カンヌ国際映画祭報告2012 vol.01 5月17日(木)

 水曜日からカンヌ国際映画祭が始まった。今年の会期は大統領選を受けて5月16日から27日まで。オープニング作品であるウェス・アンダーソンの『Moonrise Kingdam』は同日にパリで封切られ、「コンペティション部門」のジャック・オーディアール『De rouille et d'os』、ウォルター・サレス『Sur la route』、デヴィッド・クローネンバーグ『Cosmopolis』といった作品も上映日程に合わせて会期中に続々と公開される。映画祭終了後には「ある視点部門」作品はパリ6区の映画館「ルフレ・メディシス Reflet Medicis」で、「批評家週間」作品はシネマテーク・フランセーズで、「監督週間」作品は「フォーラム・デ・ジマージュ Forum des images」で上映されることになっている。シネフィルたちがわざわざカンヌまで遠征しないはずだ。そんなことも知らなかった昨年の私は会場から会場へとかけずり回っていたのに……。フランス人の友人たちが呆れるくらい映画を見ずに、赤絨毯を登る夕方からの公式上映と、パーティのためにわざわざドレスアップするのも納得。
だからと言って、映画祭にまで来て映画を見ないわけにはいかない!ので、TGVでパリからカンヌ到着までの5時間で、一週間のスケジュールを組んでいく。
アラン・レネ『Vous n'avez encore rien vu』、ホン・サンス『In Another Country』、レオス・カラックス『Holy Motors』、アッバス・キアロスタミ『Like someone in Love』、ジェフ・ニコルズ『Mud』、カルロス・レイガダス『Post tenebras lux』 、マッテオ・ガローヌ『Reality』、ミヒャエル・ハネケ『L'amour』……、コンペ作品を見回しただけでため息が出る。コンペ外の特別上映枠にはベルナルド・ベルトルッチ『Io e te』、フィリップ・カウフマン『Hemingway& Gellhorn』、ファティ・アキン『Der műll im garten eden』、アピチャポン・ウィーラセタクン『Mekong Hotel』……「ある視点部門」には、グザヴィエ・ドラン『Laurence Anyways』、ロウ・イエ『Mystery』、ブランドン・クロネンバーグ『Antiviral』……「監督週間」にはラウル・ルイス『La noche de enfrente』、ベン・ウェアトリー『Sightseers』、ノエミ・ルヴォルスキー『Camille redouble』! そして「批評家週間」にはサンドリーヌ・ボネール『J'engage de son absence』が!
上映と上映の間の移動、途方に暮れるほど長い待ち時間、出来れば確保したい食事の時間を考慮に入れ、 有名作家の作品を並べていくだけでスケジュールはほとんど埋まっていく。はたして、1作目、2作目が対象の「批評家週間」作品や、無名作家の作品を見に行く時間はあるのだろうか……。

***

カンヌ到着は午後。パスを受け取ったあとは重い荷物を引きずって、アパートメントホテルへ。一息ついて夕方からコンペ外作品Laurence Bouzereau『Roman Polanski: A Film Memoire』を見にSalle du Soixantièmeへ向う。一回限りの上映なので、すでにできていた長蛇の列にヒヤヒヤしながらも何とか入場。
監督は、スピルバーグ作品のメイキングを長年担当してきて、映画製作にまつわる多くのドキュメンタリーのプロデューサーでもあるそうだ。スイスの映画祭でポランスキーが拘束された事実を皮切りに、インタヴューという形式をとりながら彼の人生と映画との関係を、ニュース映像、作品の抜粋、写真、ポランスキー自身が撮影したプライベート・ショットを巧みに組み合わせることでなぞっていく。人生の転機ーーアウシュヴィッツでの母親の死、シャロン・テート事件、少女への暴行事件ーーについて、ポランスキー自身が語り、ときにはカメラの前で号泣する。インタヴュアーと彼との信頼関係があってこそ実現した作品ではある。ポランスキーの意外な素顔を発見し、ポランスキー史を学ぶにはもってこいだが、DVDの特典映像っぽいと言われれば否定できない。ただ、よくできていることは確かだ。

2本目はSalle Debussyでの「ある視点部門」の開幕作品、ロウ・イエ『Mystery』。前作『Love & Bruises』では、パリで生きながらも適応しきれない若い女性の主人公と、ロウ・イエ自身の中国からフランスへの越境がそのまま重なっていくように思えた。中国の歴史という文脈から切り離され、異境の地でどうすれば映画を撮れるのか。華やかさとはほど遠いうらぶれたパリの街を彷徨うひとりの女性が、まるでロウ・イエ自身に見えた。今回は二重生活と浮気を繰り返す夫と妻とめぐるお話。女優への細やかな演出や大胆な空撮など、いくつかハッとするシーンはあったものの、物語の収斂していく先には些か疑問を持った。その後は友人に誘われ「Lles inrockuptibles」誌のパーティへ。朝6時起きだったため顔を出すのが限界。明日に備えて早めの就寝をすることにした。