされたこの作品は、スリランカにおけるシンハラ人(政府軍)とタミル人(反政府軍)の内戦を背景に描かれた若手映画監督のデビュー作である。冒頭に映し出される、夕陽が沈んでいくスリランカの海辺をとらえた一連の画の美しさには目を見張るものがあったが、まるで鬱屈した時勢に対する感情を吐き出すかのように、途中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:05 AM

『カウントダウン』ホ・ジョンホ
高木佑介

 本年度の東京フィルメックス・コンペ部門の一本。余命3カ月の肝臓ガンと宣告された、借金の「取り立て屋」を生業とする男が主人公で、彼の死んだ息子の心臓を移植されたことのある女から肝臓を移植してもらうために奮闘するというのがこの物語の主な筋。つまり自分が生きるために肝臓を取り立てに行く、ということである。こう書くと至極シンプルなお話のように思えるのだが、実際に映画を見ていると物語の「錯綜ぶり」に驚く。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:42 AM

November 18, 2011

『猫、聖職者、奴隷』アラン・ドゥラ・ネグラ+木下香
田中竜輔

 『猫、聖職者、奴隷』は「セカンドライフ」なるものの、その魅力やら中毒性やらを理解することの手助けになるような作品では一切ない。「なぜ人々はセカンドライフに熱中するのか」などといったことを心理学的に解きほぐすような手つきもほとんどゼロだと言っていい。彼らはすでに「セカンドライフ」を生きている。これは前提であり、探求の目的ではない。では、このフィルムは何を映し出そうとしているのか。仏映画レーベルカプ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:57 PM

『べガス』アミール・ナデリ
増田景子

 新しい映画監督との出会いほどワクワクすることはないし、その出会えたばかりの監督の最新作の公開が近日中に控えているなんていう状況は、2011年現在の映画状況からしてみれば希有な幸福で、興奮をよぶ興奮、その歓喜をさけばずにはいられないのである。ともかく、アミール・ナデリとの出会いは衝撃であった。  恥ずかしながら私は『CUT』の監督名を見るまで、東京国際映画祭の常連で、今年の第12回東京フィルメック...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 PM

November 17, 2011

『サウダーヂ』富田克也
増田景子

いま巷の映画ファンで一番の話題作はまちがいなく空族の『サウダーヂ』だろう。あらかたの映画雑誌、新聞各社、テレビやラジオ番組で取り上げられ、多くの人がこの映画に関して発言を残している。そのせいもあってか、ミニシアターの不況が嘆かれているにもかかわらず、唯一の上映館であるユーロスペースには『サウダーヂ』を見ようと連日大勢の人が押しかけている。 でも、一体『サウダーヂ』のなにがすごいのか。自分たちで資金...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:00 PM

October 31, 2011

チェルシー対アーセナル 3-5
梅本洋一

 溜飲を下げるという表現はあまり好きではないけれど、こういうゲームの後は、その表現を使いたくなる。  アーセナルというチームに疑いを持ち始めてからずいぶん経つ。いったい何度期待を裏切られたのだろう? 別にタイトルを取れなかったことが残念なのではない。かつてこのチームのフットボールを見ることで、フットボールを見る快楽を感じ、それからこのチームと共に何年も歩んできたのに、最近、快楽どころか不満や苦痛ば...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:21 PM

October 28, 2011

『MISSING』佐藤央
高木佑介

「息子は自分のせいで失踪してしまった」と負い目を感じている母親であるとか、「悪い行いをすれば必ず悪いことが起こるのよ!」と物事の因果を熱弁する女であるとか、「嘘」ばかり言う少年であるとか、とにかくそのような人物たちのやり取りが1時間にも満たない慎ましい尺のなかで描かれているこの『MISSING』。まず何よりこの映画を見て驚かされるのは、各々が独自の価値観を持って行動しているように見える上記のよう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:17 AM

October 9, 2011

ラグビーW杯──(8)クォーターファイナル(1) 
梅本洋一

アイルランド対ウェールズ 10-22 理想的な組み合わせになったクォーターファイナルの第1戦。スタッツは、ポゼッション(54-46)でも敵陣22メートルに侵入した時間(14,51-6.34)でもアイルランドが勝っていたことを示すが、スコアは見ての通り。トライ数では1-3と上記とまったく逆の数字を示している。  もちろんラグビーは、サッカーとは異なり、スタッツの内容は勝負とは異なることが多い。だが、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 AM

October 5, 2011

『5 windows』瀬田なつき
松井宏

Stay Gold!    横浜の京急沿い、つまり大岡川沿いの黄金町界隈の屋外や屋内の各所に4つの小さなスクリーンが設置されている。それぞれで、瀬田なつき監督が撮った約5分の異なる短編がループ上映されていて、観客はまちを歩きながらそれぞれをめぐり見てゆく。そして最後は映画館ジャック&ベティにて、25分ほどのまとめヴァージョン(各5分のものを単につなげただけではなく、新たなショットもたくさん加えてひ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:01 AM

October 1, 2011

ラグビーW杯2011──(6) フランス対トンガ 14-19 イングランド対スコットランド 16-12
梅本洋一

 ワラビーズ対アイルランドに続いて2戦目のアップセットが対フランス戦のトンガの勝利。具体的には異なるけれど、抽象的なレヴェルで考えれば、トンガの勝因はアイルランドと同じ。戦術を単純なものに落とし込んで、自分たちの長所を活かす戦いをすれば、たとえ相手の方が力が上でも僅差の勝負に持ちこめるということだ。1対1のぶつかり合いになればトンガは負けない。さらに重量級のSHと走力抜群のナンバー8とウィングにボ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:12 PM

『5 windows』瀬田なつき
結城秀勇

 橋の上、電車の中、マンションの屋上、川沿いの道。さしたる理由もなく、彼らはその時、その場所にいる。歩きながら、電車や自転車などの乗り物に乗りながら、ぼんやりと立ち尽くしながら。それがたった一度きりの人生のまぎれもないひとつの断片だなどとは微塵も意識しようはずもない、ただ通り過ぎていくだけの時間の中で、彼らは皆孤立している。たとえば未曽有の大地震でも起きない限り、そんな瞬間があったことすら知覚され...全文を読む ≫

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September 28, 2011

『宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ
高木佑介

「この世界は素晴らしい。戦う価値がある」と言ったのはヘミングウェイだった。「その後半の部分には賛成だ」と言ったのは、『セブン』のモーガン・フリーマンだった。そして、戦い疲れた元ボクサー役の彼がナレーションを務めた映画で、戦う女ボクサーにイーストウッドが投げかけた言葉は、“Tough is not enough”だった。いつか耳にしたそんな言葉をあれこれと思い返しつつ、遅ればせながら、先日の東京日...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:05 AM

September 22, 2011

『レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳』アンドリュー・ラウ
隈元 博樹

このフィルムの主人公チェン・ジェンはかつてブルース・リーが『ドラゴン 怒りの鉄拳』で演じた架空の武道家である。その名前は、ブルース・リーという伝説的なスターがかつて演じたひとつのキャラクターであることを越えて、その後のカンフー映画に繰り返しその影を落とす。後にこのチェン・ジェンは、彼の死後を物語にしたり、リメイクをしたりしてジャッキー・チェンやジェット・リーによって演じられてきた。今回の『レジェン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:35 PM

September 21, 2011

ラグビーW杯2011──(3)トンガ対ジャパン 31-18
梅本洋一

 もう誰かが正直に書いてもよい頃だろう。結果論なら誰にでも書けるよと言われるだろう。確かに結果は上記の通りだ。ノルマは最低2勝。相手はトンガとカナダ。そしてゲームを見た者なら誰にでも分かるとおり、まったく勝つ気配が感じられなかった。選手たちは頑張っているのだろうが、このやり方では勝てないとゲームを見ている者は確信してしまう。さらに、この4年と少しの間、W杯で2勝すると豪語し続けたのだから、それなり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:44 PM

September 20, 2011

『ソラからジェシカ』佐向大
高木佑介

 “地域発信型映画”企画の一本として、千葉を舞台に撮影された今作。だが、佐向大のこの新作短篇のベクトルは、そうした「企画もの」の枠組みを大きく越えた場所へと向けられていると言えるだろう。実際、『マッチ工場の少女』(90)を否応なしに彷彿とさせる一連の見事なショットによって映し出される落花生工場は、もちろんロケ地である千葉という土地の地域性を十二分に担っているのだが、他方で、海外からの出稼ぎ労働者が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:48 AM

September 3, 2011

『ゴーストライター』ロマン・ポランスキー
梅本洋一

 すでにこのフィルムについてはいろいろなことが語られている。ヒッチコック的な作品、堂々とした古典的な作品、流浪を余儀なくされたポランスキーの似姿……どれも当たっている。冒頭の豪雨の中、フェリーが港に着くシーンから、無駄なショットなどひとつもないし、見事な編集で見る者の関心を惹き付けて放さない。ヒッチコック的な分類に従えば、「巻き込まれ型」の物語。前任者の死によってイギリス前首相の二人目のゴーストラ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:52 PM

August 29, 2011

マンチェスター・ユナイティド対アーセナル 8-2
梅本洋一

 対ウディネーゼ戦の勝利の後、マンU戦は引き分け狙いで、とぼくは書いた。ところが上記の結果だ。サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』の冒頭ではないが、Rien à faire! どうしようもない。こうしたゲームは堅く落ち着いて入り、ゲームを「殺す」方向へ進めていくのが鉄則だ。だが、当日の先発メンバーを見ると、誰でもが理解できるそうした方向性は「絵に描いた餅」であることが即座に納得される。まず...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

July 25, 2011

季刊「真夜中」2011 Early Autumn
結城秀勇

「真夜中」の最新号をぱらぱらめくっていて、ふたつの文章に真っ先に目がいった。全部読んでいないので特集全体に対するコメントではないのだが、最近考えていることも含め書いておこうと思った。ふたつの文章はどちらも、HIPHOPに関係していて、3月11日の地震に関係していて、人生に関係している。  目にとまった文章のひとつは、三宅唱によるラッパー・B.I.G.JOEへのインタヴューで、「とりかえしのつかな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:41 PM

July 23, 2011

『MISSING』佐藤央
濱口竜介

たった一つの声      役者たちとのワークショップから生まれた前作『Moanin’』(10)を見れば、佐藤央が役者に課す最も根本的な演出とは、発話の統一であるのは明らかだ。現実には様々な声質、発声が溢れるのがこの世界であるわけだが、佐藤央はその多様さを認めない。いや、実際のところ単に一見多様であるに過ぎない「個性」としての声を佐藤央は抑圧する。「発声」でなく「発話」と言うのは、佐藤央の演出が、お...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:41 PM

July 9, 2011

『MORE』 伊藤丈紘
槻舘南菜子

 可能性ではなく不可能性からしか自分の未来を想像できなくなりはじめる頃。振り返るにはまだ早いであろう生々しい過去の時間の中にありえたかもしれない現在を夢想せずにはいられない頃。新しいことを始めるには少し遅い。でもまだ何かを諦めてしまうには少し早い。そう、もう一度やり直そうと思えば、可能性はゼロではない。  『MORE』の主人公は3人の女性だ。OLのユリ(小深山菜美)、フリーのカメラマンであるモエコ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:33 PM

June 25, 2011

《再録》What a wonderful world
結城秀勇

(2011年6月25日発行「nobody issue35」所収、p.57-61)  『東京公園』とはどんな映画かともし人に聞かれたら、僕はこのシーンの話から始めるだろう。  三浦春馬演じる志田光司が初めて画面に登場する場面。カメラにレンズをセットし、一眼レフを構えた彼を真正面から捉えたカットに続いて、公園の広い中心部に向かって歩み出す彼の後ろ姿をカメラは切り取る。小さくなる彼の後ろ姿の上に重なるの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 PM

《再録》宇宙人さん、こんにちは
渡辺進也

(2011年6月25日発行「nobody issue35」所収、p.52-56) 東京=公園  これを書いている今日、ずいぶんと都内を移動した。  まず海外の映画雑誌のコピーを取る必要があったので、最初に京橋のフィルムセンターに行ったけれども休館日だった。それで、銀座線と東西線を乗り継いで早稲田の演劇博物館まで。そのあと、今度は日本語の文献を調べたかったので、東西線と有楽町線を乗り継いで永田町の国...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:40 PM

『サウダーヂ』富田克也
結城秀勇

 昼休憩の時間が終わりに近づき、味噌ラーメンを食い終えたふたりの男は冷房の効いたラーメン屋を出る。その戸口で彼らは、呼吸と共に急激に襲いかかる熱気にむせかえるようにしながら、大きく伸びをする。そして、「こんな日に仕事しちゃだめっすよねえ」。  ただそれだけのことで、その暑さを理解する。山梨の夏がどんなものかは知らないし、その暑さの中での肉体労働の経験があるわけでもない。でもなんとなく、生まれ育った...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:32 PM

June 15, 2011

『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』マルコ・ベロッキオ
増田景子

「あなたはひとりでファシズムや国と戦おうとしている。」と、若き日のムッソリーニの愛人であるイーダは言われる。この映画はまぎれもなく第二次世界大戦に続いていく戦争の話であり、また、イーダというひとりの女性の戦いの話でもある。しかしながら、結局この映画の中で彼女はいったい何と戦っていたのだろうか。     ムッソリーニとイーダのふたりが愛し合っていた頃、彼女はファシズムに勝利していた。成り上がるために...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:36 PM

June 14, 2011

『NINIFUNI』真利子哲也
渡辺進也

 まだ興奮冷め切れぬままにこれを書いているので、乱文であること、ご容赦いただきたいと思う。とにかく、一刻も早く吹聴して回りたくて仕方ないのだ。『NINIFUNI』がとんでもない傑作であること。どれだけ言葉を費やそうともかなわないくらいにすごい作品であり、少しでも多くの人の眼に触れることを願ってやまないことを、もうとにかく吹聴したくてたまらないのだ。  『NINIFUNI』はこれまで見たことがないよ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:04 AM

June 10, 2011

『まなざしの旅 土本典昭と大津幸四郎』代島治彦
萩野亮

「土本典昭お別れの会」のようすを映した冒頭、壇上の熊谷博子は、次の弔辞に立つ人物をこのように紹介する。 「土本さんの容態が少し悪くなり、皆さんが駆けつけたときがありました。土本さんは大津さんを見つけると、必死に起き上がろうとしながら、大津さんの手を強く握り締め、こう云いました。『ぼくはきみに会えて本当に幸せだった。きみのおかげでぼくの人生はゆたかなものに変わった』と」。  そうして前に立った大...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:57 AM

June 9, 2011

モーリス・ガレルが亡くなった
梅本洋一

 不思議なことに若かりし頃の彼をほとんど覚えていない。フィルモグラフィーを見れば、トリュフォーの『柔らかい肌』にも『黒衣の花嫁』にも出演している。だが覚えていない。ジャック・ロジエの『アデュー・フィリピーヌ』にも父親役で出演している。こちらは朧気に覚えている。  やはり決定的だったのは息子フィリップの映画『自由、夜』の彼だ。彼は1923年2月24日生まれだそうだから、このフィルムの完成時、60歳。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:29 AM

May 21, 2011

『甘い罠』クロード・シャブロル 
増田景子

 リストの「葬送曲」が繰り返し演奏される。それは、ピアニストであるジャック・デュトロンが、そこを訪れるピアニストの卵であるアナ・ムグラリスに間近に控えたコンクールに向けてレッスンをしているからなのだが、それ以上の接点がこの曲とこの映画自体にあるように思えてしょうがない。この映画のタイトルが「葬送曲」でもうなずけるほどである。  誰を葬送するのか。それはイザベル・ユペールに他ならない。イザベル・ユペ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:17 AM

『悪の華』クロード・シャブロル 
隈元博樹

 冒頭からダミアの『UN SOUVENIR』に呼応するように、外部から内部へとゆっくりと移動していく長回しのキャメラ。左に首を振ってダイニングをなめたあと、深紅のカーペットがかかる階段を(これもゆっくりと)上がり、2階に横たわる何者かの死体を捉えた瞬間にその場で立ち止まる。なぜ最初からこれほどまでにシャブロルは邸宅を丁寧に撮っているのだろう?  ドイツ占領下の時代、父親にレジスタンスとして殺害され...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:01 AM

May 20, 2011

『最後の賭け』クロード・シャブロル 
渡辺進也

 長らく日本で未公開であったクロード・シャブロル監督の3つの作品が公開される。  そのうちの1本である『最後の賭け』は1997年製作、デビュー作となった『美しきセルジュ』以来ほぼ毎年、3年と空けず監督作を残しているシャブロルの長編映画47本目にあたる。  『最後の賭け』は『ヴィオレット・ノジュール』以来シャブロル映画の常連となったイザベル・ユペールと『帽子屋の幻影』以来の出演となるミシェル・セロー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:58 PM

May 8, 2011

『歓待』深田晃司 
増田景子

 川沿いにある東京の下町。下町特有の車がすれ違えなさそうな狭い路地の一角にある特徴のない建物のすりガラスに書かれた小林印刷の文字。この、歩いていたら足を止めないような地味な家族経営の印刷所が、この映画の舞台である。ガラスの引き戸を開けると、そこには通路を挟んで大きな印刷機が2台置かれていて、奥には8畳間ほどの居間と上に続く急な階段。どうやら印刷所と居間の境には風呂があるようだが、それくらいしかない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:10 AM

May 6, 2011

イタリア映画祭2011レポート 2011年5月3日 
隈元博樹

Il quinto giorno  午後からのロベルタ・トッレ『キスを叶えて』。ここまでタイトルに「キス」がついてしまえばもはやお手上げである。このフィルムは今年のサンダンス映画祭コンペ部門出品作であり、行方不明になった聖母像の頭部をシチリア・リプリーノに住む美容師見習いの少女が自分の見た夢によってその居場所を発見したことに端を発し、その「奇跡」に便乗して彼女の母親が金稼ぎに奮闘するというあらすじ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:34 AM

May 3, 2011

イタリア映画祭2011レポート 2011年5月2日 
隈元博樹

Il quarto giorno  「A pancia si consulta bene」(=「腹が減っては戦はできぬ」)。以前からとても気になっていた銀座7丁目の交詢社通りにある「銀座 梅林」でカツライス、980円。ここも昭和2年創業と歴史古く、本店のほかに銀座三越店やハワイ、羽田空港カウンター、最近では秋葉原にも小売展開しているという。自分が頼んだカツライスのカツより隣のサラリーマンが頼んだラ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:26 PM

イタリア映画祭2011レポート 2011年5月1日 
隈元博樹

Il terzo giorno  映画祭も前半を折り返す。ダニエーレ・ルケッティ『ぼくたちの生活』。「Sacher Film」設立当初からナンニ・モレッティと協働していたということは知っていたけども、このフィルムにはどこかオリヴィエ・アサイヤス、とくに『8月の終わり、9月の始め』を喚起させる瞬間が随所に存在している。それは人物をキャメラが尾行(ルケッティ曰く、「ペディナメント」と呼ぶらしい)し、ま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:16 PM

イタリア映画祭2011レポート 2011年4月30日 
隈元博樹

Il second giorno   本日1本目はカルロ・マッツァクラーティ『ラ・パッショーネ』。昨日の『われわれは信じていた』同様、去年のヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門出品作である。さて映画監督のスランプと言えば必然的にフェリーニの『8 1/2』や北野武の『監督・ばんざい!』などの再審に付すフィルム群が思い浮ぶけれども、シルヴィオ・オルランド扮する映画監督のジャンニはフェリーニのよ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:48 AM

イタリア映画祭2011レポート 2011年4月29日
隈元博樹

Il primo giorno   GWに開催されるということで毎年恒例のイタリア映画祭も今回で11回目。今年はなぜか去年のCL決勝でインテルのスタメンにアズッリの選手がいなかったこと(マテラッツィは途中出場したけども)を思い出したり、その頃ロブ・マーシャルの『NINE』がハリウッド資本で製作されたり、あれやこれやと反芻しながら気がつけば有楽町・朝日ホール。日比谷の高架下近くにあるピザトースト発...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:43 AM

April 26, 2011

『引き裂かれた女』クロード・シャブロル
梅本洋一

 小説家のシャルル・サン=ドゥニ(フランソワ・ベルレアン)が、テレビで天気予報をやっているガブリエル・ドゥネージュ(リュドゥヴィーヌ・サニエ)に狙いを付け、彼女を最初に誘う場所はオークションだ。父ほどの年齢に達した小説家に惹かれた女性は、彼女に一目惚れした金持ちのどら息子(ブノワ・マジメル)の誘いを振り切ってオークションに出かける。若い女性に、オークションに行かないか、という信じがたい誘惑手段を用...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:58 AM

April 22, 2011

『ファンタスティックMr.FOX』ウェス・アンダーソン
高木佑介

 この作品が好評を博していることは雑誌の論評などですでに知っていたし、ロアルド・ダールの原作を映画化することがウェス・アンダーソンの念願の企画であったこと、そしてその意気込みに見合った力作であることもなんとなく耳にはしていた。とはいえ、特に大きな期待を抱くわけでもなく、いわば消極的な心構えで映画館に足を運んでしまったことをまず正直に書いておきたい。前作の『ダージリン急行』(07)がそれほど面白くな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:44 AM

April 15, 2011

『悲しみのミルク』クラウディア・リョサ
隈元博樹

 ファウスタ(マガリ・ソリエル)には常に「母性」が依拠しており、彼女という存在は彼女の母から与えられたその一連の系譜から逃れることのできない運命にあるのかもしれない。  とは言うものの、彼女と実母が同じスクリーン上に捉えられるのは冒頭の場面、あるいは遺体となって言語を失ってしまった「以後」にしか二人の女性はひとつの空間をともに生きることを許されてはいない。 しかし息絶えし間際、ケチュア語で紡ぎ出さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:38 PM

April 11, 2011

『神々と男たち』グザヴィエ・ボーヴォワ
増田景子

 この映画を観て、遠藤周作の『沈黙』を思い出す。『沈黙』は鎖国をしていた江戸時代の長崎を舞台とした隠れキリシタンの日本人と宣教師たちの話である。ちなみにこの『神々と男たち』は、アフリカのアルジェリアの小さな村が舞台であり、イスラム教のアルジェリアの人とフランスから来たキリスト教の修道士たちの話であり、平和だった村がテロリストの攻撃によって戦場へと変貌してしまうのだ。こうして文字にしてみるとふたつの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:29 AM

February 20, 2011

『ヒアアフター』クリント・イーストウッド
梅本洋一

 正直に告白しよう。イーストウッド・ファンを自認するぼくだが『グラントリノ』も『インビクタス』もなぜか絶賛することができなかった。『グラントリノ』は俳優イーストウッドの喪の儀式には相応しかったし、それなりに感動したけれども、すべてが「想定の範囲内に収まっていた」気がしたし、肝腎のクルマがあまり好きになれなかった。たとえば『センチメンタル・アドベンチャー』のクルマの方が良かった。そして『インビクタス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:35 PM

February 15, 2011

『SOMEWHERE』ソフィア・コッポラ
田中竜輔

 ほとんど風景と呼べるランドマークのない、サーキットのような道路をグルグルと抑揚なく走る一台の真っ黒なフェラーリ。運転しているのは無気力な映画スターのジョニー・マルコ(スティーヴン・ドーフ)。車に乗るか、酒を呑むか、適当な女とセックスするか、はたまたポールダンサーをデリバリーするか、一応映画の仕事は続けているようだけれども、記者会見では質問に満足な受け答えもできないほどの熱のなさ、ルーティンと惰性...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:30 AM

January 27, 2011

『アブラクサスの祭』加藤直輝
松井宏

 東京藝大大学院卒の加藤直輝監督による「商業映画」第1作目となる今作。「商業デビュー作として今作は云々かんぬん」とか「以前の加藤監督作品と比べて云々かんぬん」とか「監督の作家性が今作では云々かんぬん」などと言った話を抜きにして、『アブラクサスの祭』はごく素直に心動かされる作品だ。  まず成功の理由として、物語の構造のシンプルさがあると思う。同名の原作小説でもそうらしいのだが、ラストはライブである。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:25 AM

January 26, 2011

2011アジアカップ準決勝 日本対韓国 2-2(PK3-0)
梅本洋一

 今野のブロックがPKに値するかどうか(もちろん後半の岡崎に対するファウルがPKに値するかどうかも含めて)は、主審の問題に帰着するので(より高いレヴェルのレフリングができる審判の養成を希望する以外)書きようがない。だが、前半の日本は、今大会で一番の出来だったことは疑いようがない。パススピード、ボールの回り、ポジショニングもとても良かった。悪かったのは1点しか取れなかったこと。だが、こんなことはフッ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:42 PM

January 22, 2011

アジアカップ2011準々決勝 日本対カタール 3-2
梅本洋一

 このゲームが終わった後、遠藤は、6年前に似てきた、と言っていたそうだ。6年前の中国開催のアジアカップでも確かに薄氷を踏む勝利の連続だった。準々決勝のヨルダン戦では、PK戦で俊輔、アレックスが連続して外し、宮本の機転で反対側のゴールが使用されたこともあった。(懐かしいね!)  遠藤の言っていることは、ゲームの結果については、近いかも知れないが、ゲーム内容について見ると、今回の方が数段上だ。開幕戦の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:27 PM

January 6, 2011

『アブラクサスの祭』加藤直輝
梅本洋一

 暮れから正月にかけていろんな人が死んでいく。ブレイク・エドワーズ、そして高峰秀子……。ここ7〜8年、ブレイク・エドワーズのロマンティック・コメディを再見したり、成瀬の『浮雲』や『流れる』を授業で何度も見て、高峰秀子の凄さを感じていた。もちろん数年前のオスカー授賞式で、もう歩けなくなって車椅子で移動し、それでもギャグを飛ばしているブレイク・エドワーズの姿を目にしているし、その傍らに唄を歌えなくなっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 AM

December 16, 2010

『キス&キル』ロバート・ルケティック
高木佑介

 家族旅行で南仏ニースを訪れたジェン(キャサリン・ハイグル)は、結婚秒読みかと思われた彼氏に最近フラれたばかり。両親と一緒に旅行なんて、もう子供じゃないんだから・・・・・・みたいなことをニース行きの機内で口にしつつも、婚期を見事に逃しちゃった感が全身から毒々しく滲み出ている彼女の姿を見ていると、このあと起こるだろうロマコメ的展開に否が応でも期待が高まってしまう。顔は全然似てないけど、キャメロン・デ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:44 AM

December 4, 2010

『海上伝奇』ジャ・ジャンクー
増田景子

 喋り声、物を売る声、テレビやラジオの放送音、中華鍋で炒める音、食器がぶつかる音、椅子やテーブルのぶつかる音、麻雀牌の音、歩く音、車のエンジンをふかした音、けたたましいクラクションの音――。  賈 樟柯の新作である『海上伝奇』からは、まるで上海にいるかのごとく音が鳴り響く。路地にも、店内にも、どこでもかしこでもあらゆる音が鳴り響き重なり合って存在しているのだ。それらの音に私は感動を覚える。というも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 AM

November 30, 2010

バルセロナ対レアル・マドリー 5-0
梅本洋一

 火曜日の朝から信じがたいものを見てしまった。チャビの一発に始まり、ジェフレンの5点目まで、バルサがディフェンダーを付けたアタック練習のように得点を重ねていく。ディフェンス側は、ボールを奪取するまでの仕事で、アタック側は決め事の確認。息子のチームでさえよくやっている練習だ。彼によれば、ディフェンス組に入ると「つまんないよ!」ということ。このゲームではディフェンス組がこのゲームまで無敗のレアルなのだ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:33 PM

『行きずりの街』阪本順治
梅本洋一

 志水辰夫の原作を読んでいないし、水谷豊主演で一度テレビドラマ化されたようだが、それも見ていない。何となくこの映画を見た。平日の午後の横浜ブルク13という新しいシネコンはガラガラだった。  見る者に少しずつしか物語のキーを与えない編集が続く。きっと複雑な話なのだろうと思う。田舎の病院で呼吸器を付けている老婆。見守る波多野(仲村トオル)。老婆の遠縁にあたる娘を東京へ探しに行く波多野。なぜ?  確かに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:21 AM

November 26, 2010

『The Depths』濱口竜介
結城秀勇

 濱口作品のトレードマークとなりつつあるモノレールの車窓を通じて、デジタルカメラが風景を切り取る。そのフレームはシネマスコープであるこの作品自体のフレームより小さい。ふたつのフレームに挟まれた中間領域はグレーに沈み、見られると同時に見なかったもの、カメラによって切り取られたと同時に切り取られなかったものにされる。あえていうまでもないが、濱口竜介の映画における登場人物の「深さ」とは現実感や奥行きの問...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:47 AM

November 22, 2010

『森崎書店の日々』日向朝子
梅本洋一

 片岡義男の新刊短編集『階段を駆け上がる』に収められた7篇の短編の中に『雨降りのミロンガ』という素敵な短編がある。地下鉄の神保町を出ると雨が降っていて、そこで主人公は20年ぶりの偶然ある女性に会う。その女性は、20年前「ミロンガ」のウェイトレスをしていて、主人公はそこの客だったという話だ。「ミロンガ」とか「ラドリオ」とか「さぼうる」とかを知っている人には、とても吸引力のある短編だ。ぜったいに神保町...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:05 AM

November 3, 2010

『ナイト&デイ』ジェームズ・マンゴールド
結城秀勇

 謎に満ちたエージェント・ロイ(トム・クルーズ)に連れ去られるようにして、ジューン(キャメロン・ディアス)は世界中を駆け巡る。カンザス、ブルックリン、南海の孤島、オーストリア、スペイン……。その移動の過程はほとんど描かれることなく、彼女の意識が薄れた後再び甦ることを意味する黒いスクリーンが、その距離を埋める。唯一映画だけが、その空間的な距離をなにも映らない映像によって代用することが出来る。ブラック...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:31 AM

October 28, 2010

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』瀬田なつき+『神々と男たち』グザヴィエ・ボーヴォワ@東京国際映画祭
結城秀勇

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』瀬田なつき。東京湾岸の光景、横たわる少女と彼女の生足、スクリーンのこちら側だけに向かって放たれる「嘘だけど」という台詞、宇宙の姿を映し出すスクリーンプロセス……。瀬田なつきの商業映画第一作はどこをどう切っても瀬田印が満載だ。 陰惨な過去の事件ーーそうではなかったこともあり得たのかもしれない過去ーーによってだけ結びつくひと組の少年少女。過去はなぜかいま唐突に現在を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 PM

October 27, 2010

『刑事ベラミー』クロード・シャブロル+『ゲスト』ホセ・ルイス・ゲリン@東京国際映画祭
結城秀勇

『刑事ベラミー』クロード・シャブロル。墓地とそこに流れる口笛。カメラがゆっくりとパンし始め、それがクレーンを使ったパンに切り替わって左回りにぐるりぐるりとこうべを巡らせていくと海へ。しかし最終的にカメラが指し示すのは美しい海の姿の方ではなくて、その縁の掛けしたに落ちた丸焦げの車と、そのすぐそばに転がる丸焦げの死体である。 この事件の発端を示すショットを映した後すぐに、そこから30km離れたベラミー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:51 AM

October 26, 2010

『そして、地に平和を』 マッテオ・ボトルーニョ、ダニエレ・コルッチーニ+『ハンズ・アップ!』ロマン・グーピル@東京国際映画祭
結城秀勇

ローマ郊外の低所得者層向け集合住宅を舞台とする『そして、地に平和を』は、ひとつの場所を描こうとする試みであるだろう。 長い刑務所生活から帰ってきたひとりの服役囚を観察者として、非常にフォトジェニックな大型の集合住宅の姿が切り取られる。ある共同体への帰還者の視点を通じて、高い建物に見下ろされる公園や広場や駐車場は、単に荒廃した地方都市の生活のドキュメントとなるのではなく、サーガ的な空間が立ち上がる場...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:12 AM

October 12, 2010

池部良追悼
梅本洋一

 池部良が亡くなった。享年92歳とのことで、大往生だ。  とりわけ最近になって、このハンサムな2枚目スターに興味を持っていた。かつて、この俳優が現役の時代──といっても、高倉健の傍らにいつもスッと立っている彼の図像ではなく、テレビを含めて、俳優・池部良が際立っていた、それ以前のことだ──、どうもこの俳優の演技が好きになれなかった。好きになれなかった、という表現は正しくない。この俳優の演技がうまいと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:27 PM

September 28, 2010

『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』瀬田なつき
梅本洋一

 かつて、『女は女である』でジャン=クロード・ブリアリとアンナ・カリーナが住むアパルトマンには自転車が置いてあった。かつて、母娘に扮した桜田淳子と田畑智子は、相米慎二の『お引越し』で乗る電車の中で「ある日、森の中……」とクマさんの歌を唄った。黒沢清の『回路』でしばしば映るビルの屋上からは、東京の「意気地なしの風景」が映り込んでいた。映画には、そうした無数の「かつて」がある。映画的な記憶と呼ばれたこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:54 PM

September 22, 2010

『黄色い家の記憶』ジョアン・セーザル・モンテイロ
結城秀勇

 モンテイロの映画を見るといつも、演奏(ダンス)、酒宴、犬の3つが出てきて、なぜかはまったくわからないが、そのどれかでも画面に映し出されると反射的に心躍る。 「幼い頃、私たちは刑務所を「黄色い家」と呼んでいた」というインポーズからこの映画は始まる。黄色い家がこの映画の終盤に出てくる精神病院を意味しているのか、あるいはもっと他のものなのかはわからない。だがモンテイロ扮するジョアン・デ・デウスが住ん...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:24 AM

September 21, 2010

10-11プレミアリーグ サンダーランド対アーセナル 1-1
梅本洋一

 チャンピオンズリーグの緒戦でブラガに6-0で大勝した2日後の対サンダーランドのアウェイゲーム。ブラガ戦がロンドンだったとはいえ、わずか2日後のゲームで、疲労が蓄積している様子はゲームを見ていても手に取るように分かる。ボールへの寄りが遅いし、パススピードも落ちている。アーセナルようなチームは疲労が溜まっていると好ゲームはできない。そんなことはどのチームも同じさ、と言われるだろうが、そうではない。あ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:46 PM

『ZERO NOIR』伊藤丈紘
高木佑介

 映画の可能性が不意に大きく刷新されてしまった瞬間、あるいはまさにいまそれが刷新されようとしている瞬間に立ち会うとはこういうことなのだろうか。こう言うと大袈裟に聞こえるかもしれないが、この映画にはとにかく打ちのめされた。何から書けばいいかわからないけれど、とりあえず何か書き始めることにしたい。  冒頭、モノクロの戦争記録映像がモンタージュされたあと、アイリスの効いた画面からこの映画は始まる。クリス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:19 PM

September 13, 2010

クロード・シャブロル追悼
梅本洋一

 9月12日にクロード・シャブロルが亡くなった。リベラシオン紙は、「フランスは、自らの鏡を失った」(オリヴィエ・セギュレ)と書き、レザンロキュップティーブルのサイトも「フランスは、その最良の肖像画家を失った」と書いている。自らが属するブルジョワジーへの表裏一体になった愛着と嫌悪が彼の作品の多くには噎せ返っていたし、『美しきセルジュ』以降、70本ほどになる数多い作品で、彼が描き続けたフランスの地方の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:52 PM

August 14, 2010

『ソルト』フィリップ・ノイス
結城秀勇

 東西冷戦の落とし子として、数十年間という時間をかけてアメリカ人になりすましCIAに潜入したロシア人女スパイ。そのシンプルかつ典型的な設定にもかかわらず『ソルト』のストーリーには、どこかタガの外れた部分がある。ロシア人大統領を暗殺し、その報復に見せかけてアメリカの大統領を殺し、中東を巻き込んで世界規模の核戦争を引き起こす、などというどこの国家の利益にもならない陰謀自体がそうなのだが、それを食い止め...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:41 PM

July 23, 2010

スポポリリズムvol.12 プレ録音映画祭
渡辺進也

 今回の録音映画祭にも縁がある、『SR サイタマノラッパー』の音楽のP.O.P ORCHeSTRA(「1」「2」に出演のSHO-GUNGやB-huckも姿を現す)、『ライブテープ』の前野健太とDAVID BOWIEたちのライブが(映画をなぞるように『天気予報』から『東京の空』へと。ステージ上で暴れてた。)が終わると、暗くなったステージ上で厳かにセッティングが始まる。  真ん中に簡易的なスクリーンが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:08 AM

July 17, 2010

『クレイジー・ハート』スコット・クーパー
梅本洋一

 落ちぶれたカントリー&ウェスタンの歌手の巡業、そして人生の最後の輝きと再生──ありふれた物語だろう。もちろんこのフィルムを見に行ったのは、このフィルムで主演してオスカー主演男優賞を獲得したジェフ・ブリッジズのことを俳優として大好きだという理由もあるけれども、このフィルムを監督したスコット・クーパーのインタヴューを読んだからでもあった。  今年40歳になるスコット・クーパーにとってこのフィルムが初...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 AM

July 7, 2010

『あの夏の子供たち』ミア・ハンセン=ラブ
松井宏

 処女長編『すべてが許される』に引き続いて、自殺する男を仮の中心に据えたミア・ハンセン=ラブの長編第2作目は、やはり前作と同じく「どのように不幸を描くか」ではなく「どのように幸福を描くか」をまずもって問題にする作品だった。弱冠30歳のこの女性監督は、たぶん不幸を描くための前段として幸福を描いておこうなんて、そんなチャチなことは考えていない。幸福は否定されない。幸福はこの作品のルールそのものだ。だか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:57 PM

June 24, 2010

『アイアンマン2』ジョン・ファヴロー
結城秀勇

 テレンス・ハワードが降板した時点で、このシリーズ続編には正直あまり期待していなかった。スカーレット・ヨハンソンの起用が大々的に宣伝され、先日公開されていた『シャーロック・ホームズ』ではロバート・ダウニーJr.の演技がほとんどトニー・スタークに見え、完全にブロックバスター的な大作にシフトしたのだろうと思っていたのだ。前作のダウニー Jr.、グウィネス・パルトロウ、テレンス・ハワード、ジェフ・ブリッ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:41 PM

June 19, 2010

『アウトレイジ』北野武
結城秀勇

 ビートたけしがいつもとちょっと違うな、と見ていて感じた。なんだかあまりこわくないのだ。『アキレスと亀』のような作品の彼と比べてさえ。しばらくしてその理由がわかった。普通にしゃべったり怒鳴ったりしてるからだ、と。彼に限らず、椎名桔平も北村総一朗も杉本哲太も三浦友和でさえもが、「ばかやろう」「なめんじゃねえ」とほとんど無内容な暴言(?)を吐き散らす。まるで掛け合いのように繰り返されるそのやりとりは、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:01 AM

June 18, 2010

『夜光』桝井孝則
松井宏

桝井孝則監督の2009年作品『夜光』。その51分のなかでは、ある風通しの良さ、というか解放感のようなものが本当に強く感じられる。そして見るたびごとに、この印象は増すばかりだ。その理由を考えてみた。そしてこう言ってみようと思った。つまり、まさしく「無垢」こそをこの作品が提示しようと試みているからだ、と。  けれど無垢とは何だろう。それは生まれつき与えられたお気楽なものでもないし、単純さや素朴さでもな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:22 PM

June 15, 2010

『テト』後閑広
田中竜輔

 このフィルムが私たちに明瞭に提示してくれる最初のことは、水に濡れたパラシュートはとても重い、というごく単純な事柄である。何らかの理由でパラシュートによる降下訓練に臨まされた国家諜報員見習「テト」が、沼地に足を取られつつ着水したその場所から陸地までそれを引き摺る冒頭のシークエンスから、私たちはその大きな布の重みを見てとることができる。そんなものを実際に引き摺った経験など誰にでもあるわけはないという...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:23 AM

June 12, 2010

『やくたたず』三宅唱
渡辺進也

 ざらついたモノクロの画面の中、背後にうっすらと雪がとけ残るあぜ道を、学生服を着た3人の少年が歩いていく。言葉を交わすわけでもなく、並んで歩くわけでもなく、思い思いの表情で歩いていく。しかし、それまで3人に寄り添うようにあった画面は、少しずつ彼らを置いてけぼりするようにスピードを持って離れていく。彼らはそれに遅れをとるまいと早足で、そして全力で走り始めるが、画面は彼らを置いてけぼりにする。画面に追...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:57 AM

『やくたたず』三宅唱
松井宏

 冬。北海道。卒業間近の高校生3人。ガンちゃん、タニくん、テツヲ。彼らは、先輩イタミが働く会社で研修めいたバイトをはじめる。先輩の他に社長と、その愛人だか妻だか、はたまだ何だかよくわからないような女性社員キョウコからなる、小さな会社。また社長には息子ジローちゃんがいるが、彼は刑事だ。  そんな三宅唱監督の処女長編『やくたたず』を見ると、何はともあれ役者たちの顔と振る舞いが、とても良いのだ。何を阿呆...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:34 AM

June 1, 2010

『あの夏の子供たち』ミア・ハンセン=ラブ
梅本洋一

 このフィルムの物語について記すと、インディーズ系の映画プロデューサーの自殺とそれ以後の家族の物語ということになる。ミア・ハンセン=ラブの長編第2作にあたるこのフィルムは、彼女の処女作のプロデューサーになるはずだったアンベール・バルサンが突然自死を選んだことから想起されたという。確かにアンベール・バルサンの自殺というのは大事件でもあったけれども、このフィルムに描かれているのは、今世紀の映画が背負わ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:02 AM

May 31, 2010

『ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実』ピーター・デイヴィス
高木佑介

 アフガンやイラク戦争を経てきたいわゆる9.11以降のアメリカで、再び注目を集めているというヴェトナム戦争を巡ったドキュメンタリー作品がここ日本でも公開される。政府高官やヴェトナム帰還兵たちの証言がニュース・フィルム映像を交えながら映し出されていくこの作品が製作された期間は1972年から2年間――つまりナム戦の終結前夜、アメリカが“名誉ある撤退”に奔走していたとき――である。ということは、すでにこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:54 AM

May 28, 2010

『音の城 音の海 SOUND to MUSIC』服部智行
田中竜輔

 知的障害を有した人々と音楽家・音楽療法家たちが未知の音楽を求めて即興演奏を行うワークショップ「音遊びの会」、そこを初めて訪れた際に大友良英氏が発言していた、「「空調の音」を「音楽」として聴くことができるかどうか」という問いかけは、オーケストラの演奏や3分間のポップスを「音楽」として聴くことができるかという問いと、本質的には同じことであり、とどのつまりそれは「音楽とは何か」という根源的な問いへと通...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:03 PM

May 18, 2010

『トラッシュ・ハンパーズ』ハーモニー・コリン
菅江美津穂

 ハーモニー・コリンの新作。『ミスター・ロンリー』で見た「逃亡から対話」をハーモニー・コリンは新しい形で表現してくれたように思う。  この映画は「80 年代に誰かが撮影して、そのまま捨て去られていたホームビデオ」というコンセプトで作られた作品である。その内容とは3人の老人がゴミ箱に対して腰を振り続け、子どもが刃物を持ち振り回す……というその破壊的な行為は枚挙に暇がない程である。主人公たちはそれぞれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:52 PM

May 13, 2010

『勝利を』マルコ・ベロッキオ
田中竜輔

 この驚嘆すべき傑作『勝利を』を目にしてから随分と日が経ってしまったが、いまだその衝撃から逃れられていない。今すぐにでももう一度スクリーンでこのフィルムを見直してみたい欲求に駆られている。このフィルムについての熱狂は様々なblogやTwitter上で目撃したが、その熱狂がこのフィルムの公開へと繋がることを願ってやまない。  少なからぬ人々がベニート・ムッソリーニの愛人のひとりイーダ・ダルセル=ジョ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:23 AM

May 11, 2010

『シャッターアイランド』マーティン・スコセッシ
梅本洋一

 もちろん思い出してみれば『アリスの恋』のハーヴェイ・カイテルや『タクシー・ドライバー』のロバート・デニーロもそうだったのだが、マーティン・スコセッシのフィルムにおける男性主人公のパラノイアは、どこから来るのだろう。レオナルド・ディカプリオが、スコセッシ映画の主人公に迎えられてからも、彼は常にパラノイアを生きているように感じられる。「感じられる」どころではない。たとえば、『シャッターアイランド』で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:23 AM

April 25, 2010

『脱獄囚』鈴木英夫
結城秀勇

 窓辺に立った人間の太ももから上がまるまる見えてしまうような、高さ150cmはあるだろう大きな窓が、正面にみっつ並んだ住宅。小川一夫の手によるこのセットによって、練馬区にあり、近所にプールや市場があるらしい、池部良と草笛光子の平凡な家庭は、どこか現実感をはぎ取られたような空間になる。自分を捕まえた刑事への恨みからその妻の命を狙う脱獄囚による監視と、その監視に気づきながらも囮として開け広げられた窓...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:39 AM

April 19, 2010

『死に至る愛』アラン・レネ
結城秀勇

 タイトルには『死に至る愛』の名を挙げたが、この文章は東京日仏学院とユーロスペースの特集「アラン・レネ全作上映」を終えて、思いついたことをとりとめもなく書き記す。この作品と前年の『人生は小説なり』は、レネの複雑怪奇なフィルモグラフィに道筋を与える手がかりとなるような気がしている(あるいは『アメリカの叔父さん』を含んだジャン・グリュオーとの3本の共同作だろうか)のだが、考えがまとまっていない。  こ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:41 AM

April 18, 2010

『息もできない』ヤン・イクチュン
梅本洋一

 このフィルムについて侯孝賢は、まるでゴダールの『勝手にしやがれ』が出てきたときと同じだ、と言っている。このフィルムの英語タイトルが « Breathless »という『勝手にしやがれ』の英語タイトルと同じことから来る発想だろうが、それだけではない。そこに何かが生まれるときに必ず感じられる同質の強度を感じるからだ。同質の強度と書いたが、『勝手にしやがれ』と『息もできない』は異なる。『勝手にしやがれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:08 PM

April 16, 2010

『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグロー
結城秀勇

 『ハート・ロッカー』を見ていると、爆発物処理班とは爆発物を爆発させない人なのではなくて、むしろ積極的に爆発の契機になる人なのではないかと思ってしまう。無論、はじめに先任の班長が行う選択のように、適切に爆発させることは爆発物処理の一環ではあるのだが、なぜだかこの映画の中の爆発は「爆発させてしまった」とでもいうようなやましさに満ちている。130分ほどの映画で、4回も5回も沸き立つ噴煙と爆発音を耳にす...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:32 AM

April 7, 2010

チャンピオンズリーグ09-10 準々決勝2nd Leg
バルセロナ対アーセナル 4-1
梅本洋一

 メッシの4得点! ぼくらアーセナルのサポーターにとっては、溜息しか出ないゲームだった。単なるラッキーで2-2のドローだったロンドンの1st Legから判っていたことだが、今のバルサとアーセナルには、この2nd Leg程度の差があるということだ。このゲームでは切れ切れメッシの素晴らしさについては、誰もが語るだろう。このゲームでメッシの両側にいるペドロやボージャンとはやはりモノが違う。  それよりも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:50 PM

April 1, 2010

『シャーロック・ホームズ』ガイ・リッチー
結城秀勇

 魔術と科学の対立という構図に持ち込んだ時点で、原作に忠実な映画化はあり得ない。もともとガイ・リッチーがそんなものを目指していないのは、同性愛的な匂いすら感じさせるホームズとワトソンの関係、頭脳というより肉体的な情報処理能力を示すホームズ、という点からも明らかであるが、結果としてそれがなにに似てくるかと言えば『ダヴィンチ・コード』のような過剰な情報の横溢によってのみ展開する類のアクション映画だ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:49 PM

March 21, 2010

『風にそよぐ草』アラン・レネ
梅本洋一

 かなり前からクリスティアン・ガイイのファンだったぼくはこのフィルムを心待ちにしていた。アラン・レネとクリスティアン・ガイイの遭遇。そして何よりも、その遭遇を望んだのはレネだった。レネがやるこの種の遭遇はいつも重要だ。最初は、たとえばマルグリット・デュラスとの遭遇、もちろん『ヒロシマ、モナムール』だ。そしてアラン・ロブ=グリエとの遭遇、『去年マリエンバードで』。いちいち挙げることはしないけれど、ア...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 PM

March 19, 2010

『愚か者は誰だ』渡辺裕子
高木佑介

 30分という尺に留めておくには惜しいほどに贅沢な短篇だった『テクニカラー』(船曳真珠)と並び、今年の「桃まつり」の中でもとりわけてクオリティの高い作品に仕上がっているこの『愚か者は誰だ』。渡辺裕子が脚本を担当した濱口竜介の新作『永遠に君を愛す』(09)も男女が向かえる修羅場とその極端なタイトルが印象的だったが、あるいは彼女が持つ「色」のようなものがあるのだろうか、やはり今作でもひとりの女の不貞を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:35 PM

March 17, 2010

『あの夏の子供たち』ミア・ハンセン=ラブ
結城秀勇

 ジョナサン・リッチマンの「エジプシャン・レゲエ」が流れる中、矢継ぎ早にパリの街角の映像が継ぎ接ぎされ、その上に色とりどりのクレジットが重ねられる。「エジプシャン」と「レゲエ」の突飛な組み合わせからなる曲名からも想像できるそのままの、どこかすっとぼけたようなエキゾチシズムが断片的なパリを積み上げていく。ホテルの入り口から姿を現した男が、これまた非常に短いショットの連なりの中で続ける携帯電話越しの会...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:27 PM

March 10, 2010

『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグロー
鈴木淳哉

 私は「戦争」に反応できない。なにか考えても、思うところがあっても、それらは戦争経験のない身にとって、反応からはるかに遅れた、それとは別のある振る舞いとしかならない。「振舞う」こと自体すらも何らかの倫理基準に抵触するのではないかと思い、縮こまるのである。だから、映画の冒頭で、「戦争は麻薬だ」という提言がなされても、「戦争」とも「麻薬」とも縁遠い身としては、どういう意味か考えてしまい、また「反応」は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:17 PM

February 24, 2010

『The Anchorage 投錨地』C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム
結城秀勇

 セルジュ・ダネーは、「目のための墓場」と題されたストローブとユイレの映画についての文章で、次のように述べている。「映画を、映像を、声を、投錨するということ、それは映画の不均質性を真剣に受けとめることである。また、そういった投錨、つまりひとつの映像にとって、他の場所ではなくそこでしか可能ではなかったという事実、それは単に言葉と声の問題だけではない。それはまた身体の問題でもある」(「カイエ・デュ・シ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:41 AM

February 22, 2010

『リミッツ・オブ・コントロール』ジム・ジャームッシュ
結城秀勇

 吉祥寺バウスシアターで行われている「爆音ナイト傑作選2009」にて。  爆音上映ということで当然期待していたのは、BORISのサウンドトラックでもあるのだが、冒頭イザック・ド・バンコレとアレックス・デスカスとジャン=フランソワ・ステヴナンの3人の対話で、予期していなかった音の位相のありように気づく。アレックス・デスカスの言葉を英語に翻訳して反復するステヴナン。そこでセンターから聞こえてくる彼らの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:57 AM

February 17, 2010

『抱擁のかけら』ペドロ・アルモドバル
梅本洋一

 アルモドバルはもう完全に「巨匠」だ。彼の監督歴もすでに40年近く、そして年齢も還暦に達している。諦念と達観、そしてメランコリー。失った恋と眼差し、家族、そして職業としての映画。ほとんどアルフレッド・ヒッチコックのようなタッチで恋愛を描き、なんとかロッセリーニの『イタリア旅行』のような透明な単純さに到達しようとする倒錯的な欲望。ペドロ・アルモドバルのこのフィルムは、そうした混濁と透明の中間地帯を浮...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:27 PM

February 15, 2010

『(500)日のサマー』マーク・ウェブ
結城秀勇

 「彼女のキスで俺は生まれ、彼女が去って俺は死んだ。彼女が愛した数週間だけ、俺は生きた」。そんなセリフを『孤独な場所で』のハンフリー・ボガートは脚本の中に挿入したが、主人公トムにとっての500日間が意味するのもひとつの「生」のサイクルだろう。いや、「生」というほどハードボイルドなものではとてもないので、タイトルどおり、ひとつの季節を彼は通過する、というくらいにしておくのが適切か。渡辺進也はこの映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:08 PM

February 13, 2010

『まだ楽園』佐向大
結城秀勇

 曖昧で矛盾したやりとりは、対話をどこへも導かないまま、その量を増加させていく。前進しているのにどこへも行かない、月並みだけれど見たことのない風景がどこまでも広がっていく。そうした世界を名付けるとすれば、その公開から4年を経たいまでも、やはり“まだ”楽園なのだと呼ぶほかない。  この映画を初めて見た2004年の初夏から、何度か繰り返しこの映画について書いてきた。この作品に捉えられた私たちを取り巻く...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:36 PM

February 1, 2010

『サロゲート』ジョナサン・モストウ
結城秀勇

「ターミネーター」シリーズを3でキャメロンから引き継いだジョナサン・モストウ。日本では奇しくもキャメロン12年振りの劇場長編と同じタイミングで、モストウの新作『サロゲート』が公開されている。偶然にしては出来過ぎなほど、キャメロン『アバター』とモストウ『サロゲート』は比較対象としてうまい対になっている。  どちらの作品も、生身の人間が異なった外見の人工物に乗り込み、人工物の体験を生身のものとして感...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:37 PM

January 30, 2010

『永遠に君を愛す』濱口竜介
結城秀勇

 ああしておくべきった、あるいは、ああすべきではなかったという、日常私たちが無批判に繰り返す些細な誤った振る舞いを、濱口竜介の作品は上映時間いっぱいをかけて極限まで高めていく。結婚式の3ヶ月前にあった浮気を些細なこととみなすかどうかは意見の分かれるところだろう。というか、『永遠に君を愛す』の登場人物は誰ひとりとして些細なことだとは認識しない。だがここであえて些細な過ちと呼ぶのは、結婚式3ヶ月前の浮...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:22 AM

January 26, 2010

『夜光』桝井孝則
梅本洋一

 「未来の巨匠たち」特集上映の枠で、桝井孝則の『夜光』を見た。プログラミングに携わるひとりなのに、初めて見たと告白する無責任さを許して欲しい。関西に住む彼の作品に触れる機会がなかったと言い訳するのも、DV撮影されているのに、ディジタル時代のアナログメディアである映画がなかなか距離を踏破しづらいことを示しているのかも知れない。  海老根剛の文章はこのフィルムにはうってつけのイントロダクションになるだ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:50 PM

January 23, 2010

『オルエットの方へ』ジャック・ロジエ
結城秀勇

 職場では偉そうにしているが好きな部下の女の子には頭が上がらない男が、偶然を装ってヴァカンスにその女の子とその女友達ふたりと、大西洋岸のとある海辺の町で2週間ばかりの夏の日々を過ごす。  この映画のなにが素晴らしいかを一言で言えば、2時間半あまりあるこの映画のほとんどの時間で女の子たちがバカみたいに笑ってきゃあきゃあ言っているだけということだ。木靴を履いて踊ってはきゃあきゃあ言い、エクレア食っては...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:16 PM

January 21, 2010

『インビクタス 負けざる者たち』クリント・イーストウッド
結城秀勇

 モーガン・フリーマン演じるネルソン・マンデラは、民族融和のための象徴的なイベントとして1995年のラグビー・ワールドカップを位置づける。その成功のために彼は、南アフリカ共和国代表チーム・スプリングボクスのキャプテン、マット・デイモン演じるフランソワ・ピナールとの面会を行う。ふたりは互いに自分の立場を重ね合わせるかのようにして、実現不可能に見える目標に向かって人々を指導(リード)していくことについ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:59 PM

January 15, 2010

『怒る西行 これで、いーのかしら。(井の頭)』沖島勲
田中竜輔

 誰の目にも明らかなように、竹中直人の代表芸である「笑いながら怒る人」とは、「笑い/怒り」という感情を、「顔」と「声」によるたったふたつのイメージによって分断する芸である。つまりこの芸が成立するためには、このふたつの感情がそれぞれまったく別の次元に属するイメージであると、そう認めなければならないのだ。しかし「笑い」と「怒り」の境界など本当に存在するのだろうか。もしもそんなものがあるとしても、それは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:43 PM

January 14, 2010

『蘇りの血』豊田利晃
結城秀勇

「手に職を持ってますから、どうとでも生きていけます」と按摩のオグリは言う。この映画のなかで名指しされる具体的な職業は「按摩」と「薬屋」だけだ。その貴重な職の中でも、「手」で行う仕事は按摩だけなのだから彼は極めて特権的な職業に就いていると言えるだろう。ヒエラルキーの頂点にいると思われる「大王」でさえもが病に苦しむこの社会で、あらゆる経済活動は健康を通じて行われる。そしてこの「健康」は、「死」の対義...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:07 PM

