2010 (4) オーサカ=モノレール Live Report 02

04.12.2010  Montpellier, FRANCE "Le Jam"  

 モンペリエの中心地から離れた住宅地の中心にひっそりとたたずむ、ライヴハウスというよりはまるでどこかの秘密結社の集会所のようなライヴハウス"Le Jam"。会場までの道のりがあまりに閑散としていたこともあってどことなく異様な雰囲気を受けてしまう。けれども、客入りが始まると会場内は超満員となり、その雰囲気も最初の印象とはまるで違うものとなった。人々の年齢層もどうも昨日より高めで、子供連れの家族の姿もチラホラと見かける。オーサカ=モノレールはここ数年の海外ツアーで毎回この場所を訪れていて、ここはいまや馴染みの場所のひとつなのだという。いかにもライヴハウス然とした佇まいだったマルセイユの会場と比べ、ステージの目の前に備え付けの座席までもあるこの会場は、どうも周囲に貼られたポスターを見ると比較的ジャズなどのコンサートが多く開かれる場所のようだった。エントランス近くに大きく貼られたMAGMAのポスターがひときわ目立つ。

 

 この日はステージを中心に観客のスペースが180度に広がった会場の造りもあいまって、昨日のライヴよりも視覚性を十分に味わうことができたように思う。もちろんフロントマンの中田氏の挙動には相変わらず強く目を奪われるも、それに加えてオーサカ=モノレールというバンド単位での視覚的な側面に強く魅せられる。太いリズムに乗せて交わされるメンバー間のコミカルなアクション−リアクションが会場を強く煽り立て、楽曲それ自体のグルーヴをさらに高めていくのが手に取るようにわかる。

 オーサカ=モノレールを見て強く感動したのは、客席の誰もが踊っているというただそれだけのことではない。誰もが、「誰かと」踊っているということだ。ひとりで音楽を占有するのではなく、「みんなの音楽」を実現していること、それが感動的なのだ。時折、中田氏がマイクを離れキーボードでノイジーなフレーズを紡ぎ、バンド全体がヘヴィなグルーヴへと没入する。そんな場面では、多人数構成のバンドでなければ生み出し得ない緊張感がまったく別種の空間を生成していて、客席のダンスにも新たな波を生み出していた。緩急のついた音の振動の中で、誰もが思い思いに身体を揺らせつつ、隣に並ぶ人々と笑い合い、肩を叩く。そんな光景を何度も目にした。ここに載せるための写真を小さなデジカメを高く掲げて撮影していると、隣に並んだガタイのいい兄チャンに「何やってんだ、写真なんか撮ってないでステージを楽しめよ!」と笑いながら怒られてしまった。まったくである。





 ライヴ本編が終了し、人々がアンコールを呼びかける最中、唐突にいい感じに酔っぱらったオッサンに声をかけられた。猛烈に酒臭いが、すごく気はいい人で、ご自身もバンドでベースを弾いているとのことだった。「あんた日本人か? 俺はこいつらが来るたびに見に来てる、もう5回目だ。最初はぎこちないところもあったけど、見るたびに凄くなってる、ドラムが俺のお気に入りなんだ!」。ニコニコしながらまくしたてるオッサンに拙いフランス語でしばらく会話を返していると、近くにいた数人の地元の若い観客も話しかけてくる。「日本人? じゃあ電話でもしてオーサカに早くステージに出てくるように言ってくれよ!」なんて、無茶な冗談を言う。

 フロントマンの中田氏はインタヴューの中でオーサカ=モノレールの活動についてこんな風に述べていたことがある。

「僕は、旅芸人がやりたいんです」 (http://bmr.jp/topix/detail/0000000074_01.html)

 マーケットの論理を超えて、ある種の方法が確立した世界に安住するのではなく、常に移動し続ける運動体として音楽を続けること。つねにすべての場所を同じものとして生きること。別記事にて掲載のインタヴューをさせていただいたギタリストの池田氏は、オーサカ=モノレールでの海外での活動についてこんな風に語ってくれている。

「日本での閉塞感は感じますけど、でも世界に出たところで、それが解き放たれるっていうものではないと僕は思っています。オーサカ=モノレールっていうバンドの音楽的ジャンルはどこの世界に行ってもアンダーグラウンドシーンなので、どこの国で演奏しても、アンダーグラウンドシーンで僕らは活動しているっていう気持ちはあまり変わらないかもしれません」

 たぶん、この感覚というのはどのようなことにおいても通じる姿勢のはずだ。ある種のドメスティックな空間に対する閉塞感も、まったくの外部の場所での非日常感も、あくまで無意識に構築されたフィクションでしかないのだ。問題はそれを打ち破ることではなく、ただそれに直面することであり、そしてそれを同じものとして受け止めることにあるのではないか。

 もちろんそれはおそらくとても困難なことなのだろう。しかし、この日のオーサカ=モノレールのライヴは、自身たちの出自とはまったく別の場所に生み出されたもうひとつの「HOME」をそこに生み出すことを体現し、力強い響きを持って揺れていた。

オーサカ=モノレール公式WEB