カンヌから帰ってからの2週間ほど、パリのいくつかの上映施設で、「ある視点」、監督週間、批評家週間の諸作が、いくつかの上映施設で特別上映されていた。その中で、カンヌでは見ることのできなかった作品をいくつか見ることができた。
カンヌ滞在最終日。目覚めは9時半。連日の疲れからか、完全に寝坊。荷造りを済ませ、最後の上映へと向かう。毎朝お世話になったホテルのビュッフェへ向かうも終了時間ギリギリで、まともにパンもベーコンも残っていない有様。ま、今日はどうせ1本しか見る時間がないのだから軽くでいいかと思いつつ、ちょっと硬めで噛みごたえのある、お気に入りのクロワッサンを食べ納められなかったのは残念無念。
会期も終了に近づくと、上映数自体が激減する。マーケットの上映を加えればそれなりの数があるけれども、そちらにはプレスパスでは当然のことながらなかなか入れてもらえない。その反面、賞の発表が近づいていることもあって、プレスルーム近辺に集まる人々の数はどんどん増えているみたいだ。星取りが掲載されている「スクリーン」や「フィルム・フランセ」の日報は、昨日までだったら夕方近くでも余っていたのに、この日は朝10時過ぎには全滅である。
18日最後の一本は、園子温『恋の罪』。監督週間会場の熱気は非常に高い。現在、国際的な関心を最も寄せられている日本人映画監督の一人であることは間違いないし、その強烈なスタイルを国内の興行に関しても自身の武器としてポジティヴに活用できるという意味においては、非常に「巧い」作家なのだと正直に思う。
朝一はトリアー新作を、と考えていたけれど、予定を変更してジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ『Le Gamin au vélo』へ。正直な所まったく期待していなかったが、本当に素晴らしい! 個人的にはダルデンヌ兄弟の最高傑作ではないかとすら思う。方法論はこれまでと何も変わっていない、けれどもそこに投入された今作の主人公である父親に捨てられた少年と、そしてセシル・ド・フランス(『ヒアアフター』に負けず劣らず素晴らしい!)演じる少年の保護者を請け負う美容師との、いくつものアクション-リアクションが、『野生の少年』と『大人は判ってくれない』のちょうど中間に位置するかのごときトリュフォー的な映画の喜びを「ダルデンヌ・スタイル」から抽出することに成功している。
2日目、クロワッサン×2、スクランブルエッグ、ベーコン、ヨーグルト、それからコーヒー。ホテルのビュッフェ形式の朝食をたっぷりと食べてから、10時15分発のシャトルバスに乗り込む。東京の映画祭でも同じことだし、そもそも当然のことだけれども、ひとつの映画祭でなるべくたくさん映画を見ようとすると、適切な時間に適切な量の昼食や夕食を取る時間を捻出するのは至難の業だ。朝早い時間か、夜遅い時間にしかまともに食事を取れない。本日のスケジュールも例に漏れず、合間にのんびり食事を取っている余裕はない。
槻舘さんから遅れること3日、5月16日13時にカンヌ到着。移動のTGV車内では昨日寝つけなかった分を盛大に取り戻したものの、軽い頭痛に襲われながら、初夏の日差しを全身に浴びて会場を目指す。
スタジオ・マラパルテの宮岡秀行さん、西原多朱さん、そして大里俊晴さんのご協力のもと、nobody issue25にて「リュック・フェラーリを探して」と題した「リュック・フェラーリ映画祭・アンコール」についての小特集を組ませて頂いたのは2007年のことだったけれども、つい先日、その取材の際にほんの少しだけ挨拶させて頂いた、ブリュンヒルト・マイヤー・フェラーリさんに再会する機会があった。それは椎名亮輔さんに邦訳された『ほとんど何もない』の著者、ジャクリーヌ・コーさんによるフェラーリの楽曲「Symphony dechirée(引き裂かれた交響曲)」を題材とした劇映画、『Contes de Symphony Dechirée』の試写会でのこと。
04.12.2010 Montpellier, FRANCE "Le Jam"