10/16 ヤマガタ15とオリンピア20に思いを馳せる

ジュリアン・ファロー『オリンピア52についての新しい視点』。クリス・マルケル特集がほとんど見れなかったからせめてと思い見にいくが、期待を上回る出来だった。マルケル自身の手によってフィルモグラフィから消された処女長編『オリンピア52』。ヘルシンキオリンピックの記録映画であるその作品の痕跡を追い、そこに新たな視点を提示する。
まず登場する『オリンピア52』の抜粋自体がめちゃめちゃおもしろい。なんといってもエミール・ザトペックの年だから。そして製作過程を巡る事実を再構成していく若き監督たちの手ぶりの中に、クリス・マルケルの息吹がしっかりと息づいていること。とりわけ感動したのは、1928年のアムステルダムオリンピックでフランスにマラソンでは初の金メダルをもたらしながら、52年現在は人々から忘れ去られルノーの工場でひっそりと働いていたブエラ・エル=ワフィのインタビューをカットしろと言われたのに対してかたくなに抵抗したというところ。正確な表現は忘れたが、「貧しさをカットしろ」というような意味のことを言われたことが、若きマルケルたちのその後の撮影方針を決定づけたという。運動の祭典の中で発見された貧しさをこそ、カットせずに残すこと。7年後の東京オリンピックに対して必要なのはシニカルな批判などではなく、2020年の東京の貧しさがカットされずに残された映像なのではないか、と思った。いまの中学生や高校生のなかから、そんな映像を撮る若者たちが出てきてほしい。
『オリンピア52についての新しい視点』は11月にメゾンエルメスでの上映が予定されているそうだ。

そして閉会式。例年より比較的、見た作品、印象に残った作品が多く受賞作に選ばれていた。
クロージング作品『アラン島の小舟』。ロバート・フラハティについてのドキュメンタリーで、いろいろ知らなかったことを知る機会にはなったが、あまり焦点の絞り切れていないテーマとバランス感覚に物足りなさを感じる。言ってみれば、『オリンピア52についての新しい視点』にクリス・マルケルの息吹が息づいていたような意味では、この作品にフラハティの魂が継承されているとは言い難い。「なんかちょっと今日の視点では問題のあることもありますけど、一方ではすごい人でもありますよ」、みたいなものの言い方で、フラハティの作品そのもの以上に映画に人を引きつける力が生まれるとはとても思えない。

最後の飲み屋情報。でも次の山形国際ドキュメンタリー映画祭ですごい予約が殺到したりしたらいやだから名前は教えない。某神戸の映画館の映写技師さんが予約した店にご一緒させていただくが、前に一回、料理人の友達がおごってやるからと連れてきてもらったことのある店。ここを予約したWさんの嗅覚は素晴らしい。確実に腹一杯になる量の宴会コース一人前¥2100(しかもそんなに腹減ってないということで、4人で2人前を取り分けるがそれでも十分)。クオリティ半端じゃなく高い。
『オトヲカル』の上映時(8mmフィルムで上映された)、かなり大きめのサイズ、遠目の投射距離で上映したにも関わらず、画面が充分明るかったという話を聞く。それはなぜかというと、3Dでの上映用にスクリーンに銀が入っていたからだと。DCPとか3Dとかの商業的なスタンダードのための設備が、副産物的に8mmのようなメディアの上映にプラスに働くことがあるという、なんかとてもいい話。

最後に香味庵で一杯だけ飲み、酒井監督に『うたうひと』受賞のお祝いを伝える。ほんと人ごとじゃなく嬉しい。オーディトリウム渋谷での上映も控えてますから、東京の方はぜひ駆けつけてください。