1階の「カフェ・テオ」でデア・レーヴェンブロイをたのんで、2階のオーディトリウム渋谷に上がる。ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2014で『アメリカの兵隊』(1970)を見る。ファスビンダー主宰の劇団アンチテアーター総出の初期作品。今作は初見。ファスビンダーのファンを自称しておきながら、未見作品がちらほらある。
ドイツ出身でアメリカに渡ったベトナム帰還兵リッキー(=リチャード ドイツ語発音でリヒャルト)が殺し屋稼業となり、ミュンヘン警察から受けたいくつかの極秘の依頼を淡々とこなしながら、安ホテルの一室や小汚いバーでバランタインを瓶ごとラッパ飲みするのが何度もくり返される。途中、ミュンヘン郊外の実家に立ち寄り、母親と弟に久しぶりに再会するシーンがあって、そこで母親がやっぱりバランタインをラッパ飲みするので、ああこれは遺伝なのだなと合点した。
リッキーといい仲になる刑事の情婦ローザ・フォン・プラウンハイムを演じたエルガ・ゾルバスは、本作のあと『ニクラスハウゼンへの旅』(1970)、『リオ・ダス・モルテス』(1970)、『インゴルシュタットの工兵隊』(1971)、『四季を売る男』(1971)とつづく初期ファスビンダー映画の顔となる女優だが、少したるんだお腹、いかにもゲルマン的なブロンドヘアともども、なんともコケティッシュに写っている。また、去年
『ハンナ・アーレント』で大いに株を上げた女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタがホテルのメイド役で結構きれいなプロポーションを見せているほか、来月に同じくオーディトリウム渋谷で開催予定の
ダニエル・シュミット映画祭でたくさん拝むであろうイングリット・カーフェンがバーの女性歌手として出ている。
そしてなんといっても、ペーア・ラーベンのサントラのすばらしさ。かつて中原昌也とペーア・ラーベンのすばらしさについて一晩中語り明かしたことがある。ラーベンの白々しくも慈しむべきメロディにギュンター・カウフマンの薄らざむい歌声(誰かの声に似ていると思うのだが、それが誰なのか、四半世紀くらい思い出せない)が乗っかってくると、これはもうトリップ的ファスビンダー的世界そのものである。
主人公の “アメリカの兵隊” リッキーを演じたカール・シャイトをググったら、2009年4月に68歳で亡くなっていた。遅まきながら合掌。原題の『デア・アメリカーニッシェ・ゾルダート(Der Amerikanische Soldat)』は、今にしても思えば、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ジャーマン・ニュー・ウェイヴ)の盟友ヴィム・ヴェンダースの最良の作品『アメリカの友人(Der Amerikanische Freund デア・アメリカーニッシェ・フロイント)』(1977)によって後韻を踏まれただろう。主人公のニックネームが「ムルナウ」だったり、情報屋の女が「フラー」だったり、バーの店名が「ローラ・モンテス」だったりするのが、それを証明している。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2014がオーディトリウム渋谷(東京・渋谷円山町)で開催中
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