January 7, 2010

『ジュリー&ジュリア』ノーラ・エフロン
結城秀勇

 自宅のキッチンがスミソニアン博物館に展示されているというほどの、アメリカでのジュリア・チャイルドの人気のほどはあずかり知らないが、とにかく料理と恋愛の共有部分を描いた佳作だと思う。正直なところ、美味しそうな料理が出てくる映画はそれだけでいつも高評価を与えてしまっている気もする……。  パリを訪れたジュリアが初めて食べる平目のムニエルから、彼女の料理レシピを制覇しようと試みるジュリーが最後の難関と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:29 PM

January 6, 2010

『マイケル・ジャクソンTHIS IS IT』ケニー・オルテガ
結城秀勇

 憧れの舞台に立つために世界中から集まり、見事オーディションを勝ち抜いたダンサーたちのインタヴューを見て、ハーモニー・コリンの『ミスター・ロンリー』を思い出してしまう。ずっと夢だった、マイケルのためならなんだってする、口々にそう語り、あるいは感極まって泣き出しすらする彼らは、もちろん国籍も人種も年齢も性別もスタイルも様々なのだが、なぜかふとした瞬間、口調や呼吸が『ミスター・ロンリー』のディエゴ・ル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:47 PM

December 29, 2009

『アバター』ジェームズ・キャメロン
結城秀勇

 非3D上映にて。  脊椎の損傷によって下半身不随になっているサム・ワーシントンに、上司である大佐が「任務に成功すれば足を与えよう」と言うとき、問題になっているのは大地に接するふたつの足ではなくて、その間にあるもう一本の足であることは明らかだ。車椅子に乗ったサム・ワーシントンには、アクションの欠如によるフラストレーションは感じられない。それよりもむしろ、苦み走ってなにかを思い詰めたようなワーシント...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:26 PM

December 24, 2009

『明日が、あなたの日々の最高の一日になりますように。なぜなら、あなたの最後のであるから』ベン・リヴァース
結城秀勇

 渋谷イメージフォーラムで行われた「Imaginary Riverside」と題された上映会で、ベン・リヴァースの作品群を初めて目にし、衝撃を受ける。ロッテルダム映画祭のタイガーアワードに2年連続ノミネート、そして同賞を受賞と、世界ではまさに評価の固まりつつある作家であるだけに、こうした機会に発見できたのはとても良かった。  彼の作品を薦めてくれた中原昌也さんも言っていたことだが、とにかく音の処理...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:17 PM

December 10, 2009

『パンドラの匣』冨永昌敬
安田和高

1945年~1946年。といえば、体制が大きく変化し、日本社会が少なからず混乱していた時期であろう。ところが『パンドラの匣』は、1945年~1946年にかけての物語でありながら、そのような混乱とはほとんど無縁である。まるで戦禍を逃れるかのように、混乱した社会を避け、結核を患った主人公は山奥の療養所へと“疎開”していく。そこでは戦後のドタバタなど、どこ吹く風。時間はゆったりと流れていく。そう。これは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:27 PM

December 3, 2009

『動くな、死ね、甦れ!』ヴィターリー・カネフスキー
結城秀勇

 開催中の特集上映にはなかなか駆けつけることができず、気づけば他の2本(『ひとりで生きる』『20世紀の子供たち』)の上映は終了してしまっていたが、なにはともあれ『動くな、死ね、甦れ!』だけでも見直しておこうとユーロスペースへ。レイトショーだがほぼ満員。  かつての記憶の中では、とにかく靴にまとわりつくぬかるみがひどく心に焼き付いていた。それは見直したいまでもそうだが、まとわりつくぬかるみの質こそが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:50 PM

December 1, 2009

アーセナル対チェルシー 0-3
梅本洋一

 やはりチェルシーは強い。ファン・ペルシの怪我が靱帯の断裂という大きなものであることはアーセナルに大きくのしかかっている。セスクを中心に、ナスリ、アルシャヴィン、ソング、デニウソンをいう中盤は、さすがにボールがよく回り、一見、中盤をほぼ押さえているかに見えるのだが、エドゥアルドのワントップだとボールが収まらない。サニャ、トラオレの両サイドまで含めて、何度もバイタルエリアまで侵入するのだが、チェルシ...全文を読む ≫

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November 27, 2009

『2012』ローランド・エメリッヒ
結城秀勇

 この作品を見るために新宿ピカデリーへ向かう。MUJIの前の階段を上り3階のチケット売り場へあがるエスカレーターがある踊り場には、もう一台別のエスカレーターがある。プラチナルーム及びプラチナシートの利用客だけが使う専用入り口である。その入り口を使わない客は3階のチケット売り場に並ぶ。 『2012』の世界の終末は、それとまったく同じ仕組みでやってくる。そこではまずプラチナシートを買う必要があるのだ...全文を読む ≫

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November 17, 2009

『ロト』/『MUGEN』甲斐田祐輔
松井宏

2009年において1971年生れの監督の過去2作品がひょっこり公開されるのは、やはり珍しい出来事だろう。しかも中編2本。そう『ロト』と『MUGEN』は2007年『砂の影』と2002年『すべては夜から生まれる』の長編たちの間に、それぞれ作られた。 16ミリでデビューを飾り、最新作『砂の影』では、キャメラマンたむらまさきと一緒に何と8ミリで撮影を行った甲斐田祐輔。そんな「時代錯誤」的な監督が、ついに初...全文を読む ≫

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November 9, 2009

『アバンチュールはパリで』ホン・サンス
梅本洋一

 正直に書く。ホン・サンスのフィルムを見たのはこの作品が初めてだ。天の邪鬼なのか、韓流映画の流行が嫌で韓国映画というだけで素通りしていた。もちろんホン・サンスが、韓流に収まらないことは知識として知っていたが、知っていただけではどうしようもない。反省も込めて行動に移した。  そして『アバンチュールはパリで』を見た。すごいフィルムだと思った。以下、その理由を述べる。  まず、驚いたのが、ロケ地がパリと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:54 AM

October 23, 2009

10/23
渡辺進也

映画祭ももう佳境。残すも3日となった。 数日前には人気の多かったプレスセンターの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:34 AM

October 21, 2009

10/21
結城秀勇

本日は渡辺に代わり私結城が。10/21は、今年の東京国際映画祭に一日だけ来るなら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:25 PM

October 19, 2009

10/19
渡辺進也

三日目。 当初見る予定の映画がチケットをとれず断念。時間が合う映画を仕方なく見に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:49 PM

『ヴィヨンの妻──桜桃とタンポポ』根岸吉太郎
梅本洋一

 もし根岸吉太郎にスタジオという背景があったなら、このフィルムはかなりの傑作になったのではないか。田中陽造のシナリオも太宰のテクストを活かし、松たか子をはじめとする俳優たちもよい。演出のテンポも揺らぎがなく、見事に収まっている。  つまり、このフィルムはかなり良好な作品に仕上がっていることは認めよう。しかし、もしこのフィルムが同様のシナリオで同じ俳優たちで今から50年前に撮影されたとしたら、素晴ら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 PM

October 18, 2009

『RAIN』堂本剛
黒岩幹子

堂本剛という人が作る音楽には、単なるアイドルの余暇活動として切り捨てられないものを感じる。そのナルシスティックな言動やファッション、「自分探し」の一貫として書かれたような歌詞、あるいは「剛紫」(前作のアーティスト名義)といったネーミングセンスなど、凡人の私には受け入れがたい部分を持った人ではあるのだが、彼の音楽には何か考えさせられるものがある。近田春夫は以前、彼が前シングル曲の「空~美しい我の空」...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:36 AM

October 17, 2009

10/17
渡辺進也

 仕事を終えて六本木の夜へ。  第22回目を迎える東京国際映画祭は今日開幕。ホセ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:40 PM

October 15, 2009

『The World』牧野貴+ジム・オルーク
田中竜輔

 釘なのか有針鉄線なのか、その形状の有する鋭角なイメージをスピーディーに旋回させる『EVE』、テープリールがそこら中で回転するスタジオとその中を走り回る男を部屋の中心近くに置かれたキャメラがぐるりとおよそ360度回転して捉える短い映像が、ループしながら重なり合い色合いを変えることでマーブル状の色彩を獲得していくジム・オルークの『Not yet』は、映像というものが、そして音が、まぎれもない「物質」...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:21 AM

2009年10月14日

最終日
結城秀勇

もう最終日である。 原將人『マテリアル&メモリーズ』8mm三面マルチライヴを前半...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 03:52

『無印ニッポン──20世紀消費社会の終焉』堤清二、三浦展
梅本洋一

 辻井喬名義の小説は読んでいないけれども、セゾン・グループの総帥を退任してからの堤清二の発言は本当に興味深い。前に上野千鶴子との対談本を採り上げたことがあるが、今回は、『下流社会』の三浦展だ。上野も三浦もパルコ出身といってもいいから、当時は「天上人」(三浦の表現)だったにせよ、セゾン・グループは、確かに多くの人材を輩出している(もちろん居なくなっちゃった人もたくさんいるけど)。  三浦展が書いたこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:09 AM

October 8, 2009

『リミッツ・オブ・コントロール』ジム・ジャームッシュ
安田和高

 ティルダ・スウィントン、工藤夕貴、ジョン・ハート……と、じつに世界各国さまざまな俳優が登場する『リミッツ・オブ・コントロール』は、しかしけっきょくのところサングラスをかけていない者同士——つまりイザック・ド・バンコレと、ビル・マーレイ——の一騎打ちの物語である。ほとんどの登場人物がサングラスをかけているなか、そのふたりは透明な目で世界を捉えている。宇宙には——と、劇中で工藤夕貴は言うのだが——“...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:52 PM

September 29, 2009

『空気人形』是枝裕和
結城秀勇

「私は空気人形」と彼女は言うけれど、ペ・ドゥナの美しさは存在感の希薄さや空虚感を連想させるようなものではない。それよりはむしろ、ダッチワイフとしての彼女が動き出して初めて触れる、物干し竿から垂れる水滴のような美しさだと思う。表面張力で凝結して、周りの風景をきらきらと反射して、わずかな風にふるふると震える。登校途中の女の子から「いってきまーす」という挨拶を学び、富司純子の「ご苦労様」という挨拶に腰...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:59 PM

September 25, 2009

『クリーン』オリヴィエ・アサイヤス
結城秀勇

 No home, no money, no job. 出所したマギー・チャンがニック・ノルティに子供に会うことを避けてほしいと告げられる場面で、確か彼女は自らの母親としてのダメさ加減をそんなふうに形容していたのだった。その言葉通り、この映画全体を通して彼女の住処はまったくと言っていいほど描写されることがない。「思い出のあり過ぎる」ロンドンのアパートはおろか、物語の起点となるモーテルを離れて以降に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:56 PM

September 15, 2009

『The Anchorage』C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム
松井宏

『The Anchorage』は、何よりもまず映像を「anchor=定着」させる。共同監督のひとりであり、キャメラを廻すアンダース・エドストロームは、そもそも写真家だ。スティルをつねにフィルム撮影する彼にとって、映像とは現像なしには存在し得ない。この作品がフェード・インで始まる理由もその点にある。現像液に浸された印画紙と同じく、ここでの映像は徐々に暗闇から浮かび上がり、そして現像=定着させられる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:25 AM

September 11, 2009

一丁倫敦と丸の内スタイル展@三菱一号館美術館
梅本洋一

 復元された三菱一号館と竣工記念として開催されている「一丁倫敦と丸の内スタイル」展を見た。  コンドル設計の三菱一号館は、丸の内が100フィートの高さに設定され、モダニズムのオフィスビルが建ち並んだ後も、1968年までこの場所に残っていた。「一丁倫敦」という呼称の名残のように、周囲との不調和のままここにあった。ぼくもかすかに覚えている。もちろん中に入ったことはなかった。復元され美術館として誕生した...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:26 PM

September 9, 2009

『リプリー 暴かれた贋作』ロジャー・スポティスウッド
結城秀勇

『太陽がいっぱい』、『アメリカの友人』をはじめとして、それぞれ複数回映画化されているパトリシア・ハイスミスのリプリー・シリーズ中のThe Talented Mr. RipleyとRipley's Gameだが、なぜかその間に挟まるRipley Undergroundは映画化されていなかった。『トゥモロー・ネバー・ダイ』のロジャー・スポティスウッド監督によって2005年に撮影された本作はdvdスル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:01 PM

September 4, 2009

ケンチク+ XXX 『 Dialogue and Studies in XXX , 2009 Tokyo 』15人の建築家と15人の表現者による対話実験@ワタリウム美術館 第一回 長坂常×植原亮輔+渡邊良重[D-BROS]
結城秀勇

 このサイト、およびnobody本誌でも時折ご寄稿いただく藤原徹平さんが企画・コーディネートをつとめる15回の対話。その第一回は、書籍『B面からA面にかわるとき』が先日発売された長坂常と、D-BROSにてデザインを担当する植原亮輔と渡邊良重のふたりという組み合わせ。毎回、その両者がそれぞれにプレゼンを行った上で、その後に質問や意見を交換し合うというスタイルになっているようだ。  プレゼンはD-BR...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:40 AM

August 27, 2009

Aimee Mann JAPAN 2009 @ SHIBUYA-AX
宮一紀

 4年ぶりとなるエイミー・マン単独来日ツアーの東京公演が8月25日に行われた。前回のツアーは恵比寿リキッドでのバンド編成だったそうだが、今回は3人による変則的なアコースティック。ほとんどがスタンディングのフロアで、7,500円というやや強気な価格設定。何となく開始前からイベントのオーガナイズに対して不信感が募る。とはいえ当日はけっこうコアなエイミー・ファンが集まって、イントロでは即座に大きな歓声が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:02 AM

August 6, 2009

『ボルト』バイロン・ハワード、クリス・ウィリアムズ
結城秀勇

『魔法にかけられて』に引き続きまたしてもディズニーは、入れ子状の、ファンタジーの生成についての自己言及的な作品を製作している。そしてこの『ボルト』も『魔法にかけられて』と同様に、その過程を経てできあがった作品が果たしてファンタジーとして成立するのかという点においては、あまり検討を重ねているようには見えない。  プリンセスが現実の世界にやってきて、現実とファンタジーは違うことを学び、現実の中で生き...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:15 PM

August 4, 2009

『3時10分、決断のとき』ジェームズ・マンゴールド
渡辺進也

 アメリカでの公開から2年遅れて、この度日本公開されるジェームズ・マンゴールドの新作は1957年にデルマー・デイヴィスによって監督された『決断の3時10分』のリメイク作品である。名の知れた悪漢を生活苦の農場主が金のために護送するストーリーを持つ、勧善懲悪に収まらないこの西部劇を、オリジナルのストーリーをほぼ変えることなく、そこにオリジナルでほとんど描かれることのない、駅馬車を襲う場面や護送する道中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:26 PM

August 3, 2009

ル・コルビュジエと国立西洋美術館展
梅本洋一

 世界遺産には登録されなかったものの(ぼくにとってはどうでもいい問題だが)、この展覧会の機会に西洋美術館をつぶさに観察すると、この空間は実にル・コルビュジエらしい。無限増殖美術館のコンセプトをそのまま体現しているのはもちろんだし、この建物の全体が、螺旋状の周回というプロムナードになっていることや、メイン会場の19世紀ホールの自然光の差しこむ空間が、とても心地よいこともある。  最近ずっと坂倉準三の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 PM

July 26, 2009

建築家 坂倉準三展 モダニズムを生きる 人間 都市 空間
梅本洋一

 やっと鎌倉に行ける時間ができた。  もともと坂倉準三の傑作であるこの鎌倉近代美術館(俗称)で、作者についての回顧展が開催されるのは2度目だが、ぼくは1度目は行っていない。だが、ここは本当に好きな空間だ。前に書いたカフェのダサさも改善されていた。「白い小さな箱」──それも宝石箱ようなこの建築は、周囲の環境も含めて、今回の回顧展のカタログで、磯崎新が書くとおり「ルコルビュジエよりもルコルビュジエ的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:41 PM

July 23, 2009

『麻薬3号』古川卓巳
高木佑介

見るからに胡散臭い新聞社で寝起きをし、道で気に食わない男とすれ違えば問答無用で殴りかかる、そのうえ麻薬3号=ヘロインのヤバい取引にも平気な顔で手をのばし、挙句の果てには損得勘定を考えずにとりあえず拳銃をぶっ放して事態をややこしくもさせるのだから、この映画の主人公である長門裕之はまさに見紛うことなき“ならず者”だ。飽きた女には目もくれず、隙あらばヒロポン、もちろん堅気の労働は一切拒否(しかしこの映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:43 AM

July 22, 2009

『麻薬3号』古川卓巳
結城秀勇

 海。反対側には山。国鉄の機関車が走り過ぎる神戸駅からタクシーに乗って繁華街を通り過ぎると、傾いたトタン屋根が複雑に入り組んだドヤ街がある。狭い路地に南田洋子が足を踏み入れたとたん、まだ陽も高い時間帯だというのに画面の面積の約半分を奇妙な幾何学模様を形成する影が占領し、それが昼下がりの強い陽光に照らし出された空間に対してくっきりとしたコントラストを生む。立ち並ぶ建物のうちのひとつの中に彼女が入り込...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:24 PM

July 20, 2009

『VISTA』佐々木靖之
田中竜輔

 瀬田なつき監督作品や濱口竜介監督作品等々、近年話題となった多くの若い映画監督たちのキャメラマンを務める佐々木靖之初監督作品である本作『VISTA』が、第31回ぴあフィルムフェスティバル・コンペティション部門PFFアワードに出品されている。上映終了後の舞台挨拶では、本作はアントニオー二『欲望』の強い影響下にあると佐々木監督本人に語られていたが、しかしもちろんそれは単なるコピーというわけではなく、映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:37 PM

July 19, 2009

『トランスフォーマー リベンジ』マイケル・ベイ
結城秀勇

 前作『トランスフォーマー』を見て思ったのはだいたい以下のようなことだった。地球外からやってきた機械生命体であるところのトランスフォーマーたちは、映画の画面内においてもある種のエイリアンであり、フィルムとの光学的な関係からその姿を写し取られる他の被写体とは異なった原理の上に成り立つ存在である。それはCGだから当たり前だと言ってしまえばそれまでだが、そんなことをいまさら強く思ったのも、人間のスケール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:56 PM

July 18, 2009

『そんな彼なら捨てちゃえば?』ケン・クワピス
結城秀勇

 ベン・アフレック、ジェニファー・アニストン、ドリュー・バリモア、ジェニファー・コネリー……と続く名前の列に近年でも珍しいラブコメ大作の香りを感じるが、なんのことはないアルファベット順での表記である。「SEX AND THE CITY」のスタッフによる原作をもとに描く恋愛群像劇ということになるようだが、この群像を形成する群がいったいどのようなつながりによって成り立っているのかが希薄だ。まるでこの映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:54 PM

July 17, 2009

『ノウイング』アレックス・プロヤス
田中竜輔

 ニコラス・ケイジが世界を救うヒーローなのだ、と断言されてしまうとそれはどうにも何か別の作品のパロディ程度のものにしか思えなくなってしまうのだけど、しかしすべては彼自身の勘違いで、彼は勝手に自分自身をヒーローだと信じ込み、勝手に窮地に飛び込んで勝手にひとりで混乱しているだけだ、と言われればそれは途端に別の意味で真実味を増す。リー・タマホリの『ネクスト-NEXT-』はそれが夢オチというかたちで提示し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:38 AM

July 13, 2009

建築家 坂倉準三展 モダニズムを住む 住宅、家具、デザイン
梅本洋一

 アテネフランセで映画を見ることを学び、東京日仏学院でフランス語を学び、渋谷パンテオンでハリウッド映画を見、東急名画座でかつての名画を多く見たぼくにとって、もっとも時間を過ごした建築の作り手は明らかに坂倉準三だった。アテネフランセも同じルコルビュジエ門下の吉阪隆正だから、東京日仏学院やパンテオンや東急名画座が入っていた今はなき東急文化会館の設計者である坂倉準三という固有名は極めて重要なものだ。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:40 AM

『ディア・ドクター』西川美和
梅本洋一

 一昨年『ゆれる』で大方の好評を博し(ぼくは批判的だったが)、その原作が直木賞候補にもなっている西川美和の『ディア・ドクター』を見た。主演の笑福亭鶴瓶は、封切りに際して西川美和とテレビに出まくっていた。  物語を記すと「ネタバレ」になるので書かないが、それ以外にいったい何を書けばいいのかと頭を抱えざるを得ない。笑福亭鶴瓶と瑛太の組み合わせもつまらないとは言わない。たったひとりの「医者」しかいない村...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:36 AM

July 10, 2009

『サブウェイ123 激突』トニー・スコット
結城秀勇

 原題は『THE TAKING OF PELHAM 123』だが、そのハイジャックされた車両が「ペラム123」と呼ばれているのはペラム駅を1時23分に出発したから、というただそれだけの理由である。なぜその車両が狙われなければなかったのかと言えば、その名の通り時間帯とコースが適当だったということに尽きて、それが劇中で話題にされる日本製の新型車両なのか、なにか他の車両と違った視覚的特徴を持つのか(そん...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:28 PM

July 9, 2009

「Suddenly VOL.01」宣伝チラシ上の誤植のお詫び

現在各所に配布されています「nobody presents SUDDENLY VOL.01」宣伝チラシの文章中に以下の誤りがございました。 *チラシ裏面、『軒下のならず者みたいに』紹介文の最下行 (誤)斎藤陽一郎 → (正)斉藤陽一郎 ご本人様および関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。 nobody編集部...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:20 AM

July 8, 2009

『セントアンナの奇跡』スパイク・リー
渡辺進也

 スパイク・リーの作品に慣れ親しんだものもそうでない者もブラックムーヴィーのひとムーヴメントをつくった監督のひとりとして、スパイク・リーの映画といったときにある程度イメージすることはできるだろう。同人種として黒人の姿を生々しく描いたということ、自らのアイデンティティに寄る映画つくりをしてきたということ。その実際がどうであれ、この監督が語られるときにそうしたイメージはこの監督にずっとつきまとうものと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:56 AM

July 2, 2009

『それでも恋するバルセロナ』ウディ・アレン
茂木恵介

 ヴァカンスを楽しむために訪れたバルセロナ。季節は7月。紋切型の記号としてちらっと映るガウディやミロ。そして、女性を惑わす赤ワインとスパニッシュ・ギター。それらは、主人公の2人の側に寄り添いつつも物語の流れに絡み付くことなくちらっと映り、次のショットへと切り替わる。おそらく、この映画の中で記号として重要な意味を持つのは彼女達を迎え、そして送り出す空港のエスカレーターだけだろう。空港の入り口から出た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:37 AM

July 1, 2009

『クリーン』オリヴィエ・アサイヤス
梅本洋一

 エミリー(マギー・チャン)は、いくつもの風景といくつもの音響を通り過ぎなくてはならない。カナダのハミルトンにある煙突から燃えさかる炎が上がる工場を背にした寒々しい川、人々が折り重なるように身を捩る中でマイクの前で多様な音声を絞る人たちのいるライヴハウス、どこでもまったく同じインテリアで、ここがどこだか判らなくなるようなモーテルの一室、売人と買い手が金銭と白い粉を交換する人気のないパーキング、息子...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:00 AM

June 26, 2009

『ランニング・オン・エンプティ』佐向大
結城秀勇

 その構造を剥き出しにして得体の知れない煙を吐き出し続ける信じがたく巨大な建築物の群れから、小さなアパートのベッドの上で寝そべる女性のピンクの下着を履いた尻へとカットが切り替わる。前者はどことなく『Clean』の冒頭を彷彿とさせるし、後者は『ロスト・イン・トランスレーション』のスカーレット・ヨハンソンのケツに勝っている。それがなんの仲介も無しに結びつけられる、一足飛びの移動の速さの中にこそ『ランニ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:37 PM

June 22, 2009

『ターミネーター4』マックG
結城秀勇

 セカンドチャンスとパロディを履き違えてはいけない。いま目の前で起こっていることを、かつて起こったことにデジャヴュのようにすり替えていかない限りなにも起こらないこの映画にはなにひとつチャンスがない。  冒頭に登場するヘレナ・ボナム=カーター、影の薄いヒロイン役ブライス・ダラス・ハワード、そして音楽のダニー・エルフマンと(もしかしたらそこにクリスチャン・ベイルを加えても良いのか)現在のアメリカ映画で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:36 PM

June 19, 2009

『スタートレック』J.J.エイブラムス
田中竜輔

 J.J.エイブラムスが『クローバーフィールド/HAKAISHA』のプロデュースに引き続いて「スタートレック」映画化を手掛けると最初に聞いたときには、きっとこのシリーズに思い入れたっぷりなのだろうなと勝手に思い込んでいた。しかしどうやらインタヴューによると、どうも彼自身は「トレッキー」ではまったくないらしい。この作品についての絶賛の評を見ていると、いわゆる「ビギンズ」もの(元々のタイトル案は「ST...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:27 AM

June 15, 2009

『ウルトラミラクルラブストーリー』横浜聡子
梅本洋一

 彼女のフィルムを初めて見た。つまり、これが長編2作目の横浜聡子だが、ぼくは彼女の処女長編を見ていない。もし画面やそこに盛られた物語に大きな特色を感じることができるとき、その作り手を仮に「映画作家」と呼ぶなら、彼女はまちがいなく「映画作家」である。冒頭から聞こえてくるけたたましいヘリコプターの騒音、その騒音に負けないくらいに、主人公・陽人を演じる松山ケンイチが発するノイズと意味との境界線上を走る音...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:00 AM

June 13, 2009

『私は猫ストーカー』鈴木卓爾
黒岩幹子

『私は猫ストーカー』、そのタイトルに偽りなし。これは「猫好き」じゃなくて「猫ストーカー」の映画だ。「猫好き」と「猫ストーカー」の違いは、猫への愛情の大きさにあるのではなく、猫との関わり方にあるのだと思う。「猫ストーカー」を自認する主人公のハル(星野真理)は、猫を飼わず、特定の猫に愛情を注がず、猫を分け隔てず、とにかく猫を探し回り、とにかく遭遇した猫を追いかける。自分の生活のなかに猫がいるのではなく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:02 AM

June 10, 2009

『イエローキッド』真利子哲也
高木佑介

 その男はいったい誰で、そこはいったいどこなのか。しばし自分の目を信じることができない。などと言ってみるといささか大袈裟かもしれないが、だがしかし、現についさっきまでトイレでボコボコと殴られていたはずのその男の弱気な表情はどこかへと消え失せ、横浜だと思っていた風景は、まったく見知らぬ場所であるかのようにスクリーンに広がりだす。さっきまでそこにあったものが、何かまったく違うものに見えてくる。そんな瞬...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 AM

June 9, 2009

『4』『マイムレッスン』『スパイの舌』三宅唱
田中竜輔

 とりあえずは「習作」に近い3本の短編なのかもしれないが、ずいぶん前からその噂を耳にしていた三宅唱監督の作品を見て、率直にとても興奮させられた。  21歳時の作品であるという『4』の、ホテルのひと部屋に詰め込まれた4人のそれぞれの時間における持続感覚(とりわけほとんど異物である外国人女性の「空気の読めない」些細な仕草が「彼ら」の時間についての共有感覚を明瞭に分断しているようだった)にまず舌を巻いた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:45 AM

June 4, 2009

『持ってゆく歌、置いてゆく歌―不良たちの文学と音楽』大谷能生
梅本洋一

 もっとも旺盛な活動を示している批評家が大谷能生であることは明らかだ。大きな書店に行くと、必ず彼の本が2冊以上平積みにされている。若い批評家──もちろん彼は音楽家でもあるが──の書物が、数ヶ月間に次々に出版されることはわくわくするような体験だ。『散文世界の散漫な散策──二〇世紀批評を読む』(メディア総合研究所)、瀬川昌久との対談本『日本ジャズの誕生』(青土社)、そしてこの『持ってゆく歌、置いてゆく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:03 AM

June 1, 2009

『久生十蘭短篇選』川崎賢子 編
高木佑介

 1920~30年代についての特集を組んだ「nobody」誌最新号の編集中にも、たびたびその名前が挙がった久生十蘭。といっても気軽に著作を探してみてもどうも在庫切れやら絶版ばかりが目につくし、とはいえ去年から国書刊行会より出版されている少々高価な全集(全11巻になるという)にも手が出せず、さてどうしたものかと考えていた矢先に岩波文庫より短篇集が5月に出たので、これ幸いと購入。定価860円。  本書...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:15 AM

May 28, 2009

『夏時間の庭』オリヴィエ・アサイヤス
田中竜輔

 『冷たい水』の美しさが、ふと目を離した瞬間に消え去ってしまうヴィルジニー・ルドワイヤンの纏う無垢≒フィクションの淡い色彩によって生み出されていたとして、しかし近年のアサイヤスの「女たち」によるフィルム――『DEMON LOVER デーモンラヴァー』『CLEAN』『レディ アサシン』――の基軸となるのは、「女たち」にとって、すでに失われてしまったルドワイヤンの「無垢」なるものを、どのように生きかえ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 AM

May 23, 2009

『夏時間の庭』オリヴィエ・アサイヤス
梅本洋一

 満員の銀座テアトルシネマの上映後、銀座の舗道に出ると、背後からこんな会話が聞こえてきた。「あのオルセー美術館のレストランのシーンを見てたら、オルセーに行ったときのことを思い出したわ」「そうね。2年前だったわね」かなりの年長の婦人たちがそんな会話を交わしながら、銀座を歩いていた。  だが、とりあえずオリヴィエ・アサイヤスのフィルムで、映画館が満員になったことは良いことだ。このフィルムにはオルセーが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:07 AM

May 22, 2009

『レイチェルの結婚』ジョナサン・デミ
茂木恵介

 右ストレート一閃。よろけながら、反撃の左フック。リングサイドからリングを見上げ、反撃する選手の背中を興奮しながら見つめるセコンド。もちろんそんな「シーン」なんてないのだが、そんな「パンチ」はこのフィルムにはある。しかし問題は右目を腫らせる程のパンチが出てくることではなく、そのパンチが打たれる瞬間を見上げる形で見てしまったことだ。そして、それは誰が見ているのか。もちろん、それは観客であるわけだが、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:08 PM

May 14, 2009

『四川のうた』ジャ・ジャンクー
梅本洋一

 こうした偽ドキュメンタリーというスタイルは、とりわけ、このフィルムの内容には合致している。8人の労働者たちが成都の420工場について語る、という構想は説得力がある。綿密に書き込まれたテクストと、おそらくかなりの時間をかけただろうリハーサル。挿入されている工場や成都の映像。「知的」という言葉がこれほど当てはまるフィルムを見るのは、本当に久しぶりのことだ。誰でもトリュフォーの『野生の少年』を思い浮か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:13 AM

May 12, 2009

アーセナル対チェルシー 1-4
梅本洋一

 今シーズンのプレミアリーグも大詰め。今節を含めて残り3ゲーム。チャンピオンズリーグ準決勝で敗退したアーセナルの目標は、来シーズンのチャンピオンズリーグにストレートインできるプレミア3位以内の確保。そして現在の3位はチェルシー。非常に分かりやすい。  風邪のアルシャヴィンが欠場。左にディアビ、右にウォルコット、トップ下にセスク、ファン・ペルシの1トップ。セントラルにナスリとソングという布陣。最初か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:59 AM

May 9, 2009

『ミルク』ガス・ヴァン・サント
梅本洋一

 ぼくらが『エレファント』や『ジェリー』、そして『ラスト・デイズ』などに夢中になっていた時代──つまり、今からほんの少し前のことだ──、アメリカではガス・ヴァン・サントという固有名はまったく忘れられた存在になってしまっていた。確かにそうかもしれない。せっかくハリウッドでそこそこの地位を獲得したというのに、彼は『マラノーチェ』を撮ったホームタウンのポートランドに帰ってしまい、インディーズの映画作家と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:22 AM

May 3, 2009

忌野清志郎追悼
山崎雄太

 昨夜、忌野清志郎が死んだ。58歳。  武道館で復活ライブを敢行したのは去年の2月だった。超満員の武道館、観客の平均年齢はいままでに行ったどのライブより高かったが、若いお客さんもちらほら見かけられた。安くはないチケット、「死ぬまでに一度は見たい」と嘯き買って……そういえば武道館にライブに行ったのも初めてだった。お客さんはみなニコニコしながら、しかし時折仔細らしい顔をして連れに耳打ちしたり、気忙しい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:34 AM

May 1, 2009

チャンピオンズリーグ08-09準決勝
バルセロナ対チェルシー 0-0
マンチェスター・ユナイティド対アーセナル 1-0
梅本洋一

 シーズンも大詰め。チャンピオンズリーグの準決勝を迎えるこの頃になると、今シーズンはいったい何ゲーム見たのだろう、と考え込んでしまう。去年の今頃は、この季節の後、ユーロが開催されたのだから、「お楽しみはこれからだ」状態だったけれど、今年は、重要なゲームも10ゲームを切った。  まずカンプ・ナウのバルサ対チェルシー。バルサはいつもバルサだと相手によってスタイルを変えることのないバルサと、ヒディンク就...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:48 AM

April 28, 2009

『ワンダ』バーバラ・ローデン
結城秀勇

 泣き喚く子供の声に顔をしかめながら目を覚ます。この映画の冒頭、ワンダ=バーバラ・ローデンが置かれた状況とほぼ同じ唐突さで、観客は映画の中に引き込まれていく。同じような日常がこれまで継続してきたはずなのに、自分の置かれた状況が理解できない混乱した起きぬけの頭。窓の外に広がるのは荒涼たる採掘場。その中を横切り、裁判所で離婚訴訟を行い、職を失い、行きずりの男と寝て、置いてきぼりを食う。カーラーを頭に巻...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:59 AM

『ワンダ』バーバラ・ローデン
田中竜輔

 ズブズブと沈み込んだ『俺たちに明日はない』、コメディタッチもある『地獄の逃避行』、いやそれではこの作品について何も語っていないことと同じだろう。東京日仏会館で開催された〈カンヌ映画祭「監督週間」の40年を振り返って〉の最終上映作品、マルグリッド・デュラスやジャック・ドワイヨンが絶賛した、エリア・カザンの前妻であるバーバラ・ローデン監督兼主演作『ワンダ』について、無理矢理ひとことで感想を述べるとす...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:47 AM

April 23, 2009

「広告批評」336号(最終号)
宮一紀

 雑誌「広告批評」が30年という長い歴史に幕を下ろした。広告の世界にあまり関心がなくとも、その企画がときとして対象に寄り添いすぎていると感じることはあっても、コンセプトの部分で基本的にブレることのない誌面に概ね好感を持っていた。A5サイズで590円という気楽な価格設定もよかった。  休刊の理由は部数減や経営難ではないという。そこには同誌が主な批評の対象としたマス広告が時代とともに大きくかたちを変え...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:11 AM

April 22, 2009

『パンドラの匣』冨永昌敬
結城秀勇

 なにかとんでもないことが起こっているかもしれないと気付いたのは映画が始まり舞台がメインの「健康道場」へと移りタイトルが映るまでの少々長めの時間が経った後でだったから、いささか遅きに失していたのかもしれない。  それまではと言えば、人や物、そして音がフレームの中に見事に収まっていることに見とれていた。『シャーリーの好色人生と転落人生』のあの貫禄を見れば、当然至極のこととも思えるこの事実になぜ気を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:17 PM

April 17, 2009

チャンピオンズリーグ準々決勝 2nd Leg アーセナル対ビジャレアル 3-0
梅本洋一

 チェルシー対リヴァプールの4-4(7-5)という強烈な打ち合いを見ていて思ったのは、両チームの監督の資質の差だ。ヒディンクが「ここ一番」で強さを発揮する一発勝負型の監督であるとすれば、ベニテスはまさに育成型。数年前のリヴァプールよりも数段レヴェルアップしたチームを作り上げている。ヒディンクの戦術が、このゲームでのアネルカの右サイドでの起用という選手交代の妙にあったとすれば、ベニテスのリヴァプール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:06 PM

April 13, 2009

『一緒にいて(Be with me)』エリック・クー
結城秀勇

 タイプライターにセットされた真っ白な紙が、愛の言葉で埋められていく。ゆっくりとした文字の歩みが次第に文を形作る。"Is true love truly there?"。この声なき問いかけは、続く一文によって条件付きで肯定される。もしあなたの温かい心があれば、と。  何人かの登場人物たちがこの声なき問いを、それぞれのやり方で投げかける。雑貨屋の店主、警備員、女子高生。彼らはほとんど声を発することが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:06 AM

April 10, 2009

『ウォッチメン』ザック・スナイダー
高木佑介

 1985年。米ソ冷戦時代。アメリカがベトナム戦争に勝利し、ウォーターゲートを経ても未だにトリッキー・ディッキー政権が続いているという設定のこの世界には、常人よりもそこそこ強いスーパーヒーローたちがいる。といっても、過去の栄光を謳歌した彼らの現在は、それほど華やかなものではない。むしろ、核戦争勃発が目前となっている世界を生きる彼らは、全員が何やら暗い闇を抱えながら生きている。ヒーローたちの活躍では...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:40 PM

April 8, 2009

『ヘンリー・プールはここにいる〜壁の神様〜』マーク・ペリントン
結城秀勇

『隣人は静かに笑う』『プロフェシー』のマーク・ペリントンの最新作『ヘンリー・プールはここにいる〜壁の神様〜』がdvdスルーでリリースされた。ルーク・ウィルソン主演で、カリフォルニアの晴天を背景に彼が微妙な表情を見せるパッケージからは、ペリントンも芸風を変えたのか?と思わずにはいられなかったが、見てみると紛れもないペリントン節全開、ほとんど『プロフェシー』と同じような話なのだった。  不治の病に冒さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:25 PM

『シャーリーの好色人生と転落人生』佐藤央&冨永昌敬
鈴木淳哉

冨永昌敬監督と佐藤央監督とは偶々幸運なことに知遇を得て以来、尊敬してやまない大先輩である。そうしたわけで背筋を正して試写に望んだのだが、二人の作品ともにすっくと格調高い。どうやら2作品には多くの美女が登場するようなので、少し底意地悪い気もするが、それぞれの女性に向ける視線を意識して鑑賞した。 水にぬれたアスファルトを歩く裸足の女の足音が佐藤央監督の『好色人生』に聞こえる。これは別に比喩表現ではなく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:59 PM

April 7, 2009

プレミアリーグ アーセナル対マンチェスター・シティ 2-0
梅本洋一

 インターナショナル・マッチデイを挟むと常にアーセナルにバッド・ニュースが流れる。ファン・ペルシもエドゥアルドも足の付け根を故障した。ナスリは風邪。  だが、出場メンバーを見て、それが予告されたことであっても、多くのファンはグッド・サプライズ! 待ちに待ったセスク・ファブレガスの復帰、そしてなんとFWにはアデバイヨールがでんと構えている。そしてフォーメイションは、久しぶりに4-2-3-1。2にはデ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:03 AM

April 5, 2009

『フロスト×ニクソン』ロン・ハワード
結城秀勇

 ボクシングの試合に見立てられたふたりの男のパフォーマンス。そこに賭けられているものはなにか。前代未聞のインタヴューの為に動く巨大な金、そのために一喜一憂してみせる人々の俗人ぷりが単なる韜晦でしかないことに観客はすぐ気付く。『ボディ・アンド・ソウル』、『ハスラー』、あるいはハワードの『シンデレラマン』などを引き合いに出すまでもなく、そこにあるのは栄光、たぶんアメリカと呼んでもいい栄光だ。ここに見ら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:17 AM

April 1, 2009

『シャーリーの好色人生と転落人生』佐藤央&冨永昌敬
田中竜輔

 結局のところ「シャーリー」とは、いったい誰で、いったい何なのか? 冨永昌敬の創出したこのひとりの人物は、彼をひとつの意味として形成するようなあらゆる設定やら理由づけやらの外側でずっとうろちょろしている。彼のような類の人物を「キャラクター」とか「キャラ」とかと呼んでしまう私たちの習慣はとりあえず頭から捨て置くべきかもしれない。彼はある種の「記号」として交換可能な存在ではないし、どこぞの「データベー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:26 PM

March 21, 2009

『ベッドタイム・ストーリー』アダム・シャンクマン
黒岩幹子

アダム・サンドラーとリメイク版『ヘアスプレー』のアダム・シャンクマン、そしてディズニーが手を組んでつくられた映画。ディズニー的には、一昨年の『魔法にかけられて』と同系列で、かつFOXにやられてしまった『ナイト・ミュージアム』の要素を取り込もうという発想でつくったんじゃないかと思うのだけど、これがちゃんとアダム・サンドラー映画になっているのだった。 子供を寝かしつけるときに創作する物語が現実になると...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:26 AM

March 20, 2009

『月夜のバニー』(「桃まつり」より)矢部真弓
松井宏

老いてなお客を引き、ときに若い男を漁りもしよう、そんな場末の女性がバーバラ・スタンウィックを通り越してリリアン・ギッシュに近付くとき、そのフィルムは禍々しくも神々しい何かを纏うに決まっている。そもそも、ギッシュとは場末の女性以外のなにものでもないのだと、それを改めて気付かせてくれただけでも素晴らしい『月夜のバニー』は、だがそこに西部劇のフォルムさえ持ち出して、一挙に観客を惹き付ける。 血の繋がらな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:29 PM

March 19, 2009

『シャーリーの好色人生と転落人生』佐藤央&冨永昌敬
宮一紀

 昨年夏の終わりに初めて仙台を訪れたときのこと。仙台メディアテークをしばらくうろついた後、仙台在住の友人・今野くんに連れられて近くの〈マゼラン〉という古書店に赴いた。映画や音楽、そして文芸方面で充実したラインアップを揃える小さな店内の一角はカフェ・スペースになっていて、そこで常連さんとおぼしき女性がひとりコーヒーを飲んでいた。  秋口の仙台で、時間は午後で、外は小雨が降っていて、店の軒先に猫が寝て...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:06 AM

追悼・フランチシェク・スタロヴィエイスキ
宮一紀

 ポーランドの画家で映画ポスターを数多く手掛けたフランチシェク・スタロヴィエイスキが先月亡くなった。  1960年代以降、世界中で映画が盛り上がる時期が訪れる。東欧でのそれは多分に宣伝用ヴィジュアルとともに受け入れられることになるのだが、そこには50年代後半の自由化と、自由化以降も実質的に続いたソ連の実行支配という背景があったことは否めない。東欧におけるグラフィック表現とは政治的な暗喩の純度の高い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:10 AM

March 18, 2009

『サッカー批評』42号「LOVE or MONEY」
渡辺進也

 雑誌には週刊誌、月刊誌、季刊誌とあるけれども、僕にとっての季刊誌といえば現在も、もう何年も前から『サッカー批評』である。個人的にも大好きな名前が執筆陣に並び、ネットやスタジアムでは知ることができないサッカーの話に溢れ、往年のサッカーファンをも唸らせるインタヴューが並ぶ。サッカーだけで140ページが組まれる読み物。今年も『サッカー批評』が出る度に新たな季節が巡ってきたことを知ることになった。  最...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:53 PM

March 15, 2009

『あとのまつり』瀬田なつき
宮一紀

 頭上をゆりかもめが走る東京湾岸・運河沿いの埋立地。「この辺、むかし海だったんだよ」と少女が少年に教える。その面影にまだあどけなさを残した少女が唐突に口にする「むかし」という言葉。もちろん「むかし、むかし……」というあのアニメ番組の前口上を持ち出すまでもなく、ここで使われる「むかし」という言葉はいわゆる「伝聞過去」に由来している。出来事を強く喚起するその言葉は再開発が着々と進行する湾岸地帯を突き放...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:37 PM

March 13, 2009

『火と血と星』キャロリーヌ・デルアス
結城秀勇

 白黒の画面、独特のタイトル、レナ・ガレルとその祖父モーリス・ガレルというキャスティング、若い左翼活動家が選挙の結果に幻滅するというストーリー、そうした要素を含んだ映画で(しかもフランス映画祭で上映されるとなればなおさら)フィリップ・ガレルという固有名詞を思い浮かべない方がむしろ難しいが、冒頭で若い女性と幼い娘のふたりが過激な歌詞を伴ったパンクなビートに身を躍らせるのを見れば、過剰にそうしたことに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:51 PM

チャンピオンズリーグ08-09 決勝トーナメント1回戦 2nd Leg
ローマ対アーセナル 1-0 (1-1, PK 6-7)
梅本洋一

 120分の死闘が終わり、PK戦。アーセナルの先攻。まずエドゥアルド。ローマのキーパー、ドニのナイスセーヴ。一番確率の高いキッカーが失敗することはよくある。PK戦というのは、運みたいなもので、この勝負はドローというのが正しい。結局、アーセナルがサドンデスでローマに勝ち、準々決勝に勝ち残った。  どちらもチームも勝ちきれなかったのはなぜか。いつものようにポゼッションではアーセナルだが、決定機はローマ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 PM

March 12, 2009

『7つの贈り物』ガブリエル・ムッチーノ
黒岩幹子

 深夜にふらりと立ち寄ったシネコンで、最終回に間に合うのがこの映画と『マンマ・ミーア』だけだったために観ることに。『マンマ・ミーア』でなくこの映画を選んだのは、アバがあまり好きではない上に数日前に友人の結婚式に出たばかりだったというのと、この映画にはロザリオ・ドーソンとバリー・ペッパーが出演しているから、という単純な理由によるもの。  冒頭に「7日で神は世界を創った。7秒で僕は自分の世界を壊した」...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:29 AM

SPT(Setagaya Public Theatre)5号 戯曲で何ができるか?
山崎雄太

 認知度はかなり低いと思われるので説明をすると、SPTは世田谷パブリックシアターがおそらく不定期に発行している演劇雑誌で、「劇場のための理論誌」といううたい文句である。2月末に発行された5号の特集は「戯曲で何ができるか?」。「劇場のための理論誌」「戯曲で何ができるか?」と書かれた表紙をチラと見るだけで、ほとんどの人はうわッと拒否反応を示し、無関心、といって素通り、手にされることすら稀であろうSPT...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:00 AM

March 11, 2009

『SR サイタマノラッパー』入江悠
渡辺進也

 先日行われた「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」のオフシアター部門のグランプリ受賞作品。  かつて「もう一度だけチャンスを」と歌ったのは若かりし頃のマイケル・ジャクソンだった。「チャンスを追いかけろ」と安室に歌わせたのは後に詐欺で逮捕されることになる小室哲哉だった。自分の出自ゆえに馬鹿にされ虐げられようともそれでも、セカンドチャンスを待ち続け成り上がっていこうとするのは『8mile』のエミネ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:49 AM

『あとのまつり』瀬田なつき
田中竜輔

 その街の人々は「忘れる」ことを恐れている、でもそれって本当に怖いことなのだろうか。『あとのまつり』の主人公であるローティーンの少女が抱く疑問はそれだ。だって「アディオス」とどこかに行ってしまったかのように見えた先輩は、あっというまにそこにまた戻ってきたじゃないか。ついさっき街路ですれ違ったキスを交わしていた恋人たちも、平手打ちを繰り出す大喧嘩をしてはいるけれども、バンドと一緒にダンスを踊ったその...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:01 AM

March 10, 2009

『オーストラリア』バズ・ラーマン
松井宏

 165分。2時間45分。この長さをどう処理するか。まずは半分真っ二つに割ってみる。しかしそれでも手に負えない。ということで、後半部をさらに細かく割ってみる。そうして完成したのが『オーストラリア』だ。とでも言いたくなるような、つまり予め一大叙事詩として構想されたゆえに求められた諸ジャンルの混合が(西部劇、ラヴロマンス(植民地系)、戦争ものetc.)必然性を奪われ、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」に堕...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:08 PM

『あとのまつり』瀬田なつき
梅本洋一

 このフィルムに出会えたことが素直に嬉しい。こんなことはそんなにあることではない。ぼくは、もう少年ではない。ぼくは、もう少女に出会っても心がときめく歳ではない。でも、かつて、そう、もうずっと前だ。そんなことがあった。でも、それは一度きりしかなくて、もう絶対に戻ってくることもない。二度と起こらない何かが、ずっと前に起こった。そして、このフィルムの少年少女のようなことは、きっと、否、ぜったいに誰にでも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:38 AM

『パッセンジャーズ』ロドリゴ・ガルシア
高木佑介

 以前どこかでこの映画のチラシを見たとき、『フォーガットン』とまったく同じような匂いがしたので、封切り後すぐに映画館に駆け付ける。  飛行機事故を奇跡的に生き残った5人の生存者たち。彼らのグループ・カウンセリングを担当することになったアン・ハサウェイは、患者たちが次々と失踪していくのを目の当たりにし、何やら自分たちが大きな陰謀に巻き込まれているのではないかと疑い始める。もちろんその先に待ち受けてい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:48 AM

March 7, 2009

『毒婦高橋お伝』中川信夫
田中竜輔

 車を引く前夫に、床に臥したままの亭主に、人身売買を裏稼業とする宝石屋の店主に、そして自らの罪を誤魔化すために誘惑した若い警官に……あらゆる全てに対し演じ続けること。それがお伝(若杉嘉津子)の唯一の処世術であり、麗し過ぎさえもする彼女の顔は生きるための嘘を生み出すための哀しい武器だ。人に「顔」を見せることを「演じる」という武器と同義のものとして生きたひとりの女性が、どうしようもなく「演じる」ことを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:12 AM

March 6, 2009

『チェンジリング』クリント・イーストウッド
結城秀勇

 トロリーバスが市民の足として行き来し、もはや一部の者の所有物に過ぎないとは言えない高い車高の自家用車がゆっくりと道を行き交う。その街は汚職に支配されている。新聞はそうした警察や政治家の見解を翌日の誌面に忠実に反映するが、その一方、放送が開始されてまだ10年と経たないラジオもまたマイノリティのためのメディアとして力を蓄えつつある。女性が仕事につくことはもはや当然のことと見なされ、そうした経済条件さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 PM

March 4, 2009

『オーストラリア』バズ・ラーマン
高木佑介

 「AUSTRALIA」というタイトル・ロゴが、地図に描かれたオーストラリア大陸の輪郭上に現れる。世界地図やgoogleアースを見れば明らかなように、オーストラリアはとにかく地理的にでかいわけだが、そのでかい大陸の地名をぶっきらぼうにそのままタイトルにしてしまっているこの映画の主題のひとつもまた、でかいこと、すわなち「壮大」であること、「広大」であることだと言えるだろう。第二次世界大戦と、白豪主義...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:03 AM

March 2, 2009

ラグビー日本選手権決勝 三洋対サントリー 24-16
梅本洋一

 すごく忙しい土曜日だった。早朝、何と現地で金曜夜開催になったシックスネイションズのフランス対ウェールズを見て、ゴゴイチには、このゲーム。そして深夜には、スキーのノルディック世界選手権のラージヒル団体。もちろん、各ゲームの間には日常の細々したことを片づけているわけで……。  時系列で書こう。  ますフランス対ウェールズ。レ・ブルーの監督も、シックスネイションズは土曜日の午後3時キックオフというもの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 AM

February 28, 2009

『このあいだ東京でね』青木淳悟
黒岩幹子

 表題作の中編1本と短編7作――うち1本は、「ごくごく一般的な戸建て住宅をまるごと一軒『トレースするだけ』の小説」の創作ノートに、西沢立衛設計の個人住宅への訪問記を(注釈の形態を用いて)添えたもの――で構成されたこの本は、青木淳悟の3作目の小説集とのこと。表紙カバーではどこのものともわからぬ白地図に、番地と思われる数字や信号とバスのマークだけが描かれていて、そのカバーをとると、やや高い位置(信号が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:26 AM

『このあいだ東京でね』青木淳悟
渡辺進也

 書き始めておいて何なんだけれども、実はまだこの『このあいだ東京でね』を僕は全部読み終わったわけではない。言い訳するわけではないけれども、それでもこうやって見切発車であろうと書き始めてしまうのは、一刻も早くこの本が店頭に並んだことを知らせたいという気持ちが強いからなのである。おそらくこれはここ数ヶ月で最も心躍らせる本だから。  そもそもこの本と真剣に向き合ったとしたら、2、3ヶ月は平気で時間を必要...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:16 AM

February 27, 2009

『スモーキング・ハイ』デヴィッド・ゴードン・グリーン
結城秀勇

『無ケーカクの的中男/ノックトアップ』の監督ジャド・アパトー、主演セス・ローゲンによるプロデュース作品がまたDVDスルーでリリースされた。アパトープロデュース作品は去年から今年にかけてだけで5、6本あるんじゃないだろうか。本作品では主演のセス・ローゲンが、『スーパーバッド/童貞ウォーズ』でも組んだエヴァン・ゴールドバーグとともに、脚本に参加している。『無ケーカクの~』でも異彩を放っていた「ユダヤ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:31 PM

08-09チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦1st Leg
アーセナル対ローマ 1-0
梅本洋一

 久しぶりに躍動するアーセナルのゲームを見た。  プレミアリーグでは5ゲーム連続のドロー。中盤から前戦にかけての連動が乏しく、もうこのチームを応援するのはよそうと思うくらいだった。別にロンドン在住でもないし、このチームを応援する理由などもともとなかった。だが、前世紀の終わり辺りから、ショートパスとミドルレンジのパスを組み立てながらスペースを創造するこのチームのフットボールに魅せられ、構成するメンバ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

February 25, 2009

『ベルサイユの子』ピエール・ショレール
松井宏

 「『ランジェ公爵夫人』のモンリヴォーの役によってこの俳優の稀有な才能が明らかとなり、彼のキャリアが再び開始されたと言えるでしょう」と、パスカル・ボニゼールはギヨーム・ドパルデューについて語っていた。キャリア初期にバイク事故を起こし、やがては義足を纏うことになるこのフランス人俳優を苛立たせていたのは、だが偉大な父ジェラールとの比較よりも、自身の出演作『ポーラX』の監督レオス・カラックスとの間にひと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:27 AM

February 24, 2009

『ベルサイユの子』ピエール・ショレール
結城秀勇

 とある事情から、作品全体について云々できるほど集中できる環境でこの映画を見ていないのだが、それでもこうしてなにか書き付けずにいられないのはひとえに俳優ギヨーム・ドパルデューのためである。彼が先日急逝したということを思い出す、というような感傷的な気持ちとはまったく無縁に、彼がスクリーンに映し出されると反射的に目を奪われてしまう。ジャック・リヴェット『ランジェ公爵夫人』では暴力的なまでに即物的な肉体...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 PM

February 23, 2009

『チェンジリング』クリント・イーストウッド
田中竜輔

 ダニー・ボイルの圧勝に終わった第81回アカデミー賞の結果がはたして妥当なものかどうかは、『スラムドッグ$ミリオネア』だけでなく『MILK』や『フロスト×ニクソン』、そしてケイト・ウィンスレットが主演女優賞を獲得した『愛を読むひと』といった作品をまだ目にしていない私には判断できないけれども、アンジェリーナ・ジョリーの生涯最高の配役のひとつに違いないクリスティン・コリンズ婦人ならば、はたしてどの作品...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:19 PM

February 19, 2009

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』デヴィッド・フィンチャー
田中竜輔

 ベンジャミン・バトンに刻まれていくのは、重力によって不可避に与えられる皮膚の歪みではなく、彼が体験した様々な出来事の集積だけだ。しかし老年期から出発する彼の人生には、その時間のベクトルの逆転を別にすれば、はたしてドラマティックな事柄など存在したのだろうか。もちろんこれは映画でありフィクションなのだから、現実の人生に比べればよっぽど派手で突出しているのかもしれない。けれども実のところこのフィルムに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:17 AM

February 18, 2009

ジャック・ドゥミの『ローラ』と『天使の入江』
松井宏

 『ローラ』(61)でひとを驚かすのは、何よりもその速さだ。それはクラシックの、というかホークスの、なにもそのスクリューボールコメディだけでなく敢えて言うなら『コンドル』にこそ顕著だと思うのだが、速さだ。ひとびとはみな急いでいる。誰もが時計の時間を気にしている。「あと30分で行かなきゃ」「次の約束があるの」。ひとつの出来事/会話の最後に、必ずと言っていいほど次の出来事へ急ぐひとの姿が描かれる。その...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:47 PM

February 16, 2009

“Let’s Stay Together”Live @ the 51st Grammy Awards
黒岩幹子

 8日に行われたグラミー賞授賞式のライヴ・パフォーマンスを動画サイトであれこれチェックして、T.I.+JAY-Z+リル・ウェイン+カニエ・ウエスト+M.I.Aの競演やらロバート・プラントの後ろで湿った音をかき鳴らすTボーン・バーネットの存在感やらを堪能していると、アル・グリーン先生が何故かジャスティン・ティンバーレークと“Let’s Stay Together”をデュエットしている動画を発見。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:03 AM

『中国中央テレビ・新本部ビル(CCTV)およびテレビ文化センター(TVCC)』レム・コールハース(OMA)
宮一紀

 2月9日、中国・北京の新興ビジネス街にある中国中央テレビのビルが焼け落ちた。春節を祝って自社で打ち上げた大型花火が引火したとの説が有力であるが、ネット上にアップされた写真や映像を見るにつけ、高さ159メートルもの巨大なヴォリュームを持ったRC建造物がここまで派手に燃え上がることにただただ驚くしかない。幸いなことに、と言うと語弊があるけれども、あれだけ大規模な火災だったにも関わらず死者が消防士一...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:39 AM

