ミリタリー・マニアから大島渚、そして「バビロン」シリーズへ

――前回水江さんとお会いしたのは、去年の8月に行われた福岡での映画祭のことでした。あれから現在に至るまでの制作状況について振り返っていただければと思います。

水江夏にお会いした時は『WONDER』のプロジェクトを開始して半年なるかならないかぐらいでしたよね。あの頃はどう思ってたのかなあ……毎日発表するんで、アニメーションを描く締め切りに追われている感じと言うか、かなり精神的に張り詰めた状態がずっとあった気はしますね。1年間終わってみて気づいたんですけど、やってる時はそういう状態を自分で作っちゃったので、やるしかないって感じでした。今は気持ち的に解放感がありますが、「大変なチャレンジをやってきたんだなあ」というのはありますね。

その前に結構ヤバい時期もあって、秋から冬にかけての11月はかなりヤバかった気がしますね。もう残りのストックが2週間切ってる状態だったり(笑)。だから12、1月は講師を勤めている大学が休みだったりで、かなり『WONDER』に集中して作業できる時間があったので、そこで一気に最後まで描き上げましたね。12月中は結構色塗りのためのスタッフを入れて作業をしていたんですけど、最後の1月は毎日「にしすがも創造舎」(※1)に通ってひとりで絵具を使って直接絵を描く描き方をしていました。スタッフを入れて色を塗るときは、線画をまず自分でアニメイトして「この中を塗ってください」みたいな感じなので、スタッフワークでやりやすかったんです。だけど最後の展開は、自分じゃないと絵を作ることはできない。だからその最後の1ヶ月半くらいはひとりで直接絵を描いて作るっていう感じになっていましたね。

――『WONDER』のなかで特に興味深いのが、1秒間に24枚の絵を描いているということです。「1秒間に24枚」と聞くと、映画のフィルムを思い出します。最終的に365秒のアニメーション作品ということですが、映画のフィルムを最初から意識していたのですか。

水江作品を作る時にフレームレートを1秒間何フレームで作るかっていうことは、いつも悩んでいます。アニメーションをつくり始めた当初は30フレーム(29.97)で日本の放送する規格に合わせて作っていました。だけど自分の作品が国内よりもヨーロッパの映画祭で流れることが多くなってくると、ヨーロッパは1秒間が25フレームなんですよね。たとえば海外のビデオのフォーマットに合わせて素材を作って上映してもらうと、30フレームで作っていたものが25フレームで上映される。つまり1秒間5枚分(5フレーム)なくなるんです。自分の作った作品の動きが意図してない動きに変わってしまうんですよ。なのでヨーロッパの規格に合わせて作っていくようになったんです。ちなみにフィルムで上映する場合は24フレームで、今回はフィルムで上映されたいなと。フィルムにできるかわからないけど、いつかフィルムにしたいという思いもあって、24フレームで作るようになったというのはありますね。あとはフルフレームで1フレーム1フレーム絵を描いていくっていうやり方で考えると、30フレーム描くのと24フレーム描くのだと1秒間に6枚差があるので全部描いていくのは大変だというのもあって(笑)。今あまりフィルムの時代じゃなくなってきているんですけど、DCPの上映も全部のフレームレートに対応していると聞いたので、24フレームがちょうどいいのかなと思って作りましたね。

――『WONDER』のプロジェクト期間は1日1秒間の作品を発表し続けると同時に、発表したその日の誕生日の方のお名前を、アニメーションの最後にクレジットするというサービスも画期的でした。さらに1口1000円、3口3000円を製作費として支援すれば、特別に自由なメッセージをクレジットしてもらえるというのもユニークです。

水江「毎日ウェブで発表したものをつなげると、1本の作品になる」というのは、最初の構想段階ではあったんですけど、誕生日にお名前をクレジットするというのは後から考えつきました。まず1秒間に24枚絵を描いて365秒全部違う絵を描き連ねるっていうのは、大変な作業だとわかっていました。だから自分がそれをクリアしていくには自分に厳しく締め切りを作っていかないと達成できないんじゃないかと思い、毎日ウェブ上にアップすることを思いついたんです。1秒ずつ毎日アップしていくということは、制作途中のものを見せていくことになります。公に自分がやっている作業を見せていくことは、逃げられない状況に自らを追い込むことにもなるんですね。自分がそのプロジェクトを達成するために厳しい毎日の締め切りをつくる。それがもともとの発想ですね。

あとは抽象アニメーションって、今までの色々な実験映画や実験アニメーションと同じようなイメージをもたれるかと思います。「よくわかんないもの」みたいに敬遠されたりとか、「好きな人は好きだけど、よくわかんないな」という印象で終わったりする人もいるんですが、僕が作っているのはいわゆる実験アニメーションや実験映画、抽象映画とはまた違う方向を向いていると思うんですよね。音楽的なアニメーションというものが、ひとつのシンプルな表現として見る人に伝わると思うので。それに「敷居が高いものではなくて、楽しめるものを提供したい」というのがあって、そういう中で見せ方も色々考えていかないといけないなと思ってます。それがウェブ上でみんなが参加できるプロジェクトとして、ひとつあるのかなっていう。それが誕生日のプロジェクトにつながっていった感じですね。ただ制作の資金も必要だったので、支持してくださる方もいればなという感じで、あとは0口無料で誕生日のクレジットから始めて、お気持ちでいただく。そういう感じでやってましたね。

――音楽の話に少し触れましたが、今回の『WONDER』は「パスカルズ」が音楽を手がけています。過去の作品においても水江さんの作品にはアニメーションの運動と、それに呼応する音楽の存在が際立っていますよね。たとえば『AND AND』(11)は、「Psysalia Psysalis Psyche」のギタリストである松本亨さんの楽曲とともに、水江さんの描いた細胞がメタモルフォーゼしていくような作品でした。今回「パスカルズ」に楽曲を依頼したのは、どのような経緯だったのでしょうか。

水江夏ぐらいから、音楽をどうしようかっていうのを具体的に考えるようになってきました。全部手描きで色も筆で塗ったりペンで描いたりしていて、生で作るような制作体制だったんで、音楽も生の楽器で演奏しているものがいいかなと。そこでいくつか候補が挙がってくるなかで、「パスカルズ」のライブの音源を聴いて、気取った感じじゃなく、一番自分の作品の生命感みたいなものが合致したんです。それもすごく楽しさの溢れる音楽で。これは自分の作品とコラボレーションすると面白いだろうなと思ったんですね。依頼は黒坂圭太さんというアニメーション作家の方がいるんですけども、その方の『緑子/MIDORI-KO』(10)という作品の音楽が「パスカルズ」のメンバーでもある坂本(弘通)さんで、チェロで曲を作っていたのもあったので、『緑子』のプロデューサーの方に紹介してもらって、それで音楽の制作を依頼しました。あとは『たまの映画』(10、今泉力哉)のなかでも「パスカルズ」が出演していて、そこで音楽を聴いたりとか、「パスカルズ」のメンバーで「たま」の元メンバーだった石川(浩司)さんとか知久(寿焼)さんの映画の中でのインタヴューとか見てても、やっぱり素敵だなと思ってたんで。今回一緒に作品を作れて本当に幸せな経験でした。

※1 にしすがも創造舎 2001年に閉校した豊島区立朝日中学校の校舎や体育館をそのまま残し、04年8月にオープンしたアートファクトリー。豊島区文化芸術創造支援事業の一環として2つのNPOが共同で管理運営しながら、子ども向けワークショップや読み聞かせ、地域の方々とアーティストによるプロジェクトを行っている。

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