ニッポンコネクション2011 滞在レポート[ヤング・ポール]

今年第11回目を迎えたニッポン・コネクション。ドイツ、フランクフルトで開催されるこのヨーロッパ最大級の日本映画の祭典。今年は「nobody presents 三宅唱 special」として三宅唱監督の紹介もさせていただきました。そんなフェスティヴァルを、東京芸大大学院映像研究科第4期生であり、自身の修了作品『真夜中の羊』(10)も上映されたヤング・ポールさんにレポートいただきます。ヨーロッパの地で、この期待の若手作家は何を感じたのでしょう?

 

ヤング・ポール
1985年4月生まれ。アメリカ人の父と日本人の母を持つ。2008年日本大学芸術学部映画学科映像コース卒業。2010年東京芸術大学大学院映像研究科監督領域修了。去年は助監督だったり編集部だったり俳優部だったりしました。

 

4月24日(日)

08:30東京(羽田)発 北京経由 18:10フランクフルト着の予定だったが、余震の影響で08:30発が飛んでいないと、空港のカウンターにて知らされる。14:30発に変更。本来乗り継ぐはずの便には間に合わないので、北京に1泊し翌日のフライトに切り替え。同行していた東京芸大同期の大橋礼子監督が、機内サービスでブラッディメアリーを頼んでいるのを見てやはりさすがだなと思う。北京。人気のない郊外に立つホテル。ホテルで夕食を食べ、やることもないので部屋に戻り、点けていたテレビを眺める。ダンス甲子園的な番組。気付くと眠っていた。

 

4月25日(月)

 03:30に一度、目が覚める。眠る前とまったく同じ番組の同じ場面がテレビに映っている怪奇。08:30起床。散歩。14:00北京発。ひたすらビールとワインを飲みつつ持って来た『ファウスト』の文庫を読破。フランクフルトはゲーテ生誕の地である。しかも自分の映画の冒頭に『ファウスト』からの引用文があるので、少し恐れおののき、再読。飛行機は夜から逃げるように飛び続けているので、窓の外は暗くならならずに明るいままだった。

18:10着。フランクフルト上空。コロニーのように固まり点在する街と森と畑。空港で、ニッポンコネクションのスタッフが看板を持って出迎えてくれた。日本からの留学生とドイツ人で日本語を勉強されている方。ニッポンコネクションはスタッフの方々のほとんどがボランティアで参加されていた。電車でステイ先まで案内していただく。途中何度もニッポンコネクションのポスターや看板を見る。中心部から電車で10分程のザクセンハウゼンという地区。緑の多い住宅街。ちなみにここまで、凄い、ヤバい、うわっ、の3つをひたすら繰り返すという全面感動状態。自身初めてのヨーロッパ、こんなにも街の建物が古く歴史が縦軸で繋がっているとは思わなくて、路駐の多いディズニーランドみたい……などと思う。ホームステイ先のマーカスという男性の家に到着。彼はフランクフルトの銀行に勤めていて、日本語を勉強中だという。14階のマンションの一室をお借りする。

フランクフルト市街を一望できる部屋。スタッフの方と別れる。マーカスに、夕食がてら市内を案内してもらう。市街地を歩きながら、雑談。ソーセージ&ザワークラウト&ジャガイモ&アップルワインという典型的ドイツ食をご馳走になる。帰り道、猫が寝ていた。猫はドイツ語で「カツ」なので、ドイツでカツ丼頼むと猫丼が出てくるよと言っていた。

4月26日(火)

 08:00起床。日本で、鳥の鳴き声の効果音をCDで探している時に、日本じゃ絶対使えないと言っていた鳴き声がそのまま聴こえる。ニッポンコネクションは明日27日から開催なので、観光。大橋さんとゲーテ像前で待ち合わせる。

映画館に行こうということになりマーク・ロマネク監督『わたしを離さないで』(10)観る。ドイツの映画館は、エンドロールが始まると場内が明るくなり客は帰って行く。ちなみに『わたしを離さないで』もそうだったがドイツ国内で上映される映画の8割はドイツ語吹き替えらしい。ニッポンコネクションの会場まで下見を兼ねて散歩。