February 15, 2009

『ザ・クリーナー 消された殺人』レニー・ハーリン
渡辺進也

 一見するとひどく平凡な映画にみえる。昨今のサスペンス映画につきものの、「ラスト6分40秒、この罠は見抜けない」といった宣伝文句を見るとジェームズ・フォーリーの『パーフェクト・ストレンジャー』のような作品を思い浮かべてしまう。しかし、もしそうした点からこの映画をみるとひどくつまらない映画のようにみえるのである。この映画のラストの、観客をびっくりさせるような度合いは非常に低い。これをサスペンス映画と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:55 PM

February 14, 2009

『ザ・クリーナー 消された殺人』レニー・ハーリン
高木佑介

 サミュエル・L・ジャクソン、エド・ハリス、エヴァ・メンデスとキャストは充実しているが、都内では一館だけでしかやっておらず、客の入りもそれほど良いとは言えなそうなので、もしかするとすぐに公開が終わってしまうかもしれないレニー・ハーリン監督作。  その豪華と言えば豪華なキャストと、親切に添えられている副邦題と、物語を支える主人公の経歴と舞台背景にただようフィルム・ノワール的な芳香のせいでか、(全然関...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:59 PM

February 12, 2009

W杯アジア最終予選 日本対オーストラリア 0-0
梅本洋一

 やはり勝ちにいったゲームでスコアレスドローというのは、このチームに、力がないということだ。多くが欧州のチームに所属しているオーストラリアの選手たちが、ベストコンディションになく、怪我人もいる現状。それに対して日本代表は、ほぼベストメンバー。ホームゲームなのに勝ち点3が取れない。  だが、すごいゲームのスコアレスドローもないわけではない。勝ち点1が問題なのではなくて、このゲームにワクワク感がなかっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:17 AM

February 11, 2009

『ロルナの祈り』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
梅本洋一

 『ロゼッタ』についての批評の中で、ジャン=マルク・ラランヌは、ロゼッタという少女の身体の中にキャメラが埋め込まれたようだ、と書いたことがあった。ダルデンヌ兄弟のフィルムを見ていると、いつもその文章が思い浮かぶ。ロングショットを欠いた極度に主人公に近いキャメラ、そして、主人公が出ていないショットはいつもひとつもない。だから、ぼくらには、主人公とその小さな周囲しか見えない。そして、いつものように、付...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:54 AM

『レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで』サム・メンデス
梅本洋一

 「あれから11年後……」ということは、『タイタニック』からもう11年が経ったということか。ぼくも歳をとったものだ。レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが、1955年のニューヨーク郊外に住む夫婦を演じている。妻は女優を夢見ているが挫折、夫は家族を支えるために大企業のビルの15階で「死ぬほど退屈な仕事」に耐える。ふたりは郊外の「レボリューショナリー・ロード」という呼ばれる一角に素敵な家を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:51 AM

February 7, 2009

『感染列島』瀬々敬久
田中竜輔

 タイトルとは裏腹に「感染」という現象に対するこのフィルムの関心はきわめて薄い。それは前提条件にすぎず(それが空気や体液といった経路によってもたらされることが説明されれば十分なのだとオープニングのCGは雄弁に語っている)、その結果としての状況の描写だけが並べられていく。荒廃した東京の相貌にせよ、病院に押し寄せる人の群れにせよ、それらは別に未知の病原菌をその原因とせずとも、正体不明の怪獣でも宇宙人で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:32 AM

February 6, 2009

『ラーメン・ガール』ロバート・アラン・アッカーマン
松井宏

 『ラーメン・ガール』は決して出来の良いフィルムではない。むしろ多くの失敗や穴がある。ところが穴から垣間見える美徳のようなものがある。ところがそれを美徳と呼んでいいかどうかは、やはりまったく確かではない。  ブリタニー・マーフィと西田敏行主演なのにまったく世間を騒がせなかったこのフィルムは、始まって一瞬『ロスト・イン・トランスレーション』の30歳版かと思わせるが、実際はあっけらかんとそんな危惧を掃...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:08 AM

『ランド・オブ・ウーマン/優しい雨の降る街で』ジョナサン・カスダン
結城秀勇

 日本では劇場未公開、昨年11月にDVDリリースされた一本。2/13発売の「nobody」29号では2008年に出たDVDスルー作品の星取をおこなっているが、その中でも、『マーゴット・ウェディング』(ノア・バームバック)や『ロビン・ウィリアムスのもしも私が大統領だったら……』(バリー・レヴィンソン)などと並んで評価の高い一本だった。  ということで見てみると、メグ・ライアンがいい。無根拠な断言だが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:13 AM

February 5, 2009

『グラン・トリノ』クリント・イーストウッド
梅本洋一

 このフィルムのタイトルであるグラン・トリノはクルマの名前だ。アメ車に詳しくないぼくはスペックを調べてみた。このクルマは72年から76年にかけて生産されたもので、そのスペックはV8、排気量7542cc、出力219/4000、最大トルクは50.6/2600ということだ。その巨大な排気量から考えても、グリーンニューディールが叫ばれる現在、決して作られることはないだろう。排気量の割には出力も219馬力で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:16 AM

February 4, 2009

『グラン・トリノ』クリント・イーストウッド
高木佑介

 脚本を読んでイーストウッド自身も思ったそうだが、かつて彼が撮った作品を駆け巡るかのように、この『グラン・トリノ』はそのどこにあるとも知れない場所——だが、どこにでもありそうな世界——を、私たちの目の前に広げていく。『センチメンタル・アドベンチャー』、『許されざる者』、『パーフェクト・ワールド』……。ポーチに腰かけ缶ビールを飲み干すウォルト・コワルスキー(=イーストウッド)が時折語る自身の経歴は、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:45 PM

January 24, 2009

『我が至上の愛 アストレとセラドン』エリック・ロメール
梅本洋一

 ずいぶん前のことになるが、「別冊宝島」が映画特集をしたことがあった。その中に安井豊が、とても面白いロメール論を書いていた。タイトルは『いい加減にしろよ、じいさん』だったように思う。たとえば、ロメールの歴史物をめぐって、バザンに遡って写真映像の存在論を論拠に、まじめな文章をぼくも書いたことがあった。この『我が至上の愛』にしても、耳に響いてくる変なフランス語──17世紀の書き言葉そのまま──を『O侯...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:45 PM

January 14, 2009

『近代日本の国際リゾート──1930年代の国際観光ホテルを中心に』砂本文彦
梅本洋一

 建築史家、砂本文彦の博士論文が下敷きになった大著である。大東亜共栄圏に向けて中国侵略を開始した時代、当時の鉄道省を中心に、日本で初めての国際観光ホテルの建設が進んでいたことは知られている。外貨不足が侵略という軍事的な結末を見た当時、外貨不足を観光立国で補おうとする政策も進められていた。もちろん観光立国政策は戦争に向かって頓挫することになるが、その政策の成果が、30年代に建設された国際観光ホテルで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:32 AM

January 13, 2009

『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』ジャド・アパトー/『寝取られ男のラブ♂バカンス』ニコラス・ストーラー
結城秀勇

 買ってしまった映画の消化スケジュールというだけなのかもしれないが、新作コメディの二本立て上映という近年稀に見るプログラムに惹かれ、新宿ミラノ座へ。予習のためにDVDを借りた『40歳の童貞男』が予想外に面白かったのでかなり期待していたのだが……。  結論から言えば、両作品ともひどく無難な出来、という印象だ。途中で席を立ちたいと思わない程度には面白いが、いかんせん長い……。こちらの勝手な期待としては...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:03 AM

January 12, 2009

08-09ラグビー大学選手権決勝
帝京対早稲田 10-20
梅本洋一

 豊田の2トライで早稲田の完勝のゲーム。見事に対抗戦のリヴェンジ、ということになるかもしれない。だが、全体的なゲームそのものの面白さはまったく伝わってこなかった。小さな部分から指摘すれば、ノックオン等のミスが多すぎる。早稲田のセンターがノックオンするのはいけない。プレッシャーがかかる部分での練習不足なのだろう。次にゲームメイクにおいてインテリジェンスが見られない。前半、帝京陣内深くに攻め入った早稲...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:23 PM

January 8, 2009

09 新年のラグビー
梅本洋一

○まず1月2日の国立競技場の2ゲーム。 早稲田対東海 36-12  ここまで魅力的なラグビーで勝ち上がってきた東海だが、早稲田の前に出るディフェンスに対すると打つ手を失う。東海の6番と8番を主なるターゲットに早稲田のディフェンスが前へ前へとプレッシャーをかけると、東海のアタックが寸断されてしまう。かつてのフランス代表のようなフレアを実現するためには、高度の個人技が必要になることが痛感される。  ス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:52 PM

08-09ヨーロッパジャンプ週間
梅本洋一

 今シーズンの4ヒルズは予定通り行われた。昨年はインスブルックがキャンセルになり、ビショクスホーフェン2連戦、しかもノットアウト方式ではなかったから、ちょっと興ざめ観があったし、優勝したのがアホネンだったから、時間が止まったような気がした。  今シーズンは従来通り。しかも、かなり高レヴェルの戦いが繰り広げられたと思う。マルティン・シュミットの本格的なカムバック、そして五輪を控えるロシアのヴァシリエ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:49 PM

December 31, 2008

『アンダーカヴァー』ジェームズ・グレイ
梅本洋一

 ブルックリンにあるクラブ・カリブ、1988年。そこの支配人がロビー(ホアキン・フェニックス)。彼は兄ジョー(マーク・ウォールバーグ)の昇進パーティーに恋人(エヴァ・メンデス)と出かけるところだ。兄は父(ロバート・デュヴァル)と共にニューヨーク警察に勤務している。法の抜け穴そのもののように白い粉が取引されるクラブ、そこを取り締まる警察。兄弟という血縁の強い絆は、法の内側と外側という境界線でもある。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 AM

December 25, 2008

セスク・ファブレガスの負傷
梅本洋一

 リヴァプール戦の前半終了間際、シャビ・アロンソとの攻防でセスクが倒れる。びっこを引きながら退場し、彼の代わりに後半開始から現れたのはディアビだった。重くなければいいが、と思うのは、アーセナル・ファンなら当然のことだろう。ギャラスに代わってキャプテン・マークを巻き、若いガンナーズの象徴であるこの選手を失えば、このチームの輝きの約半分はなくあってしまう。ちょっと行き詰まっていたので、この交代が吉と出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:02 AM

December 22, 2008

ラグビー大学選手権1回戦
早稲田対関東学院 21-5 帝京対慶應 23-17
梅本洋一

 抽選で1回戦の組み合わせが決まったため、決勝になってもおかしくない2ゲームが1回戦で行われた。このことについては、すでに多くの批判が語られているので繰り返さない。関東地区についても、上記の2ゲームが同時刻に行われた。熊谷と秩父宮のキャパを考えても、興業という側面から見ても、またぼくのようにスカパー!で見る人々にとっても、暴挙以外のなにものでもない。スポーツはそれをやる人のためにあるのと同時に、そ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:26 AM

December 18, 2008

『1408号室』ミカエル・ハフストローム
結城秀勇

 いわずとしれたモダンホラーの王様スティーヴン・キングだが、実は彼の作品の映画化で、映像として具現化されたギミックやクリーチャーのかたち自体が恐ろしいという例は余りないんじゃないだろうか。膨大な映画化作品の中でたいした本数は見ていないけれどぱっと思いつく90年代以降のものは、『マングラー』のプレス機にしろ、『ドリームキャッチャー』の怪物にしろ、キモカワイイ系が多い気がする(キングの音楽の趣味のせい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:43 PM

December 16, 2008

『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』ジョージ・A・ロメロ
結城秀勇

 この映画を見て、巷ではそれなりに評判の高い『クローバーフィールド/HAKAISHA』(マット・リーヴス)を、なぜちっとも面白いと思えないのかがよくわかった。冒頭(というか作品全体の構造)の形式の差異はひとまず脇に置いておくとすると、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』の序盤におけるカメラを持つ男の視点と、『クローバーフィールド』の終盤までのカメラを持つ男の視線は、確かによく似ていると思う。でもここで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:24 AM

December 12, 2008

『チェンジリング』クリント・イーストウッド
梅本洋一

 この壮大な作品についていったい何を書き記せばいいのだろう。いま、こうした作品を演出できるのはクリントしかいないだろう、と考えたこのフィルムのプロデューサーであるロン・ハワードの直感は正しい。自らの企画──それは次作の『グラン・トリノ』を待とう(You tubeでトレーラーが流れている)──ではなく、頼まれた企画の監督を請け負ったクリントの底知れぬ力には溜息が出るだけだ。映画とは何なのか、という途...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

December 8, 2008

『どこから行っても遠い町』川上弘美
梅本洋一

 同じひとつの商店街を行き交う人々とそこある店に集う人々が織りなす11篇の小説を集めた短編集。それだけ書けば、誰でもバルザックを思い出すだろう。BSの「週刊ブックレビュー」を見ていたら、川上弘美がゲスト出演していて、彼女もバルザックの名を口にしていた。  句点が文章の奇妙な位置にふられている彼女の文体と、それがもたらす効果は、この短編集でも同じだが、それについて考えはじめると深みにはまってしまいそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:36 AM

08関東大学ラグビー対抗戦 早稲田対明治 22-24
梅本洋一

 途中出場の田邊のコンヴァージョンが右のポストをたたいてノーサイドのホイッスル。入れば24-24 というゲームだった。多くの人々が語るとおり、明治の面子ならこの程度やれて当たり前だ。だが、本当に早稲田は弱い、これがぼくの実感。弱い上にナイーヴ。帝京に負け、良薬になったと思ったが、その敗戦はもう忘れられているようだ。明治の面子ならこの程度やれて当たり前なら、早稲田の面子なら、この程度ではどうしようも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:01 AM

December 7, 2008

ホンダF1撤退
梅本洋一

 かつて海老沢泰久の『F1地上の夢』と『F1走る魂』の2部作を読んでホンダとF1のただならぬ関係を知る者にとってホンダのF1からの撤退のニュースは本当に悲しい。本田宗一郎の不屈の魂でシャシからエンジンまで自社制作しF1に乗り込んでいく姿、そして中島悟が豪雨のオーストラリアGPで4位入賞したレースを目にした者にとって、ホンダは日産でもトヨタでもない。もちろん、BARホンダから始まった第3期の不甲斐な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:57 PM

『日本語が亡びるとき—英語の世紀の中で』 水村美苗
山崎雄太

 十代前半で水村さんは家庭の事情によりニューヨークへと渡るも、英語に馴染むことが出来ず、家に閉じこもって日に焼けた『日本近代文学全集』を愛読していたそうだ。曰くしばしば「私は古びた朱色の背表紙を目に浮かべて心を奮い立たせた」(『私小説 from left to right』)。いっぽう、水村さんとほぼ同世代の僕の母もまた、同じように十代半ばに家庭の事情によりロスアンゼルスに渡るも、英語によく馴染み...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:12 PM

December 4, 2008

『秋深き』池田敏春
渡辺進也

  情報誌か何かを見ていたときに、佐藤江梨子が織田作之助原作の映画に主演するという記事があって、なんでいまごろオダサクをやるんだろうと読んでいたら、この映画の監督が池田敏春だと知った。 いま、池田敏春と聞いてどれだけの人がわかるのかは知らないけれど(実際、『秋深き』を池田敏春の最新作と銘打って宣伝している媒体はほとんどないはずだ)、日活ロマンポルノ末期にデビューしたこの監督は、ディレクター...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:42 AM

December 3, 2008

『クリスマス・ストーリー』アルノー・デプレシャン
梅本洋一

 この不思議な家族の話を要約するとかなりの文字数になるだろう。物語は単純ではない。ここでは、血縁、生と死、そして善と悪という根源的なことがらが物語のエンジンになっている。それらが複雑に絡み合って、血縁を抗いがたい求心力にした家族が提示されている。場所は、デプレシャンの他の映画同様、ルベーだ。そして、季節は、タイトルが示唆するように、クリスマス前からクリスマスにかけての数日間。散り散りになった家族は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:59 AM

December 2, 2008

『日本語が亡びるとき──英語の世紀の中で』水村美苗
梅本洋一

 いまから10年以上も前のことになる。仕事で滞在していたパリのホテルでボーっとテレビを見ていたときのことだ。旧日本海軍についてのドキュメンタリーが放映されていた。もうよぼよぼになった旧日本海軍の将校たちのインタヴューが多く含まれていた。内容はすっかり忘れてしまったが、とても驚いたことがあった。そのお爺さんたちが全員、見事なフランス語で質問に答えていたことだ。戦前の人たちなんかは、「西欧文化」の輸入...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 PM

November 28, 2008

『木のない山』ソヨン・キム
田中竜輔

 上映後のQ&Aにて、客席に座っていたアミール・ナデリは自ら挙手し「魔法のような作品」と賛辞を送っていたが、まったく同意だ。素晴らしいフィルムだと思う。  夫が失踪し、生活に困窮した母親は、ふたりの娘を叔母に預け、自身もまた身を消す。その母親を待ち続けるふたりの少女は、小さなブタの貯金箱にお金が貯まったら母親が帰ってくると信じている……このフィルムはそんな状況に生きる幼い姉妹を描いた劇映画だ。もち...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:40 AM

November 25, 2008

『文雀』ジョニー・トー
梅本洋一

 ちょっと前のこのサイトにジョニー・トーの『エグザイル/絆』について、伝統工芸に到達しているとぼくは書いた。『エレクション』から『エグザイル』への道程は確かに伝統工芸へのそれだった。だが、『僕は君のために蝶になる』を見たとき、それまでのジョニー・トーのフィルムとはまったく異なるスタイルと物語を持っていたため、本当に驚いてしまった。スターが出演し、ありふれた恋愛物語がそこにあったから、ぼくはてっきり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:55 AM

マンチェスター・シティ対アーセナル 3-0
梅本洋一

 先週のアストン・ヴィラ戦に続いてアーセナル完敗のゲーム。マンU戦に、アストン・ヴィラに敗れ、このチームの不安定さが気になっていたが、このゲームを見ると、アーセナルの症状の重さが伺える。  アーセナルが、ヨーロッパでもっともスタイルを持ったチームであることは論を待たない。ショートレンジからミドルレンジのパス交換と両サイドのスピード感溢れる上がりを中心に、スペースをついてくるアタックは、チームのメン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:52 AM

November 24, 2008

『完美生活』エミリー・タン
田中竜輔

 長編二作目になるというエミリー・タン監督の本作は、理想とはほど遠い人生の在り方に苦悩する二人の女性を、フィクションとドキュメンタリーとの双方で被写体に選び、それを並列的に映し出したフィルムだ。実際の製作過程としては、当初は完全なフィクションとして製作されたこのフィルムの出来に不満を持ったタン監督が、後付けのようなかたちでドキュメンタリーサイドを撮影し、最終的なラストシーンがそのあとで付け加えられ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:09 PM

ラグビーテストマッチ 日本対アメリカ 32-17
梅本洋一

 テストマッチ2連戦2連勝は、ニュージーランダーやアイランダーに頼った日本代表が戦術的な的を絞ってある程度レヴェルアップできている現状を伝えているだろう。新ルールに則って、積極的にキッキングゲームを仕掛け、それにSOのウェブがうまく応え、ニコルス、ロビンスの両センターを核として安定したゲームを組み立てている結果である。ジョン・カーワンの手腕は確実で、ステップ・バイ・ステップ、日本代表を上昇させてい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:24 AM

『サバイバル・ソング』ユー・グァンイー
田中竜輔

 ユー・グァンイー監督の処女作にして前作『最後の木こりたち』は恥ずかしながら未見で、そのことを本当に悔やむかたちとなった。本作はその続編にあたり、監督自身が兵役のときに戦友だったという羊飼い/猟人のハン、そしてその妻と、彼の元を一時離れた「裏切り者」であるシャオリーツーたちの共同生活をその被写体としている。貯水地の建設を名目に当局から立ち退きを強いられるも、ハンはひたすらに抵抗し、厳しい冬を密漁に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:13 AM

November 23, 2008

『マクナイーマ』ジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ
田中竜輔

 第9回東京フィルメックスの朝日ホール上映1本目は、国内初上映となるジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ監督特集のなかでも最高傑作と言われる本作。とりあえず解説を流し読みしただけでも相当な怪作であろうことは伺えたが、冒頭の主人公マクナイーマの衝撃的な(ほかにどう表現していいものか……)生誕シーンからしてただ感嘆、爆笑である。  最初から最後までマクナイーマが揺られ続けるハンモックのように、映画は蛇...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:41 AM

November 17, 2008

『ブロークン』ショーン・エリス
宮一紀

 「70年代アメリカのサスペンス映画のような作品を撮りたかった」と語る謙虚で正しいショーン・エリス監督のコメントを聞いた時点で否応にも期待は高まった。実際、このイギリス人の若手映画作家は出来事の推移を適正な時間の中で観客に伝えることができ、風や暗闇といったそれ自体は決して画面に映らないものをとても大切に扱っているようにも見て取れる。だが、このフィルムは冒頭に引用されたエドガー・アラン・ポーの短編小...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:34 AM

November 15, 2008

『おかしな時代──『ワンダーランド』と黒テントの日々』津野海太郎
梅本洋一

 この本の帯にはこうある。「アングラ劇団旗揚げのかたわら、『新日本文学』で編集を学び、晶文社で雑誌みたいな本を次々に刊行。黒テントをかついで日本縦断のはて、幻の雑誌『ワンダーランド』を創刊! 60年安保から東京オリンピック、そして70年前後の大学紛争まで、若者文化が台頭した『おかしな時代』を回想するサブカルチャー創世記」。過不足なく、見事に本の内容がまとめられていると思う。「新日本文学」はともあれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:09 PM

November 12, 2008

『かけひきは、恋のはじまり』ジョージ・クルーニー
梅本洋一

 もっとも困難な映画とはどんなフィルムを指すのだろうか? あるいは、彼岸にあるフィルムとは何なのか? どちらの質問にも同じ解答を与えることができるだろう。解答例として挙げられるのは、『ヒズ・ガール・フライデー』(ホークス)、『フィラデルフィア物語』(キューカー)。複雑なキャメラワークも、凝った編集もなく、俳優たちが立ったまま、台詞を言っているだけだと感じられるように見えるのだが、それが極めて自然に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:07 AM

November 11, 2008

『赤めだか』立川談春
梅本洋一

 好評につき版を重ねている本をここで紹介するのは本意ではない。だが、誰からも、あれはめっぽう面白い本だ、と言われれば、どうしても本屋で手に取り、何ページか立ち読みしたくなるものだ。で、立ち読みしてみると、なるほど、これは面白い!と感じられ、平積みになっているその本を下の方から取って、レジに持って行ってしまうものだ。帰ってから寝る前に少しずつその本を読み進め、残りページが少なくなると、もう終わりかと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:26 PM

November 5, 2008

『エグザイル/絆』ジョニー・トー
梅本洋一

 おそらくハッピー・エンディングは来ないだろうと誰でも思うだろう。だが、それでも、ジョニー・トーの演出は、ぼくらを捉えて放さない。究極の「型」の世界。つまり、それは演出の果てとでも呼べるだろうが、ストーリーの進行とは関係なく、銃撃戦があれば、それを磨きをかけた演出で描ききる。それぞれの登場人物に、「型」があり、その「型」と別の「型」が結ぶとき、新たな「型」が生まれ、映画は「型」から「型」へと不定形...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:11 AM

October 28, 2008

『宮廷画家ゴヤは見た』ミロス・フォアマン
宮一紀

 18世紀末、スペインで長らく廃止されていた異端審問がカトリック教会の名の下に復権する。ポルトガル移民の子孫で裕福な商人の娘イネス・ビルバトゥア(ナタリー・ポートマン)は、ある晩居酒屋で豚肉に手をつけなかったことからカトリック教会にユダヤ教徒と見なされ、異端審問への出頭を命じられる。審問とは名ばかりの拷問——全裸で後ろ手に天井から吊るされる——によって罪の自白を強要されたイネスは牢獄に収容されるこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:39 AM

October 27, 2008

『アイアンマン』ジョン・ファヴロー
結城秀勇

 ロバート・ダウニーJr.、テレンス・ハワード、グウィネス・パルトロウ、そしてジェフ・ブリッジスの4人がほぼすべてのキャストなのだから、どんな風にしようと映画になる。しかしまったく子供向けではない人選……。かといって真っ当な大人向けでもない。  アイアンマンとして生まれ変わったロバート・ダウニーJr.が、今後一切自分の会社で兵器を作らないと宣言する記者会見でこんなことを言う。「自分が無責任なシステ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:01 PM

October 23, 2008

『シルヴィアのいる街で』ホセ・ルイス・ゲリン
結城秀勇

 最初に主人公の男を映し出したショットから既に監督の技量は明瞭に示されて、この作品を見て間違いはなかったことは明らかなのだ。それにとどまらず、そこから続く80分余りの時間は、まるで次第に活性化されていく自らの視覚と聴覚に翻弄されるかのような体験だった。  ストラスブールのカフェ。賑わう昼下がりオープンテラスで、それぞれの客が自らの連れと談笑し、見つめ合い、あるいはひとりで佇んでいる。建物のガラス窓...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:29 PM

October 22, 2008

『アンナと過ごした4日間』イェジー・スコリモフスキ
結城秀勇

 たとえば『ザ・シャウト』などにも見られたような、単純に語りの効率性に奉仕するわけではない時系列の交錯が、この『アンナと過ごした4日間』にもある。だが、ここで描き出されるものを物語として要約すれば、非常にシンプルなかたちにまとめることができる。すなわち、ひとりの男が隣に住む女性の部屋に忍びこむ、それが4夜の間続くということ。時折男の過去が、その間に挿入される。それら過去の出来事が、主人公の男レオン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 AM

October 18, 2008

東京中央郵便局、ついに高層へ
梅本洋一

 すでに郵便局からは基本計画が発表されていて、ヘルムート・ヤーンによる現状一部保存(詳細な計画を見ていないのだが、ファッサード保存程度だろう)と38階建になるという。今回、700億円を越える金額で大成建設が落札した、というニュースを新聞で読んだ。  小泉前首相が、都心の一等地に低層で土地を大きく占めている公共物件があっていいのか?という郵政民営化のシンボルがこの建物の解体だった。その小泉の新自由主...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:57 AM

October 16, 2008

『崖の上のポニョ』宮崎駿
田中竜輔

 あまりに露骨な「父殺し」の描写があるとはいえ、少女と少年の閉塞された状況からの離脱というごくありふれた物語を、極端に平面化された――ほとんど一枚絵にまでデフォルメされた――風景の描写に、偽の空間性を徐々に導入するという発想、言い換えれば2次元の空間であるアニメーションに3次元的な偽のリアリティを導入するという発想だけに拠って解決をもたらそうとした『ゲド戦記』の凡庸な想像力の持ち主に対し、その父で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:02 AM

October 15, 2008

『その土曜日、7時58分』シドニー・ルメット
梅本洋一

 ニューヨークのおそらくダウンタウンの一角にある古いオフィスビルにはDiamond Centerと表示されている。そのビルの中のさらに古びた一室で、傷だらけの木製のテーブルの上のダイアモンドを鑑定している老人ウィリアムがいる。「盗品を横流しいているんだろう?」アンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)が尋ねる。彼を警戒する老人にアンディは、不動産会社に勤める自分の名刺を渡す。  時制が何度も行き来...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:51 AM

October 12, 2008

『La frontière de l'aube』フィリップ・ガレル
槻舘南菜子

 公開初日にして観客は四人。たぶん暇つぶしの爺さん(わざわざ挨拶までしてきて、「昼間からこんな映画見てるのか、おまえ暇なんだろ?」と言われた)、若者(途中で離脱)、妙齢……ではない女性と、私。  シンプルなオープニングのタイトルを締めくくる「キャロリーヌに捧ぐ」という言葉には、見覚えがある。そう、『白と黒の恋人たち』も同じように・・彼女に捧げられていた。さらに、映画監督であるフランソワと、かつての...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

September 30, 2008

『アキレスと亀』北野武
山崎雄太

 絵を描き続ければ人が死に続ける。なんで映画観てこんな辛い思いをしなければならないのかとまた悲しくなってしまう……。  少年真知寿(マチス)は、大金持ちである生家に出入りする画家との素朴な交流から画家になることを志す。しかし、父親の会社が倒産に追い込まれてから生活は一変する。少年−青年−中年と時代を追って半生が語られてゆく真知寿を貫く無表情、過去への執着のなさは、すべて他人への無関心に端を発するも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:40 AM

September 27, 2008

『東南角部屋二階の女』池田千尋
梅本洋一

 若く才能のある映画作家たちが小さな世界に身を落ち着けてしまうのはいったいどうしてなのだろうか?  壊れかけた木造アパートの脇に庭付きの日本家屋があり、その縁側で老人はタバコを吸っている。会社を辞めた男はそのアパートの一室に住み、同じ日に会社を辞めた同僚と男と見合いをした女性が同じアパートに転がり込む。アパートのオーナーで小さな飲み屋を営む女性が老人の世話をする。男は老人の孫であり、父の残した借...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:03 AM

September 18, 2008

08-09チャンピオンズリーグ第1戦 ディナモ・キエフ対アーセナル 1-1
梅本洋一

 かつてディナモ・キエフはそのスピード溢れるフットボールでチャンピオンズリーグを席巻したことがある。シェフチェンコを擁した98-99シーズンのことだ。コーチのロバノフスキーは、中盤をやや省略し、あっという間に敵ゴール前に攻め込むフットボールで強豪を次々になぎ倒し準決勝まで進出した。シェフチェンコがこのシーズンの得点王になった。  アーセナルの緒戦の相手はこのディナモ・キエフだ。いくらプレミアで調子...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:27 PM

September 8, 2008

『ハンコック』ピーター・バーグ
結城秀勇

 ドリュー・バリモア、ルーク・ウィルソン主演の『100万回のウィンク』を見て、ラヴコメというジャンルから八割がた逸脱したその脚本にちょっとびっくりしてしまった。その脚本家ヴィンス・ギリガンが『ハンコック』にも参加しているというので見に行った。全体的に大味な印象は否めないが、この映画もまた歪な回路をたどって家族の物語へ至る。  あるいはこれはスーパーヒーローものというより、怪獣ものといったほうが近い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:50 AM

August 31, 2008

『ダークナイト』クリストファー・ノーラン
松井 宏

 バットマン出来の善し悪しは悪役にかかっている、というのがティム・バートンの教訓だったとすれば、ノーランの前作『ビギンズ』はそれを破ったゆえに駄目だったのわけかと勝手に納得していたものの、どっこい本作はジョーカー登場である、さてどうなるものかと期待は膨らむ。  で、やはりこのフィルムはジョーカーの肩にかかっていた。で、ジョーカーの存在に対して妙な感覚を持ってしまったので、このフィルムに対しても妙な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:38 AM

August 22, 2008

『ダークナイト』クリストファー・ノーラン
結城秀勇

 暗い夜かと思ったら、kがつくナイトだった。バットマンが活躍するゴッサムシティには「騎士」よりも「夜」の方がよく似合う。DCコミック版でもティム・バートン版でもアニメ版でもいいが、ゴッサムシティとはその大半を夜が支配する街、そして夜の生活者たちが支配する街である。まっとうな人間も一握りはいるようだが、あくまでも少数派で、そんな人たちの価値観の通用しない街であることが嫌われものヒーロー・バットマンの...全文を読む ≫

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August 17, 2008

『TOKYO!<メルド>』レオス・カラックス
山崎雄太

 日本人の目は女性器のようであるから汚らわしい……  こう被告席で吐き捨てるメルド(ドニ・ラヴァン)は、下水道の怪人である。といっても彼は、渋谷の事件以外とりわけ怖がられるようなこともしておらず、銀座においてもちょっと攻撃的な浮浪者といった程度で、けが人もいないようだ(食事も花にお札とわりと高尚)。メルドは、もうそもそもから「東京の人々」に恐れられており、われわれもまた「ニュース」を見ることによっ...全文を読む ≫

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August 11, 2008

『JUNO/ジュノ』ジェイソン・ライトマン
結城秀勇

 前作『サンキュー・スモーキング』もそうだったが、この監督(『ゴーストバスターズ』のアイヴァン・ライトマンの息子である)の作品は嫌いになれない。一見小品だが重厚な味わいがあるというわけではなく、小品は小品ながら、その尺度身の丈にあった誠実な作品を見せてくれる。  なにかと『ゴーストワールド』と比較されている『JUNO/ジュノ』だが、重要な比較要素としては主人公と年上の男性との音楽の交換が挙げられる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:42 AM

August 8, 2008

北京オリンピック・サッカー男子 アメリカ対日本 1-0
梅本洋一

 天津はすごく暑そうだ。ゲーム開始当初、気温は35度。画面が引いたときバックスタンドがぼやけて見える。湿気も多いのだろう。公害のせいもあるか。解説の山本昌邦は、アテネでの自らの体験を「オリンピックというのは、ユーロとはちがうんです。ピッチは綺麗ではないし、気温だって高い。綺麗なサッカーをして勝とうとしてもダメなんです」と語る。メキシコ・オリンピックの銅メダルは5バックで5-2-3という布陣だった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

August 5, 2008

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー
宮一紀

 一組の父と子が核戦争後と思しき灰燼と化した大地を延々と歩き続ける。空は暗澹たる分厚い雲に覆われ、そこに鳥の姿などあろうはずもない。寒冷化が進み、灰色の海の水は冷たい。もちろん魚など死に絶えているだろう。どうやら世界には〈道〉だけが残されたようだ。とても危険な〈道〉である。〈悪い者〉が出るかもしれないからだ。それでも彼らはひたすら〈道〉を南下して進んでゆく。多くの絶望的な光景に接しながら、父と子は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:58 AM

『トワイライトシンドローム デッドクルーズ』古澤健
田中竜輔

 現在の日本映画の実製作にかかわる状況というものがどのようなものなのか、映画監督でも何でもない一観客である私が知る由もないが、莫大な予算がかけられた信じ難い作品の予告編に対し、ただ呆然とすることにさすがに飽きてきた。もちろんそういった作品の多くを実際に見ていない怠惰故に、作品自体を全否定することなど許されるはずもないのだが、しかしそれら作品の多くに数億円という金額が費やされていると言われてもまるで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:19 AM

August 1, 2008

『告発のとき』ポール・ハギス
高木佑介

 ダグラス・サーク特集にせっせと通う傍ら、気がつけば終了間際になってしまっていた『告発のとき』を見に行く。トミー・リー・ジョーンズの息子がイラク戦争から帰還したのち、謎の失踪を遂げたことが冒頭で知らされ、物語は終始その事件の捜査という一点に絞られる。ほどなくして失踪事件は息子のバラバラ焼死体の発見によって殺人事件へと発展し、元軍警察トミー・リー・ジョーンズの異常な活躍ぶりで事件の真相が明らかにされ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:23 PM

『レディ アサシン』オリヴィエ・アサイヤス
結城秀勇

『クリーン』の冒頭を飾る工業地帯の夜景に打ちのめされて以来、アサイヤスの映画を見直してそこに映り込むインダストリアルな美しさを持ったものたちを再発見するたびに、愛としか言いようのない感情に心打たれる。たとえば『感傷的な運命』における、陶器という工業製品がそれを作った人間の手に柔らかに包まれる時。あるいは『夏時間』の、すべての身の回りのものがアノニマスな他と交換可能なものへ取り換わっていく中、主を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:12 AM

『レディ アサシン』オリヴィエ・アサイヤス
田中竜輔

 『デーモンラヴァー』のコニー・ニールセン、『CLEAN』のマギー・チャン同様、『レディアサシン』のアーシア・アルジェントもまたひとりぼっちだ。夥しい物量と運動に支配されている都市の空間の中で、彼女たちは自分自身を証明することができない。自分がどこに属していて、そして自分を護ってくれるものがどこにあるのかを、彼女たちは知ることができない。状況は彼女たちに無関心でありつつ彼女たちを束縛していて、彼女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:44 AM

July 29, 2008

『ハプニング』M・ナイト・シャマラン
結城秀勇

 科学の教師であるマーク・ウォルバーグが(その設定が既に驚きなのだが)、授業の中で子供たちに原因不明のミツバチの失踪について語っている姿は予告編でも見ることができる。恥ずかしながら、私は数年前から実際に世の中を賑わせているこの事件についてまったく知らなかった。Colony Collapse Disorderと呼ばれるこの現象は、『ハプニング』の中で語られるとおり、ミツバチの群れががある時突然一匹の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:32 AM

July 28, 2008

『ハプニング』M・ナイト・シャマラン
宮一紀

 前作『レディ・イン・ザ・ウォーター』は、驚くほど何の確証もないままに、「他のどこでもないここ・他の誰でもない君」という、あらかじめ取り決められた予定調和の世界を彷徨するフィルムだった。まるでロール・プレイイング・ゲームででもあるかのように事件が起き、物語が進展する様を、私はただじっと傍観するより他になかった。  常に「ここではないどこか」を目指し、「ここにはいない誰か」を欲している点で、『ハプニ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:16 AM

July 27, 2008

『奇跡のシンフォニー』カーステン・シェリダン
結城秀勇

 予告編を見て、『ボビー・フィッシャーを探して』に近い映画に違いない、見に行かなきゃなと思いつつも、同様に予告から『スリーキングス』だと判断した『ハンティング・パーティ』がそれほどそうでもなかったので、足がなかなか向かなかった『奇跡のシンフォニー』を終了間際になってやっと見た。  チェスと音楽というそれぞれの題材の映像的な処理の面では『ボビー・フィッシャー』に及ばないとはいえ、『奇跡のシンフォニー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:44 AM

July 12, 2008

『歩いても 歩いても』是枝裕和
梅本洋一

 これまで是枝裕和のフィルムとは、とても相性が悪かった。それどころか、彼のフィルムには、映画のエッセンシャルな要素だとぼくが考えてきたことを裏切る何かがあると感じられ、それを強く批判さえもしてきた。  だが『歩いても歩いても』を見る限り、かつてぼくが批判してきた彼のフィルムに関わる要素は、かなり稀薄なものになってきている。これは「『カポ』のトラヴェリングだ」と批判した死を超自然的な美意識に溢れた映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:02 AM

July 5, 2008

レーモン・ドメネク留任!
梅本洋一

 イタリアではドナドーニが解任されマルチェロ・リッピが再任されたというのに、フランスでは、レーモン・ドメネクが代表監督として留任した。ユーロのグループCを最下位、しかも得点1,失点6という最悪の成績であるにも関わらず、昨日フランス・フットボール協会のジャン=ピエール・エスカレット会長はドメネクの留任を発表した。ぼくも含めて誰でもが、すんなりディディエ・デシャンにその任が任されると考えていたのに、フ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:13 AM

June 27, 2008

成城コルティ
梅本洋一

 成城学園駅で降りたのはほぼ30年ぶりのことだ。目的は世田谷美術館分館清川泰次記念ギャラリーで開催されている、抽象画家・清川泰次が学生時代に撮影した「昭和十五年十一月十日.東京,銀座」の写真展を見るためだった。  だがせっかく成城学園で本当に久しぶりに降りたのだから、まずここで昼食を、と考え、「とんかつ椿」へ。東京の5指に入るこのとんかつの名店は、北口から徒歩10分ほどの完全な住宅地の中。おかげで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:01 PM

June 24, 2008

『最後の抵抗(マキ)』ラバ・アメール=ザイメッシュ
結城秀勇

 積み上げられた無数のフォークリフト用パレットが赤く視界を染める。そこはパレットの修理とトラックのメンテナンスを行う工場だ。輸送の根底に関わるその場所には、しかしながら流通の主体となるようなものはない。パレットはあってもその上に乗せる商品はなく、壊れたトラックはあってもそれが商品を積んでどこかへ流れていく姿はない。ここで働く人々を含めこの作品に現れるすべてのものは、工場の狭い敷地内で修理と再配置を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:54 PM

『イースタン・プロミス』デヴィッド・クローネンバーグ
高木佑介

 床屋で男が豪快に首を掻っ切られる光景を観て、まだ記憶に鮮明に焼き付いている『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』を思い出した。ティム・バートンと同じく、クローネンバーグの新作もロンドンがその舞台となっている。そして『イースタン・プロミス』の始まりを告げるべく男の首を掻っ切ったのは、もちろんジョニー・デップではなく、ロシアン・マフィアと関係を持つ怪しい人間たちである。  このフィルムに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:00 PM

June 18, 2008

『イースタン・プロミス』デヴィッド・クローネンバーグ
梅本洋一

 このフィルムの中盤に知的障害の16歳の少年が、チェルシー戦のチケットを手に入れてとても喜ぶシーンがある。スタンフォード・ブリッジと思われるスタジアム近辺にはサポーターがたくさんが詰めかけている。おそらくチェルシー対アーセナルのロンドン・ダービーだろう。  物語と骨相とほとんど関係のないこのシーンは、実へこのフィルムにとってとても重要なものだ。クローネンバーグは、スティーヴン・ナイトによるシナリオ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:49 AM

June 15, 2008

『ミスト』フランク・ダラボン
結城秀勇

 どこかからほとんどなんの理由もなく異生物がやってきて人々が右往左往するこの映画を見て、『クローバーフィールド』を思い出した。この2本を私はまったく評価しないけれど、私たちがなにを見ているのかを(逆説的に)考えさせられた。  閉鎖空間となったスーパーマーケットの、ファサードに貼りめぐらされたガラス越しに襲来する怪生物を評して、女性教師は次のようなことを言う。それらはいるはずのないもの、私たちの知る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:23 AM

June 14, 2008

『ぐるりのこと』橋口亮輔
梅本洋一

 『ハッシュ』以来6年ぶりの橋口亮輔の新作。『二十歳の微熱』以来、彼のフィルムを見続け、当初はどうしても目を背けたくなるようなナルシズムに閉口したこともあったが、それが次第に稀薄になり、「登場人物」という映画において必須の他者に眼差しが向かうようになる様を観察してきたつもりだ。  『ぐるりのこと』のすべては、子どもを失ったカップルの欠落と再生までの長い道程である。このフィルムを見終わって多くのこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:39 AM

June 10, 2008

『コロッサル・ユース』ペドロ・コスタ
山崎雄太

 真っ白い壁にもたれかかって役人から部屋の説明を受けるヴェントゥーラは、一点のシミのようでもある。  ひと月ほど前—、横浜・寿町にひっそりとたたずむマンションの一室を改装する現場に立ち会わせていただく機会を得た。寿町は元町・中華街とほど近い場所にありながら、東京の山谷、大阪の釜ヶ崎(あいりん地区)と並び日本三大ドヤ街として知られている。いまこれらの場所は、総じて外国人観光客向けの安宿として「クリー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:47 PM

June 8, 2008

『トウキョウソナタ』黒沢清
梅本洋一

 佐々木家の主婦であり母を演じる小泉今日子は、目が覚めたらこれが悪夢であってくれたらいい、というようなことを言う。それまで、平凡きわまりない日常生活を営んでいたはずの、佐々木家には、父の失業をきっかけに次々に事件が起こっていく。否、それもまた日常なのかもしれないが、それまで平穏だと感じられた日常に、一旦、小さな亀裂が入ったように感じられると、佐々木家は世界の荒波にもまれてしまうようだ。  電車の線...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:46 AM

June 5, 2008

『ランボー 最後の戦場』シルヴェスター・スタローン
結城秀勇

 先月号のキネマ旬報の星取コーナーでは4人の評者がそろってこの映画にひとつ星をつけていた。その論旨は総じて殺人描写が残酷すぎて悪趣味だ(北小路隆志は、そこから政治的な意図を汲み取ることが不可能だというようなことを書いていた)ということだった。  いったいこの映画のなにを見てるのか不思議だ。この映画の極めて明確な政治的態度とは、虐殺はもちろん醜悪だし、なおかつそうした行為を行う最低な人間を殺す場合に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:41 PM

June 1, 2008

バウハウス・デッサウ展@東京藝術大学大学美術館
梅本洋一

 すでに世界遺産にも登録されているからデッサウのバウハウスの校舎は、誰でもその姿を知っているだろう。シンプルなモダニズムの建築物でその縦型の広い窓からは自然光が降り注いでいる。いかにも居心地が良さそうな校舎。  ヴァルター・グロピウスの指揮の下に、カンディンスキーが、クレーが、シュレンマーが、そしてミース・ファン・デル・ローエがこの校舎に集い、この校舎周辺に新たに設計された宿舎に住まい、世界中から...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:50 AM

May 31, 2008

『PASSION』濱口竜介
宮一紀

 上映前の舞台挨拶で俳優の渋川清彦がいみじくも口にしたように「映画っつうのは映画館で観るもんです」。立ち見さえままならないほど多くの観客が詰めかけ、むせ返るような空気の中で(とはいえ次第に空調が効きすぎて寒くなってはきたが)映画が上映されるという久しく体験したことのなかったことがユーロスペースで起こっていた。しかもそれが平日のレイトショーで起こった。もちろんイベントの性格上、関係者が多く集まってい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:53 AM

May 30, 2008

『彼方からの手紙』瀬田なつき
高木佑介

 不動産会社に勤める吉永と彼の前に現れた少女ユキは、ユキの父親がかつて住んでいたという思い出の家を目指して旅に出る。我々にはその思い出の家が具体的にどこにあるのかは告げられない。真っ赤なニット帽を被った男と真っ白な服を着た少女は、彼らが出会った横浜から「どこか」へと向かって旅立つのである。  このような単純明快なストーリーを持つ『彼方からの手紙』は、我々がかつてヴェンダースの映画で観たような風景と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:11 PM

May 28, 2008

『丘を越えて』高橋伴明
梅本洋一

 銀座にルパンという文壇バーがあるという。ぼくは行ったことがない。1928年開業のバーで、「里見・泉鏡花・菊池寛・久米正雄といった文豪の方々のご支援を頂きました」とルパンのサイトに掲載されている。『丘を越えて』の撮影は、このバーのシーンでクランクインしたということだ。菊池寛に扮する西田敏行と文藝春秋社重役の佐々木茂索に扮する島田久作が、このバーのカウンターで「モダン日本」の出版について話し合ってい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 PM

May 26, 2008

『PASSION』濱口竜介
結城秀勇

「東京藝術大学大学院映像研究科 第二期生修了制作展」が渋谷ユーロスペースで開催されている。昨年に引き続き、すべての作品の技術の高さに目を見張るが、濱口竜介監督『PASSION』には、そうした水準を遙かに超えた感銘を受けた。5/29(木)の上映には、おそらく会場の客席は観客で埋め尽くされるだろうが、それだけではないより多くの人の目に触れるべき作品であるように思う。  30歳を目前にした幾人かの男女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:56 PM

『ポスト消費社会のゆくえ』辻井喬 上野千鶴子
梅本洋一

 バブルが弾けてから、「失われた10年」を経て、いろいろなものがなくなった。バブルの時代までのリードした国土計画やセゾングループがなくなったものの代表だろう。どちらも堤康次郎が起こした西武鉄道に端を発し、一方が堤義明、他方が異母兄の堤清二によって経営されていた。苗場スキー場や軽井沢といったリゾートが国土計画によって開発され、パルコやシネセゾンがセゾングループによって経営されていた。本書は、後者の社...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:20 AM

May 23, 2008

2007-2008チャンピオンズリーグ決勝
マンチェスター・ユナイティド対チェルシー 1-1 (PK 6-5)
梅本洋一

 暗いロシアというイメージとチャンピオンズリーグ決勝という晴れがましさとはどうも似合わない。そう思っていたが、ゲームが始まれば、フットボールはどこでも同じだ。そして、決勝はどの決勝でも緊張感に包まれる。  ウェス・ブラウンの最高のクロスがロナウドにドンピシャのファインゴールでマンU先制。だが、前半にうちにロナウドのゴールの「戦犯」エシアンのシュートがディフェンダーに当たってコースが変わったところを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:14 AM

May 22, 2008

爆音映画祭2008 佐々木敦レクチャー
『ヌーヴェルヴァーグ』ジャン=リュック・ゴダール
田中竜輔

 ゴダールの『ヌーヴェルヴァーグ』に先立って行われた佐々木敦氏によるレクチャーは、「現象、あるいは運動としてのヌーヴェルヴァーグとは、見ること、聴くことの不可能性をポジティヴに捉え直すためのものであったのではないか」という仮説から始まった。映画音楽と現実音の混交とは、見ることと聴くことにおける不可能性の極値であり(つまり現実において「絶対に見えないはずの音」と「絶対に聞こえないはずの映像」が映画に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 AM

May 21, 2008

爆音映画祭2008に寄せて
結城秀勇

 体験試写の『クルスタル・ボイジャー』、前夜祭の『CLEAN』、かえる目によるトーク&ライヴと『喜劇 とんかつ一代』、『台風クラブ』などを体験して、各々個別にレビューを書こうしてみたが、どうもうまくいかないのでこんな文章を書いている。  その難しさは、まあひと言でいえばすごいから見てご覧なさいというなんとも陳腐な感想へと収束してしまうのだが、しかしそれではみもふたもない。一歩進めてその困難さは、爆...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:53 AM

May 15, 2008

『NEXT-ネクスト』リー・タマホリ
結城秀勇

 ここまで原作から遠く離れるとそのことに対して特に不快な気もしないが、フィリップ・K・ディックの名前を出すとそれほど集客力に影響があるのかと不思議にもなる。ただ、原作における黄金に光り輝く美しい突然変異体が、どう考えてもくすんだニコラス・ケイジに変わっているという点が、原作とこの映画の「予知」に関する視点の距離感を明確に示しているのだろう。彼の役はどこか、才能を浪費したかつての天才児といった趣すら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:08 PM

May 11, 2008

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ポール・トーマス・アンダーソン
梅本洋一

 同じスコット・ルーディンをプロデューサーとする『ノー・カントリー』におけるトミー・リー・ジョーンズの抑揚のある演技(否、存在と呼んだ方が適切だ)と、このフィルムのダニエル・デル=ルイスの過剰な演技を比較してしまうと、どうしてもトミー・リー・ジョーンズに軍配が上がり、もしこのフィルムもトミー・リー・ジョーンズが主演していたら、などと考えてしまうのだが、それでもポール・トーマス・アンダーソンの志は高...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:11 PM

May 3, 2008

07-08チャンピオンズリーグ準決勝
マンチェスターユナイティド対バルセロナ 1-0(1-0)
チェルシー対リヴァプール 3-2(4-3)
梅本洋一

 やはり今年のバルサには大きな問題があるようだ。特にエトー。彼の弱気の原因はどこにあるのだろうか。それに何人もが連携する動きが乏しい。ホームでもアウェイでもポゼッションこそ上回ったけれども、危険を感じさせるのはメッシとデコだけ。シャビもイニエスタも細かい芸当はうまいのだが、決定的な仕事をするには至らない。メッシのシュートがキーパーに止められ、デコのシュートが枠を捉えなければ、ハードワークを厭わない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:11 AM

May 2, 2008

『さよなら。いつかわかること』ジェームズ・C・ストラウス
田中竜輔

 戦地に赴いた軍人である妻の死を伝えられた夫が、ふたりの娘とともに自動車に乗って行くあてもない旅に出る。「Grace is gone」という原題は慎ましくも完璧にこのフィルムの物語のほとんどすべてを語ってくれている。しかし、ジョン・キューザック演じる夫の妻であったこの「グレース」という女性について、私たちはほとんど何も知ることは出来ない。冒頭に重ねられた遠距離電話での日常会話、そして自宅の留守電用...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:03 PM

April 18, 2008

「音楽に批評は必要なのか」佐々木敦vs湯浅学with南部真理
宮一紀

 佐々木敦によって95年以降に書かれた数々のライナーノートがこのたび一冊の書籍に纏められ(『LINERNOTES』、青土社)、その刊行を記念したトークイベントがジュンク堂新宿店内のカフェにて開催された。  次から次へと紡ぎ出される魅力的な固有名詞の数々と、話者たちの口ぶりの軽やかさも相まって、危うくそこにある切実さが耳からこぼれ落ちていきそうになるのだが、「音楽に批評は必要なのか」と題されたこのト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:02 AM

April 17, 2008

『石の微笑』クロード・シャブロル
結城秀勇

 中原昌也『作業日誌2004-2007』の中では、『石の微笑』のタイトルの後ろに「★」(国内でソフト入手困難を示すマーク)が着いていた。DVDが出るのを待っていたのだが出ないらしい。ということで三軒茶屋中央劇場に足を運ぶ(余談だが二本立てのもう一本は『タロットカード殺人事件』。ウディ・アレンとクロード・シャブロル、アガサ・クリスティとルース・レンデル、スカーレット・ヨハンソンとローラ・スメット。な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:24 PM

April 15, 2008

アーセナル、この10日間
梅本洋一

 アーセナルの今シーズンはほぼ終えてしまった。日曜日のマンチェスター・ユナイティド戦に1-2で敗れ、重要なゲームが4ゲーム続いた中で、2分2敗。先々週の水曜日と先々週末の対リヴァプール戦を連続して引き分け、そして、先週水曜の対リヴァプール戦を4-2で敗れた。このゲームに敗れて、チャンピオンズリーグ敗退が決まり、マンU戦に敗れて、プレミアシップもほぼ3位が決定した。つまり、水曜と週末のゲームは、今シ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:17 PM

April 10, 2008

『ポストマン』今井和久
結城秀勇

 長嶋一茂はちょっとシルベスター・スタローンに似てるかも、というただそれだけの理由で見に行った。  始まってすぐに「バタンコ」と呼ばれる自転車にまたがる長嶋一茂の姿は、あの発達した上半身の筋肉のせいで既に異様なのだが、しかしなにかそれだけにとどまらない違和感を感じて見ていたところ、線路脇の道路を鈍行列車と併走するシーンではたと気付いた。 「自転車がすげえ速い!」  ちなみにもうこの一言で、この映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:35 PM

April 9, 2008

『ノーカントリー』ジョエル&イーサン・コーエン
梅本洋一

 『ノーカントリー』は、それまでぼくらが持っていたコーエン兄弟についての先入観を払拭してくれた。確かに多くの人たちが言うようにコーエン兄弟の多くのフィルムは、とても出来の良い映画学校の卒業生の作品のようだった。ひとつひとつのショットが適切で、物語を過不足なく語る技術が秀でていて、何よりも映画には歴史があることを心得ていて、その中の最良の部分を自らの作品に取り入れてきた。それは別の言い方をすれば、コ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:05 AM

April 2, 2008

『きつね大回転』片桐絵梨子(「桃まつり」より)
松井 宏

『きつね大回転』はその名の通り「回転」に満ちている。回転こそが内部を作り出す。ここにあるのは内部だけだ。きつねの住まう世界と人間の住まう世界は内部と外部に別れてはいない、そのどちらもが内部であり、ふたつの世界は分身なのだ。彼ら彼女らがともに都市(東京)に巣食い、闘いを挑み、そのリヴェット的遊戯が都市の分身さえも生み出す。だがまた冒頭とラストに映し出される上下のエスカレーターが示すように、『きつね大...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:23 AM

『granité(グラニテ)』大野敦子(「桃まつり」より)
松井 宏

『granité』の映し出す三浦の海岸と広大な畑の風景は、どこまでも重く鈍い鉛色だ。空も、そして海さえも登場人物にとっては逃げ場とならない。このフィルムが土、水、火、大気の四大元素からなるフィルムだとすれば、それはその四元素がひとりの若者にとって、歓びに満ちた保養材ではなく、あくまでも切迫した何かとしてあり(その切迫さは大野のもう1本『感じぬ渇きと』でも明瞭だ)、膨張しながらいまにも彼に襲いかかろ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:21 AM

March 25, 2008

『FAN』group_inou
田中竜輔

「うかうかしてらんない おちおち寝てらんない」、group_inouの1stフルアルバムのテーマは幾度も繰り返されるこのフレーズだ。とりあえず焦ってみるということ、彼らの行動規範がそのまま音楽になっている。彼らのライヴを何度目かに目にしたとき、音楽は馴れ合いのための「方法」なんかじゃなく、ときには敵を生み出すような「行動」であるべきなんだと、あまり音楽そのものとは関係ないことを考えた覚えがあった...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:51 AM

プレミアリーグ
マンチェスター・ユナイティド対リヴァプール 3-0
チェルシー対アーセナル 2-1
梅本洋一

 今シーズンのプレミアシップを占う大一番が2番連続! もちろん、期待を込めて見た。だが、結果はどちらのゲームもややあっけないもの。期待を裏切ることにはなったが、こういうことはよくあることだ。  まずマンU対リヴァプール。フェルナンド・トーレスにイエローが出されたのに抗議したマスケラーノが2枚目のイエローをもらったところで、このゲームの趨勢は決まった。もちろん、リヴァプールもある程度持ちこたえられた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:51 AM

March 18, 2008

2008シックスネイションズ ウェールズ対フランス 29-12
2008ラグビー日本選手権決勝 三洋対サントリー 40-18
梅本洋一

 ウェールズがフランスに完勝し、ウェールズが久しぶりにグランドスラムを成し遂げた。ワールドカップでは評価を下げたチームをここまで再生させたのは、ヘッドコーチに就任したウォレン・ガットランドの力だ。彼は、特別なことをしたわけではないのだが、セクシー・ラグビーに呼ばれたウェールズが、低迷した原因を手際よく立て直した。まずはディフェンス。そのセオリーを遵守し、このシックスネイションズで与えたトライはわず...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:41 PM

