『ZERO NOIR』と音楽 池田雄一インタビュー(2)

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『ZERO NOIR』(伊藤丈紘監督)(C)2010東京藝術大学

 

ーー最初に監督から音楽の重要性をお話しされたという話でしたが、そこではどういう風な話をされていましたか? たとえば、具体的な作品名が上がっていたりはしたのでしょうか。

池田 アルノー・デプレシャンの『キングス&クイーン』(04)とジェームズ・グレイの『アンダーカヴァー』(07)、この2本の作品を今回の映画の下地として監督に指示されて、何度も見ました。監督に音楽を頼まれてからデプレシャンの映画というのを初めて見たんですが、監督が何を求めているのかというのがすごくわかりやすかった。映像と音楽のバランスが、デプレ シャンの映画ではすごく特徴的だなと。直接的に感動させるための手法としてわかりやすくオーケストレーションの音楽を作るのとはまた違っていて。言葉で表しづらいんですが……たとえば登場人物が口喧嘩をするシーンの裏で、のうのうと音楽が流れているというような感覚、会話の裏側でまったく別のことを話している人がも うひとりいて、その人が音楽を作っているような感覚というか……。もう一本の『アンダーカヴァー』に関しては、音楽的な影響というよりは、地下組織ってこんな感じっていう雰囲気を参考にして欲しいっていうことでした。『ZERO NOIR』のラストシーンはほとんど『アンダーカヴァー』ではあるんですけど、音楽的には参考にしていなくて、むしろ監督には『EUREKA ユリイカ』(00、青山真治)っぽくっていうふうにアドバイスされています(笑)。

 ーー普段から映画はよく見られますか? お好きな作品にはどのようなものがあるのでしょうか。 

池田 フィリップ・ガレルの作品がすごく好きなんです、数年前に見た『恋人たちの失われた革命』(05)がきっかけで。ジム・ジャームッシュも好きですね、特に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)が。

ーーガレルは『自由、夜』(83)と『秘密の子供』(79)で、ファトン・カーン(マグマのメンバー)に音楽制作を依頼していて、その際に、画面を見ながら即興的に音楽を作っています。そしてジャームッシュといえば『デットマン』(95)という作品があるんですが、ニール・ヤングがラッシュを見ながらギターを弾いて、それをサントラにしてしまったという逸話があります。

池田 それは知らなかった、かっこいいですね。本当はそういうことが一番やりたいんです。実は『ZERO NOIR』のエンディングもそういう雰囲気にしようと思って、映画を見ながらアコースティックギターで即興的に音をつけて、エレキとトロンボーンとかを足していったんです。マイルス・デイビスの『死刑台のエレベーター』(57、ルイ・マル)の音楽みたいに、映像に対して即興で音楽を作れたらいいなと思っていたので、それ を実践してみたんですよ。 

ーーメインテーマが最も即興的に作られた部分だったんですね。では逆に一番苦労した箇所というのはどこなんでしょうか。

池田 中盤にラヴシーンがあってバッハの曲が流れているんですが、これは最初に頂いた映像に仮アテとしてバッハの音楽が入ってたんですね。「こういう雰囲気なんです」とは言われたものの、なかなかこれは難しいと。さすがにバッハには勝てないだろうと(笑)。最終的に「これだ!」という曲は出来たのですが、その曲は結局主人公のヨウが麻薬を吸っている時にラジオから流れている音楽になりました。

ーー監督の次回作『MORE』でも池田さんが音楽を担当されると伺っています。私たちはまだその映画について何も知らないのですが、もう作業には入られているのでしょうか。

池田 まさにこの海外ツアー中にパソコンとミニキーボードを持ってきて作業しています(笑)。『ZERO NOIR』よりもこういう曲が欲しいというイメージが具体的なものとして指定されています。前作とは作品のコンセプトがだいぶ違っていると思いますね。今回も見て欲しい映画の指定などはありましたが、それはまだ秘密です。 

 

2010年12月4日、モンペリエにて

 

『ZERO NOIR』
2010年/104分/HD/カラー 
監督・脚本:伊藤丈紘
原作:太宰治『人間失格』
音楽:池田雄一
 
伊藤丈紘(いとう・たけひろ)
1984年生まれ。
2009年、東京藝術大学大学院映像研究科に入学(第五期生)。主な監督作は『あかるい娘たち』(08)、『how insensitive』(09)、『ZERO NOIR』(10)など 今年、修了作品となる長編映画『MOREが公開予定。