11/1(金) 『スプリング・ブレイカーズ』 結城秀勇

"黄色くて、なめらかで、死ぬほど危険なもの、な〜んだ?"
それはマイアミで古くから言われているなぞなぞなのだそうで、答えは、"サメ入りカスタード"。でもその答えは、『スプリング・ブレイカーズ』であってもおかしくない。
ここですでに書いたように『スプリング・ブレイカーズ』とは、ほんの一口のカスタードとサメへの一触れを求めてやってきた山のような観光客の中で、"サメ入りカスタード"そのものになってしまう女の子たちの物語である。抱えきれないほどの甘いカスタードと、そのスパイスになるくらいのサメへのちょっとした遭遇。その程よい比率がおかしくなってきたときに、観光客は地元へ帰ることを選択する。だが、あのビーチに集まる人々は程よい刺激と興奮の束の間の現実逃避を求めていただけなのか?本当は心の奥底で、それが永遠になるのを欲望していたのではなかったか?本当は"サメ入りカスタード"になってしまいたかったんじゃないのか?
だから、春休みが不穏な影を帯び始めたことから帰宅を決意するセレナ・ゴメスに、ジェイムズ・フランコが「君が好きだ」としきりに繰り返す「I like you」は、ほとんど「I "am" like you」と同義だ。マリリン・モンローになりたくてもなれなかった者たち。ブリトニー・スピアーズになれなかった者たち。それは女の子たちだけではなく、フランコや金歯の双子のようなあの場所にいるすべての人間の叫びでもある。「おれとお前は似ている」。
ジェイムズ・エルロイはかつてカーティス・ハンソンを、自分と同じく想像上のLAでの終身刑に服している男だと評していた。「その刑には永住義務条項が付き、獄外労働の権利放棄が明記されていた」(「金ぴかの街のバッド・ボーイズ」)。それに対して『スプリング・ブレーカーズ』におけるハーモニー・コリンは、まるで想像上のマイアミから永久追放を宣告された男のように映画を作り上げる。乳とケツが揺れ、酒と白い粉と煙とが飛散し、爆音でBGMが流れ出すその都度、想像上のマイアミは観客から遠ざかって行くように感じる。マリリン・モンローにも、ブラック・ダリアにすらもなれなかった者たちにむかって、この黄色くて甘くなめらかな塊は繰り返しつぶやき続ける。「おれとお前は似ている」。