February 27, 2008

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』ウォン・カーウァイ
梅本洋一

 そのほとんどのフィルムを見て思うのは、ウォン・カーウァイのフィルムは、とても通俗的だということだ。通俗的といっても決して悪い意味ではない。通俗的な物語が、思いっきり通俗的な音楽の中で語られていて、しかも、自らを売り出す方法が通俗的な意味で、とてもうまい。こう書くとますます通俗的というのが悪い意味であると断定されそうだ。だが、通俗的という言葉をポピュラーという形容詞に置き換えてみよう。「ポピュラー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:22 AM

February 20, 2008

『身をかわして』アブデラティフ・ケシシュ
梅本洋一

 アルノー・デプレシャンなどからその名声を聞いていたケシシュのフィルムを初めて見た。つい最近3作目がフランスで封切られたばかりだが、このフィルムは、彼の2作目にあたり、大きな評判をとったものだ。  パリ郊外の高校。もちろん、ここには郊外集合住宅に住む多くの移民軽労働者の子女たちが通っている。「郊外問題」「移民問題」の巣窟であり、「郊外映画」というジャンルまで生まれている。ジャン=クロード・ブリソー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:51 AM

February 15, 2008

『テラビシアにかける橋』ガボア・クスポ
結城秀勇

 絵が上手いのと足が早いのだけが取り柄のいじめられっこの貧しい少年が、転校生のボーイッシュな女の子と仲良くなり、ふたりは家の裏の森に空想の王国を作り上げる。こんなとき転校生の女の子が冴えない男の子にしてあげることの相場といえば、聞いたことのない音楽を聞かせたり、読んだことのない小説を貸したり、そしてなにより恋を教えたり、といったことであるはずなのだが、それを行う「年上の女」は別にいる。転校生が行う...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:45 PM

『ルイスと未来泥棒』スティーヴン・アンダーソン
結城秀勇

「前に進み続けよう」というウォルト・ディズニーの言葉をストーリーの中心に据えた『ルイスと未来泥棒』は、逆説的に「前」とはいったいどこなのかを考えさせるような作品だった。未来へのタイムスリップを描く作品でありながら、そこで描かれる未来像は、テクノロジー的に進化しているとか、イデオロギー的に素晴らしいとかをまったく感じさせない。単に変な世界なのだ。  発明に取りつかれたフリーキーな少年ルイスは、未来...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:58 PM

February 12, 2008

『パリ、恋人たちの二日間』ジュリー・デルピー
結城秀勇

 もちろん『ビフォア・サンセット』でアカデミー賞脚色賞を受賞した彼女のつくるダイアローグは、テンポよくリズミカルに観客を魅了する。それなりの文化レベル(?)の高さを感じさせるセリフもいやみじゃないし、ビル・アーケム橋で『ラストタンゴ・イン・パリ』の真似をするシーンも、やり方によっては凄く恥ずかしいものにもなりかねないのに、恋人たちの微笑ましいやりとりとして出来上がっている。この映画の見所がジュリー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:47 PM

建築の記憶展@東京都庭園美術館
梅本洋一

 建築が人々の記憶に留まるためには、写真が必要である。挿絵や図版以上に写真と建築の関係は色濃い。「建築の記憶」と題された写真展の発想は正しい。東京都庭園美術館という、まるで空間それ自体が「建築の記憶」のような建物で、この写真展が開催される意義は大きいだろう。旧朝香宮邸のアールデコ建築は、その歴史的な意義はともあれ、それほど好きになれる空間ではないが、目黒区のど真ん中にこれほど静寂観溢れる場所は他に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:48 AM

February 6, 2008

ジム・オルーク アコースティック・ライブ@横浜国立大学 2/2
宮一紀

 かつて『ユリイカ』誌上のインタヴューで「ソロはもうやらない」と語ったジム・オルークだが、どういう風の吹き回しか(後に語ってくれるのだが)、この日はアコースティック・ギターを抱えておよそ一時間半のパフォーマンスを披露してくれた。  オルークは、静寂の中にそっと弦の揺れを響かせると、何度も同じフレーズを反復させながら、彼自身の言葉を借りれば「自問」するように、少しずつ音楽を前進させていく。幾度も重ね...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:42 AM

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』
宮一紀

 それにしてもティム・バートンは徹底的に大人たちに死を与え、子供たちに生を与える。それが彼のファンタジー作家としての倫理であろう。先日テレビで放映された『チャーリーとチョコレート工場』(2005)では、様々に残虐な機械に回収されていった子供たちが、最後の最後でどういうわけか〈生〉だけは奪われずに帰還するのであった。結局のところ、文字通り〈子供〉の頃からティム・バートンを見てきたあなたや私のような若...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:56 AM

February 1, 2008

『ジェシー・ジェームズの暗殺』アンドリュー・ドミニク
結城秀勇

 伝説的な偉大さと凡庸な卑小さ。その対決が見られるものと思い足を運んでみたものの、期待は裏切られる。ブラッド・ピット演じるジェシー・ジェームズは、異様な人物ではあるものの偉大な英雄などではない。彼の行動自体は、後に「coward」の烙印を押されるロバート・フォードのとった行動とまったく同じだ。では何が彼を英雄に仕立て、ボブ・フォードを臆病者に貶めるかといえば、それはジェシーの生前は小説やジャーナリ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:19 AM

January 28, 2008

キリンチャレンジカップ 日本対チリ 0-0
梅本洋一

 代表チームの前に監督名をつけるのは確かに余り格好のいいものではないが、ナンバー誌最新号の特集の通り「監督力」というのも事実だ。ましてや代表チームの監督は選手を選べる。岡田武史の代表監督復帰第一戦の相手がビエルサのチリだったのは、組み合わせとして面白い。そして、岡田がキャッチフレーズに大西鐵之祐の「接近、展開、連続」を挙げたのも、面白い。  そしてゲームは? これがまったく面白いものではなかった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:28 AM

January 26, 2008

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』ティム・バートン
梅本洋一

 ティム・バートンがこのブロードウェイ・ミュージカルの傑作に興味を持ったのは、本当に自然なことだと思う。初期の『バットマン・リターンズ』の時代から、彼は地下という空間や、その空間の持つ外界から隔絶されたほの暗い世界に異様なまでの興味を抱いていたからだ。バートンの世界というのは、ファンタジーでもドリームでもなく、そうした「心温まる」ものや「バラ色の未来」のようなものとは正反対の、どうしようもなく救い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:29 PM

January 25, 2008

『新・都市論TOKYO』隈研吾 ・清野由美
梅本洋一

 あるサイトに建築家隈研吾とジャーナリスト清野由美が、汐留や六本木ヒルズを歩きながら、対話を重ねるページが連載されていた。とてもおもしろく読んでいた。東京改造に携わる側の建築家である隈研吾にジャーナリスト(決して素人ではない)清野由美が直裁的な質問をぶつけ、ときには明解に、ときには苦渋を込めて、そしてときには悔恨を表しながら、それでも正直に清野の質問に答えていく隈の言葉が興味深かったからだ。  本...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:04 PM

January 23, 2008

『人のセックスを笑うな』井口奈己
梅本洋一

 山崎ナオコーラの原作をぼくは読んでいない。だから原作と比較してどーのこーのとは言えない。でも、このフィルムは大好きだ。快晴の田園地帯を2両編成の電車が走り、遠くに山々が霞んで見える風景の中に住む登場人物たちの話だ。19歳の美術学校の生徒「みるめ」と、39歳のその学校のリトグラフの先生「ゆり」の恋物語だ。 「ゆり」が詳細にリトグラフを作るプロセスがいい。「みるめ」が「ゆり」の指導でリトグラフを作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:15 PM

January 16, 2008

『東京1950年代―長野重一写真集』
梅本洋一

 本書の63ページに「表参道 青山」(1952年)と題された一枚の写真が載っている。横位置の写真がぼぼ中央で区切られ、上方にはごくわずかな雲しかない空がある。空と陸を区切るのは黒々とした林だ。青山通りから原宿駅に向けて捉えた写真。表参道の幅の広さは今のままだろう。かつてあったもの。同潤会アパートメント。まだ窓には洗濯物がはためいている。そして、おそらく明治通りから原宿よりは両側が林だったのではない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:08 AM

January 12, 2008

『アメリカン・ギャングスター』リドリー・スコット
松下健二

 主人公である麻薬王フランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)と刑事リッチー・ロバーツ(ラッセル・クロウ)は、「正義」について反対方向から実践を試みる、対をなすコインの裏表のような関係にある。  麻薬を牛耳るギャングスターは、ギャングといえども単に私欲に目が眩んで荒稼ぎしているのではなく、ある独自の「正義」に則して、麻薬事業に身を投じる。その「正義」とは、彼が15年間運転手として仕えた師であるバン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:38 PM

三越日本橋本店
梅本洋一

 運転免許の更新を東陽町の試験場でやった帰りに、久しぶりに人形町や日本橋を歩いた。  人形町から日本橋への道は、川を隔ててずっと三菱倉庫のビルがかなり長く続いている。正面からの写真は何度も見たが、背後も側面もかなりの意匠を凝らしてある。レンタル倉庫の大きな看板が「うざい」し、もっと有効活用できそうだ。周辺には日清製粉のビルが数棟あるが、一番人形町よりのビルは、使用率が低いようだ。だが、シンプルなモ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:17 PM

January 10, 2008

『再会の街で』マイク・バインダー
松井 宏

興味深い点はひとつ、どうして彼らは旅にも出ずNYに留まり続けるのかということだ。彼らとはすなわち9.11で妻子を失って心を病んでいる元歯科医アダム・サンドラーと、かつて大学時代ルームメイトで数年ぶりに偶然彼に再会した歯科医ドン・チードル。つまりこれは恰好のロードムーヴィネタだろうということで、たとえばヴェトナムで心病んだ男たちは旅に出ていたではないか、そこでわけもわからず海を目指してみたり、どうし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 AM

December 30, 2007

『ベオウルフ/呪われし勇者』ロバート・ゼメキス
松井 宏

 『ベオウルフ』の焦点は画面前にある。  それは「前に飛び出す」という3D上映の焦点でもあり、そして演繹的にか帰納的にか、『ベオウルフ』というフィルム自体の焦点も画面前にある。ゼメキスにとっては画面外=フレーム外という概念は消失し、新たになのか始源的になのか、画面前という概念が重要になってきたと言えようか。  この3D上映を見つつまず驚くのは、一種の始源性めいた何かがそこにあるということ。技術的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:19 AM

December 23, 2007

『接吻』万田邦敏
黒岩幹子

住宅街にあるコンクリートの階段を上がっていく男の後ろ姿からこの映画は始まる。手すりをつかみながら上っていくその足取りはいくぶんヨロヨロしているが、彼が疲れているのでも酔っているのでもないことは一目でわかる。くたびれたジャンパーを着たその背中はすっと伸びている。 彼はほどなくして殺人者となる。河原で逮捕されるのを待っている彼の姿が再び後ろから映される。両腕を大きく広げるとき、その背中はまるで鳥が羽を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:25 PM

December 22, 2007

『スリザー』ジェイムズ・ガン
結城秀勇

 エイリアンものとゾンビものとサイコキラー(地縛霊か?)ものを合わせたような作品である。といってもそれらの特色を適当につまんで盛り合わせたというものではない。この順番こそが大事なのである。エイリアン→ゾンビ→人間の怨念というシフトが、画面内の物体の運動速度を変化させる。  宇宙からやって来た生命体が地球人に寄生し、だんだんその支配を広げやがて街全体が人間でない生物に変わっていく……なんてストーリー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:44 AM

『牡牛座—レーニンの肖像』アレクサンドル・ソクーロフ
松下健二

『モレク神』(99)『太陽』(05)と連作を成す『牡牛座—レーニンの肖像』(01)がようやく公開される。この作品が公開されるまでに実に七年の歳月が経っている。この間、僕は『エルミタージュ幻想』(02)も『ファザー、サン』(03)もそして『太陽』も見てしまっており、ソ連時代から一貫して芸術家であったこの映画作家の動向をすでに目の当たりにしていたのだが、そんななかでも『牡牛座』はまた新鮮に僕の目に映っ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:34 AM

December 21, 2007

『接吻』万田邦敏
宮一紀

 コミュニケーションとは本来的に実現不能な諒解のプロセスないしはその帰結の様態を理念として指し示す語であろう。すなわち人と人とは互いに見知らぬ空白の関係に始まるが、それは共有される言葉や時間によって填充される余白などでは些かもなく、私たちはつねに誤解をもって諒解と解釈するしかない。誤解と諒解とは対極に位置づけられると同時に限りなく近似的である。その意味で私たちはみな等しく孤独な存在である。  遠藤...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:25 PM

December 19, 2007

『接吻』万田邦敏
梅本洋一

 各所から評判を聞いていた『接吻』をようやく見ることができた。期待に違わぬ傑作だ。小池栄子、豊川悦司、中村トオルの3人の俳優が見事だ。収監された猟奇殺人犯・坂口を演じる豊川、国選弁護人・長谷川を演じる中村、そして誰よりも、逮捕される瞬間が放映されたテレビ画面で微笑む坂口を見て人生を決めた孤独な女性・遠藤京子を演じた小池栄子が素晴らしい。  テレビの小さなモニターの微笑む顔と、たったひとりで住む小さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:42 AM

December 18, 2007

アーセナル対チェルシー 1−0 
梅本洋一

 フットボール・ファンにはやたら忙しい日曜日。午後にはラグビー大学選手権1回戦の同志社対筑波、早稲田対中央、同時刻にトップリーグ、三洋対東芝、これでもう夕刻だ! 今年の関西はレヴェルが低い。筑波のディフェンス勝ち。そして中央は頑張るけど、早稲田の順当勝ち。そして三洋の好調ぶりの前に東芝の完敗。来週のサントリー対三洋が事実上の優勝決定戦か。早めに夕食を済ませ、仕事を早々に片づけると22時過ぎ。今日の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:30 PM

December 13, 2007

『呉清源 極みの棋譜』 ティエン・チュアンチュアン
鈴木淳哉

荻野洋一氏のブログに導かれて観劇に行ったという梅本洋一氏の文章に登場する「ものの肌理」という言葉に引き寄せられて観にいったものの、それは「キメ」と読むのだ、「キリ」ではないと洋行帰りの友人に冷や水を頭からかけられ愕然とするまでは、熱に浮かされるような、とにかくこの映画を駆動するエネルギー、そ の在り様にあてられて要はぽうっとしていた。くわえて「でんそうそう」と呼んで憚らないという国辱的に無知な、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:02 PM

December 12, 2007

ミドルスブラ対アーセナル 2-0
梅本洋一

 先節のニューキャッスル戦からアーセナルの調子が落ちている。故障者リストには、フレブ、フラミニ、ファン・ペルシ、セスク、ディアビが並んでいる。ファン・ペルシとディアビは替えがきくからまだいいが、フレブ、フラミニ、セスクの怪我は痛い。4人のミッドフィールダーのレギュラーのうち、3人が故障者リスト入り。そして、残ったメンバーは皆疲れている。  ニューキャッスルに続いてそんなアーセナルにボローが襲いかか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:11 PM

December 9, 2007

『呉清源 極みの棋譜』 ティエン・チュアンチュアン
梅本洋一

 ぼくは碁を打たないからどれがどういう勝負なのかまったく知識がない。このフィルムを見る前に少しばかり危惧した内容についての無知は、杞憂に終わった。荻野洋一のブログに導かれてこのフィルムを見ると、ふたつのことを語るべきだろうと思う。  まず映画が持っている肌理ということ。それぞれのショットは物語を語るために用意されているのだが、それ以上に、ショット内部の至る所に仕掛けられた「ものの肌理」を、まるで演...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:34 AM

岡田武史代表監督就任
梅本洋一

 いずれはこの日が来るだろうとは思っていた。98年のフランスW杯では、相当悔しい思いをしたろうから、岡田としてはリヴェンジという気持ちを持ち続けていたろう。マリノスでの連覇も、彼になかったクラブチームの監督としてのキャリアを積むためだったろう。だが、ジーコといい、オシムといい、岡田武史といい、どうして日本代表の監督には、こうも育成型の指導者が並ぶのだろうか? 長い期間の合宿を組むことも出来ないし、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:29 AM

December 4, 2007

『タロットカード殺人事件』ウディ・アレン
結城秀勇

 珍しくスカーレット・ヨハンソンに好感を持った。いつもいつも彼女が演じるセクシーで謎めいた女性にはあまり説得力がないように感じてしょうがない。たとえば、ウディ・アレンとはじめてコンビを組んだ前作『マッチポイント』でもファムファタルめいた女を演じていたけれど、映画の終盤になってわかるのは、彼女がつまらん女だということだった。ところがこの『タロットカード殺人事件』におけるヨハンソンは、はじめっから開け...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:56 PM

November 26, 2007

『サッド ヴァケイション』青山真治
藤原徹平

 若崎と戸畑を結んでいる若戸大橋は、不思議な橋だ。その赤くペイントされた橋は、ずいぶん高いところを通っていて、確かそれは東洋一高い吊り橋だと誰かに聞いた気もするけれど、それにしても随分と高いな、あるいは遠いなという印象で、街を歩いていてふと目に入ると、どこか現実から剥離したような不思議な空気感を持っている。すぐそこにあるようなしかし無いような存在感に妙に心が騒ぐ。それは、若崎と戸畑を結んでいる。確...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:21 PM

November 15, 2007

『酔眼のまち──ゴールデン街1968~1998』たむらまさき、青山真治
梅本洋一

 今から25年も前のことだ。テオ・アンゲロプロスの『アレクサンダー大王』の試写を銀座の東宝東和第二試写室で見てから、軽く食事をとって、ぼくは、彼女とゴールデン街に行った。伊勢丹の前から横断歩道を渡り、花園神社の脇の遊歩道を通り、ゴールデン街に入って、小路をふたつ通り、角の自販機でタバコを一箱買い、三軒ほどの先の急な階段を上がったところにジュテはあった。狭い店に入ると、あなたたちさっき見てくれていた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:45 PM

『ラ・ヴァレ』バルベ・シュローデル
結城秀勇

 全編ニューギニアロケで撮影されたこの映画の撮影がどのようなものだったのか、出演者やスタッフのひとりひとりに聞いてみたい気がする。70年代前半、ネストール・アルメンドロスとともに、ギニアでのいくつかの短編ドキュメンタリーやウガンダでイディ・アミン・ダダのドキュメンタリーなどを撮影しているシュローデルだが、この映画においては撮影の過程がそのまま、未踏の地への旅というこの映画のストーリーそのものになっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:05 PM

October 28, 2007

「労働の拒否」廣瀬純レクチャー@東京日仏学院
『労働喜劇』リュック・ムレ
田中竜輔

 廣瀬純はその講演の冒頭で、大胆にジル・ドゥルーズの『シネマ』をおよそ次のように要約する。ドゥルーズの論理において、個々の映画作品(フィルム)とは有限個の要素からなる宇宙(メタ=シネマ)の組み換えによって生みだされるものであり、それら映画作品は決してその宇宙=シネマを全体とする部分に相応するものではない、と。そしてそれぞれ単一の要素にはひとつとして「特権的瞬間」は存在せず、それらはいずれも「どれで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:53 PM

October 24, 2007

第20回東京国際映画祭レポート『タイペイ・ストーリー』エドワード・ヤン
宮一紀

 エドワード・ヤン監督の長編第2作『タイペイ・ストーリー』が本国では公開2日目で早くも打ち切りになったという上映後のホン・ホン監督(今年の東京国際映画祭に出品されている『壁を抜ける少年』を監督)の言葉が重くのしかかる。つねに制作や配給の実際的な困難に悩み、憤っていたと伝えられるエドワード・ヤンだが、そのような当時の台湾の閉塞感はそのまま画面に映り込んでいる。台北を舞台としながら僕たちの眼にも既視の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:40 AM

October 23, 2007

第20回東京国際映画祭レポート『誰かを待ちながら』ジェローム・ボネル
宮一紀

 渋谷に向かう東横線の車内で中学時代の同級生を見かけたような気がした。電車を降りてから声を掛けようと思ったら、雑踏にまぎれて見失ってしまった。ふと、それほど親しかったわけでもない同級生に声を掛けようとした自分が滑稽に思えた。  気鋭の若手作家と呼び声の高いジェローム・ボネルの新作『誰かを待ちながら』はフランス郊外の日常を生きる匿名的な人々のすれ違いを描いた群像劇である。もっとも、偶然を装ったすれ違...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:14 AM

October 21, 2007

第20回東京国際映画祭レポート『恐怖分子』エドワード・ヤン
宮一紀

 第20回東京国際映画祭が開幕した。メイン会場となるTOHOシネマズ六本木ヒルズに上映作品の出演者たちが多数登場したことが大手メディアでも報じられている。日本の映画業界がそんなに華々しい世界だったとは寡聞にしてついぞ知らなかった。僕が訪れたのはもうひとつの会場である渋谷Bunkamura。会場周辺ではボランティア・スタッフたちが呼び込みをしていたが、そもそも普段から混雑したエリアなので、果たしてそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:17 AM

October 7, 2007

知識人の役割

本日見た2本はどちらも立ち見。かなりの盛況ぶり。メイン会場である中央公民館ホール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:22 AM

October 6, 2007

魔女のダンス、革命の歌、母親の写真

スケジュール調整と体調管理の悪さのせいで、今回の山形国際ドキュメンタリー映画祭は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

『すべてが許される』ミア・ハンセン=ラブ
梅本洋一

 過去のすべての事どもを忘れることなどできないのだが、時間と空間の大きな隔たりが、遺恨や後悔をもっと大きな寛大さへと変貌させうることを、ぼくらは『サッド ヴァケイション』を見て学んだばかりだ。そんなとき、弱冠26歳の女性が、ほぼ同じことを別の空間と時間で考えていた。ミア・ハンセン=ラブだ。  ぼくらが彼女の姿を初めて見たのは、オリヴィエ・アサイヤスの『八月の終わり 九月の初め』に出演した姿だった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:33 AM

September 28, 2007

教文館ビル@銀座
梅本洋一

 秋の到来を告げるような雨の中を銀座に向かった。『東京遺産』というDVDを見て、その中にバー「ボルドー」という短編を見たからだ。ボルドーは、新橋駅側の銀座中央通りから2本昭和通り側にある通りにひっそりと建っていた。この蔦の絡まる古い古いバーでゆっくりアルコールをいつか楽しんでみたいと思う。この辺にも銀座の再開発の波が本当にすごい勢いで訪れている。YAMAHAも解体され、工事中の塀に囲まれていた。5...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:33 AM

September 22, 2007

アントニン&ノエミ・レーモンド展@神奈川県立美術館鎌倉
梅本洋一

 レーモンド夫妻が特に日本の建築に果たした役割の大きさは知られている。何も前川圀男、吉村順三のふたりがレーモンド事務所に在籍していたからばかりではない。ライトの大きな影響下から出発し、モダニズムへ傾斜していき、日本の風土や社会・歴史環境の中でヴァナキュラーな建築を実践していった姿は、本当に興味深い。  今回の展覧会の特徴はアントニンの妻のデザイナー、ノエミにスポットが当てられていること。だが、多く...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:58 PM

September 21, 2007

モウリーニョ解任
梅本洋一

 今朝ジョゼ・モウリーニョ解任のニュースが飛び込んできた。不調のチェルシーで、しかもローゼンボリにホームで引き分け。だが、プレミアシップは始まったばかりで、チャンピオンズリーグもグループステージの緒戦が終わっただけ。  つまり、アブラモヴィッチは、モウリーニョ解任の機会を窺っていたのだろう。後任監督にはエイヴラム・グラントが就任したという。エイヴラム・グラントって誰? 「エイヴラム・グラントで検索...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:09 PM

September 11, 2007

『夜顔』マノエル・デ・オリベイラ
梅本洋一

 ユッソンが40年ぶりにサル・ファヴァールでのコンサートで見かけた女性、それはセヴリーヌだった。ドヴォルザークの交響曲8番の演奏が終わり、拍手が鳴りやみ、出口へと向かう観客たち。ユッソンはセヴリーヌを追う。セヴリーヌはユッソンを認めるが、それ故に足早に出口で待っているメルセデスに乗り込んで夜のパリに消える。サル・ファヴァール──ここはかつてオペラ・コミック座として、多くの軽歌劇が上演された場所でも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:33 PM

September 7, 2007

《再録》すでに語られることのない映画監督のために
渡辺進也

(2007年9月7日発行「nobody issue26」所収、p.36-41) 1.  『サッド ヴァケイション』には何人もの男たちが、そして女たちが間宮運送というひとつの場所を交通点として行き来する。それぞれが他の人間にはわからない理由によって、最後に流れ落ちてくる場所のように、集まってくる。その場所でひとりひとりが自分の生活の場を確保し、与えられたわずかな場所でひっそりと生活する。  間宮運送...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:09 PM

September 5, 2007

『ブラック・スネーク・モーン』クレイグ・ブリュワー
梅本洋一

 平日の午前中にブルースは似合わないかもしれない。だが、映画館にはTシャツでヒゲを生やした中年男たちが集まっている。どこかで(boid.net?)サン・ハウスの貴重な映像が入っていることを聞きつけた、世の中に回収されるのを今なお拒んでいる初老のオジサンたちのように見える。いつもならぜんぜん場違いなぼくの服装も、この朝のシネアミューズならスタンダードに思える。  ブルースは愛し合った男と女から生まれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:55 AM

September 4, 2007

『明るい瞳』ジェローム・ボネル
梅本洋一

 この古典的な完成を遂げているフィルムを前にして、それを撮ったのが1977年生まれの映画作家であるという事実は、十分に人を驚かせるものであるだろう。「若い」と「瑞々しい」というふたつの形容詞が並立することを普通のことであると考えるぼくらにとって、こうした完成は、若さと引き合わない何かだからである。  そして、ここで言う「完成」が、過不足ない編集であるとか適切なキャメラポジションであるとか、演出の巧...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:57 PM

August 30, 2007

伊東豊雄 建築|新しいリアル@神奈川県立美術館葉山
梅本洋一

 東京オペラシティ・ギャラリーでの展覧会を見逃してしまったので、たまたまヴァケーション先の葉山で開催されていたこの巡回展を見た。  まず佐藤総合計画による設計のこの美術館について。ずいぶん話題になっていたので、楽しみにしていたが、いざ訪れてみると、立地の素晴らしさを建物が十分に活かしていないように思えた。御用邸を過ぎ、一色海岸の上に建つという立地は、もちろん、ここにどんな建物が建とうとも、そこから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:02 AM

『長江哀歌』ジャ・ジャンクー
梅本洋一

 やはりこの映画作家は風景と遭遇したとき、その才能をもっとも発揮するようだ。前作の『世界』は、確かに批評のレヴェルでは見事なものだったし、ユネスコ村のような風景は、決して世界の縮図にはなれない「世界」でもあったのだが、やはり、そうした物語の構図が風景に先立っているように見えた。だが『長江哀歌』では、なんといっても長江が圧倒的だ。もちろんぼくらには長江という固有名よりも揚子江と言われた方がぴったりく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:58 AM

August 26, 2007

アーセナル対マンチェスター・シティ 1-0
梅本洋一

 エリクソンが監督に就任し、先節ではマンチェスター・ダービーに勝利を収めたマンチェスター・シティ。今シーズンはまだ負けがないどころか、無失点。ペーター・シュマイケルの息子のカスパーがゴールを守る。  対するアーセナルは、先週のギャラスに続いて今週はセンデロスが負傷。体調万全ではないジウベルトがセンターバックに入っている。しかも2戦連続でミスをしたレーマンが負傷し、アルムニアがGK。大丈夫かよ、アー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:29 AM

August 21, 2007

イタリア対ジャパン 36-12
梅本洋一

 風光明媚なアオスタ近郊でキャンプを張るジャパンのW杯前哨戦。地元イタリアとの対戦。ジャパンは、良いところなくトリプルスコアで敗れた。  FWの強いイタリア、シックスネイションズでもまれバックスも力をつけているイタリアに真っ向勝負を挑んでは、結果はこんなものだ。トライ数で5-2であって、ディフェンスがある程度通用したと考えるのは間違いだ。トライを取る方法論は相変わらずない。この日のトライもモールか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:59 PM

August 17, 2007

『レディ・チャタレー』パスカル・フェラン
梅本洋一

 D・H・ロレンスのこの小説を巡るスキャンダルについて語ることは、単に時代が変わったのだ、と言うことに過ぎない。「生きる」ことには身体がつきまとい、ふたつの身体が重なり合うことが「恋愛」に欠かせないとしたら、このフィルムは、「森番」パーキンと「チャタレー夫人」のふたつの身体をどのように解放するのかが眼目になるだろう。戦争で半身不随になった夫、彼は、移動する際に手動の車いすを嫌い、広大な領地を車で走...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:53 AM

August 15, 2007

『斧に触るな』ジャック・リヴェット
梅本洋一

 バルザックの『ランジェ公爵夫人』を原作に、タイトルロールにジャンヌ・バリバール、恋人のモンリヴォーにギヨーム・ドゥパルディユ。最近のリヴェットの中ではもっともすばらしい作品。『ランジェ公爵夫人』がなぜ『斧に触るな』になっているかは、モンリヴォーが台詞で語っているので、ここでは詳説しない。  『美しき諍い女』が同じバルザックの『知られざる傑作』を現代に翻案したものであるのに対して、こちらはそのまま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:33 AM

August 11, 2007

原爆は物語を拒絶する ——〈東京日仏学院での対話録〉
舩橋 淳

 8月4日、広島原爆投下の2日前、長崎原爆投下の5日前に、「映画においてヒロシマを表象することの不可能性を超えて」と題される座談会が東京日仏学院で開催された。オペラ「蝶々夫人」のメーキングビデオ、『吉田喜重 オペラ「マダム・バタフライ」と出会う』上映に続き、ミシェル・ポマレッド氏、吉田喜重監督、岡田茉莉子氏、青山真治監督によるトーク。鋭利な知性が集った濃密な時間であった。ここではその内容を紹介する...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:03 PM

August 8, 2007

『天然コケッコー』山下敦弘
田中竜輔

 このフィルムの主人公はのどかな田舎の風景の中に遊び、泣き、笑い、騒ぐ子供たちだ。それゆえに同じように子供を中心に置いた傑作を何本か思い出してみるが、『蜂の巣の子供たち』や『ションベン・ライダー』のような破綻寸前の冒険も、『大人はわかってくれない』『新学期・操行ゼロ』の抵抗も、『動くな!死ね!甦れ!』のような凍てついた叫びも、このフィルムの子供たちからは見えてくることはないし聞こえてくることもない...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:34 AM

『SOUTH』安田南
梅本洋一

1974年の2月に南青山にあったジャズクラブ、ロブロイでのライブ版の復刻。安田南のこのレコードや続いて出た『Sunny』を愛聴版にしていたぼくは、かなり前からCDリリースを待っていた。大里俊晴から「出たらしいですよ」と聞いてタワレコに走った。  歳をとったせいか70年代のことをとてもよく思い出す。大学に入ってからこのライブが録音されたロブロイ──安倍譲治がやっていたジャズクラブ──や六本木のミ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:25 AM

August 4, 2007

『コンナオトナノオンナノコ』冨永昌敬
宮一紀

 斉藤陽一郎と桃生亜希子演じる若い夫婦がシネマ・ロサの階段を上るところからはじまるこの映画は、これまでの冨永監督作品同様にいかにも奇妙な状況をいくつもかいくぐりながら、しかし次第になにか恐ろしい事態がひそかに進行しつつあることを印象づける。そのことに気がついたのは、笑っていたはずの頬がいつのまにか引き攣っている、そんな収まりの悪さを何度か経てからだった。  たとえば杉山彦々とエリカによるベッドシー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:49 PM

August 3, 2007

『コンナオトナノオンナノコ』冨永昌敬
鈴木淳哉

 たまさか、スチール撮影で末席に加えてもらったということで呼んで頂いた試写会場で、いくらそのスクリーンに投影された光によって、なにやら色々な感情が沸き上がって来るのを感じ、そのいくつかの言語化に成功したとはいえ、それを即座に他人にも理解できるよう文章化するには、いかにも私の機知などが及ぶところではなく、また、油断すると監督の姿を見つけるやぬらりと脂ぎった顔で、その検討外れの称賛など投げかけるといっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:05 PM

August 1, 2007

ベルイマン、アントニオーニ追悼
梅本洋一

 大往生とは言え、ふたりの巨匠が同日に亡くなった。アントニオーニは『ある女の存在証明』以降のフィルムは、正直言って退屈の一語──目が見えなくなってしまったので仕方がない──だが、ベルイマンは何度も「遺作」を撮り、『サラバンド』が本当に「遺作」になってしまった。  このふたりについて少しばかり真摯に書いてみよう。「真摯に」というのは、ある一時、ぼく(ら)がふたりのフィルムをしっかりと見ることができな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 AM

アジアカップ2007総括
梅本洋一

 日韓戦はPK戦で敗れ4位に終わったアジアカップ。このチームで6ゲーム戦えたことは収穫だったが、それ以外に何か得たものがあったろうか。多くの人々がオシムの方向性の正しさを指摘するが、実際はトゥルシエよりもジーコよりも成績が悪い形でアジアカップを終えている。検証すべきものが多いだろう。  敗戦に終わったサウジ戦後の韓国戦。フレッシュな選手を使うかも知れないと言っていたオシムだが、実際は山岸を使い、カ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:44 AM

July 26, 2007

アジアカップ準決勝:日本対サウジアラビア 2-3
梅本洋一

 ゲームからすでに1日。敗因の分析があちこちに掲載されはじめた。ぼくもおそらく日本が勝つだろうと思っていたが、こういうときは敗れるものだ。それがフットボールだ。  こういうゲームは本当に難しい。最強と思われたオーストラリアをPK戦で退け、対戦成績の比較的良いサウジアラビア戦。移動とか休息とか様々な面で有利が伝えられる。UAE戦の後はほぼ固定メンバーで戦い、チームの「型」が出来上がりつつあると誰の目...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:29 PM

July 22, 2007

アジアカップ準々決勝:日本対オーストラリア 1-1(PK4-2)
梅本洋一

 オージーはこの日トライネイションズ、アジアカップで代表チームが連敗。もっともトライネイションズの方は、相手がオールブラックスなので、まだ傷は浅いかも知れないし、もともと勝つ可能性はそれほど大きくなかったし、その健闘は称えられてもいい。だが、アジアカップでのPK戦敗退は、このチームのこれからの方向性を決めるのに、大きな瞬間になるだろう。オーストラリアはわざわざアジアサッカー連盟に加盟し、W杯ベスト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:29 PM

July 18, 2007

『石の微笑』クロード・シャブロル
梅本洋一

 かつて、当時の夫人だったステファーヌ・オードランを使って、シャブロルは次々と傑作を生み出したことがあった。ジャン・ヤンヌ、ミシェル・ピコリといった怪優を相手に、小さな町の空間で繰り広げられる行き詰まるような瞬間は、極めて濃密な作品を作り上げてくれた。そして今、70代も中盤を迎えた彼は、自らのフィルムの虚飾を剥ぎ落とし、文字通りの絶頂期を迎えたのではないか。  大きな工場と港、そして、そこから展開...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:20 AM

July 9, 2007

アジアカップ2007:カタール対日本 1-1
梅本洋一

 勝てるゲームを引き分けてしまった。そう誰でもが書くだろう。阿部の与えたFK。そのときの壁の作り方も隙があった。セバスティアンの蹴った低い弾道のシュートがゴールマウスに吸い込まれる。川口は、あってはならないことが起こってしまった。オシムは憤懣やるかたない様子。  だが、ゲーム自体はまったく消化不良。こんなゲームをしていては、3連覇はおろか予選リーグも危ない。暑さと湿気は分かっている。でも、全員がこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 PM

『前巷説百物語』京極夏彦
結城秀勇

 直木賞を受賞した『後巷説百物語』に続く「巷説百物語」シリーズの最新刊では、前作までの時代設定を遡り、このシリーズの中心人物である「小股潜りの又市」が「御行」というキャラクターをいかにして獲得したかという物語が語られる。『バッドマン・ビギニング』『ハンニバル・ライジング』『007 カジノ・ロワイヤル』(2006年版)などを思い出してしまうような、ヒーロー誕生秘話。前作までは、裏の世界にその名を轟か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:51 PM

July 4, 2007

『ボルベール』ペドロ・アルモドバル
宮一紀

 アパートのキッチンに血に塗れた男が倒れている。今回もまた「血」が問題になっている。アルモドバルにおける「血」とは、先祖から脈々と受け継がれる血縁の証明であり、性交渉においてエイズウィルスの感染する経路であり、そして人が傷つくことである。すなわち家族、セックス、暴力ということになる。アルモドバルは、少なくとも1982年の『セクシリア』以降、これら三つのテーマを中心に据えて映画を撮ってきたといえる。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:07 AM

July 3, 2007

『ボルベール』ペドロ・アルモドバル
梅本洋一

 『キカ』『私の秘密の花』あたりから、アルモドバルは、キッチュで「罰当たり」で「変態な」映画作家から、現代映画きっての「メロドラマ作家」へと次第に変貌していった。もちろん、その背後には、アルモドバルの成熟もあるのだけれど、それ以上に、時代の変化が大きいと言えるだろう。同性愛も性転換も近親相姦もそれだけでは、スキャンダラスな話題であり得なくなった時代にぼくらは生きている。かつてなら、それだけで「反社...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:29 PM

July 2, 2007

エドワード・ヤン追悼
梅本洋一

 朝刊の死亡欄のエドワード・ヤンの文字と写真が目に入る。  突然蘇るいくつかの光景。  91年の東京映画祭『クーリンチェ少年殺人事件』を見た晩のこと。翌日に彼に会うために赴いた、今はなきキャピタル東急ホテルでのロビーでのこと。ハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』の話をしていて──その映画は『クーリンチェ』にとってとても重要なものだ──ふたりで涙ぐんでしまったこと。その直後に行った山形映画祭での数...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:45 PM

『殯の森』河瀬直美
田中竜輔

自身の作品をエンターテイメントとして消費されるものだとは考えてはいない、と自称する河瀬直美の、そしてカンヌ映画祭でグランプリを獲得した『殯の森』は、間違いなく「作家」の映画であるはずだ。このフィルムには妻を失った老人と子を失った若い女についての物語があり、そこには河瀬直美の「生」と「死」についての思索が充満しているのだろう。このフィルムにおいて、うだしげきと尾野真知子という二人の主要なキャストは、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:26 PM

June 21, 2007

『ゾディアック』デヴィッド・フィンチャー
梅本洋一

 人はとても長い間ある事件とその首謀者に魅了され続ける。  1968年のサンフランシスコ。そこで始まる連続殺人事件。フィルムは、建国記念日の夜、郊外の空き地にクルマを止めたカップルに、後走するクルマから降りたひとりの男から何発も銃弾が浴びせられることから始まる。やがて犯罪声明がサンフランシスコ・クロニクル紙に送られてくる。奇妙な暗号文と共に。「ゾディアック」の始まりだ。  やがて、この事件はサンフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:14 PM

June 18, 2007

PNC第3戦:ジャパン対サモア 3-13、トライネイションズ開幕戦:スプリングボクス対ワラビーズ 22-19
梅本洋一

 早朝に懐かしいゲームをスカパー!で見る。91年W杯のアイルランド対ジャパン戦だ。結果は32-16でダブルスコアなのだが、ジャパンは面白いラグビーをしていた。素早いラックからボールを展開し、バックス勝負。戦術はこれだけ。だが、松尾(勝)、平尾、朽木のフロント3で必ずゲインする。そこに林、ラトゥーを絡ませて、大外へ。大外には吉田義人がいる。このゲームに出場し、そして、この日の解説をしていた梶原は、当...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:38 AM

June 15, 2007

ル・コルビュジエ展@森美術館
梅本洋一

 ノマディック美術館が「仮構」されたお台場から「りんかい線」と「埼京線」を乗り継ぎ、恵比寿で東京メトロ日比谷線に乗車し、六本木で降りて、「ヒルズ」に向かう。ル・コルビュジエ展を見るためだ。6月の晴天の日は蒸し暑い。お台場も蒸し暑かったが、六本木ヒルズはもっと暑い。それに高層建築物の間に吹きすさぶ突風でぼくのキャップが吹き飛ばされそうだ。53階にある森美術館に上がる。ここはノマディック美術館の「仮構...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:47 PM

『ブラック・スネーク・モーン』クレイグ・ブリュワー
結城秀勇

 しかし、クリスティーナ・リッチの新作を見るたびに覚えるあの違和感はなんなのだろうか。別に彼女が出ている映画はすべて見るというほど好きな女優ではないし、好きではないが認めざるを得ないという程の実力を備えた女優だとは正直思えない。しかしなにかの折りに彼女を見るたびに、「あれ?クリスティーナ・リッチってこんなひとだったっけ?」という疑問が頭をかすめる。事実『ブラック・スネーク・モーン』の冒頭に置かれた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:39 PM

June 13, 2007

『Denim』竹内まりや
茂木恵介

 人生をデニムのようだと、竹内まりやは喩えている。それがこのアルバムのタイトルであり、アルバムのラストを飾る「人生の扉」においてもその比喩を用いている。確かにデニムは穿きこんでいけば、色褪せ、穿き始めた頃とは違う色合いや風合いを示すようになるが、同時にそれを穿く者の時間も同様に通過したことを忘れてはならない。キューカーの『マイ・フェア・レディ』のイライザとヒギンズ博士の関係を思い出して欲しい。訛り...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:28 PM

June 9, 2007

『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー』シドニー・ポラック
梅本洋一

 シドニー・ポラックのフィルムを見るのはいつ以来だろうか。70年代の彼は多くの秀作を残しているのだが、今世紀に入ってやや低調な感じがする。久しぶりに見る彼のフィルムがドキュメンタリーであり、しかもフランク・ゲーリーについてのフィルムだ。  このフィルムを見るまで知らなかったことがある。たとえばデニス・ホッパーの自宅の設計者がゲーリーであることや、ゲーリーが一番影響を受けたのがアルヴァ・アールトだと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:38 AM

June 7, 2007

『監督・ばんざい』北野武
梅本洋一

 創作活動のある時期に自己言及性へと向かう映画作家たちがいる。フェリーニの『81/2』、トリュフォー『アメリカの夜』、ゴダール『パッション』、ヴェンダース『ことの次第』……。ちょっと思い出すだけでも何本も挙がる。  そして北野武も『監督・ばんざい』を撮った。多くのジャンルのジャルゴンを並べては放置する作業、それらは、このフィルムで常に登場する青い衣裳を着た「監督人形」のように、それぞれのジャンルを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:41 AM

キリンカップ 日本対コロンビア 0-0
梅本洋一

 「海外組」が揃った参加した対コロンビア戦は、オシムがめざすフットボールがとても難しいものであることを証明した。中盤に稲本、左サイドに中田浩二が起用された前半は、中盤のプレスがまったくかからず、そのふたりがほとんど消えていた状態だった。後半にそのふたりに代えて羽生と今野が投入されると、まるでカンフル剤が打たれた体のようにチームが甦った。稲本と羽生のプレイスタイルが異なるのは事実だが、今野と中田浩二...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:40 AM

June 4, 2007

怒濤のテストマッチ・シリーズ
梅本洋一

 公私ともに多忙なのにラグビーの重要なテストマッチが重なる。パシフィック・ネイションズ・カップのトンガ対日本戦、南半球遠征中のウェールズがワラビーズと2戦、イングランドがスプリングボクスと2戦、そしてフランスがオールブラックスと対戦。  まずジャパンのトンガ戦。結果は20-17の辛勝。勝つことが目的なら、この結果でまずまずだろうが、ゲームとしてはストレスが溜まる。相変わらずのSOの判断ミスの多さ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:32 PM

『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』ジョー・カーナハン
結城秀勇

 利害の対立する複数のグループが、同一の標的をもとめて互いにつぶし合うという筋書きは決して目新しいものだとは言えない。複数のグループごとの視点が、ターゲットに近づいていくごとに収束していき、結果として同じ瞬間が重複して描かれる。すなわちそれぞれのグループと対象との距離に反比例するように、決定的瞬間の訪れは引き延ばされていく。そんな語りの手法も、これまた今となってはありふれたものである。張られた伏線...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:17 PM

June 2, 2007

「[新訳]今昔物語」東京藝術大学大学院 映像研究科制作作品
渡辺進也

中編作品の方を見に行く時間が取れなかったのでなんともいえないが、このオムニバス作品の方は中編作品とは違って、『今昔物語』という古典を原作とするということ、長さも20分前後にするといったようにあらかじめ制作にあたってより縛りがある。それゆえ、ここで問われるのは作品世界としてどうなのかということよりも、むしろエクササイズとしてどのようなレッスンを行えるかということだろう。もちろん登場人物をどう現代風に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:56 AM

『14歳』廣末哲万
渡辺進也

 最近、映画を見ていて「何も起こらないな」という印象を持つことが増えている。正確に言えば、何も起こっていないわけではないので、何か事件が起こったとしてもそこから物語が展開しないということだろうか。ずっと違和感を抱えていたのだが、先日、黒沢清が「いまの日本映画には物語がない。あるのは日常である」というようなニュアンスのことを話しているのを読んでそういうことかとすごく納得した。  『14歳』はそうした...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:50 AM

May 30, 2007

『CREEP』酒井耕、『from DARK』大門未希生
結城秀勇

 アップが遅くなってしまったが、芸大映像研究科の修了作品であるふたつの作品について述べておきたい。  まず『CREEP』。男子高校生と20代前半の女性との駆け落ちと、地質学者の秘められた過去が交錯していくさまを描くこの作品では、テーマである「埋もれてしまった過去が現在を揺り動かす」ということからくるのであろう、冒頭から微妙に揺れ動くカメラが印象的である。ここで取り上げる2作品、そして以前にこのサイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:58 PM

東浩紀×仲俣暁生『工学化する都市・生・文化』(「新潮」6月号)
梅本洋一

 荻野洋一のblogに掲載された文章に触発されて、ぼくもこの対談を読んでみた。それ以前に、東と北田暁大の『東京から考える──格差・郊外・ナショナリズム』(NHK出版)を読んだとき、非常に強く感じた違和をここでも考えてみたいと思ったからだ。ふたりが長い対談で交わした言葉たちをワンフレイズで要約するのは失礼だが、郊外のジャスコ化という現象には、誰でもが頷くだろう。しかし都市の変貌がそうした方向でいいも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:15 AM

May 24, 2007

『兎のダンス』池田千尋
結城秀勇

冒頭の緩やかなパンダウンや、山道を車がカーヴするのを捉えたショット、あるいは古い一軒家の開け放たれた広い空間で人々が行き来するのを捉えたショットなどでのカメラの動きには心躍るものがあり、なるほど前評判の「レベルの高さ」とはこういったことかと納得する。しかしその反面で、静止する登場人物たちを見つめる視線の「日本映画」っぽさにはいささか閉口する。いやこのような言い方ではぐらかすのは良くないだろうか。動...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:25 PM

May 20, 2007

『ラッキー・ユー』 カーティス・ハンソン
松井 宏

 ギャンブルものに付随するあらゆる要素--暴力と欲動、陰謀、舞台裏、成り上がり、浮上と落下の悲劇etc--を削ぎ落とし、ではいったい何がこのフィルムに残されるのかと心配するやもしれぬが、心配無用、もちろんここには恋があり、また父子の物語さえ中心にある。だが『ラッキー・ユー』においてまず重要なのは共同体である。冒頭から少し奇妙な感触があるのだ。ハック(エリック・バナ)が郊外の寂れた質屋から煌めくヴェ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:01 PM

May 17, 2007

『リンガー! 替え玉★選手権』バリー・W・ブラウンスタイン
結城秀勇

 とりたててなにか言うべきことがある映画ではないのだがこの感動はなんだ。水曜のサービスデイの1000円で見たが、ひと言でいうと極めてコストパフォーマンスの高い映画だ。どんなに面白い映画を見ても、あまりこういった感想は持たないものだ。こちらが支払った対価に対して、非常に大きなものを返してくれてもったいない気持ちがする。これで人生が変わったりはしないが心地がよい。  ファレリー兄弟がプロデューサーであ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:14 PM

May 16, 2007

『東京タワー、オカンとボクと、時々、オトン』松岡錠司
梅本洋一

 松岡錠司は、かなり微妙な位置にいる映画作家である。リリー・フランキーのベストセラーの映画化は松岡自身が原作に惚れ込んで実現したらしいし、ベストセラーの映画化ゆえかフィルム版もヒットを続けている。ぼくが見に行った平日の午前中も中高年の観客を中心に多くの人々が映画館に入っていた。ぼくの隣に座っていた老夫婦の夫の方は、上映が終わってから涙に滲んだ眼鏡を拭きながら「悠木千帆(!?)はいいね!」と妻に告げ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:31 AM

May 10, 2007

『スパイダーマン3』サム・ライミ
結城秀勇

 前作同様クモの巣型のフレームの中にこれまでのシリーズで語られてきたストーリーの断片的なイメージが映し出されていくオープニングタイトルの終わりで、それまで直線的だったクモの巣型フレームは丸みを帯びて脳内のニューロンめいたかたちへと変形していく。そして物語は主人公ピーター・パーカー(トビー・マグワイア)のモノローグで幕を開ける。あたかもそれがパーカー=スパイダーマンの脳内であったかのように。  この...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:29 PM

May 4, 2007

チャンピオンズリーグ準決勝2nd Leg: リヴァプール対チェルシー 1-0 (1-1、PK4-1)、ミラン対マンチェスター・ユナイティド 3-0 (5-3)
梅本洋一

 ファーストレグがスタンフォード・ブリッジ、セカンドレグがアンフィールド、そしてリヴァプールのビハインドが1点。赤い群衆に埋め尽くされたアンフィールドを見ただけで、リヴァプール優位が見える。アンフィールドの魔力と言われるのだが、そんなものを信じないぼくでさえ、この晴れがましい舞台をホームで迎えるリヴァプールの選手たちを心から羨ましいと思う。このスタジアムのほとんどの人々にとって、リヴァプールの勝利...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:20 AM

May 2, 2007

『フランドル』ブリュノ・デュモン
梅本洋一

 『ジーザスの日々』『ユマニテ』と続くデュモンのフィルムの中でもっとも完成しているのが、このフィルムであることはまちがいない。もちろん、完成とはいったい何なのか、という問題もあるだろう。明確な回答は見つけられないが、もしこのフィルムが「欲望」と「現実」を描きたいとするなら、その延長線上にこのフィルムが来ることは明らかだろう。「欲望」と言っても、固有のそれではなく、つまり、ぼくが君を求める、というも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:42 PM

April 30, 2007

『カイマーノ』ナンニ・モレッティ
結城秀勇

 これは難航する映画製作についての映画であるが、今回の主人公は映画監督ではないし、それを演じるのもナンニ・モレッティ自身ではない。代わりにシルヴィオ・オルランド演じる、長らく映画製作から遠ざかってしまっているかつてのB級映画のプロデューサー・ブルーノが主人公である。彼の久しぶりの復帰作となるはずのコロンブスについての映画が、長年の友人であった監督の降板によって実質製作不可な状態となる。追いつめられ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:34 PM

『カイマーノ』ナンニ・モレッティ
田中竜輔

「うまくいってる?」と聞かれたら、いつだって大声で「そんなわけない!」と言い返さなきゃならない。「万事快調!」なんて瞬間はそうそう訪れるはずもなく、誰もが常にトラブルを抱えている。斜め読みした脚本をサスペンス映画と勘違いしてヒットするはずもない政治映画の製作を請け負ってしまったり、別居中の夫が新しく知り合った男性からプレゼントしてもらった素敵なセーターをズタズタにしてしまったり、12個の突起を持...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:38 PM

April 29, 2007

『ラブソングができるまで』マーク・ローレンス
松井 宏

 もしその原題が『ソフィとアレックス』であったならこのフィルムはまったく別物になっていたのだろうが、つまり実際の原題『Music and Lyric』とある通り『ラブソングができるまで』の男と女には自分の名前を獲得する前に、つまり恋をしてカップルを作る前に、まずせねばならぬことがあるのだった。もちろんそれはひとつの曲を一緒に作るということ。  男ヒュー・グラントは80年代元超売れっ子ポップスターで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:23 PM

April 21, 2007

『サンシャイン2057』ダニー・ボイル
松井 宏

久々ではないかと思われるB級宇宙SFフィルムとして確かにこのフィルムは楽しめてしまうのだが、しかし死に瀕した太陽を再び活性化させるミッションを課されたクルー8人のなかに誰一人悪くてヤバい奴がいないというのは、これはいったいどういうことか。密室内での常套たる心理的なぎりぎりした諍いや、腹黒さの浮上という説話の糸がほとんどないのである。冒頭からほとんど流れるままに進行し、いきなりキャプテンが犠牲的精神...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:49 AM

April 19, 2007

『サッド・ヴァケイション』青山真治
梅本洋一

 この壮大なフィルムをわずかな字数でまとめることなど不可能なことだろう。  ジョニー・サンダースの『Sad Vacation』を背景に若戸大橋が映し出されるヘリコプター・ショットでの壮大な開幕。だが、その風景の壮大さと比べて、このフィルムが展開するのは四方がわずか数キロの極小の空間だ。その中心にあるのが、間宮運送。行き場をなくした者たちが集う運送会社。そこにやってくるのが、『ユリイカ』の梢(宮崎あ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:12 AM

April 17, 2007

『パリの中で』クリストフ・オノレ
結城秀勇

 田舎での恋人との生活がうまくいかなくなり、弟と父の住むパリの実家へ帰ってきた兄。外国あるいは地方からパリへ出てくることがキャリアの転換点(そしてもちろん恋愛の転換点)になる映画は数あれど、パリへの帰郷という設定自体があまり耳慣れない。そしてそのパリへ帰ってきた本人、ロマン・デュリスは欝気味で部屋から出ることもなくベッドの上でごろごろしているばかりだ。彼はパリを見せてくれない。その代わり、ルイ・ガ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:31 PM

April 16, 2007

『天使の入江』ジャック・ドゥミ
結城秀勇

 82分間に流れる各瞬間があまりに激しい。ミシェル・ルグランのピアノが流れ始めた途端に、ほんのわずかにジャンヌ・モローの顔を写しただけではるか後方へ遠ざかっていくカメラの動きと同じような速度が、この作品のはじめから終わりまでを支配している。それはもちろん、ギャンブルというこの映画のテーマと関係している。瞬時にして、それまで所有していたものを失ってしまう、あるいはそれまでは無縁なものだったものに包ま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:11 PM

April 1, 2007

『ゴーストライダー』マーク・スティーヴン・ジョンソン
月永理絵

『デアデビル』の監督による、『スパイダーマン』や『Xメン』と同じアメリカン・コミックが原作のヒーロー映画である。舞台は西部、主役は悪魔の手先となり悪魔と契約した人々の魂を集めるゴーストライダー。この役目をかつてはカウボーイがその役目を担っていたというから、馬の代わりにハーレーダビッドソンでテキサスを駆け抜けるニコラス・ケイジを現代のカウボーイと見なすこともできるだろう。  しかし、この映画を西部...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:02 AM

March 30, 2007

『ホリデイ』ナンシー・メイヤーズ
梅本洋一

 レディーズ・デイで1000円で見られるためか、渋東シネタワーは9割方女性客で、しかもほぼ満員。松井宏が言う通り、ちょっと薹がたってはいるが、キャメロン・ディアズとケイト・ウィンスレットの「二大女優」とジュード・ローとジャック・ブラックの共演が多くの女性たちを誘っているのだろうし、「薹がたった」ふたりの女性(アマンダとアイリスというちょっと古風なファーストネイムだ)をうまくシナリオに盛り込んでいる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:47 AM

March 27, 2007

『カンバセーションズ』 ハンス・カノーザ
槻舘南菜子

 場所はマンハッタン。ホテルのウエディングパーティで10年ぶりに再会した男女がつかの間の一時を過ごす。ホテルの一室。タイムリミットは朝6時。新婦の兄である男(アーロン・エッカート)と新婦の友人であり、元妻(ヘレナ・ボナム=カーター)、彼女がロンドンにたつまでの数時間に交わされるカンバセーションズ。  このフィルムが特異であるのは、二つのキャメラを通して全シーン、全テークが撮影され、全編がデュアルフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:39 AM

March 26, 2007

日本対ペルー 2-0
梅本洋一

 イビチャ・オシムが初めて「欧州組」の高原と俊輔を呼び戻し、実質的な現在の「最強メンバー」で臨んだ親善試合。相手が若手主体のペルーであって、ペルーは「欧州組」を呼び戻していないことはまず確認しておいた方がいい。このゲームは、勝って当然のホームであり、スパーリングパートナーとしてはちょうどいいということ。  2-0という結果について書くべきことは少ない。解説のセルジオ越後が強調していたように、流れの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:16 AM

