コンペ作品、アラン・レネ『Vous n'avez pas encore rien vu』からスタート。劇作家の訃報を知らせる電話が鳴る。彼の死を弔うため、南仏の邸宅に集めらた俳優たち--サビーヌ・アゼマ、アンヌ・コンシニ、ミシェル・ピコリ、マチュー・アマルリックは、それぞれに彼ら自身を演じている。広間のソファーに腰掛けた彼らの目の前には巨大なスクリーン。かつて上演した舞台のリハーサル映像を見つめる側にいた俳優たちは、台詞を呟きだし、現実でもう一度同じ舞台を演じはじめる。現実と虚構の間を行き来しているうちにその境界線が失われて行く。映画とは何かという自己言及に満ちた秀作。
次はダッシュしてプレス上映、Salle bunuelでベルナルド•ベルトルッチ『You and Me』。窓の外に広がる1968年5月革命の光景も、ヌーヴェルヴァーグの記憶も、もうベルトルッチには必要ない。閉ざされた部屋で過ごす数日間、『ドリーマーズ』に近い主題にありながら、タブーも三角関係もなしに、二人の若者のつかの間の時間がシンプルに描かれ、瑞々しい。
3本目はコンペ外上映でBenoit Delepine、Gustave Kervern『Le grand soir』の上映に行くものの、次のレオス・カラックスの上映が気になって集中出来ず、結局、途中退出してしまう。上映後に並んだ友人は一時間前にならび、結局入れなかったのでまぁ良かったのかな。
ついにコンペティション部門、レオス・カラックス『Holy motors』。プレス上映にも関わらず、タイトルともに大歓声と拍手ではじまるという、今までにない盛り上がり!11.5人を演じるドゥニ・ラヴァンを巡るひとつひとつのエピソードに散りばめられた映画史へのレフェランスを見ているだけで心が踊るが、一方でこの作品の素晴しさを表現する言葉を私は持ち合わせていない。この作品に意味や説明を求めることがいかに不毛なことか……すでに『メルド』で宣戦布告されていたものの、ものすごい巨大な挑戦状を叩きつけられた気分。
カラックスの後に他の映画を見る気にはなれず、イタリア人の批評家に教えてもらった、イタリアンでディナー。その後は、カナダのフェスティバル、ファンタジア(ファンタスティック+アジア映画)のパーティーへ行き、一年ぶりにプログラムをしているシモン君に再会した。会場には、パリのシネマテーク・フランセーズでのCinema bisの常連たちが大集合! 話題は、ダリオ・アルジェント『ドラキュラ』と、『貞子3D』。私の知らぬ間に貞子が3Dになっていたとは……ちょっと見てみたい。