今日も監督週間からスタート。Karim Ainouz『O abismo prateado』。夫から突きつけられた突然の別れと失踪。数日後の夜、思い立って飛行機で彼を追うことを決めるものの、その日の飛行機はすでに発ってしまった。それから彼女が過ごす夜明けまでの時間を追う。これまで見た監督週間の作品がどんどん内側にのめり込んでいくものが多かっただけに、街を彷徨って人や風景に遭遇していく姿は悪くない。でも、どうしても監督週間の中で相対的に考えて面白いという感は拭いきれないんだよね…。
今日の一本目は、楽しみにしていたテシネの新作『Impardonnable』に向かう。予想通りのすごい人。でもテシネが監督週間で上映されることへの違和感は拭えない。ノミネートしている他の監督と比べると、テシネはあまりにも巨匠過ぎるからだ。次回作を準備中の作家と不動産業を営む初老の女性の出会い、その後の展開は、春夏秋冬、大雑把な時間経過が示されるだけで、事は私たちを置き去りにして知らない間に進んでいる。『証言者たち』以降、個人的にテシネの作品はかなり変わったと思っていて、70年代、80年代の重さ、暗さ、厳しさを乗り越えて、なんとなく軽さを獲得したように見える。『証言者たち』で、テシネはかつての映画の登場人物にもう一度生き直させていた。
昨日のモレッティの上映の開始時間が一時間ほど遅れたため、帰宅は0時過ぎ。だいぶスロースタートで11時半からの上映に向かう。一本目は、昨日の昼の上映で偶然となりの席に座っていたジャーナリストから勧められた監督週間の『Code Blue』。日曜だからなのか、40分前なのにすでに長蛇の列。期待したものの、うーん。騙された!会場の反応はだいぶわかりやすくて、怒りのあまり叫び声をあげる人、席を立つ人が続出した。は〜。二本目も監督週間の作品、Valérie MréjenとBertrand Scheferの共同監督『En ville』を見る。この作品はなかなかの佳作。パリからやってきた40代の写真家と16歳の女の子が小さな街で出会って一緒にひとときを過ごす。
今日からは週末ということで、とりわけパレ周辺は観光客でごったがえしていて、会場への移動が本当に大変だ。交通規制もあり、目の前、5メートル先にある会場に入るために1キロ以上遠回りさせられる。さらに様々な上映で足止めをくらい、かなり前から並んでも上映に入れない。優先順位の高い魔法のピンクパスを持ってるジャーナリストが会場に吸い込まれていくのを横目に、一時間近く待つものの満員で入れず途方にくれたり…。とりわけコンペ作品に関しては、取材はもちろんのこと、コンフェランスも優先順位の高いパスを持っているジャーナリストで満員。私たちの入る隙はないようだ。
今年のカンヌはウディ・アレンの『Midnight in Paris』で開幕したが、残念ながら、私は3日目からの参戦。朝7時半過ぎのTGVで、パリからおよそ5時間かけてカンヌへ。今年は事前の予測が豪華だっただけに、かなり拍子抜けのプログラム(ガレルの新作は?ホオ・シャオシェンは?ミアハンセンラヴはどこに?なぜあの作品がなくてこんな作品が?)だが、私にとっては初のカンヌ。いやがうえにも期待は高まる。アンロック、カイエ、ポジティフからファッション紙までキヨスクでカンヌ特集をしている雑誌を買いあさって、車内でプログラム片手にスケジューリングをはじめる。
12月の初旬から先月にかけて、パリのポンピゥーセンターでヴェルナー・シュレーターのレトロスペクティブが開催されていた。パリでは2回目ということだけれど、ここまで大規模な回顧展は初めてとのことだ。このイベントにあわせて、フィリップ・アズーリによるシュレーター本(『À Werner Schroeter, qui n'avait pas peur de la mort』)が発売され、フランスでも初!のシュレーターの写真展、舞台設計家あり衣装デザイナーでもあったAlberte Barsacqの展覧会も行われた。上映の際の豪華なゲストーーイザベル・ユペール、ビュル・オジエ、カロリーヌ・ブーケ、イングリッド・カーヴェン・・の登壇もあり、チケット売り出し後、数10分で完売してしまうという回も珍しくはなかった。
ーー最初に監督から音楽の重要性をお話しされたという話でしたが、そこではどういう風な話をされていましたか? たとえば、具体的な作品名が上がっていたりはしたのでしょうか。
9月の半ば、ちょうど私たちがパリに経つ直前に、東京藝術大学映像研究科「OPEN THEATER 2010」のなかで伊藤丈紘監督作品『ZERO NOIR』は上映された。ひとりの友人を「映画作家」だなんて畏まった言い方をすることに、むずがゆさのようなもの感じつつも、そう呼ばずにはいられない力をこの作品は持っていた。アルノー・デプレシャン、エドワード・ヤン、ジェームズ・グレイ、ジャック・ドワイヨン、ニコラス・レイ……作品から想起される輝かしい固有名たち。私たちはこのフィルムの一瞬、一瞬に魅せられ、正直なところかなりビックリしてしまったのだ。そして日本を離れてからも、どうにかして、観客に恵まれたとはいえないこの作品の素晴らしさを、若きシネアストの存在を、多くの人に伝えられないかと考えていた。