March 21, 2007

『あるスキャンダルの覚え書き』リチャード・エアー
松井宏

ジュディ・デンチとケイト・ブランシェット(主演&助演女優賞ともにアカデミーにノミネート)、この「演技派」女優ふたりによる女性の間の愛と嫉妬物語たる本作には決定的に欠如しているものがあって、すなわち、ここにはベルイマンがいないということだ。つまりデンチとブランシェットのクロースアップを積み重ねながら「顔の劇場」たろうとするこのフィルムに決定的に欠けているのは、あるひとつのショット、すなわちふたりの女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:38 PM

March 20, 2007

『ブラックブック』ポール・ヴァーホーヴェン
須藤健太郎

 何の前情報もなく映画を見に行くのは難しいと思うが、とりわけそれがある程度キャリアのある監督の場合はなおさらだろう。ナチス・ドイツ占領下のオランダが舞台だと聞けば、まさかと思いつつ、38年オランダ生まれのヴァーホーヴェンによる自分探しの旅を危惧し、「ブラックブック=黒い革製の手帳」に記された真実を巡るサスペンスだと言えば、ヒッチコックへの彼なりの返答だった『氷の微笑』が想起され、もしくは、家族を目...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:28 PM

March 18, 2007

2007年シックスネイションズ総括
梅本洋一

最終日になっても優勝が決まらないシックスネイションズは確かに面白かった。結果的にはアイルランドとフランスが共に4勝1敗で並び、最終戦の対イタリア戦、対スコットランド戦に持ち去れることになった(もちろんイングランドにも可能性はあったがウェールズに大勝というのうは数字的に不可能に近いものだった)。 結果はアイルランドもフランスも頑張ったけれども、フランスは得失点差でアイルランドを上回り、フランスの優勝...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:03 PM

March 16, 2007

『ダフト・パンク エレクトロマ』ダフト・パンク
田中竜輔

選ばれた舞台はカリフォルニア、黒い衣装に身を包み、光り輝くロボットの頭部を持ったダフト・パンクのふたりが「HUMAN」と書かれたナンバー・プレートを掲げた黒いフェラーリに乗りこみ、「ロボット」から「人間」になるために小さな村に向かう。しかしそれにあっという間に挫折したふたりはあてもなく砂漠を彷徨い始める、というシンプルな物語。人間とテクノロジー、この二項にまたがって自身の表現活動を行なうミュージシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:36 AM

March 15, 2007

『ラストキング・オブ・スコットランド』ケヴィン・マクドナルド
松井宏

このフィルムは『ブラッド・ダイヤモンド』と同じくアフリカを扱い、どちらも実話をもとに構成されていて、どちらにも恐ろしい軍事独裁政権があって(もちろんそれはある時期からアメリカ映画でアフリカを物語るときに欠かせぬ要素となっている)、両者の物語のあいだに時代の差はあれど(『ラストキング』は70年代、『ブラッド』は90年代後半)、けれどもっとも重要な共通点は、どちらもがアフリカを父として扱っているという...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:45 AM

March 14, 2007

神奈川県立近代美術館 鎌倉「畠山直哉展」
梅本洋一

 小町通を大股で歩いて近代美術館に着く。この多様に組み合わされた「白い箱」は坂倉準三の真の傑作であり、撤去されずに残ることになったことはとりあえず嬉しい。だが建物のところどころに古さや歪みが目立つ。同じ建築家の東京日仏学院が何度かのリノヴェイションを繰り返しつつ、しっかり今という時を呼吸しているのとは対照的だ。モダニズムは時を経ても生き残るべきものであり、そのためには資金と知恵が必要なのだ。  本...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:25 PM

『今宵、フィッツジェラルド劇場で』 ロバート・アルトマン
結城秀勇

 カミュは『シーシュポスの神話』の中で、本質的な問題(ときにひとを死に至らしめるかもしれない問題)について思考方法はふたつしかないと述べている。それは、ラ・パリス的な思考方法とドン・キホーテ的な思考方法だと。ドン・キホーテ的なというのは改めて述べるまでもなく、熱情的な態度である。一方、ラ・パリス的なというのは明証性だということになっているのだが、それはラ・パリスという16世紀フランスの将軍が戦死し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:48 PM

March 13, 2007

『ダウト』ウェイン・ビーチ
須藤健太郎

 なんてやっかいな映画なんだろう。いわゆる「どんでん返しもの」とでも言うのか、オチを知ってしまうと見る楽しみが半減してしまう、しかし、ある程度ストーリーを説明しないことには、この面白さも伝えられない。ネタばれ覚悟で書くしかないのか、それともこのジレンマに悩み続けるべきなのか。「誰も見破れない!」というキャッチ。まるで『ユージュアル・サスペクツ』のそれだが、そうおそらく、二転三転するストーリー展開、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:08 AM

March 12, 2007

シックスネイションズ07 イングランド対フランス 26-18
梅本洋一

ゲームとしてはスカパー!の解説をした箕内が言っていてように、「眠い」ゲームだった。両チームともミスが多かったし、大きく展開するラグビーが見られなかった。もちろん前半(9-12)の展開は予想できたことだったが、わずか1PGの差でフランスが逃げ切れるようには見えなかった。地域においてもポゼッションにおいてもイングランドが優勢だったし、イングランドがFWの攻撃でフェイズを重ねれば、どこかでフランスの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:29 PM

March 10, 2007

TNプローブ レクチャー・シリーズ「建築と写真の現在」第1回 多木浩二
結城秀勇

 今夏に行われる予定の同題の展覧会へ向けての連続レクチャーの第1回は多木浩二。写真史のはじまりから現代にかけて、写真と建築の出会いについての概論が語られる。それは「建築写真の歴史」とはまた別のものだ。  ダゲレオタイプが発明された年とされる1839年に、ダゲールはルーブル美術館を一枚の写真に写している。それはあえて彼が建築の写真を撮ろうと試みたというよりも、当時の写真の感光時間の長さから、目に入る...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:06 PM

『今宵、フィッツジェラルド劇場で』 ロバート・アルトマン
槻舘南菜子

 ここには三つの終わりがある。ラジオショー「プレイリー・ホーム・コンパニオン」の放送の最終回という終わり、105分という映画の終わり、そして『今宵、フィッツジェラルド劇場で』は、ロバート・アルトマンの遺作だ。  楽屋の鏡を前にして、ヨランダ(メリル・ストリープ)と、ロンダ(リリー・トムソン)は、昔はショーに歌う犬がいたこと、実はジャクソンガールズが四人組だったこと、そして母親の死を、思い出から紡ぎ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:03 PM

March 9, 2007

チャンピオンズリーグ アーセナル対PSV
梅本洋一

 今年のアーセナルのチャンピオンズリーグは終了した。圧倒的にポゼッションしつつ、1点のアウェイゴールを喫し、昨日のバルサに続いて去年の決勝に残った2チームが消えた。  敗因は何なのか? ぼくは相手がPSVで、1stLegは0-1で敗れているが、今度はホームで、しかもこのスタジアムができてからアーセナルは不敗だったことだろうと思う。もし相手がバルサやミランだったら話が違ったろうし、アウェイだったから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:19 PM

March 7, 2007

『Bug』ウィリアム・フリードキン
松井宏

 70年代の監督と言われる人々は、これは「ニューシネマ」と相反すわけではなく、密室劇を撮れるおそらく最後の世代なのだろう。それはハリウッドと演劇との関係やら、一方でカーペンターに代表されるホラーというジャンルとの関係やら、あるいは『カンヴァセーション』を考えるならそこに「ニクソン以後」の政治劇も関わってくるのやもしれぬが、とにもかくにもフリードキンの新作『Bug』は密室劇なのである(ちなみに戯曲の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:25 AM

March 5, 2007

『不完全なふたり』諏訪敦彦
梅本洋一

 このフィルムがフランス人の俳優たちとパリで撮影されたためだろうか。普段なら諏訪敦彦のフィルムにほとんど顔を見せない「映画的な記憶」がいろいろな場所に垣間見える。  このフィルムが別離の聞きを迎えた夫婦の短い時間の出来事とその顛末を追うという意味において、まず全体としてこのフィルムが準拠するのは、ロベルト・ロッセリーニの『イタリア旅行』である。リスボンで仕事をする建築家夫婦(ブリュノ・ドデスキーニ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:58 AM

February 28, 2007

ニッポンのデザイナー展@ShiodomeItaliaクリエイティブセンター
梅本洋一

「AERA」のムック本と協賛して、「ニッポンのデザイナー展」が開催されている。建築家、プロダクトデザイナー、アートディレクター、インテリアデザイナー、デザインカンパニーなどデザインに関わる「ニッポン人」の多種多様な作品が展示されている。先日見た「柳宗理生活のデザイン展」の通り一遍の展示ではなく、それぞれの展示にも適切な解説が加えられ、ひとつひとつの展示物が興味深い。それに、もしレヴェルという言葉が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:29 PM

February 25, 2007

『ブラッド・ダイヤモンド』エドワード・ズウィック
松井 宏

 その30前後という実年齢のせいだろうか、あるいは単にその童顔ゆえか。レオナルド・ディカプリオの「永遠の息子」ぶりを我々はここ数年とみに目撃している。スコセッシとのコンビがもっともわかりやすい。ディカプリオを迎えた最近3作はいずれも(『アビエイター』におけるママとの関係も含め)「息子ディカプリオ」の肖像だ。最新作『ディパーテッド』を見ながらなぜにスコセッシはいまさら、彼のキャリアのなかでありえなか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:25 PM

February 24, 2007

『ディパーテッド』マーティン・スコセッシ
梅本洋一

『ディパーテッド』をとても面白く見た。このフィルムが『インファナル・アフェア』のリメイクだということで、まだ見ていなかったアンドリュー・ラウの『インファナル・アフェア』を見てみた。 物語上の差異は『ディパーティド』では、レオナルド・ディカプリオとマット・デイモンが同じ女性(ヴェラ・ファーミング)を愛してしまうのだが、『インファナル・アフェア』だと同じ女性ではないこと。そのくらいの差異しかない。どん...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:15 PM

February 19, 2007

『ロッキー・ザ・ファイナル』シルヴェスター・スタローン
松井 宏

 初めて親同伴なし友達だけで映画館に見に行ったフィルムが『ロッキー5/最後のドラマ』だったという小学6年の個人的な些事は措いておくが、しかしこの『ファイナル』を見たとたん驚愕するのはそこにある「救い難さ」だ。なにもフィルム自体が救い難い出来だというのではない。そこで冒頭から描写されてゆくロッキーの姿、その周囲、そしてフィラデルフィアの街があまりに救い難い様相を呈しているのだ。  ここでロッキーの言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:15 PM

February 18, 2007

『恋人達の失われた革命』フィリップ・ガレル
槻舘南菜子

 初めて見たのはパリだった。映画館から一歩踏み出した街路に広がる石畳。ルイ・ガレルとクロティルド・エスムもそんな街路をすり抜けていった。だが、薄暗くなり始めた空を少し見上げると視界に入るエッフェル塔、賑わうカフェ……街路から見渡すことのできるそれらの光景はガレルの画面には決して現れてはこない。  彼のフィルムの空間を覆う街路と、緩慢な時間を過ごす古びたアパルトマン、そこは確かにパリだ。彼は『秘密の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:41 PM

『ヘンダーソン夫人の贈り物』スティーヴン・フリアーズ
月永理絵

第二次世界大戦下のイギリス、未亡人となったヘンダーソン夫人が買い取った小さな劇場を舞台にしたこの映画には、ひとつの絶対的な決まりごとがある。それは、どんな演目であれ必ず「裸の女たち」が舞台のトリを飾ること。戦争に疲れた兵士たちは、そのお約束を信じて、毎日劇場につめかけ、オーナーであるヘンダーソン夫人もまた、彼らに「裸の女たち」をプレゼントするためにだけその劇場を買い取り、上演を続けている。映画は、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:09 PM

February 14, 2007

『魂萌え!』 阪本順治
槻舘南菜子

 風吹ジュンの束のような白髪。深く刻まれた頬のしわ。フライパンを擦るもう若くはない手。それらの部分には、一人の女性の生きた時間が確実に刻み込まれている。彼女の時間の集積、老いを、まざまざと映し出す所からこのフィルムは始まるのだ。  夫の死後、風吹ジュンは夫の過去を辿るのと同時に、過去は形を変えて彼女を襲いにやってくる。夫に十年来の愛人がいたこと、彼が杉並蕎麦の会に通っていたこと、ゴルフクラブの会員...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:17 PM

東京工業大学緑が丘1号館 レトロフィット
梅本洋一

 職場の建物が耐震改修工事に入るので、その工法のワーキンググループの主査を言い渡され、その一環として、大学の建物の耐震改修工事としては話題の東工大緑が丘1号館を見学に行った。同行者は、北山恒さん、下吹越武人さん、田井幹夫さん、耐震の専門家である田才晃さん、そして勤務先の学部長、そしてぼく。  東急大井町線の中からすでにレトロフィットと命名されたファッサードが個性的なその全貌を見せていた。なんだかポ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:20 AM

February 13, 2007

アイルランド対フランス 17-20
梅本洋一

 前評判の高い事実上の今年のシックスネイションズ決勝戦。だが、アイルランドはオドリスコル欠場。ランダウンズ・ロードが改修中でクローク・パークというどでかいスタジアム。リオかサンパウロのサッカー場のように立錐の余地もない。  対イタリア戦快勝に気をよくしたラポルトは、故障者以外ほとんど面子を入れ替えず、ハーフ団もミニョーニ=スクレラをそのまま起用。クローク・パークについては小林深緑郎さんの蘊蓄を聞き...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:46 AM

February 9, 2007

『エレクション』ジョニー・トー
梅本洋一

 この人のフィルムの評価が異様に低いのはどうしてだろう。まだ封切られて3週間目だというのに、テアトル新宿は、昼間1回しか上映がなく、しかも明日(9日)まで。いわゆる「香港ノワール」ファンしかこのフィルムを見に来る人はいないのだろうか。確かに、終映後、テアトル新宿の地下から1階への階段を上がっていると、隣に老夫婦がいて、ダンナの方が、「何かなんだかぜんぜん分からなかった。こんな映画見せるんじゃない!...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:34 AM

February 6, 2007

マイクロソフトカップ決勝(東芝対サントリー 14-13)他
梅本洋一

怒濤の週末だった。日本選手権1回戦の2ゲーム(九州電力対早稲田、タマリバ対関東学院)、その晩、シックスネイションズの開幕戦2ゲーム(イタリア対フランス、イングランド対スコットランド)、日曜日はマイクロソフトカップ決勝(東芝対サントリー)と深夜にシックスネイションズ(ウェールズ対アイルランド)。計6ゲーム!こんなことをしていると別の仕事がまったく進まない! 皆さん、すみません。 キックオフの時間順に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:27 AM

February 1, 2007

『Apocalypto』メル・ギブソン
松井 宏

 すでにその喧噪から知るひとも多いだろうが『Apocalypto』はマヤ文明(末期)という壮大な主題を持っている。そして前作『パッション』と同様その「超残酷な」描写や、その歴史のあべこべぶりは方々で非難の的となり(マヤ文明とアステカ文明の混ぜこぜetc)、当然今回も全編「マヤ語」で、さらには近頃の彼自身の素行の悪さもあったりと話題騒然。だが「環境破壊、過剰な消費、政治腐敗などマヤ文明が直面した問題...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:13 PM

January 25, 2007

不二家伊勢佐木町店
梅本洋一

 ある晴れた午後に不二家伊勢佐木町店を見に行った。もちろん期限切れの牛乳を使用したシュークリーム事件の後のことだ。この事件で、アントニン・レーモンドのこの傑作建築の寂れぶりに拍車がかかったようだ。かつては天井の高い1階の喫茶室には中二階が設けられ……ぼくはそう『建築を読む』に書いたのだが、1階の喫茶室の前にあるシューケースは空っぽで、入り口には「お詫び」の紙が貼られ、営業中の不二家レストラン──い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:50 PM

January 24, 2007

『ア・グッド・イヤー プロヴァンスからの贈り物』リドリー・スコット
松井 宏

 リドリー・スコットにはどうにも妙な悲壮感が漂う気がする。真剣にやればやるほど滑稽になってしまうと言ってもいいのだが、たとえば前作『キングダム・オブ・ヘブン』のラストの籠城戦闘シーンはニコラス・レイ『北京の55日』のあの苦し気な息づかいのさらなるパロディだったはずで、まさに悲壮と滑稽の見事な合体以外の何物でもないように思われたのだった。  新作『ア・グッド・イヤー』はたぶん彼のフィルモグラフィでも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

January 22, 2007

アーセナル対マンチェスター・ユナイティド 2-1
梅本洋一

ゲームを見ていると匂いというか、予感というか、そんな名状しがたいものを感じることがある。それを感じているのはぼくばかりではない。ピッチ全体をそうした予感が蔓延しているのだ。 53分。エヴラの見事なオーヴァーラップからクロス。ルーニーが頭で合わせてマンUのリード。アーセナルの右サイドエブエは、クリスティアノ・ロナウドのディフェンスに追われている。だが、エブエのスピードでロナウドにシュートコースを与え...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 PM

D.W.グリフィス 最初期短編作品集
田中竜輔

 早稲田大学演劇博物館21世紀COE・演劇研究センターの企画よる上映活動「失われた映画を求めて」にて、グリフィスの貴重な初期短編を6本見ることができた。それらのフィルムはまさにアメリカ映画が「物語る映画」としての映画的な機能をすでに100年前に生み出していたことの証明であり、グリフィスの存在がどれほどにアメリカ映画に、否、現在のすべての映画にとって逃れられぬものであるかを改めて感じさせるものに違い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:21 AM

January 18, 2007

『モンスター・ハウス』ギル・ケナン
結城秀勇

枝から離れくるくると舞い上がる紅葉した木の葉をカメラが追うことから、この映画ははじまる。カメラの動きは、この作品にエグゼクティヴ・プロデューサーとして名を連ねてもいるロバート・ゼメキスの『ポーラー・エクスプレス』のワンシーンを思い出させる。サンタのもとへ向かう列車に乗るために必要な「往復切符」が主人公の少年の手を離れて車外へ飛んでいってしまうという場面だ。もちろんその「往復切符」という名が示すとお...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:37 PM

January 17, 2007

『ホリデイ』ナンシー・メイヤーズ
松井 宏

『The Holiday』などと、この選択は勇気なのか無謀なのか。キャストを見るとジュード・ロウ、ジャック・ブラック、キャメロン・ディアス、ケイト・ウィンスレットと、女性陣に「ひと昔前」感を見る節もあるやもしれぬが一応の豪華四つ巴である。こんなガチンコ四つ巴はここ数年ハリウッドでは珍しい気がするが、とはいえ現在のディアスの崩れかけ感は本当に良い。藤原紀香の現在と同じと言えばいいか、このフィルムでも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 AM

『ヘンダーソン夫人の贈り物』スティーブン・フリアーズ
梅本洋一

 ここ2〜3作フリアーズ作品を見ていなかったぼくの怠惰をまず反省したい。『ヘンダーソン夫人の贈り物』を見ていると、この人の巧みさが理解されるからだ。もちろん希代の傑作というわけではない。第2次大戦中のロンドンで爆撃に晒される中でも扉を閉じようとしなかったウィンドミル劇場のオーナー、ヘンダーソン夫人と支配人のヴァンダム氏の顛末を追うこのフィルムが、かつて同じような物語を扱ったトリュフォーの『終電車』...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:49 AM

January 15, 2007

『パーフェクト・カップル』諏訪敦彦
結城秀勇

おそらくハイディフィニションDVで撮影されたと思われる映像は、見る者にその鮮烈な黒さを印象づける。わずかなクロースアップのショットを除いたほとんどのシーンで、スクリーンに現れる人々の顔は影になり見えない。その黒さは、光が十分に当たらないという受動性よりも、ある種の積極性を持って画面に映り込んでいる。マリー(ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ)が訪れる美術館におかれた、ロダンの黒い彫像のように。 しかし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 PM

ラグビー大学選手権決勝 関東学院対早稲田 33-26
梅本洋一

 誰の目にも明らかなとおり、関東学院が早稲田のラインアウトを制圧して勝利。ぼくの予想は見事に外れた。ラグビーにおいても1対1に勝つことの重要性。だが、1対1の勝負に出てくる相手を交わしきれない早稲田のナイーヴさも見逃せない。  準決勝での関東学院の強さに驚き、ガツガツ来たらやばいぜと思っていたが、こういうチームに勝てない早稲田はまだまだだということだ。大学選手権の決勝とは言え、それが6年連続ともな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:01 AM

January 13, 2007

『LOFT ロフト』黒沢清
松井宏

 黒沢清の新作『LOFT』が先週よりパリで公開されている。日本より遅れることほぼ3〜4ヶ月だが現在の日本人作家の新作がこうして海外で公開されるのはやはり素直に喜ばしいことだ。「日本映画ブーム」が去って久しいフランスに限ればなおのことなのだ。それにしても黒沢清がファンタスティックというジャンルを掘り下げつつメロドラマの要素を明白にしてゆくのは、やはり世界がいまだ世紀の境にあるからだろうか(100年前...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:09 AM

January 12, 2007

『恋人たちの失われた革命』フィリップ・ガレル
田中竜輔

「しかしお前たちが現にいるところの夜はまだ本当の〈夜〉にとっての〈長い前夜〉にすぎない(……)あらゆる〈夜の子供たち〉よ、〈異形の者たちよ〉、まだ夜の底へ堕ちてゆけ。まだ毒の海に入ってゆけ。まだ狂気と亡びへ降りてゆけ(……)本当の地獄を探せ。本当の廃墟へ向かえ。お前たちの〈夜〉はありとあらゆる意味で忌まわしく狂おしくなければならない。そのためには最後の夢さえもしめ殺してゆかなくてはならない」(間章...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:32 PM

January 8, 2007

W杯男子スラローム第4戦(アデルボーデン)
梅本洋一

 先週のイタリア、アデル・バディアからW杯がヨーロッパに戻ってきた。フィンランド(レヴィ)、アメリカ(ビーヴァー・クリーク)、イタリア・アルプスから本場のスイスに戻ると、本当に景色が良い。三つ星観光地はやはり良い。本物のリゾートだ。青空を背景にヨーロッパ・アルプスが見えると、まるで絵葉書そのものだが、こんな景色があるのは、スイスだけだ。  だが、ここのスラローム・コースは難しい。最初に中斜面の広い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:29 AM

January 7, 2007

『Songs in the Key of Z』アーウィン・チュシド
結城秀勇

ひとことでいえばトンデモアーティスト本である。ジャンルも年代もばらばらな20組以上のミュージシャンがこの本の中に納められている。いや、むしろこの本の中にはあるひとつのジャンルの音楽についての記述しかないというべきなのか。“アウトサイダー・ミュージック”という名前のもとに、著者は一連の「in the Key of Z」(ピッチの外れた)の歌たちをまとめている。 イントロダクションを読めばわかるとおり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:38 PM

January 5, 2007

『大人のための東京散歩案内(カラー版)』三浦展
梅本洋一

 一昨年にベストセラーになった『下流社会──新たな階層の出現』(光文社新書)を書いた三浦展の新刊。といっても本書は4年前の同名書物の改訂版でもある。東京は4年の間に大きく変貌してしまう。だから改訂版が必要になる。事情は小林信彦の『私説東京繁昌記』と同じことだ。  この著者の書物は『下流社会』ばかりではない。最近の彼の主張は、『脱ファスト風土宣言』! グローバリゼーションとは、マクドナルド化であり、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:55 AM

January 3, 2007

ラグビー大学選手権準決勝──大阪体大対関東学院 3-34、早稲田対京都産業大 55-12
梅本洋一

 どちらのゲームも詳細に見れば敗者の健闘はあったが、スコア──これが常に正しい──を見れば一方的なものになった。どちらかと言えばイージーな組み合わせに恵まれた関東学院が、たとえばリーグ戦で法政に敗れたようなヤワなところを見せず、明治に勝った大体大をノートライに押さえ、対慶應戦で最後に気を抜いた早稲田も、法政に勝った京産大のセットピースに最初の15分は苦しんだものの、後半一気に突き放す展開を見せた。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:42 PM

December 31, 2006

《再録》AAについて
黒岩幹子

(2006年12月31日発行「nobody issue24」所収、p.52-54) 「かれの内部で言語を破壊したものが、かれに言語を使用させるのである」 ――モーリス・ブランショ  『AA』、このどのような意にも取れまたどのような意にも取れない題名を持った、6章からなる映像を目の当たりにしている間、絶えず私のなかに湧き起こっていたのは、おそらく嫉妬と呼ばれる感情ではなかったろうか。このように不明瞭...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:48 PM

December 17, 2006

『スキャナー・ダークリー』 リチャード・リンクレイター
結城秀勇

フィリップ・K・ディック『暗黒のスキャナー』(この映画の公開にあわせて『スキャナー・ダークリー』と改題した新訳も書店に並んでいる)の映画化である。『がんばれ!ベアーズ』を、秀逸にとは言わないまでもそつのない出来にリメイクしたリンクレイターだけに、今回も『暗黒のスキャナー』という小説には何が書かれているのかがよくわかるような出来になっている。つまり原作を読んだ方がはるかに面白い。映画をその原作となっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:37 PM

December 13, 2006

『硫黄島からの手紙』クリント・イーストウッド
梅本洋一

 イーストウッド自身の説明によればアメリカ側から硫黄島を描いたのが『父親たちの星条旗』、日本側からが『硫黄島からの手紙』ということだ。だが、この2作は、同じ戦争の両面を描いたものではない。『星条旗』が「英雄」たちの後日談を中心に描かれたのに対して、『手紙』が描くのは、硫黄島の戦いではあるけれども、そして守備隊長の栗林中将(渡辺謙)の話でもあるけれども、それらは口実に過ぎず、単に生きることと死ぬこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:08 AM

December 12, 2006

チェルシー対アーセナル 1-1
梅本洋一

 もしフットボールに判定があれば、明らかにチェルシーの判定勝ちのゲーム。アーセナル・ゴールのクロスバーやゴールポストに何度シュートを止められたことか。しかし、結果は1-1のドロー。これがフットボールだ。  より詳細に見れば、このゲームは、両チームの現在の姿を浮き彫りにしている。まずホームのチェルシー。バラック、シェフチェンコの両雄の加入は、このゲームでもまったく何の効果もない。後半にロッベン、ショ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:42 PM

December 11, 2006

『トゥモロー・ワールド』 アルフォンソ・キュアロン
茂木恵介

 渋谷のスクランブル交差点を歩いていて、ふと行き交う人を見渡すと、こぞって白いイヤホンを耳に着けている。それをちらっと観ながら、「一体、何を聴いているんだろう」と、ふと気になったりもする。視線をQ-FRONTの方に向けると、クリスマスが近づいていることを知らせる映像やら年末の音楽イベントへの予習ともいうべきPVが映っている。 「18年間子供が生まれていない」。2027年のイギリスにおいて、人類の希...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:44 PM

December 6, 2006

クロード・ジャド追悼

 数日前朝刊の死亡欄の片隅にひっそりとクロード・ジャド死去の記事が掲載された。58 歳とあった。ぼくらが初めて彼女を見たのはトリュフォーの『夜霧の恋人たち』だったから、当時、彼女は20 歳。現実の年齢と役柄の年齢は一致していたようだ。もちろんヒッチコックの『トパーズ』や熊井啓の『北の岬』にも彼女は出演しているけれども、ジャン=ピエール・レオーがアントワーヌ・ドワネルであるように、彼女は、ぼくらにと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:58 AM

December 4, 2006

関東大学ラグビー 早稲田対明治 43-21
梅本洋一

 結論から書いてしまえば、早稲田の圧勝。対抗戦43連勝などという記録はどうでもよい。他が単に弱いと言うこと。ゲーム全体の印象は、早慶戦の方が面白かったということだ。この日の早稲田は出来が悪かった。特に曽我部の出来は悪い。キックがブレ、パスを2度もインターセプトされ、自らのラインブレイクも見られなかった。五郎丸の3トライも個人技とゴッツァンによるもの。早稲田が明治を崩して取ったトライは、権丈がライン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:03 AM

December 2, 2006

『おじさん天国』いまおかしんじ
渡辺進也

『たまもの』、『かえるのうた』に続くいまおかしんじ監督の劇場公開作。前の二本が銚子、下北沢と撮られた場所が重要視されていたように感じられたのに対して、『おじさん天国』ではむしろどこと特定できないような、そして地獄が隣り合わせにあるようなファンタジックとも思えてしまうような場所として設定されている。 冒頭、「大波小波も軽々と」と童謡ともポップソングともつかない歌が流れている。後にそれはハルオ(吉岡睦...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:23 PM

December 1, 2006

『ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー』 スコット・コフィ
結城秀勇

ひとりの女優がハリウッドの街中を駆け回る。『ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー』は、現代における女優という職業についての幾分戯画化された、だがそれゆえ核心に触れるドキュメントである。実際には彼女がその職業であり続けるための「仕事」を得るために駆けずり回り、そして結局はその「仕事」が、カフカの「城」めいた現代の迷宮の中で決してたどり着けない場所にあるのだとしても。 彼女はその実体もよくわから...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:31 PM

November 29, 2006

『天国へ行くにはまず死ぬべし』ジャムシェド・ウスマノフ
渡辺進也

TOKYO FILMeXのコンペティション部門出品作。監督はロシアの国立映画学校の出身で、過去にFILMeX では2000年に短編の『井戸』が、2002年には審査員特別賞を受賞した『右肩の天使』が上映されている。とはいえこの監督の作品を見るのは初めてで、さらにはタジキスタンの映画を見るのも初めて。 この映画ではカメラはその男の視線とその男の行動を追いかけていくのだが、主人公の男の視線と男の行動とが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:46 PM

November 21, 2006

「コワイ女」『鋼ーはがねー』鈴木卓爾
結城秀勇

雨宮慶太、鈴木卓爾、豊島圭介という3人がそれぞれ監督したホラー・オムニバス映画「コワイ女」。そもそも「怖い女性」というクリシェのもとに企画されたものであるものの、その怖さのありかを母親の情念といった部分に結びつけてしまう雨宮慶太『カタカタ』、豊島圭介『うけつぐもの』が、造形的にも非常に陳腐なかたちしか見せてくれないのに対して、鈴木卓爾の『鋼ーはがねー』はそれら2作品とは一線を画している様相がある。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:32 PM

November 17, 2006

『僕は妹に恋をする』安藤尋
田中竜輔

 安藤尋の『blue』以来となる劇場公開長編。前作『blue』では魚喃キリコ原作の漫画による女子高生同士の同性愛が主題に置かれていたが、今作でも同名の漫画作品を原作に、兄と妹との近親相姦としての恋愛関係が描かれている。単純に主題のレベルで見ると、安藤尋はいわゆる「タブー」としての恋愛関係を映画の物語における主題に扱うことを連続して選んでいる。『blue』では市川実加子と小西真奈美という女優ふたりの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:33 PM

November 15, 2006

『百年恋歌』侯孝賢
梅本洋一

 このフィルムがスー・チーとチャン・チェンのふたりによる1911年、1966年、2005年の三つの恋物語を描いたものだというフレームについてはもう記す必要もないだろう。『非情城市』、『恋恋風塵』、『憂鬱な楽園』の3本のフィルムを思い出せば、それぞれの時代に寄せる侯孝賢の眼差しが分かり、その意味で、『百年恋歌』は侯孝賢のそれまでのフィルムの集大成だと言えると思う。  『珈琲時候』は、いかにも侯孝賢と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:06 AM

November 3, 2006

『父親たちの星条旗』クリント・イーストウッド
梅本洋一

 泥沼化するイラク戦争、自民党の首脳による核装備論議容認論、北朝鮮による核実験──かつて西谷修が言った戦争の棚上げに当たる冷戦時代が終結し、グローバリズムというむき出しの資本主義の時代になると、見えなかった戦争がはっきりとその姿を見せるようになる。日本の教育基本法改正についての議論でも「愛国心」の問題がその中心になっているが、なるべくその輪郭を薄くしようと自らに課してきた国民国家が、戦争が可視化さ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:26 AM

October 31, 2006

『ジャズ・ソングズ』ディック・ミネ
梅本洋一

 なぜか分からぬ──否、本当は、いろいろ理由はあるのだが、それについて書き始めると、どうしようもない長さになる──が、ディック・ミネの「ジャズ」が聴きたくなった。『鴛鴦歌合戦』に出演していたディック・ミネなら知っている人もいるだろう。ほとんどが1930年代に録音された音源で構成されたこのCDを、ようやく通販で手に入れ、さっそく聴いてみる。偶然77歳になる母が家にいたので、一緒に聴いた。リアルタイム...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 PM

October 27, 2006

「パラレル・ニッポン 現代日本建築展1996-2006」東京都写真美術館
梅本洋一

 写真と建築との関係はとても興味深い。いわゆる建築写真は、周囲の人々をなるべく写さず、建物そのものを写し出す。建築雑誌の掲載されている多くの写真は建築写真だ。この展覧会──ちょっと小振りで残念だったが、ひとつのテーマに2枚ずつの写真が展示されていて、「パラレル・ニッポン」と呼んでいる頑張った展示──に展示されているのも、ほとんどがそうした建築写真だ。確かに建物そのものを理解するためには建築写真は合...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:34 PM

October 21, 2006

チェルシー対バルセロナ 1-0
梅本洋一

 ワールドカップ・イヤーのビッグクラブは辛い。シーズンオフが短く、一緒に練習する時間も限られているから、いくら優秀な選手といえどもトップコンディションに戻るまでに相当時間がかかるだろう。だが、チャンピオンズリーグのグループリーグはもう始まっている。移籍、コンディショニング等々、だましながら、ゲームをこなしながら、今シーズンのあるべき姿を探っていくビッグクラブは本当に大変だ。コーチの仕事量は普通の年...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:12 AM

October 5, 2006

田中登追悼
梅本洋一

 朝刊の死亡記事に田中登の名を見つけた。あれは、おそらく1976年のことだったと思う。「ぴあ」を片手に当時まだ存在していた綱島文化に出かけた。『四畳半襖の裏張り』『実録阿部定』『秘色情メス市場』の3本立てを上映していたからだ。どの作品も見ていたが、まだビデオもDVDもない時代のこと、再見するためには映画館に出かけなければならない。神代辰巳の秀作と田中登の傑作2本という組み合わせ。  田中登はロマン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:57 PM

October 2, 2006

『吸血鬼ボボラカ』 マーク・ロブソン
結城秀勇

『キャット・ピープル』をはじめとする優れた怪奇フィルムを製作し、若くしてこの世を去ったRKOのプロデューサー、ヴァル・リュートンの作品がDVD化されている。 マーク・ロブソン監督による『吸血鬼ボボラカ』は、バルカン戦争を背景としながらギリシャの孤島に閉じこめられた一団に忍び寄る恐怖を描く。ボリス・カーロフ演じる軍人をはじめとする、とある孤島に滞在中の人間たちは、突然勃発した伝染病のためにその島に一...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:29 PM

September 30, 2006

ジャン=ピエール・エリサルド解任
梅本洋一

 エリサルドがバイヨンヌのマネージャー(日本式ではGM)に就任した後のラグビー協会の迷走は本当に醜悪だった。オノマトペで示せば、オタオタがぴったり。対外交渉事に慣れていない、体育会系の青春を過ごした親父たちとティーポットストームにしか過ぎない小さな権力闘争に明け暮れる協会役員たち。さらにこんな結果を招いても誰も責任をとろうとしない、いかにも日本的な無責任体勢。植木等の方がよっぽど責任をとっていた。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:29 AM

September 20, 2006

『雪夫人絵図』溝口健二
梅本洋一

 およそ25年ぶりに『雪夫人絵図』を見る。もちろん木暮実千代主演の女性映画ではある──溝口だから当然!──のだが、今回、見直してみると、このフィルムは、リゾートの映画だということがよく分かる。旧宮家の信濃家の熱海の別荘に、雪夫人(木暮)にあこがれて長野からやってきた濱子(久我美子)が女中奉公する件から始まる。借金が嵩んで旅館になるこの別荘は、熱海の起雲閣である。明治時代の実業家の別荘として建築され...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:09 AM

September 19, 2006

マンチェスター・ユナイティド対アーセナル 0-1
梅本洋一

 開幕から連勝のマンU対未だ勝ち星のない(チャンピオンズリーグの緒戦ではハンブルガーSVによれよれで勝ったけど)アーセナル。キックオフ以前から勝負がついていたようなゲームだ。それにアンリもファン・ペルシも怪我のアーセナル。頼りないアデバイヨールの1トップ。グッドニュースの皆無のアーセナル。けれども、何度も書いているように、今シーズンのアーセナルは決して悪くない。負けたゲームだって、内容で勝って結果...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:58 PM

September 18, 2006

『LOFT ロフト』黒沢清
藤原徹平(隈研吾建築都市設計事務所)

「LOFT」というタイトルは、映画の最初のシノプシスで主人公が屋根裏部屋に引っ越すという設定だったことに由来していて、最終的にはそのような建物は見つからなかったから舞台として使われず、あまり映画とタイトルは関連性がないというようなことを、黒沢氏自身が質問に答える形で述べている(『黒沢清の映画術』)が、それはつまり、「1LDK/南面バルコニー/トイレ別/ロフトあり」のいわゆる「ロフト」という建築形...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:23 AM

September 17, 2006

『スーパーマン・リターンズ』 ブライアン・シンガー
結城秀勇

この携帯電話の普及した現代でスーパーマンはどうやって変身するのか。というのは誰でも思いつく疑問だろうと思うのだが、しかしながら『スーパーマン リターンズ』における最初の変身シーンでは、クラーク・ケントは月日の流れの前に呆然としながらも、公衆電話ボックスを探して右往左往したりはしない。むしろ人目をはばからずに歩道を走りながらシャツを脱ぎ捨ててしまうのだ。 「鳥か、飛行機か、……いやスーパーマンだ!...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:23 AM

September 16, 2006

THEATRE MUSICAの「映画館」
結城秀勇

 THEATREPRODUCTSの音楽部門であるTHEATRE MUSICAが行う、無声映画に生演奏をつけるというイヴェント。先日の溝口健二のイヴェントで上映された『東京行進曲』を見逃していたので行ってみる。プログラムは、ニューヨークの地下鉄が開通した7日後に撮影されたという『Interior New York Subway, 14th Street to Times Square』(G.W."B...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:52 PM

September 8, 2006

『パビリオン山椒魚』冨永昌敬
藤原徹平(隈研吾建築都市設計事務所)

 映画冒頭でご丁寧にも「本物とか、偽物とか、どっちでもいいの」という前振りがあり、エンドロールの途中で、実はついていたひとつの嘘の告白をさせているくらいに誠実な映画監督冨永昌敬氏の本格展開処女航海。  試写での周辺座席の評判は「不可解」の異口同音に溢れていたが、それは多分違っていて、ひとつひとつは解りやすいくらいに解りやすく、とてもロマンチックだったし、オダジョーだって素敵に滑っていたし、香椎由宇...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:55 PM

September 5, 2006

『サラバンド』イングマール・ベルイマン
梅本洋一

 登場人物わずか4人。彼らのカンヴァセーション・ピースですべてを成立させている聡明で賢明で、そして単純なフィルム。別離して30年になるかつての夫婦の対話と、老人と孫、父と娘の対話だけで成立しているこのフィルムは、ほとんどシェイクスピアの後期ロマンス劇が立ち至った和解と寛大さの境地を共有している。『冬物語』、『ペリクリーズ』、『テンペスト』……。否、シェイクスピアだけではない。『三人姉妹』、『かもめ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:44 AM

August 30, 2006

『ブラック・ダリア』ブライアン・デ・パルマ
梅本洋一

 ジェイムズ・エルロイの傑作ノワールをデ・パルマが映画化。それだけでワクワクするのはぼくだけではないだろう。多くの人物に等価に光を当てて、複雑な物語を語るエルロイとバロック的映像を多用するデ・パルマの齟齬を不安視する向きもあるだろう。いったい今のハリウッドに『ブラック・ダリア』に出演することのできる俳優たちはいるのだろうかという危惧もある。でも、そんないっさいの不安や危惧よりも、デ・パルマとエルロ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:56 PM

August 25, 2006

『水の花』木下雄介
梅本洋一

 PFF出身の俊英の新作。俳優の演出の面でぎこちなさは残るが、このフィルムを弱冠24歳の監督が撮影したとはやはり俄には信じがたい。父母の離婚後、父の許に残った女子中学生が、ひょんなことから父との離婚の原因になった母の子に出会い、ふたりの奇妙な時間が過ぎていく。それだけの話だ。だが、フィックスのショットに収まった中学生の揺れが正確に伝えられている。その主題、その方法の面で、この作り手は明らかに映画作...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:06 AM

August 17, 2006

『叫』黒沢清
梅本洋一

 ここには『回路』がある。ここには『CURE』がある。ここには『降霊』がある。そしてここには孤独な刑事がいる。だからここには『カリスマ』もある。だから、『叫』で黒沢清はそれまでの自らの集大成を行っているのかもしれない。映像や演出の面でも話法の面でもそれは確かだ。だが、それ以上にこのフィルムには地霊が棲みついている。かつて鈴木博之が書いた書物に『東京の地霊』(文藝春秋)があった。東京から選ばれた13...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:32 AM

アジアカップ予選 日本対イエメン 2-0
梅本洋一

 引いた相手をどう崩し、どうやって点を取るのか? 力が上のチームの永遠の課題だ。ワントップを残し、常に9人で自陣に立て篭もるイエメン。ほぼポゼッションは8割。だが、なかなかゴールを割れない。もちろんチャンスは多い。バーやポストに嫌われたシュートが2本。キーパーの好セーヴに阻まれたシュートが2本。ペナルティエリア近くで得たFKも3本がゴールをかすめた。どれも入っていれば単に圧勝のゲームだった。だが、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:28 AM

August 10, 2006

キリンチャレンジカップ 日本対トリニダード・トバゴ 2-0
梅本洋一

トリニダード・トバゴのメンバーがベストではないことを差し引いても、新生日本代表の動きは溌剌としている。W杯で決勝トーナメントに残らなければならないとか、自らの進退とか、そういった抑圧から一切自由になり、純粋にフットボールがうまくなりたいという若者たちの欲求が伝わってくるからだ。負けてもいいんだ、良いフットボールをやろうよ。良いフットボールは、ピッチの中をボールと人が縦横無尽に動き回るフットボール...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:02 AM

ダニエル・シュミット追悼
梅本洋一

 朝刊の死亡記事でダニエル・シュミットの死を知る。  ぼくがダニエル・シュミットに初めてあったのは今から24年前のことだった。当時は東京のシネフィリーが突然発酵し、アテネフランセに長蛇の列ができた時代だった。そのきっかけのひとつがダニエル・シュミット映画祭だった。シュミットの映画──特に『ラパロマ』──が極め付きのシネフィル映画ではなかったが、彼が導きの糸のような存在──そうPasseurだ──に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:00 AM

August 3, 2006

『ゆれる』西川美和
梅本洋一

 多くの観客を集めている、この兄弟の愛憎劇をようやく見た。水曜日ということもあってか、映画館は1時間前に満員札止め。観客のほとんどは20代から40代の女性だった。  残念ながら処女作の『蛇イチゴ』は未見だが、西川美和に才能が備わっていることは事実だ。  写真家として仕事をする弟が母の死をきっかけに久しぶりに山梨の実家に帰り、そこで実家のガソリンスタンドを経営する兄と会う。ガソリンスタンドではかつて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:08 AM

July 28, 2006

『東京物語』小津安二郎
田中竜輔

 ようやく夏がやってくるらしい。梅雨空が続いた7月の下旬、シネマヴェーラ渋谷では「いつもと変わらぬ103回目の夏」という素晴らしい副題のつけられた監督小津安二郎特集が始まっている。そのなかで久し振りに『東京物語』を観た。夏の映画だ。 『東京物語』を初めて見たのは冬だった気がする。スクリーンではなく自宅の小さなモニターで「見た」はずの『東京物語』と、スクリーンで、複数の観客と共にシートに体をうずめて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:16 AM

July 25, 2006

『2番目のキス』ファレリー兄弟
須藤健太郎

 ロブ・ライナーの新作がつい1ヶ月ほど前に封切られていたことを何人ぐらいの人が覚えているだろう。かく言う私も気付いたときはすでに公開は終わっており、あっさりそれを見逃したのだから、偉そうなことは言えない。主演のケイト・ハドソンがめちゃめちゃ可愛かったとはいえ、前作『あなたにも書ける恋愛小説』にはやはりいまいち乗れなかったので、秘かに新作を期待していたのだったが……。いまはどこかの二番館に回ってくる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:39 PM

July 24, 2006

『カポーティ』ベネット・ミラー
須藤健太郎

 フィリップ・シーモア・ホフマン好きの人には、とにかく見ることを勧めたい、そんな映画である。『カポーティ』は、フィリップ・シーモア・ホフマンの映画以上でも、またそれ以下でもないからだ。ポール・トーマス・アンダーソンやトッド・ヘインズなどの若手監督たちにほのかな愛情をもって起用され、名バイプレーヤーの地位を築きつつあった彼が製作総指揮を務め、主演を果たしたのが、この『カポーティ』なのである。伝記を読...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:56 PM

July 21, 2006

『こおろぎ』青山真治
梅本洋一

 映画について考えられるいくつかの言辞。たとえば音声と映像でつくられている映画は、嗅覚と触覚を直接示すことはできない。映画から匂いも香りも生まれない。映画で人と人の接触を見せることはできるが、その感覚を共有するためには想像力が必要だ。たとえば極めて具体的に事物を映し出す映画が、抽象性に向かおうとするとき、そこからは人名、地名などの固有名が脱落し、人は、「男」だったり、「女」だったり、「若い人」とか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:06 PM

July 9, 2006

『チーズとうじ虫』加藤治代
黒岩幹子

 病気になった母親との暮らし、その死後の暮らしを映したドキュメンタリー映画。  この映画を見ながら、数年前に見た大橋仁の『目のまえのつづき』という写真集のことを思い出した。そのなかには、自殺未遂を起こした父親が救急隊員に運ばれる様、大量の血に染まった布団、病院の待合室、意識を取り戻した父親の眼……そんな写真がおさめられていた。  この『チーズとうじ虫』という作品も、「目のまえ」に立ち現れた肉親の生...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:21 AM

June 22, 2006

『嫌われ松子の一生』中島哲也
結城秀勇

“兄弟たちよ、愛は教師だ”(『カラマーゾフの兄弟』) 『嫌われ松子の一生』を見るにあたって、『下妻物語』のDVDを借りてきて見たのだが、私はこの作品が好きだ。田んぼの反復と「ジャスコ」の服に視覚的に支配されている場所である「下妻」と、オルタナティヴな「伝説」の宿る場所である「代官山」。主人公ふたりはその両極を往復するのだけれども、「代官山」という場所が特権的であるのは実は彼女たち自身が自らのアイ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:03 AM

June 19, 2006

『幸せのポートレート』トーマス・ベズーチャ
黒岩幹子

 公開は真夏だけれど、これはクリスマスを舞台にした家族の物語だ。お堅いキャリア・ウーマンのメレディスが婚約者の実家・ストーン家(原題は「The Family Stone」!)でクリスマス休暇を過ごすことになるが、自由奔放でオープンなストーン家の人々は彼女のことが気に入らず波乱のクリスマスに……というお話。もちろんメレディスの恋愛・結婚の行方も物語の要素のひとつだが、家族愛、家族はどのようにしてつく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:46 AM

June 16, 2006

『ママン』クリストフ・オノレ
結城秀勇

今年のカンヌ映画祭で最新作『Dans Paris』が高い評価を得たというクリストフ・オノレの長編二作目『ママン』。 冒頭からカメラは登場人物に肉薄し、ほとんど背景が見えないほどに人物を大きく映し出す。舞台となるのはスペインの避暑地で、海と広大な砂漠が広がっている抽象的な空間だ。そうなれば当然、そこに映し出される人物の身体が非常に重要な役割を持つはずなのだが、しかしこのフィルムがその点で特筆すべき成...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:38 AM

June 6, 2006

ラグビー パシフィック・ファイヴネイションズ ジャパン対トンガ 16-57
梅本洋一

 対マルタ戦に辛勝したフットボールの中田が怒っているようだが、大黒のシュートが決まっていれば3-0のゲームだった。マルタの体を張ったディフェンスとカウンター狙いにうまく引っかかった。でも勝てた。そんなゲームもある。重要な瞬間はまだ先だ。  それに対して同日開幕したラグビーの公式戦パシフィック・ファイヴネイションズ(トンガ、フィジー、サモア、オールブラックス・ジュニア、ジャパン)のジャパンは重傷だ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:03 AM

June 2, 2006

ドイツ対日本 2-2
梅本洋一

 すでに多くの記事が示しているとおり、基本的に日本代表は悪くないゲームをした。ショートからミドルレンジのパスを交換し、バイタルエリアでスルーパス。高原の久々の2点も良かったが、このゲームでは、日本代表の長所はやはり中盤にあることが証明された。ヒデ、俊輔、福西の3人はバラックを中心とするドイツの中盤よりもずっと良かった。  だが、勝ちきれない。簡単なセットプレーから2点を献上し、結局ドロー。善戦した...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:41 AM

May 19, 2006

『ヨコハマメリー』中村高寛
梅本洋一

 ぼくもヨコハマ・ネイティヴだから、白塗りの街娼メリーさんのことは知っていた。そして、それがドキュメンタリーとして撮影されたと聞いて見に行った。横浜で見たのではない。池袋だ。  もちろん監督の中村高寛が語るとおり、メリーさんの消息を求めていくドキュメンタリーの通常のスタイルを期待していない。白塗りだから彼女は伝説になったのだろうが、白塗りでなければこんな女性はたくさんいたろう。問題は「ヨコハマ」だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:14 PM

May 16, 2006

『訪れた女』ジャン=クロード・ギゲ
田中竜輔

 つい先日まで名前も知らなかった映画作家の、さらにはわずか10分ばかりの短編、しかも字幕もなく台詞の内容もほとんど理解できないような「会話劇」の作品に、なぜここまで揺さぶられたのだろう。  上映前に目を通した会話シナリオでおおよその筋はわかっていた。不倫相手に捨てられた女と、その女を家に迎え慰める女の会話劇。映画が始まると、まずひとりの女がベッドに横たわっているのが目に入る。その傍らには猫がいる。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:59 AM

May 15, 2006

『女たち 女たち』ポール・ヴェキアリ
梅本洋一

 モンパルナス墓地に面したアパルトマンに中年に達したふたりの女性が住んでいる。壁には30年代の映画スターたちのポートレートや当時の映画雑誌「Cinemanie」「Cinevie」の表紙が無数にところ狭しと飾られ、年上の女性はまるで少女のような衣装を身にまとい、年少の方はどうも女優らしい。ふたりの関係は分からないし、冒頭の長いワンシーン・ワンショットでの対話の内容も、実に内容がなく、彼女たちの正体が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:08 PM

May 8, 2006

『ニュー・ワールド』テレンス・マリック
田中竜輔

『シン・レッド・ライン』の舞台で『天国の日々』を撮ったようなフィルム。この映画のことを聞いてからというものそんなイメージを漠然と思い浮かべていたし、実際にそのような感想も聞いていた。確かにそれは間違ってはいないだろう。だが、『ニュー・ワールド』は決してテレンス・マリック自身のリファレンスによってのみ作り上げられただけのフィルムではない。  たとえば、原住民の一人が地面に荷物を置くという些細なアク...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:35 AM

May 7, 2006

『フォーブール・サン=マルタン』ジャン=クロード・ギゲ
梅本洋一

おそらく昨年の秋にギゲが亡くならなければ『フォーブール・サン=マルタン』を見ることなどなかったろう。今から28年前、私はジャン=クロード・ギゲの処女長編『美しい物腰』(良家のマナー)を見た。自室に戻ってラジオをつけると、ギゲのインタヴューを放送していた。おぼろげな記憶を辿ると、彼はこんなことを言っていた。「ぼくが育った場所では、原語での外国映画の上映などあり得なかった。だから今でもアメリカ映画をフ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:38 AM

April 5, 2006

『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』マーク・モーマン
須藤健太郎

 本作は伝説的なレコーディング・エンジニアにして音楽プロデューサーのトム・ダウドを追ったドキュメンタリーである。2002年、長年の業績が称えられ、彼にはグラミー賞功労賞が贈られる。本作もまたそのような流れの中で製作されたドキュメンタリーであろう。  アトランティック・レコードで数々のレコーディングに立ち会った彼は、本当に驚くべき数のミュージシャンと仕事をしていた人だ。セロニアス・モンクやジョン・コ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:27 PM

April 1, 2006

終焉への時間——『ラストデイズ』ガス・ヴァン・サント
舩橋 淳

 最初から死んでいる人間がいかに物理的な死を迎えるか、その決定的な結末までの時間を描くのがGus Van Santである。ジャームッシュの『Dead Man』もすでに死んでいる人間が身体的な死を迎える時間を描いた。ジョニー・デップのウィリアム・ブレイクは文字通り彼岸へと旅立っていった——ポエティックな世界へと。しかし、Van Santの場合、半死半生のミュージシャンがイマジナリーな領閾に浸りきった...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:31 PM

March 31, 2006

『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』トミー・リー・ジョーンズ
田中竜輔

 合衆国とメキシコとの国境において生まれたこのフィルムは、同時にもうひとつの境界を起点にしてその運動を始める。それは「生」と「死」における境界においてである、と言ってしまえば単純なことに聞こえるのかもしれないが、そうではない。  まずはじめに、私はこのフィルムの序盤を見ていて人間関係がまったく理解できないことに戸惑った。このフィルムはそれほど多くの人物が出演しているわけではないし、ここで語られてい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:22 AM

March 29, 2006

『ニュー・ワールド』テレンス・マリック
須藤健太郎

 「映像と音響の洪水」という表現がいつだったか何かの映画にされていたと思うが、まるでその表現がぴったりと当てはまるように、この映画は見る者を圧倒するだろう。絶え間なく聞こえるモノローグの数々がこの映画の語り手を決して一点には収斂させず、拡散させていくうちに、語りの時制も語り手の人称も判別することができないまま観客はそのラストを迎えてしまうはずだ。大まかに言えば、ポカホンタス(クオリアンカ・キルヒャ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:58 PM

March 27, 2006

『マンダレイ』ラース・フォン・トリアー
結城秀勇

 「ドッグヴィル」を後にしたグレースは「マンダレイ」に立ち寄る。そこはローレン・バコール演ずる「ママ」の法律が支配する場所だった。グレースは村人を時代錯誤的な「ママの法律」から解放しようと試みるのだが、結局のところその試みは失敗し、自分が新たな「ママ」になることでしか「マンダレイ」と関係を持つことができなくなる。  マンダレイという街を存在させる原理が、ママの権力で繋ぎとめられた被支配者たちである...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:54 AM

『グッドナイト&グッドラック』ジョージ・クルーニー
須藤健太郎

 前作『コンフェッション』でもアメリカ政府という巨大な組織との葛藤がテレビという新興のメディアを舞台に描かれていた。そこにはキャスターの父を持ち、一時は自身もそれを志したというクルーニーの個人的な憧憬が投影されているのだろうが、前作におけるチャーリー・カウフマンによる脚本のその複雑さとはまったく逆に、クルーニーは『グッドナイト&グッドラック』では単純なストーリーと単純な構造を獲得している。ほとんど...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:22 AM

『哀れなボルヴィーザー』ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
須藤健太郎

 いま公開されいる封切り作にも見たいのはいっぱいあるのだけど、アテネにファンスビンダーを見に行く。すると、すごい行列。暇なときにブログなど見ていて思うが、毎日のように封切り作にもこうした特集上映にも駆けつけるための時間とお金と気力はいったいどこから湧いてくるのだろう。まだまだ先は長い。なんとか工面しつつ、テンションを保たないとやっていけない。  それにしてもこの『哀れなボルヴィーザー』の主人公は、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:21 AM

March 20, 2006

『白い足』ジャン・グレミヨン
藤井陽子

 ポール・ベルナール演ずる伯爵の白いゲートルが闇夜に浮かび上がると、子供たちが目ざとく「白い足、白い足!」とからかいながら群がっていく不気味なシークェンスを経て、ブルターニュの港町で起こった5人の男女の復讐劇の幕があがる。  美しく豊満な肉体を持ち「最高の女」ともてはやされ、常に貴婦人であろうとする元お針子のオデット(シュジー・ドレール)は、酒場の主人で魚卸業を営むジョック(フェルナン・ルドー)の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:45 AM

シックスネイションズ06 フランス対イングランド 31-6
梅本洋一

 フランスの完勝のゲーム。その戦略はあとで書くことにして、このゲームの印象として誰の目にも見えることは、イングランドの退潮だ。ワールドカップ優勝から2年半が経過し、監督は交代しても、このチームはかつての遺産を使い切ってしまっているのに、遺産を粉飾決算して金庫に預金があるような戦いをしていることだ。徹底したFW戦。少しずつ前進し、しぶとく敵陣に入り、そこでPG。ジョニー・ウィルキンソンがいたからこそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:38 AM