 

ニッポンコネクションは、ゲーテ大学の構内で行われる。もともとは学生が企画した小さな映画上映イベントから始まり、今日ではスポンサーなどの協力もありつつ規模が大きくなってきたそうだ。構内に、イメージカラーのピンク色の幕が大きく吊るされていた。夜。ケンカする人たちを街で見る。帰りたい方向と逆の電車に乗ってしまい、慌てて降りると外では雨。マイン河沿いを歩いて帰る。

4月27日(水)

 08:30起床。マンションのエレベーターが異音とともに急に止まり死ぬかと思いふと見ると、懐かしのシンドラー社製であった。美術館にアラーキーの写真の展示が。18:00に会場へ。

 

ゲスト歓迎会、ニッポンコネクションのスタッフとゲストが集う。『我武者羅應援團』という日本からのパフォーマンス集団が3・3・7拍子を披露。スタッフ挨拶では、やはり震災の話題が出る。19:30「ニッポンシネマ」の会場でオープニングセレモニー。約500人ほど入るホール、満員。ついにニッポンコネクション、開会。開会式と上映が直結らしく、気付くとセレモニーは終了し矢崎仁司監督『スイートリトルライズ』(10)が始まっていた。本編が始まる前に、フィルムに焼かれた映画祭の予告編が流れ、妙に感動。「ニッポンビジョンズ」の会場では平波亘監督『青すぎたギルティー』(10)。定員120名程のところを、ほぼ満員。アフタートークも質問がたくさん出て盛り上がっている。正直、極東日本のインディーズ映画にどれだけの観客が来るのだろうかと思っていたのだけれど、驚く。人数もさることながら、観客の層も、友達連れやカップル、学生らしき若者から老人まで幅広い。雰囲気としてもふらっとやって来たような気楽さがあって、あまり日本の劇場では感じられない雰囲気だなと思う。時刻はすでに22時を過ぎていたが、会場は多くの人で溢れている。ビールや、会場で売り出されている日本酒を飲む人々など、多数。地下鉄。乗り方を平波監督と俳優の土屋壮さんに教わり、なんとか帰る。

4月28日(木)

 8:50起床。植物園に行く。 
思わず擬似科学のマイナスイオンを全面的に信じるぐらい酸素が濃い庭園。ベンチで1時間静止。

14:30石井隆監督『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』(10)。竹中直人の顔がウケていた。17:00実行委員会との交流会。ボランティアスタッフの方たちと話すと、必ずしもドイツ人であるわけではなかった。イングランドやオランダ、ルーマニアなどからの留学生であったり、ニッポンコネクションを目的にドイツへ来た方もいた。目的も様々で、日本語や文化を学んでいる方や、映画祭自体に興味があって参加した方もなども。懸念していた通り、僕は自分の顔と名前から、まったく日本からのゲストとは思われていないことが判明したので、自分の映画も上映すると自己紹介を何度もする。19:45石橋義正監督『ミロクローゼ』(11)観る。映画祭側からドリンクチケットを蛇腹折で頂いていたので、ビールをのみ続ける。CALFのナガタタケシさんと、現在のお互いを取り巻く環境や状況についていろいろお話する。普段はあまり知り合えない方と話ができて楽しい。24:30帰宅。地下鉄も難なく乗る。自動販売機にお金を入れたが操作法がわからず何も出てこなかった。

4月29日(金)