スキーW杯 スラローム最終戦
梅本洋一

 トリノ後の志賀高原で2位、5位というリヴェンジを果たし、アキラもいよいよ最終戦。スウェーデンのオーレだ。「腑抜けた野郎だと思われたくなかった」「曇りでも初めて下が見えた」いずれも志賀高原でのアキラの発言だ。確かに「金以外考えていない」はずだったが、2本目の片反。「腑抜けた野郎」だと誰でもが思ったろうし、誰でもには、アキラ本人も含まれている。自分自身が「腑抜け」に思われるとき、人は発憤せざるを得な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:36 AM

March 10, 2006

『恋の掟』ミロス・フォアマン
結城秀勇

 3月いっぱいまで東京日仏学院で行われている、アルノー・デプレシャンによるプログラム「人生は小説=物語(ロマン)である」は極めて示唆に富んだ特集である。なかでも、余り注目していなかったミロス・フォアマンのこのフィルムのおもしろさには驚いた。  何度も映画化されているコデルロス・ド・ラクロの『危険な関係』であるが、手紙のやりとりだけで構成されるこの原作を、「秘密」と「共犯関係」のふたつを主軸として映...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:32 PM

March 4, 2006

『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』青山真治
結城秀勇

 波。嵐が過ぎ去った直後の海は泥や砂を巻き上げて、攪拌して、高く沸き起こり、強く打ちつける。あの轟音は静かに澄み渡った海からは生まれない。風と水面との関係や、もっと遙か遠くの地殻の震動といった、目に見えない関係性を可視化して、土色の荒れて濁った波は重く鳴り響く。砂や泥といったミクロな細部の混濁が色彩として目の前に現れ、いまここを揺らす音の徴となる。  ミズイとアスハラというふたりの収集者=発明家が...全文を読む ≫

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March 3, 2006

『第九交響楽』デトレフ・ジールク(ダグラス・サーク)
月永理絵

 99年に出版された、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの著作集『映画は頭を解放する』は、ダグラス・サークについての記述から始まる。サークからの影響を強く受ける彼は、『天はすべて許し給う』や『悲しみは空の彼方に』など、自分が見ることができたアメリカ時代の作品を並べ、ときに「胸くそが悪くなる」というような明け透けな言い方をしながら、物語の中で生きる人々の性質について語っている。たとえば、『風と共...全文を読む ≫

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March 1, 2006

『歌へ今宵を』カルミネ・ガッローネ
須藤健太郎

 幸福な空間とはおそらくこういうことを言うのであろう。上映後には拍手が起こり、あちこちからヨカッタヨカッタという声が聞こえる。まるでこの映画のラストで幸福感に満たされた誰もが突如として踊り出してしまうように、軽い足取りで、幸せな気持ちになって、みなが会場を後にしているように見えた。映画を見ることの楽しさとは、そう、このような幸福な体験を繰り返すことなのかもしれない。そんなことを思った。  主演のヤ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:07 AM

『ボーイ・ミーツ・ガール』レオス・カラックス
須藤健太郎

 巷ではJ・T・リロイが実在しなかったというニュースが賑わっているが、確かにこれには驚いた。ウィノナ・ライダーやアーシア・アルジェントはその事実は知っていながら、その隠蔽に協力したとして非難の的となっているようだ。  アーシア・アルジェントがリロイの小説を基に作った『サラ、いつわりの祈り』を見たとき、カラックスのことを思い出した。それがカラックスを想起させたのではなく、それが単にジャン=イヴ・エス...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:59 AM

February 27, 2006

『人生なんて怖くない』ノエミ・ルヴォヴスキ
須藤健太郎

 ノエミ・ルヴォヴスキはデプレシャン『キングス&クィーン』にマチュー・アマルリックの姉役で出演していた。99年に製作されたそんな彼女の3作目の長編である。『キングス&クィーン』繋がりで言えば、舞台女優を目指していたエマニュエル・ドゥヴォスがそもそも映画の世界に入ることになったのは、ノエミのFEMIS卒業制作に出たことがきっかけだったようだ。ドゥヴォスはこの作品でも謎の哲学の先生として登場し、見る者...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:38 AM

February 23, 2006

『激情の嵐』ロバート・ジオドマーク
須藤健太郎

 刑期を終えて出所したグスタフを待ち受けているのは、非情で残酷な世界なのだ。2年ぶりに会う恋人はすでにほかに男をつくり、嫉妬に駆られた彼はそれから破滅へと一直線に向かっていく。主演はエミール・ヤニングス。スタンバーグの『嘆きの天使』でも、ディートリッヒに惑わされ、破滅していく男を彼は演じていたが、『激情の嵐』で彼が虜になるのは、アンナ・ステンである。アンナ・ステン演じるアニーアは、男たちの注目を浴...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:41 PM

『レッツ・ロック・アゲイン!』ディック・ルード
黒岩幹子

 ラモーンズのドキュメンタリー映画『エンド・オブ・ザ・センチュリー』のなかで、一番印象に残ったのは、インタヴュアーの質問に対して、ジョニー・ラモーンが沈黙するさまだった。そんなに長い時間ではないけれど、めちゃくちゃ重い沈黙。この人はこの沈黙でもって長い間ラモーンズを続けてきたのだと思わされた。 『レッツ・ロック・アゲイン!』でのジョー・ストラマーは常に声を出し続けている。ただ歌い、ただ喋るのではな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:24 PM

February 21, 2006

『ミュンヘン』スティーヴン・スピルバーグ
月永理絵

 1972年、ミュンヘンオリンピックに起こったテロ事件と、それによって引き起こされた暗殺事件がこの映画の題材となっている。ミュンヘン事件とは、オリンピックに出場していたイスラエル人選手たちが、パレスチナ過激グループ「黒い九月」のメンバーによって監禁され、11人全員が殺害された事件である。その後、イスラエル機密情報機関「モサド」は、暗殺チームを編成し、この事件の犯人であるパレスチナ人11名の暗殺を企...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:20 AM

February 20, 2006

『サーク・オン・サーク』ダグラス・サーク+ジョン・ハリデイ
須藤健太郎

 激しく嫉妬するということがたびたびあれば、人生は過酷でつらいものとなるだろうから、そうたびたび起こるものではない。しかし、シネマテーク・フランセーズでのダグラス・サーク回顧特集には激しい嫉妬を覚えたものだった。うらやましかった。たまたまファスビンダーの『自由の代償』などをDVDで見たりしていて、ダグラス・サークが見たいと思っていたからだ。ファスビンダーも前に見たときよりもその世界にすっかり没入で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:27 AM

February 19, 2006

『次郎長三国志』マキノ雅弘
須藤健太郎

 新しくできた名画座シネマヴェーラ渋谷でマキノ雅弘の『次郎長三国志』を見た。『第三部 次郎長と石松』『第四部 勢揃い清水港』の二本立であった。『第三部』は、森の石松と追分三五郎との旅が中心に描かれ、『第四部』では、ふたたび清水に戻った次郎長一家と彼らが合流する。『第三部』からは、お仲さん役で久慈あさみがシリーズに加わるのだが、次郎長が清水に戻ることになって、若山セツ子演じるお蝶さんが出てくると、や...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:27 PM

『ウォーク・ザ・ライン』ジェームズ・マンゴールド
須藤健太郎

 ジョニー・キャッシュの伝記映画である。しかし本作が語るのは、ジョニー・キャッシュの半生というより、彼とジューン・カーターのふたりの物語である。ステージ上でふたりが掛け合い歌う姿がスポットライトで照らし出されるように、マンゴールドはこのふたりに焦点を当てるのだ。しかし本作は、ふたりが出会い、一緒になるまでの過程を描いた作品ではない。  彼とジューンがようやく結ばれ幸せな生活を始めることを示唆するラ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:13 PM

January 27, 2006

《再録》here & somewhere
黒岩幹子

(2006年1月27日発行「nobody issue21」所収、p.28-31)  4年ほど前、ペドロ・コスタ監督の『ヴァンダの部屋』(00)を初めて見たとき、私はふとヤニス・クセナキスの『ペルセポリス』という音楽を思い浮かべた。 『ペルセポリス』は1971年に8チャンネル・テープで録音されたいわゆる電子音楽。詳しくは、「複数のアコースティック楽器による演奏と、集音マイクで拾集された様々な自然音...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:43 PM

January 9, 2006

ラグビー大学選手権決勝 早稲田対関東学院 41-5
梅本洋一

 ほぼ予想が当たったことで満足しているわけではない(関東のトライを2と予想したが1トライのみに終わった)が、発見が少ないゲームだった。FW戦、接点、ライン攻撃、その局面でも早稲田が関東を圧倒した。早稲田が5トライに留まったのは、関東のディフェンスが頑張ったからであり、もしも「切れた」状態に陥ったとしたら、早稲田は10トライは奪ったろう。その程度の差があったということだ。  それにしても早稲田は堅い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:03 PM

January 3, 2006

ラグビー大学選手権05準決勝 関東学院対同志社 31-15 早稲田対法政 61-5
梅本洋一

 もう少し戦術を練りさえすれば関東学院を敗ったかもしれぬ同志社。ポゼッションでも地域でも関東を上回りながらトライを取ることができない同志社。もちろん関東のねばり強いディフェンスは称賛に値するが、今年こそは、という意気込みで臨んだ同志社の空回りが惜しい。競ったゲームができない関西にある同志社の悲哀は分かるが、スクラム、ラインアウト等要所を押さえる関東の老練な戦いぶり。学生チームはゲームの中で修正する...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:17 AM

December 21, 2005

アーセナル対チェルシー 0-2
梅本洋一

 アーセナルのプレミアシップは終わった。それも完全に、しかもチェルシーに完膚無きまでに叩きのめされた。ファンクラブに入っているぼくのところにもヴェンゲルから手紙が来た。重要な1戦だ。頑張ると書いてあった。だが、ゲームを見てみると、プレミアシップの無敗記録を作ったアーセナルの流麗かつ完全なフットボールはもう存在していなかった。残念だが、この現実を受け入れることからしか新たな出発はない。  もちろん言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:26 PM

December 5, 2005

ボルトン対アーセナル 2-0
梅本洋一

 アンフィールドでのリヴァプール対ウィガン戦の直後ボルトン対アーセナルを見る。アンフィールドでのリヴァプールは本当に素晴らしかった。シャビ=アロンソ、ジェラード、キューウェル、そしてルイス=ガルシアが自在にポジションを変えつつ、長短のスピード溢れるパスが交換され──そう、まるで去年までのアーセナルを見るようだった。美しいアンフィールドで極上のフットボールを見るのは快楽以外の何ものでもない。  そし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:18 AM

November 30, 2005

フランス対スプリングボクス 26-20
梅本洋一

 この秋のテストマッチシリーズの中にもっとも注目されるべき一戦。ワラビーズを撃破し、カナダ、トンガを一蹴したフランス。アルゼンチンにアウェイで競り勝ち、やはりアウェイでウェールズに勝ったスプリングボクス。共にこの秋の最終戦になるゲーム。  平均体重で10キロ下回るフランスは、当然、ディフェンシヴなゲームを強いられる。セットプレイは、スクラム、ラインアウトともにほぼ完敗。だがスプリングボクスは、ゆっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:57 PM

November 25, 2005

『ダーク・ウォーター』ウォルター・サレス
月永理絵

 鈴木光司原作で日本でも映画化された『仄暗い水の底から』の、ハリウッドリメイク作品である。映画の日本版は見ていないが、とにかく画面の暗い映画だ。離婚調停の最中で娘と暮らすジェニファー・コネリ−の姿には、慢性的な疲労と苦痛とが刻み込まれ、その陰鬱さが映画全体を侵食している。舞台となるルーズベルト島もまた、何とも奇妙な場所だ。  この島は、「ニューヨークでありながらニューヨークではない」。ニューヨーク...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:07 PM

November 17, 2005

2005年11月17日

彼は6回目だと断言していたが、実際に私が彼とここで会ったのは4回目だと私は思う。彼は最初はすごく警戒心が強くて、初対面の私に自分にとって風俗とは何か、理想的な風俗嬢とはどういう存在か、とにかくそんな固い言葉で沈黙を埋め尽くし続けていたのを覚えている。細かい内容は忘れてしまったが、私も彼の言葉に共感で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:21 PM

October 17, 2005

『自由、夜』フィリップ・ガレル
藤井陽子

“montage”、確かに今までも、多くの映画のクレジットの中で目にしてきたはずなのに、監督や出演者やカメラあるいはプロデューサーが誰か知りたいと思うような熱心さでその名前を追うことはこれまであまりなかったように思う。しかし、まさに「編集」という仕事を通して映画と共にいたドミニク・オーブレイが共同作業をしてきた映画人の面々をみてみると、クレール・ドゥニ、マルグリット・デュラス、フィリップ・ガレル...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:16 PM

『バクステル、ヴェラ・バクステル』マルグリット・デュラス
田中竜輔

 完全な沈黙は時間を永遠に停止させるのかもしれない。郊外で開かれているというパーティーには軽快な音楽が鳴り響いているも、女の横たわるソファーに振動はまるで伝わっていないようだ。波はそこにはない。小さな電話が結びつける別の空間にその音楽は伝わろうとも、その波はどこにも存在しない。存在しないはずの音に満ちた空間。そこに完全な沈黙は存在しないのだから、時間が停止してしまうことはもちろんない。だが、そこに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:43 AM

『マルグリット、あるがままの彼女』ドミニク・オーブレイ
須藤健太郎

 ドミニク・オーブレイは、マルグリット・デュラスの友人であり、『バクステル、ヴェラ・バクステル』『トラック』『船舶ナイト号』などデュラスの映画の編集者として彼女を支えていた。このフィルムは、そんな彼女によるデュラスのドキュメンタリーである。彼女の幼年時代の写真から撮影された当時のインタヴュー映像まで、作家、映画監督としてだけではないデュラスという人の様々な表情が捉えられている。親しくしていた哲学者...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:16 AM

October 14, 2005

2005年10月14日

毎週お店に足を運んでいた男が、数ヶ月前から突然来なくなっていた。それまで当然のように顔を合わせていた彼の不在に、私は戸惑いを隠せないでいた。彼の予約するいつもの曜日、いつもの時間に同じように予約が入ると、彼ではないかと推し量り、ルームの扉を開け相手がその男でないことを確認すると、彼のために用意してい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:52 AM

『前川国男──賊軍の将』宮内嘉久、『吉阪隆正とル・コルビュジエ』倉方俊輔
梅本洋一

 小学生の頃、ぼくは神奈川県立音楽堂へ鰐淵晴子のヴァイオリンを聞きに行った。ぼくが行きたかったわけではなく、母親が息子の「情操教育」によいと勝手に判断して、小学校のクラスで団体販売していたチケットを買ったのだと思う。そこで、後に女優になる天才ヴァイオリニストが何を演奏したかはまったく覚えていない。ぼくが覚えているのは、桜木町から少し歩いた場所にある坂道を上り、その中腹にある駐車場から音楽堂に入ると...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:49 AM

2005年10月13日

都会の喧騒を離れ東北の小都市で静かに映画に浸る、そんなイメージを山形国際ドキュメ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 21:01

October 7, 2005

Passion and Action「生の芸術 アール・ブリュット」展
影山裕樹

 アドルフ・ヴェルフリ、1864年に生まれ、幼くして家族を失い、幼女暴行未遂により精神病院に収監、彼は同病院内において、ある日突如として絵を描き始める。しかしその壮大な空想上の自叙伝の企ても、病には敵わなかった。休むよう説得する医師の言葉も聞かず、彼は死に瀕し、涙を浮かべながらも、最後までこれを描き上げたいと訴え続ける。そして1930年の冬、自らの『葬送行進曲』を描きながら、ヴェルフリはついにこの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:43 PM

例年、この季節に山形に来ると秋口の寒さはこんなにもだったかと思い知らされる。その...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 13:11

October 3, 2005

プレミアリーグ リヴァプール対チェルシー 1-4
小峰健二

 CL予選に引き続き、今週2度目の対戦であるリヴァプール対チェルシー。この対戦には最近遺恨めいたものが生まれつつある。去年のCL準決勝におけるゴール判定や数日前の審判のミスジャッジなどが原因らしく、試合前から舌戦が繰り広げられていた。アンフィールドのファンも興奮している。むろん、ミッドウィークの「静かな闘争」(梅本洋一)の興奮を、極東にいる私たちもまた引きずっている。  試合は前半20分まで、素晴...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:37 PM

プレミアリーグ リヴァプール対チェルシー 1-4
梅本洋一

 ホーム・アンフィールドでの決定的な敗北はリヴァプールにどんな影響を与えるだろうか。前半、ジェラードの素晴らしいシュートで同点に追いついたときの歓喜と、それ以降の一方的な展開。両チームの差は本当に明瞭になった。マケレレ、ランパード、エシアンで構成するチェルシーの中盤、そして、ジェラード、ハマン、シャビ=アロンソで構成されるリヴァプールの中盤に、それほど大きな差はない。両チームとも中盤の潰しあいでほ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:34 PM

September 28, 2005

チャンピオンズリーグ アヤックス対アーセナル 1-2
梅本洋一

 この火曜日でもっとも興味深いゲームだと思われたが、予想が外れた。まず両チームのコンディションが悪いこと。怪我人が多い上に、リーグ戦でも不調だ。どちらも最良のものを出し切るどころか、何となくゲームが始まり何となく終わってしまった。  アーセナルはアンリ、ベルカンプ、ジウベルトが怪我、レーマン、ファン・ペルシが出場停止。アヤックスはスナイデルとトラヴェルシが故障。いったい誰が出るのか? 誰が出ても1...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:39 PM

September 26, 2005

『シンデレラマン』ロン・ハワード
梅本洋一

 金のために久しぶりにリングに復帰するブラドック。マジソン・スクウェア・ガーデンのロッカールーム。トレーナーに空腹だと告げ、彼の前にはボールに入ったハッシュット・ビーフが運ばれている。フォークを取りに、ロッカールームを出るトレーナー。そこにひとりの男が訪れる。ソフト帽を斜めに被り、顔に深い皺が刻まれた「NYトリビューン紙」のヴェテラン・ボクシング記者だ。「俺のことを覚えているか?」「ああ、ひどく書...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:26 PM

『Dogtown & Z boys』ステイシー・ペラルタ
結城秀勇

 回収や再利用は戦争につきものだし、あるものを二度、それもまったく異なった目的のために利用するのは、要するに戦争のポエジーなのだ(『黄金の声の少女』ジャン=ジャック・シュル)。  ルート66のつきる場所、ドッグタウン。その南にある「ヴェニス、カリフォルニア」は、「パリ、テキサス」と同じようなアメリカの内部の様々な場所にある世界の断片のひとつだ。運河を巡らせ、もうひとつのヴェニスをつくりあげようとい...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:23 AM

September 25, 2005

ウェストハム対アーセナル 0-0
梅本洋一

 中田英寿はまだまだボルトンに馴染んでいないようだ。バックラインから前線に長いパスが出る展開が多いボルトン、トップに当たっても両サイドに散らされ、ヒデはなかなか仕事ができない。でもCKもFKも任されていたし、技術的には何の問題もない。センターにどっしりと構えるよりも、オコチャが右ならヒデは左というようにタッチライン際にひらけばもっとボールが来るだろう(ボルトン対ポーツマスは1-0)。  でも今期好...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 PM

September 18, 2005

『初代総料理長サリー・ワイル』神山典士
梅本洋一

 大学時代、祖父から日本のフランス料理にはふたつの系統があり、それは帝国ホテル系とホテル・ニューグランド系だと聞かされたことがある。祖父は、生粋の浜ッ子だったから、ホテル・ニューグランドへの愛着を込めてそう語っていたのだと思っていた。だが、それ以後、実際にフランス料理を食し、フランス料理についての書物を書いたり読んだりするにつけ、ホテル・ニューグランドとその初代総料理長サリー・ワイルの力の大きさを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:47 AM

September 13, 2005

『チャーリーとチョコレート工場』ティム・バートン
田中竜輔

『夢のチョコレート工場』でメル・スチュアートは当然のように目もくれていなかったし、ロアルド・ダールの原作にも存在しなかったというウィリー・ウォンカの過去をティム・バートンは掘り起こしている。『夢のチョコレート工場』にあった遊園地のアトラクションのような工場の内部を現代の技術と莫大な予算でリメイクし、遥かにエキサイティングで楽しいフィルムを作り上げることはバートンでなくとも不可能ではないだろう。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:20 AM

September 8, 2005

日本対ホンジュラス 5-4
梅本洋一

 相変わらずアレックスのサイドが突破される。コンフェデのブラジル戦と同じように加地が遅れてしまう。そしてヒデまでも凡ミスで失点。高原の久しぶりのゴールが決まっても前半で1-3。この夜、日本海を通過しつつあった台風のように大荒れのゲーム。覚えているだけでアレックスのサイドは3回も突破されている。伸二は怪我だが、前の6人を欧州組で固めた日本代表は、このチームが結成された当時の黄金の中盤。伸二の代わりに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:37 PM

September 6, 2005

ドイツW杯 欧州予選 フランス対フェロー諸島 3-0
梅本洋一

 ジダンの復帰はフランスの日刊紙の一面を飾った。絶体絶命のフランスが復帰させたのはジダンばかりではない。テュラム、マケレレも戻ってきた。GKのクーペからディフェンダーが右からサニョル、テュラム、ブームソン、ギャラス、ボランチにマケレレとヴィーラ、そしてマルーダとジダン。2トップにシセとアンリ。これが先発メンバー。若返りもへったくれもない。ドメネクは、恥も外聞もなく予選突破にすべてを賭けてきた。  ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:10 PM

September 5, 2005

『赤信号』セドリック・カーン
藤井陽子

 プラスとマイナスの磁石の、どちらかを球に、どちらかを半チューブ状のレールにして、そのレール上に球を滑らせると、球は何の摩擦も受けずに猛スピードで滑走する。それを新幹線に応用すると、もっと速く、もっとなめらかな走行を実現できる。問題は、それを止まらせる方法がないということだ。  うそかほんとか知らないが、そんな話を聞いたことがある。  セドリック・カーンの『赤信号』はこの滑走運動を思わせる映画だ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:13 AM

『シャーリー・テンプル・ジャポン・パートⅡ』冨永昌敬
結城秀勇

 はじめに流れる「パート1」では、コマ落とし、引きでの長まわし、サイレントという要素によって、これまでの冨永作品とは異なった世界が展開される。中でもこの「サイレント」という要素については、監督自身が公式サイトにて熱く語っていることでもあるのでそちらを是非見ていただきたいのだが、とにかくもこの『シャーリー・テンプル・ジャポン』の「原型」がサイレントであったというのは(そう、「パート1」はサイレントで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:11 AM

『ランド・オブ・ザ・デッド』ジョージ・A・ロメロ
月永理絵

ジョージ・A・ロメロの20年ぶりの監督作である。本当はゾンビシリーズとしてひとつの年代に一本の映画を撮ろうと思っていたと語るロメロは、68年の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』でデビューし、78年に『ドーン・オブ・ザ・デッド/ゾンビ』を、85年の『デイ・オブ・ザ・デッド/死霊のえじき』を完成させた。当然のようにゾンビ達の能力や姿は、その時代を象徴するものであり、05年に現われた彼らの新しい能力...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:25 AM

September 2, 2005

トータス Live (@Metamorphose 2005 8/28 修善寺サイクルスポーツセンター) 
田中竜輔

 ヴィヴラフォンとマリンバ、ロックバンドのステージでは滅多にお目にかからない二つの楽器が、静かに、そして力強くメロディを紡ぎ始める。そう、『Crest』だ。何度もCDで聴いていたはずのこの曲が午前零時を少し回った修善寺の山奥に共鳴を始めた瞬間、今までに経験したことがない空気の震えを感じた。この場所にいられることを心から幸せに感じた。この音楽が無限のヴォリュームになって全世界に響き渡ればいい、そんな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:14 AM

ナビスコカップ準決勝第1戦 浦和レッズvsジェフ千葉
渡辺進也

 ホーム&アウェイで行われるナビスコカップ準決勝の第1戦。2戦終わった段階で得点の多いほうが決勝進出となる。まずは浦和のホームで。駒場スタジアムは浦和のサポーターで真っ赤に染まる。実際に観客の9割以上が浦和のサポーターだったのではないだろうか。試合開始前から浦和の応援の声しか聞こえない。浦和の応援が続いているなか、始まった試合はいとも簡単に先制点が決まる。千葉の最初のチャンス、左サイドで得たFKを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 AM

『宇宙戦争』スティーヴン・スピルバーグ
梅本洋一

 テレビのニュースでハリケーンのカテリーナが通過した後のアメリカ南部の映像や、バグダッドで、人々が将棋倒しになった映像を見ていたら、新潟で地震にあったときのことを思い出した。1964年のことだ。父の転勤で新潟にしばらく住んでいた小学生のぼくは地震にあった。昼休みでかなり長い初期微動の後、いきなり大きな揺れが襲い、校舎の窓ガラスが粉々に落下してきた。ぼくらはまず机の下に隠れ、それから校庭に出た。校舎...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:07 AM

August 31, 2005

『奥様は魔女』ノーラ・エフロン
梅本洋一

 テレビ・シリーズの『奥様は魔女』は僕らの世代にとって忘れがたい。『ルーシー・ショー』や『陽気なスマート』などと並んで、笑い声が組み込まれたコメディとして本当に懐かしい。ぼくらは皆、魔女のサマンサがやる唇を左右にふるわせて魔法を使う身振りを真似していた。  このフィルムは、『めぐり逢えたら』でマッケリーの『めぐり逢い』を、『ユーブガッタメール』でルビッチの『桃色の店』のリメイクしたエフロンの「リメ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:53 AM

August 28, 2005

2005年8月28日

まさかこのお店で受けるサービスをまったく知らないで飛び込んできたわけでもないだろうに、彼は出会うなり大声でなんやかんやとまくしたてて、なかなか衣服を脱ごうとしなかった。私が業を煮やして彼のシャツに手をかけると、彼は大げさに飛び上がり確かにこういった。「もう何するんだよ、いきなり」。 それでもタオルを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:32 AM

August 23, 2005

トライネイションズ第4戦 ワラビーズ対スプリングボクス 19-22
梅本洋一

 ラック、リサイクルを繰り返すワラビーズはボール・ポゼッションでは大きく上回るが、ゲイン・ラインをなかなか切ることができない。どうやってトライをとるかという方法論において、ワラビーズにあるのは、フェイズを繰り返し、人数的な優位を作り、トライに結びつけるという以外にないのだろうか。もちろんこの日のゲームでもスティーヴン・ラーカムは、肘の怪我で出場せず、マット・ギタウがSOをつとめていたが、スプリング...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:16 AM

August 21, 2005

『ヒトラー〜最後の12日間〜』オリヴァー・ヒルシュビーゲル
影山裕樹

 この映画の中ではアウシュビッツはまったく出てこない。そして、それがむしろこの映画の慎重さをより的確に表現している。確かに、ドイツ国内でヒトラーを好意的に描きすぎているという批判があるのは当然かもしれない。ブルーノ・ガンツ扮するヒトラーが主人公の秘書や愛人に接するあまりの優しさは、はっきりいって私たちからすれば、尊敬するに値する、あまりに人間的な振る舞いに見える。そしてその手の神経質な震え、ヒトラ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:17 PM

August 20, 2005

2005年8月20日

実家に帰郷した隙に、父親の本棚の隅にそろりと置かれていた『スカートの下の劇場』を盗み読む。そこには、「パンティ」の多角的な歴史的変遷を通してかいまみえる1989年のセクシュアリティが描き込まれている。出版当初から16年の歳月が経過した現在、それを単純に鵜呑みにすることはできないが、それでも「動物的な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:01 PM

August 15, 2005

アーセナル対ニューカッスル 2-0
梅本洋一

 いよいよプレミアの開幕。もちろん贔屓のアーセナルの開幕戦を見る。ヴィーラのユヴェントスへの移籍。コミュニティ・シールズでの対チェルシー戦敗北。ほとんど昨年と同じ面子でしかもヴィーラがかけた状況で戦わねばならないアーセナル。「スカパー!」の開幕特集の番組で、粕谷秀樹は、「何年も同じタイプのフットボールは飽きた」と酷評したヴェンゲル=アーセナルのフットボール。アーセナル・ファンもぼくも粕谷の発言には...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:31 PM

August 14, 2005

『空中庭園』豊田利晃
結城秀勇

 直木賞の候補にもなった角田光代の小説を原作としたこの映画は、郊外の巨大なマンションの一室を舞台とする。テーマパーク兼ショッピングセンター兼レストラン街であるような場所、「ディスカバリーセンター」を中心とするこの街で、主人公である絵里子(小泉今日子)は、「理想の家族」を作り上げている。  マンションの遠景から、何百という同じかたちの部屋の中の任意のひとつへ向かって一気にクロースアップするショットが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:13 PM

August 11, 2005

『世界』ジャ・ジャンクー
梅本洋一

 北京郊外の世界公園。いながらにして世界のモニュメントを体験できる場。エッフェル塔やビッグ・ベンなどが、縮尺した模型で建ち並んでいる。いながらにして世界を体験できる、という表現は単に矛盾である。「世界」とは徹底して外部にあるものであるがゆえに、その一部──そう、私たちは常にその一部しか体験できない──を体験するためには、必ず外部への踏み出し、つまり旅行が必要になる。つまり「いながらにして世界を体験...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:18 PM

August 10, 2005

『リンダ リンダ リンダ』山下敦弘
梅本洋一

 物語としての「青春映画」の構造を明瞭に備えたシンプルなフィルムはおおかたの好評を集めているようだ。文化祭、バンド、ブルーハーツのコピー、韓国からの留学生……。もちろんタイトルを見ただけで、いろいろな出来事を乗り越えて、女の子たちは最後に「リンダ、リンダ、リンダ」と熱唱し、体育館は興奮の渦に包まれることは予想されるし、事実、予想通りなのだ。ギターの女の子の手の骨折や、ヴォーカルの子が喧嘩して韓国人...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:52 AM

『ルート1/USA』ロバート・クレイマー
田中竜輔

「語る」対象としての「死」とは決定的に「他者」のものでしかない。「自己における死」について、それはどのような場合においても語ることは不可能であるからだ。誰かにその「死」を見せるという「行為」においてそれは不可能であるとは言い切れないとしても、「語る」ことは絶対にできない。だから、語るものとしての「死」とは、すなわち「誰かの死」でしかない。「起こりうるかもしれぬ死」ではなく、「起こってしまったこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:50 AM

August 6, 2005

『せかいのおわり』風間志織
月永理絵

 映画が始まる前にプレスシートのあらすじを読んだ限りでは、ありがちで、陳腐な恋愛映画にしか思えなかった。  幼馴染みの男と女がいる。彼氏に振られる度に自分のもとに泣きついてくる女「はるこ」を、「慎之介」は何も言えないまま一途に思いつづけている。「はるこ」は「慎之介」の気持ちをわかっていながら、曖昧にごまかしている。そしてふたりを見つめるバイセクシャルの「店長」は、「慎之介」に思いを寄せている……。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:10 PM

August 4, 2005

サッカー 東アジア選手権 北朝鮮対日本 0-1 中国対日本 2-2
梅本洋一

 東アジア選手権の中間的なレポートを書いておこう。  初戦の対北朝鮮戦は、なによりも代表メンバーのモティヴェーションの低さが際立った。なぜこうしたトーナメントがあるのか。W杯予選の中間に、Jリーグの合間に、高温多湿の地でトーナメントを戦う必要があるのか? それを理解できないのは選手ばかりではない。中澤のミスパスから生まれた1点は選手たちのモティヴェーションの低さが原因だ。このトーナメントは、選手た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:37 PM

August 3, 2005

『世界』ジャ・ジャンクー
藤井陽子

『世界』を見ていた最中も、『世界』を見たことから何かを言い表したり考え始めようとしたときも、自然と思い浮かんだのは「プンクトゥム(ふいに私を突き刺すもの)」という言葉だった。ロラン・バルトがかつて用いて、彼自らの手であっという間に覆してしまった言葉だが、「プンクトゥム」という言葉の響きも意味も、『世界』について何かを言うときにいちばんしっくりくる、ぴったりの言葉だという風に思えたので、私はこの言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:53 PM

『亡国のイージス』阪本順治
梅本洋一

 この種のフィルム──こうしたジャンルをどう呼べばいいのだろう?──に極めて忠実な作りで最後まで観客を引っ張っていく。イージス艦が北朝鮮ゲリラに乗っ取られ、政府への要求が叶わないときは、1000万人以上が死亡する可能性のある武器を東京に打ち込むという物語。自衛隊の全面的な協力によって、イージス艦もジェット戦闘機も本物が稼働している。つまり、最後の最後に主人公(真田広之)の個人的な力によって、武器が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:46 PM

July 30, 2005

『アイランド』マイケル・ベイ
月永理絵

 ここ最近カート・ヴォネガットの小説を何冊か読んでいて、そのせいかSFというジャンルが気になって仕方がない。だが「SFとは何か」という問題を考えても仕方がない。そもそもカート・ヴォネガットの小説の何がおもしろいかと言えば、その特異な言い回しや簡潔な文体の連続がつくり出すテンポのよさである。ただ、異様なシチュエーションでこちらをあっと言わせ、恐怖心や憧れを感じさせてくれるような未来の世界に出会うと、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:50 PM

July 18, 2005

『流れる』成瀬巳喜男
田中竜輔

 夫と子供を失い、ひとりで細々と生きている45歳になる梨花(田中絹代)は、とある古びた芸者置屋「つたの屋」に女中として勤めることになる。すでに抵当に入れられた家屋の内部に生活する女たちは、いつも何かに悩み、時にはその悩みを互いにぶつけ合いながら、日々を過ごしている。この家の家主である女は生活の中の些細な悲しみに全身を浸しながら、静かに時代との乖離を始めた芸者という職業に向き合っている。若く美しく奔...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:33 AM

July 10, 2005

『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』リティー・パニュ
中村修吾

 出来事と評価との間には隔たりがあるはずだ。ある出来事が起こる。そして幾らかの時間を経てその評価がなされる。出来事と評価との間には、時間的な隔たりがある。また、出来事が起こった場所と評価がなされる場所が別の場所であるという意味において、空間的な隔たりがある。『S21 クメール・ルージュの虐殺者たち』は、出来事と評価との間、言い換えれば、時間的空間的な隔たりの中に存在するものを記録しているように思う...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:40 AM

July 6, 2005

boid presents Sonic Ooze Vol.5「爆音レイト 4 weeks」
月永理絵

 4週間に渡る「爆音レイトショー」がついに、今週で最終週となる。爆音上映はこれまで何度か体験したが、4週間も続いたせいか、イヴェントというよりも、まるで「爆音」という名の映画館に通っているような感覚だった。今までの爆音イヴェントでは、いつも「こんな音が聞こえる」という衝撃に出会った。今回もそんな衝撃は何度もあった。『デモンラヴァー』でのソニックユースの音楽。空港で人々が立てるあまりに暴力的な音。そ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:54 AM

July 5, 2005

「横尾忠則 Y字路から湯の町へ」
藤井陽子

 なんておもしろい絵を描く人なんだろう、横尾忠則って人は!  ところは湯の町・伊東、池田20世紀美術館の開館30周年を記念して企画された展示会だ。横尾の「Y字路」シリーズの最新作である伊東市のY字路を描いたものに、「銭湯」シリーズを加えた60点の展示だ。「Y字路」シリーズは以前、東京都近代美術館で開かれた「森羅万象展」でも見ることができたが、その時よりも集中しておもしろく見れた。「森羅万象展」の時...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:35 AM

『シンデレラマン』ロン・ハワード
藤井陽子

「人生をこの手で変えられると信じたいんだ」。  この映画を見て、奇跡を信じたいと思った。それから希望を捨てないで生きなくちゃいけないと思った。  強力な右ストレートを武器に持つ前途有望な若きボクサーのジム・ブラドック(ラッセル・クロウ)が、右手の負傷をきっかけにみるみるうちに敗戦と怪我と貧困の悪循環に陥るところからこの映画は始まる。時は1929年、世界大恐慌の年だ。まるでアメリカの姿を投影するか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:29 AM

『シャーリー・テンプル・ジャポン・パート2』冨永昌敬
小峰健二

 冨永昌敬の作品を見ていると途方もない拡がりを感じてしまう。たとえばそれが、江古田という場所で撮られていたとしても、マンションの一室で撮られていたにしても同じである。閉じられた空間であるはずの場所を果てなく拡散させ、映画自身の外壁を取り払う。そのような拡散作用が映画全編に漲り、観客は幻惑し、冨永にやられてしまうのだ。  たとえば『VICUNAS』では、日本語、英語、はては奇怪なタコ島語でダイアロー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:25 AM

『乱れ雲』成瀬巳喜男
梅本洋一

 生誕100周年を記念してディジタルリマスター化が進められている成瀬のフィルムがスカパーの日本映画専門チャンネルで連続上映されている。この日は、別プログラムの加山雄三特集とのからみで、『乱れ雲』が放映された。  他の加山プログラムには『エレキの若大将』、『椿三十郎』などが含まれていて、冒頭には今年68歳になる加山雄三のインタヴューが添えられていた。ひたすら黒澤明のすばらしさを語る加山の言葉の直後に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:23 AM

ラグビー オールブラックス対ライオンズ第2テスト 48-18 ワラビーズ対フランス 37-31
梅本洋一

 南半球の優勢が確実になった、などと暢気なことを言っている暇はなくなった。ライオンズがこうした大差でオールブラックスに敗れたことは初めてだし、フランスはスプリングボクス戦に次いで連敗。  ウッドワードは、失望していると語り、ラポルトはまだ望みがあると語っているが、ゲームを見る限り、「紙一重」などというものではない。ワラビーズ対フランスは確かに大差ではないが、フランスに勝ち味はなかった。ライオンズは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:21 AM

July 4, 2005

2005年7月4日

筋肉で盛り上がった太い腕を所在なくふり回し、荒々しい鼻息をたてるこの強そうな男は、どうやらかなりイライラしているようだ。挨拶をして顔を上げると、同時に男の舌打ちが耳をつく。アルコールのにおいがする。私は耐えかねて声をかける。「すいません……あの、怒ってます?」ずいぶん不躾な質問になってしまう。とにか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:37 PM

June 30, 2005

『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』ニルス・ミュラー
月永理絵

『ミリオンダラー・ベイビー』のラストシーン、イーストウッドらしき人物が小さな店のカウンターに座る様子が、窓の外からぼんやりと映される。その光景を目にしたとき、私は何の言葉も感情もそこに投影できなくなってしまった。それは、そのドアの向こう側には絶対に踏み込めないという確信めいた何かがあったからだ。ただぼんやりと見つめるしかないし、永遠にその光景を見ていることはできないのだと思った。  ショーン・ペ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:32 PM

June 29, 2005

『My Architect』ナサニエル・カーン
藤原徹平(隈研吾建築都市設計事務所)

 ナサニエル・カーンは、Louis Kahnとふたり目の愛人との間に生まれた子供であり、『My Architect』は父をほとんど知らずに育った息子が、父の建築を訪ね・父を知る人々にインタビューをして回る、いわゆる父親探しのドキュメンタリーフィルムだ。  父親探しとはつまり「息子が父親の空白を埋めていく物語」であるのだが、ナイーブすぎて聞くに堪えないナレーションと必要性をまったく感じないバックミュ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:09 AM

June 23, 2005

『ジェリー』ガス・ヴァン・サント
藤井陽子

『ジェリー』の「爆音」と聞いてバウスシアターに足を運ぶ人はきっと、ジェリーのたてる足音や吹き荒れる風の音やアルヴォ・ペルトの曲の微細な息遣いを爆音で体験するという期待に少なくとも胸膨らませて来るのだと思う。実際に私もそうだったのだが、それを体験してみると、足音や風音以上に、にぶい圧迫を受けて宙に留められたような無音状態の時間がより衝撃的に立ち現れてくることを発見した。「爆音」とは爆音によって静寂...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:37 AM

June 20, 2005

『帰郷』荻生田宏治
渡辺進也

 ちょっと早めに映画館に着いたので、ロビーに貼られた紹介記事を読んでいたらびっくりしてしまった。地方自治体が撮影に協力するフィルムコミッションによって作られた1本なのだが、その撮影されている場所が僕の実家の近くなのだった。しかも、何人かの俳優を除けば現地の人間が出演している映画であるということで、映画の中に知り合いが出てくるのではないかとひやひやしてしまった。  春夫(西島秀俊)のところに母親から...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:55 PM

『描くべきか愛を交わすべきか』アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
田中竜輔

「映画は批評のためにあるのではありません、観客のためにあるのです」、上映前のラリユー兄弟による挨拶に続き、このフィルムに出演しているアミラ・カサールは上機嫌に観客に向けてこうスピーチした。退場の際も大声で「ニホンダイスキー!」と明るく振舞う彼女のこの言葉を受けたあとで文章を書くのは少し気が引けてしまう。彼女の出演しているフィルムを実は他に見たことがなかったのだが、彼女は批評に何か恨みでもあるのだ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:56 AM

『描くべきか愛を交わすべきか』アルノー&ジャン=マリー・ラリユー
月永理絵

 一軒の家がある。そこに住むひと組の夫婦がいて、そこを訪れるまた別の夫婦がいる。映画は、この一軒の家をめぐって進んでいく。  日仏学院での上映後、ラリユー兄弟による講演の中で、映画での眼差しのあり方について次のように語ってくれた。アミラ・カサールがサビーヌ・アゼマの前で服を脱ぎ始めるシーンについて、アミラ・カサールは誰かの眼差しを受けることを求め、その相手がサビーヌ・アゼマであったのは、彼女が求め...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:53 AM

June 17, 2005

コンフェデレーション・カップ 日本対メキシコ 1-2
梅本洋一

 ジーコが今まで作り上げ、アジアカップで優勝し、W杯アジア予選を勝ち抜いたチームの長所と短所が極めて明瞭な形で露見したゲームになった。  ジーコのフットボールというのは無手勝流というか、うまく行ったことをそのまま継続するという原則が常に貫かれている。だからバーレーン戦以来うまく行っていた3-4-2-1をこのゲームでも採用。柳沢のワントップの下に小笠原、俊輔の2シャドウ。それまで採用した3-4-1-...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:06 PM

『髭を剃る男』エマニュエル・カレール
須藤健太郎

 長年口髭をたくわえていたマルク(ヴァンサン・ランドン)はある日口髭を剃ることを思いつく。しかし、妻のアニエス(エマニュエル・ドゥヴォス)をはじめ昔から親しくしている友人たち、職場の同僚など誰ひとりとしてそのことに気が付いてくれない。すねるマルク。次第に彼は、自分の記憶と他人の記憶とにずれがあることに気づきはじめ、実存的な不安に駆られるようになる。「ほかの人々を通じてこそ、ぼくは自分のことが話せる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:54 AM

June 16, 2005

『世界』ジャ・ジャンクー
須藤健太郎

 ジャ・ジャンクーの新作は『世界』と題されている。なんて大きなタイトルだろうと思ったが、しかしいかにもジャ・ジャンクーらしいという気もした。ジャ・ジャンクーはいつも「世界」を描いてきたからだ。『プラットホーム』にしろ『一瞬の夢』にしろ、彼はいつも中国の田舎を舞台に若者たちの行動を丹念に記録していた。「地域的なものに留まれば留まるほど、世界的なものになる」というジャン・ルノワールの言葉をまるで裏付け...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:23 AM

『アルフィー』チャールズ・シャイア
月永理絵

 67年にマイケル・ケイン主演でつくられた『アルフィー』が、舞台をロンドンからNYに移し、ジュード・ロウ主演にてリメイクされた。 『アルフィー』は少女マンガ的世界を徹底的に肯定する。恋愛は情熱よりも安らぎが大切なのであり、一度失ったものは二度と戻ることはない。プレイボーイは幸せをつかめない。幸せは常に家庭の中にある。一番大切なものはなんでも話せる親友。そんなメッセージのみで成り立っている映画であ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:10 AM

June 15, 2005

『ある夏の記録』ジャン・ルーシュ
須藤健太郎

 いま、ジャン・ルーシュの回顧上映が開催されている。以前、彼の映画を見たときにはあまりピンと来なかったのだが、『ある夏の記録』『人間ピラミッド』と立て続けに見て、すっかりはまってしまう。めちゃくちゃ面白いのだ。つい足繁く通ってしまっている。前に見たのは『メートル・フ』と『我は黒人』だったが、そのときはたぶん無字幕で、訛りに訛ったフランス語を少しも聞き取ることができず、それで楽しく見れなかったのかも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:49 AM

『クローサー』マイク・ニコルズ
須藤健太郎

 はじめてエリック・ロメールの『友達の恋人』を見たとき、そこに4人しか登場人物がいないことにとても驚き、そしてそのことが当時はとても重要なことのような気がしていた。ふたりの閉じられた関係ではなく、いわゆる三角関係でもない。多様なドラマを生み出すためには、最低4人は必要だ。しかし、4人いればそれで十分なのだ。そんなふうに強く思い込んでいた。実際『友達の恋人』には、その4人以外はエキストラを使うことも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:41 AM

June 14, 2005

ブランドン・ロス LIVE
藤井陽子

「人びとが無理やり世界にそぐわせなければならなくなったとき、彼らは今までになかった新しいものが見えなくなっている。そのような場所からわれわれが出て来るとき、それは創造的で、独創的で、奇怪なんだ。でも僕たちはそのとき何かを見つけるチャンスを得ているんだ。何かエキサイティングなもの、何か新しいものをね」──ブランドン・ロス  6月9日、LIQUIDROOMにてブランドン・ロス“コスチューム”バンドの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:40 PM

『カーニヴァル化する社会』鈴木謙介
衣笠真二郎

 東浩紀責任編集のメールマガジン「波状言論」にて鈴木謙介が連載していた文章を1冊の新書にまとめたものが本書である。著者は東京都立大学で理論社会学を修めてからすでに1冊の著書と共著を出版しているが、歳はまだとても若いといえる1976年生まれの人だ。彼の分析対象となるインターネットや若者たちと彼自身との距離は相対的に近いものであり、かつてインターネットヴェンチャー企業で経験したことや学生時代に模索した...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:02 AM

June 13, 2005

ラグビー テストマッチ 日本対アイルランド 12-44
梅本洋一

 長居の30度の蒸し暑さ。かつてのジャパンなら、気候条件まで味方につけて、それなりのゲーム運びをしたろう──91年の同時期に秩父宮でジャパンがスコットランドを敗ったゲームを思い出しているのは私だけだろうか──が、誠実なプレーに徹したアイルランドに完敗した。特別なことをしてくるわけではない。しっかりとタックルし、しっかりとボールを繋ぐ基本的なラグビーの前にジャパンはなす術なく敗戦した。トライ数0-4...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:36 PM

June 9, 2005

W杯アジア予選 北朝鮮対日本 0-2
梅本洋一

 日本代表は淡々とドイツ行きの切符を手に入れた。そう、淡々と。歓喜も悲劇もなく、淡々と。  その事実は、さらに別のふたつの事柄を浮き彫りにする。ひとつは──このひとつは「淡々と」の大きな理由だが──アジア出場枠4.5というのは、楽に予選を進められるということ。ヨーロッパの各地の予選を見る限り、落とすのが惜しいチームが多い。それに最低2ヵ国は強豪チームが入っているグループリーグで1位にならなければプ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:23 AM

2005年6月 8日

ある視点部門 『Down in the valley』デヴィッド・ジェイコブソン

「公式コンペ」で2本(ヴェンダース『Don't come knocking』、ト...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 21:50

June 6, 2005

『ミリオンダラー・ベイビー』クリント・イーストウッド
渡辺進也

 アカデミー作品賞受賞作品。ヒラリー・スワンクは主演女優賞を受賞し、モーガン・フリーマンは助演男優賞を受賞。イーストウッドは監督賞を受賞した。前作の『ミスティック・リバー』に続き、アカデミー賞がイーストウッドを無視することができなくなっている。  Tough ain't enough.  すでに30歳を過ぎ、ウェイトレスをしているマギー(ヒラリー・スワンク)は、優れたボクサーを何人も育てているフラ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:29 PM

June 4, 2005

『ションベン・ライダー』相米慎二
藤井陽子

「この夏、落魄れてしまった諸君!」デブナガの掛け声が響く。プールで悪ガキに囲まれたジョジョ(永瀬正敏)と辞書(坂上忍)のもとへ、ブルース(河合美智子)がヤーッと飛び込む。水しぶきが飛び散る。  登場人物はプールへ、海へ、川へ、銭湯へ、身を投げ出していく。  高さ20メートルはありそうに見える吊り橋からブルースは何気なく川へ飛び込む。ほとんど意味など分からない。「あ!」と、彼女の後につづきアラレ(...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:32 PM

June 3, 2005

『フォーガットン』ジョゼフ・ルーベン
結城秀勇

 息子を事故で失った母親。しかし、周りの人間はその記憶を忘れていき、彼女の記憶が単なる思いこみにすぎないのだと説得する。はじめから子供などいなかった。君は流産のショックで妄想を抱いている。彼女はそんな言葉に耳を貸すことなく、自分がなんらかの陰謀に巻き込まれているのだと確信するに至る。  そこでジュリアン・ムーアの記憶が本当の記憶なのかということは、一切問われない。冒頭の一見ゆらゆらとして不安定そう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:18 AM

June 2, 2005

『さよなら、さよならハリウッド』ウディ・アレン
黒岩幹子

 原題は「Hollywood Ending」。ゆえにオープニングはジョニー・マーサ/リチャード・ホワイティングの「Hooray for Hollywood(ハリウッド万歳)」で幕開け。そういえば、大阪はUSJにある、あのユニヴァーサルの地球儀モニュメントの周りでもこの曲がかかっているらしい。でも、この映画の頭に出てくるのはユニヴァーサルの地球儀ではなく、「ドリームワークス」の文字。あのドリームワー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:29 AM

May 30, 2005

ふたつの日本代表
梅本洋一

 一昨日はフットボール、そして今日はラグビーの日本代表がともに惜敗した。勝てるのに勝てない、あるいは、勝てるのに勝とうとしない。どのようなゲームをして、どのような結果を得るのかというゲーム・プラニングがともに、どこかでうまく行っていない。だから結果が出ない。  まずは一昨日終わったキリン・カップを戦ったフットボール。「かったるい」ペルー戦の反省から、積極的になった日本代表。その姿勢は小野伸二のそれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:05 AM

2005年5月30日

むき出しの彼の背中にまたがり、私はそこにオイルを垂らす。筋肉の筋にそって腰から肩にむけ親指を滑らせる。肩甲骨の周りに、グリグリと指を押し付ける。ふと、膿のようなにおいが鼻を突く。彼の肩には、一面にニキビがつぶれたような赤いかさぶたやシミが点在している。そこに指を押し付けるたび、毛穴に閉じ込められて酸...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:40 AM

2005年5月29日

監督週間部門 『Be with me』エリック・クー

監督週間オープニング作品。シンガポールの監督エリック・クーは8年前すでにカンヌ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 23:34

コンペディション部門 『Lemming』ドミニク・モル

今年のカンヌ映画祭コンペ部門のオープニング作品。〈レミング〉とは北欧に生息するネ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 00:05

May 27, 2005

Champions League 04/05 Final リヴァプール対ACミラン 3-3 (PK3-2)
梅本洋一

 前半のミランは完璧だった。開始1分でマルディーニのヴォレーシュートが決まり、入れ込み気味のリヴァプールに冷水を浴びせ、前半終了前には、クレスポが連続ゴール。これでゲームが決まったと思わない人はいなかったろう。ピルロがやや不調ではあったが、他の選手たちはコンディションもよく、スクデットを捨ててこのゲームに照準を合わせてきたのがよくわかった。特にクレスポ、シュフチェンコ、カカの前3人の出来は本当に素...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:13 AM

May 24, 2005

2005年5月24日

みんなはどんな気持ちで「風俗」という仕事に取り組んでいるのだろう。という純粋な興味から、たまたま新宿のある書店で『風俗嬢意識調査』と題された本を手にとった。 目次には、1999年から2000年にかけて、都内と横浜の限定された23件の非本番系の風俗店で働く女の子を対象にした職業意識の調査アンケートの結...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:25 AM

『愛の神、エロス』「若き仕立屋の恋」ウォン・カーウァイ
田中竜輔

その暗い部屋は、すべてのものが何かによって閉ざされている、あるいは何かによって媒介されざるを得なくなっている、といった方が正しいのかもしれない。ホア(コン・リー)がひとりの老婦と共に息を潜めているその部屋は、確かにどこからか続いているようだが、淡い青の光が差し込む階段の先にその部屋があるのかどうかは保障されてなどいない。シャオ(チャン・チェン)が迷い込んでいるのは、そんなあらゆる可能性に背を向けた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:10 AM

May 23, 2005

『七月のランデヴー』ジャック・ベッケル
藤井陽子

エルヴェ・ル・ルーの『大いなる幸福』で、ナヌ(クリスティーヌ・ヴイヨ)が歌を、シャルリィ(ナタリー・リシャール)がクラリネットを、リュック(リュカス・ベルヴォー)がトランペットを吹くシーンがあったが、『七月のランデヴー』にもロジェ(モーリス・ロネ)がトランペットを吹くジャズのシーンが登場した。数人の男女が集まってくっついたり離れたりする共同体(友人どうし)は、まるでジャズバンドのようだ。基本となる...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:57 PM

May 19, 2005

丸の内は変わる
梅本洋一

東京改造の先端的な場所は、何と言っても丸の内だろう。かつて31メートルのスカイラインが並び、それぞれのビルがその意匠を競った日本の産業界の中心が丸の内だった。そのスカイラインが崩れたのは、東京海上ビルが建った1986年だったろう。今となっては決して高くはないが、この赤茶色のビルは、当時はまだスカイラインのあった丸の内では異彩を放っていた。東京中心部の容積率の変化が、この高層ビルを生んだわけだが、当...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:56 AM

May 18, 2005

『遠い国』アンソニー・マン
衣笠真二郎

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映画が始まって真っ先に目に飛び込んでくるのは活気ある港町の風景だ。忙しく動きまわる商人たち、山のような積み荷、運搬用のたくさんの馬たちが、狭い波止場から溢れんばかりの勢いでごった返している。人混みと雑踏によって占拠された空間の遠くの方から、鈴の音が聞こえてくる。何十頭もの牛が押し寄せてきてその間を縫うようにして姿をあらわした一頭の馬にはジェームズ・スチュワートが跨っており、その鞍には小さな鈴が付けられているのがわかる。「よし、いよいよ西部劇が始まるぞ」と誰もが身がまえてしまう最初の一瞬だ。すると...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:13 PM

『さよなら、さよならハリウッド』ウディ・アレン
月永理絵

目が見えなければ、映画を撮ることはできない。カメラのアングルを決めたり、ラッシュを確認したりできないから、というよりも、ひとつひとつの決定に説得力がないからだ。映画を撮ることは、そこに何がありどんな風に動くべきなのかを決定することでもある。決定事項は膨大な数ほどある。ロケ地がたくさんあり、ショットの数も増えればさらにたくさんのことを決定しなければいけなくなる。もっとも簡単なのは切り返しを繰り返すこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:42 AM

May 17, 2005

『パリところどころ』
須藤健太郎

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この前、特に目的もなく六本木のABCに立ち寄ると、『パリところどころ』のDVDが売っていてびっくりした。『アデュー・フィリピーヌ』とセットで昨年の11月頃に発売されていたらしかった。かなり迷ったあげく、勢いで買ってしまう。すごい見たかった。ヌーヴェルヴァーグに興味を持っていくつも文献を読んでいると、『パリところどころ』というタイトルにいつも出会った。でも、未見だったのだ。 『パリところどころ』は、パリを舞台に6人の監督が撮った10分から20分程度の短編で構成される...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:49 AM

May 16, 2005

『楳図かずお 恐怖劇場』「蟲たちの家」黒沢清
結城秀勇

楳図かずおのデビュー50周年を記念した、6本の楳図作品の映像化という企画の中の1本。  不動産関係の仕事で働く蓮司(西島秀俊)は、妻(緒川たまき)が家に閉じこもりがちなことを気にかけている。妻は妻で、夫が酒を飲むと嫉妬深く暴力的になることを気に病んでいる。ふとしたことをきっかけに、妻は2階の一室に閉じこもり、そこから出てこなくなる。蓮司は浮気相手でもある大学の後輩に、自分の見ているものがただの妄想...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:11 PM

2005年5月15日

コンペディション部門 『Last Days』ガス・ヴァン・サント

カート・コバーンをモデルとした主人公、マイケル・ピットが演じる彼はブレイクと名...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:48

コンペディション部門 『バッシング』小林政広

戦時下のイラクにボランティア活動のため滞在し、人質となり開放された日本人女性のそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:41

May 12, 2005

『ライフ・アクアティック』ウェス・アンダーソン
梅本洋一

ビル・マーレイ扮するスティーヴ・ズィスーはなぜズィスーという姓なのか。Zissouというスペリングだが、こんな姓の人は(それほど多くはないが)ぼくの知人にはいない。 ベラフォンテ号には、この時代に適合できない人たちが乗船している。ドキュメンタリー・フィルムなどもう時代遅れだし、ここに出てくる海の生物──どれも想像の産物だ──に本気で興味を持つ人などいないのではないか。でも、皆、本気なのだ。ズィスー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:48 AM

May 8, 2005

『獣人』ジャン・ルノワール
藤井陽子

『獣人』を見た後、なぜか青山真治の『Helpless』のことを思い浮かべていた。ドミニック・パイーニが、ふたつのフィルムを並べることでできた「間」の中に新たな思考と視点を見出そうとしていたように、『獣人』と『Helpless』の間にも新たな思考と視点を見出せるかもしれない。 そもそもなぜ『Helpless』なのか。『獣人』の初めのシーンと、ルボーがグランモランを殺害するシーン、そしてフィルムの終わ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:10 PM

『愛慾』ジャン・グレミヨン
梅本洋一

ドミニック・パイーニの「記憶、引用、回想の中の映画」と題されたプログラマシオンの中にある「ジャン・ギャバン、プロレタリアートの憂鬱」の回にルノワールの『獣人』と共にグレミヨンの『愛慾』が上映された(東京日仏学院エスパスイマージュ)。 このフィルムを見たのは25年ぶりだ。『獣人』と共に見ると、2本ともジャン・ギャバンが主演し、ほぼ同じ物語が語られているのが分かる。もちろんこうしたプログラマシオンの妙...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:22 AM

May 1, 2005

『コンスタンティン』フランシス・ローレンス
結城秀勇

『マトリックス』のパロディをキアヌ・リーヴスが演じる映画なのかと思っていたのだが、どうも間違っていたようだ。『マトリックス』のパロディという選択が志の高いものか低いものかはともかく、『コンスタンティン』には志と呼べるようなものはなにもない。ただ意志もない一連の企てが収束していく果てが、なんとなしに『マトリックス』に似通ってしまう。無論、否定的な意味でだ。 何がどう似ているのか。目に付く細部を挙げて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:35 PM

April 30, 2005

Champions League semi-final 1st Leg ミラン対PSV 2-0 チェルシー対リヴァプール 0-0
梅本洋一

まずサンシーロのミラン対PSV。去年のポルトやモナコを見る限り、この言葉は使いたくないのだが、「格」という言葉を考えてしまう内容。確かにフース・ヒディングと彼のチームは一生懸命やっている。3トップに近い布陣から皆がよく走りボールを追いかける。だが、前半終了間際とタイムアップ寸前というもっとも失点してはいけない時間に失点し、堅守のミランからホームで3点取らねばならないほとんど不可能な戦いを強いられて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:17 PM

April 25, 2005

『コーヒー&シガレッツ』ジム・ジャームッシュ
藤井陽子

86年にジャームッシュの『ダウン・バイ・ロー』で、翌87年にはヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』で助監督を務めたクレール・ドゥニは、88年に彼女の長編処女作『ショコラ』を完成させ、90年には『死んでもへっちゃらさ』を発表した。この『死んでもへっちゃらさ』に出演しているイザック・ド・バンコレとアレックス・デスカスが、『コーヒー&シガレッツ』の6番目の物語「NO PROBLEM」で再び共演している。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:34 PM

April 22, 2005

チェルシー対アーセナル 0-0
梅本洋一

いくらぼくが「諦めるな!」と叱咤激励しても、勝ち点差11、残りゲーム6という現状は心得ている。アーセナルは、もうFAカップとリーグ2位を死守し来年のチャンピオンズリーグにダイレクトインという目標に切り替えているはずだ。だが、スタンフォードブリッジでの対チェルシー戦。これは見なければならない。チェルシーは負けなければいい。2位死守のためにアーセナルは勝ちたいゲーム。だが結果はスコアレスドロー。 結果...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:47 AM

April 16, 2005

『現金に手を出すな』ジャック・ベッケル
藤井陽子

初老のギャングであるマックス(ジャン・ギャバン)は、行きつけの店のジュークボックスや彼の第2の家(隠れ家)で「グリスビーのブルース」をかけていた。そして金魂があらわになる時にも、いつも「グリスビーのブルース」が流れていた。金塊とこのブルースは密接に結びつき、マックスもまたこのブルースから離れられない。 「金魂」で思い出すのは、同じくジャック・ベッケルの『赤い手のグッピー』だ。最後までなかなか見つけ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:46 PM

April 15, 2005

Champions League quarter-final 2nd leg バイエルン・ミュンヘン対チェルシー 3-2
梅本洋一

ミラノのサンシーロが発煙筒の炎に包まれた頃、ミュンヘンのオリンピック・スタジアムではゲームの趨勢が決しつつあった。もしぼくがミラノにいてインテルのサポーターだったら、発煙筒を放り込んだかもしれない。カンビアッソのクリーンなヘッディング・シュートがネットを揺らしても、ファールの判定に腹を立てるのは当然だろう。ミスジャッジだ、だが、暴力的な行為は許せない、ましてや主審はドイツナンバーワンだ、そんな声が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:45 AM

April 14, 2005

『紙の花』グル・ダット
田中竜輔

『アビエイター』はハワード・ヒューズの幼年期の母親との回想のショットに始まり、ヒューズの映画制作を含む人生の激動の20年程を語ることに映画の大部分を費やし、そして冒頭の場面に回帰することで終わる。つまりそれはハワード・ヒューズというひとりの神経症を病んだ男の原体験を、「QUARANTINE」という単語の響きとともに映画の全体に共鳴させることで、ハワード・ヒューズという強烈な人物像に対して常に暗い影...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:55 PM

『F.O.B HOMES BOOK』F.O.B HOMES 監修
須藤健太郎

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4月に入り、街を歩いているとやたらとテンションの高い人たちを見かける。スーツを着ていれば新社会人で、私服だったら新入生だろう。始まりの予感に満ちていて、とても楽しそうだ。 この前、今年から新社会人になった友人と話していて思ったのは、「わからないことだらけでストレスが溜まる」とか言いながら、けっこう新生活を楽しんでいるということだった。とにかく前向きで、たとえば初めて名刺を持つという些細なことを彼は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:52 AM

April 11, 2005

『バッド・エデュケーション』ペドロ・アルモドバル
梅本洋一

『私の秘密の花』以来「巨匠」への道を歩み続けていたアルモドバル。確かにそのメロドラマは、たとえ『オール・アバウト・マイ・マザー』のように表面的には「倒錯的な性」が存在していても、口当たりのよいものになり、かつてからの「毒」は彼から消えつつあったのも事実だ。もちろんアルモドバル自身は、誰よりもそのことに気づいていたにちがいない。『神経症すれすれの女たち』や『アタメ』を撮ったアルモドバルは、決して誰も...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:43 PM

April 8, 2005

『四十日と四十夜のメルヘン』青木淳悟
月永理絵

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「日付けを追いかけては引き返し、手ぐり寄せては押し戻す」、主人公のあるいは作者のそんな試みは偏執狂的なまでに徹底している。主人公あるいは作者の、と言ったのは、この小説に登場する「わたし」が小説を書こうとする行動が、同時に『四十日と四十夜のメルヘン』という作品を形づくっているからである。「わたし」をめぐる物語や、私小説にすらなり切れていない日記としか呼べないような小説が、今は溢れ返っているような気が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:18 AM

April 7, 2005

『オペレッタ狸御殿』鈴木清順
小峰健二

清順はこの『オペレッタ狸御殿』のインタヴューに答えて、内向的な映画ばかりが目に付くいま、ぜひ馬鹿馬鹿しくて楽しい映画を撮りたかった云々と語っている。つまり、このフィルムは清順流の娯楽映画になるべく製作された。1940年代から50年代にかけて人気を博したかつての「狸御殿モノ」がそうであったように、多くの観客を魅了し、ときに笑いや涙を誘う映画。そのような映画こそ清順がいまこの時代にやりたかった企画なの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:21 PM

April 4, 2005

『アビエイター』マーティン・スコセッシ
結城秀勇

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ハワード・ヒューズ。世界最大、世界最速という文句のつく、いくつもの偉業を成し遂げた男。その称号を戴くにふさわしい剛胆さを持ちながら、その反面、潔癖性でそこから派生した神経症を患う。タイトル通りひとりの飛行機乗りとしてのリスクを積極的に負いながらも、一方で微細な細菌や汚れを異様に恐れる、その振幅に焦点を合わせたのが、『アビエイター』におけるヒューズ像である。彼の恐怖の根は、冒頭において植え付けられ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:08 AM

『アビエイター』マーティン・スコセッシ
渡辺進也

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“the way to the future”
映画も後半、自らの夢をある程度成し遂げたハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)はこの言葉を何度も何度も繰り返す。それは、まるで故障した機械のようだ。この言葉を呟いているとき、ヒューズはこれまで歩んできた道のりを遠くのほうで意識しつつも、同時にその道のりが自分から本当に遠くにあるように感じながら呟いているように見える。ヒューズは自分の成し遂げて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:44 AM

March 29, 2005

『サラ、いつわりの祈り』アーシア・アルジェント
須藤健太郎

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本作を見て何よりも驚いたのは、エンドクレジットもひと通り流れ終えた後、「for Jean-Yves Escoffier」と出たことだった。ジャン=イヴ・エスコフィエのことは、まったく考えていなかった。驚いたのは、だからというのもあるが、実は、私がカメラマンの仕事に意識的になったのは、彼の存在が大きかった。だから彼の名前に極度に反応してしまったのだと思う。ジャン=イヴ・エスコフィエのことは、やはり...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:44 AM

March 28, 2005

『エターナル・サンシャイン』ミシェル・ゴンドリー
月永理絵

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『エターナル・サンシャイン』を見る数日前、リチャード・リンクレイターの『ビフォア・サンセット』を見たせいか、このふたつの映画をつい比べてしまう。どちらの映画もカップルが多く目についたが、監督ミシェル・ゴンドリー、脚本チャーリ−・カウフマンという名前を見ればわかるように、『エターナル・サンシャイン』は、簡単に恋人たちを盛り上げてくれるような映画ではない。限られた時間の中で、恋人との思い出を会話の中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:39 AM

March 27, 2005

『サイドウェイ』アレクサンダー・ペイン
衣笠真二郎

親友同士のふたりの中年男性が1週間だけの小旅行に出発する。彼らが車で向かうのは自宅からそれほど遠くはないカルフォルニアの農園である。広大なブドウ畑の中にあるシャトーをいくつも訪れ、旨いワインを求めてテイスティングをくりかえす。その香りやら厚みやらを中年男性のひとりが言葉に翻訳してウンチクをたれる。作家志望の彼にとっては、ワインめぐりこそがこの旅行の目的なのだ。そしてもうひとりの中年男性は1週間後に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:40 AM

『カナリア』塩田明彦
小峰健二

ナレーションに続いて耳をつんざくヘリコプターの轟音がわれわれ観客の鼓膜を刺激する。そして、草むらに身を隠すようにして上空を見上げているまだ年端もいかぬ少年が映し出されるのだが、ここで観客は奇妙なモノを目にすることになる。少年の頭に冠せられているそれは、あのオウム真理教の一連の報道で話題になった「ヘッドギア」である。しかし、観客がそのヘッドギアを目にした途端、それは少年の手によって投げ捨てられる。そ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:57 AM

サッカー:アジア地区最終予選 イラン対日本 2-1
梅本洋一

結果は敗戦であり、ワールドカップでは予選が一番面白いという定理を証明した形になった。アジア・カップではこうした展開でも奇跡的に勝ちを拾った日本だが、それは単に奇跡的だったからで、何度も続くものではないだろう。だが、勝負には負けた──確かにクオリフィケーションとしては痛い敗戦だが──が、日本はとても強いという印象を受けた。審判のジャッジも完全にアウェイで、もちろん10万の観客も完全にアウェイなのだが...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:53 AM

March 26, 2005

『となり町戦争』三崎亜記
渡辺進也

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第17回小説すばる新人賞を受賞したこの作品の帯には、オレンジ色と黒の混じった文字で大きく次のように書かれている。「発売たちまち大反響 !!」。1月に発売されたこの小説だが、僕の持っている本ではすでに第4刷目である。このことだけでもこの本が売れていることを示していると思う。ちょっと前から知り合いからこの本の噂は聞いていたし、書店に行けば新刊コーナーで大きく扱われている。さて、なぜこの本がこれほどまでに話...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:21 AM

March 24, 2005

丹下健三の死
梅本洋一

汐留の松下電工ミュージアムで「DOCOMOMO100選」を見た。汐サイトに行ったのは初めてだったので、周囲を探索しながら会場に赴いた。新橋駅の復元は最低の出来。古めかしく装った建物の中にレストランが入っているだけ。首都高から見ると、ジャン・ヌーヴェルの電通もかなり奇麗なのだが、下から見上げると単なる高層ビルにすぎない。何よりも良くないのは、歩行者レヴェルの地上にいると風景の抜けがなく、どこにいるの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:29 AM

『ナラタージュ』島本理生
月永理絵

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小説を読むときにまず気になるのは、そこに登場する音楽や映画などの固有名だ。こうした固有名には時代性が大きく関わるので、自分と同年代の作家により共感を覚えるのは当然だ。かと言って、共感できるというだけでその小説を支持できるわけではない。83年生まれの(私よりひとつ歳下である)この著者の小説には、私が共感できるはずの固有名が何度も登場する。だが、これらの固有名に対し私はなんとも言えない「恥ずかしさ」を...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:20 AM

March 23, 2005

「森山・新宿・荒木」展
鈴木淳哉

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約40年にわたって新宿を縄張りに写真を撮り続けているふたりの初の顔合わせだという。森山/荒木、新宿という場所、40年という時間の流れ、見る人によっては無限の物語をつむぐであろう前情報はどのように処理すべきか……などと考えていたわけではない。ただ、どうしてもキュレーションに興味がいってしまいがちなところを抑えて写真を、見に行った。今回の撮り下ろしをカラー/モノクロで分けたのは、企画側なのか撮影者本...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:39 AM

F1第2戦マレーシアGP
黒岩幹子

開幕戦のフィジケラに続き、チームメイトのアロンソがポール・トゥー・ウィン、ルノーが2連勝。そして、2位には再び2番手グリッドからスタートしたトゥルーリが入り、参戦4年目のトヨタに初の表彰台をもたらした。つまり、フロント・ローからスタートしたふたりが順当に逃げ切ったことになる。 いくらレース中のタイヤ交換が禁止されたとはいえ、現在のF1においてスターティング・グリッドがレースの半分を決めてしまうこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:24 AM

March 18, 2005

『カナリア』塩田明彦
田中竜輔

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ひとりの少年が児童相談所を脱走した。その経緯は文字と朗読によって説明される。その少年の第一の名は「光一」であり、映画のファーストショットは彼が上空を掻き乱すヘリコプターを見上げている様子に与えられる。それまでの一切の説明は彼に与えられたものであることも判明するだろう。彼はそこから当然のように出発する。その場所から程遠くない場所にある廃校に潜り込むと、そこには彼の武器となる1本のドライバーと、歩みを...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:52 AM

『LEFT ALONE』井土紀州
中村修吾

『LEFT ALONE』を見ながら、わたしはヴィム・ヴェンダースの『まわり道』を思い出していた。『まわり道』は前作『都会のアリス』に続いてリュディガー・フォグラーを起用して撮られた、ヴェンダースの長編第4作だ。ゲーテの教養小説『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』を翻案して脚本を書いたペーター・ハントケは次のように述べている。「主人公は、彼(ヴィルヘルム)ではなく、他の人たちです」。ハントケの発言...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:26 AM

March 16, 2005

『マリー・ボナパルト』ブノワ・ジャコ
須藤健太郎

マリー・ボナパルトは、その名から明らかなように、ボナパルト家の実子孫(かのナポレオン・ボナパルトの実弟ルシアン・ボナパルトの曾孫女)であり、また帝政ロシア最後の皇帝だったニコライ2世の従兄弟のジョージ公と結婚した公妃だった。幼少の頃より知識欲が旺盛だった彼女は、精神分析学に興味を持ち、フロイトへと接近する。マリー・ボナパルトと言えば、フロイトの仏訳者としても有名だ。映画は、彼女が性不感症の悩みをも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:31 AM

『マリー・ボナパルト』ブノワ・ジャコ
渡辺進也

カトリーヌ・ドヌーヴは僕の母親よりも年長者なことに気付いて驚いた。日仏にて上映される作品を見てみると、40年以上に渡って主演映画を持っていることにも驚く。そうだと言われればそうだけど、やはり驚いてしまう。他にそんな俳優がいるのかどうか、すぐには思いつかない。『マリー・ボナパルト』は2004年製作のテレビ作品で、彼女が主演している作品のうちでも最新のものである。 マリー・ボナパルト(カトリーヌ・ドヌ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:29 AM

『Saraband』イングマール・ベルイマン
衣笠真二郎

教授職から引退しいまは人生の余暇を楽しんでいるひとりの老人のもとに、30年も前に別れた妻が突然姿をあらわす。ふたりは大袈裟に驚くこともなく自然に互いを受けいれあい、連絡を取ることもなかった30年間がまるで一瞬の夢であったかのように、愛にあふれる情熱的な言葉をかわしはじめる。とめどなく流れていくその対話を妨げるものは何もなく、ただ時計の針の音がゆったりと時を刻むだけである。 全部で10のパートをつく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:27 AM

2005年3月16日

茶髪に小麦色の肌をした彼が、ぐったりと布団の上に横たえている。とても疲れているのか、口数は極端に少なく、ごくたまに発せられる言葉も、小さくて何度も聞き返さなければいけないほどだ。私も彼にあわせて押し黙り、マッサージに力を入れる。力が抜けきった、均整のとれた彼の長身は、指で押すと、驚くほど柔らかくほぐ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:29 AM

March 15, 2005

『ビヨンドtheシー〜夢見るように歌えば〜』ケヴィン・スペイシー
月永理絵

作曲家コール・ポーターの生涯を描いた『五線譜のラブレター』を見た後はコール・ポーターの歌を聞きたくなったが、同じく伝記的な映画である『ビヨンドtheシー』を見ると、ボビー・ダーリンの歌ではなく人生について知りたくなった。ではそれほどこの映画が魅力的だったかと聞かれると答えに困る。私がボビー・ダーリンの人生に興味を持ったのは、この映画が興味を惹くものを提示してくれたというよりも、ここで示されていたも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:22 AM

ラグビー:6 Nations 2005 アイルランド対フランス 19対26
梅本洋一

ランズダウンロードの雰囲気は独特だ。ダブリンには行ったことがないが、この昔ながらのラグビー・スタジアムは素敵だ。風の強い快晴の空がいっぱいに広がっている。アイルランドは、ことラグビーに関しては、北アイルランドとアイルランドの合同チームが出る。だからゲーム前の「国歌斉唱」もアイルランド国歌とアイルランド・ラグビー協会の歌の2本立て。いつもちょっと長いけれど、ここで客も選手も泣く。泣きながらゲームが始...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:21 AM

March 14, 2005

『永遠のハバナ』フェルナンド・ペレス
藤井陽子

1本のフィルムが観るものにとって特別なものになるかいなかは、そのフィルムのなかに何が見えて何が見えないのか、何が聞こえて何が聞こえないのかということによるだろう。つまりそのフィルムを成り立たせる事象を映画作家がどう取捨選択したかということだ。現在のハバナで暮らす市井の人々を『永遠のハバナ』のなかに捉えようと試みたフェルナンド・ペレスのとった取捨選択は、彼らの生活の身ぶりを見せること、だが彼らにイン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:05 PM

F1開幕戦オーストラリアGP
黒岩幹子

土曜日の時点でほぼ結果は見えていた。それほど土曜の予選1回目における天候の変化は決定的だった。2005年のF1開幕戦は、上位チームのなかで唯一、ほぼ路面が乾いた状態で予選1回目を走った、ルノーのフィジケラが順当にポールポジションをゲット、そのまま決勝も逃げ切った。 予選を土日の2日に分けて実施、さらには2回の予選タイムの合算によってスターティング・グリッドを決定するという新ルールが、開幕戦から大き...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:51 PM

March 12, 2005

チャンピオンズリーグBEST16 2ndLEG
梅本洋一

ここまで来ると、どのチームも通常のリーグ戦とはまったく異なる表情を見せる。どの選手も大金持ちで、適当に流しても生活に何の支障もないのだろうが、どのゲームも後半に入りベスト8進出がかかった時間帯になると、目の色を変えてゲームに没頭する。だからスポーツ観戦は辞められない。 チェルシー対バルサ( 4 - 2, total 5 - 4 )。ゲーム開始後20分間のチェルシーの猛攻はすさまじいものがあった。ア...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:49 AM

追悼・シモーヌ・シモン
須藤健太郎

シモーヌ・シモンが死んで何日か経つ。彼女の主な活動期間は、30年代から50年代にかけてだった。ナチスが台頭し、第二次世界大戦が起こって混乱を極める世界とは逆に、映画は古典的な爛熟期を迎えていた。ヨーロッパの映画人たちがアメリカへ亡命し、ハリウッドを活気づかせていたその時代の流れに沿うように、シモーヌ・シモンもまたフランスからハリウッドへ、そして終戦後フランスに戻り、そのキャリアを築き上げていた。し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:47 AM

March 11, 2005

ジャン=マルク・ラランヌ講演(3/6)
須藤健太郎

3月6日、東京日仏学院にて『マリー・ボナパルト』の上映後に、ジャン=マルク・ラランヌによる講演が開かれた。東京日仏学院では、今月から来月にかけて、カトリーヌ・ドヌーヴの特集が組まれており、ラランヌはそのプログラム選考を務めた。講演は、数々の映画作品の抜粋を上映しながら、彼がそこにコメントを加え、補助線を引いていくものだった。 ラランヌはまず1冊の書物を紹介する。リュック・ムレの『俳優作家主義』Po...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:54 AM

『きみに読む物語』ニック・カサヴェテス
結城秀勇

この映画のストーリーにはふたつの大きな筋がある。ひとつは、愛し合ってはいるものの、身分の差や社会的状況が一緒になることを許さないふたりの若い男女の物語。そして、もうひとつが、実際に過去にあったその物語を現実の出来事として共有することが出来るか、という老いた男女の物語である。前者では身分や階級の差が男と女の間に断絶として横たわるし、後者では記憶の差が男と女の間に横たわる。しかしこの映画自体が、このふ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:37 AM

『きみに読む物語』ニック・カサヴェテス
小峰健二

1989年、「親父」は死んだ。その「親父」をある人は「王の資格を持つ者」と呼んだし、実際「親父」は一時代を築いた唯一無二の存在として人々に記憶されている。「インディーズ映画の父」とも言われるこの「親父」とは、むろんのことニックにとっての実父ジョン・カサヴェテスのことだ。ニックはその偉大なる映画作家ジョンの、あるいは実母であり女優でもあるジーナ・ローランズの軌跡をなぞるように俳優の道を選択する。しか...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:30 AM

『フェスティバル・エクスプレス』ボブ・スミ−トン
藤井陽子

3月9日水曜日、渋谷シネセゾンのレイトショーは盛況だった。スクリーンの中でジャニス・ジョプリンが、ザ・バンドが、バディ・ガイが、グレイトフル・デッドが曲をやるたびに、映画館のあちこちから拍手がこぼれてきた。感動的な夜だった。 1970年、当時最高のロック・ミュージシャンたちを乗せた列車がカナダのトロントを出発し、西へ西へと旅をしながら各地でフェスティバルを繰りひろげた。『フェスティバル・エクスプレ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:21 AM

March 7, 2005

第77回アカデミー賞授賞式(2/27)

遅ればせながら、アカデミー賞授賞式のテレビ中継を録画したビデオで鑑賞。すでに受賞結果を知りながら、わざわざビデオを借り受けてまで見るのは、ミーハー根性ゆえだろうか。昔からアカデミー賞授賞式を見るのが好きだった。単純に受賞者が名前を呼ばれる瞬間の顔を見るのが好きだ。例えば、去年だと、ブレイク・エドワーズの登場からスピーチまでの一連のシーンを見るためだけに、数時間ブラウン管を見続けていたようなものだ。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:20 PM

追悼・岡本喜八

岡本喜八の訃報を聞いて岡本喜八のことをしばらく考えていた。岡本喜八の代表作とは何なのだろうか。僕が一番好きな岡本喜八の映画は何なのだろうか。軍隊の落ちこぼれたちが活躍する一連の戦争映画、『独立愚連隊』(59)、『どぶ鼠作戦』(62)、若い楽器隊が前線の通信基地を守ろうとする『血と砂』(65)だろうか。それとも三船敏郎が組織を壊そうと暗躍する『暗黒街の顔役』(59)だろうか。または、『大菩薩峠』(6...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:13 PM

March 3, 2005

『LOFT』黒沢清

『ドッペルゲンガー』以降、黒沢清は、彼自身のアメリカ映画のコンセプトに落とし前をつけようとしている。アメリカ映画とはなによりもジャンルである──1983年春に東京を訪れたヴィム・ヴェンダースは、すべてのフィルムはジャンル映画であると何度も繰り返していた──という深い信念。「ホラー」、「ジャパニーズ・・ホラー」──『リング』、『呪怨』などが「アメリカ映画」としてリメイクされている──の「最初」の「日...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:25 PM

『ライフ・アクアティック』ウエス・アンダーソン

ビル・マーレイ演じる海洋学者兼冒険者、そして海洋ドキュメンタリー映画の監督でもある男は、すでに中年に差し掛かり仕事の上でもスランプに陥っている。そんな彼の前に息子だと名乗る若い男があらわれる。息子をチームの新しい顔として迎えることを決意し、彼は再び冒険へと乗り出していく。若い息子と名乗る男は、ビル・マーレイが率いるチームに歪みをもたらし、映画をもかき回す。しかしもうひとり、重要な役割を果たす人物が...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:24 PM

『ビフォア・サンセット』リチャード・リンクレイター

平日の午後、ガラガラの恵比寿ガーデンシネマ。前から3列目に腰を下ろすと、ぼくの前には誰もいない。 いきなり映るシェイクスピア&カンパニー。この書店のすぐ裏にぼくは3年間住んでいた。イーサン・ホーク扮する小説家がインタヴューを受けている。彼が座っている椅子の前の棚からぼくはダシール・ハメットのポケットブックを2冊買った。そして、この書店が舞台になっている一章があるヘミングウェイの『移動祝祭日』(ペン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:21 PM

February 27, 2005

2005年2月27日

部屋に入るなり、彼は私を凝視してこう言う。「あぁ、久しぶりの女の人だ」。私は笑いながら答える。「え……どちらからいらしたんですか?」「職場、男しかいないんだよね。あ……ほら、思い出してきたよ、女の人のこと」。彼は自分の下半身のほうへと、私の視線を促す。スーツのズボンのジッパーのあたりが、少し膨らんで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:08 PM

February 25, 2005

チャンピオンズリーグ決勝トーナメント
マンチェスター・ユナイティド対ACミラン 0-1
バルセロナ対チェルシー 2-1

昨日に続いてファイナルのカードであってもおかしくない2ゲーム。 まずマンU対ミラン。シュフチェンコを怪我で欠き引き分けでもよしとするミランと、何が何でも勝ちに行ったマンU。両チームともワントップ。クレスポもルーニーも前半はほとんど消えている。つまり両チームのディフェンスがよい証拠。そして、後半になると、アレックス・ファーガソンは満を持してファン・ニステルローイを投入。オールド・トラッフォードで勝ち...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:47 AM

February 19, 2005

『トニー滝谷』市川準

小説を映画にする。これは実にオーソドックスなものだ。だが、少なくともこの日本において村上春樹の小説を映画にするといった際、そこにはどうしても厄介なものが存在するだろう。彼の小説独特のフラットで無機質で色素の薄いクリーンな世界。登場人物たちも一様にクリーンだ。この世界を映像として表現するにはどうすべきか? 市川準の選択は実に明快だ。写真家の広川泰士を撮影監督とする。よってキャメラはほとんど動かない。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:17 AM

February 16, 2005

『ビフォア・サンセット』リチャード・リンクレイター

人は誰でも思い出を持っている。良い思い出もあれば、悪い思い出もあるだろう。そうした思い出はいつのまにか時間と共に少しずつ忘れられていく。しかし、忘れたと思っていた思い出はふとしたきっかけで思い出されることがある。そのきっかけは、風景であるかもしれないし、音楽であるかもしれないし、ある言葉であるかもしれない。そうしたものに何気なく触れた時に、それが前にどこかで経験したことがあると思われ、それがある具...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:01 AM

ラグビー シックス・ネイションズ
イングランド対フランス

ドゥミトリ・ヤシュヴィリの6PGで1点差でフランスが逃げ切ったゲーム。これでフランス2連勝、イングランド2連敗という予想外の結果になった。イングランドはホジソンがPG、DGを外しまくり、勝てるゲームを落とした。一昨年のW杯優勝はやはりウィルキンソンの力だったという証明か? 17-18という競った点差ほどゲームは面白くなかった。前半はブレイクダウンをめぐる攻防に終始し、まったく見るべきところがなかっ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:58 AM

February 13, 2005

ラグビー日本選手権2回戦
早稲田対トヨタ

4年間の清宮集大成がトヨタに通用するのか。それがこのゲームの興味だ。僕も完全に早稲田のサポーター。だが、結果は、やや無惨なものだった。後半30分まで9-7とリードしていたので、接戦だったと考えられるかもしれないが、結果が9-28である限り、これは冷静に受け止めるべきだろう。トライ数0-4では完敗だ。ラグビーはスコアのゲームだから、ノートライでも勝てればよいのだが、ノートライで敗れるのは、やはり完敗...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:51 PM

『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』青山真治

あれは1980年晩秋のパリのオデオン座のことだった。イングマール・ベルイマン演出のシェイクスピアの『十二夜』を見た。もちろん日本の新劇でも小劇場でも、そしてロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでも僕もこの戯曲の多様な舞台を見た。でも、今でもベルイマンの『十二夜』が最高だったと思う。ベケット以降、演劇は「以後」を生き延びなければならない。つまり、物語と存在を徹底して縮減した極北の演劇──ドゥルーズは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:46 PM

三信ビル

2月11日付けの朝日新聞朝刊によると日比谷の三信ビルが老朽化によって取り壊されることになったということだ。日比谷、丸の内地区に残されたモダンなビルのうちのひとつがまた取り壊されることに反対はもちろん多く、この記事にも建築関係者の意見を聴取しながら、このビルをどうするか決めるとある。 まず結論から書こう。交洵社ビルのようにファッサードの一部だけを「記念碑」のように残したり、横浜・関内のビル群のように...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:44 PM

February 12, 2005

1st Cut 2004 A・Bプログラム
田村博昭・三橋 輝・衣笠真二郎

澁田美由貴『あわぶくたった』(Aプログラム/フィクション) たぶん、誰でも感じたことがあるはずだ。それは、視力矯正のために眼鏡をかけていて、ある時コンタクトレンズに変えてみようかと思い立って眼科へ行き、それを試着するまさにその寸前の瞬間に感じるものだ。また、その本人でなくとも指先に薄いゼリーのようなガラスのようなそれを載せて、見開いた眼球に近づけ、装着するところを目撃した人なら必ず感じるはずだ。あ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:39 AM

February 10, 2005

サッカー アジア地区最終予選
日本対北朝鮮

2006年ドイツW杯をめざしたアジア地区最終予選A組の第1戦。 大方の予想はメディアの狂想曲を差し引いて3-0というもの。僕も同感だった。だが結果はかろうじて薄氷の勝ち点3を拾う2-1。大黒のシュートが枠を外していたら、このチームは緒戦から崖っぷちの戦いを強いられた。ジーコはどこまでもついている。ラッキーとしか言いようがない。アジア・カップ以来、このチームのツキは残っている。それについては後述。 ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:37 PM

February 3, 2005

『レイクサイド マーダーケース』青山真治

受験勉強の合宿のために用意された、湖畔の近くの別荘が映画の舞台である。撮影のためにだけ建てられたという二階立ての別荘は、その外観がはっきりと画面におさめられ、その度に、この建物の外側と内側が本当に繋がっているのかという疑いが生まれる。室内のシーンをわざわざセットにするわけはないし、外へと繋がるテラスも確かにそこにある。繋がりが見えないのは、外と中というよりも室内の一階と二階の方かもしれない。 建物...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:58 AM

『ライフ・イズ・コメディ!ピーター・セラーズの愛し方』スティーヴン・ホプキンス

「主人公は明確な自己を持っていない。素朴な人間で空っぽの器だ。」 ブレイク・エドワーズやスタンリー・キューブリックのフィルムで活躍し、『博士の異常な愛情』では一人三役を、『マダム・グルニエのパリ解放大作戦』では一人七役というキャラクターを演じわけたコメディ・スター、ピーター・セラーズ。その彼の人生をジェフリー・ラッシュが演じているのがこの映画だ。ピーター・セラーズはその仕事の中で生みだされ演じられ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:51 AM

February 2, 2005

2005年2月2日

「あの、今日あんまり時間ないんで、早めに終わらせて頂けますか?」妙に丁寧な言葉遣いで、彼が私にいう。私は少し言葉に詰まる。彼は今日初めて私についた新規のお客さんだ。その彼がマッサージの途中でこんなことを言い出すのは、つまり私のことが気に入らなくて、さっさと抜いてさっさとかえりたいと思っているというこ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:33 PM

February 1, 2005

『侵入者』クレール・ドゥニ

この映画のなかに溢れかえっている異物は、それが紛れ込んだ場所とのあいだに摩擦を起こし、ふたつのものの存在の肌触りや温度の異質さを不気味なほどに浮き立たせている。例えば、ルイ・トレボール(ミシェル・シュボール)が湖で心臓発作を起こしたとき這い上がった陸で握り締めた砂利の中から、煙草の吸殻が出てくること‥あるいは、静寂の風景の中にとつぜん銃声が鳴り響くこと‥あるいは、二匹の犬を置き去りにする場面で突如...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 AM

January 30, 2005

『行ったり来たり』ジョアン・セザール・モンテイロ

当たり前のことと言えば当たり前なのだが、どこかを見ることを決めたときに、同時にその背後を見ることは誰にとっても不可能になる。それは映画においても同様であり、一つのショットを選択するとき、それは可能性のあるはずの他のショットを選ばない、ということになる。「見る」こととはつまり倫理の問題であることを、私は『不屈の精神』(セルジュ・ダネー)から学んだ。 ロベール・ブレッソンの『スリ』のポスターを玄関口に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:07 PM

January 29, 2005

クサルな! 佐々木明

一昨日オーストリアのシュラドミングで開催されたスキーW杯スラローム第7戦をライヴで見る。セストリエール、フッラハウ、シャモニ、ヴェンゲン、キッツビューエル、そしてシュラドミング……。開幕戦のビーヴァー・クリークを除くとさながらヨーロッパの冬季リゾート地めぐりだ。もちろんW杯の目的にはリゾート地振興も含まれているから当然なのだが、どこも本当に景色がよい。ヨーロッパ・アルプスでもう何年スキーをしていな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:35 AM

January 26, 2005

『巴里の恋愛協奏曲』アラン・レネ

アホな邦題は呆れるだけだ──原題がPas sur la boucheだから『唇はダメよ』ぐらいにしておけばいいだろう──が、やはり、この手のフィルムは、日本で興行的なヒットは望めないのか? 戦前のオペレッタで大ヒットしたが、今では忘れられた作品を、映画によって再現する試み──『メロ』以来アラン・レネは、そうした実験を繰り返している。『ゲルニカ』、『ゴッホ』といった初期の短編の実験、そしてその集大成...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:16 PM

January 25, 2005

「The Archigram Cities」TNプローブ・サロン

1月24日、先週末から水戸芸術館現代美術センターで開催されている「アーキグラムの実験建築1961-1974」という展示の連動企画として、「The Archigram Cities」と題されたアーキグラムのメンバーによる講演会が品川インターシティの大林組のホールで行われた。 当初参加予定だったピーター・クックは、次の仕事のためにすでに日本を発ったとのことで、デニス・クロンプトン、デヴィッド・グリーン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:34 AM

January 12, 2005

西部謙司『Game of people アジアカップ ユーロ2004 超観戦記』

フットボールに関して面白い本を読んだ。W杯から2年後の昨年のフットボールは、この書物のタイトルにある2つのカップ戦が東京に住むぼくらの関心の中心だった。 湿気を伴った猛暑の重慶からマヌエル・デ・オリヴェイラの生地まで、私たちの眼差しはフットボールを追い続けた。東京にいる私たちはその眼差しを徹底して小さなモニターに置き、西部謙司は、重慶の蒸し暑さをポルトガルの乾燥を体験した。その差異はある。だが、こ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:03 AM

January 6, 2005

ラグビー大学選手権準決勝
関東学院対法政
早稲田対同志社

リーグ戦で一敗血にまみれた関東学院が法政にリヴェンジ。1PG差で逃げ切った(24-21)。田井中をFBに、有賀をCBに据えた春口のオプションが功を奏した。それに対して法政はリーグ戦の同じ戦い方をした。学生のゲームは、「伸びしろ」がものを言う。戦術の洗練よりも、可能性の賭ける方が結果を出しやすい。法政の敗因もそこにある。確かに森田は学生レヴェルを越えるが、森田の調子に左右されるゲームメイクはまずい。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:05 PM

『ふたりにクギづけ』ボビー&ピーター・ファレリー

回想シーンの中に出てくる、鏡像のように左右対称な背中合わせのピッチングフォームのイメージほどには、ボブ(マット・デイモン)とウォルト(グレッグ・キニア)は対等な存在ではない。ふたりが同時に投球にはいるように見えるとはいえ、実際投げられるボールはただひとつしかなく、どちらか一方の手にしか握られていないように。ウォルトの体には肝臓がなく、その機能をボブの肉体に依存している。双子であるというには老けすぎ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:01 PM

December 30, 2004

『恋に落ちる確率』クリストファー・ボー

『メメント』、『NOVO』、『CODE46』、来春公開の『エターナルサンシャイン』など、例を挙げていけばきりがない、いま話題の記憶喪失系映画の一本ではある。しかしそれらの多くがあくまで脚本上のネタとしてこの問題を扱うのに対して、『恋に落ちる確率』はそれを演出にまで影響を与えるテーマとして用いる。 主人公の男は、ある日周りのあらゆる知人から忘れ去られてしまう。それまで親しかった隣人や友人、恋人すらも...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:44 PM

December 28, 2004

『犬猫』井口奈己

『犬猫』は今年の日本映画における最大の収穫である。『子猫をお願い』や『珈琲時光』に勝るとも劣らぬ傑作だ、などと言うと大袈裟にきこえるだろうか。井口奈己の8ミリ版『犬猫』で既にその才能と出会っている方は反対に「なにをいまさら」と思うかもしれない。 『犬猫』が傑作であることを証明するためには、まず音について述べなければならないだろう。この映画では、ロングショットの後景にいる役者の台詞がワイヤレスマイク...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:27 AM

December 26, 2004

『シルヴェストレ』ジョアン=セザール・モンテイロ

美しい娘シルヴィアは、父の「自分の外出中は、誰も家に入れるな」という言いつけを守らず、悪魔の手を持つ旅人を家に招いてしまう。旅人はシルヴィアの妹を犯し、シルヴィアは彼の右手を切り落とす。旅人は姿を変え、シルヴィアを娶るために、彼女たちの前に姿を現す。彼は二度、彼女の夫となるが、どちらも彼女の妹に正体を見破られ、最後には命を落とす。 タイトルである「シルヴェストレ」は、シルヴィアが何者かにさらわれた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:57 AM

December 23, 2004

『グリーンデイル』ニール・ヤング

予告編が終わり、本編がはじめると低音の波が映画館に響き渡る。私たちの身体を含め、映画館全体がその音に振動する。この低音は私たちに単に映画を鑑賞することを許さないだろう。映画を見るのではなく、映画とともにあることを要求する。この低音は「グリーンデイル」への入り口である。 『グリーンデイル』には視線と視点がある。ニール・ヤング自身によって撮影された8ミリによる映像が持つ視線であり、もうひとつはテレビニ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:58 PM

December 20, 2004

2004年12月20日

本指名(1回以上接客したお客さんによる指名)で、M性感が入る。ルームに入ると、しかしいすに腰掛ける太った男に見覚えはない。緊張しながら彼に近づき、目を合わせないようにして問診表を受け取る。「女の子にどう呼ばれたいですか?……えー……ユウ君ですね?」笑顔で彼を見ると、彼が恥ずかしそうにうなづく。「いら...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:06 PM

December 17, 2004

『DEMON LOVER』オリヴィエ・アサイヤス

4人の女と、1人の男がいる。ディアーヌ(コニー・ニールセン)、カレン(ドミニク・レイン)、エリース(クロエ・セヴィニー)、エルヴェ(シャルル・ベリング)の4人は、「ヴォルフ・グループ」という会社で「東京アニメ社」の買収契約を進めている。「東京アニメ社」との契約には、更にデモンラヴァー社と、マンガトロニクス社という二つの会社の勢力争いが関わっていて、デモンラヴァー社の代表としてアメリカからやって来た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:25 AM

December 14, 2004

アーセナル対チェルシー

アーセナルの今シーズンを占う一戦。周知の通り結果は2-2のドロー。トップを行くチェルシーとの勝ち点5の差はそのままになった。 だが、ローゼンボリ戦からだろうか、アーセナルのヴァイオリズムは、上昇していると思う。この日も、セスクから左サイドのレジェスへと大きなパス、レジェスはアンリにクロス、ワンタッチでコントロールしたアンリのシュートがゴールネットを揺らし、先制したが、テリーのドンピシャのヘッドで同...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:41 AM

December 10, 2004

チャンピオンズ・リーグ
グループ・リーグ最終節
アーセナル対ローゼンボリ

最近のアーセナルの戦いぶりを見るなり、このチームに浮上した問題の大きさがうかがえた。勝てない、自信を失う、勝ちゲームを勝ちきれない。それに対PSV戦のレッドカードでヴィーラとローレンが、この日は出場停止。この試合を勝たなければ、チャンピオンズ・リーグ敗退が決まる。さらに、今週の土曜日は対チェルシー。今シーズン最大の数日間。 結果は5-1の大勝。新聞紙上ではセスクの活躍が大きく取り上げられている。だ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:41 AM

December 9, 2004

2004年12月9日

M性感のお客さんが、3本連続ではいる。ルームに入ると、3人とも申し合わせたように、「初めてなんで、……お任せで……」と気弱そうにつぶやく。上目遣いで、おずおずと私を見つめる。「怖がらなくても大丈夫。じゃあ、様子をみながら、ゆっくり攻めていきましょうね」。私は笑顔で彼らを迎える。お客さんの緊張を解きほ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:19 PM

December 7, 2004

『三人三色』ポン・ジュノ、ユー・リクウァイ、石井聡互

チョンジュ映画祭企画のオムニバス。 『夜迷宮』(ユー・リクウァイ)。ユー・リクウァイの映画を見るたびに、このひとはなんで自分にできないことばかりやるのだろうと思う。ジャ・ジャンクーの映画においては、事物の輪郭と光線を写し取りそこにいくつかの名前を多層的に重ね合わせていく彼のカメラだが、しかしながら彼自身の監督作においては、自然光を排除し事物の輪郭を曖昧にしそれらに付された名前を剥ぎ取っていく映像に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:40 AM

December 3, 2004

『ポーラー・エクスプレス』ロバート・ゼメキス

クリスマスイブ、家の前に現れたポーラー・エクスプレス(急行「北極号」)に乗って、子供達はサンタクロースに会うため北極点へと向かう。目的を果たし家に帰りついた少年の「その後」がほとんど描かれていない今作では、サンタクロースが画面に現れることが、旅の終わりと同時に映画の終わりをも示している。しかし、物語の最後に派手に登場してみせたサンタだが、映画を見ている限り、それ以前のどのシーンで登場してもおかしく...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:15 AM

『ライフ・イズ・コメディ』スティーヴン・ホプキンス

天才的なコメディ・アクターには、常人には考えられないような傲慢さや強欲さがあり、一方で、自ら築き上げたキャリアに対する自省や、世間からのイメージと自分の理想とのギャップに悩み、俳優に対しての真摯な態度をもつ。ピーター・セラーズの、そんな、矛盾にみちた私生活と輝かしい功績が表裏一体に存在する役者の半生をみつめかえすと、人々は彼を愛してやまない。 グーン・ショウという、ジョン・レノンにも影響を与えたと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:11 AM

November 30, 2004

ヴォルフガング・ティルマンス:Freischwimmer展

入り口でチケットを手渡すと、「剥き出しの作品が多いですので、決して手を触れないでください」と係の女性に注意を受ける。言葉の通り、壁一面に貼られた写真のほとんどが、額にも入れられず無造作にピンやクリップで止められている。剥き出しの写真の光沢が、会場のライトに反射し、思わず目を細めてしまう。入り口からすぐのギャラリー1スペースではまだ整然と並べられていた写真が、次のギャラリー2スペースでは、無作為に散...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:48 PM

November 26, 2004

『モデル』フレデリック・ワイズマン

モデルはどのようなことばを発するのだろうか。当然のことながら、雑誌やポスターなどの写真から、彼ら/彼女らの声が聞こえてくることはない。このフィルムを見ると、撮影現場においても、モデルたちの声はあまり聞こえてこない。聞こえてくるのは、専らカメラマンや監督たちの声ばかりである。彼らは、モデルの取るポーズに対し、Thatユs it! Beautiful! などと褒めたり、ポーズや表情について指示を送った...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:14 PM

「涙が止まらない放課後」モーニング娘。

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モーニング娘。はいつだってその騒がしさが魅力だった。彼女たちはこれまでずっと、過剰なまでに大げさな身振りで、白々しいほど賑やかな声音で、道徳の教科書に書かれてあるようなありきたりな言葉のみで構成された紋切り型の真実を歌ってきた。それは全然静謐なんかではなくて、嘘っぽくて安っぽくてだからこそリアルな騒音まみれの真実だ。九十年代の終わりごろに流行した「LOVEマシーン」には、カラオケのぺらぺらの伴奏で魂を叫ぶしかない多くの大衆の声にならない声が貼りついていた。だからこそ「LOVEマシーン」は広い...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:57 PM

菊地成孔クインテット・ライブダブfeut.カヒミ・カリィ@代官山UNIT

ジャズという音楽が生まれたとき、それがジャズ以外の何ものでもないとその存在自体が証明するために必要な、だが決して必要であると召喚されて始めて姿を現すものではなく自然とその体に纏っているものがある。それはおそらく対極するものとして二種類あり、そのどちらもが正しいのだろうがジャズという音楽に神が存在するとしたら彼が力を貸すのは間違いなくいかがわしさをたっぷりと湛えた黒い極の上に立つものに対してであろう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:37 PM

November 25, 2004

『DV1』『DV2』 フレデリック・ワイズマン

『DV1』は、DV(ドメスティック・ヴァイオレンス)という一つの崩壊を迎えた人々が再生に向うための治療を映したフィルムであり、『DV2』はその崩壊からその先の破滅へと向うか、幸運な再生へと向うかの分岐であるはずの裁判をめぐるフィルムだ。 『DV1』の登場人物は殆どその被害者であり、人々はその体験に対していろいろな角度から多数で討論する。勿論、カメラは彼ら一人一人の言葉に耳を傾けるために、頻繁に切り...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 PM

November 23, 2004

『血と骨』崔洋一

革命の炎は交番へと向けられ、見事にそれを焼き尽くす。しかし、燃える交番から走り出た一人の警察官は、一向に怯まず、恐れず、数人の革命者達を跳ね飛ばしてしまう。交番が焼けたからってそれがどうした。彼はそう言うに違いない。 同じような光景を見た事がある。監督は崔洋一。「月はどっちに出ている」(1993年)における岸谷五朗は、勤めていたタクシー会社が燃え盛っている横、空を仰いで笑っていた。岸谷演じる姜忠雄...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:39 AM

November 22, 2004

『取るに足らぬ慰め』ジャン=クロード・ルソー

あふれる音は指向性を持たずに、あらゆる方向から一斉に降りかかる。意味を持った言葉も、コップや食器のぶつかり合う音に埋もれていく。そのなかでかすかに聞こえる、「良かったら行かないか……湖に……」。 『嵐の直前』では、露天の座敷での食事での歓談とその後の沈黙が、季節はずれの嵐の直前にあることを示し、またその嵐がいまそうである春よりも来るべき夏をより強く喚起させることに思いを巡らせている。その時間の流れ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:27 PM

November 19, 2004

『キャットウーマン』ピトフ

自ら勤める会社の陰謀に巻き込まれ、キャットウーマンとして生まれ変わったペイティエンス・フィリプッスス(ハル・ベリー)は、生まれ変わった翌日、自分の力を知らないままに彼女が恋する刑事(ベンジャミン・ブラット)のところに会いに行き、彼とバスケットボールをする。そこで、彼女は超人的な動きを見せることになるのだが、そのことに彼女はまだ気づいていない。画面ではバスケットボールをする姿が様々なアングルで写し出...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:51 AM

November 15, 2004

2004年11月15日

M性感で最初に渡す問診表に、「名前」の欄がある。お客さんはそこに本名ではなく、「わんちゃん」なり「課長」なり、自分の好きな呼び名を記入する。女の子はその問診表をお客さんと確認しながら、そのときのプレイスタイルを決めていく。予約の際あらかじめ指定されたコスチュームとこの「名前」は、お客さんがその時のM...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 12:20 PM

『ソウ』ジェームズ・ワン

老朽化した地下のバスルームの対角線上に鎖で拘束された二人の男、アダム(リー・ワネル)とローレンス(ケアリー・エルウェズ)、二人の間に横たわる男の死体。その死体の手に握られたテープレコーダーで、二人は殺人ゲームの仕掛け人である「ジグソー・キラー」からのメッセージを再生する。アダムは彼に死を宣告され、ローレンスはタイムリミットまでにアダムを殺さなければ、監禁されている妻と娘を殺すと告げられる。この映画...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:12 AM

November 10, 2004

2004年11月10日

性感エステで新規のお客さんが入る。扉を開けると、奥に耳に6個くらいピアスしたカジュアルな雰囲気の男の人が座っていた。まず入口で挨拶する。彼もかしこまってそれに答える。「では、シャワーにご案内しますので、お洋服を脱いでいただけますか」。上着を脱ぐのを手伝おうと肩に手をかける私に、彼は後ずさりながら遠慮...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:32 AM

November 8, 2004

『我々のあいだに、書類のない、顔のない、言葉を持たない人々がいる』キャロル・シオネ

ここには文字通り、顔のない人がいる。声のない人がいる。それは誇張ではなく、むしろ控えめな表現であるとすらいっていい。“ソン・パピエ”、すなわち紙を持たぬ人々は自らの存在を確信することすらできないのだ。パリにやって来たある家族の妻は画面に顔を映し出されることはなく、代わりにせわしなく動く手だけが映し出される中で、私たちは動く死体、リビング・デッドのようなものだと口にする。その夫は、その顔もその声も晒...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:30 PM

November 4, 2004

『コラテラル』マイケル・マン

トム・クルーズとジェイミー・フォックスの乗ったタクシーの前を、2匹のコヨーテが横切る。暗闇の中でコヨーテの目が赤く光り、ふたりのいる方向を見たまましばし立ち止まる。タクシーの中のふたりもまた、放心したようにその光を見つめている。 このフィルムに映されているのは、タクシーの夜勤が始まる時点から朝が明けるまでの限られた時間だ。太陽の光は映画の終結を意味する。暗闇と、人工的な光だけがふたりの男を結び付け...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:53 AM

November 3, 2004

「パンク・ピカソ展」ラリー・クラーク

ロジャー・マリス(1934〜1985)……ベーブ・ルースが持つ1シーズンのホームラン記録を、1961年に更新したアメリカメジャーリーグのベースボールプレイヤー。彼の年間61ホーマーという記録は、1998年のマーク・マグワイヤ、サミー・ソーサ両選手まで破られることがなかった。1961年、マリスはチームメイトであるミッキー・マントルとともにルースの記録に挑戦することとなるが、のちのマグワイヤとソーサの...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:15 AM

November 2, 2004

『2046』ウォン・カーウァイ

金曜日の最終回の上映にしては異様なまでに空いている渋東シネタワー。ウォン・カーワァイ、木村拓哉という固有名もすでにパブリシティの機能を失っているのか? あるいは、ウォン・カーワァイのフィルムは、やはり単館ロードショー留まりのフィルムであって、全国ロードショーには当てはまらないのか? 興業面には多くの疑問があるし、そもそも観客で一杯の映画館などもうないのだろうから、TSUTAYAでレンタルに並ぶ人...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:17 PM

November 1, 2004

2004年11月1日

出勤前、予約が凄い事になってるから、出来たら早めに来て欲しいと店長から電話があった。電話越しでも伝わってくるあわただしさに、妙に高揚していつもより早めに家を出た。店につくと、控室でおしゃべりしている女の子たちは一人もいなくて、各ルームの前にスリッパがきれいに並んでいた。従業員のSさんが、洗濯機を回し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:07 PM

October 28, 2004

『ファスター・プッシーキャット キル!キル!』ラス・メイヤー

p_cat.jpg モノラルのサウンドトラックが声に合わせて振動し、まったく同型の平行に並んだ2本の跡をつける。その偶数本のギザギザの線は次第に増殖していき、画面を埋める。性能のほとんど同じマシンのデッドヒートの結果、地面に残されたタイヤのトラックのように。
車は金や権力や社会的背景を示す小道具などではなく、もっと単純な力とスピードの象徴だ。その馬力と速度が最大限に発揮されるのに両輪のバランスが必要であるように、登場人物たちは極めてシンメトリックな形で登場し、もつれ合い、退場していく。まず3人の女と車。次にひと組の...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:31 PM

October 27, 2004

『ツイステッド』フィリップ・カウフマン

アシュレイ・ジャッド演じる女性捜査官の周りで連続殺人事件が起こる。被害者の男性はすべて彼女がかつて肉体関係を持ったものたちで、更に、犯行時刻の間彼女は必ず気を失い自分の行動を証明することができない。彼女が犯人だという疑いを掛けられそれをどう晴らしていくか、真犯人は誰かを探すことがこの映画の簡単なストーリーだ。男性ばかりの登場人物たちの中で、彼女は、ストーリーの上でも画面上でもまさに「たった一人の女...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:45 PM

October 25, 2004

マンチェスター・ユナイティド対アーセナル

待望の10月24日。プレミアシップの前半戦の大一番を迎える。だが、この種のゲームによくあるように、軽快にゲームが展開することはなかった。結果は2-0でマンU。アーセナルのプレミアム無敗記録は49で止まった。 特にマンUの選手たちのこのゲームに寄せる想いは強かった。ここで敗れれば今期のプレミアシップは絶望。ライヴァルチームに完全に水をあけられることになるからだ。つまり、絶対、負けないことが条件。つま...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:08 PM

October 24, 2004

『バッドサンタ』テリー・ツワイゴフ

犯罪者が子供との交流を経て更正に向かう話。つまり法律に抵触するような行為を繰り返す人間の前に純粋な心をもった子供が押しかけ女房的に現れ、最初はいやいやだった犯罪者も次第に子供の純粋さに触れ、人間性を獲得していく。法律に違反するような行為は人間的ではないのです。子供の純粋さを見なさい。あれこそがマッサラな人間の本当の姿なんですよ。というエンディングに向けて、その間子供のいじめっ子への復讐劇に荷担する...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:09 AM

October 22, 2004

チャンピオンズ・リーグ第3節
パナシナイコス対アーセナル ACミラン対バルセロナ

チャンピオンズ・リーグ第3節から2ゲーム。 アーセナルは前節のローゼンボリ戦のドローに続いて、このゲームもアウェイで勝ちきれない。前半18分にリュングベリのシュートが決まり1-0とリードして前半を終了したが、対ヴィラ戦に見せた華麗さはすっかり影を潜めていた。5バックのパナシナイコスがディフェンスを固めた上に、徹底して中盤からプレスをかけ、アーセナルの速度を遅延させていたのがもっとも大きな理由だろう...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:25 AM

October 20, 2004

『シルヴィア』クリスティン・ジェフズ

『シルヴィア』クリスティン・ジェフズ 「人生は1本の木だ」というグウィネス・パルトロウの声が『シルヴィア』の幕を開ける。「私の人生は1本の木のようだ。枝のひとつは私の夫で、葉の1枚1枚は私の子供たち。もうひとつの枝は、詩人としての人生であり、もうひとつは教師としての私だ。私の人生は1本の木のようだ」。  詩人シルヴィア・プラスの伝記映画である『シルヴィア』は、夫である桂冠詩人テッド・ヒューズとのふ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:28 PM

October 18, 2004

プレミア・リーグ
アーセナル対アストンヴィラ

いや、本当に強いときのアーセナルはすごい。鉄人アナ八塚浩も言っていたが、見事すぎる。点差こそ3-1だったが、もしショッツオンのシュートが全部入っていたら、10 点差では収まらないのではないか。アストンヴィラのキーパーが「当たって」いたので、点差はそれほどつかなかったが、開始早々のアストンヴィラ、ヘンドリーのシュートがアーセナルのゴールマウスに吸い込まれたせいで、アーセナルの投資に火が点いてしまった...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:46 PM