 9:20起床。植物園。2日連続。昨日は時間がなかったのでゆったりと廻る。

温室でコケやシダなど。ベンチに座っていると、中東系の女性に写真を撮ってと頼まれる。ひとりで旅行をしているというイラン女性のサシャ、お互い写真を撮り合いましょうということになり園内をふたりで廻る。動物園も一緒に行こうかという雰囲気になったが、僕がニッポンコネクションの会場に行かなければならない時間になってしまったので、その場で別れた。別れたが、軽妙なギャグなど織り交ぜられる程の英語力がなかったことと最後に1枚写真を撮らせてもらわなかったことが本当に悔やまれて仕方がない。14:00写真撮影の後にお茶会。上映会場のひとつである10分ほど歩いたところにある映画館。併設されたカフェでお茶会となるが、多くの人がビールを注文し始めていた。昨日の交流会はボランティアスタッフも参加のものであったが、今回は映画祭のメインスタッフとゲスト。ドイツで人気がある監督は誰かと訊ねる。多くの才能ある監督はアメリカに渡ってしまい、国内で人気があるのはトーマス・ヤーン(『ノッキン・オン・へブンズ・ドア』など)とかかな、との答え。16:00会場の大学へと戻り白石晃士監督『シロメ』(10)観る。恐怖体験に直面するももいろクローバーのリアクションでも笑いが起きていたが、劇中に登場する霊能力者の胡散臭さという日本でも微妙なニュアンスでも観客は笑っていて、そこまで伝わるのかと驚いた。

続いて「nobody presents 三宅唱special」。nobody松井氏と三宅監督のビデオレターが冒頭に上映される。最後に両氏が照れながらドイツ語で挨拶したところで笑いが起きた。22:15本日最後のプログラム、栗本慎助監督『cage』(10)、大橋礼子監督『海への扉』(10)。上映後、Q&Aを終えると24:30を過ぎていた。大橋さんは自分の上映が終わり、安心したら疲れたと言って帰って行った。会場地下ではカラオケ大会が、1階ホールではベルリンから来たバンドがライブ。

金曜ということもあり人はまだまだ残っていた。スタッフとゲスト何人かで街の中心部のクラブに行く。おそらくドイツ人的には懐メロであろう曲が主で、音も単に大きいだけという感じだったが、それでも楽しかった。夜明けとともに帰宅。

4月30日(土)

 10:00起床。加藤直輝監督『アブラクサスの祭』(10)。上映前の挨拶にて、この映画は福島で撮影された映画であり、内容はフィクションであるけれども撮影したその瞬間の福島が映っています、と加藤監督。震災後のロケ地周辺を記録した短編を上映後に併映した。今回、震災以前に全体的なプログラムは決定していたようだが、後から追加されたプログラムとして、原発を取り扱った作品『ミツバチの羽音と地球の回転』の鎌仲ひとみ監督の作品も急遽上映されていた。佐藤信介監督『GANTZ』(11)満員で、会場までの階段が混雑で完全に通れなくなっており、立ち見も出ていた。「Hogaholic presents」にて吉田浩太監督『墨田区向島三丁目』(10)、今泉力哉監督『TUESDAY GIRL』(11)、坂井田俊監督『悪魔が来た』(11)。ドイツの観客も日本の観客も基本的には感性のツボは違わないと、ここにきて確信。笑い声などの実際に声に出すリアクションは日本よりはっきりしていると思うが、そのポイントに関しては大きく変わらなかった。昨日の例を挙げるなら、『シロメ』の胡散臭い霊能力者などの日本的だと思われる笑いであっても、反応はあった。上映後に映画祭で知り合った人たちに感想などを聞いても、それは日本で聞くものとまったく違うとは思えなかった。

30分押しで22:30分から拙作『真夜中の羊』(10)、長谷部大輔監督『浮雲』(10)。こんな遅い時間からの上映にも関わらず満員の観客に驚く。舞台挨拶で、しっかりと現地スタッフではないと自己紹介をしてややウケに終わり、すぐに別会場で行われる東京芸大についてのトークイベントへと向かう。ニッポンビジョンズの審査員のひとりのトム・メスと、大橋さんと加藤直輝監督と僕で、東京芸大でのカリキュラムから始まり卒業後の自身の状況などを話す。会場がとにかく暑かった。トークが終わり、上映会場に戻ると、自作の上映は終わっており『浮雲』の上映中だった。スクリーン上で繰り広げられる痴態に「Oh my god……」と会場から声が出て笑った。上映後、Q&A。24:30を過ぎていたこともあり、さすがに帰られた方も多かった。先ほどトークで喋ったような芸大についての質問なども出ていた。ある人に、ドイツ人からするとあなたたちの2作品はどんな意味があるのかよくわからないんですが……と言われ、日本でもしばしば出会う反応に、やはり海外も日本もそんなに反応は変わらないなと再び確信。25:00過ぎにすべて終わる。地下のカラオケはまだ盛り上がっていた。加藤さんが歌う。続いてステージに上がる大橋さんを見てやはりさすがだなと思う。