October 14, 2004

『フランス映画とは何か?』プログラム企画:ドミニック・パイーニ
<ジュ・テーム、そして言い争いして‥‥‥>

『ジュ・テーム、ジュ・テーム』アラン・レネ 『そして僕は恋をする』アルノー・デプレシャン「力一杯走って、突然立ち止まった。ある事実に気付き愕然とする。ずっと前からすべてに敵意が満ちていたんだ。」直立したまま固まった男は言う。 『そして僕は恋をする』の中で、ポールがジョギングをするシーンが何度も挿入される。『ジュ・テーム、ジュ・テーム』では、男が海の中を泳いでいる。タイムマシンの試作を試すために、過...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:30 PM

10月10日、鈴鹿。

今年のF1日本グランプリは、前日まで接近していた台風22号の影響から、9日に開かれる予定だった予選の日程を変更、10日に予選、決勝同日開催という史上初の変則的グランプリとなった。決勝当日は快晴。気温28度、路面温度33度。自由席の足場のぬかるみが、辛うじて台風が通ったことを思い出させてくれるような絶好のグランプリ日和だった。 8日、バックストレッチから130Rへと抜けるポイントに腰を降ろし、雨の中...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:26 PM

October 11, 2004

『ジェリー』ガス・ヴァン・サント

フィリップ・ガレルの『内なる傷跡』を見て一番驚いたのは、まっすぐに歩いていたはずのニコがガレルの元に戻ってきたシーンだ。真っ白な砂の上では彼から遠ざかっていたように見えても、実は円を描いていたというだけのことなのだが、まるでガレルが急いで彼女の先回りをして、何食わぬ顔で再び座り込んでいたように見えたのだ。あんな何にもないようなところで、知らぬ間に一周していたなんてあるわけない、と思った。その後この...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:22 AM

October 8, 2004

『珈琲時光』ホウ・シャオシェン

久しぶりに神保町の駅で降りてみる。古書店がずらりと並んだ光景は以前来たときとまるで変わっていないが、どの店の窓にも同じポスターが貼られている。言うまでもなく『珈琲時光』のポスターだ。『珈琲時光』という映画は、台湾の監督から見た日本といううたい文句や、小津安二郎の名前からも離れ、神保町の映画、としてなりきっているようだ。 一青窈演じる陽子が、有楽町駅の出口付近で、お腹に子供がいることを肇(浅野忠信)...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:49 AM

October 5, 2004

『珈琲時光』ホウ・シャオシェン

高崎の実家のシーンで、台所から縁側まで吹き抜けるがらんとした空間に突然雷の音が響く。空にはまだ崩れる様子はない(nobody15所収のインタヴューで、この音は別録りしたものを編集したのだと語っている)。カットが変わり、一青窈が雨の中を自転車で走ってくる。雨宿りし、画面には顔の映らない女性と画面に登場しない猫(おそらく)の話をする。ここで初めて江文也の曲がオフの音源で流れ、その音が流れたまま時間的に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:22 AM

September 30, 2004

『誰も知らない』是枝裕和

もちろん映画は映画であって、いかにそれが現実を多く呼吸していようとも、映画と現実を等号で結ぶことはできない。 『誰も知らない』を見た素朴きわまりない感想から書き始めよう。とりあえずこのフィルムが、撮影から15年前に起きた「西巣鴨子供置き去り事件」から想を得ていることは置いておこう。父親の異なる4人の子どもたちを残して恋人の許に去った母。13歳の長男が下の子どもたちの面倒を見る。子どもは「柔らかい肌...全文を読む ≫

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September 18, 2004

『日本脱出』吉田喜重

東京オリンピックが間近に迫った60年代初頭、若い男女が憧れたのは広い「アメリカ」だった。ジャズを生み、ブルースを生んだアメリカ。コカ・コーラを生んだアメリカ。そして何より、エルビスやシナトラを生んだアメリカ。『日本脱出』の竜夫もジャズのヴォーカリストになるためアメリカで修練を積みたいと思っている。新幹線など狭い日本には過ぎた贅沢だと言ったかどうか知らないが、竜夫は目下開催されようとする東京オリンピ...全文を読む ≫

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September 15, 2004

W杯予選 オランダ対チェコ

老獪なブリュクネルに対するマルコ・ファンバステンの新生オランダ。チェコは、ネドヴェドをはじめ怪我人が多くベストメンバーからはほど遠い。だが、W杯予選の中ではそれでももっとも注目されるカードになっていることはまちがいない。ユーロでも、このカードはあった。多くの批評家が、ユーロでもっとも面白かったゲームと言っているが、私は、このコラムでも書いたとおり、アドフォカートのオランダの適応力のなさに驚き、凡庸...全文を読む ≫

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September 12, 2004

『レイクサイド マーダーケース』青山真治

When I looked out my windowWhat do you think I see強い光と肌の露出によって『レイクサイド マーダーケース』は始まる。フラッシュの光にも瞬きすることなく曝されたままのモデルの眼球。光は剥き出しの網膜に灼き付いただろうか。反応からは何ともうかがい知れない。まるで光が確かにフィルムを通過したにもかかわらず、そこには何の痕跡も残らなかったかのように。その場...全文を読む ≫

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『ステップ・イントゥ・リキッド』デイナ・ブラウン

極めて倫理的な映画だ。たくさんのサーファーたちがインタビューに応じていて、彼らはみなバストショットか顔のアップで撮られている。印象的なのは、下半身附随の青年が登場するシーンだ。初め、彼が画面に現れても何の違和感もないが、次のシーンでカメラが遠ざかると、彼を囲む友人たちがバストショットで映され、彼の背が明らかに低いことがわかる。ようやく車椅子に乗った姿が見え、友人達の台詞が聞こえてくる。「彼は下半身...全文を読む ≫

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September 9, 2004

日本対インド

この際4-0という点差(高原と鈴木のノーマークのヘッドが決まっていれば6-0だった)も、オマーンとの対比もどうでもよい。高原の動きが悪かったのも気にかかるし、伸二の「俺が仕切るぞ」という気合いの空回りも気になるが、W杯の1次予選でもなければ、コルカタ(昔はカルカッタと言ったよね)でのフットボールのゲームなど見ないだろう。この雰囲気とこのスタジアムがとても気になった。ソルトレイク・スタジアム。昔は塩...全文を読む ≫

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August 29, 2004

『丹下左膳餘話 百萬両の壷』山中貞雄

江戸は広いから、という言葉が何度も呟かれるが、実際に映される江戸の街はあまりにも狭く、百萬両の壷を探して人々は同じ場所をぐるぐると回ってばかりいる。そしてその狭さゆえに、人々は部屋の中にへばりつき簡単には動き出さない。床にどさりと寝転んだ丹下左膳が腰を挙げると、その動きは売って変わって俊敏で美しい。映画は彼の俊敏さと不動の姿勢とを繰り返すことで成り立っている。それは彼の引きつったような口元が開かれ...全文を読む ≫

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August 28, 2004

『ラスト・ダイビング』ジョアン・セザール・モンテイロ

海を覗き込みながら2時間以上も佇んでいたらしい青年に、それをずっと見ていたらしい中年の男が話し掛ける所からこの映画は始まる。それからの2日間男たちはひたすら飯を食い、酒を飲み、踊り、女と寝る。 中年の男の娘であるエスペランサ(ファビアンヌ・バーブ)は口がきけない。彼女と青年が初めて共に過ごす夜、彼らは何かを見てふざけあうが何を見ているのかは定かではない。彼らのやり取りは無音の空間に留められていて、...全文を読む ≫

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August 26, 2004

オリンピック サッカー準決勝 アルゼンチン対イタリア

見事なフットボールでアルゼンチンの完勝。3-0という点差は、単にイタリア・オリンピック代表とアルゼンチン・オリンピック代表のチーム力の差ばかりではなく、それぞれのチームが実践するフットボールの質の差でもある。 4-4-1-1というイタリアの布陣に対し、3-4-3あるいは3-5-2のアルゼンチン。ユーロの失敗に懲りず、この期に及んでまでカテナチオの伝統を凡庸に実行するイタリア。フラットの4人のバック...全文を読む ≫

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August 22, 2004

『誰も知らない』是枝裕和

団地の一室。扉からではなく、ベランダに出る窓からでもなく、トランクという第3の入り口を使って兄妹が勢ぞろいする。引越しで始まる『誰も知らない』は、引越しの準備をし続けるフィルムだ。冒頭2カット目から、執拗にカメラは手を追いかける。兄妹たちはその手で対象の質感と大きさとを感じ、それに従って仕分けする。台所のテーブルの一角には小銭が集められ、流しには洗い物が、寝室には子供たちがもののように横たわってい...全文を読む ≫

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August 21, 2004

日本代表対アルゼンチン代表

プレミアリーグの04−05シーズンが始まり、チャンピオンズリーグの予備予選がすでに展開されているというのに、ベストメンバーからほど遠いアルゼンチンと日本の親善試合をわざわざ見るのは、他でもないリケルメの今を確認したいがためである。ただもちろん、アジアカップを手にした日本が、「二軍」とはいえ南米の強豪といかにわたり合えるかに注目していたのも事実だ。それは九月にワールドカップ一次予選対インドを控えてい...全文を読む ≫

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August 16, 2004

『堕天使のパスポート』スティーブン・フリアーズ

亡命者や不法入国者、違法者たちが集まるロンドンの街で、事件は起こる。ロンドンと言われてもいまいちピンとこないのは、彼らがいる場所がいつも室内だからだ。ホテルの中やアパートの中にしか違法者たちの居場所はないし、車を走らせても外の景色は何も見えない。彼らが働くホテルの一室では、不法滞在者たちを相手にした臓器売買ビジネスが行われている。腎臓を摘出された人々は、その報酬として偽のパスポートを手に入れどこに...全文を読む ≫

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August 12, 2004

2004トライネイションズ ワラビーズ対オールブラックス

3カ国がひとあたりし、ホームとアウェイが入れ替わる2周目の第一戦。初戦を7-16で敗れたワラビーズがどう立て直すか? オールブラックスのグラアム・ヘンリーの戦術は、その成熟度が上がっているのか? このゲームへの興味は尽きないものがあった。 結果は、23-18でワラビーズのリヴェンジ。興味深いのはその内容だ。グラアム・ヘンリーの戦術の主なるものはふたつ。ひとつは徹底したFW勝負。スペンサーのフレアに...全文を読む ≫

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August 9, 2004

『スパイダ−マン2』サム・ライミ

その男は才能だけで勝負をする男だ。ずば抜けた頭脳によってピーター・パーカーは認められ、身体的な能力によってスパイダーマンは認められる。その才能を活用する方法を、彼はまだ極めていない。手首から生える蜘蛛の糸や人間離れした跳躍力だって、もっと多様な使い道のありそうなのに、とにかく素早く街を疾走することだけが彼の得意技となっている。いつの時代も、天才は努力家よりも受けがいい。才能ゆえに彼は周りの大人たち...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:04 AM

August 8, 2004

『グラスホッパー』伊坂幸太郎

幻想と現実との境目が消えていく。小説でも、映画でもよくある話だし、特に目新しい材料も見つからない。どうせ現実の中の幻想が侵食し始め、最後にはすべてが幻想だったというオチがつくのだろうと思っていると、どうも様子が違っている。話の随所で思わせぶりな展開を見せられ苛つきもするが、どこか潔い。 鯨という“自殺屋”には、自分が自殺させた者たちの亡霊が見えるらしい。気になるのは、亡霊の姿が現れるとき、生きてい...全文を読む ≫

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August 5, 2004

「VISION QUEST vol.1 フレーム・サイズを考える」

入場の際に配付された資料には、「スタンダード・サイズ=人間、ヨーロピアン・ヴィスタ=クレジット・カード、アメリカン・ヴィスタ=ドル、シネマ・スコープ=埋葬(棺桶)」というジャン=リュック・ゴダールによるフレームサイズの対比が記されていた。それを受けての、通貨の表象のような登場人物がいかにして人間として立ち上がるかを『月の砂漠』が描いているという安井豊の発言は、まさに納得だった。はじめに私達が目にす...全文を読む ≫

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アジアカップ準決勝 日本対バーレーン

このゲームも延長戦に入り、玉田のシュートで逃げ切り、PK戦を免れた。中国で行われているアジアカップでは主審のゲームメイクが悪い。遠藤の一発レッドも然り。笛を吹きすぎる。自らの存在感を誇示したいのはこのカップ戦の開催国だけですでに辟易している。スポーツと政治はちがうなどとウブなことは言わない。スポーツだって政治だ。だが、この開催地の観客を見ていると、ボーダレスな情報社会の進展から、この開催地が取り残...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:56 AM

August 3, 2004

『CODE46』マイケル・ウィンターボトム

舞台は近未来。上海に派遣された中年のスパイがそこでひとりの女と出会う。「CODE46」と呼ばれる法規に管理された世界ではふたりの間に芽生える感情は禁じられたものである。そんなプロットから『アルファヴィル』の系譜を考えたのかと想像していたが、見てみれば『ロスト・イン・トランスレーション』の気分なのだとわかる。 上海の雑多な町並みを通り、まるで無菌の無国籍な建物の中に入る。世界設定の時点で、ここには内...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:55 AM

August 1, 2004

アジアカップ 日本対ヨルダン

ベスト4が一応のノルマとされていたアジアカップ。ベスト8からベスト4への道が準々決勝と呼ばれる対戦であり、カップ戦の場合、この準々決勝が一番面白いと言われている。ここまでのゲームはリーグ戦であり、リーグ戦であるからには、引き分けても良いし、負けもまた場合によっては許容されることさえある。だが、準々決勝からは、引き分けは存在せず──つまりPK戦──、負けはそのチームにピリオドが打たれることを意味する...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:54 AM

July 31, 2004

『ワイルド・レンジ 最後の銃撃』ケヴィン・コスナー

遠くからやってくる者を見守るように、カウボーイたちが移動するのはあまりにも広大で美しい山野だ。二人が街へ入ると、上空に構えられていたカメラはぐっと彼らに近付いていく。ただ単に、遠くを見渡す必要がなくなったせいでもある。街と呼ぶにはあまりにも狭いその場所で、山を隔てて向かい合った敵の姿が、扉一枚向こうに迫っている。 軽々と大河を渡ってみせた二人が、カフェと道路の間に出来た水たまりを超えることも出来な...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:46 AM

July 27, 2004

A代表とU−23

アジアカップを戦うA代表とアテネへの準備に忙しいU-23。最近は代表のでるゲームばかりだ。ユーロからずっといろいろな国の代表ばかり見ている。とりあえずA代表とU-23もこれだけのマッチメイクが行われれば、それぞれクラブチームの様相を呈してくる。A代表も、ずっと俊輔をトップ下にする3-5-2で戦い続けているし、U-23は、もっと準備期間が長く、18名のオリンピックメンバーも決定したから、どういうフッ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:45 AM

July 18, 2004

『スパイダーマン2』サム・ライミ

前作は、「僕はスパイダーマンだ。だからいつでも君を見ている」だった。『スパイダーマン2』では、「僕はスパイダーマンだ。だから君のそばにはいられない」だ。つまり、初めてスパイダーマンになる『1』では行為と能力を見せる必要があったのに対して、もはやそれが前提となった『2』では存在と意志が問われる、ということだ。 極めて喜劇的に演出されるヒーローの苦悩は、表の顔と裏の顔のわずかな、しかし決定的な乖離を示...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:42 AM

July 17, 2004

『群盗、第7章』オタール・イオセリアーニ

記憶によって歴史は語られるのかもしれない。男に食事を与える老婆の姿に、先日見たばかりの『蝶採り』を思い出してしまう。買い物籠をぶら下げ颯爽と自転車を乗りまわすあの仏頂面は、きっと大きな屋敷へと帰っていくんだろうなぁ、と考えてみたり。壁中にかけられた銃を見て、「変わった趣味」だとため息をつくまた別の老婆の言葉にも、『蝶採り』の屋敷の壁中に貼られたたくさんの絵画や写真を思い出す。私の個人的でしかない記...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:41 AM

July 15, 2004

キリン・カップ 日本対セルビア・モンテネグロ

カップ戦とは言いながら、見ているとどうしても「親善試合」というフィーリングがぬぐえない。かつてなら、日本が外国チームと対戦するもっとも重要なイヴェントがキリン・カップだったが、すでに2度のW杯を体験したチームであれば、これはやはり「親善試合」なのだ。つまり、ディフェンディング・チャンピオンとして望むアジア・カップへの、そして開催中のW杯予選への調整ゲームなのだ。 田嶋技術委員長が語るとおり、このチ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:40 AM

July 6, 2004

『不実な女』クロード・シャブロル

この映画でステファーヌ・オードランが演じるのは、「不実な女」というよりも「無関心な女」だ。映画を見ながら終始気になっていたのは、どこを見ているのかわからない彼女の瞳であり、また何を考えているのかわからないその表情だった。ミシェル・ブーケが「僕を愛している?」と彼女に聞くのは、彼女に浮気の疑いがあって、彼女が誠実さに欠けた妻だからではない。妻は無関心なのではないか。夫に対してこれといった関心もなく、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:39 AM

『不実な女』クロード・シャブロル

犯罪には、いつも“見られる”ことへの恐怖がつきまとう。避けられない視線をどう利用するかという問題もまた、犯罪の一部である。田舎での犯罪はとりあえずこの問題から逃れやすい。それぞれの敷地から出なければ“見られる”危険性はないし、視線の範囲がある程度決まっているからだ。都市では視線は至る所にあふれている。だからこそ、都市と犯罪とは密接に関わりあい、その関係はいつもドラマティックだ。 シャブロルの映画に...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:38 AM

ラグビー テストマッチ ジャパン対イタリア

小さなパントがイタリア・ディフェンス網の裏に出て、大畑の胸に収まる。トライラインまで彼を遮るものはいない。誰もがトライだと確信し、これで15-18と3点差に追い上げると信じたその瞬間、ダイビングした大畑の手からボールが転げ落ちる。インゴール・ノックオン。「またやってしもうたな」。関西弁の冗談ですむ話ではない。大畑はプロの選手だ。こんなことがあってはならないし、「やってしもうた」という軽い言葉ではす...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:36 AM

July 2, 2004

『子猫をお願い』チョン・ジェウン

職業と住所。自分が誰なのかを証明するために絶対に必要なもの。初対面の相手に聞かれるたび、何とかこの質問から逃れる術はないものかと、いつも思う。5人の女の子たちは、たったワンシーンによって自分たちの現在の職業と住居とを解説する。仕事場へ向かおうと、両親のいるマンションを後にするヘジュ。仕事をクビになり、家への帰路を歩くジヨン。一番活き活きとしているのは、騒々しく街を渡り歩く双子の姉妹、ピリュとオンジ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:35 AM

June 28, 2004

『まだ楽園』佐向大

どこまでも、どこまでも移動しても同じ風景がひろがっている。どれだけ車を走らせても、目に入ってくるのは似たような街並みと同じような建物ばかりだ。またコンビニか……、また駐車場だ……。いや、そんなことはもう誰も気にかけていない。ため息をついていたらきりがない。特徴も違いもないだだっぴろい広がりの遠くに、巨大な都市群がかすんでいるようにも見えるが、そこに至るとさらに絶望的な風景がひろがっているのかもしれ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:34 AM

『蝶採り』オタール・イオセリアーニ

インドのマハラジャを乗せた列車が到着するシーンによって幕をあけるこのフィルムはまぎれもなくトランジットの映画だ。ピアノ奏者の老婆が到着すると同時に賛美歌の時間になり、曲が終わると同時に彼女がさっさと席を立って自転車に乗って帰ってしまうところなど、とてつもなく正確な数種類の時刻表を熟知してそれを乗り継ぎ、目的地まで最短時間で到着するようなアクションだ。あるいはとてつもなく不正確なダイヤの乱れを利用し...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:33 AM

June 27, 2004

『白いカラス』ロバート・ベントン

雪道をゆっくりと滑るように走るヴォルヴォ。その前に赤いピックアップ・トラックが現れる。2車線の道だが、トラックはまっすぐにヴォルヴォに向かってくる。ハンドルを右に切り、道路から下の大きな湖に転落するヴォルヴォ。『白いカラス』の冒頭だ。 ロバート・ベントンのフィルムを見るのは本当に久しぶりだ。『俺たちに明日はない』の伝説的なシナリオを担当し、『クレーマー/クレーマー』でオスカーに輝いた映画作家も、「...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:32 AM

June 25, 2004

『デイ・アフター・トゥモロー』ローランド・エメリッヒ

『インディペンデンス・デイ』と同様に、世界滅亡の危機に見舞われる「ザ・デイ」をエメリッヒは描く。しかし、それは適度な危険のほのめかしと、それをもとにしたちょっとした教訓話に収まってしまう。 温暖化の揺り返しで一気に寒冷化が進む北半球で、洪水と吹雪に人々が逃げまどう。合衆国を南北に二分する線が引かれ、北部は見捨てられ、南部の住民も土地を捨てて更に南へ逃げることになる。その絶対的な危機でニューヨークに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:31 AM

June 18, 2004

『あなたにも書ける恋愛小説』ロブ・ライナー

どの時点で“The End”にするか。ケイト・ハドソンの忠告を聞いても、男はストーリーを変えたりはしない。“The End”という言葉をだらだらと引き延ばしていくだけだ。一方では時間の制約と戦い、もう一方で時間を引き延ばすことに躍起になる。 恋愛小説はどのように作られていくのか。まずは誰と誰が最終的に結ばれるか、という問題がある。結末を予想させないために、複雑なドラマを作り出さなければいけない。登...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:29 AM

June 7, 2004

『キル・ビルvol.2』クエンティン・タランティーノ

その『Vol.1』を大批判し、多様な場で物議をかもしたので、やはり『Vol.2』についても書いておかねばならないだろう。 蓮實重彦が何度も書いているとおり『vol.1』と『Vol.2』は通しで見られるべきものであることは、この『Vol.2』が証明している。『vol.1』は、『vol.2』への序章であって、独立した1本のフィルムとして見ると、そのアクションの連続は、『Vol.2』のメロドラマへの準備...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:28 AM

『負ける建築』隅研吾

隅研吾『負ける建築』とても興味深く読んだ。ポストモダンの終演以降、阪神大震災、オウムのサティアン、そして9.11のWTCまで建築の脆弱さばかりに焦点が当たる事件が続発した。この書物は、95年以降──つまり阪神大震災以降──に隅研吾が折に触れて書いた長い文章を集めて成立している。循環するがゆえに決定的な解決という地点が見いだせないケインズ流の経済学の中にあって、最終的な決定にも似た堅牢な建築物を建て...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:27 AM

June 2, 2004

『シティ・オブ・ゴースト』マット・ディロン

高飛びした保険金詐欺集団のボス(ジェームズ・カーン)を追って、マット・ディロンはタイ、続いてカンボジアに向かう。親同然のその男は地元の実力者と関係を持っており、ディロンは組織との利害抗争の中に巻き込まれていく。デヴィッド・リンチ作品を手がけるバリー・ギフォードとの共同脚本であるこの映画はどうしようもない迂回をもってそれだけの物語を語る。 ほぼ全編カンボジアロケのこの映画の肝は、むしろニューヨークで...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:25 AM

『ロスト・イン・トランスレーション』ソフィア・コッポラ

ビル・マーレーが初めに目にする東京の風景は、靖国通りを走る車の窓の外に流れるネオンの数々である。印象的ないくつかの電飾がコラージュされた後に、彼自身が出演しているひとつの看板に視線は止まり、同時に彼の乗る車の運動も止まる。だがそこでは、彼が目にする光景と車の運動はただ互い違いに映し出されるに過ぎず、連動して映画を運動させはじめることはない。車の運動と窓の外の光景によって靖国通りがひとつの道程に変わ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:23 AM

June 1, 2004

『ビッグ・フィッシュ』ティム・バートン

ティム・バートンほど頑迷な映画作家がいるだろうか。『ビッグ・フィッシュ』が彼の転回点に当たるとか、それまでの彼の作品とは異なる位相にあるなどということはない。ティム・バートンは、『ビッグ・フィッシュ』でも頑固なまでにティム・バートンのままだ。のっぺりとした表層をたたえただけの今の世界には「映画」を生み出すエンジンは存在しない。だから、ティム・バートンのフィルムの主人公は、常に、「映画」を探し求めて...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:22 AM

ラグビー スーパーパワーズカップ2004 ジャパン対ロシア ジャパン対カナダ

対韓国戦での萩本をさんざん批判し、これでは対ロシア戦も対イタリア戦もまったく期待できないと結んだ私が、この連勝をどのように記せばよいのか? 共に2トライながらも、5つのPGで逃げ切った対ロシア戦(29-12)。箕内がフランカーに入ったことで、ディフェンスが安定し、ロシアの無策にも救われたが、試合運びはずいぶん安定した。突き刺さるタックルこそ多くはなかったが、とりあえずタックルにはいくようになった。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:20 AM

May 21, 2004

『エレファント』ガス・ヴァン・サント

『ストレイト・トゥ・ヘル』の狂騒のなかで狂騒の果てるゼロ地点をただひとり見透かしてしまうジョー・ストラマーならば、そのゼロ地点からノッペリ広がり続ける静かな砂漠でのレッスンのため、安物のオイルをポマード代わりに来る日も来る日もリーゼントをセットしつづけるだろう。エモーションの果てた地点でいかにエモーションを生産するのか。それはポマードのなくなった砂漠でいかにリーゼントを維持しつづけるかという、ジョ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:04 AM

May 20, 2004

『まだ楽園』佐向大

ふたりの男が1台の車で旅に出る。だが冒頭の恋人との口論のシーンを見れば、この旅には始点も終点もないのだということは明らかだ。「あたしも一緒に連れてってよ」「いやいつ帰ってこれるかもわからないから」「仕事はどうするの?」「いやすぐ帰ってくるよ」。この連続する会話の返答が矛盾していることに主人公は決して気付こうとはしないし、見ている我々もそうなのだ。 全編にわたって横須賀で撮影された映像の中に見慣れぬ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:03 AM

May 18, 2004

ラグビー 韓国対ジャパン

対韓国定期戦。興味は、監督に就任した萩本光威の初戦ということだ。結果は19-19。負けなかったとはいえ、大きく力の差のある相手に引き分けてしまった。個々の力の差は確かにある。だが、いったいどんなラグビーを指向しているのか見ている者には誰も分からなかった。ただダラダラとゲームをし、カウンターから一発で抜かれて7点差に追い込まれてからもジャパンの選手たちは一向に目が覚めなかった。タックルが高い。ノック...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 5:02 AM

May 16, 2004

『リアリズムの宿』山下敦弘

自主映画の脚本家と監督が、お互いにほとんど面識もないままに、旅を始めることになる。『リアリズムの宿』はこのように始まる。旅を続けていくうちに、次第にふたりの距離は縮まっていく。また、浜辺で出会った不思議な少女を巡るやりとりが物語を活気づける。3人は、これといった目的もないままに鳥取県のとある温泉街をふらふらと歩き回る。 このように書くと、ダラダラしていて退屈な映画のように思うかもしれないが、実際は...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:58 AM

May 7, 2004

チャンピオンズリーグ準決勝 2nd Leg デポルティーヴォ対ポルト

ポルトは強い。これといって新しいことはしていないが、ディフェンスも中盤もアタックもきわめて忠実だ。特に、ゲーム開始早々は、最後まで持たないだろうと思われたプレッシングが、タイムアップまで忠実に継続する。アタックでは、デコが走り回り、デポルのディフェンスラインを錯乱し、ボールがデポルに零れても、しっかりしたつなぎに持ち込ませない。5ヶ月ぶりに出場したデルレイのPK一発で勝負が決まったが、もし判定があ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:57 AM

May 5, 2004

『永遠の語らい』マノエル・デ・オリヴェイラ

リスボン大学で歴史学を教える女性レオノール・シルヴェイラは娘を伴ってリスボンから船でパイロットの夫が待つボンベイへ向かう。マルセイユ、ニース、ナポリ、アテネ、アレクサンドリア、イスタンブール、アデン……歴史の聖地を訪ね、彼女は娘に当地の歴史について語り、そこで出会った人々に、母国語とは異なる言語で、その地の歴史を語ってもらう。マルセイユからは女性実業家のカトリーヌ・ドゥヌーヴ、ナポリからはもとスー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:54 AM

May 2, 2004

『もっと知りたい建築家──淵上正幸のアーキテクト訪問記』淵上正幸

TOTOのサイトに連載されていた建築ライター 淵上正幸が9組のアトリエ系建築家にインタヴューしたものの集成。みかんぐみ、難波和彦、ADH、坂本一成、ベルナール・チュミ、北山恒、古谷誠章、ドミニク・ペロー、大江匡がその9組。 それぞれのインタヴューはそれほどディープなものではない。建築家になった動機、趣味、着ているもの、アトリエの場所など、かなり私的なものから、建築のプロセスまでかなり幅広く質問され...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 4:53 AM

April 24, 2004

『イン・ザ・カット』ジェーン・カンピオン

微かに感じる違和感。それは、見えないことの選び方にある。バーの地下で若い女が男の股間に顔を埋めている。カメラが近づくと、女の顔が画面に映される。だが、このとき女の爪がくっきりと映し出される一方で、彼女が加える男の性器はきれいにぼかされてしまう。一カ所だけにピントが合わされその周辺部分が極端にぼやけてしまう、こうした効果が映画全体に渡って使われているのだが、あまりにもうまく使われすぎているのだ。その...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:57 AM

「エットレ ソットサスの目がとらえた『カルティエ宝飾デザイン』展」(醍醐寺 霊宝館2004.3.13〜5.2)

薄明かりの中を進み、小さな金剛石(ダイヤモンド)が散りばめられたティアラが、目の前にすっと現れる。それは、5ミリ程度の大きさの無数に光る粒たちが散りばめられたティアラだが、ほとんど重力を感じさせずに浮遊しているように現れる。粒を支えているだろう白銀(プラチナ)金物の端正な細工はこの目に映っているのだが、果たして本当にこの金物は金剛石と接合されているのだろうか。少しずつ大きさと形を変えて鮮やかに光る...全文を読む ≫

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April 3, 2004

「ラブリー・リタ」ジェシカ・ハウスナー

「また不機嫌な顔をしてるのか。」 父親の言葉通り、リタは何度も不機嫌そうな顔を画面に向ける。しかしそれは繰り返しではない。 「またって?」 彼女は父親の言葉の意味が理解できない。自分の顔はその度毎にまるで違う表情をつくっているはずなのに。一度だって同じ顔をしたことはないのに。同じことの繰り返し。学校をサボること。バスの運転手に会うこと。トイレの蓋を閉め忘れること。台詞を反芻すること。毎回同じ席に座...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:48 AM

March 30, 2004

『スポーツ批評宣言 あるいは運動の擁護』蓮實重彦

野球はともあれ、フットボールを論じる蓮實重彦に感じる違和感はどこからくるのだろうか?確かに書いてあることは「正論」だし、まちがっていない。オリヴァー・カーンがチャンピオンズリーグの対レアル戦でロベカルのシュートをトンネルしたとき、蓮實重彦は、「私の言ったとおりでしょう」とほくそ笑んだにちがいないし、この書物に書き下ろされた一文でそのことに触れている。神戸でプレーする(もうしない?)イルハンのダメさ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:46 AM

『はたらく一家』成瀬巳喜男

すでに盧溝橋事件が発生し日中戦争に突入している。やがて近衛内閣は大東亜圏建設への宣言を高らかと叫ぶだろう。1939年の『はたらく一家』はそんな状況下でつくられた「反戦映画」である。 あいかわらず成瀬の映画には2種類しかない。大きな家族の関係を描くものと、たったふたりの関係(男と女、夫婦)を描くもの。5人の男兄弟とひとりの女の子と祖父と祖母とを抱える総勢10人の家族が中心となるこのフィルムはもちろん...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:45 AM

March 26, 2004

オルタナティブ・モダン 建築の自由をひらくもの 第2回 青木淳 「そもそも多様である、そもそも装飾である」

全4回の連続講議の第2回目は青木淳を迎えて。作品としては潟博物館から一連のルイ・ヴィトンの仕事の話が中心となる。 冒頭で青木は、アミノ酸の構造の複雑さについて触れる。良く似たふたつのアミノ酸であっても、その構造には全く共通点が見つからないと言っていいほどの複雑さ、その原型のない「多様さ」が根底にあるのだと語る。もうひとつのキーワードである「装飾」の方だが、ロンドン動物園のペンギンプールとラ・トゥー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:43 AM

March 23, 2004

『ペイチェック/消された記憶』ジョン・ウー

「未来へ行くことは無理だが、未来を見ることは可能だ。」ベン・アフレックの自信に溢れた言葉に、思わず頷きそうになる。私たちはすでに、もう何度も未来を見ているのだから。暗闇の中で、未来は大きな白い布の中に映し出される。(実際には過去(現在)の映像であるとしても)私たちは簡単に未来を目にし、時間の移動を目撃する。椅子にどっかりと腰を据えたままで。 『マイノリティ・リポート』で、未来を見つめるトム・クルー...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:33 AM

March 20, 2004

サッカー オリンピック最終予選 日本ラウンド

どうしようもないところまで追いつめられて、最後の最後に歓喜が爆発するパターンは、最終予選にはつきものだ。バーレーンに0-1で負け、レバノンを2-1でかろうじて下し、UAEに3-0で勝ち、「アテネへの切符」を手にしたU−23代表。 ゲームの熱気に惑わされずゲームそのものを見てみよう。まず山本昌邦はこのゲームで「超攻撃的」に3トップにしたのではない。大久保、平山、田中達也の3トップを並べてみたが、両サ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:31 AM

March 15, 2004

『ドッグヴィル』ラース・フォン・トリアー

真っ白な雪が道路を覆う。そこに一本の線が引かれる。集会所からグレースの家まで引かれた一歩の線。それは、彼女の首に取り付けられた錘の引きずった跡である。彼女につけられた錘や鐘は、大きな音を立て彼女の居場所を村の人々に知らせるためにある。伝道所の大きな鐘が彼女に時間や彼女の危機を知らせるように、彼女の首につけられた小さな鐘は、彼女がどこにいて何をしているのかを村の人々に知らしめる。 月明かりが村の人々...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:27 AM

March 13, 2004

『血』ペドロ・コスタ

レオス・カラックスと同年代のペドロ・コスタは1989年に『血』を作る。処女長篇作だ。『汚れた血』や『ボーイ・ミーツ・ガール』が日本に紹介され、いったいどれほどの熱狂とともに迎えられたか、そんなことを想像しながら昨今のペドロ・コスタを巡る日本の状況を考えてみるのもひとつの手かもしれないが、しかしいまやそんな暇も猶予もどうやら無さそうな気がする。 だがやはり『アルファヴィル』のような近未来的風景とノワ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:25 AM

『生まれる森』島本理生

島本理生は変わらない。彼女の新作『生まれる森』を読んで思ったのは、前作『リトル・バイ・リトル』から彼女にはなんの変化も訪れなかったということだ。 仲俣暁生が指摘するように、島本理生の前作『リトル・バイ・リトル』は「ふつうの他人との関係」を志向していた。愛情や友情のドラマというような愛憎が入り乱れて感情と感情がぶつかり合うというより、登場人物がただ単に人と出会い、接するさまが描写されていた。島本の文...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:24 AM

March 11, 2004

『ビッグ・フィッシュ』ティム・バートン

その過去が嘘と伝説にまみれた父とそれを信じることができない息子との和解。そんな物語を持つこのティム・バートンの新作は、しかしながら実生活において父を亡くし、息子を授かったバートンの成熟という言葉だけで片付けられるような単なるファンタジー風味の家族再生の物語ではない。 ビリー・クラダップ演じるウィリアム・ブルームは、目の前で病に伏せている父エドワード・ブルーム(アルバート・フィニー)を許せないのでは...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:21 AM

March 10, 2004

オリンピック予選UAEラウンド

多くの人々が涙ぐむ山本昌邦に涙腺がゆるんだにちがいない。この世代の選手たちは確かに成長していく。コーチは目標を定め、それに従って問題点を洗い直し、評価するものだ。だが1日おきに3ゲームという信じがたい日程にあって、目標──単に全勝することだ──も評価もへったくれもない。とにかく山本昌邦自身が初戦のバーレーン戦(引き分けに終わった)後に語ったように、トーナメントのように戦うしかない。まず負けないこと...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:19 AM

February 23, 2004

『この世の外へ クラブ進駐軍』阪本順治

不在によって集団が作られていく。街のそこら中に人があふれているにもかかわらず、不在は常につきまとう。バンド「ラッキー・ストライカーズ」の結成も、ドラマーの不在によって突然放り込まれた、オダギリジョーの騒々しさによって始まる。誰かがいなくなるたびに、彼らは集められ演奏が始まる。彼らのためにステージは用意されている。酒場というステージで、いくつもの儀式が行われる。そこでは、集まる人々の数が減っていく、...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:15 AM

February 19, 2004

サッカー アジア地区1次予選 日本対オマーン

ジーコ・ジャパンの長いドイツへの道の開始。盛り上がらないのはいつも通り。埼玉スタジアムにも空席が見られる。周知の通り、小笠原の「なんとなく」上げたクロスがディフェンダーに当たり、それが俊輔に当たり、ペナルティ・エリア内で偶然ポツンとひとりでいた久保がシュートをダフり、それが幸いしてゴール・マウスにボールが転がっていった。92分の出来事。1-0。勝ち点3。予選は戦い方がどうあれ、勝てばいいのだ、と思...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:12 AM

February 12, 2004

『あなたの隠された微笑はどこにあるの?』ペドロ・コスタ

この映画の主要な登場人物は3人である。ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレ、そして『シチリア!』に等価な視線が注がれているからだ。 この映画は、ストローブ=ユイレについてのドキュメンタリーであり、彼らと同じ時間と空間をともにすることで得られた貴重な映像資料と言ってもいいかもしれない。研究者にとってもおいしい映画かもしれない。 ストロ-ブ=ユイレの姿をペドロ・コスタの撮ったこのドキュメンタリ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:06 AM

February 8, 2004

『エレファント』ガス・ヴァン・サント

事件が起こったとき、それを事後的に語ることができるのは、そこにいなかった人々である。そこにいた人々は、そこにいたからこそ生き残ることができなかったのだから。学校の中に入らないで済んだ者、そしてそこから逃げだせた者たちによって、それらは語られる。『エレファント』で死んでいった者たちは、事件を語ることはできない。幾人かの生徒たちの名前が画面に登場する。同じ時間を過ごした彼らの行動を、個々の時間に分け隔...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:04 AM

February 6, 2004

『のんきな姉さん』七里 圭

テアトル新宿で現在レイトショー中の『のんきな姉さん』。不勉強で監督・脚本の七里圭氏について前知識がなかったのだが、撮影がたむらまさきさんと聞いて見に行く。七里圭監督は1967年生まれで『のんきな姉さん』が長編劇場映画監督デビュー作。篠崎誠監督『犬と歩けば』(03,4月公開予定)では脚本を担当しているのだそうだ。   オフィスで残業中の安寿子のもとに、弟の寿司夫が書いた1冊の本『のんきな姉さん』が届...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 3:00 AM

February 1, 2004

1st CUT 2003『海を探す』小嶋洋平

夏の田舎(どうやら茨城県らしい)で、日本ではあり得ないようなロメール的ヴァカンスをつくり出すには、35分は短すぎたのかもしれない。あるいは、少女の成長を記録するには35分は短すぎただろう。しかし、すべてのショットが何かの「象徴」でしかない1st Cutのフィクション作品のなか『海を探す』の忠実さはとても際立っている。では何に忠実なのか。ある男と少女がスクーターに乗るさまに、少女が自転車に乗るさまに...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 2:21 AM

January 31, 2004

「旅をする裸の眼」多和田葉子(「群像」2月号)

近年の多和田葉子の小説は「ざわめき」のなかにある。そこでは能動的な聴取は行われず、いくつもの音がそれぞれ等価なものとして差異なく耳にまとわりつく。たとえばあなたが駅のターミナルに立っているような気分がするとしたら、それはただ汽車での移動が頻繁に行われるためだけではないのだ。「翌朝になると四枚の壁すべてから物音が聞こえた」。その(この)耳はそこにあるすべての音に晒されている。 サイゴンで暮らしていた...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:52 PM

January 25, 2004

『サルタンバンク』ジャン=クロード・ビエット

ジャン=クロード・ビエットと『サルタンバンク』についていくつかのことを書こう。 「カイエ」の批評家だったビエットは、文章家でもあったし、何本かの素晴らしいフィルムを撮った映画作家でもあった。それに彼は、ロメールの『シュザンヌの遍歴』からよくちょい役でフィルムにも出演した俳優でもあった。昨年の夏から続いた「カイエ」の危機は、ビエットとジャニーヌ・バザンという「カイエ」の精神的支柱になった人々の相次ぐ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:49 PM

January 20, 2004

『ミスティック・リバー』クリント・イーストウッド

復讐のための帰還、それは『荒野のストレンジャー』の亡霊としての回帰や、『アイガー・サンクション』の殺人家業への復帰など枚挙に暇がない。『ミスティック・リバー』において、復讐のために帰還するのは、まず「ただのレイ」と呼ばれる男だ。冒頭の少年時代のくだりと現在の間に広がる数十年の空白の時間、この決してフィルムに収められはしない暗黒の時間の中で、ショーン・ペン扮するジェミーに殺されて、河に沈められた男で...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:46 PM

『マリーとジュリアンの物語』ジャック・リヴェット

時計職人であるジュリアンは巨大な柱時計の修理に取り掛かっている。時計の大きさは、構造の複雑さ、修理の難易度には関係しない。ただその古さだけをあらわす。常人には聞き取ることのできない2種類のリズムの間で、薄暗い空間を埋め尽くす針の音に包まれての作業は、彼の手が「肉屋の手」と形容されるにふさわしく肉感的である。そしてフレームの隅にうずくまるマリーにズームアップして、あるいはダウンして再びふたりを収める...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:41 PM

『ココロ、オドル。』黒沢清

そのタイトルとはうらはらに、踊っているのは人々のカラダだ。婚礼の儀式、太鼓と手拍子の中、輪になった3種類の人々はまぎれ入り混じり、「融合」する。融合とはいくつかのものがひとつになることだろうが、その力点はひとつになることにあるのか、いくつかのものがそれとは見分けがつかなくなることにあるのか。遊牧民のような格好の村の人々、ダウンベストを纏った街の人、レインコートを着た水辺の草原の人。次第にその外見か...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:27 PM

『マリーとジュリアンの物語』ジャック・リヴェット

緑がまぶしい公園の木陰、一人の男(イエジー・ラジヴィオヴィッチ)がベンチに寄りかかり上を向いてまどろんでいる。目を開けて視線を下げ正面を見遣ると、白いスーツを纏った女性(エマニュエル・ベアール)がふと通り過ぎる。「マリー」と呼びかければ、彼女は「ジュリアン」と答えて振り返る。かくて、二人は再開を果たすのだけれども、続くショットでにおいてブラッセリーで目覚めるジュリアンを見るに及んで、わたしたちはそ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:25 PM

January 18, 2004

ラグビー 大学選手権決勝 関東学院対早稲田

結果は33-7。これだけ見れば関東学院の圧勝。前半の0-0のゲームは忘れられる。確かに前半は0-0というラグビーには滅多にない展開だった。ハーフタイムに春口が言ったとおり、早稲田のディフェンスが良かったことと、スカウティングが完全だったことが原因だ。スクラムとラインアウトというセットプレイで優位に戦うにはこうしろというゲーム運び。前者にあっては伊藤雄大、後者にあっては両ロックの踏ん張り。そして高校...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:24 PM

January 17, 2004

『運命のつくりかた』アルノー&ジャン=マリー・ラリユー

「映像に映像を重ねる技術は何ていうの?」、マチュー・アマルリック扮する映画監督、ボリスが撮った企業PR映画を見た後で、マリリン(エレーヌ・フィリエール)はさりげなく質問する。「オーバー・ラップ=surimpression」と、ボリスは答える。マリリンが「オーバー・ラップ」に関心を持ったのも当然、二人の社員が恋に落ちるという筋書きを持つおよそ企業PRには似つかわしくないその映画では、ボリスとマリリン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:21 PM

『1980』ケラリーノ・サンドロヴィッチ

ジョン・レノンが殺された翌日(1980年12月8日)という日付から始まり、12月31日にビルの屋上から夕暮れの「トウキョウ」を見渡すという行為で終わる、という要素だけでも、この作品のつくり手のなかに「80年代」ではなく、「1980」、あるいはむしろ「~1980」という意識があったことは想像に難くない。無数に登場する「1980的」アイテム(YMO「ライディーン」、山口百恵『蒼い時』、蓮實重彦『シネマ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:19 PM

January 16, 2004

「1st Cut 2003」

今年も「1st Cut」の季節がやってきた。1月にはいって、すっかり寒くなった東京の冬のただ中で「1st Cut」が公開される。去年も確かそうだった。部屋を出るのが億劫になる季節に、渋谷駅を降りて白い息を吐きながらユーロスペースまでの坂道をのぼる。「1st Cut」はそんな記憶と結びついている。 「1st Cut」が冬の記憶をともなうのは、それが季節との関係抜きには見られないからだろう。画面には初...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:15 PM

『コール』ルイス・マンドーキ

父と母とその娘はまずそれぞれの場所で個室に監禁される。閉められた窓にはカーテンが掛けられその外を深い夜の闇が横たわり、二重のヴェールが個室空間を包み込む。その個室に偶然誰かが訪れても誘拐犯はしたり顔で追い返す準備ができている。その密閉されたかのような個室空間を打ち破ることになるのが、娘の咳である。彼女は喘息症なのである。 父と母が誘拐犯と携帯電話で交渉し、叫び声と怒声をどれだけ響かせて犯罪の完成と...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:13 PM

『ミスティック・リバー』クリント・イーストウッド

クリント・イーストウッドは旅をする。サン・フランシスコ市警でハリー・キャラハン刑事を演じたり、西部の開拓地で名もないプリーチャーを演じたり、スペインの地で早撃ちのガンマンを演じたり、アフリカで像撃ちを躊躇する映画監督を演じたりするために旅をする。だが、彼自身の聖なる身体をフィルムの表層に晒すことを選ばないとき、彼は、それほど大きくない場所に留まることを常にしている。ニューヨークの小さなジャズクラブ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:11 PM

January 15, 2004

『LIFE GOES ON』高橋恭司

もし明日写真集を作れと言われたら何を考えるだろう。いや、写真を撮れというのではなく、写真集を編集してくれと言われたらの話。はい、と答えて、じゃあどんなものにしたいか尋ねられたら。ぼくはきっと「小津のように作りたいです」と答えるだろう。 『晩秋』の、壺のシーンはシンポジウムでも話題になっていたが、あの京都旅行中の清水寺のシーンの直前、なに山かの稜線が斜めに画面を横切るショットが挿入される。たしかその...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:10 PM

January 13, 2004

『ブルース・オールマイティ』トム・シャドヤック

「群像」12月号での保坂和志×阿部和重の対談の中で、保坂氏は、『シンセミア』は個の視点から世界を描くのではなく、出来事を並べ立てていくことで世界を捉えている、という発言をしている。だが、『シンセミア』の場合、神町という一つの町の仕組みやそこで起こる出来事を書くことに専念しているため、神の視点のような超圧的な存在が登場することはない、と。更に、保坂氏は自身が先日行った創作学校での石川忠司とのトークシ...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:08 PM

January 11, 2004

ラグビー 大学選手権準決勝 早稲田対同志社 関東学院対法政

勝敗の行方が決定してから気を抜き法政に反撃を許した関東学院はまだしも、早稲田は法政戦に続いて薄氷の勝利を拾った。38-33。しかも前半は31-14というゲームである。それに一時は31-33と逆転を許した瞬間もあった。トライ数は共に5、ひとつのコンヴァージョンとPGの差で本当にかろうじて早稲田が逃げ切り、17日の決勝戦に臨むことになった。 前半に一時31-7と決定的に差が開いた時期があったがその直後...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:06 PM

January 9, 2004

『パリ・ルーヴル美術館の秘密』ニコラ・フィリベール

青い服を着た男たちの集団が絵画や彫刻を運び込んでいく。遠目には制服のように見える青い作業着も、近づいて見ればそれらが様々なヴァリエーションをとっていることがわかる。三つ釦ジャケット風、ワーキングジャケット型、ガウンめいたベルト付きの服、オーヴァオール、デニムシャツ。丈も様々。彼らが巨大な絵を運ぶ。画布の巨大さに木枠が軋む、黒板を爪で引っ掻くような音。磨き上げられた床にゴムの靴底が音を立てる。1歩ご...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:03 PM

January 7, 2004

『ファインディング・ニモ』アンドリュー・スタントン

息子ニモを探し助け出す父親マーリン。物語はたったそれだけだ。そしてここには語りの効率性と、それを異化する距離とが見事に存在している。ガス・ヴァン・サントの『ファインディング・フォレスター』(邦題『小説家を見つけたら』)と同様、1本のフィルムは現在分詞のなかで特異な何かへと変容してゆく。 ピクサー・スタジオの魅力はそのアニメーションテクノロジーにあるのではない(でも確かにものすごい)。その魅力は、何...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:01 PM

January 6, 2004

『男性誌探訪』斉藤美奈子著(朝日新聞社)

「十人十色」というように、人にはそれぞれ個性があって、ひとりひとり別々の顔があり、別の声を持っていて、ひとりとして同じ人はいない。雑誌もまた、それと同じように、大まかなグループ分けはできても、それぞれが別の個性を持っている。本書には、それぞれの男性誌の備えるそういった「たたずまい」が記されている。たとえば、「文藝春秋」は「保守でオトナな日本のセレブ」であり、「サライ」は「家庭で、病院で愛される高齢...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:00 PM

「息子のまなざし」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

「距離を感じる」「距離を置く」「距離を縮める」人と人との間にある距離を操作することは、いつもふたりの人間間でしか起こらない。一対一で向かいあった時、ふたりの間には直線が引かれ距離を測ることが出来る。それは決して概念としての距離ではなく、数値としての距離である。 一枚の紙を一心に見つめながら、「オリヴィエ!」という声に顔を向け走り出す。オリヴィエが少年の存在を知るのは紙に書かれた名前からである。少年...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:58 PM

January 4, 2004

ラグビー 大学選手権2回戦

関東学院対同志社、早稲田対法政を最後にラグビー大学選手権2回戦が終了した。同志社が明治、帝京を連覇したほか番狂わせはない。だがその同志社も関東学院に完敗。12トライの猛攻を受けた。対する早稲田は、法政に19-12の辛勝。曽我部を欠いた早明戦から早稲田はゲームプランにもたつきが出て、昨年のようなアルティメイト・クラッシュを一向に見せられない。 準決勝は関東学院対法政、早稲田対同志社とマッチアップにな...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:56 PM

『阿修羅のごとく』森田芳光

4姉妹のうち3人は、過去の森田作品で主演を飾った女優たちである。それを、スタジオ全盛時代を経験したヴェテラン俳優たちが支えるという編成である(本作は仲代達也と八千草薫が、『模倣犯』(02)では山崎努)。いわばここ10年の「森田組」の華がそろったというわけだ。物語の舞台は昭和54-55年。時代考証は微細なところにまで施されていて、電話ボックスには黄色い電話器、食卓の牛乳パックは森永の懐かしいデザイン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:45 PM

January 3, 2004

『A Talking Picture』マノエル・デ・オリヴェイラ

船出を飾るエンリケ航海王子の像やアクロポリスの神殿やピラミッド、イスタンブールの港で船を迎えるホテルの直線的な矩体と色彩。移動と時間が積み重なれば積み重なるほど、被写体は単純な幾何学的図形に還元されていく。それはオリヴェイラ自身の歩みにも重なるなどとも言えそうだが、だとすれば彼自身が「長生きする事がそれほどめでたい事だとは思わない」とつぶやいていたような意味でのある種の憂鬱が、目に映るものの持つ途...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:01 PM

天皇杯決勝 ジュビロ磐田VSセレッソ大阪

サイドの出来がチームの攻撃力を左右する。セレッソ大阪は明らかにそんなチームだ。3-5-2の右サイド酒本がジュビロ(こちらも3-5-2だ)左サイド服部に詰め寄る。センターラインを越えた辺りで奪ったボールを中央前線のバロンへ。ワンタッチで落としたところに走りこむ森島はシュート!ではなく逆サイド大久保へダイレクトパス。シュートこそ打てなかったものの、開始早々のこのシーンが、セレッソ唯一最大の攻撃パターン...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 10:22 AM

October 31, 2003

《再録》A letter made up of three woods with no names
衣笠真二郎

(2003年10月31日発行「nobody issue10」所収、p.28-31)  海が始まりだった。カメラが陸の上空を駆け、その果てを突き抜けたときそれはフィルムの名を告げた。文字のほかは海の青さだけのフィルムは、ふっと途切れ、また別の陸の上を斜めに飛び越していく。陸と海は交互に画面を満たし、入り組んだ半島群の上空をカメラが駆け抜けていることを知らせる。  海はまたしばらくしてから現れた。冷た...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 6:52 PM

《再録》ON THE LAKE
松井宏

(2003年10月31日発行「nobody issue10」所収、p.33-38) ということで  80年代中期から90年代にかけ、ハリウッドではサム・ライミ、コーエン兄弟、ティム・バートンらが「80年代世代」とも言うべき世代としてすでにその地位を確立しつつあったとしよう (少し後から考えれば、かもしれないが)。彼らはハリウッドの上の世代よりも、 少しばかりクールに、少しばかりフェティッシュに、少...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:24 PM

《再録》Back To The Future Studio
黒岩幹子

(2003年10月31日発行「nobody issue10」所収、p.33-38)  青山真治のフィルモグラフィーはここ2年でいままでの倍以上に膨れあがった。しかしここで重視すべきはその「量」ではない。あるいはその「多様さ」ですらないだろう。つまり、沖縄音楽、自動車会社タイアップのウェブシネマ、大学のPRビデオ、文芸もの、探偵ドラマのTVシリーズ、といった具合にいくらヴァラエティに富んだ企画(題材...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 1:18 PM

June 30, 2003

《再録》さまよう時間たち

『秋聲旅日記』青山真治

黒岩幹子

(2003年6月30日発行「nobody issue8」所収、p.56)  「そこの庭の向うに、その遠く下に犀川が流れるのを見ていると少なくともこの町にいる人間が時間をたたせるのではなくてたつものであることを知っていてその時間が二つの川とともに前からこの町に流れているという気がした」(吉田健一 『金沢』)  金沢シネモンド映画講座ワークショップの一貫として撮られた本作は、そういった制作背景を別にし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:38 PM

《再録》犬が吠える

『月の砂漠』青山真治

結城秀勇

(2003年6月30日発行「nobody issue8」所収、p.50-52)  ティエリー・ジュスは「青山真治と以後の映画」(「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」XV 所収)と題する文章を次のように始める。「まずニーチェの言葉。『砂漠が大きくなる』」。  その砂漠の中で『EUREKA』(01)の3人の人物は「内部と外部の区別をすることなどない。内部が外部を覆いつくしているか、外部が内部を覆いつくし...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 9:25 PM

《再録》上原知子の顔

『あじまぁのウタ 上原知子ー天上の歌声』青山真治

志賀謙太

(2003年6月30日発行「nobody issue8」所収、p.53) ※WEB掲載及び著者の意向にあたり、タイトル含め初出より加筆修正したものとなります 「動かぬこと。/自ら任意の定点となって周囲を回転、または交錯させること......」(青山真治「交響」)  去年、新聞を読んでいてだか、テレビを見ていてだか、とにかく唐突に沖縄が「本土復帰」してから30年が経ったということに気付いて、意外に感...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 8:08 PM

August 23, 2001

《再録》2000年11月25日/2001年6月24日
澤田陽子

(2001年8月23日発行「nobody issue1」所収、p.24-29)  2000年11月末、パルテノン多摩で行われた多摩映画祭の先行上映会に足を運び、そこで『EUREKA』を見た。今が2001年の6月下旬だから、もう半年以上前のことになる。その日から半年以上経っているが、未だにその日のことは鮮明に覚えている。それはその日が私にとって、ちょっとした旅行のようなものだったからかもしれない。...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 11:01 PM

《再録》「忘れている」ことを忘れない_『月の砂漠』について
志賀謙太

(2001年8月23日発行「nobody issue1」所収、p.4-9) ※WEB掲載及び著者の意向にあたり、タイトル含め初出より加筆修正したものとなります  紀伊国屋書店から、新宿駅に向かってたらたら歩く。バカみたいに暑い。暑いうえに人通りが多くて、非常にうっとうしい。ようやくJR新宿駅の南口に辿り着くと、選挙カーの上で大声を張り上げるおじさん、おばさんに出くわして、興味はないが気が滅入る。小...全文を読む ≫

投稿者 nobodymag : 7:50 PM

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