5月1日(日)

12:00起床。ニッポンコネクション最終日。街は日曜日で、ほとんどの店が休みであった。サンドイッチを買い電車の中で食べつつ、こういう時は本当に月並みに「あっという間だったな」と思うものだなあと、思う。スタッフの方たちは皆良い方ばかりで、何よりも映画祭を楽しんでいるように見えた。

映画祭自体も、かなり幅のある客層で大勢の観客が来ていたし、あまり構えて映画に臨むというより何か新しいものに興味があって単純に楽しみに来ている雰囲気があった。良い意味で学園祭のような、観客とスタッフとゲストの距離の近い、とても良い映画祭だと思う。中川究矢監督『進化』(10)観る。Q&Aでは日本の若手監督たちの状況などの質問が出ていた。レセプションパーティー。主に協賛企業の方たちなどが集まっていた。ヨーロピアン・フォーマル。会場を移動、授賞式へ。

ニッポンシネマは観客投票により3位まで発表され、ニッポンビジョンズは批評家ら3人の審査員による選考で大賞のみ。授賞式に続いて原恵一監督『カラフル』(10)の上映があることもあり、会場は満員。井口昇監督の姿を見て客席から「ザボーガー!!」との歓声が。関係者挨拶の後、賞の発表となった。ニッポンシネマは3位/富永まい監督『食堂かたつむり』(10)、2位/塚本連平監督『かずら』(09)、1位/米林宏昌監督『借りぐらしのアリエッティ』(10)。続いてニッポンビジョンズの発表。審査員のトム・メスが、大賞の発表の前にとても強く印象に残った作品を1作品をここで挙げさせてほしいと、大橋礼子監督『海への扉』。とても驚いたが、隣に座っていた大橋さんの方が驚いて、なぜか笑っていた。シンプルな構成の強さを高く評価。続いて柴田剛監督『堀川中立売』(10)が大賞として発表された。そして、すべてのプログラムが終了した。皆、口を揃えてあっという間だったと呟いている。近くの店で打ち上げ。ビールをひたすらに飲む。05:00になり、気付くと6人だけになっていた。歩く。そしてみんな散り散りの方向へ帰って行った。 

5月2日(月)

 11:00起床。日本からのゲストの多くはこの日に帰国するようだった。昼食を映画祭のスタッフと、時間のあるゲストで食べる。爽やかな天気で、テラスが気持ち良い。ベルリンの大学院の博士課程で、阿部和重について論文を書いているという方がいて驚く。多国籍な面子で中原昌也のコラムの話などをする。その後、ペドロ・コスタは日本で異様に人気があるなど映画の話を色々と。その後カフェでコーヒーを飲み談笑。アイスを食べたり。

そして時間が来て、別れる。流れの中でしっかり挨拶ができなかった人もいた。本当にいい人たちばかりだった。夜は、ステイ先のマーカスに夕食に連れて行ってもらった。家に帰ると、そんなに遅い時間ではなかったけれどもすぐに眠ってしまった。

5月3日(火)

 08:00起床。少し市内を散歩して、マーカスに空港まで車で送ってもらった。地下道を抜けて郊外へ。フランクフルトは市内から空港まで車で15分ほどで着く。空港でコーヒーを飲むと、すぐに時間が来て、出国手続き。マーカスには大変お世話になったし、親切にしてもらった。

一緒に写真を撮り、握手して別れる。飛行機は1時間遅れて飛び立った。機内では『インセプション』(10)、『(500)日のサマー』(09)、『ソルト』(10)を繰り返し上映していた。夜に向かって飛行機は飛び、夜を抜けて北京に着いた。現地時間8:00。羽田行きの乗り継ぎ便はバンコクからの日本人でいっぱいだった。